2024/09/17 新リース会計基準が公表、準備期間は約2年半(会員限定)

2024年9月13日、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準」等を公表した。2023年6月22日のニュース『ROAの悪化は確実 上場企業の役員が押さえておきたい「新リース会計基準」が経営に与える影響』でお伝えしたとおり、新たなリース会計基準により、リースの借手(以下、借手を前提)はファイナンス・リース(借入れによる物の購入とみなされるリース)であるかオペレーティング・リース(「物を借りて賃借料を払う」という本来のリース)であるかにかかわらず、すべてのリースを原則として資産計上することが求められる。


ファイナンス・リース : 「支払いリース料総額の現在価値が、見積もり現金購入価額の90%以上」または「リース期間が耐用年数の75%以上」で中途解約もできないリースを指す。

これまで、ファイナンス・リースではリース資産をB/S上の「資産」に計上するとともに、リース債務(未経過リース料)をB/S上の「負債」にそれぞれ計上することが求められてきた(バランスシートに計上するという意味でこれらを「オンバランス」という)。これに対しオペレーティング・リースは、毎期の支払いリース料を費用計上するだけで済み、B/Sには何も計上しなくてもよい(=オフバランス)。オフバランスであれば、ROAの分母が小さくなり、さらに負債も計上しなくてよいといったメリットがあるため、ファイナンス・リースの要件を上手く外したオペレーティング・リースを利用している企業も少なくなかった。小売業や物流業(倉庫)など多数の不動産リース契約を締結している企業をはじめ、オフィスビルを借りている企業は業種を問わず、現行のリース会計基準に基づきオペレーティング・リースとして費用計上してきたリース料を今後は資産(使用権資産)として計上(負債としてリース負債(未経過リース料)も計上)しなければならなくなるため、多くの企業が少なからず影響を受けることになろう。


ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。ROAは利益を総資産で除して求めるため、分母である総資産の増加はROAの低下をもたらす。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
使用権資産 : 新リース会計基準では、現行の「リース資産」は「使用権資産」となる。「使用権資産」とは、借手が原資産(リースの対象となる資産)をリース期間にわたり使用する権利を表す資産のことをいう。
リース負債 : 新リース会計基準では、科目名が「リース債務」ではなく「リース負債」となる。

公開草案の公表が2023年5月であり、当初の予定では2024年3月までに内容を確定させることになっていた。しかし、リース契約は多くの企業に浸透してきたため、公開草案に対してはリース会社以外からも多くのコメントが寄せられ、ASBJでの議論も時間を要することとなり、公開草案の公表から1年を超える期間を経ての基準公表となった。企業にとって関心の高い適用開始時期については、「最低でも3年程度の準備期間を設けるべきである」「2年が十分な準備期間かどうかについて、対象法人の準備状況等を踏まえて改めて検討すべきである」「最低でも5年程度の準備期間を設けるべきである」といった、適用まで十分な準備期間を求めるコメントが多数寄せられていたが、結論としては、2027年4月1日以降開始事業年度から強制適用されることが決まった。企業にとっては2年半程度の準備期間が用意された格好だ。一方、早期適用は2025年4月1日以降開始事業年度からとされた。

公開草案からの主な変更点は下表のとおり。基本的に実務上の負担を軽減するもの、現行実務の取扱いを認めるものとなっており、“再公開草案”を公表するほどの重要性がないとされた。

変更の種類 具体的な変更点 理由等
(1)取扱いの変更 ①鉱物、石油、天然ガス等を探査する又は使用する権利の取得の適用範囲からの除外
②短期リースの注記の簡便的な取扱いの削除

1 国際的な基準との整合性からの変更。
2 短期リースに係る費用の金額に少額リースに係る費用の金額を合算した金額で注記すべきではないとの指摘を踏まえ、公開草案を変更。併せて、短期リースかつ少額リースとなるリースに係る注記は記載することを要しないことを明確化。
(2) 会計処理等の選択肢の追加 ①国際的な会計基準との同様の取扱いを認める選択の追加
(ア)貸手のリース期間について、IFRS第16号と同様の取扱いを選択肢として追加
(イ)短期リースの適用単位、及びリースを構成しない部分とリースを構成する部分の区分の例外の適用単位を追加
(ウ)一定の要件を満たす貸手のオペレーティング・リースについてリースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分を合わせて会計処理の単位とする例外の追加
(エ)企業結合における取得原価の配分の例外の追加

②従来の取扱いの選択を認める追加
(ア)貸手による知的財産のライセンスの供与の適用範囲の例外の追加
(イ)少額リースの判定にあたり、いわゆる300万円基準における判定期間の例外の追加及び維持管理費用相当額を控除する取扱いの追加
(ウ)経過措置の追加
①国際的な会計基準と同様の取扱いを妨げる理由がなく、また、取扱いの選択を認めても財務諸表の比較可能性は大きく損なわれない等のため追加。

