2015/04/10 発明は「従業員」から「会社」のものへ、残されたリスク要因は?(会員限定)

難航を極めていた「職務発明制度」の見直しがようやく今国会で実現しそうだ。今回の見直しは、一言で言えば発明について特許を受ける権利を「従業員のもの」から「会社のもの」へと変えるものであり、会社にとって有利な内容となっているが、会社側にもリスク要因は残っている。以下、解説しよう。

職務発明制度とは、従業者が職務上行なった発明(=職務発明)について、法人が特許権を取得する場合の権利関係やその対価(報酬)の取扱いを定めたもの(特許法第35条)。我が国の職務発明制度の最大の特徴(会社にとっては好ましくない特徴)は、次の2点にある。

(1)職務発明についての特許を受ける権利は、まず従業者に発生する(従業者帰属)。従業者に発生した権利は、法人が特許出願をする際に、従業者から法人に譲渡される。
(2)従業者は、特許を受ける権利を法人に譲渡した場合、「相当の対価」を請求できる権利を有する。

つまり、現行の職務発明制度上、会社が特許申請を行うために必要な権利である「特許を受ける権利(特許権ではないことに注意)」は従業員に発生することになっており(従業者帰属)、会社が特許を取得するためには、この権利を「相当の対価」と引き換えに、従業員から会社に譲渡してもらう必要があるわけだ。

このような仕組みは、「従業者の権利を保障し、もって発明奨励に寄与する」趣旨で大正10年から採用されているが、産業界からの評判は芳しくない。会社にとって権利が不安定なだけでなく、「相当の対価」の算定も困難であり、訴訟リスクが高いからだ。

そもそも、職務上の発明について従業員が特許の出願・登録を行い、その後も維持費を支払い続けるということは考えにくい。また、企業がその権利を活用して製品やサービスに展開することが通常である以上、従業員が「特許を受ける権利」を保有し続けるメリットは乏しい。実際、諸外国では、職務発明の特許を受ける権利ははじめから法人に帰属(法人帰属)としているところがほとんどとなっている。

こうした中、一昨年(2013年)から政府内で現行の職務発明制度の見直し議論が始まったものの、労働法学者や労働団体から「発明者に対する処遇の切り下げ」に対する懸念が主張され続け、議論が暗礁に乗り上げていたのは2014年8月19日のニュース「「特許を受ける権利」の帰属を企業に 職務発明制度の見直し議論が迷走」でお伝えしたとおりだ。その結果、当初予定されていた「2014年夏までに結論を得て秋の臨時国会に改正法案提出」というスケジュールは流れることとなったが、ようやく先月(2015年3月)13日、特許法の改正法案が閣議決定され、国会に上程されている。改正案のポイントは以下の3点。

(1)契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ法人に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から法人に帰属するものとする。
(2)従業者は、特許を受ける権利を取得させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有するものとする。
(3)経済産業大臣は、発明を奨励するため、産業構造審議会の意見を聴いて、 相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針を定めるものとする。

このうち最大の目玉となるのが(1)だ。これは、あらかじめ契約や勤務規則(以下、「職務発明規程」)で定めれば、会社(法人)は、「従業者から権利の譲渡を受けることなく」特許を受ける権利を保有することができることを意味している。職務発明を「従業者帰属」から「法人帰属」に転換させるパラダイムシフト的な改正と言っていいだろう。

法人帰属を「職務発明規程で定めを置いたときは」との条件付きにしたのは、従業者帰属のままとしたい企業や、従業者帰属のほうが実態に合致すると考える大学や研究機関、あるいは職務発明規程の整備等が困難(すなわち、知財管理にリソースを割けない)な中で職務発明が自動的に企業帰属となることによる従業員とのトラブル発生を避けたい中小企業に配慮したものとされる。実際、中小企業団体である日本商工会議所は、一律の制度変更に反対する趣旨の意見書を提出しているが(「職務発明制度の見直しに際しての円滑な移行に関する意見」参照)、権利の譲渡に伴うリスクは、職務発明規程の整備等が困難な中小企業にこそ潜在するだけに、今後は特許庁主導による中小企業に対する周知・啓蒙活動が重要になりそうだ。

