2015/09/29 CG報告書に見られる基本的なミス

 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下、CG報告書)にコーポレートガバナンス・コードへの対応を記載しなければならなくなったことにより、その読者層が大幅に拡大している。従来は機関投資家の中でも「議決権行使担当者」が主な読者だったが、これからはファンドマネージャーやアナリスト、さらには個人投資家も読者として想定しておくことが必要となる。CG報告書の作成担当者には、読者の広がりを意識した分かりやすい記載が求められる。また、長期的な視点で投資を行う投資家は“定点観測”ではなく、企業がどのようにガバナンスを改善してきているかという“流れ”、具体的には過去5年程度のガバナンスの変化を理解しようとすることになる。したがって、作成担当者は、今後は「変化」と「改善の方向性」を意識的に記載するよう心掛けるべきだろう。

 このように、投資家はガバナンスの改善により企業の成長が促進されることを期待しているのであり、必ずしも「記載の上手さ」を求めているわけではない。とはいえ、CG報告書は注目度が高い資料であるだけに、“つまらないミス”により評価を下げることは避けたいところだ。実際、既に公表されているCG報告書を見ると、基本的な記載要領を誤解している会社が散見される。

 コーポレートガバナンス・コードの全ての原則を遵守している場合には、・・・

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2015/09/29 CG報告書に見られる基本的なミス(会員限定)

 コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下、CG報告書)にコーポレートガバナンス・コードへの対応を記載しなければならなくなったことにより、その読者層が大幅に拡大している。従来は機関投資家の中でも「議決権行使担当者」が主な読者だったが、これからはファンドマネージャーやアナリスト、さらには個人投資家も読者として想定しておくことが必要となる。CG報告書の作成担当者には、読者の広がりを意識した分かりやすい記載が求められる。また、長期的な視点で投資を行う投資家は“定点観測”ではなく、企業がどのようにガバナンスを改善してきているかという“流れ”、具体的には過去5年程度のガバナンスの変化を理解しようとすることになる。したがって、作成担当者は、今後は「変化」と「改善の方向性」を意識的に記載するよう心掛けるべきだろう。

 このように、投資家はガバナンスの改善により企業の成長が促進されることを期待しているのであり、必ずしも「記載の上手さ」を求めているわけではない。とはいえ、CG報告書は注目度が高い資料であるだけに、“つまらないミス”により評価を下げることは避けたいところだ。実際、既に公表されているCG報告書を見ると、基本的な記載要領を誤解している会社が散見される。

 コーポレートガバナンス・コードの全ての原則を遵守している場合には、「全ての原則を遵守しており、実施しない理由として記載する部分がない」旨を「コードの各原則を実施しない理由」の部分に記載することになっているが(CG報告書の記載要領 1ページ(1)コードの各原則を実施しない理由の一番最後の項目参照)、「コードの各原則に基づく開示」の欄に「全ての原則を遵守している」旨を記載している会社がある。この結果、「コードの各原則を実施しない理由」の欄を見て機械的に遵守状況を確認している機関投資家などからは、「遵守しているかどうか不明」と判断される懸念があるので要注意だ。

 また、「コードの各原則を実施しない理由」の欄に「記載すべき事項はありません」と記載している会社もあるが、それだけでは「全て遵守しているから記載すべき事項がない」のか、あるいは「記載の準備が整っていない」ということなのかが分らないという指摘も機関投資家から聞かれる。

 このほか、「特定の開示すべき原則(11原則)」以外の各原則の実施状況を記載する場合には、「コードの各原則に基づく開示」の欄を利用するとよいだろう。

 なお、CG報告書は、2015年6月1日以後に最初に到来する定時株主総会の日から6か月が経過するまで「非表示」とすることが可能だが、いくつかの会社はタイトルだけ表示しているため、「コード対応のCG報告書を開示したが、肝心のコード対応の内容が書かれていない」との誤解を受けている。これだけで投資家がマイナス評価を下すわけではないとはいえ、改善したいところだ。

2015/09/29 【ファイナンス】自社に最適な株主構成を実現したい

 

「安定株主」への評価が変化

かつての日本企業の株主構成を見ると、その中心には常に「安定株主」がいました。

“日本的経営”が国内外から高く評価されていた1980年代、安定株主の存在は「短期的な株価上昇を求める浮動株主の圧力にさらされることなく、長期的な視点に立った経営を可能とする」として、日本企業の強みの1つとされていました。しかし、バブル崩壊後の1990年代以降、日本的経営に対する見方は変わりました。欧米企業に比べ日本企業の自己資本利益率(ROE)が低い状態が長期化する中で、いまや安定株主中心の株主構成は、ROE向上をはじめとする“株主重視の経営”の妨げになると考えられています。このため、「株主構成」は投資家の関心事であるとともに、上場会社にとっても非常に重要なテーマとなっています。
浮動株主 : 浮動株(市場に出回っている株式)の株主
自己資本利益率(ROE) : Return On Equity=純利益 ÷ 自己資本