現行実務と同様の会計処理の選択を追加で認めるものであり、また、取扱いの選択を認めても財務諸表の比較可能性は大きく損なわれない等のため追加。


IFRS第16号と同様の取扱い : 新しいリース会計基準では、貸手のリース期間について、IFRS第16号と同様の取扱いの選択肢が追加された。具体的には、①リース期間の決定:リース期間は、解約不能期間に加え、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの期間、および借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの期間を含めて決定する。②リース期間の見積り:リース期間の見積りに関する詳細なガイドラインが提供され、契約の経済的実態を考慮してリース期間を決定することが求められる。これらにより、貸手はリース期間をより柔軟に決めることができるようになった。

新リース会計基準の適用にあたってまず必要となるのは、リース契約の“棚卸し”だ。新リース会計基準を適用することによる自社への影響を早めに精査し、システム変更の要否、そのための予算計上といった準備を早急に進める必要があろう。

2024/09/13 欧州のサステナビリティ開示規制に向け日本企業の役員がとるべき対応は?

株式会社レクタスパートナーズ 代表取締役 藤澤正路

「アルファベットスープ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、TCFDSASBISSBSSBJなどといった、昨今のサステナビリティ関連の英語の略称の多さを揶揄したものである。ここで挙げた略称より一般的な知名度は劣るものの、欧州に重要拠点を持つ企業であれば必ず押さえておく必要があるのが、CSRD、ESRS、CSDDDの3つのワードだ。


TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
SASB : SASB(サステナビリティ会計基準審議会=Sustainability Accounting Standards Boad)は2011年に設立された米国に拠点を置く団体であり、持続可能性が財務に与える影響を投資家に報告するフレームワークであるSASBスタンダードを策定した。SASBスタンダードは、11セクター・77 産業について、産業ごとに企業の財務パフォーマンスに影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定している点に特徴がある。SASBは、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク」を策定したことで有名なIIRC(国際統合報告評議会=International Integrated Reporting Council)と合併してVRF(=Value Reporting Foundation)となり、さらにVRFは2022年6月にISSBに統合された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

CSRDは「Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令」、ESRSは「European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準」、CSDDDは「Corporate Sustainability Due Diligence Directive:企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令」を指す。「Directive」「Standard」という単語が含まれていることから分かるように、CSRDとCSDDDは「指令」、ESRSは「基準」である。それぞれの関係性は、・・・

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2024/09/13 欧州のサステナビリティ開示規制に向け日本企業の役員がとるべき対応は?(会員限定)

株式会社レクタスパートナーズ 代表取締役 藤澤正路

「アルファベットスープ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、TCFDSASBISSBSSBJなどといった、昨今のサステナビリティ関連の英語の略称の多さを揶揄したものである。ここで挙げた略称より一般的な知名度は劣るものの、欧州に重要拠点を持つ企業であれば必ず押さえておく必要があるのが、CSRD、ESRS、CSDDDの3つのワードだ。


TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
SASB : SASB(サステナビリティ会計基準審議会=Sustainability Accounting Standards Boad)は2011年に設立された米国に拠点を置く団体であり、持続可能性が財務に与える影響を投資家に報告するフレームワークであるSASBスタンダードを策定した。SASBスタンダードは、11セクター・77 産業について、産業ごとに企業の財務パフォーマンスに影響を与える可能性が高いサステナビリティ課題を特定している点に特徴がある。SASBは、統合報告書の作成についての考え方をまとめた「国際統合報告フレームワーク」を策定したことで有名なIIRC(国際統合報告評議会=International Integrated Reporting Council)と合併してVRF(=Value Reporting Foundation)となり、さらにVRFは2022年6月にISSBに統合された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ISSB : 「International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)」の略称。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が2022年7月1日に設立された。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

CSRDは「Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令」、ESRSは「European Sustainability Reporting Standards:欧州サステナビリティ報告基準」、CSDDDは「Corporate Sustainability Due Diligence Directive:企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令」を指す。「Directive」「Standard」という単語が含まれていることから分かるように、CSRDとCSDDDは「指令」、ESRSは「基準」である。それぞれの関係性は、CSRDが企業がサステナビリティに関する情報を報告するためのルール、ESRSがCSRDに基づき具体的にどのような情報を報告するかを定めた基準、CSDDDが企業がサプライチェーン全体で持続可能な活動(人権や環境に配慮した活動)を行っているかを確認するためのルールということになる。CSRDは2023年1月に発効し、ESRSは2023年12月に公表され、CSDDDは2024年7月に発効している。

このうち、現在特に日本企業を悩ませているのがCSRDだ。CSRDは社会・環境情報に関する開示規則を強化するものであり、元々任意で存在していた「NFRD(Non-Financial Reporting Directive:非財務情報開示指令)」 を拡大・義務化し、さらに一部の情報について第三者保証を求めている。2025会計年度からは、「大会社」に該当する日本企業のEU内の「子会社」に対してCSRDに基づく開示が求められ、2028(会計)年度からはEU域外企業に係る要件(EU市場での売上が1億5,000万ユーロ超)を満たす場合、「連結ベース」でのCSRDに基づく開示が求められる。さらに、開示開始と同時にまずは「限定的」保証が必要になり、その後「合理的」保証に移行しなければならない。CSRDの内容は非常に難解だが、企業には開示に向けた準備期間が実質的に2024年度しかない。