従業者帰属から法人帰属へと転換した職務発明制度だが、(2)は、従業者は「相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利」を引き続き有することを示している。「法人帰属」となればもはや従業員が法人に対し権利を譲渡することはなくなるため、論理的には「対価」という概念はなくなるが、“発明奨励”の観点から、従業者にはこの権利が保障されることになった。ただし、現行制度では「対価=金銭で換算されるもの」であるが、対価という概念がなくなったことから、「金銭以外の経済上の利益」も認められることとなった。「金銭以外の経済上の利益」としては例えば以下のようなものが考えられる。

(1)金銭以外のインセンティブ施策の提案
・社内での認知、自己実現の場の提供、名誉、処遇
・海外留学の機会提供
(2)金銭インセンティブ施策の提案
・事業立上資金、研究費増額
・社内ベンチャーキャピタル制度
(3)組織・チームワークを対象とした表彰制度の提案
・事業貢献に寄与した研究/開発チーム全体を表彰
・マーケティング、開発、デザイン、プロモーションが横断的なチームを表彰

実際、社内の表彰制度はなかなかモチベーションアップにつながっているとの声はよく聞かれる。また、研究費の増額も非常に効果が高いようだ。

(3)は、(2)の経済上の利益の決定に関する指針を定めるもの。この指針は、経済上の利益の内容を決定するための基準を策定する際に使用者と従業者との間で行なわれる「①協議の状況、②策定された基準の開示の状況、③意見聴取の状況」が不合理なものとならないようにすることを目的とする。ここでのポイントは、この方針が「法文上根拠」を有するということだ。現行の職務発明制度には対価決定に関して法的な根拠を有する指針が存在しなかったため、会社にとっては「対価訴訟」における予見可能性が低かったとされる。職務発明制度の改正により「対価」という概念はなくなるが、(2)のとおり、従業者は「相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利」は引き続き有する。会社は上記指針に従って経済上の利益を付与すれば、適切に従業者を処遇したとみなされることとなることから、企業の予見可能性が高まることになりそうだ。

ただ、現時点ではこの指針の具体的な内容や検討体制は明らかになっていない。基本的には、従業員との間でどのようなプロセスを踏んで利益の内容を決定すればよいかといった「手続面」が定められるものみられるが、産業界には、「指針に具体的な金額が書き込まれるのではないか」との懸念もある。指針に関する議論については、進展があり次第続報したい。

2015/04/09 (新用語・難解用語)MSCIジャパンインデックス

 米国のMSCI社が開発した株価指数で、日本の上場株式の時価総額の85%以上をカバーする銘柄の時価総額をベースに算出される。日経平均TOPIXと同様の性格を持つが、TOPIXや日経平均は東証一部上場銘柄のみを組入れ対象としているのに対し、MSCIジャパンインデックスでは、東証一部以外に上場する銘柄やREITも対象としている点に特徴がある。また、MSCIにおける「時価総額」は浮動株調整が行われている。機関投資家に利用してもらうことを強く意識している証しと言える。このほか、日経平均もTOPIXも配当落ちするのに対し、MSCIは配当落ちしないという点も特徴である。

 ちなみに、MSCIとは元々は「モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル」の略であるが、米モルガン・スタンレーは保有していたMSCIの株式を2009年に全て売却している(売却代金は約5億9600万ドル。それに伴い、現在は「MSCI」が正式名称になっている)。

