近年、企業の販売活動においてインターネットの存在感が増しているが、その一方で、依然として訪問販売や電話勧誘販売(テレアポ)といった昔ながらの営業手法を活用している企業は少なくない。個別性の高い商品や高額商品の販売、あるいはインターネットを使わない層(高齢者など)に対する販売においては一定の効果がありそうだが、こうした営業手法が法令改正により規制されかねない状況となっている。
政府内(具体的には、内閣府・消費者委員会の特定商取引法専門調査会)では現在、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売などへの規制を強化するため、特定商取引法(特商法)の見直し議論が進んでいる。論点は、アポなしでの個別訪問や事前承諾のない電話勧誘(これらの訪問・勧誘は、「不招請勧誘」と呼ばれる)を規制の対象とすべきか、という点だ。こうした議論が行われている背景には、訪問販売等に対するクレームが多いということがあるが、今後の議論の方向性によっては、クレームの多寡にかかわらず幅広い業種に影響が及ぶ可能性があるので要注意だ。
現行の特商法では、「訪問時に『訪問・勧誘を拒否する意思』が示された場合」にのみ、再度の訪問はできないことになっている(再勧誘の禁止)。しかも、再勧誘の禁止に関する罰則規定はない。この点について上記の専門調査会では、再勧誘の禁止にとどまらず、「初回の勧誘」も規制することを視野に検討を進めている。具体的には、戸外に提示された「勧誘お断り」等のステッカーに法的拘束力を持たせる案や、あらかじめ登録された住所や電話番号等に対する勧誘を禁止する仕組みが浮上している。
これらの規制が実施された場合、訪問販売や電話勧誘販売で顧客を開拓している企業は大きなダメージを受けることになるだろう。訪問販売事業者、通信販売事業者などのほか、新聞販売の勧誘もターゲットになる可能性がある。また、これまで特商法の規制対象(=特定継続的役務)ではなかった美容医療が対象に加えられることになりそうだ。対象となる美容医療行為の範囲は今後の検討次第だが、例えば脂肪吸引や整形手術などの美容医療行為を特商法の対象としてクーリングオフの対象とすることや、虚偽・誇大広告を規制する方向で検討が進められている。このほか、通信販売の1つとして、インターネットにおけるターゲティング広告が「勧誘」に該当するかどうかも今後検討される方向。ターゲティング広告は企業による利用も増えており、仮にこれが規制されることにあれば、企業はインターネット広告戦略の見直しを迫られる。
クーリングオフ : 特定商取引法などの法律で定められた事項が書かれた契約書面(法定書面)を受け取った日から8日間(法定書面を受け取った日を1日目と数える)は、原則として無条件で契約解除を認める条項。
ターゲティング広告 : インターネット上の検索履歴をもとに、興味・関心がありそうな広告を表示する手法。
一方、金融機関は特商法の適用対象外となっているが、これは、金融機関による不招請勧誘に対しては、金融商品取引法・金融商品販売法による同様の規制があるため。特商法が改正された場合には、金融商品取引法・金融商品販売法もこれに追随する可能性がある。現在の金融商品取引法では、デリバティブ等の一部ハイリスク取引についてのみ「不招請勧誘規制」を設けており、それ以外のものについては、適合性原則及び自主規制という比較的緩やかな形の規制が置かれているに過ぎないが、特商法で厳格に不招請勧誘が禁止され、その規制が金融商品取引法にも反映されれば、例えば生保レディーや証券マンの戸別訪問による勧誘も難しくなる可能性がある。
適合性原則 : 金融商品取引業者は、投資家の知識、経験、財産の状況、投資目的に応じた勧誘を行わなければならないという原則。
さらに広範な影響が懸念されるのが、地方自治体の消費生活条例(消費生活に関係する基本的な条例)だ。特商法で不招請勧誘への規制が掲げられた場合には、それが地方自治体の条例にそのまま反映される恐れがある。条例には基本的には罰則はないが、同時に「適用除外規定」もないため、条例の規定を律儀に守ろうとすれば、特商法よりも幅広い範囲の事業者に影響が及ぶことになる。
専門調査会では8月に議論を一旦とりまとめ、必要があれば9月以降も議論を続けるとしている。当フォーラムでは今後の議論の動向をウォッチするとともに、続報していきたい。