2024/10/23 社外取締役が過半数を占める会社では指名権限が「取締役会」に帰属へ(会員限定)

経済産業省が2024年9月18日に立ち上げた「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」では、主要な検討項目として下表の2点を挙げているが、10月17日に開催された第2回会合では、このうち「会社法の改正」が重点的に議論された。

検討項目 内容 報告書等の公表時期
日本企業のコーポレートガバナンス改革の進め方 ・「稼ぐ力」の強化に向けて、どのような考え方や方法でコーポレートガバナンス改革を行う必要があるか
・どのようにして、日本企業のコーポレートガバナンス改革を後押しするか
2025年3月を目途に取りまとめを公表
会社法の改正 ・改正を検討すべき事項は何か
・どのような改正の方向性が考えられるか
2024年12月を目途に報告書を公表

会社法改正の論点として挙げられたのが以下の4点だ(事務局資料5ページ参照)。同研究会には法務省民事局の参事官もオブザーバーに名を連ねており(委員一覧参照)、上表のとおり12月を目途に公表されるという報告書の内容を踏まえ、会社法の改正プロセスへと進むことになろう。

1. 従業員等に対する株式の無償交付
2. 実質株主の情報開示制度
3. 株式対価M&Aの拡大
4. 指名委員会等設置会社の権限の見直し

これらの中で改正内容が最も具体化しているのが、「4.指名委員会等設置会社の権限の見直し」である。事務局資料中、「議論事項③ 指名委員会等設置会社の指名権限」では、「指名委員会等設置会社における取締役候補者の指名権限をどのように見直すべきか」としたうえで、事実上「A案」一択による改正の方向性が示されている。

改正内容 改正の理由
A案 社外取締役が取締役の過半数を占める会社のみ取締役会に帰属(その他は現行制度を維持) 取締役の一部のみが参加する指名委員会において、取締役候補者の最終決定を行うことは適切ではない。社外取締役の担い手が増加し、現に取締役の過半数を社外取締役が占める指名委員会等設置会社も多く存在する現状では、制度策定時の趣旨も妥当しない。
B案 その他

2015年8月1日に施行された会社法404条は、指名委員会等設置会社の指名委員会に役員選任の決定権、報酬委員会に役員報酬の決定権を付与している。この規定の趣旨は、当時、日本の上場会社の取締役会の大部分において社外取締役が半数以下だったことを踏まえ、社外取締役が過半数を占める指名・報酬委員会に上記決定権を持たせることで、指名・報酬プロセスに対する社外取締役の関与度を強めることにある。しかし、社外取締役にこのような権限を持たせることに抵抗感を示す企業が多く、これが指名委員会等設置会社への移行を阻んでいると指摘されてきた。

会社法404条【指名委員会等の権限等】
1. 指名委員会は、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の選任及び解任に関する議案の内容を決定する
2. 監査委員会は、次に掲げる職務を行う。(略)
3. 報酬委員会は、第361条第1項並びに第379条第1項及び第2項の規定にかかわらず、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定する。執行役が指名委員会等設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、同様とする。

ただ、2024年9月25日付のニュース「独立社外取締役「3分の1」はもはや最低水準に」でお伝えしたように、過半数の独立社外取締役を選任しているプライム市場上場会社は直近で約2割(334社)に達している。一方で、指名委員会等設置会社の数はプライム市場でも81社にとどまっており、監査等委員会設置会社の726社に大きく水を開けられている。これは、社外取締役が過半数いるにもかかわらず、指名委員会等設置会社への移行を躊躇し、監査等委員会設置会社への移行を選択する企業が多いことを示している。

社外取締役が取締役の過半数を占める会社では指名権限が(指名委員会ではなく)取締役会に帰属するという上記A案の改正が実現すれば、指名権限が指名委員会に帰属することが指名委員会等設置会社への移行を妨げる要因となっている現状に変化が生じるだろう。指名権限が指名委員会に帰属するので指名委員会等設置会社に移行しないという説明が通用しなくなるからだ。下記のとおり、研究会の第1回会合の議事要旨においても、グローバル投資家が指名委員会等設置会社への移行を期待している旨の発言が確認される(高山委員)。グローバル投資家を意識したガバナンス体制を構築する必要がある上場会社は、改めて指名委員会等設置会社への移行を真剣に検討すべき時機が近付いていると言えそうだ。

海外投資家は、皆さん御存じのように、指名委員会等設置会社の形態がよろしいと、そちそちらに行くべきだという論陣を張る方がそれなりにいるが、日本の企業は行きたいけれども、障害があるから行けないということで、日本の企業、あるいは日本全体のCG 改革の実態というのが正しく理解されていないという状況があると思う。このような誤解を解くということが非常に重要で、その意味で、会社法の改正において指名委員会等設置会社の指名の権限の見直しを行うということは大変よろしいと思う。