日経平均 : 東証第一部上場銘柄の中から、業種のバランスも考慮しつつ選定した流動性の高い225銘柄の動きを反映した株価指数のこと。

TOPIX : 東証一部上場の全銘柄の動きを反映した株価指数のこと。

浮動株調整 : 持合株式や親会社株式など、市場に出回らない株式を除き、浮動株(市場に出回っている株式)だけで時価総額を計算すること。

 MSCIジャパンインデックスの組入銘柄の見直しは四半期に1度実施されているが、グローバル投資家はこのMSCIジャパンインデックスに組み入れられているかどうかを日本株投資のベンチマークとすることが多く、同インデックスがグローバル投資家に与える影響力は大きい。特にインデックス運用では、同指数から外れた銘柄は自動的に売却されることになる。このため、同インデックスから外れた銘柄の株価が急落するケースもある(逆に言うと、MSCIジャパンインデックスに新たに組み入れられれば、グローバル投資家に株式を買ってもらえることになる)。

インデックス運用 : TOPIX、MSCIなど、代表的な指数のパフォーマンスと連動することを目指して運用する手法のこと。

 2015年3月31日現在、314銘柄がMSCIジャパンインデックスに組み入れられている。組入れ銘柄のうち時価総額のトップ10は以下のとおり。・・・

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2015/04/09 (新用語・難解用語)MSCIジャパンインデックス(会員限定)

 米国のMSCI社が開発した株価指数で、日本の上場株式の時価総額の85%以上をカバーする銘柄の時価総額をベースに算出される。日経平均TOPIXと同様の性格を持つが、TOPIXや日経平均は東証一部上場銘柄のみを組入れ対象としているのに対し、MSCIジャパンインデックスでは、東証一部以外に上場する銘柄やREITも対象としている点に特徴がある。また、MSCIにおける「時価総額」は浮動株調整が行われている。機関投資家に利用してもらうことを強く意識している証しと言える。このほか、日経平均もTOPIXも配当落ちするのに対し、MSCIは配当落ちしないという点も特徴である。

 ちなみに、MSCIとは元々は「モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル」の略であるが、米モルガン・スタンレーは保有していたMSCIの株式を2009年に全て売却している(売却代金は約5億9600万ドル。それに伴い、現在は「MSCI」が正式名称になっている)。

日経平均 : 東証第一部上場銘柄の中から、業種のバランスも考慮しつつ選定した流動性の高い225銘柄の動きを反映した株価指数のこと。

TOPIX : 東証一部上場の全銘柄の動きを反映した株価指数のこと。

浮動株調整 : 持合株式や親会社株式など、市場に出回らない株式を除き、浮動株(市場に出回っている株式)だけで時価総額を計算すること。

 MSCIジャパンインデックスの組入銘柄の見直しは四半期に1度実施されているが、グローバル投資家はこのMSCIジャパンインデックスに組み入れられているかどうかを日本株投資のベンチマークとすることが多く、同インデックスがグローバル投資家に与える影響力は大きい。特にインデックス運用では、同指数から外れた銘柄は自動的に売却されることになる。このため、同インデックスから外れた銘柄の株価が急落するケースもある(逆に言うと、MSCIジャパンインデックスに新たに組み入れられれば、グローバル投資家に株式を買ってもらえることになる)。

インデックス運用 : TOPIX、MSCIなど、代表的な指数のパフォーマンスと連動することを目指して運用する手法のこと。

 2015年3月31日現在、314銘柄がMSCIジャパンインデックスに組み入れられている。組入れ銘柄のうち時価総額のトップ10は以下のとおり。

順位 企業名 時価総額
(単位:10億ドル)
トヨタ自動車 191.14
三菱UFJフィナンシャル・グループ 79.08
ソフトバンク 55.91
ホンダ技研工業 53.06
三井住友フィナンシャルグループ 48.83
ファナック 41.94
みずほフィナンシャルグループ 40.82
キヤノン 40.16
KDDI 39.68
10 武田薬品工業 39.51

 業種別には、一般消費財が22.5%、工業が19.4%、金融が18.52%、ITが11.48% 生活必需品が6.92%、ヘルスケアが6.86%、素材が6.1%、通信が5.02%、公益(Utilities)が2.32%、エネルギーが0.83%となっている。

