株主優待制度を導入する真の目的とは?
上場会社の株価は業績のみならず、需給関係や景気動向、為替、政府の政策、海外情勢、カントリーリスクなど様々な要因で変動します。したがって、経営陣は短期的な株価変動に振り回される必要はないのですが、それでも自社の株価が“不当に”低く評価されている場合には、株価向上のための施策について検討を迫られることもあるでしょう。
株価向上のためには今以上に利益を出すのが一番と言えますが、そのほかにも、株主優待制度の導入・拡充、自社株買い入れ、株式併合、配当の増額といった施策が考えられます。ここでは、実際に多くの上場会社が導入している「株主優待制度」について詳しく見ていきます。なお、配当の手続きについては「配当をしたい」を参照してください。
まず、そもそも株主優待制度とは何なのか、整理しておきましょう。
株主優待制度とは、一定の時点(期末日など、株主の権利を確定する「権利確定日」)における自社の株主に対し、配当とは別に、自社の製品やサービスを無料または格安で提供するなどして優遇するものです。
多くの会社が株主優待制度を導入している理由の1つには「企業名・商品名の知名度向上」もありますが、会社の真の目的は「個人株主数の増加」でしょう。一般的に個人株主は会社側提案の議案への賛同率が高い(たとえば、敵対的買収で現経営陣側を支持してくれる可能性が高い)と言われているうえ、個人株主数が多ければ、東証などの証券取引所の上場廃止基準(*)への抵触を回避できるとともに、株式の売買が活性化し株価が維持されやすいからです。
* 東証一部・二部市場の場合、原則として「株主数が、上場会社の事業年度の末日において400人未満である場合において、1年以内に400人以上とならないとき」に上場廃止となります。
このように、会社経営、特に株価対策上、重要な目的を持つ株主優待制度ですが、実は会社法にはその内容や導入時の手続等を直接定める規定はありません。ただし、株主優待制度を導入する際には、様々な会社法上の規制との関係を検討することが必要になります。
株主優待制度を導入する場合に、役員として必ず検討しなければならないのが次の3つの事項です。
(1)株主平等の原則
(2)剰余金の配当
(3)株主への利益供与
以下、各項目について解説します。
株主平等原則に違反する株主優待制度とは?
株主優待制度と言っても、必ずしも株主全員に何らかの特典を与えるものとは限りません。実際、様々な上場会社の株主優待制度を分析すると、株主のうち「一定数以上の株式を保有する株主」に対してのみ特典を与えている事例が多く見受けられます。
ただ、会社法は、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容および数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めています(会社法109条1項)。要するに、株主は、「その有する株式の内容(普通株式、配当優先株式等の種類株式など)」および「数」に応じて、平等な取扱いを受けることができるということです(これを「株主平等原則」といいます)。
このため、保有する株式数に厳密に比例させず、「一定数以上の株式を保有する株主」のみを対象にする株主優待制度は、株主平等原則に違反するようにも見えます。
この点については様々な見解がありますが、実務では、株主優待制度の内容が株式の“数”に着目した合理的なものであれば、株主平等原則には違反しないものとして取り扱われています。つまり、「一定数以上の株式を保有する株主」のみを対象にした株主優待制度は、株主平等原則に違反するものではなく、問題ないということです。
これに対し、株主が保有する株式数に着目しない株主優待制度、例えば「一定の期間以上株式を保有していること」を条件として特典を付与する株主優待制度は株主平等原則に違反することになります。なぜなら、上述のとおり株主は「その有する株式の内容および数」に応じて平等の取扱いを受けるのが原則であるにもかかわらず、保有する株式の内容および数が同じであっても、保有期間が異なれば不平等な取扱いを受けることになってしまうからです。

個人株主に自社の株式を長期保有してもらうため、長期保有の株主を優遇したいという意向は分かりますが、そのような株主優待制度は株主平等原則に違反することになりますので注意して下さい。
取締役としては、株主優待制度を導入する際には、その制度が株主平等原則に違反する内容になっていないかどうかを事前に検討しておく必要があります。また、監査役としても、同様の観点から株主優待制度の適法性について確認するようにしてください。
株主優待制度が「剰余金の配当」に該当すれば配当規制の対象に
