<解説>
不正会計発覚時は段階的に開示
上場会社は、投資家の期待に応えるために、業績予想の達成に向けてまい進しなければなりません。業績予想の達成が困難になればなるほど、決算の粉飾への誘惑が強まることになります。しかし、粉飾は投資家の投資判断を誤らせるとともに、投資家の信頼を裏切る行為です。そこで経営陣としては、粉飾を発生させないよう、決算の信頼性を確保するための内部統制を構築しなければなりません。
それでも粉飾が発覚した場合、上場会社としては、すでに公表済みの過去の決算を改める必要があります。決算内容を開示する書類として、証券取引所のルールに基づく決算短信や四半期決算短信、金融商品取引法に基づく有価証券報告書や四半期報告書がある以上、決算の訂正とはこれらの書類の訂正を意味します。そして、これらの書類の訂正を行うに際して、決算短信や四半期決算短信であれば証券取引所、有価証券報告書や四半期報告書であれば財務(支)局への事前相談が欠かせません。
また、上場会社は、決算の訂正に先立ち、証券取引所のルールに基づき、粉飾が発覚したことを開示しなければいけません。もっとも、粉飾の概要すら不明瞭な段階では開示しようがないのも事実です。そこで粉飾の事実が発覚した時点ですぐに証券取引所に相談を行い、調査の進展に応じて、段階的に開示(例えば、「粉飾が行われていた事実(可能性)の公表=内部調査委員会または第三者委員会の設置」→「第三者委員会の調査報告書の受領と決算短信などの財務報告の訂正」→「対応策の実施状況」など)を行います(調査が長引く場合は、途中で経過報告をすることも考えられます)。
なお、上場会社は、粉飾が発覚した場合、過年度の決算の訂正を実施するまでは、公募増資を実施できません。なぜなら、過年度の誤った決算を投資家に示して公募増資を実施してしまうと、有価証券届出書(*)に虚偽記載があったとして金融庁より課徴金(募集総額の4.5%)を課されたり、虚偽記載を知らずに株式を取得した者へ損害賠償をしたりしなければならなくなるからです。また、粉飾を隠して公募増資に至る一連の行為に対して刑事責任(金融商品取引法158条の偽計公募増資の罪)を問われる可能性もあります。
* 上場会社が1億円以上の公募増資を行う場合、財務(支)局に有価証券届出書を提出する必要がある。
架空売上の取り消しだけでは済まない粉飾の後始末
粉飾の手法は大別すると「売上の過大計上」と「費用の過少計上」に分けられます。このうち「売上の過大計上」のためによく用いられるのが、「架空売上」や「循環取引」です。
上場会社の従業員が「架空売上」や「循環取引」といった不正を行う動機の大半は、自身(あるいは自部署)の売上目標の達成です。不正を行わなければ自身(あるいは自部署)の売上目標を達成できない状況で不正に手を染めた以上、「架空売上」や「循環取引」といった“お化粧”を落とせば、“素顔”の売上や利益は予算を達成できない低いレベルの金額になってしまうのは当然のことです。その結果、 “お化粧”された利益をもとに計算・判断していた次に掲げる項目を、“素顔”の売上や利益をもとにして新たに計算・判断し直す必要が生じます。
・(過去の)減損判定
・(過去の)配当や自己株式取得時の分配可能額の再計算
・(今期の)業績予想の練り直し
・事業計画の練り直しと(過去の)繰延税金資産の回収可能性の再検討
・(過去の)財務制限条項への抵触の有無の再判定
・(過去の)連結範囲の妥当性の再検討
また、不正調査のために要した費用、有価証券報告書等の虚偽記載に関して科せられる課徴金、証券取引所が徴求する可能性がある上場契約違約金、訴訟対応費用などの余計なコストも負担しなければなりません。
以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
D取締役:「分配可能額の算定や減損の判定をやり直すとどういう結論になるのか、気になるところです。」
