2024/06/24 役員就任挨拶状とともに廃止すべき“虚礼”とは?

3月決算企業の定時株主総会がピークを迎えようとしている。従来、定時株主総会で役員の就退任があれば、上場・非上場を問わず、定時株主総会後に取引先や取引金融機関等に新任役員を含む新役員体制を紹介する挨拶状を書面で郵送する慣行があったが、最近は下表のとおり挨拶状の書面郵送を廃止する企業が増えている。・・・

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2024/06/24 役員就任挨拶状とともに廃止すべき“虚礼”とは?(会員限定)

3月決算企業の定時株主総会がピークを迎えようとしている。従来、定時株主総会で役員の就退任があれば、上場・非上場を問わず、定時株主総会後に取引先や取引金融機関等に新任役員を含む新役員体制を紹介する挨拶状を書面で郵送する慣行があったが、最近は下表のとおり挨拶状の書面郵送を廃止する企業が増えている。

役員就任挨拶状の郵送を廃止した企業の例
リリース年月日 会社名 リリースタイトル
2021年11月12日 ナカバヤシ(東証スタンダード) 年賀状・役員挨拶状廃止のお知らせ
2022年5月1日 ニッポン放送(非上場) 役員挨拶状・年賀状等のご挨拶廃止のお知らせ
2022年6月27日 ロート製薬(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2022年6月29日 日本板硝子(東証プライム) 役員挨拶状・年賀状等のご挨拶廃止のお知らせ
2022年6月29日 三菱マテリアル(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2022年7月10日 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(非上場) 役員挨拶状の廃止のお知らせ
2022年11月1日 荏原製作所(東証プライム) 役員就任の挨拶状および年賀状廃止のお知らせ
2022年11月14日 日本山村硝子(東証スタンダード) 時候のご挨拶状(年賀状・暑中見舞い)廃止
2023年3月17日 コニカミノルタ(東証プライム) 役員改選の挨拶状廃止のお知らせ
2023年5月9日 マックスバリュ東海(東証スタンダード) 役員体制挨拶状廃止のお知らせ
2023年5月24日 リズム(東証プライム) 役員体制挨拶状廃止のお知らせ
2023年6月27日 ダイハツ工業(非上場) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2023年6月28日 山陽特殊製鋼(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2023年6月28日 北海道電力(東証プライム、札証) 役員就任ご挨拶状の廃止について
2023年6月28日 住友大阪セメント 役員改選時のご挨拶状廃止のお知らせ
2023年8月25日 シイエヌエス(東証グロース) 役員就任のお知らせ
2023年9月4日 テクノプロ・ホールディングス(東証プライム) 年賀状・役員就退任挨拶状等の廃止について
2023年9月19日 メディアスホールディングス(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2023年10月18日 コカ・コーラ ボトラーズジャパン(非上場) 役員挨拶状・年賀状等のご挨拶状廃止のお知らせ
2023年11月1日 安藤・間(東証プライム) 役員挨拶状・年賀状等の廃止のお知らせ
2023年11月13日 大日本塗料(東証プライム) 年賀状、役員就任挨拶状および賀詞交歓会廃止のお知らせ
2023年11月30日 沖電気工業(東証プライム) 年賀状および役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年2月28日 日特建設(東証プライム) 役員等就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年3月22日 双信電機(東証スタンダード) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年4月1日 ニチリン(東証スタンダード) 役員就任挨拶状郵送廃止のお知らせおよび役員就任ご挨拶
2024年4月1日 日本取引所グループ(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年4月9日 セーラー万年筆(東証スタンダード) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年5月15日 北の達人コーポレーション(東証プライム) 役員挨拶状廃止のお知らせ
2024年5月22日 シャルレ(東証スタンダード) 役員就退任挨拶状及び年賀状等の廃止について
2024年5月22日 高田工業所(東証スタンダード、福証) 役員就任の挨拶状廃止のお知らせ
2024年5月31日 第一建設工業(東証スタンダード) 年賀状・役員就退任挨拶状等の廃止について
2024年6月3日 日本エンタープライズ(東証スタンダード) 役員就任挨拶状・年賀状等廃止に関するお知らせ
2024年6月3日 シキノハイテック(東証スタンダード) 役員就任挨拶状廃止のお知らせ
2024年6月12日 オリンパス(東証プライム) 役員就任挨拶状廃止について

