2015/08/17 【特集】不適切な会計処理に伴う株価下落に対する会社・役員の責任

TMI総合法律事務所 弁護士 中西 健太郎

1.はじめに

 2014年11月、株式会社IHI(旧石川島播磨重工業)の不適切会計処理問題に起因した株価下落を巡り株主(既に同社株式を売却済みの者を含む)がIHIに対して提起した訴訟について、東京地方裁判所で会社側一部敗訴の判決が下された。この判決は、開示書類に虚偽記載のあった場合における金融商品取引法上の賠償責任規定に基づき、会社の責任を認めるものであった。

 また、2015年5月には、株式会社リソー教育が同社元取締役等に対し、(不適切な会計処理の結果)虚偽記載のある開示書類を提出したことに伴い金融庁より課徴金納付命令が出されたことなどに起因して同社に生じた損害の賠償を請求する旨の訴訟を提起している(詳細はこちら)。なお、リソー教育に対する株主からの訴訟も提起されている(詳細はこちら)。

 本稿では、これら2つの事案を踏まえて、不適切会計処理とそれに伴う株価下落に対する会社及び役員の責任について解説する。

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2015/08/17 売上リベートの認識時期と方法変更で、売上額減少も

 メーカー等で広く行われている販促手法の一つに、売上リベートがある。売上リベートとは、メーカー等が小売業者等の販売促進策として支払われるものであり、具体的には、小売業者等における一定期間の販売実績に応じ、メーカー等が小売業者等に対し売上代金の一部を返金する仕組みである。売上リベートを支払う側は、(売上リベートの)支払いの可能性が高いと判断した時点で、当該売上リベート相当額を「収益」から減額するか、あるいは販売費として「費用」に計上するのが一般的だが、実はこのような会計処理方法が現行の日本の会計基準に定められているわけではない。あくまで“慣行”に過ぎないのだが、今後この慣行が変更される可能性が出て来たので要注意だ。・・・

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2015/08/17 売上リベートの認識時期と方法変更で、売上額減少も(会員限定)

 メーカー等で広く行われている販促手法の一つに、売上リベートがある。売上リベートとは、メーカー等が小売業者等の販売促進策として支払われるものであり、具体的には、小売業者等における一定期間の販売実績に応じ、メーカー等が小売業者等に対し売上代金の一部を返金する仕組みである。売上リベートを支払う側は、(売上リベートの)支払いの可能性が高いと判断した時点で、当該売上リベート相当額を「収益」から減額するか、あるいは販売費として「費用」に計上するのが一般的だが、実はこのような会計処理方法が現行の日本の会計基準に定められているわけではない。あくまで“慣行”に過ぎないのだが、今後この慣行が変更される可能性が出て来たので要注意だ。

 日本の会計基準とIFRS(国際会計基準)とのコンバージェンス(収斂)を進める企業会計基準委員会が現在検討している論点の1つが「変動対価」に関する取扱いだ(IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の一部)。変動対価とは、文字通り対価が変動することを意味しており、売上リベートの支払いなどは対価を変動させる要因の1つである。

 IFRS15号では、変動対価の見積額を取引価格に反映させることになっている。つまり、現在のように「(売上リベートの)支払いの可能性が高いと判断した時点」で売上リベート相当額を収益から減額したり販売費として費用に計上したりするのではなく、「販売金額」そのものに(すなわち販売時点で)売上リベートの見積り額を反映させなければならないことになる。したがって、IFRS15号と同じ考え方が日本でも採用されれば、売上リベートを認識する時期は現在よりも前倒しされることになる。

 これは、「仮価格の精算」を行っている場合も同様。日本企業の商習慣では、販売時に「仮価格」で収益を認識したうえで、顧客との交渉状況に応じて期末に単価の見直しを行うことがあるが、IFRS第15号に基づけば、販売金額に仮価格の精算見込額を反映しなければならないため、精算見込額の認識時期も販売時点に前倒しされることになる。

 また、売上リベートを「販売費」に計上することもできなくなる。IFRS15号の考え方の下では、あくまで売上リベート(の見積額)は販売金額から差し引く必要がある。これは、売上金額および売上総利益が減少することを意味する。

