既報のとおり、昨年(2018年)6月1日に施行された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に新設された【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】は、上場企業(以下、母体企業)に対し、自社の企業年金がアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、企業年金の人事面や運営面でどのような取り組みを行っているかを開示することを求めている(2018年3月15日のニュース「続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”」、2018年8月27日のニュース『原則2-6「アセットオーナーとしての機能発揮」への対応で明確な傾向』参照)。
CGコードの改訂時、このCGコード原則2-6を巡っては、同原則でいう「企業年金」とは何を指すのかとの疑問の声が上がったところ。特に、加入者個人が自己責任で運用するため、母体企業が年金積立金の運用に関与しないように見える「企業型確定拠出年金」も対象になるのかどうかは焦点の一つとなった。これに対し東証はパブリック・コメントに回答する形で、「原則2-6における『企業年金』は、基本的には、基金型・規約型の確定給付年金及び厚生年金基金を想定しています。」「なお、ご指摘のとおり、確定拠出年金についても、運用が従業員の資産形成に影響を与えることは確定給付年金と同様であるため、一般論としては、例えば、運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育の実施などの場面で、上場会社において適切な取組みがなされることが期待されるものと考えます。」との考えを示している(【2018年9月の課題】【原則2-6. 企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】では何を開示するか 参照。なお、年金の種類についてはケーススタディ「【人事・労務】退職金を廃止・減額したい」の「廃止の対象となる退職金は?」の図参照)。
企業型確定拠出年金 : 企業が一定のルールに基づき掛金を拠出する確定供出年金(給付額が保障されていない年金)。一方、個人が掛金の金額を決め、個人が掛金を拠出する確定拠出年金が個人型確定拠出である。企業型確定拠出年金の中には従業員が一部掛金を負担する「マッチング拠出」タイプのものもある。いずれにせよ、掛金を運用するのはあくまで加入者個人であるという共通点がある。
基金型 : 確定給付企業年金(給付額が保障された年金)の1つで、母体企業から自社から独立した法人である基金(企業年金基金)を設立し、その基金が年金資産を管理運用する。
規約型 : 企業が保険会社や信託銀行等と契約を結び運営される確定給付年金のこと。保険会社や信託銀行等は、企業に代わり、給付に必要な保険料(掛け金)を集め、集めた資金を運用し、社員に給付する。
厚生年金基金 : 日本の公的年金制度は「1階部分」の国民年金と「2階部分」の厚生年金によって成り立っているが、確定給付年金や確定拠出年金同様、「3階部分」に相当する企業年金(私的年金)の一種。厚生年金基金の最大の特徴として、公的年金である厚生年金金保険料の一部を運用できるという「代行部分」があり、これに企業ごとのオリジナルの企業年金が加わって「厚生年金基金」を構成する。ただ、代行部分の運用利回りの悪化等に伴い、2014年4月以降は新規の厚生年金基金設立はできなくなり、事実上企業年金しての役割を終えている。
上記東証の回答を受け、同じく確定拠出年金を導入している上場企業でも、確定拠出年金の運用機関・運用商品の選定や従業員に対する資産運用に関する教育への取組みなどを開示しているところと、開示を行わないところが出て来ている(2018年7月4日のニュース「年金母体企業に機能発揮求める原則2-6、確定拠出年金導入企業の対応」参照)。このように、確定拠出年金を導入する企業は原則2-6に対応した開示を行わなくても特段問題はないとはいえ、・・・
このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。