2015/09/24 (新用語・難解用語)ビジネスと人権に関する指導原則(会員限定)

 ESGを考慮する「ESG投資」のメインストリーム(主流)化が欧州を中心に進んでいるが(新用語・難解用語辞典「ESGインテグレーション投資」参照)、E(Environmental=環境)、S(Social=社会)、G(Governance=企業統治)のうち、環境問題などと比べると日本企業にとって馴染みが薄いのが主に「S」に属する人権問題だ。

 しかし、実は企業活動が人権問題に抵触する可能性は決して低くない。劣悪な労働環境や長時間労働、低賃金、児童労働などが人権問題を引き起こすことは容易に想像できるが、製品やサービスの安全性、環境汚染、近年しばしば発生している個人情報の漏洩問題、プライバシーの侵害、さらには製品のデザインそのものまでもが人権問題へと発展することもあり得る。紛争鉱物の問題も、結果として紛争地域での人権侵害に加担しているという点で人権問題の1つと言える。

 今のところ、(例えば労働法などの法令に違反する場合は別として)人権問題に真正面から取り組んでいる日本企業は多くないが、この状況を変える可能性があるのが、国連が2011年6月に採択(日本も承認)した「ビジネスと人権に関する指導原則」だ。企業にとって気になるのは、この指導原則が(すべての国家のほか)すべての企業に適用されるとされている点(企業規模、業種、多国籍企業であるか否かなどを問わない)、そして「人権を保護する国内法及び規則の遵守を越えるものであり、関係法令の遵守義務の上位概念」と位置付けられている点だろう。つまり、仮に指導原則が日本の法令以上の人権保護を求めていれば企業はこれに従う必要があり、また、人権保護に関する法令が存在しない国で企業活動を行う場合においても指導原則を守らなければならないということである。

 元々人権問題は、企業活動のグローバル化に伴い、資源開発や工場などにおける労働環境を巡り、先進国と発展途上国の間で浮上したものだが、発展途上国側からは、犠牲者の救済と賠償を可能にする条約の制定による法規制化の動きもある。

 日本では、今年(2015年)1月に日弁連が、指導原則を踏まえ、企業がどのように人権課題に取組み、これを企業の事業活動および法令コンプライアンス実務に統合させるべきかとまとめた「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」を公表している。日弁連は、「人権デュー・ディリジェンス」とは「(負の影響を回避・軽減するために)その立場に相当な注意を払う行為又は努力」ということを意味し、その本質は「人権リスクに関する内部統制」であるとしている。そして、これらは会社法上の「取締役の善管注意義務(会社法330 条)」「内部統制システムの整備・運用義務(会社法348条3項6号、362条4項6号)」とほぼ同義であるため、人権デュー・ディリジェンスを怠れば経営責任を問われかねない旨指摘している(26ページの下部参照)。

 上述したように、人権問題には社内の様々な部署が関係することになるため(例えば、労働関係は人事部門、製品関係は製造部門など)、CSR部門だけで対応し切れるものではない。人権リスクに関する内部統制を構築しようとすれば、CSR部門を中心に全社横断的な体制の整備が求められることになろう。

2015/09/24 【2015年8月の課題】1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング:解答(会員限定)

機関投資家の投資哲学やレベルは様々

 時価総額の増加に伴い、企業価値も着実に高まっていることでしょう。当然、機関投資家もそのような会社には興味を持ちますので、自らアポイントをとる前に機関投資家側からアプローチを受けることも十分あり得ます。しかしながら、IRは「受け身」ではなく、自ら積極的にアプローチし戦略的に行うことが重要であるだけに、自社から機関投資家にアポイントをとろうという姿勢は評価されるべきものです。

 機関投資家にアポイントを入れるためにまず必要になるのが、機関投資家のリストです。日本投資顧問業協会や投資信託協会の会員名簿はこのリストになり得ますが、主要な機関投資家は2014年2月から実施されているスチュワードシップ・コードの受入れを表明しており、そのリストが金融庁のHPに掲載されています(スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストはこちら)。そこには、機関投資家名だけでなく、各機関投資家が公表したスチュワードシップ・コードの“受入表明文”へのリンクも記載されています。受入表明文には、運用に対する考え方(投資哲学など)、議決権行使の方針などが示されていますが、これを見れば分かるように、機関投資家の運用哲学は様々であり、レベルにも大きな差があります。したがって、1on1ミーティング臨む前に、まずはスチュワードシップの受入れを表明している機関投資家の受入表明文を読んで、各機関投資家の考え方を大まかに理解しておく必要があります。