そして、次に控えているのはCSDDDである。これは、自社グループの事業やそのビジネスパートナーを対象として、人権・環境の観点からのデューデリジェンスの義務を定めたもの(M&A等のプロセスにおけるデューデリジェンスとは毛色が異なる)。また、気候変動緩和のための移行計画を定め、最善の努力によって実施する義務も定めている。EU加盟国は、2026年7月26日までにCSDDDを国内法制化しなければならず、その1年後から段階的に規則適用が開始され、完全適用は2029年7月が予定されている。

では、これらの規制に違反した場合にはどのようなペナルティがあるのだろうか。法的拘束力はEU加盟各国に委譲されており、各国の国内法次第ということになる。例えばCSRDは、EU加盟国に対して、国内法上の罰則を採択し執行する権限を委譲している。CSRDを最初に国内法制化したフランスでは、サステナビリティ・レポートを公表しなかった場合には罰金(最高18,750ユーロ)と付随的処罰(公共調達からの除外など)が科され、また、独立第三者機関の未整備や監査妨害があった場合には刑事罰(最高375,000ユーロの罰金および5年の禁固刑)が科される。CSDDDはこれからEU加盟各国で国内法制化が行われるが、CSDDDでは、「全世界での年間売上高の最大5%の罰金」という罰則が用意されている。さらにデューデリジェンス義務違反があった場合には、民事上の損害賠償責任も負うことになる。もっとも、フランスのCSRDを見る限り、仮に罰則を受けても金額的な負担はあまり大きくなさそうだ。一方、CSDDDについては「売上の5%」というと巨額に見えるが、実際に各国でどのような規定振りとなるかは不透明と言える。

気になるのは取締役や監査役に対する責任だが、現時点では、故意による違反行為等がない限り、個々人が責任を問われる可能性は高くなさそうだ。結論としては、企業にとってはレピュテーションの毀損が最も大きなダメージになるものと思われる。

これらの規制に向けた取締役・監査役の対応としてまず挙げられるのは、自社への影響範囲を特定することだろう。目の前に適用が迫っている規制があればそれをクリアし、中長期的に対応が必要となりうる点にも早めに着手できるよう、現場をサポートしなければならない。早めに動けば自社のリソースだけで対応できる可能性もあるが、対応が難しければ外部のコンサルタントを活用する必要もあるだろう。長い目で見ればデジタルツール導入が必要となることも考えられる。

また、規制対応のコストが事業戦略に与える影響も検討しておく必要があろう。例えば欧州企業をM&Aしたことにより、これまで自社とは無縁だったCSRDやCSDDDに対応せざるを得なくなることもありえる。この場合、PMIの中に欧州規制対応コストを盛り込む必要が出て来る。

サステナビリティに関連した動きは着々と実務に落とし込まれており、経営上の意思決定に関わる場面も増えてきている。例えば、サプライチェーンのデューデリジェンスの観点から、高い透明性を保てるビジネスパートナーに欧州企業の需要が集まりやすくなっていくことが予想される。自社が欧州の規制にスムーズに適用できる企業であることが、欧州市場に参入するための“入場チケット”の一つとなりそうだ。

2024/09/12 政策保有株式に対する投資家の懸念を低減するための方策

金融庁が2024年6月7日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」(同プログラムの詳細は2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)では、「6.市場環境上の課題の解決」として、引き続き政策保有株式を問題視している。上場会社における見直し・縮減は進展しているものの、グローバル投資家の視線は未だ厳しい状況にある。

この政策保有株式に関する議論の延長線上にあるのが、・・・

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2024/09/12 政策保有株式に対する投資家の懸念を低減するための方策(会員限定)

金融庁が2024年6月7日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」(同プログラムの詳細は2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)では、「6.市場環境上の課題の解決」として、引き続き政策保有株式を問題視している。上場会社における見直し・縮減は進展しているものの、グローバル投資家の視線は未だ厳しい状況にある。

この政策保有株式に関する議論の延長線上にあるのが、企業年金のスチュワードシップ責任だ。コーポレートガバナンス・コード(2018年改訂版)の原則2-6は以下のとおり、上場会社の企業年金について「アセットオーナーとして期待される機能を発揮」することと、「利益相反が適切に管理」されることを期待している。

【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
上場会社は、企業年金の積立金の運用が、従業員の安定的な資産形成に加えて自らの財政状態にも影響を与えることを踏まえ、企業年金が運用(運用機関に対するモニタリングなどのスチュワードシップ活動を含む)の専門性を高めてアセットオーナーとして期待される機能を発揮できるよう、運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容を開示すべきである。
その際、上場会社は、企業年金の受益者と会社との間に生じ得る利益相反が適切に管理されるようにすべきである。

上記の「利益相反」について東証はFAQで、下記のとおり「議決権行使の局面におけるもの」を典型的なケースとしている。具体的には、母体である上場会社の取引関係の強化を図る一方で、それが株価下落の誘引となるなど少数株主の利益に反する議決権行使を、年金基金が委託先である運用機関に指図することが想定される。このFAQから分かるように、企業年金の保有株式については、東証も政策保有株式と同様の危惧(議決権の空洞化)を抱いていることは明らかだ。

