取締役会を「監視の場」にするマイクロマネジメント思考
社外取締役の人選においては、当然肩書も重視されます。しかし、いくら立派な肩書を持っていても、その人が自社に本当に役に立つかどうかは、選任後一定期間してみないと分からないものです。選任してみたものの、社外取締役としての資質に欠けていたり、自社のビジネスに理解がなかったりして、後で失望するケースも珍しくないのが現実です。社外取締役は2年または1年の任期とはいえ、一度選任されれば、病気にでもならない限り改選により数期は務めることになるのが通常です。誤った人選をすれば、その後長期間にわたって取締役会にフラストレーションを与えることになるだけに、そのリスクは大きいと言えます。
避けたいタイプの筆頭が、“マイクロマネジメント”思考の人です。「こういうことやってはいけない」「この社内規程が良くできていない」など細かいことをあげつらって、それで責任を果たしたと思っている社外取締役は決して少なくありません。日本人の生真面目な性格も影響しているとも言えそうですが、マイクロマネジメントは社外取締に求められている役割、力量ではありません。そもそも、こうしたチェック役には監査法人や顧問弁護士、外部のアドバイザー、さらに(社内・外)監査役がおり、それが取締役である必要はないでしょう。
社外取締役は他のボードメンバーとともに企業価値を高める“同志”であり、この意識を共有できない人を社外取締役に選任してはいけません。取締役会が単なる「監視の場」「ネガティブチェックの場」になってしまえば、思い切った経営判断ができなくなる恐れもあります。これまで、日本企業においては「社外取締役=監視役」といったイメージが強かったと思いますが、これからの時代の社外取締役像は従来とは全く違ったものになっていくはずです。社外取締役の選任にあたっては、企業側も従来の認識を変える必要があります。
日本ではなかなか実現しない「ライバル会社の元経営者」の登用
社外取締役候補としてまずリストアップしたいのは、他企業の元経営者です。実際に経営を経験した者の客観的な目は、企業経営上極めて有益です。また、現役の経営者よりも時間的な余裕があるので、社外取締役の職務にも深くコミットしてもらいやすいはずです。ただし、現役時代に優れた業績を残した元経営者ともなれば引く手あまたのため、早めにアプローチしておきたいところです。
元経営者の起用は、取締役会の風通しを良くする効果も期待できます。例えば取締役会にはワンマン社長とイエスマンしかおらず、実質的に社長の独断で議論の行方が決まっているような場合、この状況を改善するためには、ワンマン社長が一目置かざるを得ないような人物を社外取締役として招聘することが有効です。一例として、社長よりも年齢が上で、自社より規模の大きい企業の出身者が挙げられます。もっとも、ワンマン社長がこうした人材をいきなり社外取締役に受け入れるとは考えにくいため、最初はアドバイザリーボードなど社長の諮問機関に招聘するといったステップを踏んでから、社外取締役に迎え入れることも考えられます。
海外では、ライバル企業の元経営者を社外取締役に起用するケースが珍しくありません。業界に精通し、しかも、競争相手として自社を外部から分析してきたライバル企業の元CEOの意見は、まさに自社にとっては企業価値向上のための金言となり得ます。しかし、日本では異業種の元経営者を社外取締役に起用するケースはあっても、同業界からの起用はほとんど見られません(むしろタブーになっています)。その背景には、企業秘密の漏洩問題や愛社精神の強さなどがあるものと思われますが、日本企業の価値向上のためには、我が国においてもこの壁を打ち破ることが必要でしょう。そのためには、政府が主導して何らかのガイドライン(例えば、経営者を辞めてから何年すればライバル企業の社外取締役となっても問題ないのか、元の所属企業とのコンフィデンシャル・アグリーメントの締結など)を定めるなどして、日本企業の背中を押すことが必要かも知れません。
同業界からの起用が難しい場合には、他業界ながらもビジネスモデルが近いところ(例えば、ヘルスケアと医薬品など)から元経営者を招聘することも検討に値します。
元経営者以外の適任は?
