2024/09/06 「企業買収における行動指針」が影響力を持つようになった背景

周知のとおり、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は8月19日、カナダのコンビニエンスストア大手のアリマンタシォン・クシュタールから「内密に法的拘束力のない初期的な買収提案を受けた」と発表している。対するアリマンタシォンも、「拘束力のない友好的な提案を先ごろ提出した」と発表、双方が合意できるように注力しているとした。

1980年にカナダのケベック州でコンビニエンスストア1号店を出し創業したアリマンタシォンは、これまで買収を繰り返して規模を拡大してきた。2003年には総額8億380万ドル(約1200億円)を投じて「サークルK」を買収、米国への本格進出を果たした。2012年にはスカンジナビアのコンビニを買収し、欧州にも進出。北米や欧州など31カ国・地域に店舗を展開し、その数は1万6,000店を超える。

店舗数の多さのみならず、売上高も約10兆円におよぶアリマンタシォンだが、それを上回る売上高11兆円超のセブン&アイをターゲットにしたことに対しては、小売業界のみならずM&A関係者から「本当に買えるのか」「買収資金はどう手当てするのか」「円安で今後は日本企業が相次いで買収のターゲットにされるのではないか」といった声が上がっている。また、アリマンタションが過去に仏カルフールに買収を仕掛けた際、仏政府の反対を受けて断念したことから、「経済安保の観点から日本政府も反対するのではないか」と予想する声もある。

このように様々な論点がある今回の買収劇だが、なかでも注目されるのはセブン&アイの対応だ。セブン&アイは、提案を受けた直後、すぐさま取締役会議長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏を委員長とした独立社外取締役だけの特別委員会を立ち上げている。アリマンタシォンに「買収提案を受け入れるか回答する」と表明したのも、委員会の答申を踏まえたものだ。実はアリマンタシォンは、4年前の2020年にもセブン&アイに対し買収提案を行っている。関係者によれば、・・・

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2024/09/06 「企業買収における行動指針」が影響力を持つようになった背景(会員限定)

周知のとおり、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は8月19日、カナダのコンビニエンスストア大手のアリマンタシォン・クシュタールから「内密に法的拘束力のない初期的な買収提案を受けた」と発表している。対するアリマンタシォンも、「拘束力のない友好的な提案を先ごろ提出した」と発表、双方が合意できるように注力しているとした。

1980年にカナダのケベック州でコンビニエンスストア1号店を出し創業したアリマンタシォンは、これまで買収を繰り返して規模を拡大してきた。2003年には総額8億380万ドル(約1200億円)を投じて「サークルK」を買収、米国への本格進出を果たした。2012年にはスカンジナビアのコンビニを買収し、欧州にも進出。北米や欧州など31カ国・地域に店舗を展開し、その数は1万6,000店を超える。

店舗数の多さのみならず、売上高も約10兆円におよぶアリマンタシォンだが、それを上回る売上高11兆円超のセブン&アイをターゲットにしたことに対しては、小売業界のみならずM&A関係者から「本当に買えるのか」「買収資金はどう手当てするのか」「円安で今後は日本企業が相次いで買収のターゲットにされるのではないか」といった声が上がっている。また、アリマンタションが過去に仏カルフールに買収を仕掛けた際、仏政府の反対を受けて断念したことから、「経済安保の観点から日本政府も反対するのではないか」と予想する声もある。

このように様々な論点がある今回の買収劇だが、なかでも注目されるのはセブン&アイの対応だ。セブン&アイは、提案を受けた直後、すぐさま取締役会議長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏を委員長とした独立社外取締役だけの特別委員会を立ち上げている。アリマンタシォンに「買収提案を受け入れるか回答する」と表明したのも、委員会の答申を踏まえたものだ。実はアリマンタシォンは、4年前の2020年にもセブン&アイに対し買収提案を行っている。関係者によれば、この時は創業家である伊藤家にも株式の譲渡を依頼していた模様。しかし、当時の交渉はすべて水面下で行われ、提案したこと自体も明らかにされなかったため表沙汰になることはなかった。それが今回、セブン&アイはガラス張りの対応を見せているわけだ。