2024/10/22 サステナビリティ情報への保証を受ける企業は限定的にとどまる可能性

2024年10月10日に開催された金融庁・金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」の第4回会合では、スコープ(Scope)3の情報が誤りでも虚偽記載等の責任を問わないことについて概ね賛同が得られたところだが(2024年10月18日のニュース「サステナビリティ開示ルール、企業の負担に配慮」参照)、保証(監査)の範囲も「一定期間」はスコープ1および2の開示に限定するとの案が事務局から提示されている(時価総額3兆円以上の企業に対しては2028年3月期(適用2年目)から保証を義務化。その後、時価総額1兆円以上→5,000億円以上・・・と保証の義務化対象企業を順次拡大)。


スコープ(Scope)3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。

このように保証の範囲を限定する案が出て来た背景には、・・・

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2024/10/22 サステナビリティ情報への保証を受ける企業は限定的にとどまる可能性(会員限定)

2024年10月10日に開催された金融庁・金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」の第4回会合では、スコープ(Scope)3の情報が誤りでも虚偽記載等の責任を問わないことについて概ね賛同が得られたところだが(2024年10月18日のニュース「サステナビリティ開示ルール、企業の負担に配慮」参照)、保証(監査)の範囲も「一定期間」はスコープ1および2の開示に限定するとの案が事務局から提示されている(時価総額3兆円以上の企業に対しては2028年3月期(適用2年目)から保証を義務化。その後、時価総額1兆円以上→5,000億円以上・・・と保証の義務化対象企業を順次拡大)。


スコープ(Scope)3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。

このように保証の範囲を限定する案が出て来た背景には、保証を受けるとなると企業にコストや事務負担がかかることや、サステナビリティ情報のうち投資家にとって有益な情報が何なのかについて、企業と投資家の間で十分コンセンサスが得られていないことがあるものとみられる。また、米国ではスコープ1、2に限定した保証が行われており、金融庁としても当面は現実的な範囲に保証の対象を絞り、グローバルな動向の様子を見たいというのが本音だろう。

もっとも、保証をスコープ1、2に限定するということは、保証が「義務化」されるのがスコープ1、2のみということであり、全てのサステナビリティ情報について任意の保証を受けることを妨げるものではない。そこで上場企業の中には、スコープ1、2以外のサステナビリティ情報についても任意の保証を受けるべきかどうか、頭を悩ませるところも出てくることが予想される。ただ、3月決算の上場企業のうち、第1四半期(2024年6月期)の決算短信について任意のレビューを受けた企業の割合が2割強程度にとどまったという前例を踏まえると(2024年8月19日のニュース「四半期決算短信へのレビューに「メリットなし」と判断した会社の割合は?」参照)、プライム市場上場企業で全てのサステナビリティ情報について保証を受けるところもかなり限定されるだろう。

また、保証の対象がスコープ1および2に限定されることで、保証の提供者として、財務諸表の保証を担当している監査法人以外の者を選択する企業が多くなることも予想される。本来、サステナビリティ情報は財務情報を補完するものであることから、財務情報とサステナビリティ情報のコネクティビティ(結合性)を重視する観点からは、保証の提供者としては財務情報に精通した監査法人が第一候補となる。しかし、保証の対象がスコープ1および2のみに限定されることになれば、財務情報とのコネクティビティはさほど問題にならない。しかも、任意開示においてGHG(温室効果ガス)排出量の保証実績が豊富な法人等は監査法人以外にも数多くある。これらの法人等は一般的に監査法人よりもコストが安いため、企業が監査法人以外の選択肢を取る可能性は高そうだ。

なお、当然ながら、保証の範囲がスコープ1、2に限定されたからといって、今後有価証券報告書において開示が求められていることとなる様々なサステナビリティ情報の開示義務が免除されるわけではない点、留意したい。

2024/10/21 【2024年9月の課題】【コーポレートガバナンス改革の実践に向けた対応】解答(会員限定)

CG改革の“実質化”に向けたアクション・プログラムの成果は?

