2015/10/12 【特集】産業界全体に大きな影響を及ぼす可能性も!「名古屋議定書」とは?(2・会員限定)

2.途上国の天然資源等を利用した研究開発に消極的になる企業

 名古屋議定書とは、2010年に名古屋市で開催された「生物多様性条約」第10回締約国会議(COP10)において採択された国際条約であり、2014年夏における50か国目の「締結」をもって、同年秋に発効している。ただし、日本はまだ締結していない。

 名古屋議定書の前提となった生物多様性条約は1992年に採択され1993年に発効した国際条約であり、「生物多様性の保全」と「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」に加え、「遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)を目的としている。名古屋議定書のポイントは、このABSに関する規定が盛り込まれたという点にある。

 ABSとは、遺伝資源の利用者が、その提供国から事前の同意を得たうえで提供国との間で契約を締結し、遺伝資源の利用によって生じた利益を提供者(先住民社会や地域社会を含む)との間で配分するという考え方・仕組みである。生物多様性条約では、遺伝資源を「現実の又は潜在的な価値を有する、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材」と定義しており、これには地球上に存在するほぼ全ての植物・動物・微生物が含まれることになる。

 ABSの目的は、上述した生物多様性条約の他の2つの目的、すなわち「生物多様性の保全」と「生物多様性の構成要素の持続可能な利用」の実現ということになっているが、多くの場合、利用側は先進国の企業や大学であり、提供側が開発途上国であることから、実際はいわゆる南北問題の構図となっている。

南北問題 : 開発途上国と先進国の間の経済的格差から生じる政治問題や経済問題の総称。先進国が北半球に、開発途上国が南半球に多く存在することからこのように呼ばれる。

 ABSが注目されるきっかけとなったのが、「ニチニチソウ」の事例だ。ニチニチソウとはマダガスカル島に自生する植物であり、糖尿病の“民間治療薬”として長きにわたって用いられてきた。1950年代初頭、米国の製薬会社であるEli Lilly社の研究員がこれに着目して研究を開始した。そして同社は1961年、ニチニチソウからアルカロイド(白血球を減少させるとともに骨髄の活性化を押さえるため、抗癌薬となり得る)を抽出した。その結果、ホジキン病(リンパ組織系の癌)と小児白血病の特効薬となる二種類の医薬品が開発され、Eli Lilly社は特許を取得、年間1億8000万ドルを売り上げるまでとなった。これに対し、国連環境計画(国際連合総会の補助機関。通称UNEP:United Nations Environment Programme)の政府間委員会の場で「ニチニチソウの原産国であるマダガスカルや地域住民に対して利益を還元されないことは問題である」との問題提起があった。

 このような問題を解決するべく、マダガスカルへEli Lilly社が利益配分を行なうための仕組みとして定められたのが「生物多様性条約」である。一部業界は、これを「途上国から天然資源等を採取することによる研究開発に“不測のリスク”をもたらすもの」ととらえ、途上国の天然資源等を利用した研究開発に急速に消極的となった。

3.植物エキス、精油、小麦や大豆までもが利益配分の対象に?

 こうした中、利益配分の仕組みをより具体的にすることで、天然資源の研究開発におけるリスクを予見可能なものとする意義が期待されたのが「名古屋議定書」だ。しかし、残念ながら現時点においてその目的は達成できていない。

 名古屋議定書は、民主党政権下の2010年、名古屋で開催されたCOP10で採択されたが、当時の議論は混迷を極めた。深夜に及んだ議論は紛糾し、もはやまとまらないとまで思われたが、当時の松本龍環境大臣が、折衷的な「議長提案」を急きょ提示し、これがわずかな修正を経て採択されるという異例の経緯を辿った。深夜の午前3時に松本大臣が高々と木槌を掲げて採択を宣言する姿はCOP10の象徴的な瞬間とも言われ、最も懸念の強かった遡及効(詳細は後述)など、いくつかの文言が盛り込まれなかったことを評価する声もあった。しかし、現実的なルールへの落としこみの段階になると、問題点の指摘が相次ぐことになる。

遡及効 : 法律等の効力が、その成立以前に遡って及ぶこと。

 名古屋議定書は、遺伝資源の提供側・利用側の両方に、利益配分のための国内措置を講ずることを求めている。しかし、肝心の「遺伝資源」とは具体的に何を指すのかという点については、生物多様性条約に定められた「現実の又は潜在的な価値を有する、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材」というもの以上に細かい定義がなく、上述のとおり、まさに「地球上に存在するほとんどの植物・動物・微生物」が含まれる状態となっている。