株主は主に、(1)創業者や従業員持株会などの会社関係者、(2)取引先等、政策保有(持合いを含む)による株主、(3)機関投資家、(4)個人投資家の4つに分けられます。

通常、(1)会社関係者と(2)政策保有による株主は
・株価上昇や配当収入“以外”の要因が主たる保有動機になっていること
・敵対的買収などが生じた際に、会社(経営者)を支持するケースが多いこと
――から、安定株主とされます。

逆に(3)機関投資家と(4)個人投資家は
・株価上昇や配当収入を主たる保有動機とする「純投資」を志向していること
・敵対的買収などが生じた際には、買収者を支持する可能性が否定し難いこと
――から、浮動株主とされます。

本稿では、(1)と(2)をまとめた「安定株主」、「機関投資家」、「個人投資家」の3種類の株主の“最適な構成”とはどのようなものか、また、それを実現するためにはどうすればいいのかについて説明します。

時価総額に応じた傾向が明確な株主構成

1993年と2013年の株主構成を比較したのが図表1です。開示されているデータから安定株主・浮動株主の区別が完全にできるわけではありませんが、都銀・地銀等・生損保と事業法人等は主に「安定株主」、投信・年金と外国法人等は主に「浮動株主」と考えられます。

前者は1993年には合計で59.5%に達していましたが、2013年には30.0%とほぼ半減しています。自己資本比率規制等の影響で、都銀・地銀等・生損保の持株比率が大きく低下したのが特徴です。一方、後者は1993年前の12.0%に対し2013年は37.7%と3倍になっており、特に外国法人等は4倍と大きく増加しています。その間、個人・その他は20%前後で安定的に推移しています。日本企業の株主構成は、「安定株主中心」から「浮動株主(特に機関投資家)中心」にシフトしたと言えるでしょう。

自己資本比率規制 : 有価証券のように資産価値が変動する「リスク資産(分母)」に対する「自己資本(分子)」の割合を一定以上に維持することを銀行等に求める規制。

図表1【上場企業の株主構成の変化】
出典:東京証券取引所
finance13368_1

図表2は、会社の規模(時価総額)別に、「外国法人等」と「個人・その他」の株主の比率を示したものです。前者からは機関投資家の動向、後者からは個人投資家の動向を読み取ることができます。この図表が示すとおり、時価総額が大きいほど「外国法人等」が多く(≒機関投資家が多く)なり、「個人・その他」が少なく(≒個人投資家が少なく)なる傾向があります。

図表2【時価総額別の持株比率】
※2013年度末時点、東証一部上場企業(金融除く)  出典:QUICK
finance13368_2

このような傾向が出るのには「資金量」が大きく関係しています。グローバルな大手機関投資家は日本株式だけで1兆円を超える資金を運用しており、通常の機関投資家でも数百億円から数千億円といった規模になります。巨額の資金で規模の小さい会社の株式を売買しようとすると、自分の買い(売り)注文で株価が上がって(下がって)しまうことが多いため、機関投資家は規模の小さい会社への投資を敬遠しがちです。機関投資家の投資対象が規模の大きい会社に偏る分、その裏返しとして、規模の小さい会社では個人投資家の比率が高くなる傾向があります。

また、規模の小さい会社では創業者等が大株主になるケースが多いことも、「個人その他」の比率が高まる理由の1つになっていると考えられます。

最適な株主構成とは?

どのような株主構成が「最適」かは、各社固有の事情があるため一概には言えませんが、通常の上場会社に共通する最適な株主構成とは、・・・

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安定株主を増やすには?

安定株主割合の動向には、創業者(会社関係者)の事情や取引先(政策保有による株主)との関係などが大きく影響します。上述のとおり、安定株主は減少傾向にありますので、その比率を上げるのは容易ではありませんが、近年のトレンドも踏まえると、安定株主割合の増加策としては以下の2つの方法が考えられます。

1つは・・・

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機関投資家および個人投資家(=浮動株主)の特徴

機関投資家および個人投資家(両方を合わせて「浮動株主」といいます)を増やすためには、機関投資家、個人投資家それぞれの特徴を踏まえた対応が求められます。そこで、それぞれを増やすための施策を考える前に、両者の特徴を見てみましょう(図表3参照))。・・・

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機関投資家を増やすには?

