「Return On Invested Capital」の略で、日本語では「投下資本利益率」と呼ばれる。文字通り、「企業が投資した資金に対してどれだけ効率的に利益を上げているか」という資本効率を表す指標である。
資本効率を表わす指標というと、企業の自己資本に対する当期純利益の割合であるROE(Return On Equity = 自己資本利益率)を思い浮かべる向きも多いだろう。ROEは機関投資家が最も重視する指標の1つだが、実は2つの問題点がある。具体的に説明しよう。
ROEは下記の算式により算出される。
ROE = 純利益 ÷ 自己資本
自己資本は企業に対する株主の持分であるため、ROEは「企業が株主から調達した資金をどの程度効率的に使って利益を上げたか」を表す指標と言える。ROEが低い場合、株主は「企業が資金を効率的に使っていない」と判断し、配当や自己株式取得による株主還元を要求することがある。
このROEには、以下のような問題点がある。
(1)事業面の経営努力をしなくても、財務戦略を変更するだけでROEを改善することができてしまう。例えば、有利子負債(銀行借り入れや社債)により調達した資金で自己株式を取得(株主還元)すれば、自己資本は減少し、ROEは上昇する(自己資本の減少により上記算式中の分母が小さくなるため。なお、自己資金で自己株式を取得しても、やはりROEは向上する)。自己資本が負債に置き換わっただけでROEの値が上昇してしまうという点は、「企業(経営者)を評価する指標」としては望ましくないROEの特徴と言える。
(2)会計ルールの変更もあって時価(公正価値)により評価される資産(および負債)が多くなっているため、自己資本の変動が大きい。例えば、株価が上がると政策保有株式(いわゆる持合株式)の時価が増えるし、円安になると海外子会社等に関する外貨建て資産の評価額が増える。いずれも自己資本を増加させる結果となり、ROEは低下する(上記算式中、分母が大きくなるため。政策保有株式の含み損益とROEの関係については「他社株の含み益アップでROEが“下がる”ことの経営的な意味」を参照)。このように、株式や為替等の市場リスクの影響を免れないことも、ROEの望ましくない特徴と言える。
(1)を解決し、(2)を軽減する効果を持つのがROIC(投下資本利益率)である。ROICは下記の算式により算定される。
ROIC=NOPAT ÷ 投下資本
※NOPAT = 営業利益 × (1-実効税率)
※投下資本 = 自己資本 + 有利子負債
NOPAT : Net Operating Profit After Taxの略。日本語訳は「税引後営業利益」
実効税率 : 法人税、住民税、事業税といった会社の利益に課税される税の総合的な負担率のこと。
ROICをROEと比べると、分母が「自己資本」から「投下資本」に変わっていることが分かるだろう。投下資本であれば、(1)で述べたような財務戦略の変更を行っても金額は変わらない。また、分子は「純利益」から「NOPAT」に変わっているが、これも有利子負債の調達コスト(支払利息)の影響を除くための工夫だ(純利益は、支払利息を控除した後の金額であるため)。このようにROICは分母・分子ともに財務戦略の変更の影響を受けないため、(1)の問題点を克服している。
ただし、投下資本には自己資本が含まれるため、(2)の市場リスクの影響は免れないが、市場リスクの影響受け難い有利子負債を含む分、投下資本の方がその影響は軽減される。したがって、ROEに比べればROICの方が安定的な指標と言える。
財務戦略や市場リスクの管理も企業(経営者)の手腕の一部とすればROEの方が優れた指標であるが、事業面の手腕を安定的に測定する視点からはROICの方が優れた指標ということになろう。










