2015/09/16 消費者契約法改正で広告への規制強化の恐れ(会員限定)

 売上額の「3%」の課徴金を課す課徴金制度を設けた改正景品表示法(景表法)が来春にも施行されることを受け、多くの企業が“広告コンプライアンス”に力を入れている(2015年8月4日のニュース「元資料の間違いが原因でも「不当表示」に?」参照)。こうした中、広告に関する新たな規制が導入される可能性が出て来ているので要注意だ。

 消費者庁は現在、消費者契約法の見直しに向けた検討を進めているが、その中で、事実上、広告の表現に対する規制を強化する案が浮上している。消費者契約法とは、情報力や交渉力といった点で企業より弱い立場にある消費者を保護するための法律で、事業者が消費者に対し契約の締結を勧誘する際に、例えば嘘を言ったり(不実告知)、都合の悪いことを知っていながら隠したり(不利益事実の不告知)といった行為があった場合、消費者は消費者契約法に基づき、事業者との契約を取り消すことができる。

 現在消費者庁で検討されている案は、消費者契約法上の「勧誘」の範囲を広げようというもの。従来、消費者契約法上の「勧誘」とは、「特定の相手方」に対して契約締結に向け働きかけることを指すと考えられてきた。この考え方によれば、「広告」は勧誘には当たらず、消費者契約法の規制は受けないことになる。

 ところが、近年、広告の記載内容と実際の商品・サービスの違いに基づくトラブルが多いことから、消費者庁が法改正に向け先月8月に示した「中間とりまとめ」では、「勧誘」の範囲を広げ、「特定の取引を“誘引する目的”をもってする行為」も対象にしようという考えが示された。もし「誘引する目的をもってする行為」が「勧誘」に含まれることになれば、これまで広告と考えてきたものの中で消費者契約法の規制対象になるものが出て来る恐れがある(消費者庁は、すべての広告が規制対象になるわけではないとしている)。

 冒頭でも述べたとおり、企業は今後課徴金制度もスタートする景表法違反を回避するため、同法が規制する有利誤認表示優良誤認表示に該当しないよう気を遣っているはずだが、実は景表法の規制対象と消費者契約法の勧誘規制の対象が完全に重なっているわけではない。例えば、消費者契約法では「不利益事実の不告知」を規制しているが、これは消費者と面と向かって契約する場面を対象にするものであり、景表法が対象とする広く一般的にアピールするために行う広告は想定していない。広告でわざわざ不利益な事実を相手方に対して告げるということは通常はしないからだ。

有利誤認表示 : 商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝したりする行為

優良誤認表示 : 商品・サービスの品質を実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝したりする行為

 広告を「勧誘」に含める消費者契約法の改正が実現すれば、企業は広告の表現に現在より慎重にならざるを得ないだろう。当然、本案に対しては経済界も強く反対している。消費者庁は今後、中間とりまとめに対するヒアリングを行い、さらに検討を進める予定。本案の他にも企業側と消費者側の意見が対立している論点もあるだけに、実際にどのような改正が行われることになるかは予断を許さない状況だ。当フォーラムでは、今後の議論の行方について続報していきたい。

2015/09/15 日本と欧米における「取締役会の実効性評価」の違い

 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③では「取締役会全体の実効性評価」(以下、取締役会評価)を求めているが、このコードをコンプライすることに苦慮している企業が少なくないようだ。

4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 もっとも、取締役会評価は欧米においては一般的に見られるプラクティスである。もともと取締役会評価は1990年代に欧米主要国で実施され始め、2001年のエンロン事件や2008年の金融危機を経て、その導入が推奨・促進されてきた。絶大な権限を握った経営者が業績拡大や株価上昇(ひいては報酬増大)に邁進するあまり、リスクを度外視した野放図な新規投資やM&Aに走ったり、会計不正などの企業不祥事に手を染めたりするような事態を、取締役会の監督機能が形骸化していないか否かその実効性を毎年見直すことで防ごうというのが、欧米における取締役会評価に期待されている役割と言える。