各社のリリースを分析すると、役員就任挨拶状(企業によって呼び方は「役員挨拶状」「役員改選の挨拶状」「役員体制挨拶状」など様々)の書面郵送廃止の意図や理由は主に、①SDGs(サステナビリティ)の観点から環境負荷を低減させること、②近年の社会的流れ(虚礼廃止)の考慮、③デジタル化推進の取組み、④元々コーポレート・サイトでも新役員体制を開示しているため、書面を廃止しても特段問題は生じないこと、の4つに集約される。


SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、気候変動対策やジェンダーの平等など17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

もちろん、役員就任挨拶状の郵送を廃止することで、印刷代、郵送料だけでなく、送付リストの更新の手間(人件費)など経費の削減効果も期待できる。

リリースの時期は株主総会前後が多い。就任前後は取引先からの注目度も高まることから、役員就任挨拶状の書面郵送廃止のリリースを行うには絶好のタイミングだろう。役員就任挨拶状の郵送を廃止するのであれば、これを機に“虚礼の典型”とも言える取引先への「年賀状」「暑中見舞い」といった時候の挨拶状の送付、取引先への中元・歳暮の贈答、「賀詞交歓会」や年末年始の挨拶回りといったイベントもあわせて廃止することを検討したいところだ(例えば上表の大日本塗料のリリースおよび【役員会 Good&Bad発言集】贈答の禁止 を参照)。また、サステナビリティやデジタル化の推進を掲げるのであれば、株主総会の招集通知の簡素化(フルセット・デリバリーの非採用)や法令上送付が必須とはされていない株主通信や中間株主通信、株主総会決議ご通知といった書類の書面送付も廃止する方が、対外的にも首尾一貫した姿勢を見せることができそうだ。


フルセット・デリバリー : 上場会社が、株主総会資料の電子提供措置と並行して、全株主に対して、株主総会参考書類等のすべてを書面により交付する方法

2024/06/21 【失敗学第120回】日糧製パンの事例(会員限定)

概要

パン・菓子・米飯等の製造および販売等を営む日糧製パン(札証に上場)で、札幌市の月寒(つきさむ)にある工場の製菓部門が自部門の業績を良く見せるため、現場在庫の棚卸数量を過大計上する不正行為を行っていた。2023年3月末時点で過大計上された金額は5,000万円(推計値)を超えていた。

経緯

日糧製パンが2023年7月27日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」によると、一連の経緯は次のとおり。

2019年
4月:日糧製パンの月寒製菓部門では、A部長が和洋菓子部長職に就任して以降、実地棚卸を行った結果を取りまとめたエクセルシートを加工する手法により、現場在庫の棚卸数量を過大計上するようになった。

2022年
4月:日糧製パンの月寒製菓部門では、過大計上した現場在庫数量が実態と大きく乖離するようになり、B課長およびC課長は、実地棚卸に基づき作成された棚卸入力用紙の修正作業に時間を要する状況に陥ったことから、月2回の実地棚卸すら行わないようになった。

2023年
5月8日:日糧製パンの代表取締役社長は、社内関係者とみられる匿名人物から月寒製菓部門の粉飾(棚卸金額の過大計上)を告発する電子メールを受け取った。
5月10日:日糧製パンは2023年3月期の決算発表を延期する旨の適時開示をした。
5月18日:日糧製パンが社内調査を進めたところ、月寒製菓部門における棚卸金額の過大計上の事実が認められたことから、同社の取締役会は、特別調査委員会の設置を決定し、その旨を公表した。
7月27日:日糧製パンは「特別調査委員会の調査報告書」を公表した。

内容・原因・再発防止策

日糧製パンが2023年7月27日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」によると、本件不正(月寒製菓部門における棚卸金額の過大計上)の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。