その背景にあるのは、2023年8月31日に経済産業省の「公正な買収の在り方に関する研究会」が公表した「企業買収における行動指針」である。それまでもM&Aに関する指針はあったが、「買収防衛策」に関するものや「MBOおよび従属会社の買収」に関するものなど範囲が限定的だった(詳細は2023年6月19日のニュース「買収に関する公正なルール形成に向け示された指針案のポイント」参照)。一方、新たな指針は上場企業の買収全般を対象とし、買収提案を巡る一連の対応のあり方も明示するなど日本初の包括的なM&A指針と言える。指針は、「真摯な買収提案(望ましい買収提案)」を受けた対象企業に「真摯な検討」を行うよう要請しており、買収提案を放置したり経営陣が保身を図る目的で買収防衛策を発動したりすることを認めていない。つまり、セブン&アイは、前回の提案以降に定められたこの指針に従わざるを得なかったというわけだ。


MBO : 経営者による企業買収

セブン&アイだけではない。2023年に起きたニデックによるTAKISAWA買収劇でも、当初は買収提案に反発していたTAKISAWAは程なく指針に則って議論し、最終的にはニデックの提案に同意せざるを得なくなってしまった。また、最近アクティビストの3Dインベストメントから株主の非公開化を前提にした株主提案を受けた東北新社も、やはり指針に則り特別委員会を設置して対応している。

とはいえ、指針は原則論およびベストプラクティスを提示しているにすぎず、法規制ではなく「ソフトロー」との位置付づけになる。それにもかかわらずこれほどの影響力を持つのは、企業のガバナンスが強化されたほか、持ち合いの減少で株主の意見が反映されるようになり、機関投資家の目も厳しくなっているためだ。真摯な買収提案に向き合わなければ、善管注意義務を負う独立社外取締役や株主から反発を食らい、仮に適切なプロセスを経ずに提案を拒絶したことが明らかになれば、同意なきTOBに発展した場合に株主の賛同を得づらくなるだろう。また、株主の議決権行使によって会社側の取締役選任議案が否決されるような事態に陥ることも想定される。こうした事態を招かないために、企業は指針に従い始めているということだ。

今後、セブン&アイのような買収案件が増えていくことは間違いない。提案を受けた企業は指針に則った対応を迫られることを肝に銘じておく必要がある。

2024/09/05 ストックオプション・プールがスタート、税制適格ストックオプションとして付与可能

産業競争力強化法が改正され、会社法の特例として募集新株予約権の機動的な発行が可能になる「ストックオプション・プール」制度が2024年9月2日からスタートした。
(関連ニュース)
2024年7月25日のニュース『ストックオプション・プール導入で、CVCの投資先から「法人」としてストックオプションの付与を受けることも可能に
2024年3月12日のニュース『「ストックオプション・プール」創設へ 上場を目指す子会社やCVCの投資先で活用も


産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。

ストックオプション・プール制度を会社法の規定と比較すると下図のとおり(経済産業省のウェブサイトに掲載された制度概要資料より引用)。赤字部分がストックオプション・プール制度に設けられた会社法の例外規定であり、取締役会への委任事項が増え、委任可能期間も「1年間」から「会社設立後最大15年間」に延長されている。

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経済産業省は、・・・

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2024/09/05 ストックオプション・プールがスタート、税制適格ストックオプションとして付与可能(会員限定)

産業競争力強化法が改正され、会社法の特例として募集新株予約権の機動的な発行が可能になる「ストックオプション・プール」制度が2024年9月2日からスタートした。
(関連ニュース)
2024年7月25日のニュース『ストックオプション・プール導入で、CVCの投資先から「法人」としてストックオプションの付与を受けることも可能に
2024年3月12日のニュース『「ストックオプション・プール」創設へ 上場を目指す子会社やCVCの投資先で活用も