 ただ、欧米流の取締役会評価がそのまま日本に馴染むかというと、そうではない。そもそも、日本企業が取締役会評価をする前に、「コーポレートガバナンス体制」が実効性の評価に耐え得るほど整備されているのかという疑問がある。多くの日本企業では、取締役会のメンバーの大部分が社内昇格者であり、そこでは専ら業務執行の個別案件が議論されている。このような典型的な日本企業の取締役会について「その執行を適切に監督できているか否か」を評価すると言っても、その前に「監督すらしていない」という“評価以前”の結果になりかねないのが実態だろう。こうした中で、欧米における取締役会評価のプラクティスを日本にそのまま導入したところで、適切に機能するとは到底思えない。

 上述のとおり、欧米では「経営者の暴走」を防ぐために取締役会評価が実施されてきた。言い換えれば、欧米企業における取締役会評価は、「攻めのマネジメント」を前提とした「守りのガバナンス」の実効性を高めるために存在している。これに対し、日本企業には経営者を成長路線に駆り立てる「攻めのガバナンス」が求められているのは周知のとおりである。つまり、日本と欧米では状況が根底から異なっているわけだ。

 したがって、日本企業は今後、日本企業特有の「攻めのガバナンス」に対応した取締役会評価のプラクティスを構築していくことになるものと予想される。具体的にみると、まず・・・

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2015/09/15 日本と欧米における「取締役会の実効性評価」の違い(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11③では「取締役会全体の実効性評価」(以下、取締役会評価)を求めているが、このコードをコンプライすることに苦慮している企業が少なくないようだ。

4-11③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 もっとも、取締役会評価は欧米においては一般的に見られるプラクティスである。もともと取締役会評価は1990年代に欧米主要国で実施され始め、2001年のエンロン事件や2008年の金融危機を経て、その導入が推奨・促進されてきた。絶大な権限を握った経営者が業績拡大や株価上昇(ひいては報酬増大)に邁進するあまり、リスクを度外視した野放図な新規投資やM&Aに走ったり、会計不正などの企業不祥事に手を染めたりするような事態を、取締役会の監督機能が形骸化していないか否かその実効性を毎年見直すことで防ごうというのが、欧米における取締役会評価に期待されている役割と言える。

 ただ、欧米流の取締役会評価がそのまま日本に馴染むかというと、そうではない。そもそも、日本企業が取締役会評価をする前に、「コーポレートガバナンス体制」が実効性の評価に耐え得るほど整備されているのかという疑問がある。多くの日本企業では、取締役会のメンバーの大部分が社内昇格者であり、そこでは専ら業務執行の個別案件が議論されている。このような典型的な日本企業の取締役会について「その執行を適切に監督できているか否か」を評価すると言っても、その前に「監督すらしていない」という“評価以前”の結果になりかねないのが実態だろう。こうした中で、欧米における取締役会評価のプラクティスを日本にそのまま導入したところで、適切に機能するとは到底思えない。

 上述のとおり、欧米では「経営者の暴走」を防ぐために取締役会評価が実施されてきた。言い換えれば、欧米企業における取締役会評価は、「攻めのマネジメント」を前提とした「守りのガバナンス」の実効性を高めるために存在している。これに対し、日本企業には経営者を成長路線に駆り立てる「攻めのガバナンス」が求められているのは周知のとおりである。つまり、日本と欧米では状況が根底から異なっているわけだ。

 したがって、日本企業は今後、日本企業特有の「攻めのガバナンス」に対応した取締役会評価のプラクティスを構築していくことになるものと予想される。具体的にみると、まず取締役会評価の手法を検討する前に行わなければならないのが、コーポレートガバナンス・コードの原則3-1が求める「コーポレートガバナンスの基本方針」の策定だろう。基本方針の策定は時価総額の大きい企業を中心に進んでいるが、他の企業も、コーポレートガバナンス・コード全体を踏まえたうえで自社が目指すべき「攻めのガバナンス」像(株主利益の重視、監督と執行の分離、独立社外取締役の活用…etc.)を明確にした基本方針を策定する必要がある。そして、取締役会評価は、「自社のガバナンスの基本方針に沿って取締役会が活動できているかどうか」という観点から行うことになろう。取締役会評価の結果、場合によっては、ガバナンスの基本原則の方を見直す必要も出て来るだろう。こうしてブラッシュアップされたガバナンスの基本原則に基づき、次回の取締役会評価を実施する。ガバナンスの基本原則はコーポレートガバナンス・コード導入初年度における開示をクリアしたら忘れ去られるのではなく、むしろ同基本原則を “軸”とした取締役会評価のPDCAサイクルを確立していくべきだろう。

