2015/09/04 役員報酬制度改革の副作用(会員限定)

 欧米企業に比べて低いと言われる日本の役員報酬だが、実は基本報酬だけ見るとそれほど差があるわけではない。役員報酬を(1)基本報酬、(2)業績連動賞与、(3)長期インセンティブ(株式報酬など)の3つに分けると、欧米と大きな格差があるのは業績連動賞与と長期インセンティブであり、特に長期インセンティブにおける差は圧倒的に大きい。

 こうした中、投資家からは役員報酬における長期インセンティブ等の割合を増やすよう求める声があることから(2015年8月21日のニュース「創業経営者がトップにいる企業の強さの理由」参照)、役員報酬制度改革を検討している企業は少なくないことだろう。ただ、長期インセンティブ等の割合が大きくなった場合には、また別の問題が発生する可能性もありそうだ。

 特に日本企業の経営者の報酬体系が「株価」との連動性がより高いものへと変わっていった場合、報酬の絶対額は大きく増える可能性がある。日本がスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードを導入する際に手本とした“ガバナンス先進国”の英国では、2013年10月から役員と従業員の報酬格差を公表するルールを導入したが、それでも2014年度におけるFTSE100の構成銘柄の経営トップの報酬と従業員の平均給与の格差(経営トップの報酬÷従業員の平均給与)が150倍近くにものぼっている。自分の給与とはかけ離れた高額の報酬を経営陣が手にしているという事実は、従業員のモチベーションを低下させ、企業を弱体化させかねないため、報酬格差問題に対する株主の関心は高い。英国の大手銀行HSBCの株主総会では、30%を超える株主が役員報酬決議に反対するという事態も起きている。

FTSE100 : ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄による時価総額加重平均型の株価指数。

 均質性を求めがちな日本社会では、高額な役員報酬は個人投資家や世間の関心を集めることになろう。役員報酬制度改革にあたっては、中長期的な企業業績への連動と、金額の妥当性という2つの視点を持つ必要がありそうだ。

2015/09/03 (新用語・難解用語)ISO20400

 株主、顧客、取引先、従業員、消費者、地域社会など、自社の様々な利害関係者(ステークホルダー)と良好な関係を築きながら、企業が社会とともに発展していく活動であるCSR(企業の社会的責任)とは何か、企業はそれにどのように取り組むべきかといった点についての “国際規格”として、国際標準化機構(ISO)は2010年に「ISO26000」を発行(※発効ではない)したが(ISO26000に基づいて自社のCSRを構築している企業もある。例えば大和ハウス)、CSRのうち企業が「調達」を行う段階に焦点を当てたのが、現在ISOにおいて策定作業が進められているISO20400である。

ISO26000 : 社会的責任を「自らの決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して説明責任を負うという組織の意欲を示すもの」と定義したうえで、自らが社会、経済、環境に対して与える影響についての説明責任、自らの決定、行動についての透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重など、「組織が尊重すべき基本的な原則」を掲げるとともに、組織全体に社会的責任を統合させるための具体的な手段を記載している。

 近年、CSR活動に力を入れる企業の多くが・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/03 (新用語・難解用語)ISO20400(会員限定)

 株主、顧客、取引先、従業員、消費者、地域社会など、自社の様々な利害関係者(ステークホルダー)と良好な関係を築きながら、企業が社会とともに発展していく活動であるCSR(企業の社会的責任)とは何か、企業はそれにどのように取り組むべきかといった点についての “国際規格”として、国際標準化機構(ISO)は2010年に「ISO26000」を発行(※発効ではない)したが(ISO26000に基づいて自社のCSRを構築している企業もある。例えば大和ハウス)、CSRのうち企業が「調達」を行う段階に焦点を当てたのが、現在ISOにおいて策定作業が進められているISO20400である。

ISO26000 : 社会的責任を「自らの決定及び活動が社会及び環境に及ぼす影響に対して説明責任を負うという組織の意欲を示すもの」と定義したうえで、自らが社会、経済、環境に対して与える影響についての説明責任、自らの決定、行動についての透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重など、「組織が尊重すべき基本的な原則」を掲げるとともに、組織全体に社会的責任を統合させるための具体的な手段を記載している。

 近年、CSR活動に力を入れる企業の多くが自社の取引先(調達先)にCSR推進企業を選ぶようになりつつある。例えば、自社が環境保全を推進する方針を打ち出しておきながら、環境汚染物質を排出する企業から原材料を調達していれば、環境汚染の片棒を担いでいることにもなりかねないからだ。

 ISO20400では、「なぜ持続的な調達を行う必要があるのか」「取引先に影響力を行使するための方策」「PDCAサイクルの回し方」などについての考え方が示される見込み。既にCSRの一環として「調達方針」を策定し、調達に関するリスクの発生回避に努めている企業も多くあるが、今後、ISO20400が発行した場合には、この分野における基本的な指針となるだろう。ISO20400は早ければ2017年春に発行される見通しとなっている。2020年の東京オリンピック関連の調達においても、ISO20400を考慮する必要が生じる可能性がある。

