2015/04/03 支配株主がいる上場会社のガバナンス体制(会員限定)

 大塚家具の株主総会は、会社提案による取締役選任議案が可決し、元会長による株主提案は全て退けられる結果となったのは周知のとおり。臨時報告書によると、会社提案の取締役候補者は61%の賛成を得た一方、株主提案の候補者は34%の賛成率にとどまった。現社長(元会長の長女)によると、一般株主の80%近くが「会社提案」に賛成票を投じたという。少なくとも資本市場は現体制を支持したと言えるだろう。

 本件は“親子対決”となったことで殊更に世間の注目を集めることになったが、実は大塚家具のように親会社や創業家などの「支配株主」が存在している上場会社は少なくない。東証1・2部上場会社のコーポレートガバナンス報告書を調べると、そのうち約2割において支配株主が存在している。そして、過去には、支配株主の間で委任状争奪戦が繰り広げられたり、親会社が子会社トップをすげ替えたりといった事例も少なからず発生している。

支配株主 : (1)親会社(株主総会などの意思決定機関を支配する会社)、(2)主要株主(上場会社の議決権の過半数を占めている者)、(3)当該主要株主の近親者(二親等内の親族)、(4)当該主要株主及び当該主要株主の近親者が、議決権の過半数を所有している会社及び当該会社の子会社

 株式会社の実質的な所有者が株主である以上、このような経営権の争いが起こるのはやむを得ない面もあるが、問題は、その際に「少数株主」の利益がないがしろにされかねないということだ。株式を上場しているということは、株式を購入してくれる不特定多数の一般株主に報いるため、「企業価値の向上」に邁進することを資本市場に宣言しているのに等しい。上場会社である以上、支配株主ではなく、「少数株主」を尊重したガバナンスを構築することが求められる。親会社に有利な取引条件を受け入れない子会社のトップを更迭する、創業者が自身の成功体験を否定する後継者と経営権を争う、といった事態が横行するようでは、一般株主は安心して株式を購入・保有できないし、ひいてはわが国資本市場に対する信頼さえ損ないかねない。

少数株主 : ここでは非支配株主(支配株主以外の株主)を指す。

 コーポレートガバナンス・コードの【原則1-7 関連当事者間の取引】では、上場会社が主要株主等との取引をおこうなう場合には、会社や株主共同の利益を害することのないよう、取締役会は適切な手続を定めて監視を行うべきとされている。すなわち、利益相反を厳しく監視するモニタリング・ボードを確立することが求められているわけだが、大株主間の経営権争いなどは、利益相反の典型例の1つだろう。経営方針の変更が迫られているのならば取締役会で議論すべきだし、結果として経営者交代が必要ならばやはり取締役会が決断するべきである。大株主による利益相反問題が生じやすい上場会社こそ、企業価値を毀損するような経営上の混乱を一刻も早く収束させられるだけの独立性と実行力の伴ったコーポレートガバナンスを構築する必要性が高い。指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社への移行も検討に値しよう。

2015/04/02 (新用語・難解用語)投資家フォーラム

 投資家が企業との対話に向けた実力を高めるために、投資家間での知識や経験の共有、議論や情報発信等をするためのプラットフォーム。日本版スチュワードシップ・コード伊藤レポートでその設置が推奨されていることを受け(日本版スチュワードシップ・コード 指針7-3、伊藤レポートP.90参照)、経済産業省の企業報告ラボの中に「投資家フォーラム作業部会」を設ける形で、昨年(2014年)から有力運用会社の投資担当者やOBなど6名が、投資家が集うプラットフォームの条件やあり方について議論を重ねてきた。

 また、先月(2015年2月)27日には、対話シンポジウム「企業と投資家による持続的な価値創造を目指して~スチュワードシップの実践~」を開催、三菱重工のグローバル戦略の企画担当者、富士重工のCFOを招いて“模擬エンゲージメント”を開催(2015年1月16日のニュース「変革著しい三菱重工と富士重工が“模擬エンゲージメント”で投資家と対話」参照)、話題を呼んだが、「作業部会」はいよいよ「投資家フォーラム」を立ち上げる方向だ。