PDCA : Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の4つを繰り返すことにより業務を継続的に改善すること。

2015/09/14 親会社に追従しない姿勢に高評価、投資家FがCG報告書対応で意見集約

 日本版スチュワードシップ・コードや伊藤レポートでその設置が推奨されたことを受けて今夏(2015年)に立ち上がった投資家フォーラムが、これまでに開催した2回の会合の報告書をまとめ、先週金曜日(2015年9月11日)に公表した(投資家フォーラム 第1・2回会合報告書および別冊資料 投資家フォーラム第1・2回会合)。報告書では、コーポレートガバナンス・コードへの企業の対応について、各社の事例を引用しつつ投資家の意見がまとめられている。今後、同コードに対応したコーポレートガバナンス報告書の開示を控える企業にとっては参考になる情報が満載なので、一読しておきたいところだ。

 これまで開示されたコーポレートガバナンス報告書を見ると、・・・

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2015/09/14 親会社に追従しない姿勢に高評価、投資家FがCG報告書対応で意見集約(会員限定)

 日本版スチュワードシップ・コードや伊藤レポートでその設置が推奨されたことを受けて今夏(2015年)に立ち上がった投資家フォーラムが、これまでに開催した2回の会合の報告書をまとめ、先週金曜日(2015年9月11日)に公表した(投資家フォーラム 第1・2回会合報告書および別冊資料 投資家フォーラム第1・2回会合)。報告書では、コーポレートガバナンス・コードへの企業の対応について、各社の事例を引用しつつ投資家の意見がまとめられている。今後、同コードに対応したコーポレートガバナンス報告書の開示を控える企業にとっては参考になる情報が満載なので、一読しておきたいところだ。

 これまで開示されたコーポレートガバナンス報告書を見ると、コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示項目に“参照リンク”を貼っているものが多いが、投資家からは「コーポレートガバナンス報告書に記載するリンクへ容易にアクセスできない場合」や「リンク先の情報がコーポレートガバナンス・コードに対応する内容ではなく、単に適時開示の通知である場合」があり、該当する情報の記載箇所を探すのにエネルギーと時間を要することに批判的な声が上がっている。これに対し、リンク先の「コーポレートガバナンス・コードに関する当社の取り組み」に同コード73原則全てについて記載がある大東建託や、リンク先が「オムロン コーポレート・ガバナンス ポリシー」1つだけとなっているオムロンの開示例は「読みやすい」との評価を受けている。自社の開示方法を検討する際にこれらの企業の開示例を参考にしてもよいだろう。

 気になる「コンプライorエクスプレイン」への評価については、「総合的に判断」など実質的には何も言っていないにもかかわらず「コンプライする」としているケースに批判が集まっており、投資家からは「疑う余地なくコンプライである場合以外は、正面から エクスプレインすべき」「投資家が求めているのはコンプライ項目の数ではなく、対話のきっかけや材料となる企業の考え方の開示だ」などの声が上がっている(2015年7月14日のニュース「コンプライorエクスプレイン、投資家の評価が高いのは?」参照)。また、グループ内での対応が異なる事例が評価を受けている点も注目される。報告書では、三菱UFJフィナンシャル・グループが全項目をコンプライする一方、グループ会社の三菱UFJリースが11項目についてエクスプレインしている例を挙げ、「グループ内でも安易に追従しない姿勢は信頼に値し評価できる」としている。

 機関投資家が重視する独立社外取締役に関しては、資生堂が独立社外取締役が50%以上いるにもかかわらず、原則4-8の3分の1以上の独立社外取締役の選任に関する方針についてはまだ結論を出していないことを理由に「コンプライ」としなかったことが高い評価を受けている。

