2015/10/23 場の空気が一変?機関投資家が株主総会で議決権行使も

 上場会社の「実質株主」として存在感を増す機関投資家だが、「実質」という言葉のとおり、機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアン(投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関)となっている。このため、機関投資家が株主総会の場で議決権を行使することは基本的にはない。

 株主が「代理人」を株主総会に出席させ、議決権を行使させることは会社法上認められているものの(会社法第310条1項)、定款において代理人を「株主」に限定することが可能(昭和43年11月1日最高裁判決)。つまり、名義上の株主でない機関投資家が株主総会に出席して議決権を行使するためには、少なくとも1株は機関投資家名義で株式を取得する必要があるわけだ。

 こうした現状の中、コーポレートガバナンス・コードには、機関投資家自らによる議決権行使を促す下記の原則が入っている。

補充原則 1-2⑤
 信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会において、信託銀行等に代わって自ら議決権の行使等を行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。

 また、政府の成長戦略には、「名義株主以外のグローバルな機関投資家等が、株主総会に参加する上での企業の基本方針作りを円滑化するため、関係団体等においてガイダンスを本年末までに策定すること」との記述が盛り込まれたところだ(「日本再興戦略」改訂2015の45ページ イ)の「さらに・・・」~参照)。

 これを受け、・・・

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2015/10/23 場の空気が一変?機関投資家が株主総会で議決権行使も(会員限定)

 上場会社の「実質株主」として存在感を増す機関投資家だが、「実質」という言葉のとおり、機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアン(投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関)となっている。このため、機関投資家が株主総会の場で議決権を行使することは基本的にはない。

 株主が「代理人」を株主総会に出席させ、議決権を行使させることは会社法上認められているものの(会社法第310条1項)、定款において代理人を「株主」に限定することが可能(昭和43年11月1日最高裁判決)。つまり、名義上の株主でない機関投資家が株主総会に出席して議決権を行使するためには、少なくとも1株は機関投資家名義で株式を取得する必要があるわけだ。

 こうした現状の中、コーポレートガバナンス・コードには、機関投資家自らによる議決権行使を促す下記の原則が入っている。

補充原則 1-2⑤
 信託銀行等の名義で株式を保有する機関投資家等が、株主総会において、信託銀行等に代わって自ら議決権の行使等を行うことをあらかじめ希望する場合に対応するため、上場会社は、信託銀行等と協議しつつ検討を行うべきである。

 また、政府の成長戦略には、「名義株主以外のグローバルな機関投資家等が、株主総会に参加する上での企業の基本方針作りを円滑化するため、関係団体等においてガイダンスを本年末までに策定すること」との記述が盛り込まれたところだ(「日本再興戦略」改訂2015の45ページ イ)の「さらに・・・」~参照)。

 これを受け、東京証券取引所に上場している会社の株式事務担当者が集まる東京株式懇話会は、名義上の株式を保有していない機関投資家の株主総会での議決権行使について検討を行っている模様。仮に名義上の株主でなくても株主総会で議決権を行使できるとなれば、株主総会に大量の代理人が押し寄せて来る恐れもある。株主総会に出席する代理人を制限するなど一定のルールが必要になろう。早ければ11月中旬にも何らかの見解が示されるものとみられる。

 例えば議案への賛否が割れている局面で機関投資家が株主総会で議決権行使を行うとなれば、株主総会の空気は従来とは一変した緊迫したものとなりそうだ。

2015/10/22 (新用語・難解用語)エクイティ・スプレッド

 ROEと株主資本コストの差のこと(スプレッド(spread)とは「広がる」という意味であり、それが転じてファイナンスの世界では「差」という意味で使われる)。すなわち、エクイティ・スプレッドは「ROE-株主資本コスト」によって算出される(単位は%)。株主資本コスト(「株式コスト」とも言われる)とは「株主が要求する、資金提供に対する見返り」であることから、エクイティ・スプレッドがプラスになっていれば(=ROEが資本コストを上回っていれば)「企業価値」を創造する経営がなされているといえ、逆にマイナスになっていれば(=ROEが資本コストを下回っていれば)、そのような経営ができていないことになる。