自社にとって重要と感じた機関投資家には直接連絡を

 もっとも、リストに掲載されている機関投資家のうちどこが自社に興味を持つか(あるいは、既に持っているか)はなかなか分からないものです。その場合、証券会社やIR支援会社に依頼して、ミーティングの候補となる機関投資家を探してもらうとよいでしょう。むしろ、最初は自らアプローチするよりも、そうする方が一般的です。IR担当取締役としては、複数の機関投資家と幅広くミーティングの場を持ちながら、建設的な意見交換ができる自社にとって“良きパートナー”となる機関投資家を見つけていくことが大切です。

 機関投資家への最初のアポイントは証券会社やIR支援会社に設定してもらったとしても、その後は自社から機関投資家に直接連絡する場面が増えてきます。むしろ、自社にとって「重要」と感じた機関投資家に対しては直接連絡するべきです。ただ、ここで問題になるのが、機関投資家は極めて多忙な毎日を送っているため、連絡をとること自体、容易ではないということです。企業取材で席を外していることも多いため、電話はつながりにくいと考えておいた方がよいでしょう。メールも毎日数百件は受けているのが普通ですが、最近は社外でメールを見ることが可能となっているため、電話でつかまらなければ、メールでフォローアップしておきたいところです。

資料のボリュームと記載内容

 資料のボリュームは会社の事業内容によっても異なりますが、あまり細かすぎる資料を作成する必要はありません。初めてのミーティングとなると、会社側から説明をすることも多いと思いますが、その説明時間を除いても、ミーティングの中で30分以上の質疑応答時間がとれるような分量を意識するとよいでしょう。

 ミーティング時間は、海外投資家の場合は1時間、国内投資家の場合は1時間から1時間半というのが一般的です。国内投資家のミーティング時間が長いのは、足下の業績などに関する質問や説明が多いのが原因です。このやり取りがない海外投資家が1時間を費やしていることからすると、長期的な企業価値を投資家に理解してもらうためには、少なくとも「1時間」は必要だということです。同時に、海外投資家に要する1時間の内容がしっかり含まれるミーティングにすることが重要です。

 機関投資家が理解したいのは、「会社は長期的にどのような方向に進んでいくのか」「長期的な目標は何か」ということです。機関投資家はそれらに対しコミットを求めているわけではありません。あくまで「方向性」を知りたいのです。詳細な事業説明と短期的な業績予想が中心となっている資料をよく見受けますが、会社の長期的なパートナーになろうという機関投資家の関心事は文字通り会社の「長期的なイメージ」にあることを理解したうえで、資料を作成することが重要です。

1on1ミーティングで投資家が聞きたい情報とは?

 1on1という相手との距離の近さと、機関投資家にアピールしたい気持ちから、IR担当取締役としてはできるだけ価値のある情報を伝えたいと思うかも知れません。だからと言って、未公表の情報を伝えるのはNGです。未公表の情報は「インサイダー情報」に該当しますので、それを聞いた機関投資家はその会社の株式を売買をすることができなくなってしまいます。機関投資家からすると、自由に売買できたはずの銘柄の売買できなくなるという著しく不利な立場に置かれるわけですから、そもそも機関投資家がそのような情報を求めることは基本的にありません。

 機関投資家が必要としている情報は、既に公表されている財務情報などを「より深く理解するための情報」です。機関投資家は長期的な情報に基づいて企業価値を評価するため、公表されている財務情報が一過性の要因によるものではなく、「長期にわたって持続的なものであるかどうか」に注目しています。この点を的確に伝えるためには、財務情報の背景といった「非財務情報」を会社側で整理し、これらと財務情報を関連付けて説明することが必要になります。

 要するに、機関投資家との1on1ミーティングは、公表済みの情報を伝えるのではなく、その持続性に対する“ヒント”を与え、ディスカッションする場と考えるとよいでしょう。レベルの高い投資家は様々なケーススタディーを持っており、それに基づいて質問を行います。それに答えていくことは、新たな事業戦略を考えるうえで、会社にとっても有意義なはずです。長期視点の投資家の関心事と経営者の関心事は基本的に同じです。逆に言うと、そのようなディスカッションができる機関投資家はどこなのかを把握し、そこと定期的なディスカッションを行うことは、経営上も極めて重要と言えます。

機関投資家に「投資したい」と思わせるには?