 投資家フォーラムの第1・2回会合でもっとも活発な議論が行われたのが、政策保有株式の問題だ。ここでも、政策保有に関する方針について「総合的判断で」というだけでは開示内容として不十分との指摘がなされている。投資家からは、
・政策保有先については具体的な取引金額などを知りたい。
・政策保有の経済合理性等についての取締役会による検証結果も開示してほしい。
・純投資ではないので、株価リターンを合理性の根拠にすることは不適切だ。
といった要望が上がっている。また、「場合によっては売る、あるいは長期的に政策保有株式を減らしていく」と明記している会社は相対的にみて評価できるとの意見もあった。これら投資家の声は、政策保有株式に関する開示内容を検討する際に考慮に入れたいところだ。

 報告書の内容は今後コーポレートガバナンス報告書を開示する企業にとって非常に参考になるものだが、報告書では各社の「独自性」も重視されている点には留意したい。なかには「他社と瓜二つ」の例も見受けられたという。そこまで極端ではなくても、英語での開示については「海外投資家比率が20%以上になったら英語で開示する」という同じ表現の会社が複数あった例を挙げ、「同じ文言が大量生産されるのは好ましくない」と指摘している。他社事例を参考にする場合には、それらを咀嚼し自社に合った内容にカスタマイズしたうえで開示を行うことを心掛けたいところだ。

2015/09/11 派遣労働法改正で注目される人材派遣費の勘定科目

 人材不足を埋めるために派遣会社を利用する企業は少なくない。企業が派遣会社との間で人数および単価にさえ合意できれば、即戦力を必要な人数分だけ迅速に派遣してもらうことが可能であり、これにより人材の“穴”をすぐに埋めることができるからだ。また、解雇が極めて困難な正社員の雇用契約と異なり、業務量の増減に応じて派遣してもらう人数を柔軟に変更できるのも、企業にとって派遣会社を利用する魅力の一つ。正社員の減少を派遣社員で補えば、人件費が固定費から変動費となり、固定費の減少を通じて損益分岐点売上高を低下させることができる。

固定費 : 正社員の固定給や減価償却費のように、売上高に対して固定的に発生する費用。

変動費 : 材料費や運賃のように、売上高に対して変動的に発生する費用。

損益分岐点売上高 : 売上高とコスト(変動費+固定費)が等しくなる売上高。固定費が少ないほど、損益分岐点売上高は低い水準になる(儲けが出やすい)。

 ところが、現行の派遣労働法は企業から“使い勝手”が悪いとの評価を受けてきた。

 現行派遣労働法では、・・・

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2015/09/11 派遣労働法改正で注目される人材派遣費の勘定科目(会員限定)

 人材不足を埋めるために派遣会社を利用する企業は少なくない。企業が派遣会社との間で人数および単価にさえ合意できれば、即戦力を必要な人数分だけ迅速に派遣してもらうことが可能であり、これにより人材の“穴”をすぐに埋めることができるからだ。また、解雇が極めて困難な正社員の雇用契約と異なり、業務量の増減に応じて派遣してもらう人数を柔軟に変更できるのも、企業にとって派遣会社を利用する魅力の一つ。正社員の減少を派遣社員で補えば、人件費が固定費から変動費となり、固定費の減少を通じて損益分岐点売上高を低下させることができる。

固定費 : 正社員の固定給や減価償却費のように、売上高に対して固定的に発生する費用。

変動費 : 材料費や運賃のように、売上高に対して変動的に発生する費用。

損益分岐点売上高 : 売上高とコスト(変動費+固定費)が等しくなる売上高。固定費が少ないほど、損益分岐点売上高は低い水準になる(儲けが出やすい)。

 ところが、現行の派遣労働法は企業から“使い勝手”が悪いとの評価を受けてきた。

 現行派遣労働法では、ソフトウェア開発・事務用機器操作・通訳・秘書・研究開発など専門性が高い26種類の業務(以下、26業務)に該当するかどうかで、派遣受入期間の制限の有無や直接雇用義務が発生する要件が異なる。26業務以外の業務(以下、一般業務)では原則1年(最長3年)という派遣受入期間の制限が設けられており、企業がこの制限を超えて派遣社員を使用する場合には、派遣社員に対し、派遣元の労働条件と同じ条件で「直接雇用」を申し込む義務が生じる(この制限期間内に派遣社員を置き換えても、制限期間はリセットされない)。一方、26業務についてはこのような派遣受入期間の制限はない(ただし、3年を超えて同じ業務に就く派遣社員がいる状況で新たに労働者を雇い入れようとすると、やはりその派遣社員に派遣元の労働条件と同じ条件で「直接雇用」を申し込む義務が生じる)。

