2015/03/11 チェックリスト:製品やサービスに対してクレームを受けた(会員限定)

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■チェックリスト:製品やサービスに対してクレームを受けた

チェック事項 備考 対応未了 対応済
クレームに対して素早い対応を行えるように社内で蓄積したノウハウをマニュアルに落とし込み、適時に更新しているか。 顧客の満足度の向上という視点でマニュアルを作成しておく。
コールセンターや修理センターに蓄積されたクレーム事例を分析してデータベース化しているか。 関係者がデータベースにアクセスできるようにしておくことで、情報の共有化を図る。
クレームに対して責任をもって対処する部署・担当者を設置しているか。 いわゆる“たらいまわし”を防ぐ。
クレームを受け、製品の取扱説明書も随時更新しているか。 クレーム発生の芽を摘む。
クレームの内容によっては再現テストを行っているか。 再現テストは外部の検査機関 に外注する場合もある。
顧客対応の窓口担当者は、不具合以外の要因によるクレームに対して、顧客の感情に配慮して応答するように徹底しているか。
クレームの内容の分析結果を受け、取扱説明書における注意書きを拡充しているか。 開発側が想定していなかったような使い方を消費者がしていることが分かれば、そのような使い方をさせないために取扱説明書における注意書きを拡充する。
クレームを新製品開発のアイデアに反映するようにしているか。 クレームの内容は設計部門や開発部門、営業部門等社内で共有しておく。
製品の不具合が原因で事故が生じた場合、その事故が消費生活用製品安全法に定める「重大製品事故」(死亡事故、重傷病事故(治療に要する期間が30日以上の負傷・疾病)、後遺障害事故、一酸化炭素中毒事故や火災)に該当するかどうかを検討しているか。 重大製品事故が生じたことを知った日から起算して10日以内に「当該消費生活用製品の名称及び型式、事故の内容並びに当該消費生活用製品を製造した数量及び販売した数量」を内閣総理大臣(実際には消費者庁長官)に報告しなければならない。
製品の不具合が原因で事故(*)が生じた場合、当該製品事故が発生した原因に関する調査を行い、危害の発生および拡大を防止するため必要があると認めるときは、当該製品の回収その他の危害の発生および拡大を防止するための措置をとるよう努めているか。

*「次のいずれかに該当するもの」であって、「消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」
(1)一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生した事故
(2)消費生活用製品が滅失し、又はき損した事故であって、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれのあるもの

消費生活用製品安全法38条

「当該製品の回収その他の危害の発生及び拡大を防止するための措置」としては次のようなものが考えられる。
(a)危険性に関する消費者への情報提供
(b)消費者からの対象製品の引取り(代金返還)あるいは交換
(c)対象製品の点検・修理・部品の交換
(d)流通・販売段階からの対象製品の収去

道路運送車両法 、食品衛生法 、薬事法 といった具合に、製商品を特定してリコール(回収)等を規定する法律が別途あれば、それに従う。

取締役は、お客様相談室や修理センターといった消費者窓口で収集された製品事故の情報が速やかに取りまとめられたうえで、取締役会に情報提供されるような仕組みを構築(情報伝達経路の確保)しているか。
リコールすべきかどうかは、次のような判断要素を考慮して決定する仕組みになっているか。
・被害の大きさ
・被害の性格(多発性、単品不良など)
・被害発生の原因(製品に起因する、消費者の使い方に起因するなど)
事前にリコールの要不要を判断するためのリコール実施基準を定めておくことが望ましい。具体的な目安や留意点、方法は、内閣府国民生活局「リコール促進の共通指針-消費者の視点から望まれる迅速・的確なリコールのあり方-」を参照。
リコールの実施は取締役会で決議しているか。
消費者の誤使用であっても次のような要素があれば、それらの要素を考慮の上リコールすべきかどうか判断する仕組みになっているか。
(1)製品が誤使用や不注意による事故を発生しやすい構造あるいは設計であるか
(2)予想される誤使用に対する防止措置が設計上十分に講じられているか
(3)警告表示等の注意事項等は十分か
経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2010」より
取締役は、リコールすべき状況であるにもかかわらず製品の不具合を担当部署が放置していたり、不具合を公表せずにクレームのあった消費者に対する個別対応で済ませたりといった事態が生じないよう内部統制を構築しているか。 製品事故に関する情報は取締役会に報告が届くようにしておく。
リコールに関するマニュアルには、リコールに先立ち、顧問弁護士へ連絡するよう記載しているか。
リコールに関するマニュアルには、責任者を定め対策本部を設置し、実施計画を策定し、リリースを行うための詳細が記載されているか。 下記の事項も必要になる。
・リコール担当取締役の事前任命
・特設サイトの設置
・コールセンターの増強
・経済産業省への報告
・消費者庁への報告
・消費生活センターへの報告
・独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)等への報告
・リコール情報を提供する民間団体(クロネコヤマトのリコールドットjp 等)への連絡
リコールに関するマニュアルには、リコールの進捗状況(どの程度回収・交換できたか)をモニタリングできるような体制整備の詳細が記載されているか。 場合によっては追加的な対応に踏み切るべきかどうかを判断しなくてはらない。
取締役は、クレームの内容を製品の安全性向上につなげる仕組みを構築しているか。 クレームの分析結果を社内で共有し、安全機能や保護装置の導入・改善のための設計変更が必要ないか検討する。
サービス業の場合、クレーム担当の取締役は、顧客対応の窓口に対して、言い掛かりのようなクレームであっても真摯に対応するように指示しているか。
クレーム担当の取締役は、現場のサービスマニュアルに「顧客からの問い合わせ対応」を組み込むよう指示を出すとともに、現場間で(異なる店舗間同士でも)問い合わせ内容を共有するなどして、きめ細かい顧客対応を可能にするノウハウを積み重ねる体制を構築しているか。
クレーム担当の取締役は、クレームの発生件数や内容をまとめたレポートを経営陣に報告する体制を構築しているか。 例えば、月次でのクレームの発生件数を「製品(サービス)ごと」「製造部署(サービス提供部署)ごと」にまとめて、重要なクレームは、その顛末を役員会で報告するといった体制が考えられる。
クレームや問い合わせが多い製品やサービスを特定し、その原因を分析しているか。 広告が不適切である可能性もある。また、背景に「組織的な問題」が存在している可能性もある。
マスコミが製品・サービスの不具合・クレームの内容を報道する動きをキャッチした場合、できるだけ早く記者会見やサイトを用いて詳細な情報開示と対応策を打ち出すようにしているか。 負のイメージがねつ造され拡散する前に公式発表を実施する。
社長は、製品事故に関する記者会見を開かざるを得ない場合に備えて、マスコミ対応のスキル向上を図るためのメディアトレーニングを受けているか。 記者会見の際には社長が表に出ることが重要である。
製品事故に関する情報を用いてインサイダー取引が行われないよう、従業員や役員等に自社株式の売買ルールを徹底させているか。
クレーム担当取締役は、クレームに接する機会のある従業員等がクレーマー対応のスキルをアップさせることを目的として、社内研修を実施したり社外のクレーマー対策研修を受講させたりしているか。 クレーマーの理不尽な要求は毅然と断るよう指示しておく。
リコール時にリコール対象製品以外の製品が寄せられたときの対応を事前に検討しているか。 製品単価が安い場合、返送コストや顧客の感情に配慮して、リコール対象製品以外の製品が寄せられもそのまま受け付けてしまうことも少なくない。その結果、コストが想定以上に膨らむことになる。
リコールを実施する場合、リコール損失引当金の計上を検討したか。
製品保証を実施している場合、製品保証に伴う将来の支出に備えて、製品保証引当金を計上しているか。