 もう1つ問題となりそうなのが、「見積額」だ。あくまで見積額である以上、実際の売上リベートの金額とは異なることもあろう。見積額と確定額が異なれば、確定時の売上額や利益額にも影響を与える。ちなみにIFRS第15号では、見積り方法として最頻値あるいは期待値のいずれかを使用することとしている。

最頻値 : 想定される結果のうち最も起こる確率が高いもの。

期待値 : 起こり得る全ての結果をそれぞれの発生確率によって加重平均したもの。

 このように、仮にIFRS第15号と同様の取扱いが日本の会計基準としても導入された場合には、売上リベートの計上時期および売上金額の変更をもたらすことになる。多くの企業が販売促進に売上リベートを活用している現状を考えると、会計基準が変更された場合の影響は大きい。場合によっては、売上リベートそのもののあり方の見直しに発展する可能性もありそうだ。

2015/08/12 【株価】IR活動により適正な株価を形成したい

 

IR活動が必要な理由

GE(ジェネラルエレクトリック社)が米国で初めて社内にIR部門を設置したのは1953年です。米国では戦略的なIR活動が常識となっているのに対し、日本企業のIRへの取組みは依然として企業間格差が大きいというのが実状です。
「IRのコストは最小限に抑え、その分、営業推進のためのPRにもっとコストを使いたい」――そう話す上場企業のトップは未だに少なくありません。IR活動に消極的な企業にその理由を聞くと、(1)社内にIRを任せられる人材がいない、(2)PR予算はあるが、IR予算はとっていない、(3)IRの効果がはっきりしない――というのがほぼ共通する回答です。特に徹底したコスト管理が求められる経営者にとっては、(3)の「効果がはっきりしない」というのが、IR活動に消極的な最大の理由ではないでしょうか。

効果が分からないから予算をとらず、IRを担う人材も育成・採用しない――という理屈も理解できなくはありません。ただ、「IR活動の効果が見えない」原因が、実は「IR活動の目標がない」ことにあるケースは少なくありません。目標が明確であれば、「IR活動の効果」も見えるはずです。

IR活動の目標は、適正な株価形成にあります。上場企業である以上、「株価」は “信用の証”でもあり、株価の動向はビジネスにも少なからぬ影響を与えます。したがって、自社の株価が適正に形成されていることは極めて重要であり、そのためにはIR活動が有効です。機関投資家にとって、IR活動に力を入れている企業は、十分な情報が提供されている分不確実性が減り、株価が乱高下するリスクが低減されていると映ります。特に株式を長期保有する機関投資家は、株価の乱高下のリスクが小さい安定的な企業を好む傾向があります。また、機関投資家向けばかりでなく、個人投資家向けのIR活動にもしっかりと取り組んでいる企業の株価のパフォーマンスは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)を上回るという実証研究もあります。

企業にとっても、株式市場の暴落時に株が極端に売られ過ぎないということは、信用リスクの低減や取引先からの信頼向上につながります。IR活動による適正な株価形成は、投資家にアピールするのみならず、ビジネスにもプラスの効果があるということです。

PERの単純比較では「適正な株価」は分からない

IR活動は株価と密接な関係を持っています。しかし、IR活動の目標はあくまで「適正な株価の形成」であって、単純に「株価を上げる」ことではありません。

では、「適正な株価」とは果たしてどのように定義されるのでしょうか。
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EPSの中長期的な目標値を求められるケースが増加

もっとも、PEGは成長株投資に用いるのが一般的で、低成長の企業にはあまり用いません。日本企業の多くはEGが低いため、機関投資家が日本株を分析する際にPEGが使われることは・・・

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PBRの水準の検討がROE経営を考え直す契機に

PERと並ぶポピュラーな投資尺度にPBR(株価純資産倍率=株価 ÷1株当たり自己資本)があります。
PBRが1倍割れになるということは・・・

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投資家が求めるのは「数字の読み上げ」ではなく「背景説明」

IR活動は、「成長するために必要な資金調達がいつでもできるように・・・

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IR活動に必要なスキルとマインド

IR活動が投資家へのアピールのために行われるものである以上、IR活動を担う経営トップや担当役員には「プレゼンテーション能力(質問に対する説明能力を含む)」が不可欠です。プレゼンテーション能力は、経験を積み、また本番の前のリハーサルや終了後の反省会を欠かさなければ、次第に向上していきます。

