2015/08/20 (新用語・難解用語)ESGインテグレーション投資(会員限定)

 投資にあたってESGを考慮する「ESG投資」は、2006年の国連によるPRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則)策定以降、欧州を中心に急速にメインストリーム(主流)化が進んでいる。2013年に行われた日本総合研究所による調査によると、2012年時点で、全世界の機関投資家が運用する運用資産の21.8%においてESG要因が考慮されているという。

PRI(Principles for Responsible Investment=責任投資原則) : 機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するもの。これに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

 日本ではSRI(Socially Responsible Investment=社会的責任投資)ファンドが個人向けのテーマ型投信などから始まったため、年金基金などはESG投資に対して漠然と“負のイメージ”を持っていることが少なくない(テーマ型ファンドの寿命は短く、比較的リスクが高いため)。しかし、実はESG投資は長期的な企業価値向上やリスク低減といった考え方との親和性が高く、英国ではスチュワードシップ責任の一貫としても捉えられていることを考えても、日本でも今後ますますその重要性が増す可能性は高い。

テーマ型投信 : 例えば環境、IT、クラウド、エネルギーなど、特定のテーマに関連した企業などに投資するファンドのこと。

 一口にESG投資と言っても様々な手法があり、主なものとしては、「ネガティブスクリーニング」「ベスト・イン・クラス」「規範に基づくスクリーニング 」「エンゲージメント」「テーマ投資」「インテグレーション」などが挙げられる。このうち最も多いのは「ネガティブ・スクリーニング」と呼ばれる「(ESGの観点から見て)何らかの問題がある企業」への投資を避ける手法だが、最近急速にウェイトを上げてきているのはESGインテグレーション投資である。

ベスト・イン・クラス : 業界内でESGへの評価が高い企業を選別して投資する方法。

規範に基づくスクリーニング : 人権・労働・環境・腐敗防止などに関する国際行動規範(1999年のダボス会議でアナン国連事務総長(当時)が提唱した「国連グローバル・コンパクト」など)の最低限の基準を満たしていない企業を投資対象から除外する手法。ネガティブ・スクリーニングと類似した投資手法と言える。

エンゲージメント : ESG問題の改善を促すために、企業に直接働きかける手法。

テーマ投資 : 環境技術、農業技術などの環境関連や、コミュニティ投資、貧困者向けの小口金融(マイクロファイナンス)などの社会関連の銘柄に投資する手法。

 インテグレーション投資では、ESG要因が企業の収益獲得機会やリスク面にどのように関係しているのかを分析し、その結果を株価の長期予想や投資判断に織り込んで(インテグレートして)いく。ただ、これには広範な関連情報が必要なうえ、社会経済の変化によって分析内容も常に変化するため、テーマ投資やネガティブ・スクリーニング、ベスト・イン・クラスといった手法に比べても高度な知識が求められる。したがって、ESG要因を投資プロセスにインテグレートするには、ESGの専門家、アナリスト、ファンドマネジャーの共同作業が欠かせない。特に企業を分析・評価する役割を担うアナリストには、ESGに関する現状認識やESGの専門家による評価方法の理解、企業のサスティナビリティ(持続可能性)の評価への反映方法の理解、などが必要となる。欧州の年金基金では、(1)ESGに関する新たな投資機会の抽出とストラテジックなポートフォリオの作成、(2)ESGに関するリスク管理手法の開発、(3)リスク・リターン特性への影響など、様々な検討が行われている。

 企業において重要になるのは、統合報告書やCSR報告書によるESGに関する情報の開示だ。日本企業におけるCSR報告書の作成割合は世界的に見ても高く、近年はアニュアルレポートや統合報告書によりESG情報を開示する企業も増加している。その一方で、投資家から見ると、ESGへの取組みと事業戦略の結びつきが明確でないことが課題とされている。「ESG情報を開示すること」自体に主眼を置くのではなく、企業価値向上というストーリーの中でESG情報を説明することが重要になる。CSR情報の開示では、自社にとって何がマテリアリティなのかということの理解が第一歩となる。そのためには、ESG専門家との対話により、最新の注目点について情報収集しておきたいところだ。

マテリアリティ : CSR用語。国際的なサステナビリティ・レポーティング(持続可能性報告)のガイドラインを作成している非営利団体「GRI(Global Reporting Initiative)」が当該ガイドラインの中で企業に対し、CSR報告書では自社及びステークホルダーの双方が重要と考えるテーマをマテリアリティ(重要性)として特定し、報告するように求めている。

2015/08/19 “必須特許”の差止請求訴訟、条件付きで独禁法違反に

 スマートフォン、タブレット端末のデザインに関する知的財産権(意匠権)を巡りアップルがサムスン電子に対して世界各国で提起した知的財産訴訟はいまだに続いている。その一方で、この訴訟をきっかけに今度はサムスン電子がアップルに対して特許権侵害を主張し、自社技術の使用差し止めを求めて複数の知的財産訴訟を提起していたが、こちらの訴訟のうちのいくつかについては既に判決が下されている。ただ、その中身は、「(アップルによる)特許侵害自体は認めつつも、(サムスンが主張する)特許の使用の差し止めは認めない」という一見すると分かりにくいものとなっている。これは、サムスン電子がアップルに侵害されたとされる特許が「必須特許」という特殊な特許だったことに原因がある。・・・

