本稿は、筆者が実際に関与した事案を「今月の課題」用にアレンジしたものです。実際に行われた対応を振り返ってみたいと思います。
対応するか放置するかの判断基準は?
A社としてまずしなければならないのが、ネットオークションにA社製のタブレット端末が何台出品され、そのうち何台がA社が廃棄処分したものなのかを把握することです。A社の総務担当取締役は、これらの点について部下に調査を命じました。
調査の結果、ネットオークションにはA社製の同種のタブレット端末が合計で5台、2名の出品者から出品されていることが判明したものの、ネットオークションの画面上、A社社員への貸与シールが確認できたものは1台だけでした。しかも、ネットオークションに出品されていたのは、そもそもA社が「価値がない」と判断して廃棄したタブレット端末です。したがって、A社としてはこの時点で「廃棄端末の流出の影響は非常に小さい」と判断し、本件について何ら対応をとらない(放置する)という選択肢もあったと思われます。
しかしながら、総務担当取締役は、以下の理由から、ネットオークションに出品されているA社製タブレット端末すべてを落札し、A社が廃棄した端末かどうかを確認するよう指示しました。
(1)廃棄台数が多く、流出した廃棄端末が他にもまだ存在する可能性があること
(2)A社ではタブレット端末の製造番号を控えており、流出したタブレット端末との照合が容易であったこと
(3)万が一、廃棄台数のほとんどがネットオークションに流出していた場合には、風評被害などによりA社のブランド価値が毀損されるおそれがあること
(4)ネットオークションへの流出には、A社社員または廃棄物処理業者の関与が考えられ、厳正な対応が求められること
継続するオークションサイトへの出品
実際の落札は、A社の費用負担の下、信頼のおける取引先に代行してもらうことにしました。これは、出品者が何者であるか分からない以上、A社が調査していることを伏せた方がよいとの判断によるものです。
落札した5台のタブレット端末の製造番号を照合した結果、そのうち4台がA社による廃棄端末で、残りの1台は無関係、すなわち市販品の中古品であることが確認されました。同時に、A社の廃棄端末を出品していたのは、個人のXさん(2台出品)とY株式会社(2台出品)であることが判明しました。
総務担当取締役は、落札後もそのオークションサイトの監視を続けるよう指示を出しました。総務担当取締役の懸念のとおり、最初の5台の落札後も、XさんとY株式会社は、同じタブレット端末の出品を続けていました。
出品者から「100台単位での仕入れが可能」との返答
そこでA社は、落札をお願いした取引先を通じて、オークション画面に掲載されていたXさん(出品者)の連絡先に電話を入れ、「まとまった台数を調達したいが、あと何台の出品が可能か」を確認してもらいました。すると、Xさんからは「100台単位での仕入れが可能」との返事が返ってくるではありませんか。
これを受け総務担当取締役は、廃棄したはずのタブレット端末の相当数が実際には廃棄されずに社外に流出していることを前提に、慎重に対応する方針を部下に徹底しました。そのうえで、落札をお願いした取引先に依頼し、Xさんに「取り急ぎ10台をネットオークションを通さずに購入したい」旨の連絡を入れてもらいました。こうして後日届いたタブレット端末10台は、すべてA社が廃棄したものでした。
また、もう一方の出品者であるY社の登記簿謄本を取り寄せて調べたところ、同社は古物営業を業とする会社であることが分かったため、こちらもXさんと同じような仕入れルートがあると想定し、オークションサイトの動きを日々監視することにしました。
ネットオークション運営会社の対応は期待薄
