2015/01/20 【事業管理】新規得意先を開拓したい(会員限定)

 

釣った魚の餌代の方が安い!?

「1:5の法則」―――これは何を意味するのかをご存じでしょうか?

1:5の法則とは、「新規得意先に販売するコストは既存得意先へ販売するコストの5倍かかる」というマーケティング用語です。このほか、「既存の顧客離れを5%改善すれば、利益が最低でも25%は改善される」ということを意味する「5:25の法則」という用語もあります。

いずれもその意図するところは、いうなれば「釣った魚には餌をあげない」のではダメだということです。要するに、既存顧客を継続的に囲い込んでおくことこそが重要であるとマーケティング論では説いているわけです。既存顧客の購入量や購入頻度を高める仕組みを構築して、既存顧客の離反率を抑えれば、コスト面でも(1:5の法則)、収益面でも(5:25の法則)会社にプラスの効果をもたらす可能性は高くなるでしょう。

そうであれば、既存の顧客を多数抱えている会社は新規取引先の開拓を止めて、既存顧客の維持だけに注力すべきではないかと考えてしまいがちですが、果たしてそれでよいのでしょうか?

既存顧客は減っていくものと考えるべき

既存顧客を維持していくことは、会社が安定した収益を獲得していくうえで極めて重要です。しかし、既存顧客のうち特定の顧客への依存度が高まると、その顧客の業績悪化に連動して自社の収益も悪化してしまうリスクがあります。例えば、2011年の東日本大震災によって大口顧客が被災し業績が大きく低迷した結果、それに連動して供給元の会社も大きなダメージを受けてしまったというケースが少なからずありました。

また、競合他社が多い分野で事業を展開している会社は、常に競合他社との価格競争にさらされているため、既存顧客への依存度が高ければ高いほど、今後も既存顧客との関係を継続したいと考え、既存顧客からの値下げ要請に応じざるを得なくなります。

しかし、たとえ値下げ要請に応じたとしても、競合他社が品質や機能の点で差別化を図り、顧客のニーズにより適合した製品を導入してきた場合には、いくら長年付き合いのある大口の顧客であっても、競合他社にシフトしてしまうリスクがあります。

会社の業種や事業内容、製品・サービスの差別化の程度、競合他社の状況にもよりますが、既存顧客を1社も離反させることなく維持していくことは難しく、毎年何%かの既存顧客は他社に流れていくのではないでしょうか。したがって、値下げ要請や既存顧客のロストに起因する収益の減少分を何らかの形で補っていかなければ、事業を継続していくことは難しくなります。

そこで新規取引先の開拓が必要となります。既存顧客の維持に努めつつも、新規取引先の開拓をバランスよく行うことは、会社の事業継続という長期的な視点から非常に重要です。

「営業手法」と「営業先」に要注意

新規得意先の開拓は、実際のところ容易ではありません。特に最初の接点を作るのは難しく、有名企業であっても、テレアポやダイレクトメール、飛び込み営業といった旧来型の手法を用いることが珍しくありません。

新規顧客の開拓方法としては、紹介による場合の成約率が比較的高いといえます。紹介がない場合には、名簿を入手してこれを基に営業をかける手法がよく見られますが、この場合、個人情報保護法や不正競争防止法に違反していないかどうかについて留意する必要があります。また、同業他社などから引き抜いた人材のネットワークを活用するケースもよくありますが、この場合は、不正競争防止法に違反していないかどうかについて事前に検討すべきです。

もっとも、このように苦労して営業をかけた結果、新規得意先候補から良い感触を得たからといって、直ちに取引を開始するのは避けたいところです。上場会社である以上、新規の取引開始には慎重でなければならないからです。厳しい営業畑を長年歩んできた取締役の中には、「そのような消極的な姿勢では、せっかくの売上のチャンスが逃げてしまうではないか」と考える方もいるかも知れませんが、上場会社には様々なステークホルダー(株主、債権者、従業員、行政機関など、会社と直接・間接に利害関係を有する者を指します)が存在しているため、慎重な姿勢を欠いて新規顧客と取引を開始し、後になって問題が生じた場合には、多くのステークホルダーに不測の損害を与えることになりかねません。新規取引先は情報が少なく信用できるかどうかは未知数であることが一般的なので、あらかじめ様々なリスクの存在を検討しておく必要があります。取引を開始すべきかどうかの具体的な判断の方法について、次に解説していきたいと思います。

与信限度枠の設定ミスで多額の貸倒れや取込み詐欺も

新規に開拓してきた会社と取引を開始すべきかどうかは、どのように判断すればよいのでしょうか?

世の中には良い会社もあれば悪い会社もあります。何をもって「良い」というのかは会社を見る視点によっても変わってきますが、新規に取引を開始する上では、財務状況が健全であり、収益性に問題がなく、ビジネスに成長の余地がある会社が「良い会社」だといえます。

このような会社を「良い会社」と判断する理由は、現在の取引慣行では、「現金取引」よりも、現金支払を後日とする「掛取引」の方が主流であるため、取引相手として認められるためには期日にきちんと現金を支払うことができる能力が必要になり、そのためには財務状況が重要な要素になるからです。そこで新規に取引を開始する場合には、新規取引先にその能力があるかどうかの調査を実施することが一般的です。このような調査を与信調査(あるいは信用調査)と言います。与信調査は、通常、営業担当者が取引先の決算書や帝国データバンク、東京商工リサーチなどの外部調査機関の企業データを信用情報として入手し、内容を精査することで行います。

そのうえで、営業担当者は会社に与信限度枠の申請を行います。与信限度枠とは、「この取引先に対してはこの金額まで掛売りしてもよい」という限度額のことです。与信限度枠を設けなければいくらでも掛売りすることができるわけですが、取引先が期日までに現金の支払いをできなければ、売掛金という債権が回収できないことになりますので、せっかく計上した売上は一転して「貸倒損失」になってしまいます。

会社の資金計画で予定していたタイミングに入金がなければ、支払いが必要になる場面で資金不足に陥り、最悪の場合、手許資金がショートすることも考えられます。実際に、得意先から期日までに振込みがなかったために支払手形の決済ができず、不渡りを出して倒産する会社は後を絶ちません。また、取り込み詐欺(支払いの踏み倒しを前提に、信用取引(掛取引)を用いて、換金性の高い製・商品を短期間で大量に仕入れる詐欺)のような悪質なケースも想定しておかなければなりません。

こういった事態を回避するために営業担当取締役としては各社ごとの与信限度枠を設けるとともに、財務担当取締役は資金繰りの管理に力を入れる必要があります。

新規取引先の信用力を判断するポイントは?