2015年に策定・導入されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)は、2018の改訂と2021年の再改訂を経て現在の内容となっています。従来は3年おきに大幅な見直しが施されてきたわけですが、再改訂から3年が経過する本年(2024年)、CGコード改訂の議論は未だに始まっていません。CGコードについて議論する金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は2023年5月に「意見書(6)」を公表、下記のとおり、「Ⅲ.今後の取組みに向けた考え方」の中で、「改革の趣旨に沿った実質的な対応」を進めることが重要としたうえで、CGコードの定期的な見直しには否定的なスタンスを示しています(2023年4月4日のニュース「SSコード、CGコード改訂の代わりに何が行われる?」参照)。

コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂については、形式的な体制整備に資する一方、同時に細則化により、コンプライ・オア・エクスプレインの本来の趣旨を損ない、コーポレートガバナンス改革の形骸化を招くおそれも指摘されている。(中略)各コードの改訂時期については、必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、その進捗状況を踏まえて適時に検討することが適切である。

その一方で「意見書(6)」は、フォローアップ会議ではコーポレートガバナンス改革の実質化に向けて以下で説明するような施策・検討を順次実施していくことを提言し、これを「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」として示しました(2023年4月18日のニュース「コード改訂「3年に1度」のサイクルにとらわれず コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた「アクション・プログラム」公表へ」を参照)。同プログラムでは、2つの課題について、それぞれ3つと5つの項目別に様々な論点が挙げられており、実際、同プログラムに従って、2023年から2024年にかけて下表(当フォーラムが整理)のような具体的な施策が講じられてきました。

1.企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題
A)収益性と成長性を意識した経営 ● 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組みの開示を要請
● 同要請を踏まえ、対応を進めている企業を「見える化」
B)サステナビリティを意識した経営 ● 有価証券報告書に多様性に関する指標等を追加
人的資本関係等の開示の好事例集を公表
● 女性役員比率の目標(2030年までに30%)を規定
C)独立社外取締役の機能発揮 ● 「社外取締役のことはじめ」を作成
● 民間主体で取締役等に対する研修等が進展
2.企業と投資家との対話に係る課題
A)スチュワードシップ活動の実質化 ● 金融審議会に「資産運用に関するタスクフォース」を設置
● 同タスクフォースの報告書において、協働エンゲージメントの促進等を提言
B)対話の基礎となる情報開示の充実 ● 投資家との対話の実施状況の開示を要請
エクスプレインの好事例や不十分な事例を公表
C)グローバル投資家との対話促進 ● 2025年4月からの英文開示の義務化に向け、東証の上場規則を改正
D)法制度上の課題の解決 ● 「共同保有者」の定義を明確化(金融商品取引法等の一部を改正する法律が成立)
※2024年5月22日のニュース『協働エンゲージメント活発化も 取締役の選解任など“外形的事実”のみで「共同保有者」に該当するか否かを判定へ』参照
E)市場環境上の課題の解決 ● 上場子会社に関する情報開示の充実に向けた要請を実施
政策保有株式の開示に関する課題や開示例等を公表


協働エンゲージメント : 複数の投資家が協調して個別の投資先企業に対し特定のテーマについて対話を行うエンゲージメントのこと。各投資家の質的・量的なリソース不足を補い、対話の実効性を高めると言われている。
共同保有者 : 共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者

CG改革の“実践”に向けたアクション・プログラム2024の方向性

2023年のアクション・プログラムを踏まえ、フォローアップ会議では新たに「意見書(7)」において「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」を公表しました(2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)。同プログラムでは6項目に再整理した各課題について、下表の通り「今後の方向性」を打ち出しています(当フォーラムが適宜編集)。

スチュワードシップ活動の実質化 ● スチュワードシップ・コードを見直す
 ・協働エンゲージメントの促進
 ・実質株主の透明性確保
● 運用機関・アセットオーナー・議決権行使助言会社などによるスチュワードシップ・コードの遵守状況を検証
取締役会等の実効性向上 ● 社外取締役、取締役会議長、指名・報酬委員長が果たすべき役割や機能の共有
● 取締役会の実効性向上に向けた具体的な取組みの好事例を共有
 ・社外取締役と投資家の対話
 ・個別評価を含む取締役会実効性評価
 ・実質的な議論を促す取締役会事務局
収益性と成長性を意識した経営 ● 継続して各企業の取組み状況をフォローアップ
 ・開示と取組みの乖離
 ・取締役会の主体性および積極性
 ・投資家との対話における議論の具体性
 ・上記対応のためのリソースの確保
 ・中長期的な企業価値向上の観点からの具体的成果を意識した分析・評価
情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進 ● 有報開示が総会前のタイミングになるよう環境整備する(有報と事業報告の重複開示に関する効率化を図るなど)
● 英文開示の状況をフォローアップする
● 一定の要件を満たす企業群について、下記を示すリストを公表
 ・資本収益性や市場評価、成長性に関する指標
 ・コーポレートガバナンスの状況
市場環境上の課題の解決 ● 政策保有株式について企業が形式的な対応をとらないよう、有報開示が実態を踏まえているかなど、保有の合理性について検証を尽くすよう促す
● 金融庁は政策保有株式に関する実際の開示についてより深度ある検証を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて開示の拡充などの必要な措置を講じる
サステナビリティを意識した経営 ● 国際的な比較可能性を確保したサステナビリティ開示・保証制度のあり方を検討
● サステナビリティを意識した経営に関する具体的事例を共有
 ・財務情報と非財務情報とのつながり
 ・企業価値向上というアウトカムの意識
 ・取締役会による監督の役割
 ・コーポレート・カルチャーを意識した経営や対話
 ・ダイバーシティの確保に向けた人的資本への投資等への配意
 ・有事における「復元力」の発揮など、レジリエンスへの意識