 作業部会は、投資家フォーラムの一般的な機能として、・・・

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2015/04/02 (新用語・難解用語)投資家フォーラム(会員限定)

 投資家が企業との対話に向けた実力を高めるために、投資家間での知識や経験の共有、議論や情報発信等をするためのプラットフォーム。日本版スチュワードシップ・コード伊藤レポートでその設置が推奨されていることを受け(日本版スチュワードシップ・コード 指針7-3、伊藤レポートP.90参照)、経済産業省の企業報告ラボの中に「投資家フォーラム作業部会」を設ける形で、昨年(2014年)から有力運用会社の投資担当者やOBなど6名が、投資家が集うプラットフォームの条件やあり方について議論を重ねてきた。

 また、先月(2015年2月)27日には、対話シンポジウム「企業と投資家による持続的な価値創造を目指して~スチュワードシップの実践~」を開催、三菱重工のグローバル戦略の企画担当者、富士重工のCFOを招いて“模擬エンゲージメント”を開催(2015年1月16日のニュース「変革著しい三菱重工と富士重工が“模擬エンゲージメント”で投資家と対話」参照)、話題を呼んだが、「作業部会」はいよいよ「投資家フォーラム」を立ち上げる方向だ。

 作業部会は、投資家フォーラムの一般的な機能として、(1)投資家の見方を集約して経営者に提示する情報発信機能、(2)機関投資家の実力を高めるための教育機能、(3)英国のように機関投資家が連携して行動することを手助けする集団化機能――の3つを挙げているが、企業にとって気になるのは(3)の「集団化機能」だろう。これは、複数の機関投資家が連携し、トータルの株式保有割合を背景に共同で企業との対話に臨む集団的エンゲージメントを指しており、実現すれば企業にとっては大きなプレッシャーとなり得る。

 ただ、今回立ち上げる投資家フォーラムが重視するのは(1)の情報発信機能である。具体的には、運営委員会のような組織を作って取り上げるトピックを決め、これについて参加して議論したうえで、「投資家フォーラム」名で議論の成果を外部に発信するという。何を取り上げるかは、市場への影響(インプリケーション)の有無を判断基準とし、個別企業の問題は対象外とする。また、忌憚のない意見交換を実現するため、参加者の個人名や所属組織名は匿名にする。

 一方、(3)の集団化機能は、大量保有報告書制度や公開買付制度という法規制上の問題(詳細は集団的エンゲージメント)が解決し、機関投資家による高い株式保有比率が英国の1980年代、1990年代のレベル(上場会社株式の3分の1程度を国内主要機関投資家が保有)まで高まらない限り、実現は難しいと言われている。また、投資家フォーラムの参加者は「運用会社」そのものではなく、あくまで機関投資家や運用会社で投資実務の経験を持つ「個人」とされていることも、集団的エンゲージメントが行われにくいと予想される理由の1つに挙げられる(運用会社各社の利害は時に対立しかねないことから、個人資格での参加としたものと考えられる)。

 投資家フォーラムは、企業からの質問や問題提起も受け付け、「企業に対する窓口」として機能したいという(ただし、個別企業と投資家との面談の斡旋はしない)。上述のとおり同フォーラムはあくまで「個人参加」になるとはいえ、これまで日本には機関投資家同士の緊密なコミュニティーが存在していなかっただけに、1つの“集団”としての投資家フォーラムがどのような資本市場においてどのような役割を果たしていくのか、その活動に注目していきたい。

2015/04/01 【2015年3月の課題】社外取締役ゼロの状況の解消:解答(会員限定)

社外取締役ゼロの会社への包囲網が狭まる

 改正会社法により、監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるものに限る)であって、その発行する株式について有価証券報告書の提出義務を有する会社で社外取締役を置いていない会社(多くの上場会社が該当します)は、定時株主総会において「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明する必要が生じました。この「社外取締役を置くことが相当でない理由」は、単純な「社外取締役を置かない理由」や「社外取締役を置かなくても構わないと判断した理由」とは異なり、社外取締役を置くことが当該株式会社の企業価値にマイナスの影響を及ぼすような事情の説明を求められます。「社外取締役を置くと●●といったことが考えられ、それは企業価値にマイナスの影響がある」といった説明を説得的に行い、株主を納得させるのは非常に困難です。