月寒製菓部門における棚卸金額の過大計上
内容 日糧製パンでは、現場在庫の実地棚卸においては、各ラインの課長、係長、主任を中心として、月中、月末に2度実施するものとしていた。また、日糧製パンでは実地棚卸の結果に基づき算定された「物量差」(同社において標準原価計算のもと原材料のロスを把握するために用いられている指標)を生産管理のKPIにしていた。月寒製菓部門のA部長は、エクセルシート上での物量差の予測値が目標値に達していないときには棚卸入力用紙を生産管理部に提出することを認めず、B課長およびC課長に対して「この数字じゃ駄目だべ」「物量差、この数字では着地できないよ」「0.2%目標値まで下げるように修正しろ」などと申し向け、実態と乖離した現場在庫の棚卸金額を入力させるなどして物量差を再計算させていた。B課長およびC課長は、この棚卸金額に基づき、現場在庫の棚卸数量を過大計上させて、A部長の了解を得て生産管理部に棚卸入力用紙を提出していた。この不正が継続したことで棚卸数量は雪だるま式に増え、過大計上された金額は2023年3月末時点で5,000万円(棚卸をしていないため数量を確定できず推計値に過ぎない)を超えていた。
原因 (動機)
A部長は、上層部からの期待に応えたい、予算を達成したいとの考えから、物量差を操作するために棚卸数量を増やしていた(棚卸数量を実際のものより増やせば、物量差が改善されるという関係にある)。
(部長職による不正指示)
本来は監督すべき立場にあるA部長が自ら不正を指示しており、そのA部長は周囲から物言いがきつく周囲が異を唱えにくい人物であると認識されていた。また、B課長およびC課長も物量差の管理責任を負わされていた。そのため、本件棚卸不正が長期間にわたって発覚しなかった。
(棚卸立会の不実施)
現場在庫の実地棚卸時の立会においては、管理部門や内部監査部門等、生産部門以外の第三者部門による立会がなされていなかった。これは当日の生産終了後でなければ現場在庫の実地棚卸を開始できず、事前に予定を立てにくかったこと、現場で管理保管するスペースに限りがあり、倉庫在庫に比してその量が少ないことを踏まえた取扱いであった。これにより、第三者部門による牽制が効かなくなっていた。
(棚卸時の内部統制の不機能)
現場では実地棚卸時に棚札を使用するようになっていた。棚札は網羅的に回収され、後日の検証を可能にするために保存される必要があったが、棚札の網羅的な回収および棚札の保存期間の順守がなされていなかった。
(物量差の改善に向けた叱責)
日糧製パンでは物量差が有力な生産管理指標と位置付けられており、月1回開催される製造会議では、前月との比較で物量差を捉えることに重点が置かれ、これに基づいて役員や上席者から担当者に対して指導等がなされていた。このような指導を受けた者の中には厳しく叱責されたと受け止める者もいるほどであった。
(実地棚卸の正確性の軽視)
日糧製パンでは、現場製造効率を追い求めた結果、生産ライン現場の実地棚卸の正確性が軽視され、棚卸資産帳簿残高の工場別・生産ライン別等による過去からの推移や対前年同期の金額比較、在庫回転日数による理論在庫値等の各種分析による異常値発見体制が不十分となっていた。
(現場在庫と倉庫在庫の違い)
日糧製パン内では、現場在庫の数量は倉庫在庫に比して少なく、不正が発生する可能性があることの認識が薄い状況にあった。この結果、実地棚卸を全くせず、意図的に事実と異なる棚卸の報告をしても、それが看過されてしまう社内体制になっていた。
(内部通報の不機能)
日糧製パンでは、コンプライアンス委員会のもとに従業員相談窓口が設置されていたが、過大計上がなされている可能性があることを通報・相談する従業員はいなかった。本件棚卸不正発覚の端緒においても、社内関係者から代表取締役社長に対して、直接メールによる通報がなされており、従業員相談窓口が利用されることはなかった。従業員相談窓口は匿名であることを理由にその受付を拒絶するものではなかったが、特別調査委員会によるアンケート調査に対して、「メール等により匿名で通報する手段を用意してもらいたい」といった意見が複数寄せられるとともに、従業員相談窓口を利用することで、周囲に通報したことを知られてしまうことへの危惧感を訴える者もいた。
再発防止策 1 社内でコンセンサスの取れたコンプライアンス意識の確立
2 経営理念の再確認
3 確実な実地棚卸手法の確立
(1) 実地棚卸の意義の教育・指導
(2) 実地棚卸規程等の整備・運用について
(3) 棚卸資産残高の検証と評価について
(4) 内部統制の強化
<この事例から学ぶべきこと>