株主総会前のリハーサルをやらない企業はまずありませんが、IRイベントとなるとリハーサルを実施しない企業は結構あり、反省会に至っては・・・

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2015/08/12 チェックリスト:IR活動により適正な株価を形成したい(会員限定)

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■チェックリスト:IR活動により適正な株価を形成したい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
IR活動の目標を定めているか。 IR活動の目標は、適正な株価形成にある。株式を長期保有する機関投資家は、株価の乱高下のリスクが小さい企業を好むほか、企業の信用の証でもある株価はビジネスにも影響を与える。
「適正な株価」の定義を理解しているか。 PERはEPSの成長性も考慮したうえで「割安か割高か」を判断する必要がある。最近は、海外の機関投資家から「EPSの中期的な(3年~5年先)目標値」を聞かれる例が増えている。
PBRが1倍を下回っていないか。 買収のターゲットになりやすので、少なくとも1倍以上になるようIR活動に力を入れる必要がある。また、PBRは「PER×ROE」に分解できるため、ROEの改善議論に展開することも考えられる。
「機関投資家向け決算説明会」や「個人投資家向け会社説明会」などのIRイベントを実施しているか。 法定開示だけでは伝わらない定性的要素を投資家にアピールする場であり、投資家との信頼関係を構築する機会として活用すべき。
IRイベントの参加者のニーズに応えているか。 その決算数値がどういう事業環境や経営戦略の結果出てきたのかを説明する必要がある。また、配当政策や株主還元策についても経営者から説明を受けたい、あるいは経営者の人となりを身近で感じたいとのニーズもある。
IRイベント開催前のリハーサルや開催後の反省会を実施しているか。 IRに求められるプレゼンテーション能力の向上に不可欠。経営トップやIR担当役員には、「どこか悪いところがなかったか」と自ら周囲に問いかけるくらいの度量が必要。
株主の意見・懸念が経営陣幹部や取締役会に適切かつ効果的なフィードバックされているか。 コーポレートガバナンス・コードの補充原則5-1②は「株主との建設的な対話を促進するための方針には、少なくとも以下の点を記載すべきである。」としたうえで、その一つとして「(ⅳ) 対話において把握された株主の意見・懸念の経営陣幹部や取締役会に対する適切かつ効果的なフィードバックのための方策」を挙げている。

2015/08/12 【株価】IR活動により適正な株価を形成したい(会員限定)

 

IR活動が必要な理由

GE(ジェネラルエレクトリック社)が米国で初めて社内にIR部門を設置したのは1953年です。米国では戦略的なIR活動が常識となっているのに対し、日本企業のIRへの取組みは依然として企業間格差が大きいというのが実状です。

「IRのコストは最小限に抑え、その分、営業推進のためのPRにもっとコストを使いたい」――そう話す上場企業のトップは未だに少なくありません。IR活動に消極的な企業にその理由を聞くと、(1)社内にIRを任せられる人材がいない、(2)PR予算はあるが、IR予算はとっていない、(3)IRの効果がはっきりしない――というのがほぼ共通する回答です。特に徹底したコスト管理が求められる経営者にとっては、(3)の「効果がはっきりしない」というのが、IR活動に消極的な最大の理由ではないでしょうか。

効果が分からないから予算をとらず、IRを担う人材も育成・採用しない――という理屈も理解できなくはありません。ただ、「IR活動の効果が見えない」原因が、実は「IR活動の目標がない」ことにあるケースは少なくありません。目標が明確であれば、「IR活動の効果」も見えるはずです。

IR活動の目標は、適正な株価形成にあります。上場企業である以上、「株価」は “信用の証”でもあり、株価の動向はビジネスにも少なからぬ影響を与えます。したがって、自社の株価が適正に形成されていることは極めて重要であり、そのためにはIR活動が有効です。機関投資家にとって、IR活動に力を入れている企業は、十分な情報が提供されている分不確実性が減り、株価が乱高下するリスクが低減されていると映ります。特に株式を長期保有する機関投資家は、株価の乱高下のリスクが小さい安定的な企業を好む傾向があります。また、機関投資家向けばかりでなく、個人投資家向けのIR活動にもしっかりと取り組んでいる企業の株価のパフォーマンスは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)を上回るという実証研究もあります。