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2015/03/11 【不祥事】製品やサービスに対してクレームを受けた(会員限定)

 

誤った対応がバッシングや社会問題にまで発展するケースも

一流の自動車メーカーでもしばしばリコールを発表するように、開発に多くの時間をかけ、品質改良を重ねた製品であっても、何らかの不具合が生じ、それがユーザーからのクレームとなるケースがあります。また、サービス業でも、サービスが不十分であるとしてクレームを受けることは決して珍しい話ではありません。

こうしたクレームに対して誤った対応をしてしまうと、それが大きな騒動に発展にする場合もあります。FacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)やインターネット上の掲示板による口コミなどが発達した現在では、ちょっとしたクレームの内容がすぐに拡散してしまう傾向にあります。そして、それがマスコミに飛び火し、激しいバッシング、場合によっては社会問題に発展してしまうケースもあります。ここまで来ると、会社や製品・サービスのブランドのイメージは著しく悪化し、製品やサービスの売上に悪影響を及ぼすことになります。

取締役としては、こうした事態を避けるために、クレーム発生に備えて組織的かつ迅速な対応を行える体制を平常時のうちに整備しておくことが重要です。そのためにも、クレームの受付と対応を管掌する取締役を選任しておく必要があります。

クレーム対応というと、“尻ぬぐい”的な後ろ向きの仕事のように思われがちです。しかし、クレームには製品改良・サービス改善のための「宝」が眠っています。単なる“尻ぬぐい”で終わらせることなく、むしろ会社がより成長していくために必要な「改善の芽」を発見する仕事へと立ち位置を変えることで、前向きな仕事になり、クレーム対応に携わる従業員のモチベーションも向上するでしょう。

以下でクレーム対応のための体制を具体的に見ていきます。

クレームの原因によって異なる対応方針

製品やサービスに対してクレームがあった場合、まずは顧客へのレスポンス時間を極力減らす工夫が必要になります。顧客のクレームへのレスポンス、すなわち電話が担当部署に繋がるまでの待ち時間やメールの返信までの時間など顧客を待たせる時間が長くなればなるほど、顧客はストレスを感じ感情的になりがちです。そうなると、企業イメージがよりいっそう悪化することになります。そこで、クレームに対して素早い対応を行えるように社内でノウハウを蓄積し、どのように対応し、どのような説明をすれば顧客の満足度を高めることができるかなど細かな点まで踏み込んだマニュアルを作成し、適時に更新していくべきです。

そして、クレーム対応時のなるべく早い段階で、そのクレームが「不具合(サービス業であれば、サービス不良。以下同)」によるものか、「それ以外の要因」によるものかを確かめることも重要です。なぜなら、自社製品やサービスに問題があることに気付かないままクレーム対応をすれば、ユーザーに一層不快な思いをさせてしまう可能性があり、さらなるクレームや、より大きな騒動へと発展する恐れがあるからです。

そのためには、コールセンターや修理センターに蓄積されたクレーム事例を分析してデータベース化するとともに、関係者がデータベースにアクセスできるようにしておくことで、情報の共有化を図ります。また、製品の取扱説明書も随時更新しておけば、クレーム発生の芽を摘むことができます。

クレームの内容によっては再現テストを行い、テスト結果を「不具合かどうかの判断」に用います。再現テストは外部の検査機関に外注する場合もあります。

 もっとも、クレームの原因が分かったとしても、その後の対応を誤れば元も子もありません。そこで、会社としては、クレームへの対応方針や具体的な対応手段をあらかじめマニュアル化し、また、責任をもって問い合わせに対処する部署・担当者を設置するなどの内部統制を構築しておくべきです。

1 不具合によるクレームの場合
クレームの内容が「不具合」によるものか「それ以外の要因」によるものかで、対応方針・手段は変わってきます。

まず「不具合」による場合は、謝罪を行うとともに、その不具合が既知のものであれば、その発生を防止・解消する対応策()を説明します。

 不具合の防止・解消のための方策も、不具合の内容に応じて様々です。技術者を派遣して不具合の解消をしたり、製品や部品を交換したり、場合によっては返金をしたりすることで、不具合の解消に努めます。保証期間内のトラブルであり、かつ、免責事項に該当しない場合は、無償で対応することになります。

また、クレームで告げられた不具合が未知のものである場合、その発生を防止・解消するための対応策を迅速に検討します。分析の結果、リコール(広く告知して回収)が必要であると判断すれば、自主的なリコールに踏み切ることになります。

2 不具合以外の要因によるクレームの場合
クレームのうち「不具合」は定型的な要因に該当するケースが多いのに対し、「それ以外の要因」によるクレームは、顧客の操作が説明書通りではないことによる場合や説明書に記載している操作方法が理解できない場合など顧客によって要因は様々で非定型的であるのが通常です。そこで、クレームの内容に応じて、正しい操作方法などを説明することになります。その際はたとえ説明書に明確に記載してある内容であっても、「記載が分かりにくく申し訳ございません」といった姿勢で、顧客の感情に配慮した対応を行います。

クレームの内容の分析により、開発側が想定していなかったような使い方を消費者がしていることが分かれば、そのような使い方をさせないため取扱説明書における注意書きを拡充します。また、クレームは現行製品に対する消費者の不満である以上、発想を変えれば新製品開発のきっかけにもなり得ます。まさにクレームは“宝の山”です。せっかくの“宝”を活かすために、クレームの内容は設計部門や開発部門、営業部門等社内で共有できるようにすべきです。