 また、社外取締役の2名以上選任を求めるコーポレートガバナンス・コードの導入により、社外取締役を2名以上選任していない上場会社は証券取引所に提出する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で、 コードに従わない理由の「エクスプレイン」(説明)を求められます。この「エクスプレイン」は上述の会社法上の「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明と異なり、ストレートでプレーンな説明で十分であり、「なぜコードを“Comply”していないか、代わりにどういう体制を採用しているか」を淡々と説明すればOKです(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」を参照)。また、コードに従わない会社が上場廃止のようなペナルティを課されるわけでもありません。とはいえ、上場会社の多くが「コンプライ」する(コードに従う)と見込まれるだけに、「コンプライ」せずに「エクスプレイン」を選択した上場会社はどうしても目立ってしまいます。投資家から「ガバナンスに対して後ろ向きの会社」との烙印を押されかねません。

 このような会社法の要請やコーポレートガバナンス・コードへの対応、投資家の反応を考慮すると、社外取締役未選任の上場会社では、2名の社外取締役選任を真剣に検討しなければなりません。すでに社外取締役の候補者がおり、就任に内諾を得ている会社は何も問題ありません。あとは報酬について合意するだけです。

 問題は、社外取締役の候補者がいない会社です。経営陣の人的なつながりで探してみたものの、なかなか適切な人材に巡り合えないということもあるでしょうし、目星を付けた人に「業績低迷」や「オーナー色が強過ぎる」などの理由で就任を断られるケースもあるでしょう。

 このように社外取締役候補者がいない会社同士で、お互いに社外取締役を出し合い、両社が同時に社外取締役ゼロ問題を解決するというウルトラCも考えられます。このような“相互就任社外取締役”は、会社法上禁止されているわけではありません(もちろん、会社法上の社外性の要件を充たす必要はありますが、資本関係のない会社の役員同士であれば、会社法上の社外性の要件を充たすのが通常です)。もっとも、証券取引所に提出する独立役員届出書に「社外役員の相互就任の関係にある先の出身者」である旨の属性情報を記載しなければならず、投資家からは(その会社に投資する上で)マイナス材料と判断される可能性もあります。

「監査等委員会設置会社への移行」という打開策のメリットと問題点

 社外取締役がゼロかつ候補者もゼロの会社で是非検討していただきたい打開策が、「監査等委員会設置会社への移行」による「社外監査役の社外取締役への横滑り」です。

 監査等委員会設置会社では監査役(会)の代わりに監査等委員会が設置されます。監査等委員会は監査等委員である取締役3名以上で構成されます。そして、監査等委員の過半数は社外取締役でなければなりません。なお、常勤の監査等委員を置く必要はありません。

 監査役会設置会社であれば、社外監査役が必ず2名以上います。その社外監査役は、監査等委員会設置会社への移行に伴い、監査等委員である社外取締役に就任できます。社外監査役から社外取締役に“横滑り”するイメージです。これにより、外部から社外取締役を招へいすることなく、社外取締役2名を選任できます。

【メリット】
 監査等委員会設置会社への移行により社外監査役を社外取締役に横滑りさせるメリットは次のとおりです。

(1)会社の事情に詳しくない者が経営に携わるリスクを回避
 社外取締役ゼロの上場会社が現在まで社外取締役を設置してこなかった理由としては、「必要がなかった」ことと「経営が混乱する恐れ」の2つが考えられます。会社法の改正やコーポレートガバナンス・コードの導入により「必要性がない」という理由が通用しなくなったのは上述したとおりです。「経営が混乱する恐れ」とは、会社の事情を知らない第三者が社外取締役として経営に関わることにより、経営をかきまわされかねないという不安です。確かに「人となり」をよく理解しないまま社外取締役を選任してしまうと、想定していない軋轢が生じる可能性があります。しかし、社外監査役は「会社の事情を知らない第三者」ではありません。また、経営陣も社外監査役の「人となり」を理解していることから、安心して社外取締役への就任を要請できます。