産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。

ストックオプション・プール制度を会社法の規定と比較すると下図のとおり(経済産業省のウェブサイトに掲載された制度概要資料より引用)。赤字部分がストックオプション・プール制度に設けられた会社法の例外規定であり、取締役会への委任事項が増え、委任可能期間も「1年間」から「会社設立後最大15年間」に延長されている。

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経済産業省は、改正産業競争力法の施行日である9月2日から同省のウェブサイトでストックオプション・プール制度の告知を開始している。これにより新たに明らかとなった事項を中心に解説しよう。

まず、経済産業省への事前相談前の自主チェック用に、同省は下記のフローチャートを提供している(同省のウェブサイトより引用)。1つでもNO(赤字)があれば制度の利用を申請することができないので、事前相談に先立ち、制度の適用要件を満たすか確認しておく必要がある。

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事前相談から経済産業大臣および法務大臣による確認書の交付を受けるまでのスケジュールは、以下のとおり最短でも概ね2か月となっている(経済産業省のウェブサイトより引用)。

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経済産業省は、事前相談の段階で申請書の修正に期間を要する可能性を踏まえてスケジュールを立てるよう呼び掛けている。特にスケジュールに注意しなければならないのが、設立()から15年に近付いている会社だ。両大臣の確認書に有効期限は設けられていないものの、新株予約権の割当日は「設立日以後15年未満」の日でなければならない。

* 「設立」の日とは、当該会社が成立した日(登記事項証明書に記載されている会社成立の年月日)を指す。

しかも、実際には会社設立後「15年」ではなく「14年」で判断する必要がある。というのも、冒頭の図のとおり、ストックオプション・プール制度では、募集新株予約権の募集事項の決定を株主総会から取締役会に委任することが可能な期間が、会社法上の「1年」から「会社設立後15年」に延長されているため。すなわち、会社を設立してから既に14年を経過している会社は委任可能期限まで1年を切っており、同制度による委任可能期限の延長の効果を享受できない(会社法の適用を受ける場合と変わらず、同制度の適用を受けるメリットがない)ということだ。

特例委任決議(産業競争力強化法21条の19第1項の規定により読み替えて適用する会社法239条1項の決議。すなわち、ストックオプション・プール制度に基づき取締役会へ委任する株主総会決議)は複数回行ってもよく、特例委任決議ごとに両大臣の確認を受け直す必要はない(両大臣の確認は最初の1回だけでよい。Q&AのQ1-3を参照)。

特例委任決議の委任により取締役会で新株予約権の募集事項の決定をした場合、新株予約権を「産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関する省令」(以下、省令)の第1条第2号イからハまでに掲げる者()以外に割り当てることはできないとされている(Q&AのQ3-7を参照)。仮にこれらの者以外に新株予約権を割り当てる必要が生じた場合には、ストックオプション・プール制度ではなく会社法のルールに従い、改めて株主総会の決議からやり直す必要がある。

 イ 当該株式会社又はその子会社の会社役員
  ロ 当該株式会社又はその子会社の使用人
  ハ 当該株式会社に対して役務を提供する者(イ及びロに掲げる者を除く)

また、ストックオプション・プール制度の導入が決まった時点から注目を集めていたのが、ストックオプション・プール制度により付与された新株予約権が税制適格ストックオプションに該当し得るのか、という点だ。経済産業省はQ&AのQ7で「特例委任決議等によって発行された募集新株予約権であっても、税制適格ストックオプションとしての要件を満たしている限り、ストックオプション税制を活用することができます。」と明記している。税務の取扱いが示されたことで、ストックオプション・プール制度の普及に弾みがつきそうだ。


税制適格ストックオプション : 税法が求める要件を満たすことで、権利行使によって株式を購入した時点で生じている含み益(株式の購入価格-ストックオプションの発行費用)への課税が、実際に株式を売却する時点まで繰り延べられる(=株式を購入した時点で課税されない)ストックオプションのこと。具体的な要件としては、無償発行、権利行使期間が「株主総会での発行決議の2年後~15年後までの最大13年間」、行使価格が発行時の時価以上、権利行使金額が「最大で年間3,600万円まで」などがある。