 なお、東京証券取引所には、MSCIジャパンインデックスとの連動を目指すETF「上場MSCIジャパン株(上場インデックスファンド日本株式)」が上場している。また、MSCIが提供する指数は地域・国別・産業別に多岐にわたっており、これらに連動したETFが複数東証に上場している(例えば、MAXIS 海外株式(MSCIコクサイ))。

2015/04/08 ビッグデータ有効活用の鍵を握る「人の力」

 最近の上場企業の中期経営計画を見ると、「ビッグデータの活用による潜在的な顧客ニーズの掘り起こし」といった記載が目に付く。

 実際、ビッグデータの活用は急速に進んでいる。インターネット上ではユーザーの行動パターンが解析され、ターゲットを絞った広告や消費者の属性別のクーポンなどが効果的に提供される。米国の医療業界では、ここ数年、フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上にある個人の医療情報を収集して販売するデータ・マイニング会社が急増している。その数は優に千社を超えるという。あるデータ・マイニング会社は数千万人について病状ごとにリスト化された医療情報を保有しており、これを製薬会社などに提供している。その取引規模は70億ドルに上るという調査結果もある。製薬会社はこの医療情報に基づき、各人の病状に応じた薬を勧めたり、症例が少ない特殊な疾患の患者を探し出して治療研究に役立てたりしている(ただし、こうした利用方法について個人情報保護の観点から問題視する声もある)。また、消費者の購入履歴の解析による潜在的なニーズの把握は、小売業界や金融業界などにとって極めて有用であり、今後もその普及が進むのは間違いないだろう。

データ・マイニング : 巨大なデータの集まりの中から有用な情報を抽出すること。

 ただ、ビッグデータから導き出される情報は・・・

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2015/04/08 ビッグデータ有効活用の鍵を握る「人の力」(会員限定)

 最近の上場企業の中期経営計画を見ると、「ビッグデータの活用による潜在的な顧客ニーズの掘り起こし」といった記載が目に付く。

 実際、ビッグデータの活用は急速に進んでいる。インターネット上ではユーザーの行動パターンが解析され、ターゲットを絞った広告や消費者の属性別のクーポンなどが効果的に提供される。米国の医療業界では、ここ数年、フェイスブックやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上にある個人の医療情報を収集して販売するデータ・マイニング会社が急増している。その数は優に千社を超えるという。あるデータ・マイニング会社は数千万人について病状ごとにリスト化された医療情報を保有しており、これを製薬会社などに提供している。その取引規模は70億ドルに上るという調査結果もある。製薬会社はこの医療情報に基づき、各人の病状に応じた薬を勧めたり、症例が少ない特殊な疾患の患者を探し出して治療研究に役立てたりしている(ただし、こうした利用方法について個人情報保護の観点から問題視する声もある)。また、消費者の購入履歴の解析による潜在的なニーズの把握は、小売業界や金融業界などにとって極めて有用であり、今後もその普及が進むのは間違いないだろう。

データ・マイニング : 巨大なデータの集まりの中から有用な情報を抽出すること。

 ただ、ビッグデータから導き出される情報は1つの“推測”であり、万能ではない。その情報を盲信することで誤った顧客セグメンテーションが進められた場合、一部の潜在顧客層がマーケティング施策から漏れる可能性もある。また、たった1つのネガティブ・データによって、特定の顧客層が過度に低い評価を受けてしまうリスクがある。

顧客セグメンテーション : 性別・年齢・所得・嗜好・消費動向などの属性や特徴が同じかまたは近似する消費者ごとにグループ分けをして、顧客候補となるグループを特定すること。顧客候補となるグループに適したマーケティングや広告を展開するために行われる。

