2015/06/17 3月決算上場会社の4割でコンプライが困難な原則(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードの73の原則(補充原則を含む)のうち、3月決算の上場会社の4割が自信を持って「コンプライした」とは言い切れないものがある。それは補充原則1-2③だ。

補充原則1-2③
上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。

 コンプライにあたり障害となるのが、「株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定」の部分。実は、東京証券取引所に上場している3月決算会社の4割が定時株主総会を同日に開催しており(東京証券取引所の「2015年3月期決算会社の定時株主総会の開催日集計結果」はこちらを参照)、それが「株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定」に抵触する可能性があるからだ。

 3月決算の上場会社の定時株主総会は、例年「6月最終営業日の前営業日」(当該日が月曜日である場合には、その前週の金曜日)にもっとも集中する。2015年は6月最終営業日が火曜日であることから、その前営業日は月曜日となり、その前週の金曜日にあたる6月26日が定時株主総会の最集中日となる(最集中日に定時株主総会を開催する3月決算上場会社が多い理由は2014年4月11日のニュース「「集中日」に株主総会を開催するデメリット」を参照)。

 株主にしてみれば、保有している銘柄の定時株主総会の開催日が集中すればするほど、総会への出席機会が減らされることになる。そこで株主の総会出席の機会確保を目的の1つとして、コーポレートガバナンス・コードに補充原則1-2③が規定され、(3月決算の)上場会社に定時株主総会の分散開催を促すことになったわけだ。

 もっとも、補充原則1-2③にいう「株主総会関連の日程」として考慮すべきことには、株主総会開催日の集中日の回避以外にも、「招集通知の発送日の早期化」や「株主総会前の有価証券報告書の提出」も含まれている(「株主総会関連の日程」の考え方は2015年5月27日のニュース「株主総会に関するコーポレートガバナンス・コードへの誤解」を参照)。これらの取組みも、補充原則1-2③を「コンプライ」していることとの裏付けの1つにはなり得る。しかし、肝心の株主総会を集中日に開催していれば、招集通知の早期発送や株主総会前の有価証券報告書の提出というせっかくの取組みも台無しとなろう。

 ちなみに、「定時株主総会自体は最集中日の開催となってしまったが、総会に出席できない株主のために、議決権電子行使プラットフォームに参加し、議決権行使の便宜を図っている」という主張は、補充原則1-2③をコンプライしている根拠にはならない。なぜなら、議決権電子行使プラットフォームについては補充原則1-2④に「上場会社は、自社の株主における機関投資家や海外投資家の比率等も踏まえ、議決権の電子行使を可能とするための環境作り(議決権電子行使プラットフォームの利用等)や招集通知の英訳を進めるべきである。」とあることから明らかなように、株主総会の日程と議決権電子行使プラットフォームは別々の原則として規定されているからだ。

議決権電子行使プラットフォーム : 国内外の機関投資家が議決権を行使しやすいよう、東証と日本証券業協会が出資する株式会社ICJが運営する電子投票のインフラ。株主総会招集通知は、機関投資家に対して名目上の名義人である信託銀行等経由で送られてくることなどから、議案の内容を分析する時間が限られている(このため、自前の議決権行使基準や議決権行使助言会社の基準に従って機械的に議決権を行使せざるを得ない)。議決権電子行使プラットフォームを利用すれば、信託銀行から発送された段階で議案の内容を見られるようになり、時間をかけて議案を検討できる。

 「コードをコンプライしている」と一口に言っても、コンプライの程度はピンキリだろう。実際のところコンプライにはほど遠い状況であっても、「コンプライしている」と主張する上場会社が出てきてもおかしくはない。もちろん、最集中日に定時株主総会を開催する上場会社であっても、コーポレート・ガバナンス報告書で補充原則1-2③をコンプライしていると主張するのは自由だ。しかし、そのような会社は、投資家との対話でその点について突っ込まれた際に、「コンプライしている」と言えるだけの根拠の説明に苦慮することになり、結果として投資家から「ガバナンスへの取り組みが不十分な会社」との評価を受けかねない。補充原則1-2③は、最集中日に定時株主総会を開催する上場会社にとって、コードに真摯に対応しているかどうかの“試金石”と言えよう。

2015/06/17 3月決算上場会社の4割でコンプライが困難な原則

 コーポレートガバナンス・コードの73の原則(補充原則を含む)のうち、3月決算の上場会社の4割が自信を持って「コンプライした」とは言い切れないものがある。それは・・・