株主優待制度としてもっともよく見られるのが、株主に対して自社の事業に関連する特典を付与(例えば自社が提供するサービスの割引券・無料券の発行)するものですが、この特典が株主に使用された場合には、本来会社に計上されるはずの売上(無料券が使用された場合には販売価格分、割引券が使用された場合には割引分)が減ることになります。そこで、株主優待制度は「会社財産を現物で配当」しているのと同じであり、金銭の配当と同じく「剰余金の配当」として、会社法上の規制(原則として株主総会の決議が必要になるとともに、剰余金の配当は分配可能額の範囲内で行われる必要があるという制限や、剰余金の配当時に一定の水準まで法定準備金の積立を要求されるといった規制。詳細は「配当をしたい」を参照)を受けるのではないか、との疑問が生じます。
この点についても様々な見解がありますが、一般的には、
(1)株主優待制度は会社の事業上のサービス・宣伝の一環に過ぎないこと
(2)経済的価値が必ずしも大きくないこと
(3)剰余金の配当とは会社の財産を減少させる行為であるのに対し、株主優待制度は必ずしも会社財産を減少させることにはならないこと
などを理由に、株主優待制度により株主に特典を付与したとしても、それが「会社財産を減少させるもの」でない限り「剰余金の配当」に該当することはなく、したがって会社法上の規制を受けることもないと考えられています。
このうち(3)については、上述のとおり、「株主優待制度の特典が使用されれば本来会社に計上されるはずの売上が減るのだから、会社財産を減少させているのでは?」との疑問を持たれるかも知れません。しかし、株主優待として、会社が提供するサービスの割引券・無料券を配布しただけで会社の財産(貸借対照表上の資産の部)が減少するわけではないことから、剰余金の配当ではないと考えられています。
なお、実際に無料券が使用された場合には販売価格分、割引券が使用された場合には割引分が売上値引として計上されることになります。
これに対し、同じ株主優待制度でも「会社の財産を減少させるもの(すなわち、会社の貸借対照表上の資産の部を減少させるもの)」については、“社会的相当性(高額でない等)”が認められる場合を除き、「剰余金の配当」として取り扱うことが必要だとする見解があります。例えば、会社が有する他社発行の商品券、商品(外部から買い入れたもの)や製品(自社で製作したもの)を付与したり(いずれも資産計上されるものであるため、付与により資産の部が減少します)、自社のものではないサービスを無償で利用させる場合(資産の部を構成する現金が流出)には、会社財産は減少します。このため、付与する特典が高額なものであるなど“社会的相当性”を欠くような場合には、当該株主優待制度を「剰余金の配当」として取り扱うことが必要になるものと考えられます。
以上のとおり、株主優待制度が剰余金の配当に該当し、会社法上の規制を受けることになるかどうかは、付与するものが何かによって異なってきます。そこで取締役としては、株主優待制度を導入する際には、
(1)その株主優待制度が会社の財産(貸借対照表上の資産の部)を減少させるものかどうか
また、
(2)会社の財産を減少させるものであれば、社会的相当性(高額でない等)が認められる範囲内の減少かどうか
について、事前に検討しておく必要があります。また、監査役としても、同様の観点から自社の株主優待制度が剰余金の配当に該当しないかどうか、確認するようにしてください。なお、株主優待に要するコスト(例えば商品の提供)は、上述のとおり本来は「費用」として損益計算書に計上されますが、株主優待が剰余金の配当に該当することになれば、そのコスト相当分は損益計算書を経由することなく(すなわち費用とならずに)、貸借対照表の「純資産の部」の変動状況を表す「株主資本等変動計算書」に記載されることになります。
- 500円の株主優待が「株主への利益供与」と判断されたケースも
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例えば「この議案に賛成票を投じてくれた株主には現金を渡す」というように、会社が株主の権利行使に影響を及ぼす意図で株主に財産上の利益を付与すれば、健全な会社経営が阻害されることになります。そこで会社法では、会社が「株主の権利の行使」に関して第三者に財産上の利益を付与することを禁止しています(会社法120条1項)。
では、一定の要件を満たした株主に対してまさに「財産上の利益」を付与するものである株主優待制度は「株主の権利行使に関して、第三者に財産上の利益を付与すること」に該当し、会社法違反となることはないのでしょうか。
この点、実務上は、株主優待制度に基づき株主に特典が付与されたとしても、当該特典が「社会通念上相当な範囲内」のものであれば株主への利益供与には該当せず、適法であると考えられています。ただし、実際に導入されたわずか500円分相当の株主優待制度が「社会通念上許容されない」ものであるとして、株主への利益供与に該当すると判断された裁判例もありますので要注意です。この裁判例の内容は以下のとおりです。
[事案の概要]