2024/09/04 ステマ規制第2号案件から学ぶべきこと

周知のとおり、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す手法を「ステルスマーケティング」(以下、ステマ)と言う。ステマの代表的な手口は次のとおり。


ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。

消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」5ページより引用)
例えば、広告主の依頼であるにもかかわらず、
・有名人が商品・サービスと一緒に取った写真を広告であると明示せずに宣伝すること
・商品・サービスについて、広告である旨明示せず、「よかった」や「おすすめ」といった感想の体裁をとって、SNS等に投稿すること
・インターネット上の記事に広告である旨を明示しないこと
・商品・サービスの比較ランキングに広告である旨を明示しないこと
・ECサイト上において、広告である旨を明示せず、商品・サービスの使用感等のレビューをすること

ステマの広告効果は、広告代理店に『「広告」である旨明示されていない広告(純粋な感想や口コミと思わせる広告)の方が一般消費者を誘引し、売上につながることは多い』『ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、「広告」である旨明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという体感を持っている』と言わしめるほど高い(消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」21ページより引用)。ステマの広告効果の高さに加え、最近はネットショッピングやSNSの普及に伴い、ECサイトのレビュー欄やインフルエンサーのInstagramを通じた口コミマーケティングの有効性が認識されるようになったことも、B2Cにおいてステマがはびこる一因となっている。


インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物

日本にはステマを規制する法律がなかったため、長いこと“ステマ天国”と揶揄されてきたが、ようやく昨年(2023年)10月、景品表示法の規制対象に「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」としてステマが加えられ(ステマが景品表示法の規制対象となった経緯については2023年1月17日のニュース「“ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩まずは広告主を告示で規制」を参照)、今年(2024年)の6月7日にはステマ規制の適用第1号事案が公表されるに至った(ステマ規制第1号事案の詳細は2024年6月18日のニュース「ステマ規制に措置命令、第1号事案から読み解く規制内容」を参照)。

第1号事案の公表から約2か月後の8月9日、ステマ規制第2号事案として公表されたのが、・・・

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2024/09/04 ステマ規制第2号案件から学ぶべきこと(会員限定)

周知のとおり、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す手法を「ステルスマーケティング」(以下、ステマ)と言う。ステマの代表的な手口は次のとおり。


ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。

消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」5ページより引用)
例えば、広告主の依頼であるにもかかわらず、
・有名人が商品・サービスと一緒に取った写真を広告であると明示せずに宣伝すること
・商品・サービスについて、広告である旨明示せず、「よかった」や「おすすめ」といった感想の体裁をとって、SNS等に投稿すること
・インターネット上の記事に広告である旨を明示しないこと
・商品・サービスの比較ランキングに広告である旨を明示しないこと
・ECサイト上において、広告である旨を明示せず、商品・サービスの使用感等のレビューをすること

ステマの広告効果は、広告代理店に『「広告」である旨明示されていない広告(純粋な感想や口コミと思わせる広告)の方が一般消費者を誘引し、売上につながることは多い』『ステルスマーケティングの売上に対する効果は高く、「広告」である旨明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという体感を持っている』と言わしめるほど高い(消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」21ページより引用)。ステマの広告効果の高さに加え、最近はネットショッピングやSNSの普及に伴い、ECサイトのレビュー欄やインフルエンサーのInstagramを通じた口コミマーケティングの有効性が認識されるようになったことも、B2Cにおいてステマがはびこる一因となっている。


インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物

日本にはステマを規制する法律がなかったため、長いこと“ステマ天国”と揶揄されてきたが、ようやく昨年(2023年)10月、景品表示法の規制対象に「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」としてステマが加えられ(ステマが景品表示法の規制対象となった経緯については2023年1月17日のニュース「“ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩まずは広告主を告示で規制」を参照)、今年(2024年)の6月7日にはステマ規制の適用第1号事案が公表されるに至った(ステマ規制第1号事案の詳細は2024年6月18日のニュース「ステマ規制に措置命令、第1号事案から読み解く規制内容」を参照)。