ROE : Return On Equity(株主資本利益率)=当期純利益÷自己資本(株主資本)

 伊藤レポートに「グローバルな投資家と対話する際の最低ラインとして、8%を上回るROEに各企業はコミットすべき」との記述が盛り込まれるなど、「ROE経営」が重視される中、当期のROEを自社の過去のROEや同業他社のROE(ROEはサービス業のように多額の資産を必要としない業種では高く、重厚長大産業では低く出る傾向があるため、同業他社との比較が適切)と比較することにより、自社のROE水準の“現在地”を確認することができるが、これともに、株主資本コストとの比較、すなわちエクイティ・スプレッドの値による経営分析も「会社が株主の期待を上回るリターンを稼得しているか」という観点から重要である。

 もっとも、エクイティ・スプレッドを正確に把握するためには、・・・

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2015/10/22 (新用語・難解用語)エクイティ・スプレッド(会員限定)

 ROEと株主資本コストの差のこと(スプレッド(spread)とは「広がる」という意味であり、それが転じてファイナンスの世界では「差」という意味で使われる)。すなわち、エクイティ・スプレッドは「ROE-株主資本コスト」によって算出される(単位は%)。株主資本コスト(「株式コスト」とも言われる)とは「株主が要求する、資金提供に対する見返り」であることから、エクイティ・スプレッドがプラスになっていれば(=ROEが資本コストを上回っていれば)「企業価値」を創造する経営がなされているといえ、逆にマイナスになっていれば(=ROEが資本コストを下回っていれば)、そのような経営ができていないことになる。

ROE : Return On Equity(株主資本利益率)=当期純利益÷自己資本(株主資本)

 伊藤レポートに「グローバルな投資家と対話する際の最低ラインとして、8%を上回るROEに各企業はコミットすべき」との記述が盛り込まれるなど、「ROE経営」が重視される中、当期のROEを自社の過去のROEや同業他社のROE(ROEはサービス業のように多額の資産を必要としない業種では高く、重厚長大産業では低く出る傾向があるため、同業他社との比較が適切)と比較することにより、自社のROE水準の“現在地”を確認することができるが、これともに、株主資本コストとの比較、すなわちエクイティ・スプレッドの値による経営分析も「会社が株主の期待を上回るリターンを稼得しているか」という観点から重要である。

 もっとも、エクイティ・スプレッドを正確に把握するためには、株主資本コストを正確に把握することが前提となる。株主資本コスト(株式コスト)を理論的に算定することはできるが(詳細は、「(新用語・難解用語辞典)ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法」の「2.資本コスト」における「株主の期待収益率(株式コスト)」の部分の説明参照)、それによって出て来た株主資本コストはあくまで仮定の数値であり、実際には株主によって要求するリターンの水準(すなわち、株主資本コスト)は異なると考えるのが自然だろう。数千人から十万人以上もいる上場会社の株主の中には、5%の収益率で満足する者もいれば、20%の収益率を求める株主もいるはずだからだ。

 したがって、株主資本コストは、理論的な値も参考にしながら、株主との対話などによって理解するように努め、それによって自社が目標とするエクイティ・スプレッドを設定することも検討に値しよう。

2015/10/21 形骸化する内部通報制度

企業の不祥事が発生するたびにガバナンスの欠如が指摘される。ガバナンスを改善するための仕組みの1つがコーポレートガバナンス・コードだが、不祥事を防止するという観点からすると、独立社外取締役や政策保有株式など一般に関心の高いコードよりも重要と思われるのが、【原則2-5 内部通報】だ。この原則は、上場会社に「内部通報に係る適切な体制整備」を求めるとともに、取締役会は「体制整備を実現する責務を負い、またその運用状況を監督すべき」である旨規定している。

もっとも、大企業の多くは既に内部通報制度を導入している。これは、自動車メーカーによるリコール隠し、食品メーカーによる産地偽装などが組織内部からの通報をきっかけに明らかになったことを受け、通報を行った労働者に対する解雇や不利益な取扱いを禁止するとともに事業者の努力義務などを定めた「公益通報者保護法」が2006年に施行されたからだ。