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2015/08/19 “必須特許”の差止請求訴訟、条件付きで独禁法違反に(会員限定)

 スマートフォン、タブレット端末のデザインに関する知的財産権(意匠権)を巡りアップルがサムスン電子に対して世界各国で提起した知的財産訴訟はいまだに続いている。その一方で、この訴訟をきっかけに今度はサムスン電子がアップルに対して特許権侵害を主張し、自社技術の使用差し止めを求めて複数の知的財産訴訟を提起していたが、こちらの訴訟のうちのいくつかについては既に判決が下されている。ただ、その中身は、「(アップルによる)特許侵害自体は認めつつも、(サムスンが主張する)特許の使用の差し止めは認めない」という一見すると分かりにくいものとなっている。これは、サムスン電子がアップルに侵害されたとされる特許が「必須特許」という特殊な特許だったことに原因がある。

 メーカーは他社製品との互換性を確保するなどのため(例えば、どこのメーカーのビデオデッキを使ってもDVDが再生できるようにする)、規格を標準化する必要がある。特に情報通信分野においては、ハードウェア、ソフトウェア、通信、電気等の各分野においてそれぞれ「標準化団体」があり(例えば日本工業標準調査会)、当該団体によって標準規格が制定されている。この標準化された規格を実現するための技術に関する特許は、製品を作るために必須となる。この特許が「必須特許」である。

 このような標準規格は市場の発展に必要であり、いわば各メーカーの“共存共栄”に必要な仕組みと言えるが、その一方で、各必須特許の技術そのものは、誰かが(どこかの企業が)開発したものであるという点は、通常の特許と変わらない。当然、特許権に基づく各種権利も開発者にある。近年、この必須特許の権利者(上記例ではサムスン)が当該必須特許を利用する者(アップル)に対して、特許権の使用の差止を請求する訴訟を提起するケースが国内外で発生している。

 確かに、必須特許も「特許権」の1つである以上、「排他的独占権」があり、特許権者が特許の侵害者に対して差止請求を行なうこと自体は、正当な行為である。ただ、上述のとおり必須特許は標準規格を満たす製品を作成するために“必ず”使わなければならない特許であるため、その使用が差し止められた場合の影響は非常に大きい。

 こうした事態を避けるために行われるのが「FRAND宣言」だ。FRAND宣言とは、ある者(企業)が開発した技術を標準化団体が標準化する際に、当該開発者(=必須特許の保有者。上記例でいうサムスン)に「公正,妥当かつ無差別(fair, reasonable and non-discriminatory)」な条件で必須特許をその利用者(上記例でいうアップル)にライセンスをする意思を、標準化団体に対して文書で明らかにすることをいう。

 ただ、それでもサムスンとアップルの訴訟は発生したわけであり、我が国でも差止請求権の制限の是非、あり方が議論となってきた。こうした中、公正取引委員会はこのほど、「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」のうち「必須特許」の差止請求権の行使に関する規定の改正に動いている(改正案はこちらを参照)。この問題を公正取引委員会が扱うのは、知的財産権はその権利者に対し一定期間権利の排他的な独占を認めるものであり、独占禁止法の適用の例外であるため。知的財産法と独占禁止法は常に相対する“緊張関係”にあると言える。

知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針 : 公正取引委員会が、知的財産の利用に関する独占禁止法上の考え方を明らかにしたもの。

 今回の見直しのポイントは、「FRAND宣言をした必須特許の保有者が、FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者に対し、ライセンスを拒絶したり、差止請求訴訟を提起したりすることは、一般に広く普及している規格を採用した製品の研究開発・生産・販売を困難とするものである」とし、「独占禁止法に違反し得る」との考え方を示した点にある。改正案では、「FRAND条件でライセンスを受ける意思を有する者か否かは、個別事案にごとに厳格に認定される」としているものの、必須特許を所有する者の権利を制限する方向性を示したという点で、かなり踏み込んだ内容と言えるだろう。今回の改正により、日本ではサムスン電子がアップルに対して提起したような訴訟は起こりにくくなる可能性がある。

 ただ、今回の改正に対する産業界の思いは複雑なものがありそうだ。というのも、当然ながら産業界には「必須特許権者」と「必須特許の利用者」が存在し、両社のスタンスは完全に対立しているからだ。

 「必須特許権者」側としては、そもそもFRAND宣言は特許権の放棄ではないことに加え、新興国等には条件交渉のテーブルにもつこうとしない悪質な特許侵害者も存在する中、差止請求権はこうした者に対する抑止力としても特許権者の重要な権利であると主張する。

 一方、「必須特許の利用者」側は、差止請求権を背景に、「必須特許権者」から想定された額を超えるライセンス料の支払を要求されることや、米国でいわゆるパテント・トロールにより高額のライセンス料の支払いを求められることを懸念している。

パテント・トロール : 自社の特許権を侵害している疑いのある者から巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者のこと。トロールは「怪物」といった意味を持つ。