第1号事案の公表から約2か月後の8月9日、ステマ規制第2号事案として公表されたのが、RIZAPグループ(札証アンビシャス市場上場)の子会社RIZAPが運営する「chocoZAP」の自社ウェブサイトにおける広告だ。消費者庁が認定した事実によると、RIZAPは自社の「chocoZAP」サイトで第三者(インフルエンサー)のInstagramにおける「chocoZAP」についての投稿(下記)を紹介していた。

「気になっていた『chocoZAP』ついに入会しちゃった」
「なんと完全個室のセルフ脱毛が使い放題!!←これにかなり惹かれた感ある」
「しかも服装自由・シューズの履き替え不要で来たままの服装でメチャクチャ気軽に通える!」

これらの投稿は、「chocoZAP」のウェブサイトでは、「SNSでも話題!絶賛の口コミ続々」との表示とともに、あたかもRIZAPとは利害関係がない第三者がInstagramで行った「chocoZAP」についての投稿を紹介しているかのように見える作りとなっていた。しかし、実は当該投稿はRIZAPがインフルエンサーに対しInstagramへの投稿を有償で依頼したものだった。そして、RIZAPは自社ウェブサイトでの当該投稿の紹介にあたり、当該投稿はRIZAPが依頼したものであるという重要な事実を明示していなかった。

これに対して消費者庁は、「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない」ことから、景品表示法のステマ規制違反と認定し、「景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること」「再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること」「今後、同様の表示を行わないこと」という内容の措置命令を行っている。


措置命令 : 法律に規定する措置をとるよう命じる行政処分

RIZAPグループは「自社媒体であるウェブサイト上の表示であることから、一般消費者にとって当該表示内容が弊社の広告であることは判別できるものと考えていた」と弁明しているが(RIZAPグループのリリースより引用)、この弁明の意図するところを理解できるかどうかが、ステマ規制の正しい理解につながると言っても過言ではない。上述のとおり、ステマ規制は「事業者の表示」であるにもかかわらず、一般消費者が事業者の表示であることを判別できない場合に適用される。RIZAPもこのステマ規制を踏まえて、インフルエンサーにInstagramへの投稿を依頼する際には、一般消費者にとって広告であることが明確に分かるよう「chocoZAP_official とのタイアップ投稿」という表記(ハッシュタグ)を付けさせている。一方、「自社ウェブサイト」は、第三者のInstagramとは異なり、誰が見ても「事業者の表示」そのものであり、「事業者の表示ではない」と誤解する余地はないため、「自社ウェブサイト」はステマ規制の対象外ではないかというのがRIZAPグループの主張である。「事業者の表示であることを分からない」者などいないはずという点で、Googleマップの口コミ投稿欄が舞台となったステマ規制第1号事案とは決定的に異なるというわけだ。

しかし、このRIZAPグループの主張には無理がある。自社ウェブサイトに「SNSでも話題!絶賛の口コミ続々」との表示とともに、有償で依頼したInstagramへの投稿を「chocoZAP_official とのタイアップ投稿」という表記を削除して紹介すれば、消費者は当然「RIZAPとは関係のない第三者による高評価の投稿がInstagramに実在する」と誤認する(すなわち、当該投稿部分は外形上第三者の表示のように見えるため、消費者からすると当該投稿が事業者の表示だということが分からない)からだ。RIZAPが有償で依頼したInstagramへの投稿を自社ウェブサイトで紹介することはRIZAPの自作自演に過ぎず、その際に「chocoZAP_official とのタイアップ投稿」という表記を削除して紹介することは自作自演の隠匿であり、消費者を欺く行為に他ならない。「事業者の表示」そのものであるはずの「自社ウェブサイト」での表記であっても、消費者が事業者の表示であると判別できない状況になり得るということだ。


ハッシュタグ : Instagramで写真や動画を投稿する際に追加する関連キーワードのこと。Instagramのユーザーはハッシュタグを使って他のユーザーの投稿を検索できる。