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2015/06/16 カプコンの買収防衛策が今年は可決された理由

 先週金曜日(2015年6月12日)、大阪で開催されたゲームソフト大手カプコンの定時株主総会で、買収防衛策の導入を諮る議案が過半数の賛成を得て可決された。昨年の同社の株主総会では、買収防衛策の継続議案が反対多数で否決に追い込まれており、同社は議案の内容を変更したうえで改めて導入を諮っていた。今回の議案は7割以上の賛成率を獲得しており、議決権の約3割を占める外国人を含む機関投資家の相当数が支持に回った模様だ。

 昨年の否決から一転、多くの機関投資家から賛成票を得られたのは、・・・

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2015/06/16 カプコンの買収防衛策が今年は可決された理由(会員限定)

 先週金曜日(2015年6月12日)、大阪で開催されたゲームソフト大手カプコンの定時株主総会で、買収防衛策の導入を諮る議案が過半数の賛成を得て可決された。昨年の同社の株主総会では、買収防衛策の継続議案が反対多数で否決に追い込まれており、同社は議案の内容を変更したうえで改めて導入を諮っていた。今回の議案は7割以上の賛成率を獲得しており、議決権の約3割を占める外国人を含む機関投資家の相当数が支持に回った模様だ。

 昨年の否決から一転、多くの機関投資家から賛成票を得られたのは、同社が行った変更が適切だったからに他ならないだろう(変更点の一覧はこちらの10ページ参照)。例えば買収防衛策の設計面では、買収者に情報提供を求める期間を30日に限定(変更前は無期限)したり、求める情報を13項目から6項目に減らしたりするなど、運用の透明性を高める工夫を重ねている(買収防衛策(事前警告型ライツプラン)の流れは、ケーススタディ「買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい」の「「濫用的な買収行為」でなければ買収の成否は資本市場に委ねられる」 参照)。また、コーポレートガバナンス体制についても、全ての取締役について任期を1年とし、社外取締役の割合を30%から42%に引き上げる(人数は昨年同様の3人)といった改善点を強調している。

 もっとも、何よりも機関投資家の意思決定に大きく影響したのは、ROEの目標を伴った成長戦略を明示したことだろう。上記リリースでは6ページにわたって成長戦略を説明しており(2ページ~参照)、その成果として3期移動平均のROEを6.7%から「8-10%」に引き上げるとしている(7ページ参照)。議決権行使助言最大手ISSは、買収防衛策に賛成を推奨する条件として「株主価値向上に向けた具体的な施策を発表し、その内容が妥当であると結論付けられる」ことを挙げており(2015年版 日本向け議決権行使助言基準の21ページ参照)、カプコンの成長戦略がこの条件を満たすとして、今回の議案に賛成推奨した可能性は十分にある。

移動平均 : 平均値の算定にあたり、用いるべきデータが新しいものに更新されるたび、一番古いデータを計算対象から外し、代わりに一番新しいデータを採用して算定し直す方法。カプコンの場合、事業年度が変わるたびに最新事業年度のROEの値を平均値の計算式に取り込む一方で一番古い事業年度のROEを外し、3年分のROEの平均を計算ことになる。単年度のROEではなく移動平均で計算されたROEを採用することで、特別損益の計上等非経常的な要因があっても、ROEが大きくぶれることを緩和させる効果がある。

 ただし、ISSは上記ポリシーの説明文で「導入後の株価パフォーマンスが同業他社に劣る場合、買収防衛策の導入が株主価値の向上に貢献したとは結論できず、更新への理解を得ることは困難」としている(22ページ参照)。カプコンの場合、最近1年間の同社株価は3割以上のアウトパフォームとなっており(TOPIX上昇率と同程度)、この点も買収防衛策への賛成を得られた要因と言えるだろう。

 ISSは議案別の反対推奨率を公表しているが(2014年1~6 月の株主総会)、買収防衛策に対する反対推奨率は実に99.5%に達している(26ページ参照)。こうしたなかカプコンは、上記リリースにおいて「株主との対話を真摯に受け止め」たうえで今回の議案を上程したとしている(同社リリースの1ページ参照)。スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードを受けエンゲージメント(機関投資家と企業の対話)が本格化しているが、今後も同社のようなケースが増えることで買収防衛策に対するISSの賛成推奨率や実際の賛成率が上がるのか、注目される。