実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。
レジリエンス : 気候変動等の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。

アクション・プログラム2024を踏まえ、企業がとるべき対応

以下では、アクション・プラン2024で挙げられた各項目について、今後どのような施策や展開が考えられるのか、当フォーラム独自の視点から、上場企業に望まれる対応を考察します。自社ガバナンスの現状に照らし合わせつつ、必要な取組みを検討する際の参考にしてください。

●スチュワードシップ活動の実質化
機関投資家による協働エンゲージメントなどスチュワードシップ活動を実効的なものとするため、スチュワードシップ・コードの改訂および遵守状況の検証が提言されています。これらが実現した場合、株主総会において国内の機関投資家が会社提案に対して反対行使、またはアクティビストの株主提案に対して賛成行使するケースが増加することが予想されます。

上場企業としては、自社のガバナンスや業績の現状に目を向けたうえで、メインストリームの機関投資家から支持を得るための施策を講じるべきです。特にROEが低迷していたり、PBRが1倍を大幅に割り込んでいたりすると、そこがアクティビストにとっては格好の“攻め口”になりかねません。ROEを改善するための事業ポートフォリオ戦略や株主還元策、PBRを向上させるためのIR強化やガバナンスの改善を急ぐ必要があるでしょう。


ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

●取締役会等の実効性向上
取締役会における独立社外取締役の割合は高まっていますが、多くの上場企業では未だ社内取締役が過半数を占めており、投資家が求める「監督と執行の分離」は途半ばの状況にあります。こうした中で、「独立社外取締役である取締役会議長」の選任を求める声は強まっており、将来的にはCGコードに盛り込まれる可能性もあります。現状は代表取締役社長などの経営トップが取締役会議長を務める事例が大多数となっていますが、例えば代表権を伴わない会長など、まずは「非執行の取締役」に取締役会議長を置き換えることから検討するのもよいでしょう。

また、投資家との対話を主導する役割として、筆頭独立社外取締役の設置を求める投資家も少なくありません。現行のCGコードでは、補充原則4-8②において「例えば、互選により『筆頭独立社外取締役』を決定する」ことが望ましいとしていますが、将来的には「例えば」という文言が外れることも考えられます。投資家との対話相手として最もふさわしいのは誰か、株主の代理人としての資質を最も備えているのは誰か、現状の社外取締役のメンバーの中から見極めるところから始めておくべきでしょう。もし現状のメンバーの中には適切な人材がいないということであれば、資本市場に高い知見を持つ新任者をサーチすることも検討すべきかもしれません。

●収益性と成長性を意識した経営
東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という要請を受け、日本の上場企業がROEの改善やPBRの向上に取り組んでいることを、グローバル投資家は高く評価しています。同時に、これらの取り組みが一過性で終わることなく、持続的なものとなることを期待しています。また、真剣に取り組んでいる企業と、形だけの対応で済ませている企業の二極化も問題視しています。今後は各社の取り組みの“真贋”を見極めるべく、機関投資家の目はますます厳しくなるでしょう。

投資家の要求水準に応え続けるための大前提となるのが、機関投資家と目線を合わせることです。そのためには、機関投資家の考え方のベースとなっているコーポレートファイナンスの知見が取締役会に備わっているか、改めて確認しておきたいところです。そのうえで、取締役会において事業ポートフォリオ戦略を「ゼロベース」で議論することが期待されます。アクティビストがこの議論に参加していたら何と言うか、取締役会がシミュレーションの場として機能するよう、取締役会のメンバーはスキルアップを図る必要があります。

●情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進
投資家は上場企業の情報開示が和英同一かつ同時に実施されることを強く求めています。これを受けて東証は上場規程を改定、2025年4月からは決算短信と適時開示について和英同一かつ同時提供が義務付けられます。その対象範囲は今後さらに拡大することが予想され、例えば事業報告を含む株主総会招集通知全文について和文と「同一・同時」の英文開示が上場規程等で義務付けられることは想定しておくべきでしょう。