(2)投資家層の拡大
 「監査役」という制度は欧米にはないため、監査役を組み込んだガバナンス体制を欧米の機関投資家に対して説明するのは容易ではありませんでした。「監査等委員会設置会社への移行」とともに、取締役会決議で取締役会の決定事項の多くを取締役に委任できるよう定款を変更すれば、社外取締役を利用したモニタリングモデルという世界標準のガバナンスに近づけることができます。その結果、欧米の機関投資家に受け入れられやすくなり、投資家層の拡大が期待できます。

 また、これは「社外監査役を社外取締役に横滑りさせるメリット」と言うよりは「監査等委員会設置会社の導入のメリット」ですが、監査等委員会設置会社への移行に伴い、取締役会の決議によって重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任することができるようになります(会社法399条の13第6項により定款変更が必要です)。これにより機動的な経営を実現できます。

【問題点】
 「監査等委員会設置会社への移行と社外監査役の横滑り」には、次のような問題があることに留意が必要です。

(1)社内監査役の処遇
 監査役のうち社外監査役は社外取締役に“横滑り”できたとしても、社内監査役(会社法上の用語ではありませんが、ここでは社外監査役の要件を充たさない監査役を指しています)の処遇をどうすればよいのか悩むところです。社内監査役は社外性を充たさないため社外取締役に就任することはできません。そこで、監査等委員である「社内取締役」に就任してもらう案が考えられます(2015年3月20日のニュース「監査等委員会設置会社への移行で監査役の処遇は?」を参照)。

 ただ、責任が重くなることなどを理由に、監査等委員である取締役への移行を望まない監査役が出て来るかも知れません。そのような監査役には、退任後に顧問契約や雇用契約を締結し「監査等委員のスタッフ()」や「内部監査室」で監査役として培った知見を活かす仕事をしてもらう案が考えられます。

 監査等委員は「取締役」でなければ就任できないことから、監査等委員の職務をサポートするスタッフという位置付けにならざるを得ません。

(2)役員報酬の増加
 改正会社法では、監査等委員会の最低人数は3名とされ、そのうち社外取締役である監査等委員は2名以上必要とされています。貴社には現在監査役が5名以上いることから、社外監査役2名が社外取締役に横滑りし、既存の取締役1名(ただし、監査等委員となる取締役は、監査等委員会設置会社もしくはその子会社の業務執行取締役、支配人その他の使用人を兼ねることができないので、業務執行から離れる必要があります)を加えれば、監査等委員会が成立します。監査役から社内取締役である監査等委員に“横滑り”したことで代表訴訟の矢面に立ちやすくなった代償として、監査役報酬よりも高い報酬が必要になる可能性がありますが、残りの監査役3名が退任すればその分の報酬を回すことも可能となります。さらに改正会社法では、社外役員であっても業務執行取締役でなければ責任限定契約を締結できるようになったことから、責任限定契約の締結により報酬増加を一定程度抑えることができないか交渉する余地があります。

(3)監査役のスキルと取締役のスキルの違い
 社外監査役が社外取締役に横滑りするということは、会社側から見れば監査機能が監査役から監査等委員会に移行するに過ぎず、しかもそのメンバーも横滑りするのであれば、実質的には何も変わらないように見えます。しかし、「監査役に求められるスキル」と「社外取締役に求められるスキル」は異なっていることに留意が必要です。マイクロマネジメント思考で重箱の隅をつつくことに専念するあまり、社外取締役としての働きを忘れてしまうようでは困ります(2015年1月の課題「独立社外取締役の人選」参照)。とはいえ、重箱の隅をつつく人がゼロになってしまうのも避けなければなりません。こういった事態が生じかねないのも、ひとえに社外取締役が監査等委員を兼ねることで「取締役」と「監査役」という“2つの顔”を有することが原因です。これは制度自体がはらんでいる問題であり、就任した本人の気構えにも左右されるところではありますが、対策としては次の2つが考えられます。
・監査等委員の補助スタッフや監査遂行に必要な予算を十分に確保するとともに、内部監査機能を充実させることで、監査等委員の監査機能の比重を軽減する。
・社外監査役から横滑りした監査等委員に監査役時代からの意識転換を促すため、取締役のスキル向上を図るトレーニングを受けてもらう。