原則2-6における「利益相反」は議決権行使の局面におけるものを典型的に想定しています。年金資産を構成する株式については企業年金の受益者の利益の最大化のために議決権行使がなされるべきところ、母体企業の利害に応じて行使がなされることがないよう、利益相反管理を行うことが求められます。

企業年金の利益相反問題を解決する一つの道筋として、企業年金によるスチュワードシップ・コードの受入れが挙げられる。同コードは機関投資家全般に「利益相反を適切に管理する」こと(指針2-1)、「利益相反を回避」すること(指針2-2)を要求し、さらに企業年金などアセットオーナーに対して「運用機関による実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう」促すこと(指針1-3)を期待している。同コードの受入れは企業年金、ひいては政策保有株式に対する投資家の懸念を低減することに寄与するだろう。

金融庁は「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリスト」を不定期に公表しているが、直近(2024年6月30日時点)のリストによると、企業年金を含む「年金基金等」による受入れは84基金にとどまる。企業年金連合会の会員が約1,200基金に達することを考えると、少なくとも現状ではスチュワードシップ・コードの受入れは相当に限定的と言えるだろう。

また、当フォーラムが、上記金融庁のリストから、上場会社(および中核子会社)の年金基金によるスチュワードシップ・コード受入れ状況を確認したところ、事業会社と金融機関を合わせて52基金にすぎなかった。これらの基金の母体企業は、コーポレートガバナンス報告書において、スチュワードシップ・コード受入れを通じて上記コーポレートガバナンス・コード原則2-6に対応していることを積極的にアピールしたいところだ。

受入れ企業 2017年改訂時 2020年再改訂時 2024年6月末時点
事業会社 10 26 31
金融機関 16 20 21

さらに、スチュワードシップ・コードがアセットオーナーに期待することへの対応も説明しておきたい。指針1-3は「最終受益者の視点」を意識し、指針1-4は「運用機関に対して求める事項や原則」を明示し、指針1-5は「運用機関に対するモニタリング」の実施を求めている。当フォーラムが52基金の母体企業各社のコーポレートガバナンス報告書を確認したところ、例えば下記の2基金は上記3項目のすべてに言及していた。自社の企業年金がスチュワードシップ責任を果たすうえでの参考にしたい。

パナソニックホールディングス 当社は企業年金の運用において、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG 要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく建設的な目的を持った対話(エンゲージメント)などを通じて、中長期的な視点から当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことが、受給者等の利益拡大につながると考え、本方針を策定し、これを公表します。
当社は、受給者等の利益確保のためには自らのスチュワードシップ活動の質的向上が重要であるとの認識のもと、運用機関等との定期的な情報交換等を通じ、自らのスチュワードシップ責任を果たすための知見や実力を向上させていきます。
当社は、「スチュワードシップ責任を果たすための委託先運用機関に求める取組方針」を策定し、委託先運用機関に本コードに則したスチュワードシップ活動を求めていきます。
当社は、委託先運用機関との双方向での議論や運用機関の自己評価を活用しながら、委託先運用機関の スチュワードシップ活動のモニタリングを行い、委託先運用機関の評価に反映してまいります。
なお運用機関に対するモニタリングに際しては、運用機関と投資先企業との間の対話等のスチュワードシップ 活動の「質」に重点を置いて実施いたします。
みずほフィナンシャルグループ 当基金の資産運用は全て、信託銀行、投資顧問会社、生命保険会社等(以下これらを総称して「運用受託機関」という。)への委託を通じて行っていますが、当基金は原則として日本版スチュワードシップ・コードを受入れた「資産運用者」である運用受託機関に日本株式の運用を委託します。
当基金は「アセットオーナー」として、当該日本株式を運用する運用受託機関に対し、運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG(環境・社会・企業統治)要素を含む中長期的な持続可能性)の考慮に基づく実効的なスチュワードシップ活動を行い、投資先企業の価値向上やその持続的成長を促すことにより、受給者等のため中長期的な投資リターン拡大を図ることを期待します。
当基金は、日本株式を委託する運用受託機関において実効的なスチュワードシップ活動が行われるよう、本方針および当基金がスチュワードシップ活動に関して求める事項や原則を当該運用受託機関に提示します。
当基金は、当該運用受託機関が行うスチュワードシップ活動が、当基金が提示する事項や原則と整合的であるかモニタリングします。

2024/09/11 【2024年8月の課題】自社の株主総会における各議案の賛成率分析

日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創

株主総会の議案の賛成率が低かった(あるいは前年に比べて下がった)という場合、当然のことながらそれは反対行使が一定程度あった(あるいは前年に比べて増加した)ことを意味します。特定の大株主の反対の影響が大きい場合もあれば、多数の株主による反対の積み上がりの結果の場合もありますが、いずれにしても、来年に向けて本年総会の議決権行使結果を分析しておくことは重要です。

本稿では、本年6月に開催された東証プライム市場上場企業の定時株主総会を対象とし、剰余金処分議案、定款変更議案、役員選任議案について、低賛成率となった議案の背景等を解説します。