 この問題は本年2月に知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会の下に設置された「知財紛争処理タスクフォース」でも検討項目となり、集中的に議論されたが、5月末にまとめられた「知財紛争処理タスクフォース報告書」の中でも明確な方向性が出せなかったという経緯がある。米韓などにおける対応が先行する中、長年検討を重ねながらも結論が出せなかった論点について公取委がいち早く方向性を打ち出すことは、国際的な潮流を踏まえれば評価されるものと言えるが、産業界からは「関係者の理解を得る努力に欠けている」と指摘する声も上がっている。

2015/08/18 D&O保険、難しい「過失の程度」の判断

 コーポレートガバナンス・コードで2名以上の独立社外取締役選任が求められたことで、D&O保険への加入が急増している。株主代表訴訟等の対象となるリスクがある社外取締役を引き受けてもらうためには、もはや「責任限定契約」と「D&O保険」は“必須アイテム”となっている(2015年4月22日のニュース「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要か」参照)。

 D&O保険への加入にあたっては複数の損害保険会社の商品を比較・検討することになると思われるが、その際、特にチェックしておきたいのが・・・

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2015/08/18 D&O保険、難しい「過失の程度」の判断(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードで2名以上の独立社外取締役選任が求められたことで、D&O保険への加入が急増している。株主代表訴訟等の対象となるリスクがある社外取締役を引き受けてもらうためには、もはや「責任限定契約」と「D&O保険」は“必須アイテム”となっている(2015年4月22日のニュース「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要か」参照)。

 D&O保険への加入にあたっては複数の損害保険会社の商品を比較・検討することになると思われるが、その際、特にチェックしておきたいのが「免責(=保険金が支払われない)」の範囲だ。

 損害保険会社の中には、保険金支払いの条件として、損害賠償請求の対象となった行為について、役員が「善意」で「重過失がない」ことを求めているところがある。ただ、「重過失」であったかどうかの判断が容易ではないケースもあろう。世の中には多くの法令・規制が存在しており、法律の専門家でない役員がそのすべてをフォローするのは困難と言える。ところが、「重過失」があったかどうかの判断は保険会社に委ねられており、保険会社の考え方次第で保険金が支払われないことがあり得る。

 一方、基本的に「過失の程度」は問わないとしている保険会社もある。過失の程度が問われなければ、その分役員にとっては保険金の支払いの可否を巡る不確定要素が減ることになる。D&O保険の選択にあたっては重要な検討要素と言えよう。

 ただし、過失の程度は問わないとしている保険会社であっても、「故意」すなわち法令等に違反することを認識しながら行った行為は免責としている。もっとも、「故意」に当たるかどうかの判断も保険会社によって異なる。例えば独占禁止法については、違反があれば「故意」とみなす保険会社もあれば、役員が独占禁止法違反となることを認識していなければ、保険金の支払い対象としているところもある。「認識していたかどうか」の判断も難しいところであり、たとえ役員が「認識していなかった」と主張したとしても、明らかな故意(例えば意図的な表示偽装)であれば、“推定故意”と判断されることもあるようだが、こうした判断も保険会社によって幅がある。

 D&O保険への加入にあたっては保険金額などに目が行きがちだが、保険会社の判断にも左右されることになる免責の範囲は、加入前に入念に確認しておく必要がある。

2015/08/18 【ディスクロージャー】投資家の投資判断に影響を与えそうな事実の発生や決定があった

 

適時開示と法定開示とIR情報、投資判断への影響がもっとも大きいのは?

上場会社の役員であれば、少なくとも「適時開示」という言葉は知っていると思いますが、この適時開示がどのような場合に求められるのかまで理解している人は多くないようです。しかし、適時開示をきちんと理解していないということは、実は非常にリスクが高いということを認識する必要があります。

適時開示とは、証券取引所が上場会社に対して、投資家の投資判断への影響が大きいと考えられる情報の開示を求めるものです。有価証券報告書をはじめ金融商品取引法などの法律によって義務付けられた情報開示(法定開示)ではなく、あくまで証券取引所の規則(有価証券上場規程)に基づく情報開示になります。法律によって義務付けられた情報開示ではないというとそれほど重要に見えないかもしれませんが、投資判断への影響という点では、有価証券報告書よりも適時開示の方が圧倒的に重要性が高いと言えます。なぜなら、適時開示は上場会社による投資判断用の情報の“最初の開示”であり、また、当該情報は誰でも閲覧できる「TDnet(Timely Disclosure network:適時開示情報伝達システム)」という東京証券取引所が運営するWebサイト上に時系列に開示されていくからです。適時開示を行う前に、当該情報を他の媒体で開示することはできません(詳細は後述)。すなわち、投資家の投資判断は適時開示によって形成されているのです。

では、IR情報と適時開示情報ではどちらが投資家の投資判断への影響が大きいでしょうか。以前、某IR支援会社の役員が「適時開示なんて、ただ決められた様式のとおり適当に作って出しておけばよい」と話しているのを聞いたことがあります(これは、「投資判断への影響が大きいのは、適時開示ではなく自社が作成を支援しているIR情報である」ということを意図した発言だと思われます)。もちろん、IR活動は適正な株価形成のために重要ですが(この点については「IR活動により適正な株価を形成したい」参照)、投資家に自社を良く見せるために工夫を凝らして作るIR情報と、証券取引所が定めたルールに従って作成しなければならず恣意性が低い適時開示情報のどちらに対し短期的・直接的に株価が反応するのかと言えば、IR情報ではなく適時開示情報の方です。万が一「適時開示は適当でいい」という考えを持っているとすれば、すぐに改めるべきでしょう。

規則に書いていないことは開示しなくてよい?