(4)任期の短縮
 監査等委員会設置会社の取締役の任期は1年とされており、取締役は株主総会の洗礼を毎年受けることになります。定款で取締役の任期を1年にしている会社以外の会社では、監査等委員会設置会社への移行により取締役の任期が短縮されてしまいます(改正会社法332条3項)。

 一方、監査等委員である取締役の任期は2年間です(改正会社法332条4項)。定款等で短縮はできません。そして、監査役会設置会社が監査等委員会設置会社に移行した場合、監査役の任期に残りがあっても、これは引き継がれません。例えば監査役会設置会社での任期があと3年残っていた監査役が監査等委員会設置会社移行後に監査等委員である取締役に就任した場合、残り3年間の任期は引き継がれず、あくまで「監査等委員である取締役」としての任期(2年間)が適用されます。

監査等委員会設置会社移行へのハードル

 監査等委員会設置会社に移行するためには定款を変更しなければならず、定款変更議案が可決されないリスクもあります。

 また、社外監査役が“横滑り”により社外取締役になることは、社外監査役自身にとって「責任の増大」を意味します。上述のとおり、責任が増えるとともに株主からの代表訴訟を受けやすくなる分、報酬の増額を求められることも考えられるため、責任限定契約の締結も視野に入れるべきでしょう。また、役員報酬総額の増加を避けるためには、監査役全員を“横滑り”させずに、一部の監査役には退任してもらわざるを得なくなるかも知れません。

 そもそも、社外監査役が社外取締役就任への要請に応じない事態(“横滑り”の拒否)も考えられます。監査等委員会設置会社には最低でも社外取締役2名が必要であり、社外取締役への就任要請に応じる社外監査役が2名いなければ、議論は振出しに戻ってしまいます。最近は社外取締役の案件を扱う人材紹介会社も増えているので、自社のネットワークから社外取締役を探せない場合には、利用を考えてみてもよいでしょう。

2015/04/01 最高裁が収益還元法における減価を認めなかった理由は?

 上場会社にとって魅力ある未上場会社はしばしばM&Aの対象となるが、今後行われるM&Aのコスト(=株価)を引き上げかねない決定が先月(2015年3月)16日に最高裁で下され、話題を呼んでいる。このほど上場会社役員ガバナンスフォーラムはその文書を入手したので、内容の詳細を紹介したい。

 本件は、吸収合併により消滅することとなるA社の株主で、吸収合併に反対した甲が、A社に対して甲の有する株式を「公正な価格」で買い取るよう求め、裁判所に価格決定の申立てをした事案である。

 A社は発行済株式の総数338万7千株の非上場会社であり、同社の株式には、譲渡する場合に取締役会の承認が必要となる「譲渡制限 」が付いていた。そのA社は平成24年6月6日、上場会社B社との間で、同年10月1日付けで吸収合併(A社が吸収合併される側)する旨の合併契約を締結した。

 当該合併契約は、平成24年8月8日に開催されたA社の株主総会で承認されたが、A社の株式32万5950株(発行済株式総数の約9.6%)を保有する甲はこの吸収合併に反対し、同年9月12日、A社に対し「株式を公正な価格で買い取るよう」請求、同年11月21日、地裁に対し、株式の買取価格決定の申立てをした。

 裁判所の 鑑定人を務めた乙公認会計士は、A社株式は「収益還元法」により評価すべきとしたうえで、A社において将来期待される純利益を予測してその現在価値を合計すると、約3億6158万3000円になるとした(1株あたり106円)。ただ、A社のような非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが難しいため、「非流動性ディスカウント」として上記金額から25%の減価を行うべきとし、A社の株式の公正な買取価格は「1株あたり80円」であるとした。

収益還元法 : 将来期待される純利益を基に株式の現在の価格を算定する方法。「将来予測される単年度の税引後純利益 ÷ 資本還元率)÷ 発行済株式総数」により株価を算定する。「資本還元率」は市場金利、長期国債利回り、評価対象会社の調達金利等をベースとし、危険率を加味して決定する。