剰余金処分議案
(賛成率が低位となる主なケース)
・計算書類の監査が未了である
配当性向総還元性向が低く、ROEも低い
・キャッシュリッチ企業であるにもかかわらず、配当性向/総還元性向が高水準でない


配当性向 : 当期純利益に占める「配当金」の割合(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

本年の剰余金処分議案で賛成率が最も低かったのはDTSの議案(賛成率66.27%)でした。同社の海外子会社において調査を要する取引が発生し、これにより会計監査人の監査が株主総会時点で未了であったことが主な反対理由であると考えられます。同社以外にも、計算書類の監査が完了していないことが剰余金処分議案の賛成率低下につながったとみられる事例が数件確認されています。

ただし、これらは特殊事例であり、一般的に剰余金処分議案の賛成率に影響する要素としては、配当性向や総還元性向、ROE、自己資本比率とネットキャッシュ水準などが挙げられます。たとえば日興アセットマネジメントは、「過去3期連続でROEが8%未満」で、総還元性向が30%未満の場合は剰余金処分議案に反対するとしています。さらに、「キャッシュリッチ企業」については、「過去3期連続でROEが8%未満」で、総還元性向40%未満の場合は反対と、より基準が厳しくなっています。なお、キャッシュリッチ企業とは、「ネットキャッシュ/総資産が30%以上、かつ、自己資本比率が50%以上」の企業を指します。このように国内機関投資家においては、配当性向や総還元性向とROEの組み合わせによる定量基準を設定し、さらにキャッシュリッチあるいは自己資本比率が高いなど財務的に余裕があるとみなされる企業に対しては、より高い還元水準を求めるという考え方が主流になりつつあると言えます。


ネットキャッシュ : 現預金−有利子負債(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

また、直近ではROEの水準について厳格化の動きがみられます。たとえば三菱UFJ信託銀行は、「過去3年及び直近のROEが5%未満で、内部留保の必要性が低く、総還元性向が30%未満の場合、原則反対」との基準におけるROEの閾値「5%未満」を本年4月より「8%未満」に引き上げています。また、三井住友トラスト・アセットマネジメントは、「当期ROEがTOPIX構成銘柄全体の上位75%タイル水準未満の場合かつ配当性向30%未満の場合は反対」との基準を「PBRが1倍未満かつ当期ROEがTOPIX構成銘柄の下位50%タイル水準未満、かつ配当性向30%未満の場合は反対」に改定し、あらたに「PBR」の視点を加えています。


%タイル : 「パーセンタイル」と読む。データを小さい順に並べた場合に、例えば小さい方から数えて全体の75%に位置する値を75パーセンタイルという。75パーセンタイルは「第三四分位数」ともいわれる。25パーセンタイルは「第一四分位数」、50パーセンタイルは中央値を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

一方、海外機関投資家の議決権行使に影響を与えることが多い議決権行使助言会社ISSは、「配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する」としています。本年も剰余金処分議案の平均賛成率は97.95%と高い水準にありますが、その背景の一つとして海外機関投資家の反対が限定的であったことが挙げられます。

定款変更議案
(反対の多かった定款変更の内容)
・会計監査人との責任限定契約を可能とする旨の規定新設
・剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の変更

定款変更議案の平均賛成率も98.04%と高い水準でした。個別に見ても、賛成率が80%未満の議案はありませんでした。

定款変更の内容が機関投資家の反対に繋がったと考えられる事例としては、会計監査人との責任限定契約を可能とする旨の規定新設と、剰余金の配当等の決議を株主総会で行っている会社がこれを取締役会に変更(授権)する旨の定款変更が挙げられます。両者ともISSが原則反対推奨のスタンスをとっていることもあり、主に海外機関投資家からの反対が多かったと推測されます。

なお、定款変更議案の平均賛成率(98.04%)は、昨年比で0.35p上昇しています。前述の剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の定款変更や、昨年まで散見されたバーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の定款変更など、機関投資家からの反対を集めることの多い議案の上程が少なかったことが背景の一つと考えられます。


バーチャルオンリー型株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)

取締役・監査役選任(社内役員)
(想定される主な反対理由)
・業績基準(ROE基準)への抵触
・不祥事、株主価値毀損行為
・政策保有株式が多い
・女性役員が不在
・取締役会に占める独立役員の割合が小さい/監査役会に占める独立役員の割合が小さい

本年、社内取締役選任議案の否決事例は、東洋証券における常務取締役の再任の1件のみでした。ただし、同社の他の社内取締役候補者の選任議案も、可決はされたもののその賛成率は50%~51%台にとどまっています。同社によると特定の大株主グループによる保有が3割近くに達しており、その一部の株主から株主提案を受けていることなどを踏まえると、低賛成率の要因として当該大株主グループによる反対の可能性が考えられます。また、同社はこの大株主グループを対象とした買収防衛策を取締役会決議で導入していますが、この買収防衛策が株主総会決議を経ていないことを理由とした取締役選任議案への反対も確認されます。さらに、同社の直近5期のROEは▲1.7%→2.5%→2.3%→8.1%→3.5%と推移しており、業績基準(ROE基準)への抵触も低賛成率の要因になったと考えられます。