結局、RIZAPグループは、消費者庁による「表示内容全体から一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められない」旨の指摘を受け入れ、「今回消費者庁から指摘を受けた表示物に関しては、誤認を与える可能性があったことを認め、修正・改善が必要なものと捉えており、現時点で該当表示物を削除、修正しております。」とのコメントを公表している。

自社ウェブサイトに「お客様の声」としてSNS上の反響を引用しているB2Cの上場会社(子会社を含む)は少なくない。ステマ規制が開始された2023年10月より前にサイトに掲載した「お客様の声」であっても、ステマ規制開始後も掲載し続けていれば、ステマ規制の対象となる。RIZAPグループの二の舞とならないよう、自社ウェブサイトの「お客様の声」での引用がステマ規制に抵触していないか、改めて確認しておきたい。

2024/09/03 アセットオーナー・プリンシプルが公表 「資金の出し手」に改革迫る

内閣官房に設置された「新しい資本主義実現本部」は(2024年)8月28日、「アセットオーナー・プリンシプル」を公表した。同プリンシプルは岸田内閣が掲げる「資産運用立国実現プラン」(2023年12月)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(2024年6月)でも、今夏を目途に策定するとされていたもので、「新しい資本主義」の総仕上げとして、「資金の出し手」に改革を迫るものとなっている。


新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。

アセットオーナー・プリンシプルの対象は文字どおりアセットオーナーであり、具体的には、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンド、さらには資産運用を行う学校法人などが該当するとしている。同プリンシプルはスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コード同様、コンプライ・オア・エクスプレイン方式を採用しており、同プリンシプルを受け入れる場合でも、全ての原則を実施しなければならないわけではない。また、政府は・・・

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2024/09/03 アセットオーナー・プリンシプルが公表 「資金の出し手」に改革迫る(会員限定)

内閣官房に設置された「新しい資本主義実現本部」は(2024年)8月28日、「アセットオーナー・プリンシプル」を公表した。同プリンシプルは岸田内閣が掲げる「資産運用立国実現プラン」(2023年12月)、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」(2024年6月)でも、今夏を目途に策定するとされていたもので、「新しい資本主義」の総仕上げとして、「資金の出し手」に改革を迫るものとなっている。


新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。

アセットオーナー・プリンシプルの対象は文字どおりアセットオーナーであり、具体的には、公的年金、共済組合、企業年金、保険会社、大学ファンド、さらには資産運用を行う学校法人などが該当するとしている。同プリンシプルはスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コード同様、コンプライ・オア・エクスプレイン方式を採用しており、同プリンシプルを受け入れる場合でも、全ての原則を実施しなければならないわけではない。また、政府は受入状況を一覧にして公表するが、受け入れなくても罰則等はない。

同プリンシプルは5つの原則と15の補充原則から構成されている。5つの原則の概要は以下のとおり。

原則1 受益者の最善の利益を勘案し、「何のために運用を行うのか」という運用目的を達成するため、「具体的に目指すべきリターンや許容できるリスク等といった運用目標」及び「基本ポートフォリオ、リスクに関する考え方や運用資産の範囲等の運用方針」を定め、定期的に検証し、見直す。

原則2 専門的な知見に基づいて行動する。原則1の運用目標・指針に照らして必要な体制を整備、機能させる。そのために、運用担当責任者の設置や必要な監督を行うことも考える。必要な場合には、外部知見の活用や外部委託を検討すべきである。

原則3 受益者の利益の観点から運用方法の選択を適切に行うほか、投資先の分散をはじめリスク管理を適切に行う。運用を金融機関に委託する場合には、利益相反の管理、運用委託先の定期的な見直しを行うべきである。運用委託先の選定は、運用責任者の能力や経験を踏まえ検討するのが望ましいが、新興運用業者を単に業歴が短いことのみをもって排除しないようにすることが重要。

原則4 アセットオーナーは、運用状況の見える化を行い、ステークホルダーとの対話に役立てるべきである。

原則5 アセットオーナーは、自ら又は運用委託先によるスチュワードシップ活動を通じて、投資先企業の持続的成長に資するように必要な工夫をすべきである。スチュワードシップ・コードの受入れ表明も検討すべき。サステナビリティ投資を行うこと、サステナビリティ投資方針の策定やPRI(国連責任投資原則)への署名も考えられる。