2015/06/16 【2015年5月の課題】D&O保険:解答(会員限定)

多重代表訴訟に備え、子会社役員もD&O保険加入を検討する必要

 1人以上の社外取締役の選任を求める改正会社法(2015年5月1日~)や2人以上の選任を求めるコーポレートガバナンス・コード(同6月1日~)を踏まえ、多くの会社が社外取締役確保に動いています。

 逆に言うと、その分だけ社外取締役候補の確保は厳しくなっており(特に有力な候補者)、処遇やサポート体制の整備はもちろん、「リスク」への配慮も必須となっています。

 リスクへの配慮としては、「責任限定契約」と「D&O保険(会社役員賠償責任保険)」は欠かせません。一部では「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要である」との誤解もあるようですが、責任限定契約で役員の責任が限定されるのは「善意でかつ重大な過失がない」場合に限られます。現実に起きている株主代表訴訟や第三者訴訟の多くは役員の過失を問うものであり、なかには責任限定契約の対象にならないものもあるため、D&O保険への加入は必須となります(2015年4月22日のニュース「責任限定契約を締結すればD&O保険は不要か」参照)。

 D&O保険ではその会社の役員全員が“包括的”に被保険者となるため、「社外取締役だけ」D&O保険に加入させるということはできません。したがって、社外取締役をD&O保険に加入させるためには、他の役員も全員加入する必要があります(2015年5月29日のニュース「D&O保険への取組み、ソニーの事例」参照)。D&O保険の条件も役員によって変えることはできないのが原則ですが、社外役員に対しては支払限度額を上乗せする補償を提供している保険会社もあります。社外取締役候補者に対し、リスクへの手厚い配慮をアピールする必要がある場合には、こうした補償を採用することも一考に値します。

 既にD&O保険に加入していたとしても、契約から時間が経っている場合には、保険の内容が分からなくなっているという役員もいると思います。社外取締役の選任をきっかけに、D&O保険の契約条件を内容を再確認し、場合によっては内容を見直すことも検討すべきでしょう。

 また、改正会社法により多重代表訴訟制度が導入され、「親会社の株主」が「子会社の役員」に対しても株主代表訴訟を起こすことができるようになりましたので、子会社の役員もD&O保険に加入しておいた方が無難です。多重代表訴訟制度が導入された背景には、ホールディングカンパニー(持株会社)の急増があります。すなわち、ホールディングカンパニーは自ら事業を行っていないため事業上の失敗について責任を追及されにくいうえ、実質的に事業を行っている子会社も親会社であるホールディングカンパニーから責任を追及されることは通常ないため、結果としてホールディングカンパニー制を採用する企業グループ全体が責任を追及されにくい状況になりかねないというわけです。もっとも、多重代表訴訟の対象となるのは「簿価が親会社の総資産の20%を超える子会社」だけであり、また、多重代表訴訟を提起する株主は「親会社の1%以上の議決権」を保有していなければなりません。これらの要件を満たすケースはそれほど多くないと思われますが、例えばアクティビストが大規模な子会社をターゲットにすることはあり得るでしょう。

保険金額の設定は1~10億円が多数派

 このように、上場会社の役員にとってD&O保険への加入は欠かせないものとなりつつありますが、D&O保険への加入によってすべてのリスクが回避できるのかと言えばそうではありません。まず金額です。D&O保険の保険金額(賠償金と争訟費用などの合計額)の上限は、保険会社によって異なるのが実状です。役員全体で最大約20~25億円程度としている保険会社もあれば、同じグループに属する会社に対してはより大きい限度額を設定している保険会社もあります。また、リスクの高い会社に対しては保険の引受けを拒否するケースや、引き受けても「1億円まで」としているケースも見られます。総じて言えば、役員全体で「1~10億円」の範囲に保険金額を設定している会社が多数派であり、1億円程度の限度額で保険に加入している会社も少なくありません。確かに、「経営判断の原則」がある以上、決定の過程、内容によほど不合理な点がい限り、経営判断の誤りについて取締役が「善管注意義務」違反が問われることはありませんが、株主代表訴訟で勝訴を勝ち取るための弁護士費用が高額になり、保険金の支払限度額を超えてしまうこともあります(ちなみに、D&O保険では、役員が勝訴した場合でも争訟費用は支払われます)。そうなれば、仮に訴訟で和解したとしても、和解のための費用が不足してしまいます。したがって、リスク低減のためには、保険金の上限は高めに設定しておくべきです。