ROE基準への抵触が取締役選任議案の賛成率に与えた影響は昨年より増していると考えられます。特にISSがコロナ禍で停止していたROE基準(過去5期平均5%未満かつ直近5%未満で経営トップに反対推奨)を本年2月に復活させたため、海外機関投資家の反対が増加しているようです。また、国内機関投資家は「3期連続で一定の水準を下回った場合、3期以上在任の取締役に反対」などの基準を置くことが多くなっていますが、この「一定の基準」が「5%」のような絶対値ではなく、「プライム市場上場企業の下位1/3」や「同一業種内企業の下位25%」など相対的な基準となっていることもあります。たとえば、2021年3月期はコロナウイルス感染症拡大などもあり全社的にROEが低かったものの、2022年3月期以降回復したことにより、「プライム市場上場企業の下位1/3以上」などのハードルも高くなっていると考えられます。

さらに本年の特徴としては、いわゆる不祥事を理由とした経営トップの賛成率低下が目立ったことが挙げられます。たとえば、宝塚歌劇団におけるパワーハラスメントの問題のあった阪急阪神HDの経営トップの賛成率は57.45%にとどまりました。

そのほかの取締役選任議案への反対理由としては、過大な政策保有株式、女性取締役の不足、独立社外取締役の不足などが挙げられます。ただし、女性取締役の不足や独立社外取締役の不足が低賛成率の主因となった事例は昨年に比べて減少しています。機関投資家が一般的に求める「1名以上の女性取締役」や「1/3以上の独立社外取締役」といった水準をクリアする企業が多くなったためと考えられます。

なお、社内監査役の選任議案に対する機関投資家の反対は限定的ですが、監査役会に占める独立社外監査役の不足を理由として反対票が投じられることがあります。たとえば、議決権行使助言会社グラスルイスは、監査役会に対して「過半数」の独立社外監査役の選任を求めています。また、独自に同様の基準を設定する機関投資家も一定程度みられます。「社内2名・社外2名・計4名の監査役会」など、独立社外監査役が過半数に達していない体制の場合には注意が必要です。

取締役・監査役選任(社外役員)
(想定される主な反対理由)
・在任期間が長い
・取締役会への出席率が低い
・取引先や大株主出身者である

社外取締役・社外監査役とも賛成率が最も低かったのは東洋証券の議案でした(社外取締役3名の賛成率はいずれも50%台、社外監査役1名の賛成率は52.81%)。前述のとおり、特定の大株主による反対の影響が大きいと想定されますが、たとえば三井住友トラスト・アセットマネジメントは、「業績基準」や「防衛策基準」への抵触を社外取締役に対する反対理由として開示しています。社内取締役選任議案に対する反対理由として紹介した政策保有株式基準やジェンダー基準なども、投資家によっては社外取締役に対しても適用していることがあります。

東洋証券の議案に次いで賛成率が低かったのは日本化薬の社外取締役選任議案(54.23%)でした。社外取締役の在任期間が8年、社外監査役としての在任期間が20年と長期にわたっていることが反対の要因と考えられます。

その他の反対要因としては、取締役会への出席率の低さ(75%未満で反対等)や、大株主、取引先、政策保有先出身などで独立性が否認されるケースなどが挙げられます。

来年の株主総会に向けて

機関投資家による議決権行使結果の開示の充実化が進み、議案に対する賛否のみならず、反対の理由も、企業は容易に確認できるようになりました。自社の大株主である機関投資家の開示についてはひととおり確認しておくべきと言えます。

そして機関投資家の反対理由が確認できた場合には、単に議案の賛成率の低下要因と捉えるだけにとどまらず、「自社の経営に対する不満の表れではないか」との視点で検討してみるべきでしょう。たとえば、剰余金処分議案への反対があれば、「アクティビストによる増配要求の可能性はないだろうか」などと考えてみることも有用かもしれません。

その際に重要になるのはやはり株主との対話です。議案に反対した投資家だけでなく、賛成した投資家であっても、「基準に抵触しなかったので賛成したが、貴社の配当政策には見直しの余地があると思う」などの意見が出てくるかもしれません。

自社の株主総会議案に対する議決権行使結果を分析し、株主との対話を進めていくことは、来年の株主総会に向けた活動の第一歩になるでしょう。

2024/09/10 東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえた今後の施策を公表、上場企業数の減少も厭わず

東証が2023年3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請してから1年半近くが経過した2024年8月30日、『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の施策について』(以下、今後の施策)と題する文書が公表された。これは、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」で各社の対応状況を踏まえ“次の一手”について議論し、取りまとめられたもの。

同文書ではまず、2024年7月末時点の対応状況が説明されているが、それによると、プライム市場上場企業の84%、スタンダード市場上場企業の44%が対応を「開示済(検討中を含む)」となっている(「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2024年7⽉末時点)2ページ参照)。当フォーラムでは東証が2024年1月15日に2023年12⽉末時点の開示状況を公表して以来毎月更新している「開示企業一覧表」を継続的にチェックしているが、プライム市場上場企業の2023年12⽉末時点と2024年7月末時点の開示状況を比較すると、「開示済(検討中を除く)」の企業は一覧表スタート時からほぼ倍増し、「非掲載」の企業は3割未満まで減少しているものの、依然として「検討中」の企業も一定割合が存在していることが分かる。