ただ、同法を所管する消費者庁の実態調査では、社内の不正をコンプライアンス担当部署に伝えたものの是正されなかった事例や、社内窓口に通報した事実が漏れ、それ以降様々な不利益取扱を受けた事例などが多数報告されているのが現状だ。こうした中、消費者庁は現在、・・・

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2015/10/21 形骸化する内部通報制度(会員限定)

企業の不祥事が発生するたびにガバナンスの欠如が指摘される。ガバナンスを改善するための仕組みの1つがコーポレートガバナンス・コードだが、不祥事を防止するという観点からすると、独立社外取締役や政策保有株式など一般に関心の高いコードよりも重要と思われるのが、【原則2-5 内部通報】だ。この原則は、上場会社に「内部通報に係る適切な体制整備」を求めるとともに、取締役会は「体制整備を実現する責務を負い、またその運用状況を監督すべき」である旨規定している。

もっとも、大企業の多くは既に内部通報制度を導入している。これは、自動車メーカーによるリコール隠し、食品メーカーによる産地偽装などが組織内部からの通報をきっかけに明らかになったことを受け、通報を行った労働者に対する解雇や不利益な取扱いを禁止するとともに事業者の努力義務などを定めた「公益通報者保護法」が2006年に施行されたからだ。

ただ、同法を所管する消費者庁の実態調査では、社内の不正をコンプライアンス担当部署に伝えたものの是正されなかった事例や、社内窓口に通報した事実が漏れ、それ以降様々な不利益取扱を受けた事例などが多数報告されているのが現状だ。こうした中、消費者庁は現在、「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」を設け、実効性のある内部通報制度の整備・運用の促進に向けた検討を進めている。具体的には、(1)事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項の具体化・明確化、(2)そのためのインセンティブ導入、(3)法制度の手当て、の3点である。

このうち(1)の事業者の自主的な取組みの促進としては、「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」をより詳細なものにすることが検討されているが、その中で注目されるのが「社内リニエンシー」だ。リニエンシーとは、談合やカルテルなど独占禁止法に違反する行為が行われた場合、違反者が自主的に違反事実を公正取引委員会に申告して調査に協力すれば、課徴金の免除や減額が受けられる制度。その“社内版”と言える社内リニエンシーは、各社が規定する内部通報規約の中に、自己が加担する違法行為について社内調査開始前に自主申告を行い、社内調査に協力した場合には、当該社員に対する社内処分の減免を定める規定を置くというものだ。消費者庁の検討会は、企業が社内リニエンシーに関する規定を設けることをガイドラインに明記するかどうかを検討項目に挙げている。

(2)の自主的な取組み促進へのインセンティブとしては、各社の内部通報制度について第三者による認証制度を設けることが検討されている。(3)の法制度上の手当てとしては、現行の公益通報者保護法では企業の内部体制の整備に関する規定がないことを踏まえ、法律の中で通報制度や通報窓口設置を義務付けることが検討されている。

消費者庁の検討会が公表しているスケジュールでは、早ければ12月頃に議論をとりまとめる予定となっているが、当フォーラムの取材によると、年内のとりまとめは困難とのことだ。年明け以降に議論がとりまとめられ、その後、ガイドラインの改正、法改正が行われることになる。企業は今のうちから自社の内部通報制度の運用状況を確認しておく必要があろう。

2015/10/20 企業不祥事発生時の機関投資家の行動

 海外ではフォルクスワーゲン、日本でも東洋ゴム、旭化成建材と企業の不祥事が相次いでいる。不祥事が発生すると、企業は不祥事そのものの解決や事後対応だけでなく、しばしば株価の大幅な下落にも直面する。株価に大きな影響を与えるのが、機関投資家の動きだ。

 企業不祥事が起きた場合、機関投資家は2つの軸でモノを考えることになる。1つは・・・

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2015/10/20 企業不祥事発生時の機関投資家の行動(会員限定)