まずは現状分析(See)から始めます。通常、機関投資家は信託銀行等の名義で株式を保有するため、株主名簿からは特定できません。そこで有効なのが、・・・

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個人投資家を増やすには

機関投資家の場合と同様、まずは現状分析(See)から始めます。現状分析を行うための情報源としては、・・・

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2015/09/29 チェックリスト:自社に最適な株主構成を実現したい(会員限定)

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■チェックリスト:自社に最適な株主構成を実現したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
安定株主比率を高めるため、従業員による株式保有を推進しているか。 従業員持株会に加え、日本版ESOPを利用することも検討すべき。
安定株主比率を高めるため、自己株式の取得を検討したか。 自己株式の取得により安定株主数を増やすことなく安定株主比率を高めることができる。
安定株主比率を高める施策を実施する場合、株式の流動性低下(売買株式数の減少)や上場廃止基準等への抵触のリスクというデメリットがあることを認識しているか。 流通株式数が低下した上場会社は、事業年度の末日の状況に応じて、上場市場が第一部から第二部へ指定替えとなったり、上場廃止になったりする。たとえば、東証第一部に上場する企業の場合、事業年度の末日において、流通株式数基準が10,000単位未満あるいは流通株式時価総額基準が10億円未満であれば指定替えとなり(猶予期間1年)、流通株式数基準が2,000単位未満(猶予期間1年)、流通株式時価総額が5億円未満(猶予期間1年)、流通株式比率が5%未満(所定の書面を提出する場合を除く。猶予期間なし)の要件を満たせば、上場廃止となる。
株主増加策を検討を検討する前に、自社の株主の現状を把握したか。 機関投資家については「実質株主判明調査」、個人投資家については個人株主向けのアンケートが有効。
自社株式への投資を促すべき機関投資家を理解しているか。 パッシブ運用を行う機関投資家に買増しを促しても無意味。アクティブ運用を行っており、かつ現状では自社の株主になっていない機関投資家をターゲットにする。
アクティブ運用を行う機関投資家に自社の魅力を明確に説明できるか。 機関投資家は「他社との相対評価」によって投資判断を行うため、競合他社との差別化を意識しながら、自社の魅力を分かり易いストーリーにして、能動的に発信する必要がある。また、機関投資家からいつ対話を求められてもよいように、日頃から準備をしておくことも重要。
実行した株主増加策の効果を検証しているか。 多くの施策を同時に実行すると、どの施策で効果が上がったのかが分からなくなってしまうことがある。どの施策が効果があるのかを把握することで、効率的に施策を打つことが可能になる。
個人株主による「買増し」を促す施策を検討しているか。 新たに投資家を開拓するよりは、既存株主を友好的な株主に変えつつ買増しを促す方が効率的。BtoC事業を営む会社では、製商品の顧客に自社株式への投資を促す工夫も検討に値する。
個人株主の増加に伴うコスト増を見込んでいるか。 個人株主数が増えると、株主に送付する資料の郵送費用等の管理コストが増える。

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2015/09/28 【ファイナンス】自社に最適な株主構成を実現したい(会員限定)

 

「安定株主」への評価が変化

かつての日本企業の株主構成を見ると、その中心には常に「安定株主」がいました。

“日本的経営”が国内外から高く評価されていた1980年代、安定株主の存在は「短期的な株価上昇を求める浮動株主の圧力にさらされることなく、長期的な視点に立った経営を可能とする」として、日本企業の強みの1つとされていました。しかし、バブル崩壊後の1990年代以降、日本的経営に対する見方は変わりました。欧米企業に比べ日本企業の自己資本利益率(ROE)が低い状態が長期化する中で、いまや安定株主中心の株主構成は、ROE向上をはじめとする“株主重視の経営”の妨げになると考えられています。このため、「株主構成」は投資家の関心事であるとともに、上場会社にとっても非常に重要なテーマとなっています。
浮動株主 : 浮動株(市場に出回っている株式)の株主
自己資本利益率(ROE) : Return On Equity=純利益 ÷ 自己資本

株主は主に、(1)創業者や従業員持株会などの会社関係者、(2)取引先等、政策保有(持合いを含む)による株主、(3)機関投資家、(4)個人投資家の4つに分けられます。

通常、(1)会社関係者と(2)政策保有による株主は
・株価上昇や配当収入“以外”の要因が主たる保有動機になっていること
・敵対的買収などが生じた際に、会社(経営者)を支持するケースが多いこと
――から、安定株主とされます。

逆に(3)機関投資家と(4)個人投資家は
・株価上昇や配当収入を主たる保有動機とする「純投資」を志向していること
・敵対的買収などが生じた際には、買収者を支持する可能性が否定し難いこと
――から、浮動株主とされます。

本稿では、(1)と(2)をまとめた「安定株主」、「機関投資家」、「個人投資家」の3種類の株主の“最適な構成”とはどのようなものか、また、それを実現するためにはどうすればいいのかについて説明します。