PDCAサイクル : Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の4つを繰り返すことにより業務を継続的に改善すること。

 なお、上述したCSRに関するISO26000は「認証規格」ではないが、ISO20400 もISO26000と同様に認証規格とはならず、あくまで各企業が参考にすべき国際規格として位置付られる。この点、認証機関による認証によって初めて当該基準を充たしていることを示すことができるISO9001(品質に関する規格)やISO14001(環境マネジメントに関する規格)とは異なる。

2015/09/02 経営戦略としてのダイバーシティ

 先月(2015年8月)28日、女性活躍推進法(正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が成立した。これにより、来年4月1日から企業に対して、採用者や管理職に占める女性の割合などの数値目標を盛り込んだ「一般事業主行動計画」の策定や公表が求められる(従業員300人以下の企業は努力義務)ことになる(具体的にどの項目を公表するのかは、こちらの省令案の5ページ目を参照)。

 この法律の存在もあり、日本企業にとって「ダイバーシティ」というと、まずは女性の採用や管理職への登用増加が頭に浮かぶところだが、欧米におけるダイバーシティはより広い概念であり、そこには障害者、LGBT、ホームレス、長期失業者などが含まれる。例えば英国の大手不動産会社ランド・セキュリティーズは、ホームレスや長期失業者に対してビル管理や建設作業等の研修プログラムを提供し、自社や同業他社への就職をサポートしている。日本企業であっても海外展開に力を入れているところは、海外子会社のダイバーシティを“欧米基準”で考える必要があろう。

ダイバーシティ : 直訳すると「多様性」という意味だが、ビジネスの場では、多様な人材を積極的に活用し、これを競争優位の源泉にしようという考え方を指す。

LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。

 実際、それを実践している海外子会社もある。例えば、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/02 経営戦略としてのダイバーシティ(会員限定)

 先月(2015年8月)28日、女性活躍推進法(正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」)が成立した。これにより、来年4月1日から企業に対して、採用者や管理職に占める女性の割合などの数値目標を盛り込んだ「一般事業主行動計画」の策定や公表が求められる(従業員300人以下の企業は努力義務)ことになる(具体的にどの項目を公表するのかは、こちらの省令案の5ページ目を参照)。

 この法律の存在もあり、日本企業にとって「ダイバーシティ」というと、まずは女性の採用や管理職への登用増加が頭に浮かぶところだが、欧米におけるダイバーシティはより広い概念であり、そこには障害者、LGBT、ホームレス、長期失業者などが含まれる。例えば英国の大手不動産会社ランド・セキュリティーズは、ホームレスや長期失業者に対してビル管理や建設作業等の研修プログラムを提供し、自社や同業他社への就職をサポートしている。日本企業であっても海外展開に力を入れているところは、海外子会社のダイバーシティを“欧米基準”で考える必要があろう。

ダイバーシティ : 直訳すると「多様性」という意味だが、ビジネスの場では、多様な人材を積極的に活用し、これを競争優位の源泉にしようという考え方を指す。

LGBT : レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を総称する造語。

 実際、それを実践している海外子会社もある。例えば、富士通の英国子会社である富士通サービスは、同社が採用のターゲットとするエンジニアリングやテクノロジー、コンピュータサイエンスの新卒学生の8割を男性が占める中で女性の採用比率が約4割と女性の採用に積極的に取り組んでいる以外にも、LGBTにとって働きやすい職場環境作りを推進している。具体的には、LGBTをサポートする社内組織を作り、経営陣も参加のうえ、定期的に会合の場を設けている。

 多くの企業でダイバーシティが進まない最大の原因はマイノリティに対する偏見があるが、この悩みは日本企業のみならず、ダイバーシティが進んでいる欧米企業にもある。富士通サービスでは全従業員を対象にダイバーシティに関する研修プログラムを実施しており、従業員の理解が同社のダイバーシティの推進力になっていると言えるだろう。

マイノリティ : 社会的少数者

 日本ではダイバーシティをある種の“義務”、あるいはCSR(企業の社会的責任)の1つとしてとらえる向きが少なくないが、従業員が多様化するということは、当該企業が様々な顧客ニーズを把握するナレッジを持つということであり、実際、異なるバックグラウンドを持つ人材から、あるいはこうした人材同士の議論から新たな商品やサービスの発想が生まれることは少なくないはずだ。女性をターゲットにした商品を販売している企業の取締役が男性ばかりというのでは、投資先としても魅力を欠くことになりかねない。経営陣は、ダイバーシティは「経営戦略」の1つであるとの認識を持つべきだろう。

2015/09/01 「不招請勧誘」規制の導入は見送りに

 顧客の開拓に「訪問販売」や「電話勧誘」を活用している企業にとって非常に影響の大きい特定商取引法(特商法)の改正による「不招請勧誘(アポなしでの個別訪問や事前承諾のない電話勧誘など)」への規制導入が見送られることになった。