 会社が機関投資家に対して「少しでも良く見せたい」と考える気持ちは理解できます。しかし、資本市場のルールでは、機関投資家とのミーティングでありのままの会社の姿を伝え、それに納得をしてもらったうえで投資をしてもらうというのが基本であり、「特別な見せ方をして投資を促す」という姿勢は間違っています。

 “見せ方”にこだわるよりも、長期的な企業価値に基づいて投資を行う投資家の「視点」を理解しておくことの方が重要です。欧米の優れた経営者は、投資家からの何気ない質問に対しても、投資家が使っている企業価値モデルにおけるインプット項目を意識した回答を返してきます。これは欧米の経営者がMBAなどでDCF(ディスカウント・キャッシュフロー・モデル)に基づく企業価値の考え方を叩きこまれているためです。投資家からの質問に対し、普段社内で話している内容をそのまま伝えるのではなく、投資家の質問の意図がどこにあるのをか汲み取ったうえで回答すると、投資家からは「自分達と同じ尺度で物事を考えている会社だ」と評価され、投資に繋がりやすくなります。

 それにはある程度のファイナンス理論を理解する必要がありますが、決して学術的レベルに踏み込む必要はなく、あくまで大雑把な考え方を理解するだけで十分です。機関投資家とのミーティングに臨む前に、機関投資家の企業価値評価のベースとなる考え方を理解しておくことは、ミーティングを円滑に進める助けとなるでしょう。

2015/09/24 【2015年9月の課題】投資家を納得させる業績予想

2015年9月の課題

 A社では、株主のメイン層が個人投資家であることもあり、業績予想がどうしても短期投資家のニーズに応えたものになりがちです。ただ、機関投資家が中長期の企業価値向上に関心を持つ中、同社のIR担当取締役は、業績予想やその開示のあり方も見直す必要があるのではないかと考えています。では、具体的にどのように見直すべきでしょうか。

 貴方の考えを述べてください。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/22 【失敗学第16回】KDDIの事例(会員限定)

概要

 2015年にKDDI(情報通信業:東証第1部)の海外上場子会社の DMX Technologies Group Limited(以下「DMX」。シンガポール証券取引所のメインボードに上場)で架空取引による粉飾が発覚した。

経緯

 KDDIが2015年8月に外部調査委員会の調査報告書を公表するまでの経緯につき、時系列で示すと、次のとおり。
<2001年>
DMXが設立される(本社は香港)。DMX自体は持株会社で、傘下にシステム・インテグレーション事業(SI事業)やデジタル・メディア事業を営む子会社を有する。中国、香港を中心にアジア複数国で事業を展開。
<2002年>
9月:DMXが株式をシンガポール証券取引所のメインボードに上場。
<2009年>
9月:KDDIがDMXとの間で資本提携を合意(投資額は約123億円)。
12月:KDDIが第三者割当増資によりDMXの株式約51.7%を取得し、DMXを連結子会社にする。
<2013年>
8月:DMXグループの売掛金のうち未回収の残高が看過できない水準になったため、KDDIが売掛金に関する現地調査を実施した。架空取引を察知し得る絶好の機会であったにもかかわらず、調査は表面的なものに留まり、輸出入業者や最終顧客に対するヒアリングは実施しなかった。結果的に、エンドユーザーとの取引の実在性に疑義を抱くに至らなかった。
<2014年>
KDDIの要請で、DMXが監査人をそれまでのデロイトからPwCに変更。PwCが、DMXに対して中国本土における取引の実在性を示す証憑の提出を求めたところ、DMXは期限までに証憑を提出できなかった。
<2015年>
2月:DMX社のCEOとCFOが2008年にDMXで行われた中国企業との取引に関連する犯罪の嫌疑で、香港警察当局に逮捕される。その後、DMXで社内調査委員会の調査が開始。
3月:DMXが子会社で不適切な会計処理が行われていたことを公表。
5月:KDDIが第三者委員会を発足させ、DMXグループにおける会計不正の調査をスタート(こちらを参照)。また、将来発生が見込まれる損失総額33,798百万円を海外子会社事業損失 (特別損失) として計上。
8月:KDDIが外部調査委員会の調査報告書を受領し、公表。最終的な損失額は未確定。