 ビッグデータから導き出される情報の確度は、ビッグデータを解析した人材の能力に大きく左右されることになるが、ビッグデータを解析できる人材は圧倒的に不足しており、人材需要に供給がまったく追い付いていないのが現状だ。その理由は、ビッグデータ解析の難易度があまりにも高いということに尽きる。ビッグデータの解析にはプログラミング能力だけでなく、高度な数学や統計学の知識、さらに、効果的な解析を可能にする各業界における経験、経験に裏打ちされた洞察力、発想力、提案力なども求められる。

 こうした能力を持った希少な人材に対しては求人が殺到しており、今後、2020年にかけて求人数は10倍以上に膨らむとする予想する声もある(当然、給与水準も上昇)。人材を求めているのは、ビッグデータ解析サービスの提供業者だけではない。英国の例だと、求人全体の30%は金融セクターが占め、小売業が5%、広告が4%、ゲーム業界2%と続く。

 上場企業に対するビッグデータ解析サービスの提供業者からの営業攻勢も活発化しているようだが、サービス提供業者の選定にあたっては、解析にあたる人材の質をよく確認する必要がありそうだ。

2015/04/07 アニュアルレポートの充実、まず何から始める?

 伊藤レポートでは“グローバルな投資家と対話する際の最低ライン”のROEとして8%という数値が示され、大手議決権行使助言会社のISSは2015年の助言基準の中で、「過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回り、かつ改善傾向にない場合は経営トップである取締役に対して原則反対推奨をする」ということを初めて示した。また、生命保険協会が毎年行っているアンケートでも、「経営目標として重視することが望ましい」と投資家が考えている指標はダントツでROEが多く、平成26年度調査では93%にも上っている。もはや日本企業はROEに関心を持たざるを得ない状況と言える。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率。「純利益 ÷ 自己資本」により算出される。

 2015年6月1日から実施されるコーポレートガバナンス・コードでは「資本政策の基本的な方針」の開示が求められているが(下記参照)、ここでは多くの企業が資本効率を示す指標としてROEに言及することになるだろう。

【原則1-3.資本政策の基本的な方針】
 上場会社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである。

 ただし、コーポレートガバナンス・コードの適用には猶予期間が設けられており、コードに従わずにその理由を“コーポレート・ガバナンスに関する報告書”(以下、CG報告書)で説明する“Explain”の時期は、3月決算会社の場合「2015年12月末まで」となる(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」参照)。このため、適用初年度の2015年においては、CG報告書のコーポレートガバナンス・コード対応部分の提出時期よりも「アニュアルレポート」の発行時期の方が早い企業は少なくないことが予想される。任意のIRツールであるアニュアルレポートに発行期限があるわけではないが、通常は決算期末から4~6か月後となることが多いからだ。

 正確な期限は「定時株主総会後から6か月後」である。

 多くの企業がコーポレートガバナンス・コードへの対応に苦慮しており、CG報告書の提出時期の猶予措置の適用を受けるところも多いと思われるが、投資家からの期待が高まっている以上、ROEに関する考え方をアニュアルレポートで示しておくことが望ましいだろう。

 既にこれを実践している企業もある。・・・

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2015/04/07 アニュアルレポートの充実、まず何から始める?(会員限定)

 伊藤レポートでは“グローバルな投資家と対話する際の最低ライン”のROEとして8%という数値が示され、大手議決権行使助言会社のISSは2015年の助言基準の中で、「過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回り、かつ改善傾向にない場合は経営トップである取締役に対して原則反対推奨をする」ということを初めて示した。また、生命保険協会が毎年行っているアンケートでも、「経営目標として重視することが望ましい」と投資家が考えている指標はダントツでROEが多く、平成26年度調査では93%にも上っている。もはや日本企業はROEに関心を持たざるを得ない状況と言える。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率。「純利益 ÷ 自己資本」により算出される。

 2015年6月1日から実施されるコーポレートガバナンス・コードでは「資本政策の基本的な方針」の開示が求められているが(下記参照)、ここでは多くの企業が資本効率を示す指標としてROEに言及することになるだろう。

【原則1-3.資本政策の基本的な方針】
 上場会社は、資本政策の動向が株主の利益に重要な影響を与え得ることを踏まえ、資本政策の基本的な方針について説明を行うべきである。