 また、利益配分の対象となる「遺伝資源の利用」の定義についても、「生物多様性条約第2条に定義するバイオテクノロジーの応用を通じたものも含め、遺伝資源の遺伝的又は生化学的な構成に関する研究及び開発の行為」とされるにとどまり、その意味するところは曖昧である。

 遺伝資源の「派生物(デリバティブ)」や「一般流通品(コモディティ)」が遺伝資源に含まれるのかどうかも不明なままである。派生物とは、名古屋議定書上「生物資源又は遺伝資源の遺伝的な発現又は代謝の結果として生ずる生化学的化合物(遺伝の機能的な単位を有していないものを含む。)であって、天然に存在するもの」とされ、具体的には植物エキスや精油などがこれに含まれるが、これらを遺伝資源として扱うかどうかは不明確である。小麦や大豆などの一般流通品(定義上は遺伝資源に含まれる)の扱いについては、規定そのものが存在しない。仮に派生物や一般流通品が遺伝資源の中に含まれるものとして利益配分の対象となれば、企業への影響は計り知れないことになる。

 また、前述した「遡及効」の有無、すなわち過去(名古屋議定書に締結する前)の利用にまで遡って利益配分を求めることができるかどうかも、結局不明なままである。遡及効は、開発途上国側が議定書に盛り込むことを強く求めた項目の1つであり、「大航海時代から多くの遺伝資源を搾取され続けてきたことへの還元をすべき」と真剣に主張していた。最終的に遡及効は明記されなかったが、名古屋議定書の第10条には「事前の情報に基づく同意を与えること若しくは得ることができないものの利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に対処するため…検討する」と、遡及効を意識した文言が残存している。もし遡及効があるとされれば、解釈によっては配分すべき利益が無限に広がることになってしまう。

 さらに、利益配分のための国内措置は各国の判断で自由に定められることになっているため、遺伝資源の利用者は提供国が規定したルールに従わざるを得ない。この点も利用者にとっての予見可能性を低くしている。

「4.名古屋議定書が締結された場合の影響の検討を」へ(会員限定)

2015/10/09 議案数が大幅減のテーマは? 2015年株主総会の分析結果

 3月決算会社の株主総会が終わってから3か月余り、一部の企業では招集通知の作成プロジェクトが立ち上がるなど、早くも2016年6月の株主総会に向けた対応の検討が始まっている。検討に先立ち確認しておきたいのが、2015年の株主総会における議決権行使結果の傾向だ。当フォーラムがTOPIX100構成銘柄(2014年10月末時点)のうち2015年3月から6月に株主総会を開催した99社について分析したところ、以下のようなことが判明している。

 まず取締役選任議案への賛成率だが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/09 議案数が大幅減のテーマは? 2015年株主総会の分析結果(会員限定)

 3月決算会社の株主総会が終わってから3か月余り、一部の企業では招集通知の作成プロジェクトが立ち上がるなど、早くも2016年6月の株主総会に向けた対応の検討が始まっている。検討に先立ち確認しておきたいのが、2015年の株主総会における議決権行使結果の傾向だ。当フォーラムがTOPIX100構成銘柄(2014年10月末時点)のうち2015年3月から6月に株主総会を開催した99社(以下、TOPIX100)について分析したところ、以下のようなことが判明している。

 まず取締役選任議案への賛成率だが、平均賛成率は95.2%(前年比で0.2ポイント上昇)と、ほぼ横ばいの水準だった。ただし、その内容を分析すると、ROEが低い企業の経営トップに対する賛成率の低下を、独立性の伴った社外取締役候補者の増加による賛成率向上がカバーすることで、何とか全体の賛成率を前年並みに押し上げたというのが実態だ。

 監査役の選任議案への平均賛成率は93.0%と、前年比0.8ポイントの改善となっている。取締役選任議案と同様に、独立性を伴った社外監査役の候補者が増加したことで、賛成率を押し上げたと考えられる。

 2015年6月の株主総会で特に議案数が増加したものとして、「定款の一部変更」が挙げられる。具体的には、監査等委員会設置会社への移行や責任限定契約の対象範囲拡大(社内取締役であっても業務を執行しない取締役(非業務執行取締役)および社内監査役も責任限定契約を締結できることになった)といった、今年(2015年)5月に施行された改正会社法に対応するための定款変更が主な内容となっている。これらの改正会社法に関連する議案を含め、定款の一部変更議案に対する平均賛成率は97.6%と高い数値を確保した。

