中長期的な企業価値向上と役員報酬を連動させるため、海外ではパフォーマンス・シェア(Performance Share=中長期的な“業績目標の達成度合い”に応じて交付される株式報酬)やリストリクテッド・ストック(Restricted Stock=一定期間の譲渡制限が付された株式報酬)といった株式報酬型の役員報酬制度が普及している。日本でも、株主総会で決議した役員報酬相当額を信託に拠出し、信託がこの資金を原資にして株式市場や会社から株式を取得したうえで、一定期間経過後に業績の達成状況に応じて役員に株式を交付する「パフォーマンス・シェア型」、あるいは一定期間の経過後に役員に株式を交付する「リストリクテッド・ストック型」のスキームの商品を信託銀行が販売している(新用語・難解用語辞典「役員報酬BIP信託」)参照)。
そして、今後登場しそうなのが、役員が職務執行の対価として報酬を得る権利である「金銭報酬債権の現物出資」を利用したスキームだ。具体的には、まず(1)会社が役員に金銭報酬債権を付与、(2)役員が当該金銭報酬債権を「現物出資財産」として会社に払い込み、その対価として会社が役員に株式を発行する――というもの。
日本の会社法では、株式の発行は金銭等の「払込み」があることを前提としているため(会社法199条1項2号~4号)、欧米型の株式報酬のように「株式をタダであげる」ことはできない(「タダ=払込みゼロ」を意味するため)。日本で“1円ストックオプション”と呼ばれる株式報酬型ストックオプションが普及して来た理由もここにあるが、金銭報酬債権の現物出資スキームを使えば、1円ストックオプションを利用しなくても、株式報酬の支給が可能になる。
会社が支出するのは金銭そのものでなく、あくまで「金銭報酬“相当”額」であるため、これを現物出資するというと一見“仮装払込み” に見えるかもしれないが、株主総会の報酬決議を踏み、かつ、それが職務執行の対価として実体のある支出であれば、有効な払込みに該当することになる。また、株主総会では必ずしも「確定額」を決議する必要はなく、金額が不確定の報酬として、具体的な算定方法を決議しておくことも考えられるだろう(会社法361条1項2号)。
仮装払込み : 出資の履行を仮装すること
中長期の業績との連動性をより高めるため、株式に譲渡制限を付けることも考えられる。譲渡制限の方法としては、(1)会社と役員が契約を結び、業績に応じて譲渡制限を解除できるようにする、(2)譲渡制限をかけるとともに、業績に応じてor一定期間経過後に、取得請求権(会社法108条1項5号)や取得条項(会社法108条1項6号)を行使して普通株式に転換できる権利を付した種類株を発行する―――ことが考えられよう。
種類株 : 普通株式とは種類の異なる株式のこと。配当を優先的に受ける一方で議決権が制限される配当優先株など、株主の権利の内容を自由に設定できる。