大手のネットオークション運営会社は、知的財産権侵害品の出品に対処するため、「知的財産保護プログラム」を用意しており、もし知的財産権の侵害に該当する出品があれば、出品画面を削除してもらうことなどができます。総務担当取締役はこのことを知っていましたが、出品されている廃棄タブレット端末がA社の真正品であることから、「知的財産保護プログラム」の適用の可能性は低いであろう、さらに今回の事案は「窃盗」や「詐欺」の類であり、ネットオークション運営会社に相談したところで「警察に相談してください」という回答しか返ってこないだろうと予想しました。
とはいえ、“ダメ元”でネットオークション会社に問い合わせをすることにしました。総務担当取締役として、考えられる手段はすべて試みる必要があるとの判断からです。案の定、ネットオークション運営会社からは、「本件には知的財産保護プログラムは適用されない」「出品者への注意喚起もできない」「出品者の身元は教えられない」「警察に相談してください」と、予想どおりの回答が返ってきました。
引渡し時に抜け落ちた2つのオペレーション
だからと言って、ネットオークションに出品されれば落札する対応を繰り返したところで、いつまでたっても埒があきません。今後の出品を完全に排除するには、やはり警察に捜査をお願いし、犯人を検挙してもらい、流出した廃棄端末をすべて回収するしか方法がありません。
しかしながら、事案の内容からすると、ネットオークションに出品された廃棄端末は、(1)A社内での回収時、(2)A社内での保管時、(3)A社から廃棄物処理業者への引き渡し時、(4)廃棄物処理業者での保管時、(5)廃棄物処理業者での廃棄時――のいずれかの時点で廃棄端末が盗まれたか、故意に横流しされたとしか考えられません。警察に相談したのはよいものの自社の社員が廃棄端末の流出に関わっていたとなると、会社の信用が著しく失墜し、ブランド価値が大きく毀損することになりかねません。
そこでA社は、(1)(2)(3)に従事した社員全員に対して、慎重にヒアリングを行いました。その結果、A社内で廃棄端末が勝手に持ち出される、あるいは盗まれるなど、A社社員が廃棄端末流出に関与した可能性は低いことが確認されました。
その一方で、本来であれば、廃棄物処理業者への引き渡しに際してはA社側でタブレット端末を使用不能の状態にしておくべきであったところ、廃棄台数が多かったこともあり、その処理ができていなかったことが分かりました。また、A社は日頃タブレット端末を「台数」で管理していたものの、廃棄物処理業者は台数ではなく「容量管理(㎥単位)」や「重量管理(t,㎏単位)」で廃棄物を受領するため、業者への引渡し時には台数の確認を怠っていたことも判明しました。
なお、総務担当取締役は、廃棄物処理業者に引き渡すまでの間のA社保管場所の監視カメラ映像もチェックするよう指示しましたが、残念ながら保存期間が過ぎており、映像は残っていませんでした。
「仕事が堅実」と評判の廃棄物処理業者
総務担当取締役は、社内調査と並行して、廃棄物処理業者(株式会社)から受領したマニフェストを精査するとともに、当該業者に事情を説明して、廃棄端末の収集、処分場への運搬から廃棄処分の実施に至るまでの状況についてヒアリングを行いました。マニフェストによると、タブレット端末はA社から当該業者への引渡し日に全量廃棄処分されたことになっています。当該業者の代表者(代表取締役社長)からは、「保管されていた廃棄端末は全量引き取り、その全てを引渡し当日に廃棄しており、マニフェスト記載の事実に間違いはない」こと、「処理業者側で廃棄端末が盗まれる、横流するという事実はまったくない」との回答を得ました。また、A社内では、当該業者は「仕事が堅実」とすこぶる評判が良いことが分かりました。
マニフェスト : 産業廃棄物の行き先を管理し、不法投棄を未然防止するために、産業廃棄物の排出事業者と処理業者との間でやり取りされる産業廃棄物管理票のこと。マニフェストを使用しない場合、廃棄物処理法により罰則の対象となる。
A社はこれらを踏まえ、警察に相談する旨を当該業者に伝えて、了解を得ました。
強制捜査のプレッシャーが呼んだあっけない結末
