社外取締役ゼロの会社への包囲網が狭まる
改正会社法により、監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるものに限る)であって、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務を有する会社で社外取締役を置いていない会社(多くの上場会社が該当します)は、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する必要が生じました。この「社外取締役を置くことが相当でない理由」は、単純な「社外取締役を置かない理由」や「社外取締役を置かなくても構わないと判断した理由」とは異なり、社外取締役を置くことが当該株式会社の企業価値にマイナスの影響を及ぼすような事情の説明を求められます。「社外取締役を置くと●●といったことが考えられ、それは企業価値にマイナスの影響がある」といった説明を説得的に行い、株主を納得させるのは非常に困難です。
また、社外取締役の2名以上選任を求めるコーポレートガバナンス・コードの導入により、社外取締役を2名以上選任していない上場会社は証券取引所に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で、 コードに従わない理由の「エクスプレイン」(説明)を求められます。この「エクスプレイン」は上述の会社法上の「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明と異なり、ストレートでプレーンな説明で十分であり、「なぜコードを“Comply”していないか、代わりにどういう体制を採用しているか」を淡々と説明すればOKです(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」を参照)。また、コードに従わない会社が上場廃止のようなペナルティを課されるわけでもありません。とはいえ、上場会社の多くが「コンプライ」する(コードに従う)と見込まれるだけに、「コンプライ」せずに「エクスプレイン」を選択した上場会社はどうしても目立ってしまいます。投資家から「ガバナンスに対して後ろ向きの会社」との烙印を押されかねません。
このような会社法の要請やコーポレートガバナンス・コードへの対応、投資家の反応を考慮すると、社外取締役未選任の上場会社では、2名の社外取締役選任を真剣に検討しなければなりません。すでに社外取締役の候補者がおり、就任に内諾を得ている会社は何も問題ありません。あとは報酬について合意するだけです。
問題は、社外取締役の候補者がいない会社です。経営陣の人的なつながりで探してみたものの、なかなか適切な人材に巡り合えないということもあるでしょうし、目星を付けた人に「業績低迷」や「オーナー色が強過ぎる」などの理由で就任を断られるケースもあるでしょう。
このように社外取締役候補者がいない会社同士で、お互いに社外取締役を出し合い、両社が同時に社外取締役ゼロ問題を解決するというウルトラCも考えられます。このような“相互就任社外取締役”は、会社法上禁止されているわけではありません(もちろん、会社法上の社外性の要件を充たす必要はありますが、資本関係のない会社の役員同士であれば、会社法上の社外性の要件を充たすのが通常です)。もっとも、証券取引所に提出する独立役員届出書に「社外役員の相互就任の関係にある先の出身者」である旨の属性情報を記載しなければならず、投資家からは(その会社に投資する上で)マイナス材料と判断される可能性もあります。
「監査等委員会設置会社への移行」という打開策のメリットと問題点
社外取締役がゼロかつ候補者もゼロの会社で是非検討していただきたい打開策が、「監査等委員会設置会社への移行」による「社外監査役の社外取締役への横滑り」です。
監査等委員会設置会社では監査役(会)の代わりに監査等委員会が設置されます。監査等委員会は監査等委員である取締役3名以上で構成されます。そして、監査等委員の過半数は社外取締役でなければなりません。なお、常勤の監査等委員を置く必要はありません。
監査役会設置会社であれば、社外監査役が必ず2名以上います。その社外監査役は、監査等委員会設置会社への移行に伴い、監査等委員である社外取締役に就任できます。社外監査役から社外取締役に“横滑り”するイメージです。これにより、外部から社外取締役を招へいすることなく、社外取締役2名を選任できます。
【メリット】
監査等委員会設置会社への移行により社外監査役を社外取締役に横滑りさせるメリットは次のとおりです。
(1)会社の事情に詳しくない者が経営に携わるリスクを回避
社外取締役ゼロの上場会社が現在まで社外取締役を設置してこなかった理由としては、「必要がなかった」ことと「経営が混乱する恐れ」の2つが考えられます。会社法の改正やコーポレートガバナンス・コードの導入により「必要性がない」という理由が通用しなくなったのは上述したとおりです。「経営が混乱する恐れ」とは、会社の事情を知らない第三者が社外取締役として経営に関わることにより、経営をかきまわされかねないという不安です。確かに「人となり」をよく理解しないまま社外取締役を選任してしまうと、想定していない軋轢が生じる可能性があります。しかし、社外監査役は「会社の事情を知らない第三者」ではありません。また、経営陣も社外監査役の「人となり」を理解していることから、安心して社外取締役への就任を要請できます。
(2)投資家層の拡大
「監査役」という制度は欧米にはないため、監査役を組み込んだガバナンス体制を欧米の機関投資家に対して説明するのは容易ではありませんでした。「監査等委員会設置会社への移行」とともに、取締役会決議で取締役会の決定事項の多くを取締役に委任できるよう定款を変更すれば、社外取締役を利用したモニタリングモデルという世界標準のガバナンスに近づけることができます。その結果、欧米の機関投資家に受け入れられやすくなり、投資家層の拡大が期待できます。