最長3年 : 派遣先の労働組合(従業員の過半数を代表する“過半数労組”でなければならない)または従業員代表(“過半数労組”がない場合)の意見聴取があることを条件として、原則1年の派遣受入期間を3年にまで延長することができる。

 そこで、企業にとっては「26業務」に該当するかどうかが重要になるわけだが、会社業務を単純に切り分けることはできないため、そもそも26業務に該当するかどうかがの判断が難しい。その結果、そもそも当該派遣社員に派遣受入期間があるのかどうか、あるとすればどれくらいの期間が残されているのか、直接雇用義務の有無などの判断も付きにくいという問題が生じる。

 26業務の中には、「事務用機器操作」のように専門性が高いとは言い難い業務も含まれている。例えばこの「事務用機器操作」の業務で派遣された派遣社員に、事務用機器を操作して作成した書類を梱包し発送する業務を頼んだ場合、厳密には「一般業務」をさせたことになり、当該派遣社員は“意図せずして”派遣受入期間の制限の対象(=3年で交代させなければ直接雇用義務が生じる)になってしまう恐れがある。こうした中、企業側からは多くの批判とともに、派遣労働法の改正を望む声が高まっていた。

 このような派遣労働の“欠点”は、管理会計上の問題も引き起こすことになる。上述した「直接雇用」の申し込みを派遣社員が受諾した場合、派遣会社の利用によりせっかく変動費化した人件費が、3年経過後に固定費となってしまう。この問題は、企業から、3年を超えて一般業務に就く派遣社員を利用するインセンティブを奪っていたと言える。

 また、平成27年10月1日に、派遣先が違法派遣(期間制限を超えて派遣社員の役務の提供を受けるなど)と知りながら派遣社員を受け入れている場合、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣社員に対して労働契約の申込み(「直接雇用」の申込み)をしたとみなされてしまう「労働契約申し込みみなし制度」がスタートする。訴訟リスクの高まりを恐れる企業側から、この「労働契約申し込みみなし制度」がスタートする前に派遣労働法を改正することを求める声が上がっていた。

 派遣労働法の改正案では、26業務に該当するかどうかで規制内容を変える方法を廃止し、「派遣社員個人」と「派遣先」に分けて、派遣受入期間を設定する(派遣労働法改正に関する厚生労働省のサイトを参照)。まず派遣社員個人についてみると、改正後も派遣会社に「有期」で雇用されている派遣社員については「上限3年」という派遣受入期間の制限は残るものの、新たに「課」が同一かどうかでこの期間を判断するという基準が導入される。要するに、別の「課」に異動させれば、3年を超えて同一の人物の派遣を受け続けることが可能になるということだ。現行法と異なり、「派遣社員個人」単位で制限期間を判断する点が改正のポイントである。

 派遣先についても「原則3年」という派遣受入期間の制限は残るものの、従業員の過半数を代表する「過半数労働組合」または従業員代表(過半数労働組合がない場合)の意見聴取があれば何度でもこの期間を延長することができるようになる。

 なお、派遣会社に「無期雇用」されている派遣社員は、期間制限の対象外とされる(すなわち、期間制限なく派遣を受け入れることが可能)。

 派遣労働法の改正法案は9月9日の参議院本会議で可決され、本日(9月11日)の衆議院本会議で再可決され成立となった。施行日は平成27年9月30日であり、上述した「労働契約申込みみなし制度」がスタートする10月1日より前となる。企業からの批判が強かった「労働契約申込みみなし制度」の開始前に改正法を施行できる格好になる。