A社は、A社の本店を管轄する警察署に本事案を報告したところ、A社(本店)管轄警察署、廃棄物の引渡し場所を管轄する警察署、廃棄物処理業者の所在地を管轄する警察署がそれぞれ異なることから、警察本部に相談するのがよいとのアドバイスを受け、実際に警察本部で本件を扱ってもらえることになりました。
捜査過程の説明は省略しますが、警察本部にとても丁寧に対応してもらえたことは、A社にとって非常に幸運でした。
警察への相談から3か月が経過した頃、廃棄端末の流通ルートが解明され、いよいよ流出元を特定するための強制捜査に踏み切るかどうかという局面になり、警察から正式な被害届を提出するよう打診がありました。また、被害届をA社が出すのか、廃棄物処理業者が出すのか、両者で調整して欲しいとのことでした。
これをA社が廃棄物処理業者に伝えたところ、当該業者は「実は自分(代表取締役社長)の独断で端末を廃棄処理せずに、ある会社に全量を横流しした。マニフェストには虚偽の記載をした。今まで嘘をついていた」と白状しました。警察の強制捜査となれば、これ以上ごまかせないと思ったのでしょう。事件の結末は実にあっけないものでした。
廃棄物処理業者はA社から廃棄処分委託代金を受け取り、中古品販売業者からは有価物売却代金を受け取っており、代金の二重取りをしていたことになります。A社としては、廃棄端末の流出の原因がわかりましたので、刑事事件化せずに、当該業者との間で民事的な解決を図ることとしました。もちろん、尽力いただいた警察本部には十分なお詫びをするとともに、その後の顛末を報告したことは言うまでもありません。
廃棄物処理業者との契約を解除するまで
警察が動いていることが影響したのか、その後、ネットオークションでの出品はパタリと止まりました。
廃棄物処理業者には、警察の捜査により廃棄端末の在庫が判明しているXさんやY社、その他の廃棄端末保有者から、自己の責任と費用負担において廃棄端末を回収することを約束させ、A社も、映像と写真により間違いなく回収・廃棄が行われたことを確認しました。ただし、今回の回収・廃棄分は、A社が廃棄処理を委託した全量ではありませんでした。そこで、今後廃棄端末が発見された場合には、やはり当該業者が費用を負担し、責任をもって回収・廃棄することを約束させました。さらに、これまでに要したオークションサイトからの落札代金を当該業者に請求し、その入金を確認しました。
以上の手続の完了を待って、当該業者との「産業廃棄物処分/収集・運搬委託契約」を解除しました。
排出事業者にも廃棄物処理法上の順守義務
廃棄物処理業者はもちろん、廃棄処理を委託する排出事業者(ここではA社)も「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下、廃棄物処理法といいます)に従わねばなりません。
本事案において、排出事業者であるA社は廃棄物処理法を順守しており、排出事業者としての責任を問われることはありませんでした。ただし、産廃物処理法上、「措置内容等報告書」の提出を求められ(産廃物処理法規則8条の29)、所管の地方自治体に提出しました。
一方、廃棄物処理業者は、マニフェストの虚偽記載として廃棄物処理法違反に問われましたが、初犯ということもあり、非常に軽い行政処分を受けるにとどまりました。
措置内容等報告書 : マニフェストに虚偽の記載などがあった場合に提出を求められる書類。
反省と再発防止策
総務担当取締役は、次のとおり今回の事案の反省、教訓を総括し、社内の関係部門に報告、共有して、再発防止を徹底しました。
(1)廃棄物は必ず使用不能状態にして排出すること
・排出者には無価値であっても、第三者には価値がある
・機器類は、排出前に必ず破砕、水没などを実施する
(2)廃棄物処理法の順守徹底
・廃棄処分委託者も排出事業者責任を問われる
・産廃業者との契約締結、マニフェストの内容の確認を怠らないこと
(3)排出時には必ず廃棄台数の確認を行うこと
・排出者側は「台数管理」をしていても、産廃業者は「容量または重量管理」をしている
(4)信頼できる産廃業者かどうか常時見極めること