PRI : PRIとは「(United Nations=国連)Principles for Responsible Investment」の略で、機関投資家に対し、投資判断プロセスにESGを反映することや、投資対象企業にESGに関する情報開示を求めることなどを提唱するESG投資の世界的なプラットフォーム。PRIに署名した機関投資家は、国連に投資の状況を報告する義務が生じるため、ESGを重視した投資を実践せざるを得ない。

<資産運用立国実現プランにおけるアセットオーナー改革の位置付け>
出典:金融庁「資産運用立国実現プラン(概要)
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岸田内閣は「行き過ぎた資本主義」を是正して「新しい資本主義」を実現するべく、2021年10月の組閣直後に新しい資本主義実現会議を発足させ、インベストメントチェーンの改革を推進してきた。個人投資家を育てるため、持続的な賃金引き上げに向けリーダーシップを発揮するとともに、2022年11月に打ち出した「資産所得倍増プラン」でNISAを爆発的に普及させ、家計に貯蓄から投資への流れを創り出した。投資先となる企業については、2023年4月に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクションプログラム」などを展開し(同アクションプログラムについては2023年4月18日のニュース『コード改訂「3年に1度」のサイクルにとらわれず コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた「アクションプログラム」公表へ』参照)、適切な投資判断ができるよう、開示の充実を図った。


インベストメントチェーン : 受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れのこと。

一方、ESGの評価機関・データ提供機関などによる開示情報のみに基づく野放図なレーティングに歯止めをかけるべく、世界的にも先行して「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を2022年12月に公表(同規範の詳細は2022年11月22日のニュース「速報 ESG評価・データ提供機関の行動規範案の修正事項」参照)。また、ソーシャルインパクトを評価して投資するインパクト投資の普及を図るため、2024年5月には「インパクトコンソーシアム」の設立に漕ぎつけた。インベストメントチェーンの資金の出し手に対しては、「インベスト・イン・キシダ」と呼びかけ、海外の機関投資家を日本に招く岸田首相肝いりのプロジェクトJapan Weeksをスタートさせ、さらに資金の出し手の改革を促進するため、今般のアセットオーナー・プリンシプルを策定した。


ソーシャルインパクト : 社会的・環境的な変化や効果のこと。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。

岸田内閣は、スチュワードシップ・コードの改訂による実質株主の透明化、有価証券報告書の株主総会前開示などにも取り組んでいたが、これらは積み残しとなり、今年のJapan Weeksの今年のコアウィークが始まる9月末に退陣する。成長と分配の同時実現を目指した「新しい資本主義」が根付いたのかどうかは歴史の評価を待つ必要があるが、インベストメントチェーンにまんべんなく改革を求め続けたことで資本市場にポジティブな機運を生み出したことは間違いないだろう。

2024/09/02 【2024年9月の課題】【コーポレートガバナンス改革の実践に向けた対応】

2024年9月の課題

金融庁が2024年6月7日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」が挙げている取り組みについて、自社の現状を踏まえ必要な対応を検討してください。
なお、「アクション・プログラム2024」の内容は、2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」を参照してください。

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2024/08/30 2024年8月度チェックテスト第3問解答画面(不正解)

不正解です。
2023年3月期の有価証券報告書より【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設され、サステナビリティ情報の開示が義務付けられました。2024年3月期はサステナビリティ情報開示の2年目となりますが、企業が2024年3月期の有価証券報告書においてどのようなサステナビリティ上の重要課題を選定しているのか当フォーラムが調査したところ、「ダブル・マテリアリティ」に基づきサステナビリティ上の重要課題を選定している会社は10社(2023年3月期は2社)見受けられました(問題文は誤りです)。

こちらの記事で再確認!
2024年8月7日 ダブル・マテリアリティに基づき有報に記載するサステナビリティ上の重要課題を選定することの問題点(会員限定)