上記のような事態を避け、自社の財産を保全する観点からも、新規取引先の信用情報に基づく与信限度枠の設定が重要になります。与信限度枠を設定するためには、取引を行うかどうかの審査の基準、与信限度枠の設定方法、承認方法、毎期の見直し方法、モニタリング方法などについて、あらかじめ社内規程を作成しておく必要があります。上場会社であれば、当然こうした社内規程は整備されているはずですが、与信管理の一連の手続(信用情報の入手方法、審査の基準、与信限度枠の設定方法、モニタリング方法)が網羅的に規定されているかどうかについて、営業担当取締役や監査役としては、いま一度内容を確認してみるとよいでしょう。

新規取引先の信用力を判断するポイントは以下のとおりです。

収益性や流動性
に関する
各種財務比率
売上高営業利益率(=営業利益 ÷ 売上高)が高ければ本業からの収益性が高いと判断されるため、信用力は高くなります。また、流動負債よりも流動資産が多く流動比率(=流動資産 ÷ 流動負債)が高ければ、短期的な支払能力があると判断されるため信用力は高くなります。その他、配当を安定的に行っているか、などもポイントとなります。
関係会社の情報 新規取引先が優良会社の子会社であるような場合は、親会社が子会社の債務などを保証してくれる可能性が高いため、信用力が高くなります。
業界での評判 業界内での過去の実績や評判が高ければ、信用力が高くなります。同業者は同業他社のことをよく知っているものです。

このほか、会社案内や会社のウェブサイト、登記簿謄本等を入手して、次のような項目も確認することも有用です。
・社名(変更が繰り返されていないか)
・資本金(少なすぎないか)
・事業内容(本業と一貫性のない事業が登記されていないか)
・営業年数(短すぎないか)
・役員の状況(経歴や過去の実績におかしなところはないか、役員構成が頻繁に入れ替わってないか、役員が同族関係者で固められている場合、ワンマン経営や公私混同の可能性はないか)
・従業員数(少な過ぎないか、また、多過ぎないか)
・メインバンク(変更されていたりしないか)

また、新規取引先に出向いてオフィスの立地や状態を確認し、担当者とフェイス・トゥ・フェイスでじっくり話をしてみるのも信用力を測る上で重要です。社員に活気があり勢いの感じられる会社は、将来の成長が期待できる会社が多いものです。

営業担当の取締役は、上記のような視点で営業担当者が新規取引先の信用力を多角的に評価しているかチェックして、必要があれば自ら実践してみせる立場にあると言えます。

新規取引先について十分吟味した結果、信用力があると判断した場合は、最終的には取締役が責任をもって審査などにおいて新規取引開始の承認することになります。場合によっては、「しばらくは現金取引で様子を見る」「取引保証金を積んでもらう」といった判断をすることもあるでしょう。また、監査役も、会社のリスク管理体制の一部として審査が適切に運用されているかをチェックし、社内規程やマニュアルに則って与信判断の手続きが行われているかを考慮した結果、取締役の判断に問題があると判断した場合には社長などに報告する必要があります。

与信限度枠の設定方法は自社に合ったものを

与信調査の結果、審査などにおいて新規取引先の信用力が一定程度以上であると判断した場合、与信限度枠の設定を行います。上述したとおり、与信限度枠は「この取引先に対してはこの金額まで掛売りしてもよい」という限度額のことです。与信限度枠を設けなければいくらでも掛売りすることができてしまい、貸し倒れリスクが高まりますので、新規取引先の信用力に応じた与信限度枠を適切に設定する必要があります。

与信限度枠の設定方法(計算ロジック)は様々であり、これが正解というものはありません。例えば、
・自社の売上債権の一定割合(例えば10%)に新規取引先のランクに応じた調整係数を乗じた額を与信限度枠とする方法
・新規取引先の月別売上高の一定割合(例えば10%)を与信限度枠とする方法
・同規模の既存取引先の与信限度枠を参考にする方法
・いくつかの方法を用いて限度額を算出し、そのうちの最低値を与信限度枠とする方法
――など、業種や業態によって様々です。

したがって、自社に合った計算ロジックを見つけ出し採用することが重要となってきます。取締役は、与信限度枠の設定方法について、自社にとって最適なものとなっているかといった観点から、見直しを図るべきです。具体的には、自社の顧客に対していくつかの方法を用いて与信限度枠を算出してみて、実際の取引高と乖離の少ない方法を採用する、といった確認作業も有効です。

なお、与信限度枠は、一度設定したら終わりというわけではなく、毎期見直すことが重要です。取引先の事業環境が変化すれば、それに応じて与信限度枠を新たに設定し直す必要があります。新規取引先は、当初は少ない与信限度枠でスタートして、信用がつけば徐々に与信限度枠を増やしていくことも考えられるでしょう。

もっとも、いくら与信限度枠を設定しても、営業担当者がその枠を守らなければ設定する意味がありません。また、与信限度額を設定したものの、残枠(与信限度額マイナス売上債権残高)の管理ができていない場合、営業担当者は与信限度額の範囲内に収まっているのかどうかをリアルタイムで知ることができないといった問題点が生じてしまいます。こうした事態を避けるためには、財務会計システムと与信限度額の管理システムの連携を図り、残枠をリアルタイムで更新していくことで、与信限度額を超える売上入力時にアラートを出す(あるいは入力不能とする)等のコントロールを設ける必要があります。したがって、取締役は与信限度枠の設定の承認とともに、継続的にその運用状況をモニタリングする必要があります。