開示状況 2023/12末時点 2024/7末時点
開示済(検討中を除く) 39.8% 78.3%
検討中 9.4% 7.5%
非掲載 50.8% 14.2%

こうしたなか東証は、「開示済(検討中を含む)」の企業を・・・

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2024/09/10 東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を踏まえた今後の施策を公表、上場企業数の減少も厭わず(会員限定)

東証が2023年3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請してから1年半近くが経過した2024年8月30日、『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の施策について』(以下、今後の施策)と題する文書が公表された。これは、「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」で各社の対応状況を踏まえ“次の一手”について議論し、取りまとめられたもの。

同文書ではまず、2024年7月末時点の対応状況が説明されているが、それによると、プライム市場上場企業の84%、スタンダード市場上場企業の44%が対応を「開示済(検討中を含む)」となっている(「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示状況(2024年7月末時点)2ページ参照)。当フォーラムでは東証が2024年1月15日に2023年12月末時点の開示状況を公表して以来毎月更新している「開示企業一覧表」を継続的にチェックしているが、プライム市場上場企業の2023年12月末時点と2024年7月末時点の開示状況を比較すると、「開示済(検討中を除く)」の企業は一覧表スタート時からほぼ倍増し、「非掲載」の企業は3割未満まで減少しているものの、依然として「検討中」の企業も一定割合が存在していることが分かる。

開示状況 2023/12末時点 2024/7末時点
開示済(検討中を除く) 39.8% 78.3%
検討中 9.4% 7.5%
非掲載 50.8% 14.2%

こうしたなか東証は、「開示済(検討中を含む)」の企業を①自律的に取組みを進める企業、②今後の改善が期待される企業に分け、施策を講じていく方針を打ち出している(今後の施策3ページ参照)。具体的には、同時に公表された「投資家等へのヒアリング結果」において国内機関投資家やコンサルなどによる以下の意見が紹介されており(3ページの<注力すべき企業群>の一番上の●参照)、これが今後の東証の基本的なスタンスになると見られる。

自律的に取組みを進める企業群①には引き続き後押しをしていくことでよい。要請から1年以上が経過しても開示を行わない企業群③の企業に注力していくのではなく、企業群②を重点的なターゲットとすべき。

では、「重点的なターゲット」となる②の企業群に改善が期待される課題とは何だろうか。今後の施策では、課題として「投資者との目線にズレがあること」と「投資者とのコミュニケーションを十分に行えていないこと」を挙げている(3ページ参照)。より具体的には、投資家等へのヒアリング結果における、これらの2点に対応したコメントが参考になる。下表は機関投資家等のヒアリング結果から抜粋したもの(4~5ページ参照)。自社が①自律的に取組みを進める企業、あるいは②今後の改善が期待される企業のいずれに該当するかの判断にも活用したい。

投資者との目線のズレ ROE目標があまりに低く設定されるなど、目標設定の水準に違和感を感じる。
資本コストを内部で低めに見積もり、それを超えているから良しとしているのではないか。
・相当先の年度でROE8%の目標を設定しているなど、目標設定の時間軸に問題を感じる。
・不採算事業について収益性を改善するという戦略ばかりで、撤退も含めた抜本的な事業ポートフォリオの見直しにつなげられていない。
・収益性が資本コストを下回っているのに、撤退しないという判断は説得力がない。
・将来的に収益を生み出していくための事業ポートフォリオの見直しが行われず、目先の株主還元のみに終始してしまっている。
・政策保有株を売却して得た資金を何に振り向けていくかを開示していない。
・過去の中期経営計画を引用しているのみの表面的な開示を行う企業について問題視している。
投資者との
コミュニケーションが不十分
・投資者から指摘されることを恐れて開示が遅れたり、開示の内容が不十分なものとなっている。
・投資者とコミュニケーションを取ろうとせず、取組みがブラッシュアップされないままとなっている。
・時間をかけて真摯に取り組んでいるものの、投資者との接点がない企業もいる。


ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

一方、③開示に至っていない企業については、そもそもIR体制が未整備であること、支配株主の存在により市場の圧力を感じにくいこと、といった問題が指摘されている。③に該当する企業に対し、投資家等へのヒアリング結果では、「開示の義務付けが必要」との意見(10ページ参照)も見られるが、今後の施策においては「非公開化という経営判断が増加することも想定されるが、そうした判断も尊重」するという東証の方針(2ページ参照)も示されている。この方針は、上場企業数の減少を厭わず厳しい施策が講じようという東証の強い意思の表れと言えそうだ。

2024/09/09 株高で政策保有株式の割合が上昇、ISS等の基準に抵触も

日本企業を巡るコーポレートガバナンス議論において、政策保有株式は引き続きメインイシューとなっている。例えば、アジア市場に投資するグローバルな機関投資家の団体であるアジア・コーポレート・ガバナンス協会(The Asian Corporate Governance Association=ACGA)は2024 年4月26日、公開書簡「日本企業の政策保有株式に関する提言」により日本企業に対し「政策保有株式ゼロ」を提唱している。