適時開示が求められる情報は、(1)決算情報、(2)決定事実、(3)発生事実の3種類に分けることができます。このうち「決定事実」と「発生事実」は・・・

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自社のWebサイトに開示しただけではインサイダーリスク消えず

上場会社の役員が適時開示情報に触れるのは、通常は・・・

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適時開示の前にマスコミに報道されてしまったら?

適時開示は、上場会社による投資判断用の情報の“最初の開示”です。言い換えれば、上場会社への投資判断上重要となる事実が最初に世の中に出るのは、適時開示によってでなければなりません。インサイダー取引を引き起こさないためにも、適時開示が行われる前に情報が流出するような事態は避ける必要があります。

ただ、自社がTDnetに情報を掲載する前(すなわち、「適時開示」が行われる前)にその情報がマスコミによって報道されてしまうということがあります。この場合、上場会社は・・・

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適時開示を怠った場合のペナルティ

適時開示を怠ると、証券取引所からペナルティを受けることになります。具体的にどのようなペナルティがあるのか見てみましょう。・・・

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適時開示を実現する内部統制の構築を

では、適時開示が適切に行われなかったことよりペナルティを受けるような事態を避けるにはどうすればよいのでしょうか。

上場会社であれば、ほぼ例外なく・・・

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チェックリスト チェックリストはこちら(会員限定)

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2015/08/18 チェックリスト:投資家の投資判断に影響を与えそうな事実の発生や決定があった(会員限定)

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■チェックリスト:投資家の投資判断に影響を与えそうな事実の発生や決定があった

チェック事項 備考 対応未了 対応済
適時開示が投資判断にもたらす影響力を認識しているか。 適時開示は上場会社による投資判断用の情報の“最初の開示”であり、法定開示やIR情報よりも短期的・直接的な株価への影響が大きい。
証券取引所の規則に列挙されていない「重要性が高い事実」の適時開示を検討しているか。 包括(バスケット)条項により適時開示の対象となる可能性。各社で開示すべきか否かを判断する必要がある。
適時開示事項について取締役会等の承認を経た後、速やかに開示を行っているか。 取締役会等の翌日では遅い。証券取引所から「遅延開示」とみなされペナルティを受ける可能性がある。そこで、発生事実や決定事実が生じてから適時開示の書類を作成するのではなく、発生事実が生じる可能性が把握された段階や決定事実が計画された段階で、適時開示の書類のドラフトを作成しておく。
自社WebサイトよりもTDnetでの開示を優先しているか。 自社のWebサイト上に情報を開示しても「適時開示」したことにはならず、インサイダー取引規制も解除されない。
情報漏えいを可能な限り防ぐため、適時開示前の情報にアクセスできる役員・社員を限定しているか。 適時開示は上場会社による重要事実の“最初の開示”であり、その対象となる情報はインサイダー取引を引き起こす恐れがある。また、適時開示前にマスコミに報道されれば、投資家から「情報管理の甘い会社」との烙印を押されかねない。
適時開示を怠ったり、開示時期が遅れてしまった場合のペナルティを理解しているか。 「口頭注意」を除き、会社名が公表される。
適時開示を適切に行うための体制を構築しているか。 情報取扱責任者を定め、情報の一元管理を行う。情報が拡散しないようインサイダー情報の登録台帳等を利用する。適時開示が必要となる情報ごとに業務記述書を作成しておく。決算情報についてはサイレント期間を設定し、ディスクロージャー・ポリシー等で告知しておく。情報取扱責任者や関係者は定期的な外部研修を受講することで、知識の更新を図る。

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2015/08/18 【ディスクロージャー】投資家の投資判断に影響を与えそうな事実の発生や決定があった(会員限定)

適時開示と法定開示とIR情報、投資判断への影響がもっとも大きいのは?

上場会社の役員であれば、少なくとも「適時開示」という言葉は知っていると思いますが、この適時開示がどのような場合に求められるのかまで理解している人は多くないようです。しかし、適時開示をきちんと理解していないということは、実は非常にリスクが高いということを認識する必要があります。

適時開示とは、証券取引所が上場会社に対して、投資家の投資判断への影響が大きいと考えられる情報の開示を求めるものです。有価証券報告書をはじめ金融商品取引法などの法律によって義務付けられた情報開示(法定開示)ではなく、あくまで証券取引所の規則(有価証券上場規程)に基づく情報開示になります。法律によって義務付けられた情報開示ではないというとそれほど重要に見えないかもしれませんが、投資判断への影響という点では、有価証券報告書よりも適時開示の方が圧倒的に重要性が高いと言えます。なぜなら、適時開示は上場会社による投資判断用の情報の“最初の開示”であり、また、当該情報は誰でも閲覧できる「TDnet(Timely Disclosure network:適時開示情報伝達システム)」という東京証券取引所が運営するWebサイト上に時系列に開示されていくからです。適時開示を行う前に、当該情報を他の媒体で開示することはできません(詳細は後述)。すなわち、投資家の投資判断は適時開示によって形成されているのです。