 一方、議案数が極端に少なかったのが、退職慰労金支給と買収防衛策に関する議案だ。退職慰労金支給議案が少なかったのは、退職慰労金制度を打ち切る企業が増加したため。この結果、TOPIX100ではわずか1社のみが上程した(賛成率は89.7%)。これに対し、株式報酬を重視する潮流から「新株予約権付与」に関する議案が増加、14社が17議案を諮り、平均賛成率は92.6%だった。なお、新株予約権を社外取締役や監査役に付与する議案に対しては反対票が比較的多かった。

 買収防衛策は非継続(廃止)が相次いだこともあり、TOPIX100では3議案にとどまった。もっとも、買収防衛策議案の少なさは近年の傾向であり、昨年(2014年)は1議案だった。平均賛成率をみると、今年の3社の平均が69.2%であるのに対し、去年は55.4%だったことから、一見すると賛成率が大幅に改善したようにも見える。しかし、今年の3社について前回の継続議案上程時の賛成率を調べたところ、いずれも5ポイントを超える低下となっている。

 今後機関投資家は、スチュワードシップ・コードが求める「自らの責任と判断」の下で議決権を行使する傾向が強まるとみられる。したがって、同じ論点の問題議案(低ROE企業の経営トップ選任、独立性を欠いた社外役員選任など)であっても、投資家によって、ひいては企業によって賛否の結果か異なることになる可能性がある。投資家にとって重要な判断材料となるのは「建設的な対話(エンゲージメント)」であり、今後企業においては「対話」の巧拙が大いに問われることになろう。

2015/10/08 (新用語・難解用語)企業包括補償保険

 会社法では、従来から日本の親会社の経営陣に対して「海外子会社を含む内部統制の確保」を求めてきたが、2015年5月に施行された改正会社法では、それまで「施行規則」に置いていた当該規定を「法律」に格上げし、経営陣の責任がより明確化されている(会社法362条4項6号。詳細は2015年6月22日のニュース「会社法改正で、海外子会社の不正防止も明確に経営陣の責務に」参照)。もっとも、いくら内部統制を強化しても、海外子会社が犯罪に巻き込まれるリスクをゼロにすることは困難だろう。

 こうした海外子会社の犯罪リスクをカバーするのが、企業包括補償保険(Crime Manager)と呼ばれる保険だ。この保険では、・・・

Crime : 犯罪

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/08 (新用語・難解用語)企業包括補償保険(会員限定)

 日本企業がアジア諸国をはじめとする海外に進出する動きは加速する一方だが、海外に進出する日本企業にとって大きなリスクの1つとなっているのが、海外子会社が犯罪に巻き込まれることだ。例えば海外子会社の経理担当者による横領など社内の不正行為のほか、第三者による窃盗、詐欺などを受けることも考えられる。

 会社法では、従来から日本の親会社の経営陣に対して「海外子会社を含む内部統制の確保」を求めてきたが、2015年5月に施行された改正会社法では、それまで「施行規則」に置いていた当該規定を「法律」に格上げし、経営陣の責任がより明確化されている(会社法362条4項6号。詳細は2015年6月22日のニュース「会社法改正で、海外子会社の不正防止も明確に経営陣の責務に」参照)。もっとも、いくら内部統制を強化しても、海外子会社が犯罪に巻き込まれるリスクをゼロにすることは困難だろう。

 こうした海外子会社の犯罪リスクをカバーするのが、企業包括補償保険(Crime Manager)と呼ばれる保険だ。この保険では、(1) 従業員(パート・アルバイト、出向社員なども含む)によって行われた、詐欺(コンピュータ詐欺(コンピュータシステムで管理されている資産が、システムにアクセスする権限のない者による不正な操作によって盗取されること)、資金移動詐欺、偽造または文書偽造を含む)、盗取、横領、背任などの不誠実行為、(2)第三者によって行われた、コンピュータ詐欺、資金移動詐欺、偽造、文書偽造、盗取――によって受けた損害に対し保険金が支払われる。保険金の支払いを受けられるのは海外子会社に限らず、日本の親会社も含まれる。また、海外のみならず日本国内の子会社を対象にしたり、例えば比較的犯罪が少ない北米を除く全世界を対象にしたりするなど、任意に対象地域を設定することが可能だ。

Crime : 犯罪

 海外では一般的となっているこの保険は、日本ではまだほとんど知られていない。特に犯罪に巻き込まれやすい地域に進出している、あるいは進出する予定のある企業においては検討に値しよう。