与信限度枠の承認時にやってはならないこと

既に述べたとおり、“与信管理に関する内部統制構築”の観点から、あらかじめ社内規程に与信限度枠の承認プロセスに関する規定も盛り込んでおく必要があります。

実務的には、与信限度枠の大小によって承認権限者や必要資料が変わるケースがよく見受けられます。例えば、与信限度枠が100万円以下であれば営業部の部長の承認により確定するのに対し、与信限度枠が100万円を超過する場合は「新規得意先の決算書」「信用情報」を入手したうえで、営業部長の承認を経て取締役による承認を必要とするといった具合です。また、得意先の親会社の信用状況が非常に優良な場合は、親会社の保証が見込めるため、その子会社である新規取引先の審査は不要とするケースも見受けられます。

なお、与信限度枠の承認を行う取締役には、営業部門に属する取締役だけでなく、管理部門(例えば経理・財務)等、営業とは別の部門に属する取締役も加えるべきです。なぜなら、営業部門に属する取締役は、売上増加に目が向きがちで、心情的に与信の設定を甘くする傾向にあるからです。与信限度枠の承認を営業部門内で完結させないようにしましょう。

定例会議で報告する仕組みを

上述したとおり、“与信管理に関する内部統制の構築”については、社内審査などの承認手続の構築が不可欠ですが、これは事前統制の構築になります。次に与信限度枠を設定したら、それが守られているかどうかを事後的にモニタリングする事後統制の構築も必要です。例えば、週次や月次で営業会議を開く会社も多いですが、そのような場で債権の回収状況を営業担当者や営業担当取締役が報告し、滞留している債権があれば入金遅れの理由や回収期日の目標を明確化していく仕組み作りが重要です。

反社チェックの必要性と反社条項

ここまで与信調査について解説してきましたが、もう一つ忘れてはならないのが、いわゆる“反社チェック”、すなわち、新規取引先が反社会的勢力との関わりがないかどうかや、そもそも新規取引先自体が反社会的勢力ではないことの調査です。近年、反社会的勢力は組織実態を隠蔽する動きを強めていて、一般事業会社を装って経済活動を行ったり資金調達活動を行ったりするなど、その手口が巧妙化しています。その結果、反社会的勢力との取引の排除を掲げる会社であっても、知らず知らずの内に取引を行ってしまうおそれがあるため、このような調査が必要になります。

上場会社が反社会的勢力と取引を行っていたということになれば、社会的信用が失墜してしまうのはもちろんですが、既存の取引先との契約解除やそれに伴う損害賠償、金融機関との取引停止、国や地方自治体からの罰則適用などが生じ、上場会社を取り巻くステークホルダーに多大な損害を与えることになります。また、取締役は善管注意義務違反として会社に与えた損害について賠償する責任を負うおそれがあります。

このような事態にならないためにも、反社会的勢力との関係遮断に関する規程を整備するとともに、取引基本契約書に「反社条項」(暴力団排除条項とも呼ばれ、反社会的勢力ではなく、関わりもないことを表明するとともに、万が一反社会的勢力であることや反社会的勢力との関わりが判明した場合は、契約を一方的に解除できる条項。警察庁の「売買契約書のモデル条項例の解説」および下記の具体例を参照してください)を入れ、反社チェックを専門に取り扱うリサーチ会社や企業のバックグラウンド調査会社を利用して、反社会的勢力との取引を未然に防止する体制を整備することも取締役の責務の1つです。

<反社条項の例>
○自らが、暴力団等反社会的勢力ではないことを確約する。
○自ら又は第三者を利用して、次の行為をしないことを確約する。
ア 相手方に対する脅迫的な言動又は暴力を用いる行為
イ 偽計又は威力を用いて相手方の業務を妨害し、又は信用を毀損する行為

確約に反する申告、確約に反する行為をした場合には、何らの催告を要せずして、この契約を解除することができる。

○買主は、自ら又は第三者をして本物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供しないことを確約する。

買主が確約に反し、本物件を反社会的勢力の事務所その他の活動の拠点に供した場合には、売主は何らの催告を要せずして、この契約を解除することができる。

買主は売主に対し、違約金(売買代金の20%相当額)に加え、違約罰(売買代金の80%相当額)を支払う。

新規取引先の開拓に伴いコストの増加も

新規取引先を開拓した場合、納期を守れるような生産計画や受注方針を立てることが重要となってきます。納期遅れは取引先からの信用の失墜はもちろん、納入品が取引先の工場の工程で使用する部品などであった場合には、工場の操業停止やパート従業員の一時解雇などを招き、取引先の経営に重大な影響を与えることになります。そこで、生産計画は自社の能力に見合ったものとなっているか、販売一辺倒の受注方針となっていないか、生産調整会議(工場と営業との意思疎通を行う会議)やステアリング・コミッティ(全社的なプロジェクトを遂行する社内横断的な運営会議)で進捗状況の把握はできているか、などを確認し、適宜見直しを図っていくことが必要です。また、取引量(生産量)の拡大に伴い、品質が低下しクレーム発生につながるおそれがあります。そこで、設計や工程を改善したり、検出した不具合を徹底的に排除したりといった地道な改善活動が不可欠になります。

このように既存の取引先だけでなく新規取引先に対しても納期と品質を一定水準に保っていく必要がありますが、場合によっては納期と品質の維持に追加的なコストがかかる可能性があります。例えば納期を守るために生産ラインを増やすことで対応する場合、新たな設備の導入が不可欠となります。性能や品質の面で競合他社との差別化を図ることを武器に取引を開始する場合は、新規取引先の仕様(スペック)に合った製品を作らなければなりません。そのために特殊な製造技術が必要となる場合は、既存の製造設備を改造する必要があります。さらに、特定の製造工程を外注するケースも考えられますし、新たな設備投資や外注までは不要であっても、新規取引先が大口の取引を提案してきた場合は、原材料の調達費用や製造費が増加することになります。

したがって、新規取引先の開拓にあたって、取締役は新たな資金調達の必要性を検討しなければならない場合もあります。資金調達の方法としては、金融機関からの借入れ(「借入れにより資金調達したい」を参照してください)や社債の発行や増資といった方法のほか、CMS(キャッシュ・マネジメント・システムの略)の利用なども考えられます。

