<解説>
どの会計を前提にした話なのかを理解する必要あり
「会計」と言うと、会計基準という絶対的なルールが1つあり、それに則って会計処理を行うというイメージを持つ方がいるかも知れません。しかし、会計にはその目的に応じて、主として財務会計、管理会計、税務会計の3つがあります。今回のケースで議論になっているのは、このうち財務会計と税務会計です。
管理会計 : 経営の意思決定や業績測定に役立てることを目的した「社内向け」の会計。財務会計とともに企業会計の1つだが、社外向けに提供される財務会計とは対をなす。
財務会計とは、株主や債権者をはじめとする利害関係者が会社の財政状態や経営成績、キャッシュ・フローの状況を適切に把握できるようにすることを目的とした会計や開示のルールです。上場企業が公表する決算書はこの財務会計に基づき作成されます。
一方、税務会計とは、支払う税金の額を確定するためのルールです。税務会計は、企業の実態を適切に表現することよりも、「課税の公平性」を重視しています。
社内の会議などで、経理部門の方や管理部門担当役員が、どの会計制度を前提にしているのかを明示せずに話をするケースがしばしばあるかと思います(彼らにとっては当たり前のことなので、その前提の説明を失念しがちです)。彼らが財務会計、税務会計どちらの話をしているのかを意識しながら、場合によっては事前に確認したうえで、話に耳を傾けることが重要です。
財務会計と税務会計の主な相違項目
財務会計と税務会計でルールが異なる主な項目としては、例えば下表のようなものがあります。
| 項目 |
財務会計 |
税務会計 |
| 交際費 |
費用として計上 |
損金として計上できない場合あり |
| 寄付金 |
費用として計上 |
損金として計上できない場合あり |
| 減損等の資産の評価損 |
費用(損失)として計上 |
損金として計上できない |
| 受取配当金 |
収益として計上 |
益金として計上しない場合あり |
| 引当金繰入額 |
費用として計上 |
貸倒引当金の一部を除き、損金として計上できない |
社内の会議や役員会で、「有税で処理する」という言い回しを耳にする機会も多いことでしょう。「有税で処理」とは、「税務会計上の損金としては計上できないが、財務会計上は費用として計上する」という処理のことです。ここで注意したいのは、財務会計において費用処理をしようがしまいが、税金の額が変わるわけではないということです。税金はあくまで税務会計のルールで計算され、財務会計の処理には左右されないからです。「有税で処理する」という言い回しから、「財務会計上費用処理すると税金が増え、費用処理をしなければ税金が減る」といった誤解はしないようにしてください。
税効果会計により税引後利益への影響が緩和
税務会計は税金計算を目的としています。一方、財務会計は、株主や債権者などの利害関係者に、企業の収益性や健全性などの情報を提供することを目的としています。
両者の違いは、引当金や固定資産の減損等に現れることになります。すなわち、税務会計は国等が税収を確保できるよう、確定していない費用を損金とすること(その結果、税務上の所得が少なくなり、税額が減る)は、貸倒引当金の一部を除き認めていません。逆に、財務会計では、利害関係者に情報を提供するために、確定していない費用であっても、発生した分に応じて合理的に算定された概算額を費用として計上する必要があります。
したがって、税務会計上損金にできないからという理由で財務会計上の費用や損失の計上を見送れば、財務会計の目的を達成することができません。
そこで、財務会計上は費用として計上しつつ、税務会計上は、損金に計上できない費用を「なかったことにする(=税務会計上の所得に加算する)」必要が生じます。この手続きは、法人税申告書上だけで行われ、完結します。そして、損金に計上できる時期(本事例では、「実際に廃棄した時」)になったら、今度は(やはり法人税申告書上で)税務会計上の所得を減らします。
仮に「財務会計上の税引前利益=税務会計上の所得」であれば、税引前利益に税率を乗じれば実際の税額が算出されるはずです。しかし、上述のとおり、税引前利益と税務会計上の所得は異なりますので、税引前利益と実際の税額も整合しません。このギャップを埋めるための工夫が税効果会計です。税効果会計は、財務会計上の資産・負債と税務会計上の資産・負債の差異に着目して、税引前利益と実際の税額のギャップを埋めることになります(税効果会計の詳細な解説は新用語・難解用語辞典の「資産負債法」を参照してください)。