リコールを行うかどうかの判断ポイント

クレームとなった不具合が、単に「本来の機能を発揮できない」といったものであれば、修理・交換や返金で顧客の要望に応えることができます。もっとも、不具合が原因で製品事故を招いたとなると話は別です。お詫びや見舞いを迅速に行いつつ、危害の発生と拡大を防止するためにどのような策を講じるべきかを検討します。

製品事故が生じた場合、一般的な消費生活用製品であれば消費生活用製品安全法(*1)が適用されます。後述する消費生活用製品安全法に定める「重大製品事故」に該当するような重大な事故ではない場合でも、「製品事故」が発生した以上は、自主的なリコールを検討しなければなりません。なぜなら、消費生活用製品安全法では「消費生活用製品の製造(*2)を行う者は、製造した消費生活用製品について製品事故が生じた場合には、当該製品事故が発生した原因に関する調査を行い、危害の発生及び拡大を防止するため必要があると認めるときは、当該消費生活用製品の回収その他の危害の発生及び拡大を防止するための措置をとるよう努める必要がある」旨規定しているからです(同法38条)。この「製品事故」は、同法2条5項によると、「次のいずれかに該当するもの」であって、「消費生活用製品の欠陥によって生じたものでないことが明らかな事故以外のもの」と規定されています。
(1)一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生した事故
(2)消費生活用製品が滅失し、又はき損した事故であって、一般消費者の生命又は身体に対する危害が発生するおそれのあるもの

*1 自動車やバイクは道路運送車両法、食品は食品衛生法、医薬品や化粧品は薬事法といった具合に、製商品によってはリコール(回収)等を規定する法律が別途定められているものがあります。
*2 輸入の事業を行う者も含まれます。

また、「当該消費生活用製品の回収その他の危害の発生及び拡大を防止するための措置」としては次のようなものが考えられます((b)および(c)がリコールに該当します)。
(a)危険性に関する消費者への情報提供
(b)消費者からの対象製品の引取り(代金返還)あるいは交換
(c)対象製品の点検・修理・部品の交換
(d)流通・販売段階からの対象製品の収去

以上より、クレームの内容を分析した結果、上記(1)と(2)のいずれかに該当する製品事故が発生したことが判明した場合、(a)~(d)の措置を実施するかどうかを検討します。

リコールは社会的影響が大きく、また、告知・電話対応・回収・修理・発送等に多額の費用負担が必要になることから、その決断は取締役会で行われるのが通常です。そこで取締役会が自主的なリコールをするかどうかを判断するために、お客様相談室や修理センターといった消費者窓口としては情報を収集・分析し速やかに資料を取りまとめ、取締役会に情報を提供する必要があります(情報伝達経路の確保)。そこで収集した情報のうち取締役会に伝達すべき情報の種類や内容を社内で明確に定義しておき、取締役会への情報伝達漏れが生じないようにしておきます。

リコールすべきかどうかの判断要素を定量的に定める基準はありません。各会社で製品に不具合が生じる都度、概ね次の事項を考慮したうえで判断します。
・被害の大きさ
・被害の性格(多発性、単品不良など)
・被害発生の原因(製品に起因する、消費者の使い方に起因するなど)

具体的な目安や留意点、方法としては、内閣府国民生活局「リコール促進の共通指針-消費者の視点から望まれる迅速・的確なリコールのあり方-」(平成21年3月31日)によると、以下のとおりです。

<目安>
クラスⅠ・・・死亡、重篤、ないし不可逆的な被害の発生、もしくはそのおそれがある場合、特に速やかに開始の判断を行う。
クラスⅡ・・・軽度、治癒可能な被害の発生、もしくはそのおそれがある場合、 拡大可能性、多発性、特異性などの要素をも勘案して、速やかに開始の判断を行う。
○被害発生のおそれは極めて小さいと考えられる場合であっても、消費者の安心確保の観点から必要と判断される場合、情報提供を中心とした対応をとることが望ましい。
○乳幼児、妊婦、胎児、高齢者、障害者が被害者である場合、一般的に自ら被害を食い止めあるいは最小化する能力が十分でないこと、傷害の程度が重症となる傾向があることなどから、通常より危険度を高く評価する。
<留意点>
・リコールの開始に当たっては、以下のような点にも留意する。
被害発生、もしくはそのおそれがある場合で、その原因を特定できない場合
対象品のいずれの部分に原因があるか特定できない場合、対象品と被害発生の間に因果関係がある蓋然性が高いものの確定できない場合などであっても、 被害の大きさ、頻度などを踏まえたうえで、適切な方法を選択しながら、リコールの開始を判断する。特に、危険性が高い(クラスⅠ)と判断される場合には、消費者の安全の確保を最優先し、迅速に是正措置をとるようにつとめる。
消費者の消費・使用・利用方法に起因するとみられる場合
事業者の想定しない消費・使用・利用方法によって被害が生じたと考えられる場合であっても、被害の大きさや頻度を踏まえたうえで、事業者はリコールを実施するほか、対象品の構造の変更や、警告表示を改訂してより具体的な注意情報を提供するなどの改善措置をとり、被害発生の要因の除去につとめる。
経年劣化
経年劣化によって事故が発生したと考えられる場合には、被害の大きさや頻度を踏まえたうえで、事業者は、消費者に危険性を知らせるとともに、危険性の程度に応じた是正措置をとる。
<方法>
クラスⅠ・・・消費者に危険性を緊急に知らせ、使用の中止や廃棄を呼びかけるとともに、消費者の手元からの引き取り・交換を行うほか、 耐久財や設置・施工された対象品については緊急の点検・修理・ 部品交換を行い、危険性の除去を行う。この場合、緊急点検等は、事業者が訪問して行う。
クラスⅡ・・・消費者に危険性の程度や正しい使い方などについて情報提供するとともに、流通・販売段階から対象品を収去し、必要に応じて点検・修理・部品交換を行う。

なお、消費者の誤使用であっても次のような要素があれば、それらの要素を考慮の上リコールすべきかどうか判断すべきです(経済産業省「消費生活用製品のリコールハンドブック2010」より)
(1)製品が誤使用や不注意による事故を発生しやすい構造あるいは設計であるか
(2)予想される誤使用に対する防止措置が設計上十分に講じられているか
(3)警告表示等の注意事項等は十分か

リコールすべき状況であるにもかかわらず製品の不具合を放置していたり、不具合を公表せずにクレームのあった消費者に対する個別対応で済ませたり、こっそりと回収したりしているうちに、未回収の製品を使用した消費者の生命・身体の安全に深刻な危険が及んでしまった場合、取締役は「なぜ製品事故の存在を把握した時点でリコールに踏み切らなかったのだ」と責められ、被害者から不法行為責任を問われたり、会社も行政処分を受けることになるでしょう。場合によっては、刑事事件に発展する可能性もあります。会社の損害賠償負担で赤字転落となり株価下落により損失を負った株主から訴訟を提起されたりすることも考えられます。そこで、取締役としては、リコールの要不要の判断にあたり、判断を誤れば会社の存続が危ぶまれるといった強い危機意識を持って慎重に臨むべきです。また、事前にリコールの要不要を判断するためのリコール実施基準を定めておくことも有効です。