 海外ではフォルクスワーゲン、日本でも東洋ゴム、旭化成建材と企業の不祥事が相次いでいる。不祥事が発生すると、企業は不祥事そのものの解決や事後対応だけでなく、しばしば株価の大幅な下落にも直面する。株価に大きな影響を与えるのが、機関投資家の動きだ。

 企業不祥事が起きた場合、機関投資家は2つの軸でモノを考えることになる。1つは不祥事が「企業価値」に直接的に与えるインパクトであり、もう1つが「運用ルール」に基づき保有を続けることができるかどうかという点である。

 「企業価値」に与えるインパクトは、補償額や売上への影響など、不祥事が企業の財務面に与える影響を見積もることにより判断される。このプロセスは、マクロ経済の変動が企業価値に与える影響を考える場合とほぼ同じである。機関投資家は、不祥事によってどの程度の損失が出るのかを過去の経験則や公表されている情報を基に想定できる範囲で織り込み、さらに、その時点では計測できない企業のイメージダウンによる影響を考慮することになる。企業としては、このような機関投資家の考え方を理解したうえで状況や対応策を説明していくことが求められるが、仮に一旦は株式が売却されたとしても、企業価値から見て割安と判断されれば再び買い戻される可能性は高いだろう。

 一方、「運用ルール」に基づき機関投資家が株式を売却する場合、話はそう簡単ではない。運用ルールは機関投資家ごと、運用商品ごとに異なるが、多くの運用会社は、例えば監理ポスト入りするなど上場の維持自体が危ぶまれる場合や、不祥事が社会的に許容できない内容である場合などは、保有を継続しないという基準を設けている。これは、ファンドマネージャーではなく、あくまで「運用会社」としての判断である。したがって、この基準に抵触した場合には、たとえ企業価値から見て株価が割安であったとしても、基準をクリアしたことが証明されない限り、株式が買い戻されることはない。また、「非保有」となっている状態を解除するには、その理由の証跡を示すなどのプロセスが求められることもある。スチュワードシップ・コードの受入れ以降、ESGへの注目が高まっていることもあり、今後、基準はより厳しくなっていく可能性があろう。

 運用会社としての基準以外にも「運用商品」ごとの基準が設けられているケースがあるが、基本的に定性的な判断を入れないパッシブファンドクォンツファンドなどの基準は緩く、一方、アクティブファンドやESGなどを標榜しているファンドになるとより厳しい基準を設けているのが一般的だ。

パッシブファンド : 東証で言えばTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指す運用手法のこと。株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社はあまり裁量を加えず運用する。積極的な運用方法でないという意味で「パッシブ(消極的な)という言葉が使われている。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
クォンツファンド : 数字に表れるデータ分析である「定量分析」に基づき運用を行なうファンドのこと。クオンツという言葉は、英語で定量分析を意味する「quantitative analysis」から来ている。もっとも、定量分析は人が行うわけではなく、各運用会社がそれぞれ独自に開発したコンピュータ・システムを使うことになる。
アクティブファンド : インデックスファンドの対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定するファンドのこと。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。

 では、旭化成建材のケースのように「子会社」が不祥事を起こした場合、運用会社や運用商品の基準に抵触する可能性はあるのだろうか。子会社が不祥事を起こした場合、機関投資家は連結業績へのインパクトは検討することになるが、保有禁止などの措置が取られることは少ない(子会社と親会社の人的交流の有無やビジネス上のつながりの濃淡などによっても異なる)。ただし、子会社が不祥事を起こした場合、機関投資家は親会社の対応を通じ、親会社の企業文化やグループガバナンスを観察しているということは肝に銘じておきたいところだ。

2015/10/19 合理的な「発明の対価」決定のためのガイドライン策定が本格化

従業者が職務上行なった発明(=職務発明)を従来の「従業者帰属」から「法人帰属」へと転換させるパラダイムシフト的な特許法の改正が今年(2015年)7月に実現したが、企業にとって残された課題となっているのが「対価」の問題だ(2015年4月10日のニュース「発明は「従業員」から「会社」のものへ、残されたリスク要因は?」参照)。というのも、特許法改正により職務発明は「法人帰属」とされたとはいえ、“発明奨励”の観点から、従業者には引き続き「相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利」が保障されているからである。