日糧製パンでは、製造会議では経営陣が「物量差」が悪化した部門の担当者に対して、担当者によっては「叱責」と感じるほどの「指導」を行うなど、生産管理指標の「物量差」に重きを置いた管理が行われていました(不正の動機の存在)。一方で「現場在庫の棚卸立会を行わない」「棚札のコントロールを徹底しない」など棚卸金額・数量の妥当性を確保するための管理が軽視されていました(不正の機会の存在)。その結果、月寒製菓部門では「物量差」をよく見せるように数値を操作することが可能になり、棚卸数量が雪だるま式に膨らむことになりました。このように特定の指標のみをKPIとして偏重している会社はKPIの分散化を行うべきです。なぜなら、単一の指標だけではなく様々な指標を管理対象にすることで不正は起きにくくなるからです。またKPIにしている指標は操作される可能性があるとの前提に立ち、仮に操作するとすれば、どのプロセスで行われるのかについて、「不正シナリオ」を想定した内部統制の構築および内部監査を行うようにすべきです。

棚卸において、棚札(タグ)は第三者部門によって適切にコントロールされる必要があります(タグ・コントロールについてはケーススタディの【経理・財務】棚卸を適正に行いたい を参照してください)。上場会社ではこれを機に次の棚卸に備えて自社の棚札のコントロール状況を点検しておきましょう。

日糧製パンでは内部通報制度が機能していませんでした。仮に内部通報窓口が匿名による通報を拒絶していなくても、面談・電話・書面でしか通報を受け付けないのであれば(すなわち、匿名の私用メールアドレスによる通報を受け付ける体制になっていなければ)、通報者の特定を恐れて通報しづらい状況になってしまいます。上場会社の経営陣は、自社の内部通報制度が通報者にとって利用のハードルが高いものとなっていないかを検証しておくようにしましょう。

2024/06/20 ダインベストメントのジレンマ(会員限定)

欧米、特に欧州の機関投資家は、全ての石油メジャーを含む化石燃料企業の大半をダインベストメント(投資を引き揚げること)するなど、大胆なダインベストメントに踏みきることも少なくない。今年に入ってからは、オランダの大手年金基金PFZWが、化石燃料関連企業310 社の株式(28億ユーロ相当)をすべて売却したことが話題を呼んだところだ。

もっとも、ダインベストメントは投資先企業のレピュテーションへの影響も大きい強力な交渉手段であり、あらゆるタイプの機関投資家にとって“最終手段”となる。通常、まずは投資先企業との間の目的を持ったコミュニケーションであるエンゲージメントを実施し、例えば投資先企業のサステナビリティの観点におけるリスクや機会について協議したうえで、企業価値の向上や持続的成長のために、GHG(温室効果ガス)の排出量の削減計画などを策定し、投資先企業がとるべき行動について提案を行う。エンゲージメントは、投資家と企業の間での個別の面談など非公開の形で行われ、エンゲージメントを重ねても投資先企業が投資家の望む行動をとらない場合には、株主提案や議決権行使などへと行動がエスカレートしていくことになる。投資家が経営陣の意向と異なる議決権を行使することは事前に公表されるケースも多く、これにより投資先企業の取締役会や経営陣に公の場で意見表明を行う。大株主である大手機関投資家のこうした行動は、他の投資家にも影響を及ぼす。

ここまでしても投資先企業において投資家の望む改善が見られない場合には、最終手段として、投資先企業から投資(金融資産)を引き揚げるダインベストメントが行われることになる。投資家にとってのダインベストメントは、投資家が望む改善が見られない企業に投資するリスクを回避するとともに、当該企業の方針に賛成しないことを世に知らしめる効果も意図されているが、ダインベストメントが投資家にとって最良の選択かというと、実はそうとは言えない。例えば脱炭素化を志向する機関投資家であれば、GHGの高排出企業からダインベストメントは、機関投資家のポートフォリオの脱炭素化を進めるためには効率的な手法ではあるが、ダインベストメントを行っても投資先のGHGが削減されるわけではなく、むしろダインベストすることにより、今後は株主として高排出企業に働きかけができなくなるという問題が生じるからだ。