リコールにより、製品欠陥等が広く社会に知れ渡ることになります。その結果、会社への責任追及の機運が盛り上がってしまい、損害賠償請求を受ける可能性もあります。そのため、リコールに先立ち、顧問弁護士への連絡も欠かせません。

リコールを行うことが決まれば、責任者を定め対策本部を設置し、実施計画()を策定し、リリースを行います。サイトやコールセンターへのアクセスが集中することからリコール情報を提供する特設サイトの設置やコールセンターの増強も検討すべきです。経済産業省や消費者庁、消費生活センター、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)等関係行政機関への報告やリコール情報を提供する民間団体(クロネコヤマトのリコールドットjp等)への連絡も必要となります。リコール実施の際の混乱を防ぐとともに、経営陣がリコールにコミットするために、調整機能を担うリコール担当取締役をあらかじめ選任しておくことも重要です。リコールの進捗状況(どの程度回収・交換できたか)はモニタリングできるように体制を整備しておき、場合によっては追加的な対応に踏み切るべきかどうかを判断しなくてはなりません。

 実施計画では、経営責任者の関与をはじめとして、責任主体・役割分担・指揮命令系統の明確化を図ります。また、リコール方法の選択、計画上の目標(リコールの対象となった製品の数やリコール実施期間など)やモニタリングの進め方などを記載しておきます。

なお、製商品へのクレームのうちほとんどはリコールになるような不具合ではありません。リコールになるような不具合でなくても、クレームには製品の安全性をより向上させるためのヒントが隠されています。クレームの内容を安全機能や保護装置の導入・改善といった製品の安全性の向上のための設計変更につなげていく仕組みが必要となります。

逆に製商品へのクレームが「重大製品事故」であれば、行政への迅速な報告が求められます。消費生活用製品安全法の35条1項によると、消費生活用製品の製造を行う者()は、製造した消費生活用製品に重大製品事故が生じたことを知ったときは、「当該消費生活用製品の名称及び型式、事故の内容並びに当該消費生活用製品を製造した数量及び販売した数量」を内閣総理大臣(実際には消費者庁長官)に報告しなければなりません。この「重大製品事故」は具体的には、「死亡事故、重傷病事故(治療に要する期間が30日以上の負傷・疾病)、後遺障害事故、一酸化炭素中毒事故や火災」が該当します。そして、消費者庁長官への報告は、重大製品事故が生じたことを知った日から起算して10日以内に行われる必要があります。

 輸入の事業を行う者も含まれます。
サービス業におけるクレームへの対応方針

クレームを受けたのが“製品”ではなく“サービス”であった場合、クレームの原因が形を保って残っているケースは多くはなく、真実は何なのかが当事者しか知り得ないケースが大半です。そのため、製品の場合と比べるとクレームの原因となった事実を認定しづらいという特徴があります。

サービス業におけるクレームの多くは、サービスマニュアルの不徹底や顧客の勘違いを原因とするものです。したがって、サービス業におけるクレーム対応では、必ずしも自社のサービス担当者に落ち度があったとは言えない場合であっても、誠意ある言動で対応することが重要になります。上述したように事実認定が難しいため、事実の究明に重きを置いてしまうと、更なるクレームを招きかねません。

言い掛かりのようなクレームであっても真摯に対応されているという印象を与えることで、クレームに対して冷たくあしらわれたといったマイナスの評判が立つ可能性を少しでも減らせます。ここで粗雑な応答をすれば、顧客から「この会社のサービスは二度と利用しない」と思われてしまうだけでなく、インターネットの口コミサイトなどで、その対応を誇張して言いふらされ、会社やサービスのブランドイメージが大きく傷ついてしまうことになりかねません。

このようなリスクの拡大を避けるためには、クレーム担当の取締役は、現場のサービスマニュアルに「顧客からの問い合わせ対応」を組み込むよう指示を出すとともに、現場間で(異なる店舗間同士でも)問い合わせ内容を共有するなどして、きめ細かい顧客対応を可能にするノウハウを積み重ねる体制を整えておくことが求められます。

クレームを生みやすくする要因とは?

クレームを防止するためには、クレームの分析が欠かせません。具体的には、クレームの発生件数や内容を全社横断的にまとめたレポートを定期的に経営陣に提供する体制を構築することが必要です。例えば、月次でのクレームの発生件数を「製品(サービス)ごと」「製造部署(サービス提供部署)ごと」にまとめて、重要度の高いクレームは、その顛末を役員会で報告するといった体制が考えられます。そして、再発防止策を講じることでクレームを減らしていきます。

ちなみに、クレームの内容によっては、消費者庁等の監督官庁へ届け出が必要となる場合があります。たとえば自動車であれば、クレームの内容を調査した結果、定められた安全基準(道路運送車両の保安基準)に適合していない、または適合しなくなるおそれがある状態であって、その原因が設計または製作過程にある場合、国土交通省に届け出を行うことが必要になります。もし届け出を失念すれば、国土交通省により業務改善命令や罰金が科される可能性もあるほか、「隠ぺいしようとしたのではないか」というあらぬ誤解を監督官庁や消費者から受ける可能性もあります。こうした事態を避けるため、総務担当の取締役は届け出の要否()を迅速に検討する旨内部統制を構築しておくべきです。

 届け出が必要となる内容や処分の内容などは法律や監督官庁によっても異なります。

クレームを分析した結果、特に不具合がないにもかかわらずクレームや問い合わせが多い製品やサービスが見つかるかも知れません。たとえ不具合はなくても、クレームや問い合わせが相次ぐということになれば会社や製品・サービスのイメージ上は決してプラスにはなりませんので、決して放置せず、何がクレームや問い合わせの原因となっているのかを検証する必要があります。

原因の一つとして考えられるのが広告です。広告は、自社の製品やサービスについて世間や顧客にできるだけよい印象を与えたいがために、意図せずとも、ついつい自社の製品の性能を誤認させる“誇大広告”になりがちです。広告が誇大広告になれば、当然、品質に関するクレームは増加する可能性があります(誇大広告とみなされた場合、景品表示法違反として消費者庁による行政処分を受けることもあります。「木曽路社」の事例はこちらを参照してください)。