内容・原因・改善策

 KDDIが2015年8月に公表した外部調査委員会の調査報告書によると、DMXにおける商流および会計方針は次のとおりである。
(商流)
failure13255
(会計方針)
 DMXグループでは、通信機器等を販売した場合、輸出入業者からの販売代金の入金を待たず、エンドユーザーへの納入の14日後に、その95%を売上として計上すると同時に、納入した通信機器等の全額を原価計上し、売上の残りの5%については、エンドユーザーによる最終検収後に計上していた。

 また、本件の問題点の内容とその原因と改善策は次のとおりである。

DMX経営陣の逮捕

内容 DMX社のCEOとCFOが2008年にDMXで行われた中国企業との取引に関連する犯罪の嫌疑で香港警察当局に逮捕された。
原因 (DMX経営陣に対する裏付けのない信頼と拙速な資本提携)
KDDIは、DMXに資本参加するまでは同社との取引はなく、同社経営陣との面識もなかった。また、信頼のおける第三者からDMXを紹介されたわけでもなかった。そういった特殊事情があるにもかかわらず、買収の際にDMX経営陣に対する人物調査を実施していなかった。KDDIでは買収後もDMX経営陣を信頼し、経営を委ねていた。なお、資本提携が段階的に行われていれば、KDDIが時間を掛けてDMX側の経営陣や事業内容を評価・分析することも可能になるものの、本資本提携は一度に51.7%を取得するものであり、かつ、デュー・ディリジェンスの時間も不足していたことから、十分に時間を掛けた評価・分析ができていなかった。
改善策 買収に先立って、可能な限り、専門業者による経営陣調査(バックグラウンドチェック)を実施する。