こうした中、機関投資家側でもエンゲージメントやダインベストメントのあり方の多様化が進みつつある。例えば英国の大手運用会社であるSchrodersは、すべての投資先企業に対して同一のスタンスで議決権行使を行うことには批判的であり、各社にとっての長期的な価値向上や最善の対応を考慮したうえで、ケースバイケースの判断を行うとしている。また、気候変動アクティビストのReclaim Financeは、ダインベストメントしてしまえば企業に働きかける手立てを失うデメリットが大きいとして、新たな株式等の購入を停止する一方で、株主としての権力を行使して、エンゲージメントや議決権行使により企業の変革を求めていくべきだと提案している。

金融庁が2023年4月26日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2023」には、「スチュワードシップ活動の実質化」が盛り込まれているが(2024年6月19日のニュース「総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性」参照)、多くの投資先を持つ大手機関投資家は、すべての投資先企業に対し画一的なエンゲージメントやダインベストメントを行うのではなく、各機関投資家が自らのポートフォリオを踏まえて最適な手法を検討していくという方向に向かっていると言えよう。

2024/06/19 総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性

周知のとおり、金融庁は2024年6月7日、コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(7))を公表している。これは2023年4月26日に公表された同意見書(6)「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2023」を引き継ぐものであり(同意見書(6)については2023年4月18日のニュース『コード改訂「3年に1度」のサイクルにとらわれず コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた「アクションプログラム」公表へ』参照)、「実質化」プログラムに基づく施策の成果を踏まえて、さらにコーポレートガバナンスの「実践」を推し進めていくためのプログラムと位置付けられる。

アクション・プログラム2024は「総論」および以下の6つの「各論」により構成される。

スチュワードシップ活動の実質化
取締役会等の実効性向上
収益性と成長性を意識した経営
情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進
市場環境上の課題の解決
サステナビリティを意識した経営

各論部分ではまず・・・

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2024/06/19 総会前の有報開示、いよいよ実現の可能性(会員限定)

周知のとおり、金融庁は2024年6月7日、コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(7))を公表している。これは2023年4月26日に公表された同意見書(6)「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2023」を引き継ぐものであり(同意見書(6)については2023年4月18日のニュース『コード改訂「3年に1度」のサイクルにとらわれず コーポレートガバナンス改革の実質化に向けた「アクションプログラム」公表へ』参照)、「実質化」プログラムに基づく施策の成果を踏まえて、さらにコーポレートガバナンスの「実践」を推し進めていくためのプログラムと位置付けられる。

アクション・プログラム2024は「総論」および以下の6つの「各論」により構成される。

スチュワードシップ活動の実質化
取締役会等の実効性向上
収益性と成長性を意識した経営
情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進
市場環境上の課題の解決
サステナビリティを意識した経営

各論部分ではまず、それぞれの各論に対応するアクション・プログラム2023の取組み実績が下表のとおり総括された。この総括を踏まえ、残された課題を解決するための新たな取組みがアクション・プログラム2024に引き継がれる。なお、下表の1.C)は内容が拡充されたうえで、上記2の「取締役会等の実効性向上」に標題が変わった。また、2.B)と2.C)は統合され、上記4の「情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進」となった。2.D)については、2024年5月に成立した改正金融商品取引法をもって「課題は解決した」と整理された模様(同法の改正については2024年5月22日のニュース『協働エンゲージメント活発化も 取締役の選解任など“外形的事実”のみで「共同保有者」に該当するか否かを判定へ』参照)。

アクション・プログラム2023の実績
1.企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた課題
A)収益性と成長性を意識した経営 資本コストや株価を意識した経営の実現を要請

・同要請を踏まえ、対応を進めている企業を「見える化

B) サステナビリティを 意識した経営 ・有価証券報告書において多様性に関する指標等を追加
・人的資本関係等の開示の好事例集を公表
・東証の上場規程を改正し、女性役員比率の目標(2030年までに30%)を設定
C)独立社外取締役の機能発揮 ・「社外取締役のことはじめ」を作成
・民間主体において取締役等に対する研修等が進展
2.企業と投資家との対話に係る課題
A)スチュワードシップ活動の実質化 ・金融審議会「資産運用に関するタスクフォース」報告書において、協働エンゲージメントの促進等を提言
B)対話の基礎となる情報開示の充実 ・投資家との対話の実施状況の開示を要請
・エクスプレインの好事例や不十分な事例を公表
C)グローバル投資家との対話促進 ・2025年4月からの英文開示の義務化に向け、東証の上場規程を改正
D)法制度上の課題の解決 ・「共同保有者」の定義を明確化(金融商品取引法等の一部を改正する法律が成立)
E)市場環境上の課題の解決 ・東証のコーポレートガバナンス報告書の記載要領を改訂し、上場子会社に関する情報開示の充実に向けた要請を実施
・政策保有株式の開示に関する課題開示例等を公表