ただ近年、日本の上場会社は政策保有株式の削減を進めてきている。そこで当フォーラムでは、2024年6月株主総会後の有価証券報告書に基づきプライム市場上場会社における政策保有株式の保有状況を調査し、グローバルな機関投資家による批判は正当なものか、検証した。・・・

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2024/09/09 株高で政策保有株式の割合が上昇、ISS等の基準に抵触も(会員限定)

日本企業を巡るコーポレートガバナンス議論において、政策保有株式は引き続きメインイシューとなっている。例えば、アジア市場に投資するグローバルな機関投資家の団体であるアジア・コーポレート・ガバナンス協会(The Asian Corporate Governance Association=ACGA)は2024 年4月26日、公開書簡「日本企業の政策保有株式に関する提言」により日本企業に対し「政策保有株式ゼロ」を提唱している。

ただ近年、日本の上場会社は政策保有株式の削減を進めてきている。そこで当フォーラムでは、2024年6月株主総会後の有価証券報告書に基づきプライム市場上場会社における政策保有株式の保有状況を調査し、グローバルな機関投資家による批判は正当なものか、検証した。

2024年8月4日時点のプライム市場上場会社1,655社における「純資産に対する政策保有株式(貸借対照表計上額)およびみなし保有株式の割合」の単純平均値を算出したところ8.4%と、前年度の7.7%より増加していた。議決権行使助言会社最大手ISSの基準である20%、準大手グラスルイスの10%に抵触(取締役選任議案に反対)する社数および割合も、前年度と比較して増加していることが分かった。来年度の議決権行使における影響が懸念される。株価上昇による影響も大きいと考えられるものの、未だに20%以上が1割強、10%以上が3割弱に達する状況は、グローバルな資本市場においては“異常”と認識されてもやむを得ないだろう。


みなし保有株式 : 企業が所有権を持たないものの、議決権行使権限やその指図権限を留保している上場株式のこと。具体的には、信託契約やその他の契約、法律上の規定に基づいて、株主として議決権を行使する権限を持つ株式であり、例えば、企業が信託契約を通じて株式を保有している場合、その株式の議決権を行使する権限が企業にあれば、その株式はみなし保有株式とされる。

純資産に占める割合 2023年度 2022年度
20%以上 184社(11.1%) 163社(9.1%)
10%以上 495社(29.7%) 469社(26.2%)

次に、東証が上場会社を分類している33の業種別に、対純資産比率の平均値を調査したところ、20%以上は3業種、10%以上は13業種だった。保険業および金融業の平均値が目立って高く、倉庫・運輸関連業も高水準となっている。平均値が高い業界は必然的に投資家の批判的に晒されやすくなるが、平均値が低い業界に所属していても自社の平均値が高い場合、やはり投資家の目にとまるリスクは想定すべきだろう。

業種 社数 平均
保険業 9社 27.8%
銀行業 68社 23.4%
倉庫・運輸関連業 13社 22.8%
パルプ・紙 10社 14.4%
建設業 76社 14.1%
鉱業 5社 12.7%
繊維製品 21社 12.6%
医薬品 34社 11.1%
ガラス・土石製品 23社 10.8%
食料品 70社 10.8%
ゴム製品 11社 10.5%
卸売業 124社 10.2%
陸運業 39社 10.1%

さらに、個社別の保有割合も調査したところ、下表のとおりの結果となった。トップの住友ファーマは業績悪化により純資産が減少し、9番目のメガチップスは持分法適用の対象から外れた関係会社があった、など個社ごとの事情も存在するが、いずれにせよ政策保有株式が純資産の半分以上を占める水準は投資家としては看過しがたいはずだ。このような上場会社は、縮減の方針を明確に説明するなどの対応が求められよう。


持分法 : 持分法とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう。一行連結とも言われる。持分法は非連結子会社や関連会社に対して適用される。また、関連会社の判定は、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができるかどうか(影響力基準)という観点から行われる。なお、関連会社であっても、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができる。よって、持分法適用関連会社とは、持分法を適用する関連会社を指す。

社名 業種 2023年度 2022年度
住友ファーマ 医薬品 103% 32%
京都FG 銀行業 98% 94%
ベステラ 建設業 95% 100%
MS&AD 保険業 86% 90%
TBSHD 情報・通信業 82% 64%
安田倉 倉庫・運輸関連業 71% 59%
東京海上 保険業 70% 68%
百五銀 銀行業 69% 54%
メガチップス 電気機器 68% 13%
SOMPO 保険業 68% 76%
名糖産 食料品 66% 59%
八十二 銀行業 62% 53%
日本高純度 化学 61% 56%
住友倉 倉庫・運輸関連業 58% 46%
滋賀銀 銀行業 54% 55%
三井住友トラ 銀行業 54% 52%
ソーダニッカ 卸売業 53% 47%
名古屋銀 銀行業 53% 52%
戸田建 建設業 51% 49%
いよぎんHD 銀行業 51% 51%