企業にとっても、株式市場の暴落時に株が極端に売られ過ぎないということは、信用リスクの低減や取引先からの信頼向上につながります。IR活動による適正な株価形成は、投資家にアピールするのみならず、ビジネスにもプラスの効果があるということです。

PERの単純比較では「適正な株価」は分からない

IR活動は株価と密接な関係を持っています。しかし、IR活動の目標はあくまで「適正な株価の形成」であって、単純に「株価を上げる」ことではありません。

では、「適正な株価」とは果たしてどのように定義されるのでしょうか。

株式市場で最もポピュラーな投資尺度として知られているのがPER(株価収益率=株価÷1株当たり純利益。以下、「1株当たり純利益」はEPS(Earnings Per Share=当期純利益÷期末の発行済み株式数)という)です。例えば前期の1株当たり利益が30円、現在の株価が600円であればPERは20倍(=600÷30)となりますが、同業種の平均PERが30 倍だった場合、「この企業の株価はPER30倍の水準まで上がる可能性がある(=現在のPER20倍は低すぎる)」として、「PERが30倍となる900円が適正株価である」と判断されることがあります。実際、世の中の証券アナリストレポートを見ても、ある企業のPERを当該企業が所属する市場の平均PERなどと比較し、低ければ株価は「割安」、高ければ「割高」としているものが見受けられます。

しかし、長期投資を標榜している機関投資家で、そのような単純な投資判断を行っているところはほぼ皆無であるということには留意する必要があります。
もちろん、投資尺度としてのPERが全面的に否定されるわけではありませんが、あくまでEPS(1株当たり純利益=当期純利益÷期末の発行済み株式数)の成長性も見たうえでPERが割安か割高かを考えないと、成長性が低いorないにもかかわらず、「PERが低い=割安」という間違った判断をすることにもつながりかねません。

EPSの成長性を考慮するという考え方は、フィデリティ投信の「マゼラン・ファンド」のファンドマネジャーとして13年間でファンドの資産を700倍にした伝説の投資家、ピーター・リンチが同ファンドを運用していた際にも使われていました。ピーター・リンチは、「PER(株価収益率)÷EG(EPSの成長率)」によって求められるPEGという指標を重視し、「PEGは1倍が適正であり、2倍を超えると(投資対象としては)危険である」としました。EGはEPSの成長率ですから、PERをEGで割った数字であるPEGが大きい企業ほど、成長性が低いということになります。例えばPERが10倍と一見割安に見える企業も、実はEGが年率2%と低い場合には、「PEG=10÷2=5」となり、成長性を考えると割安とは言えないことになります。一方、PERが50倍と一見割高に見えても、EGが年率25%もある高成長企業のであれば、「PEG=50÷25=2」となりますので、必ずしも割高とは言えないことが分かります。

また、PERがずっと同じであっても、PEGが違えば10年後の株価は下記のとおり大きく異なります。両社ともPERが10倍、現在の株価も同じ1000円であるPEG5倍のA社とPEG1倍のB社のケースで考えてみましょう。

「PER=株価÷EPS」のため、株価は「EPS×PER」により求めます。
・A社の10年後の株価
EG=2%/年(PEG5倍)
今期のEPS(1株当たり純利益)=100円
10期目※のEPS=100×1.02の9乗=119.5円
10期目の株価=119.5円×10(PER)=1195円
※2期目のEPSは100円×1.02、3期目のEPSは1000×1.02×1.02・・・となるため、10期目のEPSは100×1.02の9乗となる。
・B社の10年後の株価
EG=10%/年(PEG1倍)
10期目のEPS=100×1.1の9乗=235.8円
10期目の株価=235.8円×10(PER)=2358円

要するに、たとえPERが同じであっても、成長率が異なれば割安か割高の判断も違ってくるため、PERを使う際には、成長性を示す指標であるPEGを考慮する必要があるということです。