また、グローバル投資家は注記事項や監査報告書などを含む有価証券報告書全文についても和文と同等の英訳版を求めています。さらには、議決権行使における判断材料とするため、株主総会開催日から一定期間以上前に英訳版を開示することを期待しています。有報の英訳化および総会前開示は政府がグローバル資本市場に対して公約したテーマでもあり、実現に向けた対応が着実に進められるでしょう。上述した株主総会招集通知と併せて、株主総会前に和英同時に開示するためには何が必要か、開示に関するプロセスやスケジュールの見直しについて検討を始めておくべきでしょう。

●市場環境上の課題の解決
本テーマにおいては、引き続き政策保有株式が焦点となっています。市場全体では上場企業の政策保有株式数は相当削減されてきましたが、未だ保有されている株式については有報での開示が不十分であるとの指摘は根強く、投資家サイドにおいては「そのような説明では保有は正当化されない→しがって全売却すべきである」という論調になっています。上場企業としては、事業戦略上秘匿性の高い情報や相手方との契約上の守秘義務を負っている関係で明らかにできない情報もあると思われますが、保有理由の説明があまりにボイラープレート(ひな形的な決まり文句)的になっていないか再確認したうえで、少なくとも投資家に悪い印象を持たれない程度の開示を検討する必要があります。

●サステナビリティを意識した経営
このテーマについては、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)による基準策定や保証制度に関する議論、金融庁による事例共有といった政策的なアクションが待たれる状況にあります。上場企業としては、これらの政策動向の情報収集を怠らず、準備を進める必要があります。


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。

一方で、ダイバーシティのマターとして、2030年に女性役員比率30%の達成が政府および東証による数値目標として設定されました。現時点で同水準を確保している上場企業は少ないものと見られます。女性社外取締役のパイプライン、さらには女性社内取締役のサクセッションプランを中期的な視点で策定すべき時機に来ていると言えるでしょう。




2024/10/18 サステナビリティ開示ルール、企業の負担に配慮

2030年代には全プライム市場上場企業へのサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)適用を目指し(この点は2024年4月1日のニュース「サステナ開示と保証のあり方に関するWGで“時価総額”に応じたSSBJ基準の段階的適用案浮上」参照)、サステナビリティ情報の開示や保証のあり方について検討している金融庁・金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(以下、WG)の4回目の会合が10月10日に開催され、議論に大きな進展があった。・・・


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。

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2024/10/18 サステナビリティ開示ルール、企業の負担に配慮(会員限定)

2030年代には全プライム市場上場企業へのサステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)適用を目指し(この点は2024年4月1日のニュース「サステナ開示と保証のあり方に関するWGで“時価総額”に応じたSSBJ基準の段階的適用案浮上」参照)、サステナビリティ情報の開示や保証のあり方について検討している金融庁・金融審議会の「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(以下、WG)の4回目の会合が10月10日に開催され、議論に大きな進展があった。


SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。

サステナビリティ情報は有価証券報告書で開示することになるが、適用初年度において開示が間に合わない場合は、訂正報告書で補完すればよいこととされた(二段階開示)。また、訂正報告書による二段階目の開示は、半期報告書の提出期限までに行うことが求められる方向。ただし、現行制度(女性管理職比率など、2023年3月期から開始したサステナビリティ情報の開示)で開示が必要なサステナビリティ情報は、一段階目(有価証券報告書)で現行通り開示する。この二段階開示の方法については、WGのメンバーの多くから賛同が得られている。ただし、二段階目の開示を有価証券報告書の訂正によることとしている点については、訂正報告書を提出することに強い抵抗感がある企業側から、「半期報告書や臨時報告書との選択適用を認めて欲しい」との意見が出ている(事務局資料3ページ「二段階開示の方法(経過的な措置)①」、4ページ「二段階開示の方法(経過的な措置)②」参照)。
また、前回のWGでは、企業が欧州CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)等の海外制度に基づきサステナビリティ情報の開示を海外に向けて行った場合、日本の投資家に対して臨時報告書で開示することが提案され、これに対し強い反対意見が出た(欧州CSRDの詳細は2024年9月13日のニュース「欧州のサステナビリティ開示規制に向け日本企業の役員がとるべき対応は?」参照)。そこで今回のWGでは、有価証券報告書においてサステナビリティ開示基準に準拠した開示を行っていない企業を対象に、CSRD等の連結ベースでの開示を求める海外のサステナビリティ開示基準に基づく開示を行った場合に限り、臨時報告書を提出することでもよいとされた。臨時報告書の開示事項としては、①海外のサステナビリティ開示基準に基づいた開示を行った旨、②開示を行っている場所(リンク先等)、③保証を受けている場合にはその旨、④保証業務提供者の名称、が挙げられた(10ページ「海外のサステナビリティ開示基準に基づく開示の本邦での開示について」参照)。今回の提案についてはおおむね賛同が得られているが、一部からは臨時報告書ではなく、自社のホームページで開示すればよいのではないかとの意見もあった。


