企業のESG 関連の情報を収集して評価するESG評価機関やESGデータ提供機関の信頼性が問われる中、日本の金融庁は2022 年12 月、世界各国に先駆けてESG評価・データ提供機関の行動規範をとりまとめたところだが(2022年6月27日のニュース「ESG評価・データ提供機関の行動規範、コンプライorエクスプレイン方式に」、「2022年11月22日のニュース「速報 ESG評価・データ提供機関の行動規範案の修正事項」参照)、将来的には以下会員エリア現在のような自主規制にとどまらず、法的規制が導入される可能性が出てきた。
サステナブル・ファイナンスの急速な拡大を受け、ESG 格付・データ提供機関の影響力が強まっているが、このような状況に対し、世界各国・地域の証券監督当局や証券取引所等から構成される投資家保護などを目的とした国際的な機関であるIOSCO(証券監督者国際機構)は「潜在的に、投資家保護、市場の透明性等に関するリスクが懸念される」と指摘してきた。2021年11月にはESG 評価・データ提供機関に期待される行動規範を取りまとめた報告書を発表し、各国・地域で同報告書に準じた行動規範の導入等が進んだ。日本の金融庁がとりまとめた上記の企業行動規範も同報告書をベースとしている。
サステナブル・ファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
日本に続き、シンガポールの金融管理局が 2023年12 月 13 日に同様の行動規範を発表したほか、同 20 日には、EU の欧州理事会が、ESG格付・データ提供機関を欧州証券市場監督局の認可下に置く案を発表しており、今後、EU 議会において議論される予定となっている。
欧州理事会 : 加盟国の首脳らをメンバーとし、全体的な政治指針と優先課題を決定するEUの政治的最高意思決定機関
さらに、スイスに本部を置く国際的な証券業の業界団体である国際資本市場協会(ICMA ※日本からは野村證券、みずほ証券、三菱UFJ銀行、ゆうちょ銀行、日本政策投資銀行などが加入)も、2023年12月14 日にESG 格付・データ提供機関に対する行動規範を発表している。ICMAは業界団体とはいえ、この行動規範は、英国の金融規制当局であるFCAの委嘱を受け、ロンドン証券取引所、債券等の格付会社大手のムーディーズなど証券業界関係者から構成されるワーキング・グループで検討されており、公的な性格が強い。ICMAの行動規範はIOSCOの報告書に準じて、「グッド・ガバナンス」「品質の確保」「利益相反」「透明性」「守秘義務」「エンゲージメント」の6つの原則で構成されている。特に、ESG格付・データ提供機関は、企業分析や評価の判断の独立性を担保する必要があるとともに、評価対象企業と円滑なコミュニケーションをとる「エンゲージメント」の重要性、また、ESG 格付・データ提供機関はESG格付業務のほかにコンサルティングや信用格付などの業務を行っていることがあり、同一企業内での「利益相反」の可能性が指摘された点、注目される。ちなみに、EUでは、欧州委員会がESG格付業務とコンサルティング業務を別法人に分割させることを検討したが、業界から強い反発を受けたため、現在の欧州理事会案では、ESG 格付業務とコンサルティング業務担当部署を分け、利益相反を回避するための措置を講じる限り、別法人を設置することまでは求めていない。
欧州委員会 : 加盟国の首脳らをメンバーとし、全体的な政治指針と優先課題を決定するEUの政治的最高意思決定機関
ICMAによる行動規範の発表に合わせ、英国FCAのESG担当ダイレクターが登壇して開催されたセミナーでは、グローバルで統一されたルールの重要性が強調され、すべての ESG格付・データ提供機関が行動規範を採用するよう呼びかけるとともに、FCAが「法的規制」導入の可能性を継続的に検討していることが明らかにされている。ESG 格付・データ提供機関は、現状では規制当局の監督下にないが、ICMA が今回公表した行動規範を英国のみならず国際的に共通の基準とすることを志向していることを踏まえると、仮に英国で法的規制が導入されることになれば、この動きは日本を含む世界各国に影響を与える可能性がある。英国FCAの動きが注目される。