EPSの中長期的な目標値を求められるケースが増加

もっとも、PEGは成長株投資に用いるのが一般的で、低成長の企業にはあまり用いません。日本企業の多くはEGが低いため、機関投資家が日本株を分析する際にPEGが使われることはほとんどないのが実状です。現在、機関投資家が日本株のPERの割高・割安を判断する場合には、その企業と同程度の成長性がある企業の株式がどれくらいのPERで取引されているのかを見るのが一般的です。これは「日本が遅れている」ということではなく、現在の分析対象がPEGに適していないということです。ITブームの中、日本企業に高いEGが期待された90年代後半から2000年にかけては機関投資家もPEGをよく使っていましたが、日本企業の成長性が落ちた2003年頃からは使われなくなってしまいました。今後日本企業が再び成長軌道に乗った時、PEGが改めて注目されるかも知れません。

最近は、海外の機関投資家から「EPSの中期的な(3年~5年先)目標値」を聞かれ、EPSの目標値を開示する上場企業が増えています。この動きは、機関投資家がPERの水準を「EPSの成長性」との関係において把握しようという試みと言えるでしょう。

社内には、内部だからこそ知り得る様々な財務データや情報が存在するため、社外から適正株価を求めるよりも精密な株価予測が可能となることがよくあります。経営陣は投資家に足下の業績を伝えるだけでなく、中期的な成長に関する “ヒント”を積極的に開示し、投資家とイメージを共有しておくことが重要です。

PBRの水準の検討がROE経営を考え直す契機に

PERと並ぶポピュラーな投資尺度にPBR(株価純資産倍率=株価 ÷1株当たり自己資本)があります。

PBRが1倍割れになるということは1株に対する投資金額が1株当たりの解散価値を下回る(企業が解散すれば、投資金額を超える金額が戻ってくる)ことを意味し、そのような企業は買収のターゲットにもなりやすいので、企業は少なくともPBRが1倍以上になる水準まで株価を引き上げるようIR活動に力を入れるなどの対策を考えなければなりません。

また、PBRは「PER(株価÷1株当たり純利益)×ROE(純利益÷自己資本(=1株当たり純利益÷1株当たり自己資本))」に分解できますので、単なるPBRの水準の検討から、「PERとROEのどちらに問題があるのか」という議論に展開することも可能です。このようなアプローチをとることにより、機関投資家が求める“ROE経営”を考え直す契機にもなるでしょう。

投資家が求めるのは「数字の読み上げ」ではなく「背景説明」

IR活動は、「成長するために必要な資金調達がいつでもできるように“適正な株価”を形成しておく」ための活動とも言えます。適正な株価を形成するためには、企業が発信する情報を“受け取る側”である投資家が自社の事業内容や成長戦略などを正しく理解できるように努め、投資家との信頼関係を構築しておくことが大切です。そして、その絶好の機会となるのが、「機関投資家向け決算説明会」や「個人投資家向け会社説明会」などのIRイベントです。

「法定開示」は有価証券報告書等の報告書を作成することでほぼ完結するのに対して、「IR」は決算数値の背景や経営戦略を語ることによって、法定開示だけでは伝わらない定性的要素を投資家にアピールするものであり、IRイベントを開催しないことにはスタート台に立つこともできません。しかしながら、決算説明会を開催していない上場企業や東証等が主催する個人投資家向け会社説明会に参加しない方針の企業も存在するのが現実です。

投資家との信頼関係を構築するためには、IRイベントを開催し、自社の成長戦略などを(1)継続的に、(2)明瞭かつ分かりやすく、(3)(各投資家に対して)公平に、(4)投資家の疑問に対する説明責任を果たしながら――語ることが大切です。(1)~(4)が怠りなく行われれば、投資家との信頼関係が構築できるはずです。

ただ、IRイベントの代表格である「機関投資家向けの決算説明会」と「個人投資家向け会社説明会」のうち、特に前者の決算説明会では、登壇した社長やIR担当役員が、決算短信に書いてある数字を転載した説明会用資料を読み上げるだけというパターンがしばしば見受けられます。そのような説明会は参加者にとって“時間の無駄”以外の何物でもありません。決算説明会に参加したアナリストやファンドマネジャーが知りたがっているのは、「その決算数値がどういう事業環境や経営戦略の結果出てきたのか」という“数字の背景”です。こうした内容は文字に残したくないという理由で資料が数字ばかりになるのは理解できますが、少なくとも口頭では説明する必要があります。