元経営者以外の適任者としてはどのような人材が考えられるでしょうか。
社外取締役の選任において意識する必要があるのはダイバーシティ(多様性)です。企業価値の向上に貢献するためには、社外取締役は様々な角度から「スペシャリティ」に裏打ちされたアドバイスを業務執行側に行う必要があります。そのためには、例えばファイナンスのプロ、科学技術のプロ、インターナショナルビジネスのプロ、自社にない事業の経験がある人材などの登用が考えられます。また、企業のエシックス(倫理)などを検討するうえで、CSR(企業の社会的責任)やESGに造詣が深い人も入れておくとよいでしょう。
このほか、取締役会のメンバーが50代後半の男性ばかりで発想が似通っているという場合には、例えば中堅世代のベンチャー経営者、上場企業の女性経営幹部などを招聘するのも有効でしょう。また、言葉の問題はあるものの、発想が全く異なる外国人は、ダイバーシティの実現にはもってこいと言えます。
アナリストも有力な候補となり得ます。多くのアナリストは同じ業界を長年見ているだけに業界への見識もあり、企業にアドバイスしたり、意思決定に携わることが可能でしょう。
企業からは、「大学の先生は使いやすい」という声がよく聞かれます。必ずしも自社業務に精通しているわけではないものの、「正論」「あるべき論」を述べてくれるところが重宝されているようです。
経営戦略やM&Aといったテーマでは経営コンサルタントの発言も有用でしょう。ただし、経営コンサルタントの能力は極めて属人的なため、人選は慎重に行う必要があります。
一方、「単に有名だから」という理由での人選は、投資家の評判も芳しくありません。あくまで、その人がどのように会社の企業価値向上に貢献できるのか説明できる人を選ぶべきです。
能力だけでなく「姿勢」も確認を
このように、元経営者を筆頭として様々な分野の人材が社外取締役候補となり得ますが、肩書や能力は似通っていても、社外取締役という職務に取り組む「姿勢」によって、企業価値向上への貢献度は大きく変わってきます。
例えばメーカーの社外取締役に就任したら、事業所や工場、主要な取引先などをくまなく回る人がいる一方で、多忙を理由に、取締役会への出席以外の活動に消極的な人もいます。後者は、本気で企業価値の向上に貢献しようという覚悟の不足が疑われます。この点は、選任前にしっかり確認しておく必要があります。
また、社外取締役の役割を、取締役会に上がってきた議案について単にチェックボックス的なチェックをすることと考え、「取締役会での議論やディシジョンメイキングは自分の役割ではない」と割り切っている社外取締役(候補)も少なくありません。例えば海外の企業に数千億円の投資をすることについて取締役会で決議するとします。この議案に対し、ビジネススクール的な発想で「どういう風にリターンをはじいてますか」とまでは言えたとしても、相手の会社の内容までしっかり聞いた上でそれが企業価値向上にどう貢献するのかというところまでは議論できていないことが多いのではないでしょうか。業務執行役員は当然ながら当該投資に対して明確なロジックを持っており、ここで社外取締役に色々言われるのは勘弁して欲しいというのが企業側の本音でしょう。しかし、社外取締役はそこで“嫌な役割”を果たさなければなりません。自分が株主や投資家の“エージェント”となり、客観的な目で、投資家や株主が抱くであろう疑問をクリアにしていくといった姿勢がなければ、現実問題として社外取締役としてはワークしません。そのためには、社外取締役に「質問する能力」「解釈する能力」「理解する能力」が備わっていなければなりません。こうした能力に欠ける人は、そもそも社外取締役候補から外すべきでしょう。
社外取締役としても、功なり名を遂げた経営者に対して発言することには気が引けることもあるかも知れません。しかし、いかにワンマンな企業経営者であっても、自分の経営判断が正しいかどうか迷うことも、また間違った判断を下すこともあるものです。そういう時にこそ、社外の人と議論することが経営者にとっても重要であり、逆に言うと、そういうことに対して胸襟を開いていない経営者は自らの決断を検証する機会を失っていることになります。最終的には自分の考えを押し通すとしても、一度揉んでみるという作業が経営判断の際には極めて重要であり、その作業を行うのが取締役会の役割に他なりません。社外取締役を上手く活用できるかどうかという局面では、経営者の度量の広さも試されていると言えるでしょう。