欧州CSRD : CSRDは社会・環境情報に関する開示規則を強化するものであり、元々任意で存在していたNFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)」 を拡大・義務化し、さらに一部の情報について第三者保証を求めている。2025会計年度からは、「大会社」に該当する日本企業のEU内の「子会社」に対してCSRDに基づく開示が求められ、2028(会計)年度からはEU域外企業に係る要件(EU市場での売上が1億5,000万ユーロ超)を満たす場合、「連結ベース」でのCSRDに基づく開示が求められる。さらに、開示開始と同時にまずは「限定的」保証が必要になり、その後「合理的」保証に移行しなければならない。

このほか、スコープ(Scope)3の情報が誤りでも虚偽記載等の責任は問われないとされた点も注目される。スコープ3排出量の開示では、企業のバリュー・チェーンの上流及び下流の主体から提供されたデータなど、企業の統制の及ばない第三者から取得した情報や見積りに基づく情報の開示が求められている。仮にスコープ3排出量に関する定量情報が誤りであることが事後的に発覚し、虚偽記載等の責任を負う可能性があるなれば、企業が情報開示に二の足を踏むことになりかねない。そこで、①統制の及ばない第三者から取得した情報を利用することの適切性や、見積りの合理性について会社内部で適切な検討が行われたことが説明されている、②その開示の内容が一般的に合理的と考えられる範囲のものである場合には、虚偽記載等の責任を負わないことにするよう、開示ガイドラインを改正することとしており、この点もおおむね賛同が得られている(14ページ「セーフハーバーに関する検討の方向性」参照)。


スコープ(Scope)3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。
バリュー・チェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値が生み出されるという一連の流れのこと。

2024/10/17 もう一つの東証要請「株主との対話の推進と開示」の現状

東証は2023年3月31日に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について、対応を開示している企業の一覧表を定期的に公表し、さらには開示内容のアップデート日の明示を要求するなど、要請の実現に向けた施策を矢継ぎ早に講じてきた(2024年10月9日のニュース「東証の開示企業一覧表、【検討中】が半年を過ぎると“非開示”扱いに」参照)。日本企業のコーポレートガバナンス改革の実効性向上において、同要請がいかに重要視されているかが分かる。

その一方で、同時に要請された「株主との対話の推進と開示」については、2023年10月11日に開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(第12回)で、「今後の取り組み」が議論されて以降、特段のアクションは講じられていない。第12回で議論された「今後の取り組み」案は、東証の説明資料によると以下となっており、専ら東証による情報発信が取り組みの中心に据えられている。

企業の取り組みの好事例の紹介 ● 企業の取り組みを紹介(経営者インタビュー、セミナー等)
・ 経営者が率先して対話にコミットしている企業
・ 対話による気付きを企業価値向上に活かしている企業
・ 対話の前提となる経営情報の開示やIR活動に積極的に取り組み、投資家へのアピールを行っている企業
※ 本要請の趣旨・留意点を改めて上場企業に周知
→ 投資家からの対話の申し込みがあった場合には真摯に対応
→ 株主との対話の実績がない場合は、体制整備や情報開示・IR活動の拡充を通じた投資家へのアピールなどの取り組みを開示
投資家の目線の紹介 ● 実際の投資家の声を紹介(インタビュー、セミナー等)
・ 対話・エンゲージメントを実施する際の目線
・ 企業に求める情報開示・IR
投資家へのメッセージの発信 ● 機関投資家に対しても、今回の要請の趣旨を周知し、積極的に対話をリードしてほしい旨を発信
その他 ● 企業と投資家の接点作り 等

同要請に対応した開示状況は、2023年8月29日開催の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(第11回)において、3月期決算上場企業(1,212社)の「34%(416社)が開示」と報告されているが(同日に提出された東証の説明資料「株主との対話の推進と開示」に関する企業の対応状況とフォローアップ」1ページ参照)、それ以降は特段の報告は行われていない。これに対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」については月次で報告されており、2024年7月末時点で何らかの対応を開示済(検討中を含む)の企業の割合は、プライム市場では84%に達している(2024年9月10日のニュース「東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえた今後の施策を公表、上場企業数の減少も厭わず」参照)。

そこで当フォーラムでは、直近1年間に東証上場企業が提出したコーポレートガバナンス報告書で、「株主との対話の実施状況」「株主・投資家との対話の実施状況」について開示している事例を調査した。その結果、・・・