企業としては、この権利の対価を一体どのように決めればよいのか悩ましいところだが、こうした中、・・・

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2015/10/19 合理的な「発明の対価」決定のためのガイドライン策定が本格化(会員限定)

従業者が職務上行なった発明(=職務発明)を従来の「従業者帰属」から「法人帰属」へと転換させるパラダイムシフト的な特許法の改正が今年(2015年)7月に実現したが、企業にとって残された課題となっているのが「対価」の問題だ(2015年4月10日のニュース「発明は「従業員」から「会社」のものへ、残されたリスク要因は?」参照)。というのも、特許法改正により職務発明は「法人帰属」とされたとはいえ、“発明奨励”の観点から、従業者には引き続き「相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利」が保障されているからである。

企業としては、この権利の対価を一体どのように決めればよいのか悩ましいところだが、こうした中、経済産業省の 産業構造審議会・特許制度小委員会は現在、そのガイドラインの策定に取り組んでいる。「ガイドライン」というと法的根拠がないように見えるが、実はこのガイドラインはそうではない。改正特許法35条6項には「経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聞いて、前項の規定(相当の利益の内容の決定)により考慮すべき状況等に関する事項について指針を定め、これを公表するものとする」と定められているからだ(2015年5月26日のニュース「行政庁が作る「ガイドライン」の法的根拠 」参照)。

発明の「対価」を巡っては、今回の特許法改正の前から使用者と従業者との間で紛争が頻発していた。ガイドラインは、こうした状況を解消するため、発明をした従業者に対して使用者が付与する「相当の利益」の内容を決定するにあたり、「行うべき手続の種類と程度」を明確にする。これにより当事者間の納得感を高めようというわけだ。

改正特許法35条5項は、相当の利益の内容が「不合理」かどうかは、相当の利益の付与基準についての(1)従業員等との協議の状況、(2)開示の状況、(3)従業員等からの意見聴取の状況――という3つの要素により判断することとしている。ガイドラインは、企業がこれらの3要素についてどこまでやれば「不合理」と言われなくて済むかを明らかにするものと言ってよいだろう。

より詳しく解説しよう。3要素とは具体的には以下のとおりである。
① 相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況
② 策定された当該基準の開示の状況
③ 相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況
これを図示すれば以下のような流れとなり、ガイドラインでは①~③の手続の適正なあり方が明示されることとなる。

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これに対し企業側からは、ガイドラインを策定する際には、それぞれの手続について必要とされる事項の種類と程度について“柔軟性”を認めるよう求める声が上がっている。そもそも、必要十分な手続のレベルは会社の規模・業種・業態によって変わってくるはずであり、また、「発明者保護」の名の下に過度に細かい手続を求めることにより従業員との「協議」が進まないようなことにもなれば本末転倒になるからだ。

例えば、基準の策定にあたっての従業員との「協議」が、発明者保護の観点からは「対面の説明会」に限定されたとすると(すなわち、社内イントラネットなどを使った協議は不可)、従業員が数万人いる大企業では、いかに大きな会場を用意しても、全員を一度に集めるのは不可能だろう。そこまで規模が大きくなくても、業務上の都合や出張・転勤、出産・育児等による休職など様々な理由により協議に参加できない者が出ることは容易に想定される。

逆に、社内イントラネットによる協議を強制すれば、そのインフラを持たない企業は新たな設備投資が必要になる。企業側からは、「協議のための新たなコスト負担は無駄以外の何物でもなく、その分を「相当の利益」に回した方が合理的」と、特許制度小委員会での議論に釘を指す声が上がっているほか、「インターネットを通じてデータをダウンロードするなり閲覧するなりして、質問や意見をメールでやり取りできるようにしてはどうか。説明会において、説明者に対し挙手して直接質問するよりは、メールで質問するほうが、心理的抵抗が少ない」といった意見も出ている。

ガイドラインは上述の改正特許法35条5項の<不合理性判断>についての法的予見可能性を高める効果があり、企業にもメリットのあるものだが、あまり厳密な記述がされるようであれば、それはそれで反発を生むことになりそうだ。