善管注意義務 : 会社との委任関係に基づいて「善良な管理者の注意」をもって職務を遂行する義務。善管注意義務を怠って会社に損害が生じた場合には、取締役はこれを賠償する責任を負う。

 なお、第三者訴訟で役員が損害賠償責任を負った場合に支払われる「普通保険約款」の保険料は会社負担となりますが、株主代表訴訟で役員が敗訴した場合に支払われる「株主代表訴訟補償特約(自動付与)」は、あくまで会社に対する損害に対して役員が負う責任への保証であるため、保険料は役員の個人負担(一般的には保険料全体の約1割)となります。

第三者訴訟 : 役員の故意や重過失によって会社または役員が第三者(取引先、従業員など)に損害を与えた場合、第三者が会社法429条(役員の任務懈怠)や民法709条((役員個人の)不法行為)を根拠に役員に対して損害賠償を請求するもの。

虚偽記載に起因する株価下落への損害賠償はD&O保険の対象外

 また、そもそもD&O保険の支払い対象にならないケースもあります。例えば「保険始期より前に行われた行為」「保険始期の前に、既に会社に対して提起されていた訴訟」「保険始期の前に既に損害賠償請求がなされるおそれがある状況を知っていた場合」などのほか、「汚染物質を排出した場合」や「役員自身が法令に違反した場合や、法令違反を認識していた場合」には公序良俗の観点から保険金が支払われないことになっています。近年の株主代表訴訟の中には違法行為に絡むものが多く(件数としては「経営判断の誤りを問うもの」と同じくらいあります)、その中にはD&O保険の支払い対象外となるものも少なくないようです。

 その1つが、有価証券などの法定開示書類への虚偽記載(不実記載とも呼ばれます)に起因する株価下落に対する損害賠償責任です。業績の悪い会社では、しばしば有価証券報告書などの開示書類への虚偽記載という不祥事が起こりがちです。金融商品取引法では、上場会社に対し、法定開示書類への虚偽記載に伴う株価の下落に重い民事責任を課しています。具体的には、たとえ虚偽記載について「無過失」であったとしても、投資家から損害賠償請求があった場合には「虚偽記載が公表された日以前1か月の株価の平均-公表日後1か月間の株価の平均)」により計算される“損害額の推定額”を賠償しなければなりません(ただし、損害賠償請求時に株式を保有している場合には「株式取得時の株価-損害賠償請求時の株価」、損害賠償請求時に株式をすでに処分している場合には「株式取得時の株価-処分株価」が上限)。

虚偽記載 : 有価証券報告書等に次のいずれかがあること。
・重要な事項について虚偽の記載がある
・記載すべき重要な事項の記載が欠けている
・ 誤解を生じさせないために必要な重要な事項の記載が欠けている

 金商法では、株主が役員に対しても損害賠償請求することを認めており(ただし、役員が自ら故意・過失あるいは注意義務違反がなかったことを立証すれば責任を免れることができる。金商法21条2項)、役員が株主から損害賠償請求を求める訴え(株主自身のための訴訟であるため「第三者訴訟」に該当。株主が会社に代わって起こす訴訟が株主代表訴訟)を提起される可能性があります。また、株主への損害賠償により会社が被った損失について役員の善管注意義務違反や(虚偽記載を防止する)内部統制の構築義務違反があったとして、株主代表訴訟が提起されることも考えられます。しかしながら、D&O保険では、被保険者が法令等に違反することを認識しながら行った行為は免責とされています。上記の訴訟はいずれも金商法違反という“法令違反”に起因する損害賠償であるだけに、役員が法令違反を認識していたと保険会社に判断され、D&O保険の補償対象外となる可能性があります。これは役員にとって大きなリスクと言えるでしょう。

 一部の保険会社では、有価証券報告書等の法定開示書類への虚偽記載に起因して会社が負担する損害賠償金や訴訟費用をカバーする保険を販売しています(保険会社によっては、決算短信への不実記載も対象にしているところもあります)。役員ではなく、あくまで「会社」が受けた損害を補償する保険ですが、保険で株主の損失がカバーされる(=会社の負担がなくなる)となれば、役員に対し株主代表訴訟が提起される可能性は低くなります。社外取締役候補が虚偽記載にリスクを感じている場合などは、このような保険への加入を検討してもよいでしょう。