また、近年は個人投資家が著しくレベルアップし、業績や決算にも高い関心を持っているため、個人投資家向け会社説明会においても、機関投資家に対する決算説明会と同様に数字の背景説明等を行うべきでしょう。

さらに、配当政策や株主還元策についても経営者から説明を受けたい、あるいは経営者の人となりを身近で感じ取りたいという希望も強くなっています。経営者はこうした期待にも応えていく必要があります。

IR活動に必要なスキルとマインド

IR活動が投資家へのアピールのために行われるものである以上、IR活動を担う経営トップや担当役員には「プレゼンテーション能力(質問に対する説明能力を含む)」が不可欠です。プレゼンテーション能力は、経験を積み、また本番の前のリハーサルや終了後の反省会を欠かさなければ、次第に向上していきます。

株主総会前のリハーサルをやらない企業はまずありませんが、IRイベントとなるとリハーサルを実施しない企業は結構あり、反省会に至っては実施する企業の方が少ないかも知れません。また、仮に反省会を行ったとしても、プレゼンテーションに失敗した社長やIR担当役員を前にして、改善ポイントの指摘やアドバイスができる役員やIR担当者はほとんどいないのが現実です。経営トップやIR担当役員には、「どこか悪いところがなかったか」と自ら周囲に問いかけるくらいの度量の広さが求められると言えるでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの補充原則5-1②は「株主との建設的な対話を促進するための方針には、少なくとも以下の点を記載すべきである。」としたうえで、その一つとして「(ⅳ) 対話において把握された株主の意見・懸念の経営陣幹部や取締役会に対する適切かつ効果的なフィードバックのための方策」を挙げています。本原則はIR活動に限らず広く投資家との対話から得た声を経営に反映させるべきという趣旨であり、そもそもコーポレートガバナンス・コード自体が建設的な対話を促進することを大きな目的の一つとしていることを考えても、重要な意味を持っています。上場企業の経営陣は本原則も踏まえ、自社に対する要望などIR活動によって得られた投資家の声に耳を傾けるマインドを持つべきであり、それがIR活動を成功に導く(=適正な株価形成を実現する)カギとなるでしょう。

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2015/08/07 「任意の供述聴取時も弁護士の立ち会い不可」に企業側が反論

 故意や過失がなくても損害賠償責任を問われることがある 独占禁止法(独禁法)は、企業にとってコンプライアンス違反リスクの高い法令の1つと言える。また、そもそも独禁法の違反要件に該当するかどうかは独禁法の専門家でも悩むことがあり、これを現場の社員に完璧に理解してもらうことは容易ではない。企業としては、むしろ違反が起きることを前提に対策をとっておくべきだろう。

 独禁法を所管する公正取引委員会は、同法に違反する行為が行われている疑いがある場合には、企業等に立入検査などを行うことになるが、この立入検査を巡り、企業にとって不利な制度改正が行われる懸念が生じているので要注意だ。・・・

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2015/08/07 「任意の供述聴取時も弁護士の立ち会い不可」に企業側が反論(会員限定)

故意や過失がなくても損害賠償責任を問われることがある 独占禁止法(独禁法)は、企業にとってコンプライアンス違反リスクの高い法令の1つと言える。また、そもそも独禁法の違反要件に該当するかどうかは独禁法の専門家でも悩むことがあり、これを現場の社員に完璧に理解してもらうことは容易ではない。企業としては、むしろ違反が起きることを前提に対策をとっておくべきだろう。

独禁法を所管する公正取引委員会は、同法に違反する行為が行われている疑いがある場合には、企業等に立入検査などを行うことになるが、この立入検査を巡り、企業にとって不利な制度改正が行われる懸念が生じているので要注意だ。