したがって、広告をリリースする前には、それが誇大広告に当たらないかどうか、“消費者目線”に立って、製品・サービスの企画開発部門や広報部門、法務部などの部門で慎重に検討しておくべきです。

また、特定の製品やサービスではなく、「複数の製品やサービス」あるいは「様々な拠点」へのクレームが、同じようなタイミングで頻発することもあります。このような場合、背景に「組織的な問題」が存在している可能性を疑う必要があります。例えば、いつの間にか風通しの悪い組織になり、何か問題を発見しても現場レベルでは「なかった」ことにしてしまっているのかもしれません。また、大企業病にかかり、公務員のようにクレームをたらい回しにする組織になっている恐れもあります。こうした問題を解決していくためには、時間がかかっても、従業員一人ひとりに対して、経営トップから経営理念や行動規範に関するメッセージを繰り返し発することで理念を浸透させていくとともに、コンプライアンス教育に関する社内研修を行うなど、「現場レベルの意識改革を図るための取組み」が取締役には求められることになります。

マスコミ対応を誤るとブランドイメージを棄損する場合も

製品やサービスの不具合やクレームの内容が、マスコミの知るところになると、報道されてしまうことがあります。特に不具合によって事故が発生した場合には、連日のように報道が繰り返されることになります。

では、こうした報道の動きをキャッチした場合、会社としてはどのように対応すればよいでしょうか。最も重要なのは、できるだけ速く対応を行うということです。記者会見やサイトを用いて詳細な情報開示と対応策を迅速に打ち出します。タイミングを逸してしまうと、報道が過熱し、「あの会社は不具合に対してきちんと対応してくれない会社だ」という印象が世間に植え付けられ、会社のブランドイメージが大きく毀損してしまうことにもなりかねません。

また、会社の「公式発表」として、適時に外部に情報を公表することも極めて重要です。「公式発表」の内容、方法に正式な決まりというものはありませんが、会社が主体となり何らかの形で公式な発表を行わなければ、マスコミの一方的な報道や社員を騙る自称社員からのインターネット上での愉快犯的な書き込み等で負のイメージがねつ造され、取り返しのつかないところまでブランドが棄損させられてしまう場合もあります。

記者会見の際には必ず社長が表に出るようにします。万が一、社長が逃げ隠れしているかのような報道をされてしまっては、世の中に会社自体が逃げ腰であるかのような印象を持たれてしまいます。そして、記者とのやり取りで足元をすくわれないよう、あらかじめ社長はマスコミ対応のスキル向上を図るためのメディアトレーニングを受けておくべきです。

記者会見は投資家への適時開示ともタイミングを合わせる必要があります。なお、製品の不具合やリコールといった情報は株価の下落を招く恐れがあるだけに、インサイダー情報の管理には注意を払っておく必要があります。

会社からの一方的な発表だけでは客観性に欠ける恐れがあるため、場合によっては、「事故調査委員会」などを設置することもあります。同委員会は内部の関係者に加え、公平性を担保するために外部の第三者、たとえば弁護士や大学教授などで構成されるのが一般的となっています。

製造物責任法と役員の責任

上記の「マスコミ対応を誤るとブランドイメージを棄損する場合も」でも述べたように、クレームの中でも最も深刻なのは、自社の製品に不具合が見つかった場合です。なぜなら、不具合があると、単なるクレーム対応にとどまらず、製造物責任法上の責任を負う可能性もあるからです。

製造物責任法(通称PL法)によると、製造者の故意、過失によらずとも、消費者が製品の使用中に損害を受けた際にそれが製品の欠陥によるものと証明できれば製造者に賠償責任が生じることになります。これにより、自社製品の不具合を原因として、事故が起きてしまった場合には消費者に対して損害賠償責任を負うことになるため、製品化のプロセスに問題がないか、開発部門などから問題が上がっていなかったかなどを確認し、同様の問題を発生させない仕組みを構築することが取締役として重要となります。

なお、製造物責任法はリコールとは区別して考える必要があります。リコールをしたからといって製造物責任法による責任が認定されやすくなるわけでも、逆に責任を免れる訳でもありません。

クレーマーへの対応のポイント

残念ながら、理不尽な要求を平気で行う消費者が後を絶ちません。いわゆる“クレーマー”です。社会的な通念では考えられないような主張をしたり、小さなミスを誇張し執拗に不相応の謝罪を求めたりするクレーマーに対しても、会社は何らかの対応を求められることになります。

クレーマーの中にも様々なタイプがいるため、定型的なマニュアルでの対応が難しい場合もあります。たとえば、クレームの対象となっている製品では本来機能的に実現できないにもかかわらず、「製造側が製品をちゃんと作っていないから悪い、対応できないのだったら金をよこせ」というような形で理不尽な要求をしてくる場合があります。このような場合、クレーム処理として安易に金銭を支払うような行動をとると、「金額が少ない」などとさらなる言い掛かりをつけられ、追加で繰り返し支払わざるを得なくなるなど、解決がより難しくなってしまうリスクがあります。そのため、明らかな言い掛かりに対しては、丁寧な対応を心掛けつつも、金銭の要求には応じられないことを毅然とした態度で伝えなければなりません。クレーマーが反社会的勢力に属するものであれば、なおさらです。

相手の要求を断ると、悪質な書き込みがインターネット上で行われるかもしれません。その場合にはサイトの管理者に対して削除依頼を行う、裁判所へ削除・情報開示請求を行う、専門の業者に依頼を行うなど様々な対応方法がありますので、どのような手順でどのような対応を行うかをあらかじめ明確にしておきます。

また、クレーマー対応の際、こちらが相手をクレーマーと認識していると悟られることもクレーマー行為をヒートアップさせる要因といわれます。冷静に対応することが必要になります。

クレーム担当取締役は、クレームに接する機会のある従業員やパート等を対象に社内研修を実施したり、社外のクレーマー対策研修を受講させたりして、クレーマーの様々な要求に対して臨機応変に対応できるようスキルアップさせることが必要です。

リコール時のコストの内訳と会計的な備え

リコールには多額のコストを費やすことになります。リコール時に必要となるコストは次のとおりです。

<原因追及のためのコスト>
・不具合の原因を究明するための費用
<製品回収・修理に直接的・間接的にかかるコスト>
・修理用の部品やキット、代替え品等の製作費用
・回収のための宅配便(着払い)のコスト
・回収された製品を保管するための倉庫での保管費用
・修理のための人件費、材料費、外注費、製造間接費の配賦額等
<リコールをサポートするためのコスト>
・顧客との対応窓口の増強に係る費用(フリーダイヤルの回線増強、電話オペレーターの増員、他部門からの応援)
・社告の費用(新聞や雑誌への掲載料等)
・弁護士費用やコンサルタントへの報酬
<顧客へのお詫び>
・顧客に対するお詫びの品代(商品券やクオカード等)