本事例でいうと、財務会計上の棚卸資産と税務会計上の棚卸資産は災害損失の分だけ金額が異なっています。この差異は、実際に廃棄した時点で税務会計上損金算入が認められることから、その時点で解消される差異と言えます。このような差異を、「一時差異」と言います。この一時差異に、廃棄予定の年度に適用される実効税率を乗じた金額を、損益計算書(P/L)の税引前利益の下に「法人税等調整額」として記載します。法人税等の額に法人税等調整額を加減して税金費用を計上します。この結果、税金費用の額は税引前利益に整合したものとなります。また、この法人税等調整額は、あたかも前払費用のように将来会社の税負担を減らすという“資産性”を有していることから、「繰延税金資産」として貸借対照表(B/S)にも計上され、一時差異が解消されるまで繰り越されることになります。
実効税率 : 法人税、住民税、事業税の税率をあわせた税率のこと。計算上の実質的な税負担率である。
法人税等 : 法人税、法人住民税、法人事業税のうち所得に比例する分。
「有税」で費用を計上することで、重要な経営の成果である「税引前利益」は、その分減ってしまいます。もっとも、税効果会計を適用することにより、将来減額される法人税等の分だけ税金費用を減らすことで、税引後利益への影響は緩和されることになります。
さて、以上の解説をご覧いただければ、どの発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
発言B:「損失見込み額が算定できる以上、当期の決算において災害損失を計上することは必要かと思います。利益への影響を懸念されている方もいらっしゃるようですが、災害損失を計上しても、税効果会計により税引後利益へのインパクトは緩和されるのではないでしょうか。」
(コメント:確かに、会社が計上しようとしている災害損失は、税務会計上は損金になりません。一方、財務会計上は、災害が発生した期にそれに関する損失を計上する必要があります。税務会計において損金になるのは実際に廃棄したときであるため、「有税」での費用計上となりますが、税効果会計により、災害損失に実効税率を乗じた額が「法人税等調整額」として法人税等の額から控除されますので、税引後利益への影響は小さくなります。たとえば、災害損失が100で実効税率が40%とすると、災害損失の計上により税引前利益は100減ってしまいますが、法人税等調整額40(=100×40%)の計上により税金費用は40だけ減ることから、税引前利益への影響は60となります。税効果会計の適用により税引後利益へのインパクトは40緩和されたことになります。)
発言A:「廃棄をしていないのに廃棄損失を計上するのは、会計的に問題があるのではないでしょうか?実際に廃棄するのが来期になるなら、今期に計上する廃棄費用は見積額に過ぎないでしょうし、そのような曖昧な金額を費用に計上すれば、投資家に判断を誤らせることになりかねません。実際に廃棄した時には金額も確定するはずですから、その時点で廃棄損として計上すべきです。」
(コメント:まず、本事例のメインである災害損失の議論と、廃棄損失の議論を混同してしまっています。また、廃棄費用の金額が未確定ということですが、それなりの精度を持った見積額であれば、財務会計上は災害損失として計上するべきです。なお、廃棄費用の見込額の精度がそこまで高くないというのであれば、廃棄費用部分についてはひとまず災害損失引当金として計上しておく方法もあります。損失計上の先送りは許されません。)
発言C:「当期に生じた損害を当期に認識するというのは当たり前の話です。しかし、払わなくてもよい税金を払ってまで会計処理をする必要はありません。有税ということは、税金を払う必要があるということなので、節税という観点からは反対です。」
(コメント:「当期に生じた損害を当期に認識するというのは当たり前の話」という部分はそのとおりです。問題は、「有税」イコール「税額が増える」と誤解している点です。「有税で(財務)会計処理をしたときの税額」と「当該会計処理をしなかった場合の税額」には変わりはありません。「有税」の意味を取り違えないようにしましょう。)