時価総額に応じた傾向が明確な株主構成

1993年と2013年の株主構成を比較したのが図表1です。開示されているデータから安定株主・浮動株主の区別が完全にできるわけではありませんが、都銀・地銀等・生損保と事業法人等は主に「安定株主」、投信・年金と外国法人等は主に「浮動株主」と考えられます。

前者は1993年には合計で59.5%に達していましたが、2013年には30.0%とほぼ半減しています。自己資本比率規制等の影響で、都銀・地銀等・生損保の持株比率が大きく低下したのが特徴です。一方、後者は1993年前の12.0%に対し2013年は37.7%と3倍になっており、特に外国法人等は4倍と大きく増加しています。その間、個人・その他は20%前後で安定的に推移しています。日本企業の株主構成は、「安定株主中心」から「浮動株主(特に機関投資家)中心」にシフトしたと言えるでしょう。

自己資本比率規制 : 有価証券のように資産価値が変動する「リスク資産(分母)」に対する「自己資本(分子)」の割合を一定以上に維持することを銀行等に求める規制。

図表1【上場企業の株主構成の変化】
出典:東京証券取引所
finance13368_1

図表2は、会社の規模(時価総額)別に、「外国法人等」と「個人・その他」の株主の比率を示したものです。前者からは機関投資家の動向、後者からは個人投資家の動向を読み取ることができます。この図表が示すとおり、時価総額が大きいほど「外国法人等」が多く(≒機関投資家が多く)なり、「個人・その他」が少なく(≒個人投資家が少なく)なる傾向があります。

図表2【時価総額別の持株比率】
※2013年度末時点、東証一部上場企業(金融除く)  出典:QUICK
finance13368_2

このような傾向が出るのには「資金量」が大きく関係しています。グローバルな大手機関投資家は日本株式だけで1兆円を超える資金を運用しており、通常の機関投資家でも数百億円から数千億円といった規模になります。巨額の資金で規模の小さい会社の株式を売買しようとすると、自分の買い(売り)注文で株価が上がって(下がって)しまうことが多いため、機関投資家は規模の小さい会社への投資を敬遠しがちです。機関投資家の投資対象が規模の大きい会社に偏る分、その裏返しとして、規模の小さい会社では個人投資家の比率が高くなる傾向があります。

また、規模の小さい会社では創業者等が大株主になるケースが多いことも、「個人その他」の比率が高まる理由の1つになっていると考えられます。

最適な株主構成とは?

どのような株主構成が「最適」かは、各社固有の事情があるため一概には言えませんが、通常の上場会社に共通する最適な株主構成とは、会社または経営者に対して「友好的な株主」が多いということではないでしょうか。ここで言う友好的な株主とは、経営理念に共感し、経営戦略に対する深い理解を持ち、拙速的な敵対的買収等に安易に同調しない株主と理解すればよいでしょう。

「最適な株主構成」を目指すと言っても、「安定株主○○%、機関投資家△△%・・・」という数値目標を掲げたところで、それがすぐに実現するわけではありません。まずは現状の株主構成を所与として、望ましい株主を増やすための施策を検討する方が現実的です。

詳細は後述しますが、重要なのは「Plan-Do-See」のサイクルを確立することです。具体的には、株主の現状分析(See)からスタートし(これから上場する企業であれば、業種や規模が近い企業の事例を参考にします)、これを踏まえて必要な施策を検討・決定(plan)→実行(Do)→施策の効果の検証・分析(See)――という流れになります。

以下、安定株主、機関投資家、個人投資家の順に詳しく説明しましょう。

安定株主を増やすには?

安定株主割合の動向には、創業者(会社関係者)の事情や取引先(政策保有による株主)との関係などが大きく影響します。上述のとおり、安定株主は減少傾向にありますので、その比率を上げるのは容易ではありませんが、近年のトレンドも踏まえると、安定株主割合の増加策としては以下の2つの方法が考えられます。

1つは従業員による株式保有です。従前から利用されている従業員持株会に加え、日本版ESOP(イソップ)を利用することも検討すべきでしょう。ESOPとは「Employee Stock Ownership Plan=従業員による株式所有計画)」の略称であり、会社が信託(ESOP信託と呼ばれます)を設定し、会社からの拠出金や金融機関からの借入等により当該信託が会社や株式市場から自社株式を一括して取得、これを(1)従業員持株会に売却するか、(2)勤続年数や役位、業績達成度等をポイント化し、退職時や一定年数経過時に当該ポイントに応じた自社株式を無償で譲渡するという仕組みです。いずれにしても従業員の株式所有を促進することになるため、従業員のモチベーション向上に役立つとともに、信託が保有する株式の議決権を行使する際には(形式上の行使者は信託銀行)、将来株式を所有することになる従業員の意向が反映されるので、会社にとっては安定株主割合の増加策として活用することができます。