会社の大株主と会社経営陣が、それぞれ取締役および監査役の選任議案を提出して経営権を争っていた際に、会社経営陣が、有効な議決権行使を条件として株主1名につきQuoカード1枚(500円分)の提供を行うとの株主優待制度を設け、議決権行使の勧誘を行った事案。
この裁判例で裁判所は、株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は原則として禁止されるが、(1)当該利益が株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって、(2)個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり、(3)株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないとの要件を満たすのであれば、例外的に違法性を有しないとの見解を示しています。
そして、会社がQuoカードを付与するとの株主優待制度を上記見解に照らし合わせると、(2)その額は500円相当と社会通念上相当な範囲であり、(3)その総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすとはいえないとは認めたものの、(1)会社提案に賛成する議決権行使の獲得を目的とした制度であって、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的があるとは言えないとして、「株主への利益供与」に該当し、違法であると判断しています。
このように、株主優待制度の内容として、財産的価値が僅少であったとしても、「導入の目的」次第では法令違反となる恐れがありますので、注意して下さい。「金額が少ないから問題ないだろう」という判断は禁物です。
そこで、役員としては、株主優待制度導入の際には、
(1)導入の目的は正当か(株主の権利行使に影響を及ぼす目的を有していないか、そのような目的がないとしても、導入時の状況から株主の権利行使に影響を及ぼす恐れがあると言えないか等)
(2)個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものと言えるか
(3)株主全体に供与される総額も、会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないと言えるか
といった観点から、株主への利益供与に当たるものではないということを検討する必要があります。
また、監査役も同様の観点から株主への利益供与に当たるのか否かを事前に確認するようにしてください。
万が一(あってはならないことですが)、株主優待制度が株主への利益供与に該当してしまうと、株主は供与を受けた利益に相当する金額を会社に返還しなければなりません。また、当該利益の供与をすることに関与した取締役として下記に掲げる者(取締役会設置会社を前提)は、会社に対し、株主と“連帯”して、供与した利益の価額に相当する金額を支払う義務を負います(会社法120条4項、会社法施行規則21条)。つまり、株主が会社に返還することを拒んだ場合には、株主と連帯して責任を負う取締役が穴埋めをしないといけなくなるということです。
・利益の供与に関する職務を行った取締役(株主優待制度の導入を主導した取締役)
・利益の供与が「取締役会」の決議に基づいて行われた場合には、次に掲げる者
イ 当該取締役会の決議に賛成した取締役
ロ 当該取締役会に当該利益の供与に関する議案を提案した取締役
・利益の供与が「株主総会」の決議に基づいて行われた場合には、次に掲げる者
イ 当該株主総会に当該利益の供与に関する議案を提案した取締役
ロ イの議案の提案に関する取締役会の決議に賛成した取締役
ハ 当該株主総会において当該利益の供与に関する事項について説明をした取締役
ただし、その者(利益の供与に関する職務を行った取締役を除きます)がその職務を行うことについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、このような義務は負いません(会社法120条4項)。とはいうものの、実際には、「注意を怠らなかったものの、取締役会の決議には賛成した」という理屈はなかなか通じませんし、それが認められるとしてもかなりのレアケースと言えるでしょう。
また、この義務は、総株主、すなわち株主全員の同意を得られれば、免除される道が残されています(同5項)。しかしながら、利益供与という一部の株主のみを優遇する措置をとった取締役の行為について、他の株主が理解を示し、責任を免除することに同意することは想定し難く、総株主の同意を得ることにより義務の免除を受けることができるケースは事実上ないといっても過言ではありませんので、留意してください。
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