まず、これまでの流れを簡単に説明しておこう。平成25年12月、公正取引委員会による審判制度を廃止することなどを盛り込んだ改正独禁法が成立したが(平成27年4月1日により施行)、改正法の附則第16条には、政府は公正取引委員会による調査手続について「事件関係人が十分な防御を行うことを確保する観点」から検討を行い、改正法公布(平成25年12月13日)後1年を目途に結論を得る旨が明記された。これを受けて内閣府は「独占禁止法審査手続についての懇談会」を設置、平成26年12月24日には同懇談会の報告書が取りまとめられ(公正取引委員会 改正独占禁止法(平成25年)Q&A参照)、さらにこの報告書を受け、公正取引委員会は現在「独占禁止法審査手続に関する指針」の策定を進めている。

(2015年)6月30日にはその案が公表され、7月29日までパブリックコメントが募集されていたところだが、同指針案の中で企業にとって好ましくないのが、「立入検査における弁護士の立会い」に関する下記の記述だ(独占禁止法審査手続に関する指針(案)4ページ参照)。

(5)立入検査における弁護士の立会い
立入検査において,審査官は,立入検査場所の責任者等を立ち会わせるほか,検査先事業者からの求めがあれば,立入検査の円滑な実施に支障がない範囲で弁護士の立会いを認めるものとする。ただし,弁護士の立会いは,事業者の権利として認められるものではないため,弁護士が到着するまで立入検査の開始を待つ必要はない

「立会いを認めるものとする」との記述は、「これまで認められなかったものを今回新たに認める」というニュアンスにも受け取れる。しかし、これまでの実務では、公正取引委員会は立入検査への弁護士の立会いを拒否しておらず、事実上許容してきた(2014年9月16日のニュース「公正取引委員会の立入検査が入ったら?」の第4段落参照)。この点からすると、この指針案は現行実務からの“後退”にも見えかねない。これに対し企業側は、「立会いを認めるものとする→立ち会わせることができる」と表現を変更し、指針案があくまで従来の実務を確認する趣旨であることを明確にするよう求めている。また、「待つ必要がない」という記述も、企業にとっては不満が残るところだろう。

さらに指針案には、供述聴取時にも弁護士の立ち会いを認めない旨の下記の記述が入っているが(5ページ参照)、ここでは、拒否した場合には罰金が科される「間接強制」 による場合と「任意」による場合が区別されていない点も気になる。両者を区別していないということは、間接強制による場合はもちろん、任意の供述聴取においても弁護士の立ち会いを認めないという趣旨と考えてよいだろう。

間接強制 : 一定の不利益を課すことにより、義務の履行を強制すること

(3)供述聴取における留意事項
イ 供述聴取時の弁護士を含む第三者の立会い(審査官等が依頼した通訳人を除く。),供述聴取過程の録音・録画,調書作成時における聴取対象者への調書の写しの交付及び供述聴取時における聴取対象者によるメモの録取については,違反被疑事件の実態解明の妨げになることが懸念されることなどから,これらを認めない。

企業側は、任意の供述聴取において「弁護士を立ち会わせる」「弁護士と連絡を取り合う」「メモを録取する」ことを禁じる法的根拠はないとして、上記記述の変更を求めている。

指針案の内容は今秋にも確定する見込み。企業側の主張が受け入れられるかどうか、注目される。

2015/08/06 (新用語・難解用語)プリンシパル・エージェント問題

 自らの利益のための労務の実施を他の行為主体に委任する場合、依頼人を「プリンシパル」、代理人を「エージェント」と呼ぶ。ところが、プリンシパルの利益のために動くことを委任されているはずのエージェントが、プリンシパルの利益に反して“エージェント自身の利益”を優先した行動をとってしまうことを、プリンシパル・エージェント問題という。

 コーポレートガバナンスの分野では、株主と経営者がプリンシパル(=株主)とエージェント(=経営者)の関係にある。株式会社においては所有と経営が分離しており、株主は直接経営を行わず、経営者に経営を「委任」している。このようなプリンシパルとエージェントの関係においては、両者の利害が必ずしも一致せず(利害の不一致)、また、両者の持っている情報が同じではないこと(情報の非対称性)から、経営者が株主の利益を無視して自己の利益を追求するというモラルハザードが発生する可能性がある。