 企業にとって派遣労働法の使い勝手が改善されたことで、今後は派遣社員の活用が増えることが見込まれる。派遣社員の活用にあたり経理担当取締役が注意しておきたいのが、派遣先である企業が派遣元である人材派遣会社に支払う派遣労働の対価の会計処理だ。参議院の厚生労働委員会では、民主党議員から、派遣料を「物件費」で処理している企業が多いことが問題視された。「物件費」という勘定科目は、派遣社員をモノ扱いしていることの表れではないかというわけだ。参議院での指摘を受け、厚生労働大臣は9月7日、日本経済団体連合会、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会に対して、「労働者派遣に対する対価の会計処理及び表示に関する要請書 」を出し、労働者派遣に対する対価の会計処理や表示においては、例えば「人材派遣費」等の適切な名称を使用することを、各団体の参加企業へ周知するよう求める事態となった。大臣が経済団体に対して会計上の勘定科目の名称について要請するのは極めて異例だ。

 もっとも、当フォーラムが上場企業の有価証券報告書を対象にEDINETで「物件費」という用語を検索してみたところ、派遣料を「物件費」として会計処理をしていることが明らかな上場企業は見当たらなかった。だからと言って、本件が非上場企業だけの問題であると結論付けるのは早計であろう。会計処理(仕訳)は「物件費」の勘定科目を用いつつも、損益計算書の表示上は「人件費」や「その他」など別の科目に組み替えている上場企業があるかもしれないからだ。

 もちろん、派遣料を「給料」「給料手当」「従業員給料」などの「正社員に支払う給与を扱う勘定科目」で会計処理をする必要はない。給与と派遣料では消費税処理に違いがある(正社員に支払う給与は消費税上課税仕入れにならないが、派遣料は課税仕入れになるため、勘定科目と消費税処理を連動させている場合には、むしろ給与と派遣料の勘定科目は変える必要がある)だけでなく、勘定科目を分けることでそれぞれの金額を容易に把握できるという管理会計上のメリットもあるからだ。

 派遣料をどういった勘定科目で処理するかは、「派遣社員をどのようにビジネスに活用していくか」ということに対する経営者の考え方にも左右されるだろう。しかし、仮に派遣料を「物件費」のような勘定科目を用いて会計処理していた場合、国会で社名が取りざたされたり、経理部の派遣社員などを通じて自社における派遣料の勘定科目名が世の中に知れ渡ったりすることによるレピュテーション・リスクが高まることは間違いない。経理担当取締役は、念のため、自社や子会社の会計処理を確認しておきたいところだ。

2015/09/10 (新用語・難解用語)知る前契約・知る前計画

 例えば「合併」といった“重要事実” が会社から公表された前後に当該会社の株式を売買した場合、インサイダー取引規制を疑われかねないが、こうした重要事実を知る前に既にその会社の株式を売買することが決まっていたということも少なくない。例えばA社に影響力を持ちたいB社が、A社株式を保有するC社からA社株式を一定時期に購入する契約を締結する、従業員持株会が購入計画に基づいて株式を購入するーーといったケースだ。

 重要事実を知る前に締結された契約は「知る前契約」、重要事実を知る前に決定された計画は「知る前計画」と呼ばれる。知る前契約や知る前計画に基づく株式の売買は「重要事実を知ったこと」とは無関係に行われるもの。このため、・・・

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2015/09/10 (新用語・難解用語)知る前契約・知る前計画(会員限定)

 例えば「合併」といった“重要事実” が会社から公表された前後に当該会社の株式を売買した場合、インサイダー取引規制を疑われかねないが、こうした重要事実を知る前に既にその会社の株式を売買することが決まっていたということも少なくない。例えばA社に影響力を持ちたいB社が、A社株式を保有するC社からA社株式を一定時期に購入する契約を締結する、従業員持株会が購入計画に基づいて株式を購入するーーといったケースだ。

 重要事実を知る前に締結された契約は「知る前契約」、重要事実を知る前に決定された計画は「知る前計画」と呼ばれる。知る前契約や知る前計画に基づく株式の売買は「重要事実を知ったこと」とは無関係に行われるもの。このため、「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」の59条1項に列挙された13類型(例えば「契約書面に定められた売買期限の10日前から当該期限までの間において当該売買等を行う場合」など)に該当するという条件付きで、インサイダー取引規制の適用から除外されることになっている。逆に言うと、列挙された13類型に該当しない売買は、インサイダー取引規制の対象になるということである。