絶対に避けたい環境汚染関係の株主代表訴訟

 D&O保険の支払い対象とならないもの(免責事項)の中で、極めてリスクが大きいのが「環境汚染」です。化学メーカーである石原産業が、六価クロムなどを含む有害廃棄物を「埋立材」と称して山野に不法投棄し、その回収費用として同社に486億円の損失が生じた事件では、製造・出荷に関わった元取締役ら3名に対してそれぞれ485億円、254億5,050円、101億8,020万円の損害賠償金を同社に支払うよう命じる判決が大阪地裁で下され(2012年6月29日判決)、大きな話題を呼びました(2014年5月20日、大阪高裁において、合計5千万円余りの和解金を同社に支払うことで和解)。

 このような不法行為は論外としても、例えば常に汚染物質の基準値を遵守してきたにもかかわらず長年の使用により基準値を超えてしまった、あるいは、不動産会社が以前の所有者が原因で汚染された土地を(汚染があるとは知らずに)購入してマンションを建設・販売してしまったことなどにより、行政から浄化措置命令を下されたり、周辺住民やマンション住民から訴えられ、会社に損害が生じることがあり得ます。この損害が役員の善管注意義務違反などにより生じたものとして、株主代表訴訟が提起されることも十分考えられます。

 ただ、上述のとおり、環境汚染に起因して生じた損害賠償責任はD&O保険ではカバーされません。したがって、役員としては、賠償金額も巨額になりがちな環境汚染関連の株主代表訴訟だけは絶対に避けたいところです。保険会社の中には、環境汚染関連の損害賠償責任を補償する「環境汚染賠償責任保険」を販売しているところもあります。会社に生じた損失が保険金でカバーされるとなれば、株主も代表訴訟にまでは踏み切らないでしょう。環境汚染の当事者となるリスクの高い会社の役員は、株主代表訴訟を起こさせないためにも、こうした保険への加入は検討に値します。

M&Aにおいて高まる表明保証違反リスク

 また、近年、日本企業による海外企業を含めたM&Aが非常に活発になっています。M&Aを重要な経営戦略に位置付ける企業は、M&Aに伴うリスクも十分意識する必要があります。

 M&Aではしばしば“高すぎる買収価格”が(余計な支出をすることで会社に損失をもたらしたとして)問題となりますが、買収価格の決定は経営判断に相当程度委ねられています。実際、買収価格を巡り善管注意義務が問われたアパマンショップの株主代表訴訟では、完全子会社化の際の買収価格が第三者評価額の“約5倍”の金額であったにもかかわらず、最高裁は「経営判断の原則」に沿う形で、「買収側の代表取締役らの判断は著しく不合理なものということはできない」とし、代表取締役らの善管注意義務違反を認めませんでした(平成22年7月15 日判決)。

 その一方で、近年、M&Aにおける買主側のリスクとして明確に認識されるようになったのが、売主の「表明保証」違反により発生する損害です。表明保証とは、M&A契約の前提となった事項が真実かつ正確であることを売主が買主に表明し、その表明内容を保証することであり、例えば「財務内容が貸借対照表のとおりであり、簿外債務等が存在しない」といったものがあります。通常、M&A契約書にはこの「表明保証」に関する条項が入っていますが、買主が網羅的、金額的な制限のない表明保証を売主に求めるのに対し、売主はできるだけ表明保証の範囲や金額を抑えようとします。この溝が埋まらないと、M&A交渉が暗礁に乗り上げることにもなりかねません。

 なかなか同じような“出物”がないという場合、「どうしても買いたい」という気持ちが先走りがちです。買収前のデューデリジェンスで問題を見つけられればよいのですが、十分な表明保証を受けないまま、買収後に想定外の事実(例えば簿外債務)が発覚した場合には、買収側の会社は大きな損失を受けることになります。その結果、買収側の会社の役員は善管注意義務違反を問われ、株主代表訴訟を提起される恐れも否定できません。

デューデリジェンス : 投資対象の資産価値、簿外債務、収益力、法的リスクなどを調査すること。

 近年は、売主の表明保証違反によって買主が被った損害(例えば、買収対象会社の価値の毀損)を補償する「表明保証保険」を販売している保険会社もあります。売主の表明保証の程度を巡りM&A交渉が滞ることを防ぐとともに、売主の表明保証違反により買主が被った損失を巡り買主側の会社の役員に対して株主代表訴訟が提起されることを未然に防ぐためにも、表明保証保険の加入も一考に値します。