CMS : 企業グループでCMSを導入することで、企業グループ内での支払いを単なる残高の付け替えだけで完了させる(振込が不要となりコストが削減)とともに、剰資金のある会社から資金不足の会社に対して貸し付けを行うことも容易になるというメリットがある。

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2015/01/20 飲酒運転で検挙された従業員を解雇できるか

 新年会が多い1月は飲酒運転が増えやすい時期でもある。飲酒運転に対して世間が厳しい目を向ける中、仮に自社の従業員が飲酒運転により検挙され、報道でもされようものなら、企業ブランドへのダメージは決して小さくない。

 それだけに、飲酒運転を犯した従業員に対し会社が厳しい姿勢で臨むのは当然と言えるが、会社が従業員を懲戒する権利を有するのはあくまで「企業秩序を維持確保するため」(最三小S52.12.13判など)であり、企業秩序に関係のない“私的行為”は懲戒の対象とならないのが原則となっている。実際、「業務外におけるバイクの飲酒運転で事故を起こした従業員を会社が懲戒解雇した事案」について解雇を無効とした判決(福井地H22.12.20判)もある。また、そもそも運転免許を必要としない職務に就いている者は、運転免許がなくても仕事はできるため、たとえ飲酒運転により運転免許が取り消されたとしても、それを理由に解雇することはできない。

 では、運転免許を必要とする職務に就いている者であれば運転免許が取り消されたことを理由として解雇できるかと言うと、・・・

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2015/01/19 非上場企業との組織再編が“裏口上場”に該当しないか検証を

 上場企業にとって、優れた技術を持った企業や斬新なビジネスモデルを持つ非上場企業は合併などの組織再編の対象として魅力的だ。ただし、あくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、証券取引所の上場規程上「不適当な合併等」に該当してしまうことがあり得る点には注意する必要がある。

 「不適当な合併等」は、通称“裏口上場”とも言われる。「裏口」というとまっ先に裏口入学という言葉が思い浮かぶが、実際両者は似ている。裏口上場で、裏口入学における入学試験に相当するのが、上場に先立ち行われる証券取引所による「上場審査」だ。

 上場するためには、本来であればこの上場審査を通過しなければならないが、裏口上場では既に上場している企業を利用して実質的な上場を達成することになる。例えば非上場企業が上場企業に吸収合併してもらえば、非上場企業の株主に対して上場企業の株式が割り当てられる結果、非上場企業の株式が上場企業の株式に“化ける”ことになる。つまり、非上場企業は、上場審査を受けることなく、上場を果たしたのと似たような状態になる。これが“裏口上場”と言われるゆえんだ。裏口上場の手法には、合併のほか、「株式交換」や「株式移転」といった組織再編が用いられることもある。

 裏口上場が起きる背景には、証券取引所の厳しい上場審査により上場を許されない企業が少なくないという事情がある。“表玄関”からは株式市場に入れない非上場企業が“裏口”に回るというわけだ。ただ、裏口上場が放置されれば、上場を目指す企業の多くが厳しい上場審査を避け、裏口上場を選択しかねない。そうなれば、株式市場に“不良品”が多数流通することになり、株式市場は信頼を失うだろう。

 そこで証券取引所は、裏口上場を「不適当な合併等」と位置付け(東京証券取引所の場合、有価証券上場規程601条1項9号)、上場企業が「不適当な合併等」を行った場合には改めて上場審査に準じた審査を行い、これを通過しなければ、上場廃止にするというルールを設けている。

 「不適当な合併等」とは、例えば自社よりも規模の大きな非上場企業を吸収合併した場合のように、上場企業が実質的な存続企業とは言えない合併などの組織再編を指す。この場合、規模の大きい企業が存続企業になるのが通常であることから(規模の小さい企業が存続企業になるのは不自然)、たとえ形式的には上場企業が存続企業であっても、非上場企業を実質的な存続企業として、上場審査に準じた審査を行うことになる。

 実際、「不適当な合併等」を理由に、これまで10社以上の上場企業が上場廃止になっている。最近の事例では、上場企業の株式会社FXプライムbyGMOが非上場企業のGMOクリックホールディングス株式会社と平成27年4月1日に行う株式交換が「不適当な合併等」に当たると判断されている。

 もっとも、証券取引所がこのような措置をとるのは、「不適当な合併等」として類型化されたものに該当した場合に限られる。すなわち、「不適当な合併等」に該当しないケースでは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所の審査の対象にならない。外観からは通常の合併や株式交換等と区別が付かないからだ(「裏口上場します」と宣言して裏口上場する企業などない)。例えば、ある非上場企業が、自社よりも規模の大きな上場企業に吸収合併される場合などは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所側としては審査する機会がないのである。

 逆に言えば、上場企業があくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、裏口上場の意図など全くないにもかかわらず、形式的に「不適当な合併等」に該当してしまう場合があり得ることになる。仮に「不適当な合併等」に当たると判断されれば、・・・

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2015/01/19 非上場企業との組織再編が“裏口上場”に該当しないか検証を(会員限定)

 上場企業にとって、優れた技術を持った企業や斬新なビジネスモデルを持つ非上場企業は合併などの組織再編の対象として魅力的だ。ただし、あくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、証券取引所の上場規程上「不適当な合併等」に該当してしまうことがあり得る点には注意する必要がある。

 「不適当な合併等」は、通称“裏口上場”とも言われる。「裏口」というとまっ先に裏口入学という言葉が思い浮かぶが、実際両者は似ている。裏口上場で、裏口入学における入学試験に相当するのが、上場に先立ち行われる証券取引所による「上場審査」だ。

 上場するためには、本来であればこの上場審査を通過しなければならないが、裏口上場では既に上場している企業を利用して実質的な上場を達成することになる。例えば非上場企業が上場企業に吸収合併してもらえば、非上場企業の株主に対して上場企業の株式が割り当てられる結果、非上場企業の株式が上場企業の株式に“化ける”ことになる。つまり、非上場企業は、上場審査を受けることなく、上場を果たしたのと似たような状態になる。これが“裏口上場”と言われるゆえんだ。裏口上場の手法には、合併のほか、「株式交換」や「株式移転」といった組織再編が用いられることもある。