自社株式を取得するスキームとしては従業員持株会もありますが、従業員持株会は、従業員が負担する少額の拠出金を原資にして自社株式を徐々に買い増していく仕組みであるため、自社株式の一括取得には馴染みません。

2つ目は自己株式の取得です。近年、当面使途のない資金で自己株式を取得する会社が増えています。自己株式には議決権がないため、自己株式を取得すれば議決権の数を減らす効果があります。さらに、取得した自己株式を消却すれば、発行済株式数を減らすことができます。議決権数や発行済み株式数は安定株主比率を計算する際の分母になりますので、自己株式を取得・消却すれば、安定株主数を増やすことなく安定株主比率を高めることができるというわけです。

なお、安定株主比率が高くなると、株式の流動性低下(売買株式数の減少)や上場廃止基準等()へ抵触するリスクが高まるというデメリットがある点には十分に注意する必要があります。

 上場会社の株式につき、役員(取締役、監査役、執行役)や役員持株会が所有する株式、役員の配偶者が所有する株式、役員の二親等内の血族が所有する株式、上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式など流通性の乏しい株式を除いて「流通株式数」を計算し、その流通株式数を用いて算定した値が流通株式数基準、流通株式時価総額、流通株式比率といった基準に該当すれば(基準によっては猶予期間あり)、当該上場会社の株式は、指定替え(市場を第一部から第二部へ変更)または上場廃止となる。東証第一部に上場する企業の場合、事業年度の末日において、流通株式数基準が10,000単位未満あるいは流通株式時価総額基準が10億円未満であれば指定替えとなり(猶予期間1年)、流通株式数基準が2,000単位未満(猶予期間1年)、流通株式時価総額が5億円未満(猶予期間1年)、流通株式比率が5%未満(所定の書面を提出する場合を除く。猶予期間なし)の要件を満たせば、上場廃止となる。
機関投資家および個人投資家(=浮動株主)の特徴

機関投資家および個人投資家(両方を合わせて「浮動株主」といいます)を増やすためには、機関投資家、個人投資家それぞれの特徴を踏まえた対応が求められます。そこで、それぞれを増やすための施策を考える前に、両者の特徴を見てみましょう(図表3参照))。

図表3【機関投資家と個人投資家の一般的な特徴】

機関投資家 個人投資家
保有目的 純投資(株価上昇・配当収入) ・基本的には純投資
・事業内容・戦略への共感、製商品への愛着、株主優待等が動機になる場合もある
重視する指標等 業績および株価指標を重視する傾向(ROEPERPBREV/EBITDAなど) 機関投資家に比べると、指標よりも事業内容・戦略、製商品、配当・株主優待を重視する傾向
売買の
タイミング
順張り(株価上昇局面で買い、下落局面で売り) 逆張り(株価上昇局面で売り、下落局面で買い)
資金量 巨額 少額
保有企業
(銘柄)数
数十から数百社 一社から十数社
運用成果の評価 通常はベンチマーク(TOPIX等)との対比 購入時の株価等との対比
投資判断の基礎 (類似企業との比較による)相対評価 (その企業だけを見る)絶対評価
議決権行使 ・近年は行使する投資家が大半
・コーポレートガバナンスの状況や業績次第では会社提案に反対することもある
・行使しない投資家が少なくない
・行使する場合は会社提案に賛成することが多い

ROE : Return On Equity(株主資本利益率)=利益 ÷ 株主資本
PER : Price Earnings Ratio(株価収益率)=株価 ÷ 1株当たり純利益  株価が会社の利益の何倍あるかを示しており、PERが低ければ低いほど、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安ということになる。
PBR : Price Book-Value Ratio(株価純資産倍率)=株価 ÷ 1株当たり株主資本  株価が会社の利益の何倍あるかを示しており、PERが低ければ低いほど、会社が稼ぐ利益に対して株価が割安ということになる。
EV : Enterprise Value=企業価値。企業を買収するときに必要になる資金を指し、株式時価総額+有利子負債-現預金で求められる。有利子負債を加算するのは、当該企業を買収すればその支払義務が発生するためであり、逆に現預金を減算するのは、買収後には買収者のものとなるため。自社の企業価値を測る指標としてEVを公表している企業もある。

ただし、機関投資家や個人投資家の中にも様々なタイプがいることに注意が必要です。機関投資家の運用スタイルは、大きく「パッシブ運用」と「アクティブ運用」に分けることができます。さらに、アクティブ運用も、「企業の成長性に注目するタイプ(グロース)」と「株価の割安性に注目するタイプ(バリュー)」などに分けることができます。個人投資家にも様々なタイプがいます(詳細は後述します)。

パッシブ運用 : 東証で言えばTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指す運用手法のこと。株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社はあまり裁量を加えず運用する。積極的な運用方法でないという意味で「パッシブ(消極的な)という言葉が使われている。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。
アクティブ運用 : インデックスファンドの対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定するファンドのこと。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。

機関投資家を増やすには?