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2024/10/17 もう一つの東証要請「株主との対話の推進と開示」の現状(会員限定)

東証は2023年3月31日に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について、対応を開示している企業の一覧表を定期的に公表し、さらには開示内容のアップデート日の明示を要求するなど、要請の実現に向けた施策を矢継ぎ早に講じてきた(2024年10月9日のニュース「東証の開示企業一覧表、【検討中】が半年を過ぎると“非開示”扱いに」参照)。日本企業のコーポレートガバナンス改革の実効性向上において、同要請がいかに重要視されているかが分かる。

その一方で、同時に要請された「株主との対話の推進と開示」については、2023年10月11日に開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(第12回)で、「今後の取り組み」が議論されて以降、特段のアクションは講じられていない。第12回で議論された「今後の取り組み」案は、東証の説明資料によると以下となっており、専ら東証による情報発信が取り組みの中心に据えられている。

企業の取り組みの好事例の紹介 ● 企業の取り組みを紹介(経営者インタビュー、セミナー等)
・ 経営者が率先して対話にコミットしている企業
・ 対話による気付きを企業価値向上に活かしている企業
・ 対話の前提となる経営情報の開示やIR活動に積極的に取り組み、投資家へのアピールを行っている企業
※ 本要請の趣旨・留意点を改めて上場企業に周知
→ 投資家からの対話の申し込みがあった場合には真摯に対応
→ 株主との対話の実績がない場合は、体制整備や情報開示・IR活動の拡充を通じた投資家へのアピールなどの取り組みを開示
投資家の目線の紹介 ● 実際の投資家の声を紹介(インタビュー、セミナー等)
・ 対話・エンゲージメントを実施する際の目線
・ 企業に求める情報開示・IR
投資家へのメッセージの発信 ● 機関投資家に対しても、今回の要請の趣旨を周知し、積極的に対話をリードしてほしい旨を発信
その他 ● 企業と投資家の接点作り 等

同要請に対応した開示状況は、2023年8月29日開催の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(第11回)において、3月期決算上場企業(1,212社)の「34%(416社)が開示」と報告されているが(同日に提出された東証の説明資料「株主との対話の推進と開示」に関する企業の対応状況とフォローアップ」1ページ参照)、それ以降は特段の報告は行われていない。これに対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」については月次で報告されており、2024年7月末時点で何らかの対応を開示済(検討中を含む)の企業の割合は、プライム市場では84%に達している(2024年9月10日のニュース「東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえた今後の施策を公表、上場企業数の減少も厭わず」参照)。

そこで当フォーラムでは、直近1年間に東証上場企業が提出したコーポレートガバナンス報告書で、「株主との対話の実施状況」「株主・投資家との対話の実施状況」について開示している事例を調査した。その結果、2024年10月11日時点において、全プライム市場上場会社(1,632社)の「40.1%(654社)」による開示が確認された。なお、前述のフォローアップ会議で報告された「34%(416社)」と数字にズレがあるのは、分母の違い(フォローアップ会議の数字は3月期決算上場企業限定)による。いずれにせよ、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況と比較すると、大きな格差があることが明らかとなった。

下表は、「株主との対話の実施状況」「株主・投資家との対話の実施状況」の開示があった企業とプライム市場上場企業全体について、時価総額とPBR(株価純資産倍率)の平均を示したもの。時価総額が比較的大きくかつPBRがそれほど高くない企業群が積極的に対応している傾向にあることが分かる。「株主との対話の推進と開示」はコーポレートガバナンス報告書の記載要領でも記載が要請されている事項であるだけに(記載要領の4ページ中段の※参照)、積極的な対応が求められよう。


PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

調査対象企業群 時価総額平均 PBR平均
開示があった企業 8,645億円 1.54倍
プライム市場上場企業全体 5,775億円 1.78倍

2024/10/16 カスハラへの対応ミスで被害者の矛先が会社に向かう恐れ

周知のとおり、東京都は2024年10月4日、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」を制定したところだ。同条例は来年2025年4月1日から施行される。同条例は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為()であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明示している。また、事業者に対しては、都が策定するガイドラインに基づき、「必要な体制の整備」「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。

* 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為

もっとも、東京都の条例が制定される以前から、労働契約法上、会社は従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならないこととされている(同法5条)。すなわち、東京都の条例によらずとも、また、東京都以外に所在する会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにするとともに、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対応を講じる義務を負っている。

さらに、2023年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントおよびそれへの会社の対応は労災事故と認定される可能性がある。同評価表自体は労災認定の基準となるものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなり得る。