では、IR情報と適時開示情報ではどちらが投資家の投資判断への影響が大きいでしょうか。以前、某IR支援会社の役員が「適時開示なんて、ただ決められた様式のとおり適当に作って出しておけばよい」と話しているのを聞いたことがあります(これは、「投資判断への影響が大きいのは、適時開示ではなく自社が作成を支援しているIR情報である」ということを意図した発言だと思われます)。もちろん、IR活動は適正な株価形成のために重要ですが(この点については「IR活動により適正な株価を形成したい」参照)、投資家に自社を良く見せるために工夫を凝らして作るIR情報と、証券取引所が定めたルールに従って作成しなければならず恣意性が低い適時開示情報のどちらに対し短期的・直接的に株価が反応するのかと言えば、IR情報ではなく適時開示情報の方です。万が一「適時開示は適当でいい」という考えを持っているとすれば、すぐに改めるべきでしょう。

規則に書いていないことは開示しなくてよい?

適時開示が求められる情報は、(1)決算情報、(2)決定事実、(3)発生事実の3種類に分けることができます。このうち「決定事実」と「発生事実」はあまり耳慣れない言葉かもしれません。

決算情報とは、文字通り年度の決算情報や四半期決算情報のことであり、これらに関する適時開示が「決算短信」や「四半期決算短信」です。それ以外に、決算情報の関連情報として、「業績予想の修正」や「配当予想の修正」に関する適時開示も必要とされています。

決定事実とは「会社が決定した事実のうち、投資家の投資判断上重要であるため適時開示が必要となるもの」のことであり、例えば増資、減資、組織再編、代表取締役または代表執行役の異動などといった投資家にとって投資判断上重要となる事実を決定した場合(子会社等が決定した場合も含みます)、これらに関する適時開示が必要になります。

代表執行役 : 指名委員会等設置会社において業務執行を担う執行役の中で「代表権」を行使する者として、取締役会が選任する役職。上場会社の大部分を占める監査役会設置会社における代表取締役に相当する。

発生事実とは「会社に発生した事実のうち、投資家の投資判断上重要であるため適時開示が必要となるもの」のことであり、例えば地震や火災などの被災による損害、主要株主の異動などといった投資家にとって投資判断上重要となる事実が発生した場合(子会社等で発生した場合も含みます)、これらに関する適時開示が必要になります。

適時開示が求められる情報は、証券取引所の規則に具体的に列挙されています(適時開示が求められる情報の一覧はこちら)。ただし、証券取引所の規則に列挙されていなくても、「重要性が高い事実」については、いわゆる“包括(バスケット)条項”により適時開示が必要とされるので要注意です。

包括(バスケット)条項 : 法令などで何かを規定する際に、具体的に適用対象事項を列挙し切れない場合や、弾力的な運用の余地を残す必要がある場合に、「その他の・・・」といった形で、当該規定の適用範囲をより広くすることを目的に置かれる規定のこと。適時開示について定めた証券取引所の有価証券上場規程のほか、インサイダー取引を規制する金融商品取引法にも包括(バスケット)条項がある。

包括条項に該当する事実としては様々なものが考えられますが、よく適時開示されているのは、「規模の大きな借入れ」や「普通社債の発行」、部門の統廃合などの「組織の変更」などです。最近は、株主による株主総会での「株主提案権行使」に関する開示(株主提案の内容、自社の対応など)も見受けられます。

包括条項による開示事項については、証券取引所の規則に列挙されていないのはもちろん、開示すべきか否かの判断基準も定められていないため、開示をするかどうかは各社で判断しなければなりません。「証券取引所の規則に書いていないから適時開示は不要」というわけではない点に留意してください。

自社のWebサイトに開示しただけではインサイダーリスク消えず

適時開示は、決定事実の場合は取締役会等で決定した後、また発生事実の場合は発生した後、“速やかに”行わなければなりません。ここでいう“速やか”とは「可能な限り速く」ということであり、例えば取締役会等で決定した日の翌日に開示することなどは許されません。この場合、証券取引所から「遅延開示」とみなされペナルティを受ける可能性がありますし(ペナルティの詳細は後述)、投資家からの信頼も失うことになります。

では、何をもって「適時開示」したことになるのでしょうか。適時開示は、TDnet(Timely Disclosure network:適時開示情報伝達システム)上で行う必要があります(有価証券上場規程414条)。自社のWebサイト上に情報を開示しても、「適時開示」したことにはなりません(有価証券上場規程413条の2参照)。また、一般的には、適時開示情報はTDnet上に掲載されない限り、インサイダー取引規制が解除されないという点も肝に銘じておく必要があります。インサイダー取引規制とは、会社が重要事実を公表する前に、その重要事実を知っている者がその会社の株式の売買を行うことを規制する金融商品取引法上のルールですが、重要事実が「公表された」と言えるのは、「TDnet上に掲載する」「2以上の報道機関に公開してから12時間が経過する」などの場合に限られており(一般的には、まずTDnetに掲載します)、「自社のWebサイト」上に情報を開示したとしても、「公表された」ことにはなりません。

適時開示が求められる情報とインサイダー取引規制における重要事実はおおむね共通している()ので、重要事実を自社のWebサイトに掲載しただけでは「適時開示」したことにならないのみならず、この段階で役員や社員をはじめとするインサイダー取引規制の対象となる「会社関係者」が株式を売買した場合には、インサイダー取引に該当する可能性がある点には要注意です。

 実際にはインサイダー取引規制における重要事実より適時開示が求められる情報の方が少し広くなっています。例えば「商号変更」は重要事実には該当しないものの、適時開示は必要です。また「合併」や「株式交換」のように、インサイダー取引規制では軽微基準(軽微基準に該当すれば規制対象外)が設けられているにもかかわらず、適時開示制度では軽微基準(軽微基準に該当すれば開示不要)が設けられていないものもあります(すなわち、インサイダー取引規制上は軽微基準に該当するような「合併」や「株式交換」であっても、適時開示は必要)。
適時開示の前にマスコミに報道されてしまったら?

