CSR(企業の社会的責任)は、企業利益とは切り離された純粋な社会貢献活動から、社会的な課題の解決を図ることで社会に貢献しつつ企業価値を向上させる(社会と企業で利益を“シェア”する)という「CSV」へと進化しつつある。
実際、多くの企業が企業価値向上につながるCSR活動(CSV)を行っているが、企業のCSRレポート等を見ると、そのことが表現されていないケースが少なくない。
CSR活動に要する費用と企業利益はトレードオフの関係にあるため、それが将来の企業価値向上につながる道筋が見えない場合、投資家はそれを「コスト」の一種ととらえるのが通常だ。例えば小売業者がCSR活動として、ある地域で地元の人達とともに植林を行っており、それをCSRレポートで「当社は地球環境に優しい活動をしています」と紹介していたとする。もしレポートがそこで終わっていれば、投資家へのメッセージとしては不十分と言える。
投資家が知りたいのは、「その活動が企業業価値の向上にどのように貢献しているのか」という点に尽きる。例えば「従業員に地域社会との共生、地域のお客様を意識した接客の精神を植え付けるという人材育成の観点から、地域での植林活動をやっている」と言えば、人材育成は企業価値を上げることになるので、投資家の納得感も得られやすい。
また、音楽や美術など芸術分野に寄付を行っている企業も少なくない。一見すると音楽や美術とはかけ離れた業態の企業であったとしても、こうした「文化」の発展が事業が成立・成長するための前提であり、「文化の発展なくして事業の発展なし」ということであれば、芸術分野への寄付も、企業価値の向上という観点から十分に説明が可能であろう。
投資家からすると事業とCSR活動のピントが合っていないように見える場合、それを合わせる“ファインダー”としての役割を果たすのが企業のレポーティングに他ならない。媒体はCSRレポートでも、統合レポートでも、アニュアルレポートでも構わないが、多くの企業のレポーティングで「CSRがCSRにとどまっている」ことは非常にもったいない。
経営陣は、投資家にきちんとメッセージを発信することによって企業価値(株価)は上昇し得るということを認識すべきであり、逆に言うと、伝えられていないがゆえに損している部分があることに気付く必要がある。このところ活発化しつつあるアクティビストのターゲットとなることを避けるには、企業価値を上げるしかない(2015年2月24日のニュース「中堅企業に向かうアクティビスト」参照)。それには投資家を味方にする必要がある。企業の発信したメッセージに賛同した投資家はその企業への投資を始め、それが最大のアクティビスト対策になるからだ。もちろん個人投資家も重要だが、自社単独で個人投資家対策(例えば個人投資家向けの会社説明会)を実施するには大きなパワーがいるため、効率を考えれば、数は少ないが力(=株式数)を持つ長期の機関投資家にメッセージを送るのが王道と言える。
「企業イメージやブランド力のアップのためにCSR活動を行っている」という企業も多いが、それがなぜ「植林」なのかについて明快に説明できる企業は意外と少ない。機関投資家はストーリーを重視するため、機関投資家対策という観点からは、どのような活動を行うかは、自社の長期的な価値向上という視点から選ぶべき。CSR活動と企業価値向上をストーリーでつなげることが難しいのであれば、活動そのものの見直しも検討に値しよう(もちろん、純粋な社会貢献活動としてのCSRもあってしかるべきであり、それ自体を否定するものではない)。