 ただし、コーポレートガバナンス・コードの適用には猶予期間が設けられており、コードに従わずにその理由を“コーポレート・ガバナンスに関する報告書”(以下、CG報告書)で説明する“Explain”の時期は、3月決算会社の場合「2015年12月末まで」となる(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」参照)。このため、適用初年度の2015年においては、CG報告書のコーポレートガバナンス・コード対応部分の提出時期よりも「アニュアルレポート」の発行時期の方が早い企業は少なくないことが予想される。任意のIRツールであるアニュアルレポートに発行期限があるわけではないが、通常は決算期末から4~6か月後となることが多いからだ。

 正確な期限は「定時株主総会後から6か月後」である。

 多くの企業がコーポレートガバナンス・コードへの対応に苦慮しており、CG報告書の提出時期の猶予措置の適用を受けるところも多いと思われるが、投資家からの期待が高まっている以上、ROEに関する考え方をアニュアルレポートで示しておくことが望ましいだろう。

 既にこれを実践している企業もある。日経アニュアルリポートアウォード受賞企業のレポートを見てみると、例えばオムロンでは「CEOメッセージ」の中で、重視している経営指標としてROEとROICを挙げるとともに、前年より設置されたCFOが「資本効率を重視した経営」について述べている。三菱重工業もCEOメッセージの中で、事業計画の目標の1つを「資本効率の改善」とし、その実績も示している。また、社外取締役のインタビューの中でも、「コーポレートガバナンスが機能していることが、日本の製造業としては高いROEに表れている」と述べられている。

 もっとも、これらは先進的な事例であり、ここまで記載している企業は少ない。そもそも日本企業のアニュアルレポートではコーポレートガバナンスに関する記載が十分とは言えない。欧州企業が数十ページを割いているのに対し、日本企業は10ページにも満たないケースがほとんど。欧州ではアニュアルレポートの記載内容が法律で決められている一方、日本では任意という点を差し引いても、開示量の差が大き過ぎる。まずは投資家の関心が高いROEに関する記述から、アニュアルレポートの充実を検討してもよいだろう。

2015/04/06 企業に選別される機関投資家

 現在、多くの企業がコーポレートガバナンス・コードに基づく開示への対応に追われていることだろう。コードへの対応状況について記載が不十分であれば、投資家から厳しい指摘を受けることも予想される。

 一方、優良企業の間では機関投資家を選別する動きが加速している。企業によっては、経営者が自ら対応する機関投資家を絞っているところもあれば、海外投資家を含め、そもそも対話に応じる機関投資家を限定しているところもある。「建設的な対話を行うためには、機関投資家が企業価値向上について真剣に考えていることや、投資スタイルが自社の経営にマッチしていることが前提であり、これらの前提を満たさない機関投資家とは会っても仕方がない」というのが、こうした企業のスタンスと言っていいだろう。

 機関投資家を選別する材料となるのが、・・・

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2015/04/06 企業に選別される機関投資家(会員限定)

 現在、多くの企業がコーポレートガバナンス・コードに基づく開示への対応に追われていることだろう。コードへの対応状況について記載が不十分であれば、投資家から厳しい指摘を受けることも予想される。

 一方、優良企業の間では機関投資家を選別する動きが加速している。企業によっては、経営者が自ら対応する機関投資家を絞っているところもあれば、海外投資家を含め、そもそも対話に応じる機関投資家を限定しているところもある。「建設的な対話を行うためには、機関投資家が企業価値向上について真剣に考えていることや、投資スタイルが自社の経営にマッチしていることが前提であり、これらの前提を満たさない機関投資家とは会っても仕方がない」というのが、こうした企業のスタンスと言っていいだろう。