適時開示は、上場会社による投資判断用の情報の“最初の開示”です。言い換えれば、上場会社への投資判断上重要となる事実が最初に世の中に出るのは、適時開示によってでなければなりません。インサイダー取引を引き起こさないためにも、適時開示が行われる前に情報が流出するような事態は避ける必要があります。

ただ、自社がTDnetに情報を掲載する前(すなわち、「適時開示」が行われる前)にその情報がマスコミによって報道されてしまうということがあります。この場合、上場会社は報道によって投資家に生じている“憶測”を解消するため、速やかに情報を開示しなければなりません。上場会社による開示が速やかに行われないと、証券取引所が投資家に対して注意喚起を行うことになります。そもそも適時開示よりマスコミ報道が先行するということは、社内のどこかから情報が漏れた可能性があるということであり、投資家から「情報管理の甘い会社」との烙印を押されることになりかねません。また、適時開示前に情報が漏れれば、当然ながらインサイダー取引が発生するリスクも高まります。適時開示前の情報は、アクセスできる役員・社員を限定するなどして厳重に管理する必要があります。

ちなみに、報道機関の記者に決算短信などの適時開示情報を記事にしてもらうことを目的に、当該情報を記載したペーパーを東京証券取引所の中にある「兜(かぶと)倶楽部」という記者クラブの(報道機関ごとに設けられた)棚に“投げ込み”している会社もありますが、実際には投げ込まれた資料を見ている記者はほとんどおらず、直ちにゴミ箱に捨てられているというのが実態です。これは、全ての上場会社の適時開示情報はTDnetに掲載されているため、記者は記者会見が行われる一部の大企業を除く大部分の会社の情報はTDnetから入手して記事にしているからです。投げ込みは、TDnetがない時代に行われていた習慣が現在もそのまま継続しているものです。もし自社が現在も投げ込みを行っているのであれば、打ち切りを検討してもよいでしょう。

適時開示を怠った場合のペナルティ

適時開示を怠ると、証券取引所からペナルティを受けることになります。具体的にどのようなペナルティがあるのか見てみましょう。

証券取引所は、上場会社が適時開示を怠った場合には、その程度に応じ、以下のようなペナルティを設けています(ペナルティの軽い順に掲載しています)。

口頭注意 口頭による注意喚起。会社名の公表はない。
公表措置 違反行為の内容を証券取引所が公表する措置
上場契約違約金の
支払い
金額は時価総額に応じて960万円(時価総額50億円以下のマザーズ上場会社)~最大9,120万円(時価総額5,000億円超の一部上場会社)とされる(有価証券上場規程施行規則504条参照)。
改善報告書の提出 経過および改善措置を記載した改善報告書を提出するとともに、提出から6か月経過後速やかに、改善措置の実施状況および運用状況を記載した「改善状況報告書」を提出。
特設注意市場銘柄
への指定
内部管理体制等の改善が必要である旨を継続的に投資家に注意喚起するため、証券取引所が指定。特設注意市場銘柄に指定された銘柄は、通常の取引銘柄と区別され「特設注意市場」で売買取引される。また、指定から1年ごとに「内部管理体制確認書」を取引所に提出する必要がある。取引所は同確認書の内容を検討し、内部管理体制等に特段の問題がなくなったと判断すれば、特設注意市場銘柄の指定を解除する。同確認書を3回提出しても依然として内部管理体制等に問題があると判断されれば「上場廃止」となる。

これらのペナルティの対象となった場合、「口頭注意」を除き、会社名が公表されます。つまり、適時開示を怠ると、証券取引所からペナルティを受けるだけでなく、投資家からの信頼も失ってしまうということです。上場会社はそのことを念頭に置いて、適切に適時開示を行う必要があります。

適時開示を実現する内部統制の構築を

では、適時開示が適切に行われなかったことよりペナルティを受けるような事態を避けるにはどうすればよいのでしょうか。

上場会社であれば、ほぼ例外なく「財務報告に係る内部統制」の必要性については十分に認識し、その構築には熱心です。これは、金融商品取引法上、上場会社は財務報告に係る内部統制の有効性を評価したうえで内部統制報告書を作成し、当該報告書について監査法人の監査を受けなければならないとされているからです()。

