CG改革の“実質化”に向けたアクション・プログラムの成果は?
2015年に策定・導入されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)は、2018の改訂と2021年の再改訂を経て現在の内容となっています。従来は3年おきに大幅な見直しが施されてきたわけですが、再改訂から3年が経過する本年(2024年)、CGコード改訂の議論は未だに始まっていません。CGコードについて議論する金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」は2023年5月に「意見書(6)」を公表、下記のとおり、「Ⅲ.今後の取組みに向けた考え方」の中で、「改革の趣旨に沿った実質的な対応」を進めることが重要としたうえで、CGコードの定期的な見直しには否定的なスタンスを示しています(2023年4月4日のニュース「SSコード、CGコード改訂の代わりに何が行われる?」参照)。
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コーポレートガバナンス・コードの更なる改訂については、形式的な体制整備に資する一方、同時に細則化により、コンプライ・オア・エクスプレインの本来の趣旨を損ない、コーポレートガバナンス改革の形骸化を招くおそれも指摘されている。(中略)各コードの改訂時期については、必ずしも従前の見直しサイクルにとらわれることなく、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、その進捗状況を踏まえて適時に検討することが適切である。
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その一方で「意見書(6)」は、フォローアップ会議ではコーポレートガバナンス改革の実質化に向けて以下で説明するような施策・検討を順次実施していくことを提言し、これを「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム」として示しました(2023年4月18日のニュース「コード改訂「3年に1度」のサイクルにとらわれず コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた「アクション・プログラム」公表へ」を参照)。同プログラムでは、2つの課題について、それぞれ3つと5つの項目別に様々な論点が挙げられており、実際、同プログラムに従って、2023年から2024年にかけて下表(当フォーラムが整理)のような具体的な施策が講じられてきました。
1.企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題
| A)収益性と成長性を意識した経営 |
● 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組みの開示を要請
● 同要請を踏まえ、対応を進めている企業を「見える化」
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| B)サステナビリティを意識した経営 |
● 有価証券報告書に多様性に関する指標等を追加
● 人的資本関係等の開示の好事例集を公表
● 女性役員比率の目標(2030年までに30%)を規定
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| C)独立社外取締役の機能発揮 |
● 「社外取締役のことはじめ」を作成
● 民間主体で取締役等に対する研修等が進展
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2.企業と投資家との対話に係る課題
協働エンゲージメント : 複数の投資家が協調して個別の投資先企業に対し特定のテーマについて対話を行うエンゲージメントのこと。各投資家の質的・量的なリソース不足を補い、対話の実効性を高めると言われている。
共同保有者 : 共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者
CG改革の“実践”に向けたアクション・プログラム2024の方向性
2023年のアクション・プログラムを踏まえ、フォローアップ会議では新たに「意見書(7)」において「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」を公表しました(2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)。同プログラムでは6項目に再整理した各課題について、下表の通り「今後の方向性」を打ち出しています(当フォーラムが適宜編集)。
| スチュワードシップ活動の実質化 |
● スチュワードシップ・コードを見直す
・協働エンゲージメントの促進
・実質株主の透明性確保
● 運用機関・アセットオーナー・議決権行使助言会社などによるスチュワードシップ・コードの遵守状況を検証
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| 取締役会等の実効性向上 |
● 社外取締役、取締役会議長、指名・報酬委員長が果たすべき役割や機能の共有
● 取締役会の実効性向上に向けた具体的な取組みの好事例を共有
・社外取締役と投資家の対話
・個別評価を含む取締役会実効性評価
・実質的な議論を促す取締役会事務局
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| 収益性と成長性を意識した経営 |
● 継続して各企業の取組み状況をフォローアップ
・開示と取組みの乖離
・取締役会の主体性および積極性
・投資家との対話における議論の具体性
・上記対応のためのリソースの確保
・中長期的な企業価値向上の観点からの具体的成果を意識した分析・評価
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| 情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進 |
● 有報開示が総会前のタイミングになるよう環境整備する(有報と事業報告の重複開示に関する効率化を図るなど)
● 英文開示の状況をフォローアップする
● 一定の要件を満たす企業群について、下記を示すリストを公表
・資本収益性や市場評価、成長性に関する指標
・コーポレートガバナンスの状況
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| 市場環境上の課題の解決 |
● 政策保有株式について企業が形式的な対応をとらないよう、有報開示が実態を踏まえているかなど、保有の合理性について検証を尽くすよう促す
● 金融庁は政策保有株式に関する実際の開示についてより深度ある検証を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて開示の拡充などの必要な措置を講じる
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| サステナビリティを意識した経営 |
● 国際的な比較可能性を確保したサステナビリティ開示・保証制度のあり方を検討
● サステナビリティを意識した経営に関する具体的事例を共有
・財務情報と非財務情報とのつながり
・企業価値向上というアウトカムの意識