 裏口上場が起きる背景には、証券取引所の厳しい上場審査により上場を許されない企業が少なくないという事情がある。“表玄関”からは株式市場に入れない非上場企業が“裏口”に回るというわけだ。ただ、裏口上場が放置されれば、上場を目指す企業の多くが厳しい上場審査を避け、裏口上場を選択しかねない。そうなれば、株式市場に“不良品”が多数流通することになり、株式市場は信頼を失うだろう。

 そこで証券取引所は、裏口上場を「不適当な合併等」と位置付け(東京証券取引所の場合、有価証券上場規程601条1項9号)、上場企業が「不適当な合併等」を行った場合には改めて上場審査に準じた審査を行い、これを通過しなければ、上場廃止にするというルールを設けている。

 「不適当な合併等」とは、例えば自社よりも規模の大きな非上場企業を吸収合併した場合のように、上場企業が実質的な存続企業とは言えない組織再編を指す。この場合、規模の大きい企業が存続企業になるのが通常であることから(規模の小さい企業が存続企業になるのは不自然)、たとえ形式的には上場企業が存続企業であっても、非上場企業を実質的な存続企業として、上場審査に準じた審査を行うことになる。

 実際、「不適当な合併等」を理由に、これまで10社以上の上場企業が上場廃止になっている。最近の事例では、上場企業の株式会社FXプライムbyGMOが非上場企業のGMOクリックホールディングス株式会社と平成27年4月1日に行う株式交換が「不適当な合併等」に当たると判断されている。

 もっとも、証券取引所がこのような措置をとるのは、「不適当な合併等」として類型化されたものに該当した場合に限られる。すなわち、「不適当な合併等」に該当しないケースでは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所の審査の対象にならない。外観からは通常の合併や株式交換等と区別が付かないからだ(「裏口上場します」と宣言して裏口上場する企業などない)。例えば、ある非上場企業が、自社よりも規模の大きな上場企業に吸収合併される場合などは、たとえその真意が裏口上場にあったとしても、証券取引所側としては審査する機会がないのである。

 逆に言えば、上場企業があくまで経営上の必要から行った非上場企業との組織再編が、裏口上場の意図など全くないにもかかわらず、形式的に「不適当な合併等」に該当してしまう場合があり得ることになる。仮に「不適当な合併等」に当たると判断されれば、改めて上場審査に準じた審査を受けなければならなくなり、もしもその審査に通過しなければ、上場廃止になってしまう。上場企業は「上場」というプレミアムの分だけ信用が増しており、上場廃止になってしまえばその分だけ企業価値が棄損する。また、投資家が保有株式を換金する市場がなくなることで、投資家にも迷惑をかけてしまう。上場企業の役員が非上場企業との組織再編の是非を判断する場合には、上場廃止になるリスクがないかどうかを慎重に確認する必要がある。

参考文献:『検証裏口上場―不適当合併等の事例分析』(鈴木広樹著、清文社)
※「不適当な合併等」に当たると判断された多くの事例が検証されており、証券取引所の考え方が分かる好著である。

2015/01/18 チェックリスト:子会社に役員を送り込みたい(会員限定)

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■チェックリスト:子会社に役員を送り込みたい

チェック事項 備考 対応未了 対応済
買収防衛策の導入(継続)時に、株主総会における宣言的決議で少なくとも過半数の賛同を得たか。 賛同を得られなかった場合には、買収防衛策を発動したとしても、裁判所により新株予約権の発行などが差し止められる可能性がある。
議決権行使助言会社・ISSが設ける買収防衛策への賛成推奨基準を満たしているか。 取締役会に占める独立社外取締役の比率などを設けている(詳細は本文参照)。
自社の株価はTOPIXと比較してどの程度のパフォーマンスを上げているか確認したか。 株価パフォーマンスがTOPIXを大きく下回る状況で買収防衛の継続議案を株主総会に諮ったところ、否決された事例がある。
大会社である取締役会設置会社では、取締役会が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(会社法362条4項6号)」を決定する際に、「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」(会社法施行規則100条1項5号)を決定しているか。 大会社とは、資本金5億円または負債総額200億円以上の株式会社を指す。
具体的には、次のような事項を決定することが多い。
・ 子会社における業務の適正のための議決権行使の方針、親会社の監査役と子会社の監査役等の連携に関する仕組み
・ 親会社による不当な圧力に関する予防・対処方法、親子会社間の兼任役員の忠実義務に関する仕組み
子会社管理の観点から、親会社の方針を伝達するルートや子会社からの情報を入手するルートを構築しているか。 親会社の方針を伝達するルートや子会社からの非会計情報の入手ルート確保のために子会社へ役員を送り込むケースが多い。
また、子会社の会計情報の入手のために基幹系システムや会計ソフトの統一が考えられる。
役員の就任に際しては、兼任禁止に該当していないかどうかの検討を行ったか。 監査役の兼任禁止は以下のとおり。
・当該会社の取締役、支配人その他の使用人
・子会社の取締役、支配人その他の使用人、会計参与、執行役
(親会社の監査役が海外子会社の取締役を兼任することも認められないと考えられる)
親会社の取締役が子会社の監査役を兼ねることは、できる限り避けているか。 我が国の会社法上は禁止されていないものの、諸外国で禁止されている例もある。
親子会社双方の取締役を兼ねている者に対し、子会社側から報酬を支払う場合、その根拠について熟考したか。 子会社から役員報酬は親会社株主の目が届きにくいという問題点がある。

ケーススタディ役員実務「子会社に役員を送り込みたい(会員限定)」はこちら

2015/01/18 【ガバナンスのあり方】子会社に役員を送り込みたい

 

グループ経営における子会社管理の重要性

我が国では、財務報告における主役の座が単体財務諸表から連結財務諸表に代わってから、かなりの時間が経過し、その間に純粋持株会社制度や連結納税制度などが導入されたことに伴い、グループ経営や連結経営といった経営手法がずいぶん浸透したと言えます。そのような中、近時の経済不況とグローバル化により、個々の企業が自主性や独自性を保ちつつ、グループ経営によってグループ全体で人材や情報を有効活用することで競争力を高めることの重要性が再認識されています。