業務による心理的負荷評価表 : 労働基準法を根拠に、厚生労働省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて作成されるもので、労働者が業務によって受ける心理的負荷の強度を評価し、精神障害の労災認定に使用される。平成23年12月26日付けの基発1226第1号通知により初めて策定され、その後、社会情勢の変化や最新の医学的知見を反映して改正が行われている。

仮に会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者(カスタマーハラスメントを受けた従業員等)の矛先が会社に向きかねない。そのことを示す・・・

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2024/10/16 カスハラへの対応ミスで被害者の矛先が会社に向かう恐れ(会員限定)

周知のとおり、東京都は2024年10月4日、全国初となる「カスタマーハラスメント防止条例」を制定したところだ。同条例は来年2025年4月1日から施行される。同条例は、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為()であり、就業環境を害するもの」と定義したうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマーハラスメントを行ってはならない」として「カスタマーハラスメントの禁止」を明示している。また、事業者に対しては、都が策定するガイドラインに基づき、「必要な体制の整備」「カスタマーハラスメントを受けた者への配慮」「カスタマーハラスメント防止マニュアルの作成」等の努力義務を課している。

* 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言など不当な行為

もっとも、東京都の条例が制定される以前から、労働契約法上、会社は従業員が生命や身体の安全を確保しつつ働けるよう配慮しなければならないこととされている(同法5条)。すなわち、東京都の条例によらずとも、また、東京都以外に所在する会社においても、従業員がカスタマーハラスメントを受けないようにするとともに、カスタマーハラスメントを受けた場合にはその従業員を守るための対応を講じる義務を負っている。

さらに、2023年9月に改定された「業務による心理的負荷評価表」には、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」という項目が入っており、カスタマーハラスメントおよびそれへの会社の対応は労災事故と認定される可能性がある。同評価表自体は労災認定の基準となるものだが、会社の民事責任を判断する材料ともなり得る。


業務による心理的負荷評価表 : 労働基準法を根拠に、厚生労働省が定めた「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて作成されるもので、労働者が業務によって受ける心理的負荷の強度を評価し、精神障害の労災認定に使用される。平成23年12月26日付けの基発1226第1号通知により初めて策定され、その後、社会情勢の変化や最新の医学的知見を反映して改正が行われている。

仮に会社がカスタマーハラスメントへの対応を誤ると、被害者(カスタマーハラスメントを受けた従業員等)の矛先が会社に向きかねない。そのことを示す裁判例が、甲府地裁平成30年11月13日判決だ。

本事案では、市立小学校の教師が地域の防災訓練への参加を呼びかける目的で担任しているクラスの児童宅に立ち寄ったところ、児童宅の飼い犬に咬まれ2週間の治療を要するケガを負った。教師は児童の父母とのやりとりにおいて治療費を負担してもらうことを辞退したが、教師の妻が補償を求める態度を示したところ,児童の父および祖父が「教師が地域の人に損害賠償を求めるとは何事か」などとして教師に謝罪を求めた。その際、同席した校長も教師に対して謝罪を求め、結局、教師は床にひざまずいて謝罪をするに至った。教師は謝罪の翌日から出勤できなくなり、病院でうつ病との診断を受けた。本事案は、教師が校長のパワハラ行為により精神的苦痛を受けうつ病となり、休業を余儀なくされたなどとして、市および県を相手取り約500万円の損害賠償を請求する訴訟に発展。裁判所は校長による謝罪の強制などを「パワハラ」であり不法行為(民法709条)に該当すると認定し、治療費、休業損害、慰謝料など総額約295万円の支払いを命じる判決を下した。本事案は学校を舞台にしたものだが、児童の保護者は会社でいう「顧客」に類似する立場であり、本事案の構図はカスハラと同様と言える。しかし、本事案は校長がカスハラを受けている教師を守るための対応を講じるどころか、カスハラに加担する行為をとったために、カスハラが発端となりパワハラも併発したという点に大きな特徴がある。

カスハラという言葉が一般化しつつある中でも、「顧客第一」「お客様は神様」といった積年の“呪縛”がいまだ相当数の日本企業に残っていることは否定できない。時にはこの呪縛がクレームを受けた部下への叱責等につながることもあろう。確かに、顧客からの正当なクレームは自社の商品・サービスの品質改善のきっかけとなり得るため、これには真摯に向き合うべきだが、それが「要求内容に妥当性がないもの」や「要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当でないもの」、そして「それによって労働者の就業環境が害されるもの」はまぎれもないカスハラであり、経営陣は毅然と対処しなければならない。ましてやカスハラの被害者である従業員を叱責するような行為はパワハラに該当しかねないということをマネジメント層に周知するとともに、被害者に対しては慎重な言動に努めるよう注意を喚起する必要があろう。