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開示規制強化により変化を余儀なくされる個別報酬の決定権限

周知のとおり、役員報酬の決定プロセスの透明化を図る観点から、業績連動報酬や任意の報酬委員会が各役員の報酬額を決定する仕組みを導入する上場企業は近年着実に増えている。その分、従来は一般的だった“社長一任方式”、具体的には、株主総会で決議した報酬枠の範囲内で取締役会が「代表取締役等特定の者」に各役員の個別の報酬額の決定を一任する企業は減少している。その背景には、昨年(2019年1月31日)に実施された「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正により、上場企業には2019年3月期以降の有価証券報告書から、役員報酬の金額および決定方針について「決定権限を有する者の氏名または名称」の開示が求められるようになったことも少なからず影響している。

とはいえ、未だに事実上は社長一任方式をとっている企業は少なくない。日本シェアホルダーサービス(JSS)がTOPIX100を構成する3月決算の監査役会設置会社(57社)をサンプルに、上記役員報酬に関する改正開示府令への対応状況について調査したところ、報酬決定権限者は「社長・CEO」が28%、「会長・その他代表取締役」が17%となっており、日本のトップ100企業でさえ、現在でもその45%が特定の者に報酬決定権限を与えているということになる(JSSの役員報酬決定権限者についての調査結果は【特集】改正開示府令の有報記載分析(役員報酬、政策保有株式)(2)を参照)。

TOPIX100 : 東京証券取引所が東証一部上場銘柄の中でも時価総額および流動性の高い大型株100銘柄を選定し、算定・公表している株価指数。構成銘柄は、その時々の市場実勢をより適切に反映させるため、原則として年に1回(10月)見直しが行われている(上場廃止等があれば臨時に見直しが行われている)。

社長一任方式をとる企業にとって今後留意しなければならないのが、会社法改正に伴う事業報告および有価証券報告書における開示内容の改正だ。

まず、2020年9月30日に法務省がパブコメを締め切った会社法施行規則改正案によると、新たな事業報告では下記のような開示が求められる方向となっている。

会社法施行規則121条6号の3
株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨及び次に掲げる事項
イ 当該委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位及び担当
ロ イの者に委任された権限の内容
ハ イの者にロの権限を委任した理由
ニ イの者によりロの権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合にあっては、その内容

現時点(2020年11月17日)でパブコメを反映した最終的な会社法施行規則は公表されていないが、会社法施行規則改正案を前提として、金融庁は2020年11月6日に開示府令の改正案を公表している(下線部が改正案で新規に追加された箇所。2020年11月13日のニュース「会社法改正に伴う有報開示の変更点」にも関連情報)。

有価証券報告書の【役員の報酬等】
提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容及び裁量の範囲を記載すること。また、株式会社が当該事業年度の末日において取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合において、取締役会から委任を受けた取締役その他の第三者が当該事業年度に係る取締役(監査等委員である取締役を除く。)の個人別の報酬等の内容の全部又は一部を決定したときは、その旨、委任を受けた者の氏名並びに当該内容を決定した日における当該株式会社における地位並びに担当、委任された権限の内容、委任の理由及び当該権限が適切に行使されるようにするための措置を講じた場合における当該措置の内容を記載すること。提出会社の役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針の決定に関与する委員会(提出会社が任意に設置する委員会その他これに類するものをいう。以下cにおいて「委員会等」という。)が存在する場合には、その手続の概要を記載すること。また、最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会(指名委員会等設置会社にあっては報酬委員会)及び委員会等の活動内容を記載すること。

上記のとおり、事業報告、開示府令の改正内容はほぼパラレルとなっているが、この中で気になるのは赤字で示した部分だ。

権限を委任した理由」を聞かれても、権限を委任したことについて積極的な理由を答えられる取締役はまずいないだろう。単に「就任当時からそうだった」だけであり、敢えて反対する積極的な理由がなかったというだけに過ぎないのが通常だからだ。「報酬の透明化といった時代の流れに反してまで敢えて代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任する」ことについて説得的に理由付けするのは困難であり、せいぜい「個別の役員報酬の金額というセンシティブな議案を取締役会で議論するにはなじまない」といった消極的な理由にならざるを得ない。

また、同じく赤字で記した「権限が適切に行使されるようにするための措置」も具体的にどのような措置が該当するのかが分かりづらく、回答に詰まるのは必至だろう。実際、パブリックコメントでは「(適切に行使されるようにするための措置とは)具体的にどのようなものか」といった疑問の声も寄せられている(経営法友会のコメント)。例えば下表左欄のような措置(いずれも代表取締役に報酬の個別配分額の決定権限を委任するケースを想定している)が思い浮かぶ・・・

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