その一方で、グループ企業内で不祥事が発生すると、それがグループ全体の信用に影響することから、親会社だけでなくグループ全体でしっかりとした管理体制を構築することが必要です。会社法でも、大会社(資本金5億円または負債総額200億円以上の株式会社)である取締役会設置会社や指名委員会等設置会社には、取締役会が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(会社法362条4項6号)」を決定することが求められています。この「その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」には「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」(会社法施行規則100条1項5号)が含まれています。そのため、親会社の役員にとっては、自社の管理体制だけでなく、「企業集団」という視点から子会社の管理体制にまで気を配る必要があります。

この「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」ですが、次のようなことを決定する会社が多く見受けられます。

・ 子会社における業務の適正のための議決権行使の方針、親会社の監査役と子会社の監査役等の連携に関する仕組み
・ 親会社による不当な圧力に関する予防・対処方法、親子会社間の兼任役員の忠実義務に関する仕組み

もっとも、実際のところ、子会社は親会社と異なり、人員や予算が十分でないことから、子会社管理をどのように行うべきかについて頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。とりわけ、別法人となると情報が遮断されがちなので、情報の入手経路も考慮する必要があります。会計ソフトの統一により会計情報の定期的な入手は可能になっても、非会計情報の入手は別に手当てしなければなりません。そこで、多くの企業が活用しているのが、「子会社への役員送り込み」です。送り込まれた親会社の役員・従業員は、子会社の役員として親会社の方針を確実に伝達するとともに、子会社から非会計情報を含めた情報を親会社に吸い上げるための役割を期待されることになります。

そこで、ここでは親会社が子会社に役員・従業員を役員として送り込む場面にフォーカスし、その場合に生じうる問題点について、検討してみます。

子会社の取締役や監査役は誰が選ぶ?

100パーセント親子会社関係にあるような場合には、子会社の役員を誰にするのかを実質的に親会社(の経営陣)が決定し、子会社の取締役会はその方針に従った会社提案の議案を株主総会に上程することになるでしょう。

しかし、親子会社関係も様々ですので、中には親会社が独自に自ら役員候補を提案したいというケースもあることでしょう。この場合には、親会社は株主として株主提案をして役員候補を株主総会に上程することになります。具体的には、役員選任の議題が株主総会にかけられることが決定している場合には、株主総会の日の8週間前までに具体的な役員候補についての議案を提案し(会社法305条)、株主総会に役員選任の議題がかけられることが確定していない場合には、株主総会の日の8週間前までに役員の選任の議題と具体的な役員候補についての議案を提案することになります(会社法303条、305条)。さらには、実際には稀であるとは思われますが、株主総会当日に修正動議として具体的な役員候補についての議案の提案を行なうこともできます(会社法304条)。

以下に、役員候補の選任議案の記載例を挙げておきます。

(記載例)
第●号議案 取締役●名選任の件
 本総会終結時をもって取締役●名が任期満了となりますので、取締役●名の選任をお願いします。
 その候補者は、次のとおりであります。

候補者番号 氏名
(生年月日)
略歴、地位及び担当並びに他の法人等の代表状況 所有する株式数
●●株
●●株
子会社の役員との兼任、どれがOKでどれがNG?

親子会社においては、それぞれに所属する人材を効率よく適材適所に配置させるため、双方の役員を同一人物が兼任することが多くあります。以下では、どのような場合に兼任が認められるのか、またその場合に生じる問題点について、取締役と監査役それぞれに分けて検討します。

(取締役の兼任)
親子会社間で同一人物が取締役を兼任することは、会社法上は・・・

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役員の兼任の場合の報酬はどちらが払う?

では次に、上記の類型に従って役員の兼任が認められる場合に、その報酬は親会社と子会社のどちらが支払うべきでしょうか。

会社法において・・・

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2015/01/18 【ガバナンスのあり方】子会社に役員を送り込みたい(会員限定)

 

グループ経営における子会社管理の重要性

我が国では、財務報告における主役の座が単体財務諸表から連結財務諸表に代わってから、かなりの時間が経過し、その間に純粋持株会社制度や連結納税制度などが導入されたことに伴い、グループ経営や連結経営といった経営手法がずいぶん浸透したと言えます。そのような中、近時の経済不況とグローバル化により、グループ経営によって個々の企業が自主性や独自性を保ちつつ、グループ全体で人材や情報を有効活用することにより競争力を高めることの重要性が再認識されています。

その一方で、グループ企業内で不祥事が発生すると、それがグループ全体の信用に影響することから、グループ経営をより実効化させるためには、グループ全体でしっかりとした管理体制を構築することが必要です。この点、大会社(資本金5億円または負債総額200億円以上の株式会社)である取締役会設置会社や指名委員会等設置会社では、会社法により、取締役会が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備(会社法362条4項6号)」を決定することが求められています。この「その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」には「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」(会社法施行規則100条1項5号)が含まれています。そのため、親会社の役員にとっては、自社の管理体制だけでなく、「企業集団」という視点から子会社の管理体制にまで気を配る必要があります。

この「当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制」ですが、次のようなことを決定する会社が多く見受けられます。

・ 子会社における業務の適正のための議決権行使の方針、親会社の監査役と子会社の監査役等の連携に関する仕組み
・ 親会社による不当な圧力に関する予防・対処方法、親子会社間の兼任役員の忠実義務に関する仕組み

もっとも、実際のところ、子会社は親会社と異なり、人員や予算が十分でないことから、子会社管理をどのように行うべきかについて頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。とりわけ、別法人となると情報が遮断されがちなので、情報の入手経路も考慮する必要があります。会計ソフトの統一により会計情報の定期的な入手は可能になっても、非会計情報の入手は別に手当てしなければなりません。そこで、多くの企業が活用しているのが、「子会社への役員送り込み」です。送り込まれた役員は、親会社の方針を確実に伝達するとともに、子会社から非会計情報を含めた情報を親会社に吸い上げるための役割を期待されることになります。

そこで、ここでは親会社が子会社に役員を送り込む場面にフォーカスし、その場合に生じうる問題点について、検討してみます。

子会社の取締役や監査役は誰が選ぶ?