売上高の水増し

内容 DMXグループの売上高が水増しされていた(実際には発注がないにもかかわらず、発注(上図のA)や納品(上図のB)があったかのように偽装し、売上高や売上原価を水増し計上(架空計上)していた)。KDDIは未回収の売掛金が増えていることに危惧を抱いていたが、売上取引の実在性を疑うことはなく、発覚が遅れた。
原因 (売掛金が回収遅れとなった理由の説明を疑念を持たずに受け入れ)
・中国においては商慣習の一環として買掛金の支払いを遅延させるということが常態化している。KDDIは、DMX側から「そのような中国の商慣習により未回収の売掛金が増加した」との説明を受け、その説明を額面通りに受け入れてしまった。
・KDDIは、DMX側から未回収の売掛金が増加した理由として「売掛金の弁済期を長期に設定することによって、顧客にファイナンス上の利便性を提供し、顧客との関係を強化して、ビジネスを拡大している」「政府系の優良顧客がメインで回収懸念は少なく貸倒れ実績もない」との説明を受け、その説明を額面通りに受け入れてしまった。
・DMXは株式をシンガポール証券取引所のメインボードに上場しており、デロイトが会計監査を担当していた。デロイトが2013年12月末期までのDMXの財務諸表に対して適正意見を表明していたため、KDDIとしてはDMXの経営状態を過信してしまった。
(KDDIからDMXに送り込まれる役職員の問題)
・KDDIにおいては、買収の終了後、買収検討段階に関与した者と、買収後の対象会社の管理に関与する者は分離した方が良いという考え方が主流であった。また、DMXの買収に向けた交渉を担い、交渉経緯やDMXの業務内容等に精通している人材は、他の進行中の出資案件にも関わっていた。そのため、買収検討段階に関与した者がDMXに常勤の派遣役員として送り込まれることはなかった。
・KDDIからDMXへの役職員派遣(ポストの割り振り)に関する買収前の事前合意が不十分であったため(正式に交渉テーブルに載せ交渉したり、文書化したりしていなかった)、買収後にKDDI側が役職員派遣(KDDI側からCOO、CFOを出す案)を提案するとDMXから激しく反対され、DMXのCEOであるジスミル氏の離脱話が出るほどこじれてしまった。
・KDDIとしても、DMX子会社が営むSI事業は個人の営業力に依存するところが大きい業態であり、CEOに離脱されてしまうと、他の人材も流出してしまい、DMXの運営に支障をきたすと考え、主要役職についてはDMX側の案を受け入れざるを得なかった。DMXからの抵抗がトラウマになり、対応が“及び腰”になってしまったとも言える。
・KDDI側では、DMXの全取締役11名のうち6名のポストを確保したものの、DMXにおける従来の意思決定プロセスが買収後も堅持されたことで、KDDI側の派遣取締役は通常の意思決定の埒外に置かれてしまい、KDDI側はDMXの経営の実態を十分に把握できなかった。
(決裁権限規程の変更案に対してDMX経営陣から激しく反対を受ける)
・買収後におけるDMXでの決裁権限規程の変更についての事前合意が不十分であったため(正式に交渉テーブルに載せ交渉したり、文書化したりしていなかった)、買収後にKDDI側が決裁権限規程の変更を提案するとDMXから激しく反対されてしまった。
・その結果、KDDIから派遣された取締役はKDDIからの出資金の支出についてのみ承認権限を有するに留まり、それ以外の支出についての承認権限は付与されなかったため、KDDIの派遣取締役がDMXの業務に関連する情報に接する機会は限定されてしまった。
・KDDIは、事業を進めるうちにKDDIとDMXとの間の信頼関係が強固になり、いずれ派遣取締役の権限が強化されると期待していたが、買収後、派遣取締役のポストや権限が見直されることはなかった。
(与信管理のピントのズレ)
DMXの売掛金の直接の相手先は輸出入業者であるにもかかわらず、与信管理において輸出入業者の信用リスクは検討対象にならず、エンドユーザー(中国の通信事業者やCATV事業者)の信用リスクばかりに焦点が当てられていた。しかも、2013年8月にKDDIが実施した売掛金調査ではエンドユーザーに対するヒアリングを実施していなかった。
(月次報告データの原資料へのアクセス過怠)
派遣役員はKDDIへの月次報告データの原資料に直接当たって確認していなかった。
改善策 ・役職員に対し、本件を踏まえ、海外者子会社の買収および管理に伴う不正リスクの認識・理解の向上等を目的とする研修や関連する会計リテラシーを習得し得るような教育を実施する。
・M&A戦略や海外子会社への経営ガバナンスに関し、重要な拠り所となる明確な指針を立てておく。経営ガバナンスの基本方針には、ガバナンスの組織構造、取締役等主要ポストの人選についての考え方、レポートライン(社内の業務上の意思決定ないし報告の系統ないし手続)の基本的な在り方、親会社との役割分担、各ポストの役割(責任・権限)、モニタリングの基本的な仕組み・方法などを盛り込む。なお、KDDIでは、DMXの事件を受け、海外企業買収の前提として①CFOにはKDDI出向者が就任することを基本とし、仮にCFOのポストを確保することができない特別の事情がある場合には、CFOの上位者として位置付けられるCEOまたはCOO ポストを確保するとともに、CFOの配下となるマネージャークラスにKDDI出向者を充てる、②CFOを、可能な限り、グローバル事業本部からではなく、経営管理本部の財務経理に精通する人材を派遣するとの取り組みを開始済みである。
・親会社には、子会社の内部統制システムの構築および運用を監督・監視する責任があることから、グループ全体に適用されるリスクマネジメントの具体的な在り方ないし方法論を決定し、導入を図る。この点、KDDIにおいては、本件の発覚を1つの契機とし、2015年4月以降、グローバル事業本部 グローバル経営管理部内に、海外子会社のガバナンス、不正対策およびIT関係業務を担当するグループを立ち上げ、事業部門であるグローバル事業本部が、海外子会社のリスクマネジメントや不正対策に関する業務も管掌する体制に変更済み。
・デュー・ディリジェンスで指摘された事項のフォローと買収に関与した者が継続して対象会社の管理に携わる。
・買収交渉の過程で、買収後の経営ガバナンスにとって決定的に重要な、取締役、執行役員等の重要ポストの人選(親会社からの派遣役職員による枢要ポストの確保等)、権限の明確化、レポートラインの在り方等に関し、現経営陣との間で、可能な限り、明確な取決めを行い、買収後において関係当事者間で認識の食い違いが起こらないよう、共有しておく。
・子会社管理を担当する部署に財務・会計面ないしリスク管理の知識・経験を有する人材を配置する。
・子会社へ派遣した役職員に対する支援、コミュニケーションの充実・実質化
・グローバル内部通報制度の充実・活性化
・海外人材の育成・強化、補強(弁護士・公認家計士など海外M&Aに精通する外部専門家の採用、登用を含む)
・KDDIにおいて実際に経験した海外M&Aや海外子会社管理で得られたノウハウや教訓などを文書化・マニュアル化して社内に蓄積し、今後の関連業務の標準化や業務引継ぎ等に用いたり、社内教育に活用したりする。
<この失敗から学ぶべきこと>