 なお、表明保証保険は売主側が加入することもできます。

悩ましい会社訴訟への対応

 このように、保険商品は年々進化しています。役員としては、会社ひいては自らのリスクを軽減する保険商品の動向は積極的にウォッチしていく必要があります。

 その中で、加入すべきかどうか悩ましいのが、2012年頃から一部の保険会社が販売を開始した「会社が役員や元役員を提訴(以下、会社訴訟)」したことに伴う役員の損害賠償責任をカバー(刑法違反がある場合を除く)する保険です。この保険は、D&O保険の中のオプションとして販売されています(一方、会社訴訟をD&O保険の対象外としている保険会社も少なくありません)。

 会社法では、「役員等の株式会社に対する損害賠償責任」として「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しており(会社法423条)、会社訴訟はこの規定を根拠しています。

 実際に近年は、企業不祥事が発生した際に会社が設置した外部の有識者から構成される「第三者委員会」の指摘を受ける形で、会社が役員や元役員を提訴するケースが発生しています。会社訴訟をカバーするD&O保険の登場にはこうした背景がありますが、一方で、会社訴訟をカバーする保険はあくまで「D&O保険」の一部であり、上述のとおりD&O保険の保険金額は役員全体で1~10億円の幅の中で加入しているケースが多いため、会社訴訟による損害賠償金をD&O保険でまかなった場合、別途提起された株主代表訴訟による損害賠償金に対する保険金の枠が残っていないという事態にもなりかねません。会社訴訟をカバーするD&O保険に加入する際には、この点も念頭に置く必要があります。

 このほか、社外取締役によるモニタリング機能が重視される中、今後は社外取締役が社内取締役を訴えるというケースも出て来るかも知れません。通常、D&O保険では「他の被保険者からなされた損害賠償請求(役員同士の内輪もめ)」は免責とされていますが、一部の保険会社では、被保険者である役員・元役員が、同じく被保険者である他の役員・元役員から善管注意義務等を怠ったとして損害賠償請求を受けるケースも補償の対象としています。日本の企業文化の中でこうした事例がどれほど出てくるかは未知数ですが、今後実例が増えて来るようであれば、このような補償のあるD&O保険加入を検討する余地もあるでしょう。

 以上のように、役員は様々なリスクを負っていますが、実は役員にとっての有力なリスクマネジメント・ツールとなり得るのがコーポレートガバナンス・コードです。コーポレートガバナンス・コードを“コンプライ”することで、役員に求められる善管注意義務等を果たしたことになるケースも多いと考えられます。その意味でも、(コンプライしない合理的な理由がある場合は別として)できる限り各原則・補充原則をコンプライするよう、役員は努力すべきでしょう。また、役員の善管注意義務違反が“無知”から起こることも少なくありません。こうした事態を避けるためにも、役員は自ら継続的なトレーニング(原則4-14)を心掛けるべきだと言えます。

2015/06/15 社外取締役を置くことが「相当でない理由」、他社はどう書いた?

 コーポレートガバナンス・コードでは、「少なくとも2名以上」の独立社外取締役の選任を求めているが(原則4-8)、この原則を“コンプライ”できない会社は、どのように“エクスプレイン”するか頭を悩ませていることだろう。

 一方、コーポレートガバナンス・コード(6月1日~)に先行して5月1日から施行された改正会社法では、社外取締役を選任していない場合、定時株主総会での口頭の説明に加え、(1)事業年度末日に社外取締役を置いていない場合には事業報告に、(2)株主総会に提出する取締役選任議案に社外取締役の候補者が含まれない場合には株主総会参考書類に、それぞれ「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載しなければならないとしている。この「相当でない理由」は、個々の株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならないとされており、ひな型もなく、また「社外監査役が2人以上いる」ことをもって当該理由とすることはできないこととされている(2014年6月6日のニュース「「社外監査役2名」より「社外取締役1名」の方が重い?」参照)。このため、社外取締役を選任していない会社がどのような記載をするのか、コーポレートガバナンス・コード原則4-8をコンプライできない場合のエクスプレインの参考例としても注目を集めている。