 機関投資家を選別する材料となるのが、スチュワードシップ・コードだ。周知のとおり、事業会社を対象にするコーポレートガバナンス・コードに対し、スチュワードシップ・コードは機関投資家に向けたものであり、「スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針」などの策定・公表が求められている。ただ、機関投資家が公表しているスチュワードシップ・コードへの対応状況を見ると、必ずしも十分とは言えないケースが少なくない。

 例えばスチュワードシップ・コードの原則1では「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを 公表すべき」としており、ここでは「投資哲学」や「投資戦略」を明らかにすることが期待されているが、具体的な記載に欠ける例が少なくない。

 投資家にとっての投資哲学や投資戦略は、企業にとっての「企業価値」に等しい。投資家の考える企業価値とは「資本コストを上回るフリーキャッシュフローの現在価値」である一方、企業の考える企業価値は「売上高」「人的資源」など企業によっても異なり、両者には齟齬があるのが通常だ。このため、機関投資家と事業会社の対話ではしばしば「企業価値とは何か」が議論となる。そこで、企業がコーポレートガバナンス・コード5-1「株主との建設的な対話に関する方針」を開示する際には、自社が考える「企業価値」を明らかにすべきだが、これと同様に、機関投資家はスチュワードシップ・コードの原則1に基づき「投資哲学」や「投資戦略」を明らかにする必要がある。しかし現状では、単に「ボトムアップで投資する」といったごく一般的な記述にとどまっていることが多い。機関投資家は、投資哲学、投資戦略をもっと詳細に定義するべきだろう。

ボトムアップ : 企業のファンダメンタルズを見て投資するということ。これに対峙する考え方がバリュエーション投資(PERなど、株価の入った指標に基づき、株価が割安な銘柄の中から投資銘柄を選択する手法)である。株式投資の際にはファンダメンタルズ、バリュエーションの両方を見る必要があるが、どちらを優先するかについては投資家の間でも考え方が分かれている。

 また、「機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき方針を策定し、これを公表すべきである」とするスチュワードシップ・コード原則2についても、対応が不十分な例が見られる。この原則は、(親会社である金融機関等ではなく)顧客利益が優先された経営がなされていることを担保するためのものと言えるが、機関投資家のボードメンバーを確認すると、独立社外取締役が入っていないケースがほとんど。機関投資家は事業会社に対して独立取締役の選任を迫る立場である以上、逆に企業側から「自ら襟を正す」姿勢を問われる可能性もあろう。

 企業がコーポレートガバナンス・コードの遵守状況によって選別されるように、今後は機関投資家もスチュワードシップ・コードへの対応状況などによって企業(特に優良企業)から選別されることになりそうだ。

2015/04/03 支配株主がいる上場会社のガバナンス体制

 大塚家具の株主総会は、会社提案による取締役選任議案が可決し、元会長による株主提案は全て退けられる結果となったのは周知のとおり。臨時報告書によると、会社提案の取締役候補者は61%の賛成を得た一方、株主提案の候補者は34%の賛成率にとどまった。現社長(元会長の長女)によると、一般株主の80%近くが「会社提案」に賛成票を投じたという。少なくとも資本市場は現体制を支持したと言えるだろう。

 本件は“親子対決”となったことで殊更に世間の注目を集めることになったが、実は大塚家具のように親会社や創業家などの「支配株主」が存在している上場会社は少なくない。東証1・2部上場会社のコーポレートガバナンス報告書を調べると、そのうち約2割において支配株主が存在している。そして、過去には、支配株主の間で委任状争奪戦が繰り広げられたり、親会社が子会社トップをすげ替えたりといった事例も少なからず発生している。

支配株主 : (1)親会社(株主総会などの意思決定機関を支配する会社)、(2)主要株主(上場会社の議決権の過半数を占めている者)、(3)当該主要株主の近親者(二親等内の親族)、(4)当該主要株主及び当該主要株主の近親者が、議決権の過半数を所有している会社及び当該会社の子会社

 株式会社の実質的な所有者が株主である以上、このような経営権の争いが起こるのはやむを得ない面もあるが、問題は、その際に・・・

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