 こうしたなか企業の間では、重要事実を知る前に売買当事者間で契約を締結するなどにより恣意的な売買が行われないのであれば、そもそも知る前契約等が成立する場面を上記13類型に限定する必要はないのではないかとの指摘が聞かれたところ。知る前契約等に基づく売買としてインサイダー取引規制の適用除外とされる範囲を、重要事実を知る前に売買当事者間で締結された売買契約等の履行として恣意性なく実行された売買一般に広げるべきとの声も上がっていた。

 産業界の要望を受け、今月(平成27年9月)2日に「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」が公布され(同16日から施行)、13類型に該当しない取引であっても、一定の要件(下表参照)を満たす場合には、インサイダー取引規制の対象外とすることとされた。改正の最大のポイントは、「知る前契約」「知る前計画」に関するインサイダー取引規制について、これまでのように13類型に“限定”するのではなく、“包括的”に適用除外とする規定が創設された点だ。適用除外規定の適用を受けるための要件は下表のとおりだ。

 当フォーラムの取材では、下表の(1)における「知る前計画」を決定する場合とは、必ずしも「取締役会」における決定に限定されるものではないことが明らかとなっている。基本的に当該法人における権限分掌規程等に基づき決定していれば足りる。

権限分掌規程 : 各部門や役職などの仕事内容や権限・責任の範囲を定義し、明文化したもの。

 また、下表の(2)②の内容は、金融庁が公表していた公開草案から変更されているので注意したい。具体的には、「当該契約又は計画に確定日付が付されたこと」との適用除外要件を満たせるのは、「証券会社が当該契約を締結した者又は当該計画を決定した者である場合」に限るとの限定が付くことになった。また、下表(2)③の要件も公開草案から変更されたもの。公開草案では「公表の措置に準じ公開された」という書きぶりになっていたが、「公衆の縦覧に供されたこと」に限定されることになった。したがって、報道機関に対する公開措置や自社のホームページに公開する措置は「知る前契約」「知る前計画」の公表措置としては認められないことになるので要注意だ。

 このほか、下表の(3)の「売買等の総額又は数」については、「期日」単位(1日単位)で特定され又は裁量の余地がない方式により決定されている必要がある。したがって、例えば「数」の上限又は下限を定めるだけではこの要件を満たせないことになる。

重要事実に係る規制の包括的適用除外の要件
(1)業務等に関する重要事実を知る前に締結された特定有価証券等に係る売買等に関する書面による契約の履行又は業務等に関する重要事実を知る前に決定された特定有価証券等に係る売買等の書面による計画の実行として売買等を行うこと。
(2)業務等に関する重要事実を知る前に、次に掲げるいずれかの措置が講じられたこと。
①当該契約又は計画の写しが、金融商品取引業者に対して提出され、当該提出の日付について当該金融商品取引業者による確認を受けたこと(当該金融商品取引業者が当該契約を締結した相手方又は当該計画を共同して決定した者である場合を除く。)。
②当該契約又は計画に確定日付が付されたこと(金融商品取引業者が当該契約を締結した者又は当該計画を決定した者である場合に限る。)。
③当該契約又は計画が法第百六十六条第四項に定める公表の措置に準じ公衆の縦覧に供されたこと。
(3)当該契約の履行又は当該計画の実行として行う売買等につき、売買等の別、銘柄及び期日並びに当該期日における売買等の総額又は数が、当該契約若しくは計画において特定されていること、又は当該契約若しくは計画においてあらかじめ定められた裁量の余地がない方式により決定されること。

2015/09/09 “山脈型”グループ経営のメリット

 昨日(2015年9月8日)、英損害保険大手アムリンを6420億円で買収すると発表した三井住友海上火災保険は「MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス」という持株会社の傘下にあるが、この持株会社はあいおいニッセイ同和損害保険株式会社という三井住友海上火災保険と同業種の大規模な損害保険会社も有している。銀行、証券、信託、カード会社など「機能別」に子会社を抱えるメガバンク系の金融グループなどとは異なるグループ形態と言える。

 一般論として、グループ内に同じ機能を持つ企業がある場合、「一つにして効率化やコストカットを図ってはどうか」という発想になりがちだが、それが正しいとは限らない。実際、・・・

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