不具合が特定の製造日やロット番号の製品に限定される場合、製造日やロット番号を指定して回収しますが、消費者への周知が十分でないと指定外の製品も送付されてしまうことがあります。法的には対象外であるとして送り返すことも可能ですが、返送コストや顧客の感情に配慮して、実務的にはそのまま受け付けてしまうことも少なくありません。その結果、コストが想定以上に膨らむこともあり得ます。

また、販売できる製品が限定され、広告も自粛せざるを得なくなり、営業活動がストップすることから売上が激減します。販売自粛期間中にライバル社に小売店の棚を奪われてしまうため、自粛期間終了後のシェア奪還に大変な労力を費やすことになります。

こういったコスト負担や売り上げ減少に伴い、資金繰りが急速に悪化することになります。そのため、金融機関と密に連絡を取り合うことも必要になります。

コストの一部は生産物賠償責任保険の保険金から補てんされます。また、外注先が指定材料を使用していないなどの理由で仕様を充たさない部品を納品していた場合のように、不具合が外注先の責任に起因する場合は、外注先に対して責任追及をすることも検討しなければなりません。

なお、リコールのコストを抑えるためには、販売時に顧客登録を促す方法が有効です。万が一のリコール時に顧客名簿を活用することで、効果的な告知が可能になるからです()。

 もちろん、顧客名簿のメリットはリコール対策だけではありません。登録した顧客限定のサービス(例えば品質の保証内容の拡充等)を提供することで顧客満足度を高めることが可能になり、ロイヤリティの高い消費者の囲い込みを実現できます。また、顧客名簿は新製品のプロモーションにも役立ちます。

リコールに関連して発生する損失は、リコールを実施したときに顕在化したとしても、その原因は不具合のある製品を販売したときに発生したと言えます。リコールに備えて引当金を計上することも検討しなければなりません。リコールを実施した企業の場合、例えば次のような会計方針に基づきリコール損失引当金を計上することになります。

リコール損失引当金の会計方針
 製品に係る市場回収処置(リコール)に伴う支出に備えるため、当社が求償を受けると見込まれる金額を計上しております。

なお、リコールが終了した後も不具合を前提にした引当金を毎期計上し続ける必要はありません。通常は、リコールに伴う損失額の確定をもって、リコール損失引当金を取り崩すことになります。

また、製品保証を実施している場合、製品保証に伴う将来の支出に備えて、製品保証引当金を計上する場合もあります。

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2015/03/11 業務上の災害における会社の民事責任

 今日で東日本大震災からはや4年となる。自宅を目指し大量の人が夜道を歩く光景は衝撃的であった。大震災は、社員という会社経営に欠かせないリソースが危機にさらされた出来事だったとも言えるだろう。

 もっとも、それは自然災害に限った話ではなく、業務上の災害にも同様のリスクがある。むしろ、業務上の災害が発生すれば・・・

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2015/03/11 業務上の災害における会社の民事責任(会員限定)

 今日で東日本大震災からはや4年となる。自宅を目指し大量の人が夜道を歩く光景は衝撃的であった。大震災は、社員という会社経営に欠かせないリソースが危機にさらされた出来事だったとも言えるだろう。

 もっとも、それは自然災害に限った話ではなく、業務上の災害にも同様のリスクがある。むしろ、業務上の災害が発生すれば会社も責任を問われかねないだけに、経営陣には万全の対策が求められる。

 労働基準法は、業務上災害が発生した場合、それが労働者の重過失による場合を除き、会社に、被災労働者(またはその遺族)に対する一定の補償義務を課しているが、労災保険により補償給付が行われる場合は、その部分について会社は補償義務を免れることになっている(労働基準法第84条第1項)。したがって、通常であれば、会社は労災保険から給付されない「待期3日間(休業初日から通算して3日間)」の休業分だけを補償すれば、労働基準法による補償義務は果たしたことになる。

 ただし、民事上の補償責任は、労災給付が受けられたことをもって免れるわけではない点には注意する必要がある。その事故が、業務命令自体に違法性があったことに起因していれば「不法行為」として、また、会社が安全配慮義務(労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務。労働契約法5条)を果たさなかったことに起因していれば「債務不履行」として、民事訴訟が提起される可能性もある。特に後者に関しては、「事故が起きることが予見できたにもかかわらず、回避手段を講じなかった」という“不作為”について会社の責任が問われるため、すべての業務上災害が訴訟の対象となり得ると言っても過言ではない。

 そして、裁判所は往々にして弱者(=労働者)に有利な判決を出しがちであり、特に死亡事故においては会社の存亡に関わるほど多額の補償を命じられるリスクもある。経営陣としては、こうした事態に備えて、労災保険とは別に「使用者賠償責任保険」という民間保険会社の保険に加入することも検討しておく必要があろう。

 このように、業務上災害が発生すると、被災労働者やその家族(または遺族)はもちろん、会社も大事な労働力を失ったうえに損害賠償までしなければならないことになり、誰も得をしない。訴訟対策以前に、事故を予見して適切な回避手段を講じておくことが経営陣に求められるのは言うまでもない。

2015/03/10 社外役員の兼任社数の上限は?

 複数の会社の社外取締役・社外監査役(以下、社外役員)を兼任している人は少なくないが(特に著名人)、あまり兼任社数が多くなれば、1つひとつの会社に割ける時間やエネルギーが十分なものではなくなる恐れがある。

 こうした中、3月5日に確定したコーポレートガバナンス・コード原案には、社外役員の兼任社数に事実上ブレーキをかけるコードが盛り込まれている・・・

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2015/03/10 社外役員の兼任社数の上限は?(会員限定)

 複数の会社の社外取締役・社外監査役(以下、社外役員)を兼任している人は少なくないが(特に著名人)、あまり兼任社数が多くなれば、1つひとつの会社に割ける時間やエネルギーが十分なものではなくなる恐れがある。

 こうした中、3月5日に確定したコーポレートガバナンス・コード原案には、社外役員の兼任社数に事実上ブレーキをかけるコードが盛り込まれている(下線は当フォーラムによる)。

補充原則4-11②
 社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきである。こうした観点から、例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべきである。

 そこで気になるのは、コードに言う「合理的な範囲」の社数とは一体何社なのかという点だ。これについては公式な数値があるわけではないが、「2社」というのが関係者のコンセンサスとなっている。日本企業の場合、取締役会の開催回数は年間15~16回と多く、社外役員がこれに使う時間は、事前の勉強なども含めれば年間250時間とも言われる。4社、5社兼任となれば、1つの会社にかけられる時間はどうしても限られてしまう。実際、兼任社数が多い社外取締役のために他の役員がスケジュール調整している会社も少なくない。