まずは現状分析(See)から始めます。通常、機関投資家は信託銀行等の名義で株式を保有するため、株主名簿からは特定できません。そこで有効なのが、「実質株主判明調査」です。実質株主判明調査とは実際に自社の株式を保有している機関投資家を特定するもので、IR支援会社や信託銀行などに依頼するのが一般的です。一定期間にわたって定期的にこの調査を行い、その期間における機関投資家の株式保有状況と株価や業績動向等とを突き合わせると、どのような機関投資家がどのような意図をもって自社の株式を売買したのか、推定することができます(例えば、「自社に投資している機関投資家の大半がパッシブ運用を行っているため、自社の株式が買われているのは、単に自社が『株価指数に採用されている』という理由によるものである」など)。実質株主判明調査を行わない場合(あるいは、会社が上場前の場合)には、規模や業種が類似する他社の事例を参考にするとよいでしょう。他社における機関投資家や外国人株主の持株比率の変動と株価や業績動向等を突き合わせることにより、自社の株主動向をある程度推測することが可能です。

現状分析(See)の次は、具体的な施策を検討・決定(Plan)します。上記例のように、自社の株主にパッシブ運用の機関投資家が多い場合について考えてみましょう。パッシブ運用では、株価指数における自社のウェイト(TOPIX(東証株価指数)の銘柄別ウェイトはこちら)だけで保有株数が決まりますので、会社が機関投資家に買増しを促したところで、どうにもなりません。したがって、会社がターゲットにすべきは、アクティブ運用を行っており、かつ現状では自社の株主になっていない機関投資家、ということになります。

アクティブ運用を行う機関投資家から投資を受けていない会社は、そもそも株式市場からの注目度が低いということが少なくありません。このような会社は、投資対象としての自社の魅力を分かり易いストーリーにして、能動的に発信する必要があります。その際には、競合他社との差別化を意識することが重要です。機関投資家は「他社との相対評価」によって投資判断を行うからです(図表3参照)。例えば、競合他社の中で株式市場の注目度の高い会社を念頭に、事業内容や戦略の類似点・相違点や差別化要因を伝えることが考えられます。

具体的な施策が固まれば、あとは実行(Do)あるのみです。ただし、施策の実行は常に効果の検証(See)とセットであるべきです。多くの施策を同時に実行すると、どの施策で効果が上がったのかが分からなくなってしまうことがあります。

スチュワードシップの実施(2014年2月~)により、企業との対話を望む機関投資家は増えており、いつ自社が機関投資家からアプローチを受けても不思議ではありません。機関投資家の大半は、短期的な視点から増配や自社株買いなどの株主還元を求めるアクティビストとは異なり、中長期的な企業価値向上の視点からの対話を求めています。優良な機関投資家から投資を受けるチャンスを逃さないためにも、いつでも自社の魅力を明確に説明できるよう日頃から準備しておく必要があります。

個人投資家を増やすには

機関投資家の場合と同様、まずは現状分析(See)から始めます。現状分析を行うための情報源としては、個人株主向けのアンケートが挙げられます。アンケートは会社説明会等のイベント会場で行うほか、株主総会の招集通知にアンケート用紙を同封する方法もあります。一定期間にわたりアンケートを行い、その結果を株価や業績の変動と突き合わせれば、有益な分析結果が得られる可能があります。例えば、株価が下落している局面で保有を開始する小口投資家は、売却益よりも配当や株主優待を重視するタイプであることが少なくありません。

現状分析(See)の次はやはり施策の検討・決定(Plan)です。配当や株主優待を重視する小口投資家が増えている場合について考えてみましょう。こうした小口投資家は会社の事業内容等に詳しくないことが多いため、当初は上述の「友好的な株主」には当てはまらない可能性がありますが、新たに他の投資家を開拓するよりは、既存株主を友好的な株主に変えていく中で買増しを促す方が効率的です。例えば、事業内容への理解が深まるよう、株主に送付する資料や株主優待で提供する製商品を工夫する、買増しを促すために保有株数が増えるほど有利になるよう株主優待の内容を変更する、といった施策が考えられます。BtoCビジネスを展開する企業では、株主優待を通じて新しい製商品の認知度を高め、既存株主への販売促進を兼ねつつさらなる投資を促す、あるいは、製商品の顧客に自社株式への投資を促すといった工夫も検討に値します。

個人投資家を増やすための施策の実行(Do)においても、常に効果の検証(See)がセットになるという点は機関投資家の場合と同様です。

なお、個人投資家の増加に伴い株主数が増える場合には、株主に送付する資料の郵送費用等の管理コストが増える点には留意する必要があります。

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2015/09/28 “オンデマンド・エコノミー”ビジネスは日本で普及する?