資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
協働エンゲージメント : 複数の投資家が協調して個別の投資先企業に対し特定のテーマについて対話を行うエンゲージメントのこと。各投資家の質的・量的なリソース不足を補い、対話の実効性を高めると言われている。
共同保有者 : 共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者

アクション・プログラム2024において打ち出された今後の新たな取り組みは下表のとおり。

1.における「スチュワードシップ・コードの見直し」などは、投資家によるエンゲージメント活動の一層の活発化につながるだろう。2.に「取締役会議長の役割や機能」が取り上げられたことは、取締役会議長に対し「非業務執行」や「社外性」が求められる契機になることが予想される。

4.に挙げられた「総会前の有報開示」は、2024年4月3日に開催されたグローバル投資家との「コーポレートガバナンス改革の推進に向けた意見交換」において、岸田首相がコミットした事項を盛り込んだものであることから、相当な推進力をもって実行に移されるはずだ。上場会社は対応に向け検討を急ぐ必要があるだろう。

アクション・プログラム2024の取り組み
1.スチュワードシップ活動の実質化 ⚫︎スチュワードシップ・コードを見直す
・協働エンゲージメントの促進
実質株主の透明性確保
⚫︎運用機関・アセットオーナー・議決権行使助言会社などによるコードの遵守状況を検証する

2.取締役会等の実効性向上 ⚫︎社外取締役、取締役会議長、指名報酬委員長が果たすべき役割や機能の理解を共有する
⚫︎実効性向上に向けた具体的な好事例を共有する
・社外取締役と投資家の対話
・個別評価を含む取締役会実効性評価
・実質的な議論を促す取締役会事務局
3.収益性と成長性を意識した経営 ⚫︎各企業の取組み状況を継続してフォローアップ
・開示と取組みの乖離
・取締役会の主体性および積極性
・投資家との対話における議論の具体性
・リソースの確保
・中長期的な企業価値向上の観点による成果を意識した分析・評価
4.情報開示の充実・グローバル投資家との対話促進 ⚫︎有報開示が総会前のタイミングになるよう環境整備する
⚫︎英文開示の状況をフォローアップする
⚫︎一定の要件を満たす企業群のリストを公表する
・資本収益性や市場評価、成長性の指標
・コーポレートガバナンスの状況
5.市場環境上の課題の解決 ⚫︎政策保有株式について、有報開示が実態を踏まえているかなど、保有の合理性について検証を尽くすよう促す
⚫︎金融庁は、より深度ある検証を実施し、その結果を踏まえ必要に応じて開示の拡充などの必要な措置を講じる
6.サステナビリティを意識した経営 ⚫︎国際的な比較可能性を確保したサステナビリティ開示・保証制度のあり方を検討する
⚫︎サステナビリティ経営に関する具体的な事例を共有する
・財務情報と非財務情報とのつながり
・企業価値向上というアウトカムの意識
・取締役会による監督という役割
・コーポレート・カルチャーを意識した経営や対話


実質株主 : 株主名簿の背後に存在する投資判断や議決権を行使する権限を持つ株主のこと。これに対し、株主名簿に載っている株主を名義株主という。個人株主や事業会社が株主となる場合などは「実質株主=名義株主」となるが、信託銀行が信託勘定で「管理」だけをする株式は、実質株主と名義株主は一致しない。機関投資家が保有する株式は基本的に後者のケースとなる。
保証制度 : 有価証券報告書に開示された気候変動等のサステナビリティ情報の正確性を担保する仕組み

2024/06/18 ステマ規制に措置命令、第1号事案から読み解く規制内容

広告である旨を明示せず、インフルエンサーなどにSNS等へ自社の商品・サービスを高評価する投稿をさせたり、インターネット上に記事を掲載したりするマーケティング手法は、「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれる。ステマは、「一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」ことから、景品表示法5条3号に基づき内閣総理大臣名による「告示」という手段で規制(以下、ステマ規制)することとなったのは2023年1月17日のニュース「“ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩 まずは広告主を告示で規制」でお伝えしたとおり。


インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物
ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。
告示 : 行政機関等がある事項を広く国民・市民に周知させる行為のこと。告示は法令や条例等に基づいて行われる。なお、告示と類似する行為に「公示」があるが、公示は法令や条例等に基づかない行為であるため、法的効果はない。

ステマ規制の内容は2023年3月28日に公表され、2023年10月1日から適用されているが、消費者庁は2024年6月7日にステマ規制の適用第1号事案を・・・

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2024/06/18 ステマ規制に措置命令、第1号事案から読み解く規制内容(会員限定)

広告である旨を明示せず、インフルエンサーなどにSNS等へ自社の商品・サービスを高評価する投稿をさせたり、インターネット上に記事を掲載したりするマーケティング手法は、「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれる。ステマは、「一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがある」ことから、景品表示法5条3号に基づき内閣総理大臣名による「告示」という手段で規制(以下、ステマ規制)することとなったのは2023年1月17日のニュース「“ステマ天国”の汚名返上に向けた第一歩 まずは広告主を告示で規制」でお伝えしたとおり。


インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物
ステルス : ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。
告示 : 行政機関等がある事項を広く国民・市民に周知させる行為のこと。告示は法令や条例等に基づいて行われる。なお、告示と類似する行為に「公示」があるが、公示は法令や条例等に基づかない行為であるため、法的効果はない。

ステマ規制の内容は2023年3月28日に公表され、2023年10月1日から適用されているが、消費者庁は2024年6月7日にステマ規制の適用第1号事案を公表した。第1号事案の内容は、医療法人社団祐真会が運営する診療所「マチノマ大森内科クリニック」がインフルエンザワクチン接種者に対して、接種費用割引と引換えにGoogleマップ上での高評価を依頼し、ワクチン接種者が同クリニックの口コミ投稿欄に「★★★★★」または「★★★★」を投稿していたというもの。消費者庁は医療法人社団祐真会に対し、「表示の速やかな取りやめ」「景品表示法違反の旨を一般消費者に周知徹底すること」「再発防止策を講じて、これを祐真会の役員及び従業員並びにクリニックの医療従事者及び従業員に周知徹底すること」「今後、同様の表示を行わないこと」という内容の措置命令を行っている。


措置命令 : 法律に規定する措置をとるよう命じる行政処分

ステマ規制を正しく理解するため、この適用第1号事案を素材に、誤解しがちな点を中心にステマ規制の内容を振り返っておこう。

まず、景品表示法を巡っては「優良誤認表示」での摘発事案をよく見かける(例えば、2024年4月25日にエステー株式会社のスギ花粉アレルギー対策商品の「99%のスギ花粉をブロック」等の広告が優良誤認表示であった件(消費者庁の措置命令のリリースはこちら)や株式会社ニトリなど4社の糖質カット炊飯器の米飯に含まれる糖質削減比率が優良誤認表示であった件(消費者庁の措置命令のリリースはこちら)など)こともあり、今回の適用第1号事案も一見すると優良誤認表示事案と混同されかねない。確かに、実態とは異なる「★★★★★」または「★★★★」が付されることで消費者があたかも当該クリニックが優良なクリニックであると誤認してしまうという点で「優良誤認表示」であるようにも見えるが、優良誤認表示は下記の景品表示法5条「1号」に違反するものであり、景品表示法5条「3号」違反に該当するステルスマーケティングとはそもそも適用される条文も異なる(赤字部分参照。なお、赤字は当フォーラムが追加)。

景品表示法第5条
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
1号 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの(←優良誤認表示)
2号 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
3号 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの(←ステルスマーケティングなど)

ステマ告示の適用第1号案件は、同クリニックがインフルエンザワクチンの接種者に対して、ワクチン接種費用の割引と引換えに、Googleマップ上の同クリニックの口コミ投稿欄に高評価をつけさせていたことが、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」、すなわち、ステマ規制の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」に該当するとして、措置命令が発出された。このように、ステマ規制は当該表示が事業者以外の者による表示であると一般消費者が誤認してしまう表示を規制しており(本事案を前提にすると、事業者自らが「★★★★★」をうたっても、一般消費者は「誇張ではないか?」と怪しむことができるが、事業者が事業者以外の者に依頼し、当該依頼の存在を隠して作出した「★★★★★」の表示に対して、一般消費者からすると第三者が自発的に「★★★★★」の評価を付けたように誤解し、当該評価を怪しむことなく信用してしまいがちであり、一般消費者を保護するために規制が必要となる)が、一般消費者が「商品またはサービスの品質」を誤認してしまう表示を規制する優良誤認表示規制とは、一般消費者の誤認の対象が異なる点に注意したい。

ステマ規制の適用第1号事案では、実際にGoogleマップ上で「★★★★★」または「★★★★」との評価をしたのはワクチン接種者であり、クリニック(医療法人)ではない。それにもかかわらず、ワクチン接種者が措置命令を受けず、自ら手を下したわけではない医療法人に対して措置命令が下されたのはなぜだろうか。

ステマ規制によると、景品表示法5条3号違反となるのは、①事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示であることと、②一般消費者が事業者の表示であることを判別するのが困難であると認められること、という2つの要件を満たした場合とされている。この点、ワクチン接種者にしてみれば、高評価を付けたのはクリニックという他者が供給するサービス(役務)に対してであり、上記①の「事業者が自己の供給する商品または役務の取引について行う表示」という要件を満たさない。したがって、ワクチン接種者がステマで措置命令を受けることはない。

また、ステマ規制の運用基準によると、「告示の対象となるのは、外形上第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に該当することが前提となる」とされ、これには「事業者が自ら行う表示」だけでなく「事業者が第三者をして行わせる表示」も含まれる。そして、「事業者が第三者をして行わせる表示」には、「事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合」と「事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合」の2つケースが想定されている。それぞれのケースの具体例は以下のとおり。

「事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合」の例示
(ア) 事業者が第三者に対して当該第三者のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合。
(イ) EC(電子商取引)サイトに出店する事業者が、いわゆるブローカー(レビュー等をSNS等において募集する者)や自らの商品の購入者に依頼して、購入した商品について、当該ECサイトのレビューを通じて表示させる場合。
(ウ) 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品又は役務について表示させる場合。

「事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合」の例示
(ア) 事業者が第三者に対してSNSを通じた表示を行うことを依頼しつつ、自らの商品又は役務について表示してもらうことを目的に、当該商品又は役務を無償で提供し、その提供を受けた当該第三者が当該事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。
(イ) 事業者が第三者に対して自らの商品又は役務について表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり(例えば、事業者が第三者との取引には明示的に言及しないものの、当該第三者以外との取引の内容に言及することによって、遠回しに当該第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させること。)、言動から推認させたりする(例えば、事業者が第三者に対してSNSへの投稿を明示的に依頼しないものの、当該第三者が投稿すれば自らとの今後の取引の実現可能性に言及すること。)などの結果として、当該第三者が当該事業者の商品又は役務についての表示を行うなど、客観的な状況に基づき、当該表示内容が当該第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合。

ステマ告示の適用第1号事案では、「事業者(医療法人)が第三者(インフルエンザワクチン接種者)に対してGoogleマップを指定し「★★★★★」または「★★★★」の評価を投稿するよう明示的に依頼」していたため、消費者庁はGoogleマップ上の投稿が「事業者(医療法人)が自ら行う表示」には該当しなくても「事業者(医療法人)が第三者(インフルエンザワクチン接種者)をして行わせる表示」に該当すると判断したことになる。その結果、ワクチン接種者がクリニックからの依頼を受けてGoogleマップに投稿した「★★★★★」または「★★★★」の評価は「投稿者の表示」ではなく「医療法人である事業者が行った表示」として扱われ、さらに、Googleマップのコメントには事業者(医療法人)の広告である旨が明示されていない以上、もう一つの要件である「一般消費者が事業者の表示であることを判別するのが困難である」と認められ、措置命令が発出されるに至った。

このように、ステルスマーケティングは「事業者が自ら行う表示」には該当しなくても「事業者が第三者をして行わせる表示」に該当するケースもある。今回措置命令の対象になったのは医療法人だったが、今後は上場会社が措置命令の対象になることも十分に考えられる。広告(特にインフルエンサーなどを利用した広告)の出稿にあたっては、ステルスマーケティングに該当しないよう、投稿内容の管理(「PR」「広告」「宣伝」等のハッシュタグの管理、当初投稿後の変更の有無の管理など)を徹底したい。