 こうした中、改正会社法の規定に従って「社外取締役を置くことが相当でない理由」を開示する企業が続々と出て来ている。実際どのような理由を挙げているのか見てみよう。・・・

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2015/06/15 社外取締役を置くことが「相当でない理由」、他社はどう書いた?(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードでは、「少なくとも2名以上」の独立社外取締役の選任を求めているが(原則4-8)、この原則を“コンプライ”できない会社は、どのように“エクスプレイン”するか頭を悩ませていることだろう。

 一方、コーポレートガバナンス・コード(6月1日~)に先行して5月1日から施行された改正会社法では、社外取締役を選任していない場合、定時株主総会での口頭の説明に加え、(1)事業年度末日に社外取締役を置いていない場合には事業報告に、(2)株主総会に提出する取締役選任議案に社外取締役の候補者が含まれない場合には株主総会参考書類に、それぞれ「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載しなければならないとしている。この「相当でない理由」は、個々の株式会社のその時点における事情に応じて記載しなければならないとされており、ひな型もなく、また「社外監査役が2人以上いる」ことをもって当該理由とすることはできないこととされている(2014年6月6日のニュース「「社外監査役2名」より「社外取締役1名」の方が重い?」参照)。このため、社外取締役を選任していない会社がどのような記載をするのか、コーポレートガバナンス・コード原則4-8をコンプライできない場合のエクスプレインの参考例としても注目を集めている。

 こうした中、改正会社法の規定に従って「社外取締役を置くことが相当でない理由」を開示する企業が続々と出て来ている。実際どのような理由を挙げているのか見てみよう。

 平成27年3月決算会社の招集通知に添付された事業報告を調べると、例えばエンチョー、ユニマットそよ風、中越パルプ工業が、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載している。3社とも今6月総会に社外取締役選任議案を提出していない。このうちエンチョーは、「社外監査役に加えて社外取締役を置くことは、職務遂行上の重複感と費用の負担増を生じさせ、企業価値を損なうおそれが懸念される」と記載。要するに、社外取締役を選任することが企業価値にマイナスの影響を及ぼすとの説明である。ユニマットそよ風は、「社外取締役の選定にあたって企業経営への理解に加えて介護業界に関する知見を有することなどを要件としているが、現時点では適任者の選定はできなかった」と記載。中越パルプ工業は、自社のガバナンス体制が適正に構築されていることを詳細に説明したうえで、「社外取締役の重要性を認識しつつも、経営規模等を総合的に勘案するとガバナンスは適正に運用されている」旨記載している。

 また、平成27年6月総会で社外取締役の選任議案を提出する場合であっても、「相当でない理由」を記載しているケースがある。これは、改正会社法上、平成27年3月末(事業年度末)時点で社外取締役を選任していなければ、事業報告に「相当でない理由」の記載を省略できないため。実は、平成27年6月総会で「相当でない理由」を記載した企業のほとんどがこのケースとなっている。各社が今株主総会での社外取締役の選任に踏み切ったのは、改正会社法はもちろん、コーポレートガバナンス・コードの影響も大きいものとみられる。例えば、トヨタ紡織、住友精密工業、千葉興業銀行などがこのケースであり、ジャフコ、クレスコ、アイフル、常磐開発については「監査等委員会設置会社」に移行することで社外取締役を選任。予想通り、現行の社外監査役をそのまま社外取締役の監査等委員としてスライドして選任する会社もあった (2015年5月19日のニュース「監査等委員会設置会社への移行だけでは足りないもの」参照)。

 いずれにせよ、今株主総会をもって社外取締役がいない会社は一層減ることになろう。

2015/06/12 アクティビストが自社の株式を数%保有!経営陣はどう動くべきか

 上場会社の株式をいわゆるアクティビストファンドが数%保有する例が散見されるようになった。会社側は「買収されてしまうのではないか」と不安になる一方、投資家においては「今後ファンドが株式を買い増すのではないか」という思惑が高まりがちだが、現実はそれほど単純な話でもない。

 アクティビストファンドがこれからどう動くか、それに対して自社がどう対応すべきかを検討するうえでは、昨今活発化している米国のアクティビストファンドの行動パターンを理解しておくことが重要である。

 古典的なアクティビストファンドは、株式を買い集めたうえで、大幅な増配など“短期的”な株主還元を要求するのが定番だった。これに対し、最近の洗練されたアクティビストは・・・