 新規上場会社(資本金100億円以上または負債総額1,000億円以上の企業を除く)は、内部統制報告書に対する監査法人の監査を3年間免除されます。

これに対して、適時開示に係る内部統制についてそこまで高い意識を持っている上場会社は少数でしょう。しかし、上述した適時開示の重要性を踏まえれば、適時開示についても内部統制の構築が必要なはずです。また、上述したとおり、適時開示が必要な情報とインサイダー取引規制における重要事実の内容は概ね共通しているため、適時開示に係る内部統制の構築には、インサイダー取引規制における重要事実に係る内部統制の構築という視点も加味すべきです。具体的には、情報取扱責任者を定め、適時開示が必要な情報やインサイダー取引規制における重要事実の発生または決定があった場合、情報取扱責任者が一括して管理をし、関係者(担当役員、実務担当者)はインサイダー情報の登録台帳に署名をして、インサイダー情報ごとに関係者を特定しておきます。また、適時開示が必要となる情報ごとに業務記述書を作成し、誰が、いつ、どのような開示情報を作成し、どのような承認を経て公表するのかなどを定めておきます。発生事実や決定事実が生じてから適時開示の書類を作成するのでは開示遅延につながりかねないことから、発生事実が生じる可能性が把握された段階や決定事実が計画された段階(発案、事前の社内根回し、稟議書の起案が行われる初期段階)で、適時開示の書類のドラフトを作成しておきます。決算情報については、決算発表前の一定期間(例えば「決算期日の翌日から決算発表日まで」)をサイレント期間(情報入手の公平性を保つため、投資家やアナリストとの対話を制限する期間)に設定し、ディスクロージャー・ポリシーなどで告知しておきます。このような体制について適時開示マニュアルやインサイダー情報管理規程を策定しておき周知徹底するとともに、情報取扱責任者や関係者は定期的な外部研修を受講することで、知識の更新を図ります。さらに、開示情報に重要な虚偽記載がないことや開示されていない重要な事項がないことを内部監査により事後的に確認・検証し、その結果が経営者に報告され、万が一不備があった場合にはすぐに改善が図られるような仕組みを構築しておきます。

役員は適時開示の重要性を認識したうえで、適時開示に係る内部統制の構築に積極的に関与するべきでしょう。

 

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2015/08/17 【特集】不適切な会計処理に伴う株価下落に対する会社・役員の責任(3・会員限定)

3 会社法上の役員の責任

 取締役等の役員等は、民法上の不法行為責任の他、会社及び第三者に対して、善管注意義務違反(任務懈怠)に基づく損害賠償請求責任を負う(会社法423条、429条)。

 有価証券届出書の虚偽記載等の責任は、民法上は不法行為責任、会社法上は役員等の任務懈怠による第三者(ここでは有価証券の取得者)に対する責任(会社法429条)に相当すると解されている(河本ほか監修『逐条解説 証券取引法』144頁(商事法務、新訂版、2002))。

 役員等と有価証券の取得者との関係においては、金融商品取引法上、有価証券届出書の虚偽記載等があった場合の役員等の責任は、前述のとおり「過失責任」とされているものの、その立証責任は役員側に転換されている(役員側が無過失を立証する必要がある)。一方、会社法上、第三者に対する役員等の任務懈怠責任を追及する場合には、役員等の悪意または重過失を「請求権者」が立証する必要がある。すなわち、立証責任が役員に転換されている金融商品取引法上の損害賠償請求の方が、請求権者にとっては有利な規定となっている。

 役員と発行会社との関係においては、リソー教育の事案にみられるように、会社法423条に基づいて、発行会社が役員に対して損害賠償請求を行うことが可能である(金融商品取引法では、発行会社と役員の間の責任の定めはない)。

終わりに

 これまで例示した事案の他にも、この問題については多数の裁判が提起されている。会社に対して損害賠償責任を求める事案としては、オリンパスに対して約2000万円の支払いを命ずる判決が下されているほか(大阪地方裁判所平成27年7月21日判決)、役員に対するものではライブドアやアソシエント・テクノロジーの事案があり、いずれにおいても役員に対する損害賠償が認容されている。上場会社の役員においては、法令の定め及び過去の事案を把握した上で、不適切な会計処理を未然に防ぐ態勢の整備が求められよう。

2015/08/17 【特集】不適切な会計処理に伴う株価下落に対する会社・役員の責任(2・会員限定)

2.基本的な考え方

(1)どのような場合に責任が追及されるのか

 上場企業は、自らの財務諸表を、
①新株を発行する際に作成する有価証券届出書といった「発行開示書類」や、
②継続的な情報開示のために作成する有価証券報告書といった「流通開示書類」
により公開している。

 不適切会計処理はこれらの書類における「虚偽記載」に該当するとともに、不適切な会計処理が明らかになった場合には、当該会計処理により嵩上げされていた売上や利益が是正され、株価の下落が生じることが多い。こうしたケースにおいて、開示書類の虚偽記載とそれに起因する株価下落に対する会社及び役員の責任が訴訟で追及されることとなる。

 具体的には、主に「金融商品取引法上の責任」と「会社法上の責任」が考えられ、このうち金融商品取引法上の責任は、「発行市場における責任」と「流通市場における責任」に分けることができる。以下、これらを順に解説することとしたい。

(2)金融商品取引法上の責任
①発行市場における責任

 有価証券の募集・売出しに関する有価証券届出書の「重要な事項(詳細は後述)」に虚偽記載等があった場合(リソー教育の事案がこれに該当する)、金融商品取引法上、発行会社及びその役員は、有価証券の取得者に対して、おおむね以下の責任を負う。