 地裁、高裁は乙公認会計士の意見を採用したが、これは、吸収合併に反対して会社から退出することを選択した株主には、「吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況」を確保すべきであるとの考えに基づくもの。実際、非上場株式であるA社の株式の換価は困難であり、このことはA社株式の経済的価値自体に影響を与えていることから、株価の算定にあたっては「換価の困難性」が考慮されてしかるべきとした。

 これに対し最高裁は、・・・

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2015/04/01 最高裁が収益還元法における減価を認めなかった理由は?(会員限定)

 上場会社にとって魅力ある未上場会社はしばしばM&Aの対象となるが、今後行われるM&Aのコスト(=株価)を引き上げかねない決定が先月(2015年3月)16日に最高裁で下され、話題を呼んでいる。このほど上場会社役員ガバナンスフォーラムはその文書を入手したので、内容の詳細を紹介したい。

 本件は、吸収合併により消滅することとなるA社の株主で、吸収合併に反対した甲が、A社に対して甲の有する株式を「公正な価格」で買い取るよう求め、裁判所に価格決定の申立てをした事案である。

 A社は発行済株式の総数338万7千株の非上場会社であり、同社の株式には、譲渡する場合に取締役会の承認が必要となる「譲渡制限 」が付いていた。そのA社は平成24年6月6日、上場会社B社との間で、同年10月1日付けで吸収合併(A社が吸収合併される側)する旨の合併契約を締結した。

 当該合併契約は、平成24年8月8日に開催されたA社の株主総会で承認されたが、A社の株式32万5950株(発行済株式総数の約9.6%)を保有する甲はこの吸収合併に反対し、同年9月12日、A社に対し「株式を公正な価格で買い取るよう」請求、同年11月21日、地裁に対し、株式の買取価格決定の申立てをした。

 裁判所の 鑑定人を務めた乙公認会計士は、A社株式は「収益還元法」により評価すべきとしたうえで、A社において将来期待される純利益を予測してその現在価値を合計すると、約3億6158万3000円になるとした(1株あたり106円)。ただ、A社のような非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが難しいため、「非流動性ディスカウント」として上記金額から25%の減価を行うべきとし、A社の株式の公正な買取価格は「1株あたり80円」であるとした。

収益還元法 : 将来期待される純利益を基に株式の現在の価格を算定する方法。「将来予測される単年度の税引後純利益 ÷ 資本還元率)÷ 発行済株式総数」により株価を算定する。「資本還元率」は市場金利、長期国債利回り、評価対象会社の調達金利等をベースとし、危険率を加味して決定する。

 地裁、高裁は乙公認会計士の意見を採用したが、これは、吸収合併に反対して会社から退出することを選択した株主には、「吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況」を確保すべきであるとの考えに基づくもの。実際、非上場株式であるA社の株式の換価は困難であり、このことはA社株式の経済的価値自体に影響を与えていることから、株価の算定にあたっては「換価の困難性」が考慮されてしかるべきとした。

 これに対し最高裁は、地裁、高裁の判断を否定し、A社株式の買取価格を、非流動性ディスカウントを行う前の「106円」とした。最高裁は、非上場会社の株価をどのような評価手法で算定ずるかは裁判所の「合理的な裁量」に委ねられているとはいえ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定)、ある評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合には、その評価手法の内容、性格等からして「考慮することが相当でない要素」を考慮して価格を決定することは許されないとした。そのうえで、「会社法が吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権を付与している趣旨は、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする一方で、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配することにある」とし、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない「市場における取引価格との比較」により更に減価を行うことは相当でないとの判断を下している。

 今回の決定は最高裁によるものであるだけに拘束力が強く、今後、非上場株式のM&Aや少数株主のスクイーズアウト時に株価算定を行う場合には、採用した評価方法に含まれていない要素を考慮して安易に株価を減額することは難しくなる。収益還元法を使いながら流動性リスクを理由とする非流動性ディスカウントを行う株価評価実務は広く行われていただけに影響は大きい。もっとも、従来は減額が安易に行われていたことも事実だ。本決定は収益還元法を前提にしたものであり、それ以外の評価方法(配当還元方式やDCF法など)を採用している場合にも本決定の考え方が及ぶのかどうかは、今後の判例の積み重ね次第である。今後は減額に慎重になるケースが増えることが見込まれ、非上場会社のM&A等の対価の抑制が課題になりそうだ。