 政府(内閣府・消費者委員会の特定商取引法専門調査会)は、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売などへの規制を強化するため、特定商取引法(特商法)の見直しを検討しているが(2015年6月19日のニュース「特商法改正で、訪問販売、テレアポ、ターゲティング広告などが不可に?」参照)、その中で最大の論点となっていたのが、不招請勧誘に対する規制の導入だ。現行の特商法では、例えば「いりません」などと契約を締結しない旨の意思表示した者に対する勧誘(再勧誘)は禁止されているが(特商法第3条の2)、それでもトラブルが尽きないことから、「現行規定では不十分」との声が消費者サイドから聞かれていた。

 そこで、不招請勧誘そのものを規制してはどうかとの意見が浮上したわけだが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2015/09/01 「不招請勧誘」規制の導入は見送りに(会員限定)

 顧客の開拓に「訪問販売」や「電話勧誘」を活用している企業にとって非常に影響の大きい特定商取引法(特商法)の改正による「不招請勧誘(アポなしでの個別訪問や事前承諾のない電話勧誘など)」への規制導入が見送られることになった。

 政府(内閣府・消費者委員会の特定商取引法専門調査会)は、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売などへの規制を強化するため、特定商取引法(特商法)の見直しを検討しているが(2015年6月19日のニュース「特商法改正で、訪問販売、テレアポ、ターゲティング広告などが不可に?」参照)、その中で最大の論点となっていたのが、不招請勧誘に対する規制の導入だ。現行の特商法では、例えば「いりません」などと契約を締結しない旨の意思表示した者に対する勧誘(再勧誘)は禁止されているが(特商法第3条の2)、それでもトラブルが尽きないことから、「現行規定では不十分」との声が消費者サイドから聞かれていた。

 そこで、不招請勧誘そのものを規制してはどうかとの意見が浮上したわけだが、政府が先週金曜日(2015年8月28日)取りまとめた「中間整理」では、この論点について「さらなる検討を行う」と記載するにとどまり(15ページ参照)、事実上、導入が見送られた。企業の営業行為に与える影響が甚大であることなどから、立法により対処することについて委員の間でのコンセンサスが得られなかった格好。訪問販売や電話勧誘を行っている企業にとっては一安心と言えるだろう。

 議論の過程では、訪問販売におけるトラブル防止のため、玄関に訪問販売の「お断りステッカー」を貼ることや、行政機関等に訪問販売を拒絶する意思を登録をしておく「レジストリ制」の導入も検討されたが、その実効性や費用対効果について疑問が出され、こちらも見送られることになった。

 その一方で、今回の検討によって特商法の規制対象が拡大されているので留意したい。特商法が規制対象にするのは「商品」「役務」「権利」の取引だが、このうち「権利」の取引については、従来は例えば「スポーツ施設の利用権」「語学の指導を受ける権利」といった特定の権利(政令で指定)のみを対象としてきた。ただ、近年は例えば「CO2の排出権」といった政令で指定されていない権利の取引が増加するとともにトラブルも報告されている。こうした中、規制の“後追い”を避けるため、今回の見直しにより「政令指定制」を見直し、権利の取引全般を規制の対象とすることになった。特商法の改正後は、基本的にはすべての権利の取引が対象となると理解しておく必要があろう。

2015/08/31 2015年8月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11②では、社外取締役の兼任社数は「合理的な範囲にとどめるべき」とされており、その数は「2社」というのが関係者のコンセンサスとなっています。そのため、兼任社数が2社を超える社外取締役候補者の選任議案に対して、機関投資家は否定的な判断を下す可能性があります(以上より、問題文の記述は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2015/08/31 機関投資家が渋い顔をした社外取締役候補の例(会員限定)

2015/08/31 2015年8月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
 コーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11②では、社外取締役の兼任社数は「合理的な範囲にとどめるべき」とされており、その数は「2社」というのが関係者のコンセンサスとなっています。そのため、兼任社数が2社を超える社外取締役候補者の選任議案に対して、機関投資家は否定的な判断を下す可能性があります(以上より、問題文の記述は正しいです)。

こちらの記事で再確認!
2015/08/31 機関投資家が渋い顔をした社外取締役候補の例(会員限定)

2015/08/31 2015年8月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
 現行法人税法における業績連動型の役員報酬の損金算入要件は非常に厳しく、複数年の利益をベースに算定する役員報酬を損金に算入することができません。そこで経済産業省は、平成28年度税制改正要望の中で、業績連動型の役員報酬の損金算入要件の緩和を提案しています(以上より問題文の記述は正しいです)。経済産業省の税制改正要望が実現するのか、注目されます。

こちらの記事で再確認!
2015/08/28 役員報酬、「ガバナンス」が損金算入条件になる可能性(会員限定)