請求権者 (虚偽記載等を知らずに)募集または売出しに応じて当該有価証券を取得した者
過失の有無 (発行会社)
請求者が、虚偽記載等について、発行会社に故意または過失があることを立証する必要はなく、また、発行会社が故意または過失がないことを立証しても、発行会社は免責されない(=無過失責任。金商法18条)。
(役員)
役員が届出書の記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを立証すれば、免責される(同法21条)。
損害賠償請求権の消滅時期
※発行会社、役員の責任のいずれについても、仮にaが実現しなくても、最終的にbで消滅する。
(発行会社)
a 請求権者が、虚偽記載等を「知った時又は相当な注意をもって知ることができる時」から3年間(金商法20条)。
b 届出の効力発生時(上場会社の場合、届出から15日間で効力発生)から7年間(同法同条)。
(役員)
a 請求権者が、損害及び加害者を知った時から3年間(民法724条)
b 不法行為のときから20年間(同法724条)。
賠償責任額(法定の損害額)
(発行会社)
請求権者が当該有価証券の取得のために支払った額から、
a 損害賠償請求時の市場価額
又は
b 損害賠償請求の前に当該有価証券を処分した場合はその処分価額
を控除した金額(金商法19条1項)。
ただし、発行会社は、損害額の全部又は一部が、有価証券届出書の虚偽記載等によって生じるべき当該有価証券の値下がり“以外”の事情によって生じたことを証明すれば、その全部又は一部については、賠償責任を免れる(金商法19条2項)。
(役員)
賠償責任額は法定されておらず、請求権者が損害額を立証しなければならない。
対象となる主な書類 有価証券届出書、目論見書
②流通市場における責任

 有価証券報告書等一定の書類の重要な事項に虚偽記載等があった場合(ライブドア事件、IHI及びリソー教育の事案がこれに該当する)、金融商品取引法上、発行会社及びその役員は、おおむね以下の責任を負う。

請求権者 (虚偽記載等を知らずに)流通市場で有価証券を取得した者
過失の有無 (発行会社)
虚偽記載等について故意又は過失がなかつたことを立証すれば、免責される(金商法21条の2第2項)。
(役員)
役員が書類の記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを立証すれば、免責される(金商法22条において準用する21条2項1号)。
※上記①の場合と同様
損害賠償請求権の消滅時期
※発行会社、役員の責任のいずれについても、仮にaが実現しなくても、最終的にbで消滅する。
(発行会社)
a 請求権者が、虚偽記載等を「知った時又は相当な注意をもって知ることができる時」から2年間(金商法21条の3))。
b 提出時から5年間(同法同条)。
(役員)
a 請求権者が、損害及び加害者を知った時から3年間(金商法22条)
b 不法行為のときから20年間(民法724条)。
※上記①の場合と同様
賠償責任額(法定の損害額)
(発行会社)
(公表日前1年以内取得かつ継続保有の場合)不実記載の事実公表日前1カ月間の市場価額平均額-公表日後1カ月間の市場価額の平均額
ただし、発行会社は、損害額の全部又は一部が、有価証券届出書の虚偽記載等によって生じるべき当該有価証券の値下がり“以外”の事情によって生じたことを証明すれば、その全部又は一部については、賠償責任を免れる(金商法21条の2第5項)。
(役員)
賠償責任額は法定されておらず、請求権者が損害額を立証しなければならない。
※上記①の場合と同様
対象となる主な書類 有価証券届出書、有価証券報告書、内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書、臨時報告書

 上表の中で着目すべき点が、平成26年5月23日に成立し、平成27年5月29日から施行されている金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号)による改正部分である。従来、虚偽記載等のある有価証券報告書等の提出者(=会社)に係る賠償責任は「無過失責任(過失がなくても責任を負わなければならない)」だったが、改正により、提出者が「故意又は過失がなかったこと」を証明したときには賠償の責めを負わないとする改正が行われた(上表「②流通市場における責任」の「過失の有無」の「発行会社」参照)。

 この改正が行われた理由は、aそもそも損害賠償責任は「過失責任」が原則であること、及びb「発行市場」では、提出会社は投資者から払込み(という利得)を受けており、無過失であっても返還させるのが公平であるのに対して(上表「①流通市場における責任」の「過失の有無」の「発行会社」参照)、「流通市場」では提出会社に利得がないため、返還の原資は、結局は他の株主等が負担していることなどが挙げられる。

 上記の改正点を踏まえて、発行会社や役員が過失責任・無過失責任のいずれを負うかをまとめると以下のとおりとなる。発行開示書類については、たとえ「意図的でない間違い」であっても発行会社は責任を負う点、注意する必要がある。

発行会社 役員
発行市場
無過失責任 過失責任
流通市場
過失責任 過失責任

 また、上記の各責任は、いずれも虚偽の記載が「重要な事項」に該当することが要件となっている。そこで、どのような場合が「重要な事項」に該当するのかが問題となるが、ライブドア事件の最高裁判決では、「虚偽記載等のある有価証券報告書等の提出者等を発行者とする有価証券に対する取引所市場の評価の誤りを明らかにするに足りる基本的事実」との解釈が示されている。したがって、例えば「業績が大きく変動するような間違い」であれば、「重要な事項」に該当する可能性が高いと考えられる。

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