100パーセント親子会社関係にあるような場合には、子会社の役員を誰にするのかを実質的に親会社(の経営陣)が決定し、子会社の取締役会はその方針に従った会社提案の議案を株主総会に上程することになるでしょう。

しかし、親子会社関係も様々ですので、中には親会社が独自に自ら役員候補を提案したいというケースもあることでしょう。この場合には、親会社は株主として株主提案をして役員候補を株主総会に上程することになります。具体的には、役員選任の議題が株主総会にかけられることが決定している場合には、株主総会の日の8週間前までに具体的な役員候補についての議案を提案し(会社法305条)、株主総会に役員選任の議題がかけられることが確定していない場合には、株主総会の日の8週間前までに役員の選任の議題と具体的な役員候補についての議案を提案することになります(会社法303条、305条)。さらには、実際には稀であるとは思われますが、株主総会当日に修正動議として具体的な役員候補についての議案の提案を行なうこともできます(会社法304条)。

以下に、役員候補の選任議案の記載例を挙げておきます。

(記載例)
第●号議案 取締役●名選任の件
 本総会終結時をもって取締役●名が任期満了となりますので、取締役●名の選任をお願いします。
 その候補者は、次のとおりであります。

候補者番号 氏名
(生年月日)
略歴、地位及び担当並びに他の法人等の代表状況 所有する株式数
●●株
●●株

子会社の役員との兼任、どれがOKでどれがNG?

親子会社においては、それぞれに所属する人材を効率よく適材適所に配置させるため、双方の役員を同一人物が兼任することが多くあります。以下では、どのような場合に兼任が認められるのか、またその場合に生じる問題点について、取締役と監査役それぞれに分けて検討します。

(取締役の兼任)
親子会社間で同一人物が取締役を兼任することは、会社法上は何ら問題ありません。なお、独占禁止法13条1項は「一定の取引分野における競争を実質的に制限することになる場合」には役員の地位を兼ねることを禁止してはいますが、親子会社間による兼任の場合には通常は市場における競争への影響はほとんどないものと思われます(例えば100パーセント親子会社の場合であれば、子会社は実質的には親会社の一営業部門に過ぎないとみることもできます)ので、この理由で兼任が禁止される場合もほとんどありません。

(監査役の兼任)
親子会社間で同一人物が監査役を兼任することも、会社法上何ら問題ありません。もっとも、会社法335条2項は、会社の監査役が以下の地位を兼ねることを禁止している点には注意が必要です。
・ 当該会社の取締役、支配人その他の使用人
・ 子会社の取締役、支配人その他の使用人、会計参与、執行役

(取締役と監査役の兼任)
すでに述べたように、親会社の監査役は子会社の取締役を兼ねることはできません。これは、親会社の監査役は子会社の業務執行を監視する立場にありますが、監視する者とされる者が同一の立場にあると、監査の実効性を担保することができないからです。また、親子会社関係になっていない状態の時にその地位を兼任していた者は、親子会社関係となった後にはどちらかの地位(親会社の監査役か新たに子会社となった会社の取締役のどちらか)を辞任しなければならないことになります。

なお、親会社の監査役が海外子会社の取締役を兼任することができるかは、一応、別の問題となり得ます。というのは、会社法上の子会社はあくまで日本法に基づいて設立された会社をいい、海外子会社についてはこれにあたらないと考えることができるからです。しかし、会社法2条3号および会社法施行規則3条1項は、会社が他の会社等の財務および事業の方針の決定を支配している会社「等」のことを子会社としているため、海外子会社は外国会社ではありますが同時に子会社にもあたり得るので、会社法335条2項により、このような兼任も認められないものと考えられます。

ではその逆で、親会社の取締役が子会社の監査役を兼ねることはできるでしょうか。この場合は、上記の場合と異なり、会社法上は何らの規制もありませんので兼任することはできることになります。しかし、このような兼任にも上記と同様に監査の実効性を失わせるおそれがあると主張されており、海外ではこのような兼任を禁止しているところもあります(イギリス、ドイツなど)。親会社の株主から、子会社の監査の実効性を問われるリスクも考えられます。よって、親会社の取締役が子会社の監査役を兼ねることはできる限り避けた方が無難です。

役員の兼任の場合の報酬はどちらが払う?

では次に、上記の類型に従って役員の兼任が認められる場合に、その報酬は親会社と子会社のどちらが支払うべきでしょうか。

この点については特に明確なルールがあるわけではないため、実際の勤務状況等も踏まえ、それぞれの会社に対する業務執行に対応する報酬をそれぞれの会社から支給して構いません。この場合には、当然ですが、親子それぞれの会社における株主総会での承認決議が必要となります。

では、親子会社双方の取締役を兼ねている者に対し、子会社取締役分を無報酬とすることはできるでしょうか。

まず、そもそも子会社取締役分を無報酬とすることは、当然に可能です。会社と取締役の関係は委任の関係に立ちますが(330条)、民法上、委任契約における報酬は無報酬であることが原則とされている(民法648条1項)からです。実際にも、このような場合に子会社取締役分を無報酬としている会社はそれなりにあるものと思われます。これは、このような場合は、結局は親会社取締役の業務の一環として子会社取締役の業務をしているに過ぎない場合が多いことから、親会社取締役としての報酬を支払えば十分であるという考え方が背景にあるものと思われます。また、親会社の株主の視点からは、兼任取締役の役員報酬を子会社側から支払うことになると、親会社としての役員報酬の支払いに親会社の株主総会の決議を必要とする会社法の趣旨をかいくぐることになってしまう(親会社での役員報酬を低めにしておき、親会社株主の目の届きにくい子会社から役員報酬をお手盛りで支払うという弊害が生じかねない)ため、ガバナンス上好ましくないという考え方もあることでしょう。兼任取締役の役員報酬を子会社側から支払う場合、その根拠について熟考すべきといえます。