 例えば、社長が経営者としての名声を追い求めて企業規模の拡大を志向し、過剰に従業員を雇用したり、部下にポストを与えるために非効率な事業に投資したりする可能性がある。このようなプリンシパル・エージェント問題を回避し、プリンシパルである株主の利益が守られるよう、エージェントである経営者を監視しつつ規律付けるための仕組みとして、コーポレートガバナンスが必要になるわけだ。

 プリンシパル・エージェント問題は、経営者と株主との間だけでなく、(経営者と)債権者、従業員、顧客のほか、取引業者等の業務の委託関係がある様々なステークホルダーとの間にも発生する可能性がある。

 コーポレートガバナンスや資産運用の世界では、プリンシパル・エージェント問題が起きないよう、エージェントにどのようなインセンティブを与えればよいかについて、報酬を中心に研究されてきた。もっとも、株主と経営者のプリンシパル・エージェント問題の内容は欧米と日本では異なる。

 欧米では、・・・

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2015/08/06 (新用語・難解用語)プリンシパル・エージェント問題(会員限定)

 自らの利益のための労務の実施を他の行為主体に委任する場合、依頼人を「プリンシパル」、代理人を「エージェント」と呼ぶ。ところが、プリンシパルの利益のために動くことを委任されているはずのエージェントが、プリンシパルの利益に反して“エージェント自身の利益”を優先した行動をとってしまうことを、プリンシパル・エージェント問題という。

 コーポレートガバナンスの分野では、株主と経営者がプリンシパル(=株主)とエージェント(=経営者)の関係にある。株式会社においては所有と経営が分離しており、株主は直接経営を行わず、経営者に経営を「委任」している。このようなプリンシパルとエージェントの関係においては、両者の利害が必ずしも一致せず(利害の不一致)、また、両者の持っている情報が同じではないこと(情報の非対称性)から、経営者が株主の利益を無視して自己の利益を追求するというモラルハザードが発生する可能性がある。

 例えば、社長が経営者としての名声を追い求めて企業規模の拡大を志向し、過剰に従業員を雇用したり、部下にポストを与えるために非効率な事業に投資したりする可能性がある。このようなプリンシパル・エージェント問題を回避し、プリンシパルである株主の利益が守られるよう、エージェントである経営者を監視しつつ規律付けるための仕組みとして、コーポレートガバナンスが必要になるわけだ。

 プリンシパル・エージェント問題は、経営者と株主との間だけでなく、(経営者と)債権者、従業員、顧客のほか、取引業者等の業務の委託関係がある様々なステークホルダーとの間にも発生する可能性がある。

コーポレートガバナンスや資産運用の世界では、プリンシパル・エージェント問題が起きないよう、エージェントにどのようなインセンティブを与えればよいかについて、報酬を中心に研究されてきた。もっとも、株主と経営者のプリンシパル・エージェント問題の内容は欧米と日本では異なる。

 欧米では、業績に連動する報酬で経営者を任用した場合、経営者は会社に大きな利益をもたらせば高額の報酬を得る一方、多額の損失を会社に与えても、あからさまな過失や故意が立証されない限り損失を負担する義務はない。このため、経営者の収入期待値を最大化する経営判断が、「会社にとって最も合理的な判断」よりもハイリスク・ハイリターンなりがちなことが問題となっている。

 これに対し日本では業績連動報酬が十分でないため、そもそも株主によるリターンよりも「企業が存続すること」が優先され、必要なリスクを取っていないことや、株主資本コスト(資本コストの詳しい説明は「ディスカウント・キャッシュフロー」参照)への意識が希薄で資本生産性の低い事業が温存されていることなどが問題となっている。

資本生産性 : 投下した資本が生み出す付加価値額を示す指標で、「付加価値額/総資本」により計算される。ここでいう総資本は通常は有形固定資産を指す。「資本生産性が高い」ということは、少ない設備で大きな付加価値を生み出しているということである。

 株主は社内の情報を十分に持たないため、経営判断は経営者に任せるほかない。経営者は、株主が常にこの問題を意識していることを前提に、プリンシパル(株主)とエージェント(経営者)の持つ利害関係を整理したうえで、ガバナンスの制度設計を考えることが必要になる。この点はコーポレートガバナンス・コードでも強く意識されており、同コードに対する機関投資家等の関心が高い理由はまさにここにあると言えよう。