2015/10/07 「グローバル人材」の定義

 M&Aによる海外事業の拡大が急ピッチで進む中、転職マーケットでは「グローバル人材」に人気が集まっている。また、社内でいかにグローバル人材を育成していくのかということも、日本企業にとって重要な経営課題となっている。こうした中、日本企業の経営幹部からは「グローバル人材は自社で育成するのも外部から探して来るのも難しい」という声が聞かれる。ただ、海外に本拠を置く者から見ると、日本企業においてはそもそも「グローバル人材」の定義が誤解されていることが少なくないように思われる。

 では、「グローバル人材」とは、果たしてどういった人材なのだろうか。長らく海外でビジネスに携わってきた経験を踏まえると、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/07 「グローバル人材」の定義(会員限定)

 M&Aによる海外事業の拡大が急ピッチで進む中、転職マーケットでは「グローバル人材」に人気が集まっている。また、社内でいかにグローバル人材を育成していくのかということも、日本企業にとって重要な経営課題となっている。こうした中、日本企業の経営幹部からは「グローバル人材は自社で育成するのも外部から探して来るのも難しい」という声が聞かれる。ただ、海外に本拠を置く者から見ると、日本企業においてはそもそも「グローバル人材」の定義が誤解されていることが少なくないように思われる。

 では、「グローバル人材」とは、果たしてどういった人材なのだろうか。長らく海外でビジネスに携わってきた経験を踏まえると、グローバル人材とは「多様な価値観を理解できる(受け入れられる)人材」だと考えている。一般的なイメージとしては、帰国子女や海外のMBA取得者で、海外法人や海外支店に勤めている人――というのがグローバル人材の典型だろう。しかし、実は彼らがグローバル人材であるとは限らない。

 帰国子女や海外のMBA取得者が「グローバル人材」と見られがちなのは、彼らが異国の価値観に接してきたことが評価されるからだ。しかし、もし彼らが留学中に日本人コミュニティにどっぷり浸っていたなら(現地の学校ではなく日本人学校に通っていた帰国子女や、日本人留学生と群れていたMBA取得者等)、グローバル人材の候補者としてふさわしいかどうかは疑わしい。

 日本企業の海外法人や支店に勤務する人達も同様だ。もちろん業種や個々の企業によって違いはあるが、海外法人や支店の経営層は、日本人が占めているところが少なくない。「海外で働いている」と言っても、その上司が日本人であれば、コミュニケーションの方法は結局“日本流”になる。もちろん、現地で採用した現地国籍の社員はいても、経営層が日本人であれば、その社内文化は“日本的”になる。すなわち、外国にいても、その価値観は日本におけるそれと変わりはない。この状況では「多様な価値観」に触れることは少ないであろう。

 むしろ、日本にいても、外資系で働き上司も外国人という環境に置かれた人の方がよほどグローバル人材と言えるかもしれない。また、「グローバル人材=多様な価値観を理解できる(受け入れられる)人材」という定義からすると、例えば国内支店の営業などで、様々な価値観の人々と接する仕事をしてきた人こそが、実はグローバル人材になり得るポテンシャルを持っていると言える。30代まで日本国内で過ごし、英語によるコミュニケーションがままならなかった自身の経験を踏まえても、能力のある人材であれば英語の問題は何とかなるものだ。

 このように考えると、日本企業が求めるグローバル人材の候補者は意外と多いのではないか。グローバル人材を確保するためには、まずその定義から見直すべきであろう。

2015/10/06 不正会計防止に最低限必要な2つのこと

武田公認会計士事務所 代表
公認会計士 武田雄治  

 巨額不正会計事件が起こるたびに、コーポレート・ガバナンスと会計監査が俎上にのぼります。そして、コーポレート・ガバナンスや会計監査を「厳格化」する方向に議論が進みます。しかし、社外取締役を増やせば不正が減るのでしょうか? 監査手続を増やせば不正が減るのでしょうか? そうは思えません。これらの「厳格化」によっても不正が減らないことは、歴史が証明しています。

 もちろん、「厳格化」には一定の効果や抑止力はあると思います。しかし、取締役への監視や、取締役の責任を強化しただけでは、単にガバナンスが形式化されて終わってしまうおそれもあります。また、会計監査の厳格化は、監査手続の形式化を招き、会計監査の質の低下(形骸化)につながるおそれもあります。

 このような不正会計事件を「他山の石」とするのであれば、まず「経理部の在り方」を見直すべきです。経理部で、不正や誤謬を防ぐ「仕組み」を構築しなければなりません。

 最低限やるべきことは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/10/06 不正会計防止に最低限必要な2つのこと(会員限定)