 KDDIでは、国内における携帯電話普及率上昇に伴う国内事業の頭打ちへの懸念から、積極的に海外企業への投資を行うことになりました。そこで白羽の矢が立ったのが、シンガポールのメインボードに上場していたDMX社でした。DMX社の買収は、KDDIにとって「初の大型海外M&A案件」(KDDIの外部調査委員会の調査報告書)でした。

 初の大型海外M&A案件であれば、通常は次のように慎重に事を進めるところです。
・資本参加を段階的にする(例えば、当初は総議決権数の10%の出資とし、しばらくして20%に引き上げ持分法の対象とし、連結子会社としての管理体制が整うのを待ってから、50%超の出資として連結子会社化する。その間はモニタリングを継続し、情報を集め、追加出資のたびにその是非を判断する等)
・経営陣の人物調査を行う。
まして、本件にはチャイナリスクも存在していました。しかし、KDDIでは一回の出資で一気に子会社化を行う一方で、経営陣の人物調査も行っていませんでした。これは、KDDI側は次の2つの理由からDMXの経営状態に「過度の安心感」を持ってしまっていたからです。
①DMXがシンガポールの証券市場に上場している会社であること
②DMXの財務諸表に対してデロイトが適正意見を表明していること

 M&Aの際に、対象会社が上場会社であっても、過度の安心は禁物と言えます。

 また、KDDIはDMXとの間で買収後のポストの割り振りや決裁権限規程の変更についての確定合意をしないまま、買収を進めてしまいました。海外企業を買収した場合の買収後の統合(PMI)においては、日本企業同士のような「あうん」の呼吸は通用しません。統合後の方向性やガバナンスのあり方について十分に策を練って、文書で合意しておく必要があります。

PMI : PMIとはPost Merger Integrationの頭文字であり、直訳すると「合併後の統合」となる。合併後の組織の融合やシナジーの発揮についての策を言う。PMIは、法人格が一つになる合併だけでなく、法人格が一つにならずに被買収企業の株式を取得するだけの買収の際にも用いられる。

 KDDI側としては、議決権の過半数を取得している以上、“資本の論理”に基づき親会社の主張を押し通すこともできたのですが、DMXの子会社が営むSI事業は個人の営業力に依存するところが大きい業態であるため、KDDI側の主張を押し通してしまうとDMXのCEOやCEO以外の人材が退職してしまいかねない点をおそれて、DMX側の要望を飲まざるを得ない事態になりました。業種や業界によっては、特定の人材に業績や成果が大きく依存しかねないので、PMIに際して資本の論理だけで押し通せない難しさがあると言えます。

 もっとも、KDDIからDMXに常勤の取締役として派遣された役職員は、DMXがKDDI側へ報告するデータを鵜呑みにしており、「データの原資料等に直接当たることまでは行っていなかった」(上述の調査報告書)とのことです。海外子会社の取締役に派遣された役職員には、情報不足を嘆くだけでなく、自ら行動し情報を取りに行く姿勢が求められていると言えます。

2015/09/18 ROEを伸ばすタックス・マネジメントはどこまでやるべき?