また、これは「社外監査役を社外取締役に横滑りさせるメリット」と言うよりは「監査等委員会設置会社の導入のメリット」ですが、監査等委員会設置会社への移行に伴い、取締役会の決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任することができるようになります(会社法399条の13第6項により定款変更が必要です)。これにより機動的な経営を実現できます。
【問題点】
「監査等委員会設置会社への移行と社外監査役の横滑り」には、次のような問題があることに留意が必要です。
(1)社内監査役の処遇
監査役のうち社外監査役は社外取締役に“横滑り”できたとしても、社内監査役(会社法上の用語ではありませんが、ここでは社外監査役の要件を充たさない監査役を指しています)の処遇をどうすればよいのか悩むところです。社内監査役は社外性を充たさないため社外取締役に就任することはできません。そこで、監査等委員である「社内取締役」に就任してもらう案が考えられます(2015年3月20日のニュース「監査等委員会設置会社への移行で監査役の処遇は?」を参照)。
ただ、責任が重くなることなどを理由に、監査等委員である取締役への移行を望まない監査役が出て来るかも知れません。そのような監査役には、退任後に顧問契約や雇用契約を締結し「監査等委員のスタッフ(※)」や「内部監査室」で監査役として培った知見を活かす仕事をしてもらう案が考えられます。
※ 監査等委員は「取締役」でなければ就任できないことから、監査等委員の職務をサポートするスタッフという位置付けにならざるを得ません。
(2)役員報酬の増加
改正会社法では、監査等委員会の最低人数は3名とされ、そのうち社外取締役である監査等委員は2名以上必要とされています。貴社には現在監査役が5名以上いることから、社外監査役2名が社外取締役に横滑りし、既存の取締役1名(ただし、監査等委員となる取締役は、監査等委員会設置会社もしくはその子会社の業務執行取締役、支配人その他の使用人を兼ねることができないので、業務執行から離れる必要があります)を加えれば、監査等委員会が成立します。監査役から社内取締役である監査等委員に“横滑り”したことで代表訴訟の矢面に立ちやすくなった代償として、監査役報酬よりも高い報酬が必要になる可能性がありますが、残りの監査役3名が退任すればその分の報酬を回すことも可能となります。さらに改正会社法では、社外役員であっても業務執行取締役でなければ責任限定契約を締結できるようになったことから、責任限定契約の締結により報酬増加を一定程度抑えることができないか交渉する余地があります。
(3)監査役のスキルと取締役のスキルの違い
社外監査役が社外取締役に横滑りするということは、会社側から見れば監査機能が監査役から監査等委員会に移行するに過ぎず、しかもそのメンバーも横滑りするのであれば、実質的には何も変わらないように見えます。しかし、「監査役に求められるスキル」と「社外取締役に求められるスキル」は異なっていることに留意が必要です。マイクロマネジメント思考で重箱の隅をつつくことに専念するあまり、社外取締役としての働きを忘れてしまうようでは困ります(2015年1月の課題「独立社外取締役の人選」参照)。とはいえ、重箱の隅をつつく人がゼロになってしまうのも避けなければなりません。こういった事態が生じかねないのも、ひとえに社外取締役が監査等委員を兼ねることで「取締役」と「監査役」という“2つの顔”を有することが原因です。これは制度自体がはらんでいる問題であり、就任した本人の気構えにも左右されるところではありますが、対策としては次の2つが考えられます。
・監査等委員の補助スタッフや監査遂行に必要な予算を十分に確保するとともに、内部監査機能を充実させることで、監査等委員の監査機能の比重を軽減する。
・社外監査役から横滑りした監査等委員に監査役時代からの意識転換を促すため、取締役のスキル向上を図るトレーニングを受けてもらう。
(4)任期の短縮
監査等委員会設置会社の取締役の任期は1年とされており、取締役は株主総会の洗礼を毎年受けることになります。定款で取締役の任期を1年にしている会社以外の会社では、監査等委員会設置会社への移行により取締役の任期が短縮されてしまいます(改正会社法332条3項)。
一方、監査等委員である取締役の任期は2年間です(改正会社法332条4項)。定款等で短縮はできません。そして、監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行した場合、監査役の任期に残りがあっても、これは引き継がれません。例えば監査役会設置会社での任期があと3年残っていた監査役が監査等委員会設置会社移行後に監査等委員である取締役に就任した場合、残り3年間の任期は引き継がれず、あくまで「監査等委員である取締役」としての任期(2年間)が適用されます。
監査等委員会設置会社移行へのハードル
監査等委員会設置会社に移行するためには定款を変更しなければならず、定款変更議案が可決されないリスクもあります。
また、社外監査役が“横滑り”により社外取締役になることは、社外監査役自身にとって「責任の増大」を意味します。上述のとおり、責任が増えるとともに株主からの代表訴訟を受けやすくなる分、報酬の増額を求められることも考えられるため、責任限定契約の締結も視野に入れるべきでしょう。また、役員報酬総額の増加を避けるためには、監査役全員を“横滑り”させずに、一部の監査役には退任してもらわざるを得なくなるかも知れません。
そもそも、社外監査役が社外取締役就任への要請に応じない事態(“横滑り”の拒否)も考えられます。監査等委員会設置会社には最低でも社外取締役2名が必要であり、社外取締役への就任要請に応じる社外監査役が2名いなければ、議論は振出しに戻ってしまいます。最近は社外取締役の案件を扱う人材紹介会社も増えているので、自社のネットワークから社外取締役を探せない場合には、利用を考えてみてもよいでしょう。