武田公認会計士事務所 代表
公認会計士 武田雄治  

 巨額不正会計事件が起こるたびに、コーポレート・ガバナンスと会計監査が俎上にのぼります。そして、コーポレート・ガバナンスや会計監査を「厳格化」する方向に議論が進みます。しかし、社外取締役を増やせば不正が減るのでしょうか? 監査手続を増やせば不正が減るのでしょうか? そうは思えません。これらの「厳格化」によっても不正が減らないことは、歴史が証明しています。

 もちろん、「厳格化」には一定の効果や抑止力はあると思います。しかし、取締役への監視や、取締役の責任を強化しただけでは、単にガバナンスが形式化されて終わってしまうおそれもあります。また、会計監査の厳格化は、監査手続の形式化を招き、会計監査の質の低下(形骸化)につながるおそれもあります。

 このような不正会計事件を「他山の石」とするのであれば、まず「経理部の在り方」を見直すべきです。経理部で、不正や誤謬を防ぐ「仕組み」を構築しなければなりません。

 最低限やるべきことは、(1)決算の属人化排除と、(2)財務分析の徹底、の2つです。

(1)決算の属人化排除
 上場会社においても、決算業務が属人化している会社は少なくありません。経理部長が1人で有価証券報告書を作成しているという会社もありますし、連結決算や開示業務は特定の社員に聞かなければ分からないという会社もあります。このような会社は、相互牽制が働いていません。不正や誤謬があったとしても、社内の誰も気が付かないということも十分に有り得ます。

(2)財務分析の徹底
 財務分析には、2つの目的があります。1つは、ディスクロージャーの材料とするためであり、もう1つは、財務諸表の適正性を確かめるため(異常点を発見するため)です。財務分析をキチンと実施していれば、会計数値の違和感に気付くことができるかもしれませんし、不正・誤謬を未然に防ぐことができるかもしれません。例えば、当会計期間の利益率が過年度より高いとか、当期末の売掛金回転期間が過年度より長いといったことは、経理部で財務分析をキチンと実施していれば気付くことができます。しかし、財務分析(特に異常点を発見するための財務分析)をキチンとやっている会社は(上場会社であっても)ごく僅かです。

売掛金回転期間 : 商品を販売してから売掛金を回収するまでにかかる期間のこと。売上債権回転期間が短いほど現金化が早いことを意味する。現金化が通常より長い場合、売掛金の焦げ付きが発生していたり、売上が粉飾されていたりする可能性もある。

 不正会計の兆候は数字に表れます。貴社の経理部員はその兆候を発見できるでしょうか。決算は「数字を固めて終わり」という会社があまりに多すぎます。大切なのは「数字を固めた後」であることを役員の皆さんには認識して欲しいものです。

2015/10/05 漏洩リスクが激減!配当支払通知書へのマイナンバー記載不要に(会員限定)

 マイナンバー制度が本日(2015年10月5日)から施行された。今後、住民票を有する者に12桁のマイナンバー(個人番号)が通知されることになる。税金、医療保険、雇用保険の手続でのマイナンバーの利用開始は来年1月からだが(年金の手続での利用は2017年1月~)、利用開始に向け、企業はマイナンバーの漏洩リスクに頭を痛めて来た。マイナンバーが名前や住所とともに漏洩した場合、“なりすまし”による犯罪行為につながる恐れがあり、単なる個人情報の流出を上回る問題に発展する可能性があるからだ。

 特に不特定多数に郵送しなければならない上場株式配当の支払通知書については、転居に伴い新居住者の手に渡ってしまうことなどが懸念されており、一部企業の間では従来の普通郵便をやめ、大幅なコスト増を覚悟のうえ書留で送付することも検討されていた(2014年7月23日のニュース「“官製個人情報”が新たな情報漏えいの火種に?」参照)。

 上場株式配当の支払通知書へのマイナンバーの記載は、マイナンバー制度の導入とともに税法で義務付けられることとなっていたため(改正租税特別措置法施行規則4条の4第1項1号)、企業にとって「記載しない」という選択肢はなかったが、政府は漏洩リスクを懸念する企業の声を受け、10月2日付けで、昨年(2014年)7月9日に改正した上記改正租税特別措置法施行規則を再改正、上場株式配当の支払通知書へのマイナンバーの記載を不要とした。

 同様に、給与の源泉徴収票にもマイナンバーを記載しなくてよいこととした。企業の間では、マイナンバーが記載された給与の源泉徴収票を直接本人に手渡しするなど情報管理に細心の注意を払う必要が生じていたが、今回の措置により企業の負担は大幅に減ることになる。

 なお、「税務署提出用」の支払通知書や源泉徴収票にはマイナンバーを記載する必要があるので留意したい。

 上記以外にマイナンバーの記載が不要になる書類はこちらを参照。