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2015/06/12 アクティビストが自社の株式を数%保有!経営陣はどう動くべきか(会員限定)

 上場会社の株式をいわゆるアクティビストファンドが数%保有する例が散見されるようになった。会社側は「買収されてしまうのではないか」と不安になる一方、投資家においては「今後ファンドが株式を買い増すのではないか」という思惑が高まりがちだが、現実はそれほど単純な話でもない。

 アクティビストファンドがこれからどう動くか、それに対して自社がどう対応すべきかを検討するうえでは、昨今活発化している米国のアクティビストファンドの行動パターンを理解しておくことが重要である。

 古典的なアクティビストファンドは、株式を買い集めたうえで、大幅な増配など“短期的”な株主還元を要求するのが定番だった。これに対し、最近の洗練されたアクティビストは徹底的なファンダメンタルズ分析に基づく投資に加え、投資後は会社に対しモニタリングとエンゲージメント(対話)を行うのが特徴となっている。

 アクティビストファンドは、「経営に問題がある」と判断した場合には経営改善策を提示し、経営陣の反論とどちらが説得的かを、株主総会の委任状争奪戦を通じて投資家に問う。したがって、アクティビストファンドにとって、持株比率は必ずしも「支配的」である必要はなく、あくまで自分たちが提示した経営改善策が会社の反論よりも優れていればよいということになる。実際に米国では、持株比率が僅か数%にもかかわらず、ファンドとしての目的を達成する成功例が多くみられるようになった。また、アクティビストファンドに対する社会的なイメージも、「敵対的買収者」から「投資家のエージェンシーコスト削減に貢献する社会的に有用な存在」へと変わってきている。

委任状争奪戦 : 株主総会において、会社提案の議案を否決したり、株主提案の議案を可決させたりするために、株主が会社の経営陣と委任状(議決権)を奪い合うこと。ファンド等の株主が、会社提案の否決または株主提案への賛成を求める委任状を他の株主に送付する形で行われる。別名「プロキシー(=委任状)ファイト」。

エージェンシーコスト : 経営陣が株主の意向に反する意思決定を行うなど、株主と経営者の利益相反により株主側に発生するコストのこと。

 では、日本でも米国と同じことが起こり得るのだろうか。日本市場の現状を見てみると、“アウトサイダー”と言われる「是々非々」で議案を判断する株主の比率が5割を超えてきた。また、機関投資家においては、スチュワードシップ・コードの受入れにより「株主から見て正しい」と考えられる提案に対して議決権を行使していくという規律が働くようになっている。さらに、海外と比べると株主提案に要するコストも低く(日本では株主提案を招集通知に記載するコストは企業が負担するが、海外では提案を行う投資家が負担するため)、アクティビストファンドが活発に活動できる条件は整いつつあると言える。

 もっとも、企業としてはこのような状況に対して特に身構えることもないし、アクティビストファンドからの提案に対して妥協する必要もない。ファンドの力の背景は投資家の議決権であることを踏まえれば、重要なのは「投資家側から見て提案が合理的かどうか」である。したがって、企業は自信を持って自らの企業価値改善策を主張すればよい。

 参考例として、アップルのケースを挙げておこう。かつて米国のヘッジファンドであるグリーンライト・キャピタルはアップルに対して比較的穏当な株主還元策を提案した結果、投資家の支持を集め、同社は大幅な自社株買いに踏み切った。一方、その後行われた著名なアクティビストであるカール・アイカーン氏による「キャッシュの全額還元要求」は機関投資家の賛同を得られず、アイカーン氏は当該要求を撤回している。投資家の判断は、企業価値への影響を考え是々非々で行われることを示す好例と言えよう。

2015/06/11 (新用語・難解用語)アグレッシブ・タックスプランニング

 税金は企業のキャッシュフローに直接的に影響するだけに、経営陣が「節税」に関心を持つのは当然と言える。海外の企業では税務部門に多数の弁護士(タックス・ロイヤー)を配置して徹底的に節税策を検討し、それによって達成した実効税率の低さを投資家にアピールすることも珍しくない。

実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。

 ただ、近年は世界的に著名な多国籍企業がグループ内の国際的な取引を使って所得を無税又は低課税の国に移転するなどして実効税率をわずか数%にまで低下させる事例が相次ぎ、「利益に応じた法人税が支払われていない」として国際問題化している。こうした中、OECD(経済協力開発機構)が現在進めているのが、・・・

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