スクイーズアウト : 対価を支払い株式を取得することで追い出しを図ること。少数株主を締め出して100%の持分を取得する際などに用いられる。

2015/04/01 【2015年4月の課題】最高経営責任者の後継者の計画

2015年4月の課題

 今年(2015年)6月1日からコーポレートガバナンス・コードが施行されます。東京証券取引所市場第1部・第2部に上場している会社は、コードの基本原則のみならず、原則や補充原則についても「コンプライ」(コードに従う)するか、あるいはコーポレート・ガバナンス報告書で「エクスプレイン」(コードに従わない場合に、その理由を説明)するか、どちらかの選択を迫られることになります。コードは、コンプライしやすいものから、どうやってコンプライしたらよいのか考え込んでしまうものまで様々です。コードの中でも補充原則4-1③「取締役会は最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべき」は、どこまでやればコンプライしたと言えるのか、頭を悩ませるコードの代表格です。

 役員定年制を導入していない貴社(市場第1部に上場)では、還暦を過ぎた取締役が取締役会の過半を占めています。なかでも昨年に古希を迎えた社長は、社長在任期間が20年を超える最年長取締役で、サラリーマン社長にしては異例の“長期政権”を維持しています。つい先日は、中途入社させた長男を、スピード昇進を経て副社長に大抜擢し、社内外を驚かせたばかり。「持病の悪化によりそろそろ引退も近いのでは?」といった周囲の声をよそに、最近では「100歳まで頑張る!」と血気盛んです。

 “政権の長期化”に伴い社長の周りにはイエスマンが増え、社内には“ワンマン”社長に引退を勧告できる人材がいません。最近では「会社を取り巻く環境がここ数年で大きく変わったにもかかわらず、過去の成功体験が足かせになり、会社は環境変化に適応できていない」との指摘をアナリストや機関投資家から受けることが多くなりました。

 社外取締役であるあなたは、上述したコードの補充原則4-1③への対応方針(コンプライすべきか、エクスプレインにとどめるか)についてどのように考えているのか、IR担当取締役より質問を受けました。あなたの考えを述べてください。

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2015/03/31 2015年3月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
 2015年3月に不正競争防止法の改正法案が国会に提出されました。これには、営業秘密侵害行為に対して罰金の引上げが行われるとともに、海外への技術流出に対して罰金を重くする海外重課や、犯罪収益の没収規定が盛り込まれています。海外への技術流出への抑止力の向上が期待されます。

こちらの記事で再確認!
2015/03/26 技術情報流出防止のカギとなる「抑止力」(会員限定)

2015/03/31 2015年3月度チェックテスト第10問解答画面(正解)

正解です。
 2015年3月に不正競争防止法の改正法案が国会に提出されました。これには、営業秘密侵害行為に対して罰金の引上げが行われるとともに、海外への技術流出に対して罰金を重くする海外重課や、犯罪収益の没収規定が盛り込まれています。海外への技術流出への抑止力の向上が期待されます。

こちらの記事で再確認!
2015/03/26 技術情報流出防止のカギとなる「抑止力」(会員限定)

2015/03/31 2015年3月度チェックテスト第9問解答画面(不正解)

不正解です。
 企業会計基準委員会(ASBJ)は、「包括的な収益認識会計基準」を策定する方針を明らかにしています。この「包括的な収益認識会計基準」には、IFRSの影響を受け、「代理人と扱われた場合の損益計算書の売上には手数料相当額しか計上できない」という会計処理が明示される可能性があります。代理人と扱われる可能性が高い取引形態として「消化仕入れ」が考えられます。損益計算書に計上される売上高が大きく変わる可能性を秘めているだけに、「包括的な収益認識会計基準」の動向には留意が必要です。

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2015/03/25 収益認識会計の導入で影響を受ける業種は?(会員限定)