 Uber、Shyp、Instacart・・・米国では“オンデマンド・エコノミー企業”が続々と登場している。

 オンデマンド・エコノミーとは、スマートフォンやタブレット端末などを使って、必要な商品やサービスを必要な場所にタイムリーに届けるビジネス形態を指す。米国の大都市で配車サービスを展開するUberのビジネスモデルは、自動車を所有する個人がUberのアプリを通じて送迎の仕事を請け負うことで得た報酬の一部を、Uberの手数料とするもの。Uberのほか、荷物の梱包・配送を個人が請け負うShyp、個人がスーパーでの買い物を代行するInstacartなど、斬新なアイデアを持つ企業の出現は、オンデマンド・エコノミー時代の到来を思わせる。

 ただ、オンデマンド・エコノミーに対しては、・・・

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2015/09/28 “オンデマンド・エコノミー”ビジネスは日本で普及する?(会員限定)

 Uber、Shyp、Instacart・・・米国では“オンデマンド・エコノミー企業”が続々と登場している。

 オンデマンド・エコノミーとは、スマートフォンやタブレット端末などを使って、必要な商品やサービスを必要な場所にタイムリーに届けるビジネス形態を指す。米国の大都市で配車サービスを展開するUberのビジネスモデルは、自動車を所有する個人がUberのアプリを通じて送迎の仕事を請け負うことで得た報酬の一部を、Uberの手数料とするもの。Uberのほか、荷物の梱包・配送を個人が請け負うShyp、個人がスーパーでの買い物を代行するInstacartなど、斬新なアイデアを持つ企業の出現は、オンデマンド・エコノミー時代の到来を思わせる。

 ただ、オンデマンド・エコノミーに対しては、「労働者保護」の観点から米国内でも批判の声がある。個人が自分の都合に合わせて好きな時に好きなだけ働くことができるというオンデマンド・エコノミーは働く側にとって効率的だが、オンデマンド・エコノミーの労働者は「請負労働者」に過ぎず、労災保険、雇用保険、健康保険などの社会保険や年金が会社から用意されることはない。また、有給休暇も存在しないため、病気になれば即座に収入が途絶えることになる。日本では一時期、実態は「労働者派遣」であるにもかかわらず書類上は「請負契約」を装ういわゆる“偽装請負”が社会問題化したが(「請負」という形にすれば、会社と労働者の間には雇用関係が発生しないため、会社にとっては、社会保険への加入が不要、契約の打ち切り(実質的な解雇)が容易にできるといったメリットがある)、米国で起きているオンデマンド・エコノミーへの批判も構造はこれと似ている。米国内では労働者がオンデマンド・エコノミー企業に対し「従業員としての待遇」を求める訴訟が既に発生しており、個人によるハウスクリーニング請負サービスを展開するHomejoyが訴訟をきっかけに廃業に追い込まれたほか、上述のUberも同様の訴訟を起こされ、訴訟の当事者となったドライバーの正社員待遇を認める判決が下されている。また、次期大統領候補と言われるヒラリー・クリントンもオンデマンド・エコノミーの労働問題を指摘するなど、オンデマンド・エコノミーに対する逆風は決して弱くない。

 とはいえ、ここまでオンデマンド・エコノミーが発展してきたことからも明らかなように、オンデマンド・エコノミー企業が提供するサービスに対する消費者のニーズがあるのは間違いない。実際、ニューヨークでは市長がUberに対するタクシー業界の反発を踏まえてUberの台数を規制する方針を打ちだしたものの、利用者から反対の声が上がり、規制は実現しなかった。マーケットが存在するものを規制で押さえ付けようとしても、いずれマーケットの拡大に抗いきれなくなるのが世の常であることを考えれば、オンデマンド・エコノミーも、労働者保護の問題と折り合いをつけながら、発展していく可能性がある。

 Uberは既に日本にも進出している(同社のホームページはこちら。“白タク”問題もあり、同社の事業展開が本格化するのはまだこれからだと思われる)。特にBtoC向けのサービスを展開する企業の経営陣は、オンデマンド・エコノミーの動向には関心を持っておきたいところだ。

2015/09/25 補充原則4-11③「取締役会全体の実効性評価」はコンプライすべきか

 コーポレートガバナンス・コードへの対応を記載したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限が12月後半()に迫っているが(3月決算会社の場合)、2015年9月15日のニュース「日本と欧米における「取締役会の実効性評価」の違い」でもお伝えしたとおり、取締役会評価を求めるコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③への対応に頭を悩ませる会社が少なくない。実際、2015年8月末現在の調査結果によると、コードのすべての原則のうち補充原則4-11③はエクスプレインの比率がもっとも高い原則(すなわち、もっともコンプライが困難な原則)となっている(金融庁と東証が設置した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の第1回会議に提出された資料の4ページを参照)。

 コーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は「施行後最初に開催される定時株主総会から6か月間」とされている。3月決算の上場会社であれば6月後半に株主総会を開くのが通常であることから、提出期限は12月後半となる。

 こうした中、ガバナンスの専門家の間では、本原則について「エクスプレインでよいのでは」との声が上がっている。専門家がその根拠としているのが、・・・

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2015/09/25 補充原則4-11③「取締役会全体の実効性評価」はコンプライすべきか(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードへの対応を記載したコーポレート・ガバナンス報告書の提出期限が12月後半()に迫っているが(3月決算会社の場合)、2015年9月15日のニュース「日本と欧米における「取締役会の実効性評価」の違い」でもお伝えしたとおり、取締役会評価を求めるコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③への対応に頭を悩ませる会社が少なくない。実際、2015年8月末現在の調査結果によると、コードのすべての原則のうち補充原則4-11③はエクスプレインの比率がもっとも高い原則(すなわち、もっともコンプライが困難な原則)となっている(金融庁と東証が設置した「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の第1回会議に提出された資料の4ページを参照)。

 コーポレート・ガバナンス報告書の提出期限は「施行後最初に開催される定時株主総会から6か月間」とされている。3月決算の上場会社であれば6月後半に株主総会を開くのが通常であることから、提出期限は12月後半となる。

 こうした中、ガバナンスの専門家の間では、本原則について「エクスプレインでよいのでは」との声が上がっている。専門家がその根拠としているのが、同原則の書きぶりだ。同原則が開示を求めているのはあくまで「“結果”の概要」であるため、「実施しています」「こういうスキームです」というだけではコンプライしたことにはならない。「これからやる」というのであれば、本来はエクスプレインにならざるを得ないというのが専門家の意見だ。実態が伴っていないのに「やっています」と強弁(コンプライ)すれば、投資家との対話の際にその点について質問を受け回答に窮する事態となる可能性もある。コーポレートガバナンス・コード導入初年度においては無理に「フル・コンプライ」を目指すことなく、本原則については「エクスプレイン」とすることも検討に値しよう。

補充原則4-11③
 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 仮にコンプライするとしても、単に「問題ありません」と記載すればよいというものではない。よほど実態が伴わない限り(例えば、グローバル水準のROEを凌駕し、かつ株主総会ではほぼ満票の賛成を得ているなど)説得力に欠ける。

 2015年9月15日のニュース「日本と欧米における「取締役会の実効性評価」の違い」でもお伝えしたとおり、取締役会評価の手法を検討する前にまずコーポレートガバナンス・コードの原則3-1が求める「コーポレートガバナンスの基本方針」を策定する必要があるが、その内容は個社の事情によって異なる。例えば、業績が長期低迷している企業では、従来にない発想や社内の常識を覆す視点を取り入れるため、執行から高度に分離された監督機能(例えば、取締役会の過半数を社外取締役をはじめとする非執行者とするなど)が必要だろう。一方、業績が極めて好調な企業であれば、思わぬ落とし穴に陥って足元をすくわれるリスクを最小化するため、客観的な気付きを与えてくれる程度の人数の独立社外取締役を選任すればよいかもしれない。

 要するに、取締役会評価を実施するのに先立ち、各社独自のコーポレートガバナンスの基本方針が備わって初めて、取締役会評価で何を検証するのかも明確になる。コーポレートガバナンス・コードの導入初年度ということでまだコーポレートガバナンスの基本方針が確立していない企業においては、補充原則4-11③は「エクスプレイン」とすることで、かえって投資家から「真摯な姿勢でコード対応に取り組んでいる」との評価を受けることにもなりそうだ。

2015/09/24 (新用語・難解用語)ビジネスと人権に関する指導原則

 ESGを考慮する「ESG投資」のメインストリーム(主流)化が欧州を中心に進んでいるが(新用語・難解用語辞典「ESGインテグレーション投資」参照)、E(Environmental=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=企業統治)のうち、環境問題などと比べると日本企業にとって馴染みが薄いのが主に「S」に属する人権問題だ。

 しかし、実は企業活動が人権問題に抵触する可能性は決して低くない。劣悪な労働環境や長時間労働、低賃金、児童労働などが人権問題を引き起こすことは容易に想像できるが、製品やサービスの安全性、環境汚染、近年しばしば発生している個人情報の漏洩問題、プライバシーの侵害、さらには製品のデザインそのものまでもが人権問題へと発展することもあり得る。紛争鉱物の問題も、結果として紛争地域での人権侵害に加担しているという点で人権問題の1つと言える。

 今のところ、(例えば労働法などの法令に違反する場合は別として)人権問題に真正面から取り組んでいる日本企業は多くないが、この状況を変える可能性があるのが、・・・

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