 投資家にとっての「収益率」と言えるROE(株主資本利益率)の向上を求める声が高まる中、“目標ROE”を公表する企業も出て来ている。「当期純利益/自己資本」により計算されるROEを向上させるには、分子の当期純利益を増やすか分母の自己資本を減らすしかない。もっとも、営業努力により当期純利益を増やすのは簡単ではない。そこで、財務戦略により分母の自己資本を減らそうと考える企業は少なくないが(ROIC参照)、実は分子の当期純利益も、営業利益の増加なしに増やすことが可能。ROEの分子となる当期純利益とは「税引後」の金額であるため、税金を減らせばROEを向上させることができるのである。

営業利益 : 売上総利益(※)から販売費及び一般管理費を控除して算出される。※ 売上総利益=営業利益売上高-売上原価

 したがって、“ROE経営”の時代においては、タックス・マネジメントの重要性が増すことになるだろう。海外に目を向けると、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/18 ROEを伸ばすタックス・マネジメントはどこまでやるべき?(会員限定)

 投資家にとっての「収益率」と言えるROE(株主資本利益率)の向上を求める声が高まる中、“目標ROE”を公表する企業も出て来ている。「当期純利益/自己資本」により計算されるROEを向上させるには、分子の当期純利益を増やすか分母の自己資本を減らすしかない。もっとも、営業努力により当期純利益を増やすのは簡単ではない。そこで、財務戦略により分母の自己資本を減らそうと考える企業は少なくないが(ROIC参照)、実は分子の当期純利益も、営業利益の増加なしに増やすことが可能。ROEの分子となる当期純利益とは「税引後」の金額であるため、税金を減らせばROEを向上させることができるのである。

営業利益 : 売上総利益(※)から販売費及び一般管理費を控除して算出される。※ 売上総利益=営業利益売上高-売上原価

 したがって、“ROE経営”の時代においては、タックス・マネジメントの重要性が増すことになるだろう。海外に目を向けると、節税策を駆使した著名な多国籍企業の実効税率が1ケタということも珍しくない。

実効税率 :法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。■

 ただ、日本企業では、「タックス・マネジメントをどこまでやるべきか」に悩む経営陣は少なくない。ある大手商社のCFOは、「日本の上場企業には『納めるべきものは納める』という意識があり、欧米企業のような過度の節税をしようというマインドはない」と話す。

 実際、多国籍企業の節税策が問題視されているように(アグレッシブ・タックスプランニング参照)、過度なタックス・プランニングは常に「コンプライアンス」の問題と隣り合わせであり、もし税務当局から「租税回避行為」との認定を受けることになれば、企業イメージにも傷が付きかねない。

 最近は税務当局も「税務コンプライアンス」という言葉を頻繁に使うようになっており、税務調査で問題のなかった企業に対する税務調査の頻度を減らすというインセンティブを企業に与えることで、税務コンプライアンスを促す方針を打ち出している。

 とはいえ、ROEを向上させる“合法的な節税”は株主に対する義務と言える。いくら営業利益を増大させても、払わなくても済む税金を払うことでROEが毀損すれば株主は納得しないだろう。

 「節税」と「租税回避」のボーダーラインは曖昧なことが少なくない。経営陣には、コンプライアンスを確保しながら税負担を抑えていくという高度なタックス・マネジメントが求められることになる。

2015/09/17 (新用語・難解用語)1株1議決権の原則

 株主は株主総会において、保有する株式1株について1個の議決権を有するという株式会社制度の根幹となるルールのこと(会社法308条)。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/17 (新用語・難解用語)1株1議決権の原則(会員限定)

 株主は株主総会において、保有する株式1株について1個の議決権を有するという株式会社制度の根幹となるルールのこと(会社法308条)。

 事実上元本が保証されるトヨタ自動車のAA株式()発行を巡っては、議決権行使助言会社最大手のISSが反対を推奨したほか、カルパースなど海外機関投資家も反対を表明、市場関係者の注目を集めた。その際、海外機関投資家が反対を主張する根拠となったのがこの「1株1議決権の原則」だ。海外機関投資家は、1株1議決権の原則が貫徹されているということは、良好なガバナンスの柱である「株主平等の原則」が議決権行使の場面で確保されているということであると考えるため、これに反するものには基本的に反対するスタンスをとっている。

株主平等の原則 : 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならないとする原則(会社法109条1項)。

