企業会計基準委員会(ASBJ)は、「包括的な収益認識会計基準」を策定するとともに、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)を行う方針を明らかにしたが、業種・業態によっては、収益計上が大きく変わることが予想されるので要注意だ。
「包括的な収益認識会計基準」とは、どういう場合に収益を認識するのかなど収益認識の具体的な要件を定めた文字通り包括的な収益計上基準のこと。現在の日本の会計基準では実現主義(現金等を受領した時に収益を認識する考え方)が採用されており、「包括的な収益認識会計基準」でもこの点は変わらない。ただ、日本の会計基準には収益認識の具体的な要件や実現主義の定義が定められていない。こうした中、国際会計基準審議会(IASB)が米国会計基準審議会(FASB)と共同で収益認識の会計基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を昨年5月に公表(すなわち、収益認識について国際会計基準と米国会計基準がコンバージェンス)、日本だけが取り残された状況になっていた。今回の企業会計基準委員会の動きの背景にはこうした事情がある。
この改正が実現した場合に大きな影響を受けそうなのが、百貨店や総合スーパーだ。
日本の百貨店では、「消化仕入れ」という商慣行がとられている。百貨店には多くのテナントが入居しているが、テナントに並ぶ商品の所有権は百貨店にはなく(テナント側に所有権を残した状態)、商品が売れた時点で売上とともに仕入れを計上している。このような取引形態をとることにより、百貨店は在庫リスクを抱えなくて済む。
しかし、IFRS第15号では、「財またはサービスを顧客に移転する前に、その財またはサービスの支配を獲得していない場合には、本人ではなく代理人として取扱う」とされている。テナントに場所を貸しているに過ぎない百貨店はこの“代理人”に該当する可能性が高く、代理人に該当すると売上には「テナントから受領する手数料相当額」しか計上できなくなる。利益という点では影響はないものの、売上高は総額表示してきた従来の売上高よりも大きく減少することになる。
同様に総合スーパーにおいても、「消化仕入れ」を行っていれば、代理人とみなされる可能性が高い。
また、影響は百貨店やスーパーだけにとどまらない可能性もある。工事進行基準や出荷基準についてはこれまでと同様に適用できるとの見方もあるが、どのような条件下において適用できるのかなど、現時点では不明確な点も多い。
工事進行基準 : 工事の完成度合いに応じて収益を見積もり計上していく会計基準のこと。これに対し、工事が完成して相手方に引渡しを行った時点で一度に収益を計上する方法を工事完成基準という。
出荷基準 : 商品や製品を出荷した日に売上を計上するという会計基準。
このほか問題となりそうなのが、単体の財務諸表への適用の可否だ。これまで企業会計基準委員会でコンバージェンスを行ってきた際には、連結財務諸表のみならず単体の財務諸表の見直しも行ってきた。ただ、直近で行われた「包括利益の表示に関する会計基準」や「退職給付に関する会計基準」(退職給付の負債の貸借対照表への即時認識)については、連結財務諸表についてはコンバージェンスしたものの、単体の財務諸表の取扱いについては、連結財務諸表を作成していない会社(有価証券報告書を提出している会社の中で約500社ある)の事務負担増加への懸念から反対意見が多く、改正は行われていない。
同様に、今回の収益認識会計基準についても単体財務諸表へ適用することに対しては反対意見が出ることも予想される。ただ、収益認識会計基準は上述の包括利益の表示や退職給付とは異なり、収益という企業活動の根本に関わるものであるだけに、連結と単体で取扱いを変えるのは難しいだろう。仮に収益認識会計基準を単体の財務諸表にも適用することとした場合には、連結財務諸表作成していない会社に対しても大きな影響を与える可能性がある。