 社外役員の兼任社数には機関投資家も注目しており、出席率が低ければ当該社外役員の選任議案に反対票を投じる可能性もある(この問題については別の機会に取り上げたい)。コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①では、「相当数の反対票」が投じられた場合には、株主との対話等を求めている(下線は当フォーラムによる)。

補充原則1-1①
 取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。

 高い出席率が見込めない人は、社外役員候補から外すべきだろう。

2015/03/10 【失敗学第10回】バリューHR社の事例(会員限定)

概要

 団体向け福利厚生支援事業を営む株式会社バリューHR(東証第二部)の子会社「株式会社バリューサポート」(旅行事業)で売上が水増しされていた。

経緯

 バリューHR社が2015年2月に「特別調査委員会の調査報告及び当社の対応について」を受領するまでの経緯を時系列で示すと、次のとおり。

<2009年頃>
 バリューサポート社の外販部部長が、同部の予算達成を目的として、売上の水増しを始めた。

<2011年~2014年>
 バリューサポート社の外販部では東日本大震災後に団体旅行のほとんどがキャンセルになり、新規ビジネスに取り組む必要性が生じ、法人の出張手配の業務や航空券発注業務を請け負うことになった。しかし、発券トラブルが相次ぐとともに請求漏れも重なり、回収できない売掛金(滞留売掛金)がたまっていった。そこで、同部の部長は、滞留売掛金に対して貸倒引当金の計上を迫られバリューサポート社の損益が悪化してしまうことを防ぐために、売掛金が正常に回収されているかのように偽装を行った。回収偽装をするための原資は仕入戻しや外販部部長の個人的な借金で賄われた。また、2014年12月期に入り、予算を達成するため売上の水増しを行い、結果的に回収できない売掛金が膨らんでしまった。
 その間、2013年10月にバリューサポート社の親会社であるバリューHR社は東京証券取引所JASDAQ市場へ上場し、2014年11月に東京証券取引所市場第二部へ市場変更した。

<2014年>
12月30日:バリューサポート社の旅行事業本部外販部門の部長より2014年12月期において架空売上および架空仕入を計上していた旨の申告があった。

<2015年>
1月23日:バリューHR社の取締役会で特別調査委員会の設置を決議し、同社は「当社連結子会社における不適切な会計処理及び特別調査委員会による調査開始についてのお知らせ」をリリースした。
2月16日:特別調査委員会の調査報告がまとまり、同社は「特別調査委員会の調査報告及び当社の対応について」を公表した。

内容・原因・改善策

 上述した特別調査委員会の調査報告によると、本件の問題点の内容とその原因および改善策は次のとおりである。

架空売上・仕入の計上(P/Lの問題)

内容 ・売上の水増しとそれに対応する架空仕入の計上
・航空会社からのキックバックをもらえる想定で売上を計上したものの、取扱いボリュームがキックバックをもらえるレベルに達しなかったことから、キックバックの売上を取り消さないといけなかった。それにもかかわらず取り消さなかったため、その分売上が水増しされたことになった。
原因 ・東日本大震災後に団体旅行のほとんどがキャンセルとなり売上が落ち込んだバリューサポート社の旅行事業本部外販部では、新規ビジネスに取り組む必要性が生じ、法人向けの出張手配の業務や航空券発注業務を請け負うことになった。それでも同部では目標売上高を達成できず、外販部部長の独断で、売上の水増しと、それに対応する架空仕入が計上された。
・旅行事業の外販部門を本来的な業務としていなかったバリューHRでは、旅行業界の経験者である外販部部長を採用し、外販部門を立ち上げさせ、その人脈やノウハウを事業の推進力にしてきたという経緯がある。それだけに外販部部長に権限が集中してしまう傾向にあり、一方で旅行業界の経験のない者が外販部部長の業務内容へ関与したり監視監督をしたりすることは困難であった。
・売掛金の回収偽装(後述)により、売掛金が滞留している事実の発覚が遅れた。
・外販部部長は、バリューサポート社の外販部門の業績が悪化により、自ら連れてきた元部下が仕事を失ってしまうことに危機感を持っていた。
改善策 ・外部有識者を招いた研修制度の充実
・行動指針等の周知の徹底
・内部通報制度の周知徹底
・内部監査の強化
・内部統制報告制度(J-SOX)の評価範囲の拡大
・外販部門から早期撤退し、旅行事業自体をバリューHRに吸収合併させる。

滞留売掛金の発生と回収偽装(B/Sの問題)

内容 ・バリューサポート社では、架空売上の計上により架空売掛金が積み上がっていた。
・外販部部長は仕入先からの仕入戻し(ツアーの注文を受けたかのように装い仕入先にツアー代を支払ったのち、そのツアーがキャンセルを受けたとして仕入先に対してツアーの仕入をキャンセルしたことによる返金)を自身のネットバンキング口座に振り込んでもらい、その口座から売掛金の回収に見せかけて(振込元の名前を得意先名として)会社に支払いを行った。
・仕入戻しだけでは資金が足りないため、外販部部長は個人的に借金をして、自身のネットバンキング口座から売掛金の回収に見せかけて会社に支払いを行った。
・正常な売掛金を現金で回収した際に、会社に対しては架空売掛金を回収したとの報告をすることで、滞留売掛金の回収を偽装した。
原因 (売掛金が滞留する理由)
・格安航空券手配の注文を受けていながら、取扱量が多く業務も煩雑であることから請求洩れが発生してしまい、追加で請求すると得意先に支払いを断られてしまった。また、格安で手配できる期限を逃した場合、航空券を正規料金で手配せざるを得なくなり(調査報告からは明らかではないが、正規料金での航空券代を売上高に計上していたものと思われる)、回収不能な売掛金が積み上がった。
・売掛金の滞留期間が3か月を超えると貸倒引当金の計上対象になると監査法人から指導されていたことから、架空売掛金が貸倒引当金の計上対象にならないよう、入金を装う必要があった。
・正常な売掛金を現金で回収し、架空売掛金への入金があったかのように装うことで、架空売掛金が消し込まれる一方で、正常な売掛金は帳簿上残ったままとなり、滞留期間が3か月を超えないよう別の売掛金の入金額で消し込まざるを得なくなった。この繰り返しで、いつまで経っても滞留売掛金がゼロにはならなかった。