・取締役会による監督の役割
・コーポレート・カルチャーを意識した経営や対話
・ダイバーシティの確保に向けた人的資本への投資等への配意
・有事における「復元力」の発揮など、レジリエンスへの意識
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実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。
レジリエンス : 気候変動等の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。
アクション・プログラム2024を踏まえ、企業がとるべき対応
以下では、アクション・プラン2024で挙げられた各項目について、今後どのような施策や展開が考えられるのか、当フォーラム独自の視点から、上場企業に望まれる対応を考察します。自社ガバナンスの現状に照らし合わせつつ、必要な取組みを検討する際の参考にしてください。
●スチュワードシップ活動の実質化
機関投資家による協働エンゲージメントなどスチュワードシップ活動を実効的なものとするため、スチュワードシップ・コードの改訂および遵守状況の検証が提言されています。これらが実現した場合、株主総会において国内の機関投資家が会社提案に対して反対行使、またはアクティビストの株主提案に対して賛成行使するケースが増加することが予想されます。
上場企業としては、自社のガバナンスや業績の現状に目を向けたうえで、メインストリームの機関投資家から支持を得るための施策を講じるべきです。特にROEが低迷していたり、PBRが1倍を大幅に割り込んでいたりすると、そこがアクティビストにとっては格好の“攻め口”になりかねません。ROEを改善するための事業ポートフォリオ戦略や株主還元策、PBRを向上させるためのIR強化やガバナンスの改善を急ぐ必要があるでしょう。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
●取締役会等の実効性向上
取締役会における独立社外取締役の割合は高まっていますが、多くの上場企業では未だ社内取締役が過半数を占めており、投資家が求める「監督と執行の分離」は途半ばの状況にあります。こうした中で、「独立社外取締役である取締役会議長」の選任を求める声は強まっており、将来的にはCGコードに盛り込まれる可能性もあります。現状は代表取締役社長などの経営トップが取締役会議長を務める事例が大多数となっていますが、例えば代表権を伴わない会長など、まずは「非執行の取締役」に取締役会議長を置き換えることから検討するのもよいでしょう。
また、投資家との対話を主導する役割として、筆頭独立社外取締役の設置を求める投資家も少なくありません。現行のCGコードでは、補充原則4-8②において「例えば、互選により『筆頭独立社外取締役』を決定する」ことが望ましいとしていますが、将来的には「例えば」という文言が外れることも考えられます。投資家との対話相手として最もふさわしいのは誰か、株主の代理人としての資質を最も備えているのは誰か、現状の社外取締役のメンバーの中から見極めるところから始めておくべきでしょう。もし現状のメンバーの中には適切な人材がいないということであれば、資本市場に高い知見を持つ新任者をサーチすることも検討すべきかもしれません。
●収益性と成長性を意識した経営
東証による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という要請を受け、日本の上場企業がROEの改善やPBRの向上に取り組んでいることを、グローバル投資家は高く評価しています。同時に、これらの取り組みが一過性で終わることなく、持続的なものとなることを期待しています。また、真剣に取り組んでいる企業と、形だけの対応で済ませている企業の二極化も問題視しています。今後は各社の取り組みの“真贋”を見極めるべく、機関投資家の目はますます厳しくなるでしょう。
投資家の要求水準に応え続けるための大前提となるのが、機関投資家と目線を合わせることです。そのためには、機関投資家の考え方のベースとなっているコーポレートファイナンスの知見が取締役会に備わっているか、改めて確認しておきたいところです。そのうえで、取締役会において事業ポートフォリオ戦略を「ゼロベース」で議論することが期待されます。アクティビストがこの議論に参加していたら何と言うか、取締役会がシミュレーションの場として機能するよう、取締役会のメンバーはスキルアップを図る必要があります。
●情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進
投資家は上場企業の情報開示が和英同一かつ同時に実施されることを強く求めています。これを受けて東証は上場規程を改定、2025年4月からは決算短信と適時開示について和英同一かつ同時提供が義務付けられます。その対象範囲は今後さらに拡大することが予想され、例えば事業報告を含む株主総会招集通知全文について和文と「同一・同時」の英文開示が上場規程等で義務付けられることは想定しておくべきでしょう。
また、グローバル投資家は注記事項や監査報告書などを含む有価証券報告書全文についても和文と同等の英訳版を求めています。さらには、議決権行使における判断材料とするため、株主総会開催日から一定期間以上前に英訳版を開示することを期待しています。有報の英訳化および総会前開示は政府がグローバル資本市場に対して公約したテーマでもあり、実現に向けた対応が着実に進められるでしょう。上述した株主総会招集通知と併せて、株主総会前に和英同時に開示するためには何が必要か、開示に関するプロセスやスケジュールの見直しについて検討を始めておくべきでしょう。
●市場環境上の課題の解決
本テーマにおいては、引き続き政策保有株式が焦点となっています。市場全体では上場企業の政策保有株式数は相当削減されてきましたが、未だ保有されている株式については有報での開示が不十分であるとの指摘は根強く、投資家サイドにおいては「そのような説明では保有は正当化されない→しがって全売却すべきである」という論調になっています。上場企業としては、事業戦略上秘匿性の高い情報や相手方との契約上の守秘義務を負っている関係で明らかにできない情報もあると思われますが、保有理由の説明があまりにボイラープレート(ひな形的な決まり文句)的になっていないか再確認したうえで、少なくとも投資家に悪い印象を持たれない程度の開示を検討する必要があります。
●サステナビリティを意識した経営
このテーマについては、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)による基準策定や保証制度に関する議論、金融庁による事例共有といった政策的なアクションが待たれる状況にあります。上場企業としては、これらの政策動向の情報収集を怠らず、準備を進める必要があります。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。
一方で、ダイバーシティのマターとして、2030年に女性役員比率30%の達成が政府および東証による数値目標として設定されました。現時点で同水準を確保している上場企業は少ないものと見られます。女性社外取締役のパイプライン、さらには女性社内取締役のサクセッションプランを中期的な視点で策定すべき時機に来ていると言えるでしょう。
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