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2015/01/16 変革著しい三菱重工と富士重工が“模擬エンゲージメント”で投資家と対話

 昨年(2014年)2月に導入されたスチュワードシップ・コード、そして今年6月1日に導入される予定のコーポレートガバナンス・コードが“両輪”となり、今後企業と投資家の対話(エンゲージメント)が益々加速していくのは間違いないが、実際にどのような形でエンゲージメントが行われるのか(行われるべきなのか)、企業はもちろん、国内機関投資家でさえも模索中というのが現状だろう。

 こうした中、経済産業省内に設置されている「投資家フォーラム作業部会」は、来月(2015年2月)27日に、“模擬エンゲージメント”と言える「企業と投資家による持続的な価値創造を⽬指して 〜スチュワードシップの実践〜」と題した対話シンポジウムを開催する。

 2014年12月10日のニュース「機関投資家が企業に投げかけたい質問の一覧が明らかに」でもお伝えしたとおり、「投資家フォーラム」とは、投資家が企業との対話に向けた実力を高めるために、投資家同士で知識や経験を共有したり、議論や情報発信等をしたりできるプラットフォームで、日本版スチュワードシップ・コードや伊藤レポートでその設置が推奨されているもの。現在、作業部会が設置準備を行っているところだが、メンバーは巨額資金を動かす有力資産運用会社に所属する者が中心となるため、今後その影響力は大きなものになると見込まれる。

 今回の“模擬エンゲージメント”は、企業や投資家の 「あるべき対話」の参考になればとの趣旨で開催されるものであり、「模擬」と言ってもその内容はかなり実践的なものとなりそうだ。これは、今回投資家の対話相手として、・・・

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2015/01/16 変革著しい三菱重工と富士重工が“模擬エンゲージメント”で投資家と対話(会員限定)

 昨年(2014年)2月に導入されたスチュワードシップ・コード、そして今年6月1日に導入される予定のコーポレートガバナンス・コードが“両輪”となり、今後企業と投資家の対話(エンゲージメント)が益々加速していくのは間違いないが、実際にどのような形でエンゲージメントが行われるのか(行われるべきなのか)、企業はもちろん、国内機関投資家でさえも模索中というのが現状だろう。

 こうした中、経済産業省内に設置されている「投資家フォーラム作業部会」は、来月(2015年2月)27日に、“模擬エンゲージメント”と言える「企業と投資家による持続的な価値創造を⽬指して 〜スチュワードシップの実践〜」と題した対話シンポジウムを開催する。

 2014年12月10日のニュース「機関投資家が企業に投げかけたい質問の一覧が明らかに」でもお伝えしたとおり、「投資家フォーラム」とは、投資家が企業との対話に向けた実力を高めるために、投資家同士で知識や経験を共有したり、議論や情報発信等をしたりできるプラットフォームで、日本版スチュワードシップ・コードや伊藤レポートでその設置が推奨されているもの。現在、作業部会が設置準備を行っているところだが、メンバーは巨額資金を動かす有力資産運用会社に所属する者が中心となるため、今後その影響力は大きなものになると見込まれる。

 今回の“模擬エンゲージメント”は、企業や投資家の 「あるべき対話」の参考になればとの趣旨で開催されるものであり、「模擬」と言ってもその内容はかなり実践的なものとなりそうだ。これは、今回投資家の対話相手として、近年経営戦略に大きな変化が見られる三菱重工業社(以下、三菱重工)と富士重工業社(以下、富士重工)が選ばれている点からも想像できる。三菱重工は従来の“自前主義”を捨て、火力発電事業を日立製作所と統合するなど、変革の真っただ中にある。一方の富士重工は、北米での好調な販売や国内中心の生産体制に起因する円安の恩恵などにより好業績を維持しているが、自己資本比率の増加によるROEの低下や中国など北米以外のグローバル戦略などの課題も指摘されている。投資家フォーラム作業部会は昨年(2014年)12月、機関投資家が企業に質問したい事項をまとめたペーパー「企業経営者と長期投資家の実りある対話のために」を公表したが、投資家にとっては聞きたいことが山のようにあると思われる両社とのエンゲージメントであれば、ペーパーを離れ純粋に投資者としての視点から、興味深い質問が“アドリブ”でどんどん出て来ることになりそうだ。

 ちなみに、登壇するのは、三菱重工が「グループ戦略推進室長 兼 戦略企画部長」の 小口正範氏、富士重工が「取締役専務執行役員」の高橋充氏となっている。小口氏は三菱重工のグローバル戦略の企画担当者、高橋氏は富士重工のCFOであり、実際のエンゲージメントでも機関投資家等に対峙することになると見られるだけに、リアリティのある対話が期待できる。企業が今回の模擬エンゲージメントに(聴講者として)参加するのであれば、今後のためにも投資家対応担当部署から人を出すべきだろう。

 一方、投資家側は投資家フォーラム作業部会のメンバーが3人ずつ、それぞれ三菱重工と富士重工の質問者になる模様。

 エンゲージメントは近い将来どの上場企業にも十分に起こり得るだけに、必見のイベントとなりそうだ。

2015/01/15 (新用語・難解用語)ROIC

「Return On Invested Capital」の略で、日本語では「投下資本利益率」と呼ばれる。文字通り、「企業が投資した資金に対してどれだけ効率的に利益を上げているか」という資本効率を表す指標である。

資本効率を表わす指標というと、企業の自己資本に対する当期純利益の割合であるROE(Return On Equity=自己資本利益率)を思い浮かべる向きも多いだろう。ROEは機関投資家が最も重視する指標の1つだが、実は2つの問題点がある。具体的に説明しよう。

ROEは下記の算式により算出される。

ROE=純利益 ÷ 自己資本

自己資本は企業に対する株主の持分であるため、ROEは「企業が株主から調達した資金をどの程度効率的に使って利益を上げたか」を表す指標と言える。ROEが低い場合、株主は「企業が資金を効率的に使っていない」と判断し、配当や自己株式取得による株主還元を要求することがある。

このROEには、以下のような問題点がある。・・・

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