(回収偽装を許した背景)
・バリューサポート社の外販部門では、営業担当者自らが、次のような一連の業務を一人で担っていた。
「顧客からの受注」→「旅行代理店への航空券等の発注」→「顧客に対する請求書の送付」
そのため、営業担当者は自分以外の営業担当者の行っている業務内容に関知する機会がなく、内部牽制が働かず不正が発覚しづらかった。
・売掛金の消し込みは外販部部長が自ら行っていた。

(入金原資:売掛金の現金回収)
・バリューサポート社の仕入先は経営者が一人で運営しているような小規模な会社であり、外販部部長が「現金での回収」を依頼してきても柔軟に対応してもらえた。また旅行業界には、チケットを現金で取引する慣行もあったことから、「現金での回収」の依頼に対してそれほど違和感を持たれなかった。
・バリューサポート社の社内規程では、売掛金を現金で回収する場合は会社発行の領収書を持参することになっていたが、外販部部長はその規定に反して領収書を自分で作成したり、名刺にメモ書きをして売掛先に渡したりしていた。

(入金原資:仕入戻しの個人口座への振込)
・仕入戻しとは、支払済みの仕入代金がツアーのキャンセルにより支払い不要になったことを受け、仕入先より返金される仕入代金である。上述したように、外販部部長と仕入先の関係から、仕入戻しの額を自己名義の口座へ支払うよう依頼することが可能であった。

改善策 上述の「架空売上・仕入の計上」を参照
<この失敗から学ぶべきこと>

 今回の事例では、バリューサポート社の外販部部長が個人的に借金をして回収を偽装していました。このような自己犠牲を伴う粉飾は、極めて日本的な粉飾と言えます。名証セントレックスに上場していた株式会社NowLoading(当時。太陽商会に名称変更後、2014年6月に上場廃止)でも社長が自己資金を用いて売掛金の回収を偽装していたという事例がありましたが、NowLoading社の場合は「債務超過の回避による上場維持」が動機となっていました。今回の事例は「外販部部長自らが連れてきた元部下が仕事を失ってしまう」ということへの危機感を動機とするものであり、同じような売掛金の回収偽装でも動機の違いにより事件の印象が大きく変わると言えます。

 バリューサポート社では旅行業を新規に立ち上げる際に、中途採用した旅行業経験者に事業の立ち上げから、立ち上げ後のルーチン業務まで依存していました。旅行業のような極めて特殊な業種では、調査報告にもあるように、経験のない者が業務内容へ関与したり監視監督をしたりすることは、実際のところ難しいと言えます。しかし、内部統制についての考え方はすべての業種に共通する普遍的なものです。いくら業務に特殊性があるとしても、その普遍的な考え方を適用して管理していくことで、不正を防止することができます。例えば、請求書の発行や消し込みに経理部門が関わる(別の担当者や部門が関わることを“内部牽制”と言います)ことで、営業部門の独走による不正発生を未然に防ぐことができるのは、一般的な商工業であっても旅行業のような特殊な業界であっても同じです。また、得意先への請求書に先月の残高、当月発生額、当月回収額、当月の残高を明記し、残高に相違があれば経理部門に直接連絡してもらうよう明記しておくことで、不正の発生を抑止できます。業種が違っても“あるべき請求書のフォーム”に違いはありません。加えて、経理部門主導により定期的な“残高確認”を実施することで、売上高の水増しや滞留売掛金をすぐに検知できます。“残高確認”は、BtoCの取引であれば基本動作の1つです。

 既存事業の売上鈍化に伴い、畑違いの新規事業にチャレンジする会社は少なくありません。畑違いの新規事業であれば、社内リソースだけでスタートアップできず、外部の経験者の力を借りざるを得ません。その結果、バリューサポート社のように「特定人物に依存した管理体制」(すなわち特定人物の暴走に歯止めが効かない体制)になりがちです。新規事業担当の取締役は、業務の内容の細部を理解できないからといって管理監督をおろそかにするのではなく、普遍的な内部統制の考え方を適用させ不正の芽を摘む仕組みを作る必要があります。

2015/03/09 社外取締役に対するインセンティブ報酬付与の是非

 日本では、社外取締役に対してインセンティブ報酬を与えることにはネガティブな意見も聞かれる。特にストックオプションに対してはそのような意見が多い。

 社外取締役にストックオプションを付与することは法的には何ら問題はなく、実際、ガバナンス体制の完成度が高いとされているとされる指名委員会等設置会社を中心に、社外取締役にストックオプションを付与している上場会社もある。しかも、ストックオプションを与えることで、社内取締役と社外取締役のベクトルを合わせるという効果も期待できる。

 それでも社外取締役に対するストックオプションに対して否定的な意見があるのは、ストックオプションは行使期間が決まっているため、・・・

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2015/03/09 社外取締役に対するインセンティブ報酬付与の是非(会員限定)

 日本では、社外取締役に対してインセンティブ報酬を与えることにはネガティブな意見も聞かれる。特にストックオプションに対してはそのような意見が多い。

 社外取締役にストックオプションを付与することは法的には何ら問題はなく、実際、ガバナンス体制の完成度が高いとされているとされる指名委員会等設置会社を中心に、社外取締役にストックオプションを付与している上場会社もある。しかも、ストックオプションを与えることで、社内取締役と社外取締役のベクトルを合わせるという効果も期待できる。

 それでも社外取締役に対するストックオプションに対して否定的な意見があるのは、ストックオプションは行使期間が決まっているため、社外取締役が“短期主義的”なマインドに陥りかねないという点が懸念されているからだ。例えば行使期間が5年間のストックオプションで、行使期限が2年後に迫っている場合、社外取締役が長期的な企業価値向上という視点を見失い、短期的な利益追求(例えば研究開発費の削減に同意する)に走らないとも限らない。

 そこで考えられるのが、社外取締役の在任期間中ではなく、退任後に一定のタイムラグを置いてからストックオプションの行使を認める、あるいは在任期間中の株価や業績も踏まえ現物株式を付与するといった方法だ。このやり方であれば、社外取締役は短期的な目標とある程度切り離されて、在任期間を通じて企業価値の向上に努めやすい。

 社外取締役の方から自らに有利な仕組みの導入を提案するのはさすがにやりにくいだろうが、英国では、取締役会の外部評価会社(2015年3月4日のニュース「英国で発達する取締役会の外部評価、日本では?」参照)がこうした提案を行うこともあるようだ。

 社外取締役を「取締役会の監視役」ではなく、企業価値を上げる「同志」であると考えれば(2015年1月の課題「独立社外取締役の人選」参照)、インセンティブ報酬を付与することはおかしなことではない。上述のとおり「付与の時期」には気を配る必要はあるが、社外取締役へのインセンティブ報酬は今後日本でも広がっていく可能性があろう。