(コメント:粉飾決算が発覚した場合、過去の決算を訂正し粉飾により膨らんだ売上(およびその売上原価)を「なかったことにする」(過去の誤謬の訂正)のに、つい目が行ってしまいます。それはそれで必要ですが、粉飾決算を訂正した結果として何が起こるのか(過去の誤謬を訂正したことによる影響)に目を配ることも重要です。
例えば、分配可能額(配当の上限)は利益をベースに計算するところ、粉飾決算の誤謬の訂正により利益が少なくなるため、それに応じて分配可能額も少なくなってしまいます。「分配可能額すれすれで配当をしている場合」や「分配可能額を大きく下回る額で配当をしていたものの過去の誤謬の訂正額が多額に上った場合」には、粉飾決算の誤謬の訂正による分配可能額の再計算の結果、配当額が分配可能額を超えていた(違法配当)ことになりかねません。
また、X事業の関係者が架空取引に手を染めざるを得なかったということは、裏返せば「X事業の本当の業績は芳しくない可能性が高い」ことを意味しています。減損の兆候の判定に際して、X事業の属する資産グループの資産について、架空取引で粉飾された利益をベースに「減損の兆候なし」と判断していたとしても、訂正後の利益(損失)をベースにすると「減損の兆候あり」になるかもしれません。その場合、将来の事業計画の変更により減損損失の計上が必要になる可能性もあります。
本発言は、粉飾発覚時という初期の段階であるにもかかわらず、決算の訂正により分配可能額の再計算や減損の判定のやり直しといった「過去の誤謬を訂正したことによる影響」にも言及できている点でGOOD発言です。)
B取締役:「いますぐにX事業で架空売上が計上されていたことを投資家に開示すべきです。その結果、証券取引所への相談は投資家への開示後になってしまいますが、やむを得ません。」
(コメント:本発言は、投資家への迅速な情報開示を心がけたものである点で、一見GOOD発言にも見えます。しかし、粉飾が発覚してから1日しか経っておらず、不正関与者への本格的なヒアリングや証拠資料の収集はこれからです。不正調査を担当する総務担当取締役が取締役会での質疑応答に苦慮したことからわかるように、現段階では開示に耐えられるほどの情報が集まっていません(情報収集の必要性)。また、開示に先立ち、今後の対応方針(社内調査委員会の調査に留めるか、並行して第三者委員会の調査も行うのかといった調査方針、どの時点で何を開示するかといった開示のタイミングなど)を証券取引所へ相談する必要があります(証券取引所への事前相談の必要性)。そして、投資家の不安を鎮めるためには、過去の財務諸表が粉飾されていた事実(可能性)を開示するのと同時に、社内調査委員会や第三者委員会を発足したことの開示を行う案が考えられます。もちろん第三者委員会の発足の開示より前に「不適切な会計が行われていた可能性がある。社内調査委員会を発足した。詳細はこれから調査する。」といった限定的な開示を行うことも考えられますが、いずれにしろ証券取引所への事前相談を経ずに行うべきではありません。B取締役の発言は証券取引所への事前相談を軽視している点でBAD発言です。)
C取締役:「もし、不確かな情報が原因で株価が不当に下落してしまうと、公募増資で調達できる金額が予定額を下回ってしまいます。」
(コメント:架空売上に関する調査の結果、架空売上を計上する手口や範囲、不正の総額が明らかになるのは、これから2~3か月後と予想されます。調査結果を受けて、初めて過去の財務諸表の訂正が可能になります。それまでは、解説にあるように公募増資を実施できません。C取締役の発言は、公募増資を予定どおり来月に実行することを前提としている点で BAD発言です。)
C取締役:「まずは社内調査委員会に3か月ほどかけてじっくりと調査してもらい、売上や利益の訂正内容につき監査法人によるチェックを経てから、初めて投資家に概要を開示すべきと考えます。」
(コメント:C取締役の発言どおりに開示するとなると、投資家が粉飾の事実を知るのは3か月後になってしまいます。これでは“適時”(タイムリーな)開示とは言えないので BAD発言です。)