 中長期保有を志向する株主を開拓するため、5年間は株式を譲渡できないようにするとともに、5年目となる平成31年度まで、0.5%ずつ配当率が高まる仕組みの種類株式である。5年間を過ぎれば、購入価格と同額で会社に買い取ってもらうことが可能。1年目(2016年3月期)の配当率は0.5%だが、5年目の2020年3月期には年2.5%と非常に高くなる(以降は年2.5%で固定)。米アップル社の円建て5年債の利回りが0.35%であることからしても、トヨタのAA株式の配当率は非常に高いと言える。なお、「AA」という呼び方は、トヨタ自動社が1936年に発売したトヨタ初の量産乗用車である「AA型」からとっている。創業当時同様の「新たな挑戦」との思いが込められているという。

 海外機関投資家がAA株式に反対した理由を整理すれば以下のとおりである。
(1)株主は、投資の価値がゼロになるリスクにさらされている代わりに、議決権が付与され、投資先企業の重要な意思決定に対して意思表示することができる。
(2)つまり、議決権とは、株式投資家が、投資先企業の取締役会と協働して、永続的に健全かつ繁栄し続ける会社を創り出すための基本的な手段である。
(3)しかしながら、元本保証株式は債券に類似する証券であり、それらに議決権を付与することは1株1議決権の原則をゆがめ、投資家間で潜在的な利益相反を生み出す。

 また、海外機関投資家が1株1議決権の原則を強く主張するのには歴史的・文化的な背景もある。欧州では極めて多様な種類株が発行されているため、機関投資家にとって、1株1議決権の原則を貫徹させることは「株主権獲得」に向けた極めて重要な取組みであった。

 しかしながら、1株1議決権の原則をどこまで貫徹させるべきかについては、海外においても必ずしも結論が出ているとは言えない。海外の実証研究でも種類株が企業価値を破壊するとの結論は得られておらず、欧州委員会の調査(Report on the Proportionality Principle in the European Union 2007)などでも、「1株1議決権の原則を貫徹させるという考えには慎重であるべき」とされている。つまり、海外機関投資家の主張は、海外においてもそれが「正しい」という社会的なコンセンサスが得られているとは言えないのである。

 日本では、資本と負債の構成を効率化させるための工夫として、様々な種類株のスキームが考案されてくる可能性が高く、また投資家によってはそれを期待している。ただし、スキームの実行にあたっては、常にそのスキームが一般の投資家や機関投資家など少数株主(経営権を握っていない株主。一般の投資家や機関投資家は少数株主に該当する)の権利を考えた場合に適正かどうかを、真剣に考える必要がある。そして、少数株主の権利が守られていることを確認したうえで、しっかりと理論武装し、そのスキームについての株主への説明責任を果たすことが重要となろう。

 ちなみに会社法でも、1株1議決権の原則の例外として、「単元未満株式」「基準日後に発行された株式」「議決権制限種類株式」「取締役・監査役の選任に関する種類株式」など形式的に当然のものと、「相互保有の株式」「自己株式」「特別利害関係を有する株主が有する株式」など少数株主の権利を守るために設けられているものがある。このような例外事例を見ても、「1株1議決権の原則」を考える際には、「実質的に少数株主の株主権が確保できているか」という視点が重要であると言えよう。

特別利害関係を有する株主 : 特定の株主から自己株式を取得することを諮る議案の採決に際して、当該特定株主は、利害関係を有する(価格が高ければ高いほど当該特定株主は“得”になるが、会社は“損”を蒙る)ので、議決権を行使することはできない。

2015/09/16 消費者契約法改正で広告への規制強化の恐れ

 売上額の「3%」の課徴金を課す課徴金制度を設けた改正景品表示法(景表法)が来春にも施行されることを受け、多くの企業が“広告コンプライアンス”に力を入れている(2015年8月4日のニュース「元資料の間違いが原因でも「不当表示」に?」参照)。こうした中、広告に関する新たな規制が導入される可能性が出て来ているので要注意だ。

 消費者庁は現在、消費者契約法の見直しに向けた検討を進めているが、その中で、事実上、広告の表現に対する規制を強化する案が浮上している。消費者契約法とは、情報力や交渉力といった点で企業より弱い立場にある消費者を保護するための法律で、事業者が消費者に対し契約の締結を勧誘する際に、例えば契約の勧誘の際に嘘を言ったり(不実告知)、都合の悪いことを知っていながら隠すと(不利益事実の不告知)いった行為があった場合、消費者は消費者契約法に基づき、事業者との契約を取り消すことができる。

 現在消費者庁で検討されているのは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから