正解です。
東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は、問題文のとおり、2025年3月を目途にプライム市場の全上場会社に対して「決算情報」と「適時開⽰情報」の英文開示を求める方向で検討を進めています(問題文は正しいです)。
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2024年1月9日 英文開示への対応に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の表明求める方針、英文開示企業の一覧表公開の可能性も(会員限定)
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東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」は、問題文のとおり、2025年3月を目途にプライム市場の全上場会社に対して「決算情報」と「適時開⽰情報」の英文開示を求める方向で検討を進めています(問題文は正しいです)。
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2024年1月9日 英文開示への対応に「コンプライ・オア・エクスプレイン」の表明求める方針、英文開示企業の一覧表公開の可能性も(会員限定)
2023年12月、金融庁は開示府令の改正案に対するパブリックコメントの結果を公表し、有価証券報告書の【重要な契約】 の項目において、「企業・株主間のガバナンスに関する合意」「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」「ローンと社債に付される財務上の特約」について契約の概要を開示することを明示的に求めました。以下の論点について、開示上留意すべき点を考えてみてください。
1.全般的事項
(1)提出会社の代表者と株主との間の契約と開示
(2)重要性の低い契約とは
(3)秘密保持条項のある契約の開示義務について
2.企業・株主間のガバナンスに関する合意
(1)書面または口頭での合意と開示要件
(2)株主が役員候補者を推薦する権利を有するにすぎない場合の開示
(3)取締役の選任が株主との事前協議事項にとどまる場合の開示
(4)株主総会の会社提案議案に賛成する旨の合意や、特定議案について議決権を行使しない旨の合意
(5)特定の事項について通知・協議を行う義務を有するにすぎない場合の開示
3.企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
(1)保有株式の譲渡や買増しに付随する合意と開示
(2)未公表の重要事実に該当する合意の開示
(3)株式保有割合の定義なしでの株式追加取得禁止合意の開示
(4)提出会社と合意を締結していない共同保有者の開示
4.ローン契約と社債に付される財務上の特約
(1)特約の範囲は有報と臨時報告書で同一か
(2)配当制限や担保提供制限の財務制限条項やレポーティング・コベナンツの開示
(3)短期の特定融資枠を利用した契約の開示
(4)ノンリコースローンの開示要件
(5)有価証券報告書と臨時報告書で記載対象となる契約・社債は同一か
(6)債権者が期限の利益の喪失を主張する権利を放棄する場合の臨時報告書の提出時期
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上場会社A社(東証プライム市場に上場)では、2023年中にコーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)に【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】の開示ができていなかったため、2024年1月15日に東証が開示した『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表』に社名が掲載されなかったところ、株主から「対応が遅いのではないか」という叱りの声が寄せられた。そこで、急遽開催された臨時取締役会で、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取組みやCG報告書における記載の仕方について議論が行われ、次の3人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?
取締役A:「株主資本コストは投資家の需要と供給により結果として決まるものであり、経営陣としてはまったくコントロールしようがないですよね。」
取締役B:「そうですね。ただ、来月も開示企業一覧表に当社の社名がないと、株価への意識が足りない企業のように見られて、投資対象から外され、今よりも株価が下がる可能性があります。とりあえず『ROEの現状分析』を記載したうえで『実施中の取組み、あるいは実施しようとしている取組み』を羅列すれば良いのではないでしょうか。」
取締役C:「開示にあたっては、取組みの羅列ではなく、各取組みが目標達成に向けてどのような効果を持つのかを意識するようにした方が良いのではないでしょうか。CG報告書ではいったん【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】の開示をしておき、稼いだ時間を使って議論を深めたいですね。」
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2024年1月16日のニュース『「株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示、プライムでも半数に届かず』でお伝えしたとおり、東京証券取引所が2024年1月15日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示している企業の一覧表(2023年12月末時点)を公表しました。プライム市場上場企業の半数が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示できていない状況に対して、投資家からは落胆の声も上がっています。もちろん、コーポレート・ガバナンス報告書(CG報告書)で開示していない上場会社の中には、すでに「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を実施済みであったり、すでに統合報告などで「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を開示したりしている上場会社もあるかもしれませんが、証券取引所が一定の周知期間を設けて対応と開示を要請したにもかかわらずCG報告書で何ら開示できていない上場会社は、投資家から「株価に鈍感な会社では?」と疑われてもやむを得ません。東証では今後毎月末にCG報告書の開示状況を集計して翌月15日に集計結果を公表する予定であり、未開示の会社は早急な対応が望まれるところです。
それでは、これからCG報告書で「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」についての開示を行う上場会社は、どのような点に留意して開示内容を検討すべきでしょうか。同業他社の開示例や充実した開示をしている他社の開示例を参考にするのはもちろんのこと、東京証券取引所が2024年2月1日に公表した「投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」のポイントと事例」(以下、「ポイントと事例」)もきっと参考になるはずです。「ポイントと事例」には次のような「ポイント」と「投資者目線とのギャップ実例」が記載されています。「現状分析・評価」および「取組みの検討・開示」のそれぞれの局面で参考にしたいところです。
| 「現状分析・評価」のポイント① 投資者の視点から資本コストを捉える × 資本コストには唯一の正解があると考え、画一的な算出式に拘る × 自社の資本コスト算出結果について、株主・投資者からの「ズレている」という指摘を恐れ、対外的な開示を控える ⇒ 資本コストの水準について、精緻な値を算出することが目的ではなく、株主・投資者との認識を揃えることが重要であり、「資本コストや株価を意識した経営」を実現するための出発点として、認識のズレを解消するための取組みが期待されています。 「現状分析・評価」のポイント② 投資者の視点を踏まえて多面的に分析・評価する 「現状分析・評価」のポイント③ バランスシートが効率的な状態となっているか点検する 「取組みの検討・開示」のポイント① 経営資源の適切な配分を意識した抜本的な取組みを行う 「取組みの検討・開示」のポイント② 資本コストを低減させるという意識を持つ 「取組みの検討・開示」のポイント③ 中長期的な企業価値向上のインセンティブとなる役員報酬制度の設計を行う 「取組みの検討・開示」のポイント④ 中長期的に目指す姿と紐づけて取組みを説明する |
拙速な開示を行うよりは、上記のポイントを踏まえたうえで経営陣でじっくりと議論をした結果を開示すべきと言えます。そのためには、CG報告書ではいったん【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】の開示をしておくのも一案と言えます(「検討中」の開示については2023年11月7日のニュース「開示企業一覧表に掲載されるためのキーワードが確定、CG報告書はいつ再提出する?」を参照)。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
取締役C:「開示にあたっては、取組みの羅列ではなく、各取組みが目標達成に向けてどのような効果を持つのかを意識するようにした方が良いのではないでしょうか。CG報告書ではいったん【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】の開示をしておき、稼いだ時間を使って議論を深めたいですね。」
(コメント: 取締役Cの発言は、CG報告書の開示が安易な「取組みの羅列」に流されそうになるのを止めるだけでなく、各取組みが目標達成に向けてどのような効果を持つのかを記載するという理想論にも触れたうえで、経営陣でじっくりと議論をする時間を確保するために「検討中」を利用するという実務的な対応策も提案できており、GOODです。)
取締役A:「株主資本コストは投資家の需要と供給により結果として決まるものであり、経営陣としてはまったくコントロールしようがないですよね。」
(コメント:東証が公表予定の「ポイントと事例」では「中⻑期的な企業価値向上の実現に向けては、資本コストを上回る資本収益性を達成したうえで、その差を拡大させていくことが必要」として、「単に資本収益性の向上に取り組むだけではなく、資本コストを低減させる取組みも重要」といった観点から、「開示情報の拡充や効果的な投資家との対話により、情報の非対称性を解消すること」や「投資者の経営に対する信頼や、収益の安定性・持続性に対する確信度を高める観点から、コーポレート・ガバナンスの強化」が株主資本コスト低減に有効との考え方が紹介されています。取締役Aの「株主資本コストは・・・経営陣としてはまったくコントロールしようがない」は株価や株主資本コストに対する誤解に基づくBAD発言です。)
取締役B:「そうですね。ただ、来月も開示企業一覧表に当社の社名がないと、株価への意識が足りない企業のように見られて、投資対象から外され、今よりも株価が下がる可能性があります。とりあえず『ROEの現状分析』を記載したうえで『実施中の取組み、あるいは実施しようとしている取組み』を羅列すれば良いのではないでしょうか。」
(コメント:確かに、開示企業一覧表にいつまで経っても社名が掲載されない会社は『株価への意識が足りない』と見られる可能性があります。だからと言って、開示を急いで取組みの羅列で済ませようとすると、逆に「その取組みでどのように企業価値を向上させようとしているのか、経営陣は本当に理解しているのか」と疑問を持たれる可能性もあります。安易な羅列による拙速な開示で馬脚をあらわすくらいなら、取締役Cの発言にあるように、CG報告書ではいったん【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】の開示をしておき、経営陣で「各取組みが目標達成に向けてどのような効果を持つのか」について議論を深めてから、中⻑期的に目指す姿と紐づけて具体的な取組みを開示するのも一案です。)
上場を目指す会社(以下、上場準備会社)の会計監査を引き受ける監査人が見つからないという“監査難民”問題は基本的に上場準備会社特有の問題だったが、これが上場会社にも広がる可能性が出てきた。
監査難民とは、大手監査法人がリスクの高い上場準備会社の監査人就任に慎重になったことで、上場準備会社が自社の決算に監査意見を付す監査人を探すのに苦労する現象を表した造語であり、最近は監査難民の解消に向け、金融庁・証券取引所・日本公認会計士協会・証券会社などの連携が進み、中小監査法人が上場準備会社の監査人に就任するケースが増え、監査難民問題は相当程度解消されたと言われている。
ところが、この監査難民問題が再燃しそうな雲行きとなってきた。しかも今回は上場準備会社だけでなく上場会社も巻き込んだ問題になるおそれがある。そのきっかけになりそうなのが、・・・
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上場を目指す会社(以下、上場準備会社)の会計監査を引き受ける監査人が見つからないという“監査難民”問題は基本的に上場準備会社特有の問題だったが、これが上場会社にも広がる可能性が出てきた。
監査難民とは、大手監査法人がリスクの高い上場準備会社の監査人就任に慎重になったことで、上場準備会社が自社の決算に監査意見を付す監査人を探すのに苦労する現象を表した造語であり、最近は監査難民の解消に向け、金融庁・証券取引所・日本公認会計士協会・証券会社などの連携が進み、中小監査法人が上場準備会社の監査人に就任するケースが増え、監査難民問題は相当程度解消されたと言われている。
ところが、この監査難民問題が再燃しそうな雲行きとなってきた。しかも今回は上場準備会社だけでなく上場会社も巻き込んだ問題になるおそれがある。そのきっかけになりそうなのが、「上場会社等監査人登録制度」の新設だ。
上場会社等監査人登録制度とは、2022年5月に成立した改正公認会計士法に基づき、従来は日本公認会計士協会内の自主規制にすぎなかった「上場会社監査事務所登録制度」の名称を変更したうえで、公認会計士法上の制度に格上げした制度であり、2023年4月1日から施行されている。具体的には、監査法人または公認会計士が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務(金融商品取引法193条の2第1項および第2項の監査証明に係るものに限る)を行う場合には、「上場会社等監査人名簿」に登録されていなければならないという仕組み。そして、上場会社等監査人名簿への登録を希望する監査法人または公認会計士は、登録にあたり日本公認会計士協会内の会議体である「上場会社等監査人登録審査会」の審査をクリアする必要がある。
2023年3月までの「上場会社監査事務所登録制度」(以下、旧制度)と2023年4月以降の「上場会社等監査人登録制度」(以下、新制度)は名称こそ類似しているが、上述したとおり根拠が異なる(旧制度は自主規制、新制度は公認会計士法上の制度)ことに加え、旧制度では、上場会社監査事務所名簿に記載されていない監査事務所が上場会社の監査を行うことは、法律上は禁止されていなかった(上場会社を監査している事務所であるにもかかわらず、一定期間内に登録を申請しない事務所は、「未登録監査事務所名簿」に掲載されるという制裁を受けるだけであった)のに対し、新制度では未登録の監査人はそもそも上場会社の監査ができないという違いがある。
旧制度で登録を受けていた監査事務所は、2024年9月30日を申請期限とする制度により、2023年4月以降も「みなし登録上場会社等監査人」として上場会社を監査できるが、新制度上の審査をクリアして登録できなければ、上場会社を監査する資格を失う。この審査は、監査人の規模や実績にかかわらず、上場会社の監査に携わる以上は必ず受けなければならない。つまり、「みなし登録上場会社等監査人」であるからといって、自動的に新制度上の「上場会社等監査人」に横滑りできるわけではなく、イチから審査を受けてこれをクリアしなければならないということだ。
新制度開始後、現時点で既に9か月が経過しているが、登録を終えた上場会社等監査人は以下の6法人にすぎない(2024年1月26日時点)。
|
アーク有限責任監査法人 監査法人アヴァンティア ESネクスト有限責任監査法人 SCS国際有限責任監査法人 グローリー監査法人 有限責任監査法人トーマツ |
新制度上の上場会社等監査人への登録が遅々として進まない理由としては、上場会社等監査人登録審査会の発足当初、審査体制の整備に時間が費やされたということもあるが、最大の理由と思われるのが「審査の厳格化」だ。新制度の審査(上場会社等監査人としての適格性の確認のための品質管理レビュー)は「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」等に基づいて行われている。そして、その水準は、実際に審査を受けている最中の監査法人の関係者が「とにかく厳しい」と嘆くほど高いレベルとなっており、これから審査を受ける監査法人は戦々恐々としている。旧制度でも、登録に先立ち日本公認会計士協会の品質管理レビューを受ける必要があったが、そこまで厳しいものではなかった。新制度の下では、「登録」と言いつつ、実際には「免許」に近い運用が行われていると言える。
監査法人や証券市場の関係者が注目しているのは、「一体どの程度の数の監査法人が新制度上の厳しい審査をくぐりぬけることができるのか」ということだ。そこまで厳しい審査となれば、落伍する監査法人が出てくることも予想される。実際、厳しい審査を受けている最中の中小監査法人の関係者は「ここまで厳しいと、“振るい落とし”にかけられているのではないかと思わざるを得ない」と苦しい胸の内を語る。比較的体制の整っている大手・中堅の監査法人は多少時間がかかったとしても最終的には審査に通ることが予想されるが、充実した監査体制を確保するためのリソースが十分でない小規模監査法人の中には苦戦するところが少なくないだろう。万が一、審査に通らなかった小規模監査法人は、他の登録済み上場会社等監査人に吸収合併されるか、上場会社を監査する資格を返上するしかない。
そうなると影響を受けるのが、審査に通らなかった小規模監査法人の監査を受けている上場会社や上場準備会社だ。それらの会社は、他の登録済み上場会社等監査人に乗り換えるか、あるいは自社の監査人が登録済み上場会社等監査人に吸収合併されない限り、“監査難民”となる。しかも、上手く上場会社等監査人に乗り換えることができたとしても、監査報酬の値上げは不可避となろう。また、登録を受けた上場会社等監査人が登録取り消しになっても、やはり監査難民は発生する。
なお、監査難民の発生原因は新制度だけではなく、監査法人の解散によっても発生する。金融庁は2020年以降、下記の8つの監査法人に対し懲戒処分を行っており、そのうち仁智監査法人、監査法人原会計事務所、監査法人大手門会計事務所の3つは既に解散している。
・太陽有限責任監査法人(2023年12月26日)
・赤坂有限責任監査法人(2023年6月30日)
・ひびき監査法人(2023年3月31日)
・監査法人ハイビスカス(2023年1月27日)
・UHY東京監査法人(2022年6月30日)
・仁智監査法人(2022年5月31日)
・監査法人原会計事務所(2021年8月6日)
・監査法人大手門会計事務所(2020年11月27日)
粉飾決算に手を染める上場会社は残念ながら今後も発生するだろう。そして、上場会社の粉飾決算の発覚に伴い、粉飾決算を監査で見つけることができなかった監査法人が金融庁から不十分な監査を理由に懲戒処分を受けるケースは今後も一定数生じるはずだ。結果として、懲戒処分を受けた監査法人が解散に追い込まれれば、その監査を受けていた上場会社は後任の監査法人を探す必要が生じるが、上述した上場会社等監査人登録制度の厳格運用により監査難民が発生する事態となれば、後任探しに苦労する可能性は十分にある。
上場準備中の会社の間では概ね解消しつつあった監査難民問題が、今度は上場会社にまで広がる形で復活するとなれば、証券市場が混乱することは間違いない。そこで公認会計士法を管轄する金融庁が描いているのは、「新制度による審査を通じた監査法人の体制強化の支援」と「中小監査法人の統合」だと思われる。粉飾決算を見逃すなどの事件が起こった場合の事後対応策としての懲戒処分と上述の上場会社等監査人登録制度の厳格運用による事前対応策の2本柱で、監査法人への締め付けを強化する格好になる。
小規模監査法人を監査人に選定している上場会社の経営陣としては、自社が“監査難民”とならないよう、自社の監査人の新制度への申請状況や審査状況、自社の監査人が監査をしている他の上場会社の粉飾決算事件の有無などを継続的にウオッチする必要があろう。
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健康食の宅配事業等を営むファンデリー(東証グロース)が2023年3月期の期中に自己株式を取得が、同社が2023年3月期の第4四半期に赤字決算に転落したことで、会社法465条1項の業務執行取締役の填補責任の有無が論点になった。
ファンデリーが2023年10月31日に公表した「分配可能額を超えた自己株式の取得に関する調査結果及び再発防止策について」等によると、一連の経緯は次のとおり。
2022年
10月17日:ファンデリーの取締役会が、自己株式の取得(期間:2022年11月1日から2023年2月28日まで、株式の取得価額の総額:25,000,000円を上限)を行うことを決議した。
11月15日から2023年1月13日:ファンデリーは、この間に合計9,155,700 円(32,600株)の自己株式を取得する。
2023年
2023年2月末:ファンデリーはテレビCMにより売上の拡大を図ろうとするものの、売上増加の目論見は外れた。
2023年3月期の年度末決算:ファンデリーは、当初想定していなかった多額の製品評価損や包装資材に係る貯蔵品評価損を計上することとなった。
10月31日:ファンデリーは違法自己株式取得につき会計監査人より指摘を受け調査を行い、「分配可能額を超えた自己株式の取得に関する調査結果及び再発防止策について」を公表する。
ファンデリーが2023年10月31日に公表した「分配可能額を超えた自己株式の取得に関する調査結果及び再発防止策について」によると、分配可能額を超えた自己株式取得の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | ファンデリーは2022年11月15日から2023年1月13日にかけて自己株式を取得したが、第4四半期で赤字に転落した結果、分配可能額がゼロになり、結果として分配可能額がないのに自己株式を取得した形になってしまった。 (2023年3月期の分配可能額の計算) ファンデリーの2023年3月期の単体貸借対照表によると、その他の資本剰余金がゼロ円、その他の利益剰余金がマイナス75百万であり、分配可能額はゼロであった。 |
| 原因 | (分配可能額の推移) ファンデリーでは2022年3月期第2四半期(2022年9月末)の時点で、四半期累計当期純利益が41百万円の赤字であったが、その時点で計算した分配可能額は約80百万円ほど残っていた(この時点で2023年3月期通期の当期純利益は79百万円と見込んでいた)。第3四半期(2022年12月末)の時点で四半期累計当期純利益が1百万円の黒字に転じて、分配可能額は約115百万円に増えた(この時点でも2023年3月期通期の当期純利益は79百万円と見込んでいた)。ところが、第4四半期で当初想定していなかった多額の損失を計上したことで再度赤字に転落し、最終的に締めてみると通期の当期純利益はマイナス284百万円になり、結果として分配可能額はゼロになっていた。 (第4四半期で当初見込んでいなかった損失が発生した理由) ファンデリーでは2022年3月期の年度末決算において、当初想定していなかった多額の製品評価損や包装資材に係る貯蔵品評価損を急遽計上することとなった。また、2023年2月末からテレビCMをスタートした(当初の計画に含まれていなかった広告費の増加)が、テレビCMで売上が増加することはなかった。これらの追加コストは2023年3月期通期の当期純利益の当初見込みである79百万円に織り込まれてはいなかった。 (発覚が遅れた理由) ファンデリーでは自己株式の取得に関する業務は経営管理部門が担当しており、自己株式取得時点における分配可能額の範囲内であることは確認していた(よって財源規制の違反はない)ものの、2022年3月期の年度末決算の確定後に、結果的に見ても当該自己株式取得が分配可能額の範囲内であることまでは確認していなかった。そのため、翌期(2023年3月期)の期中監査で監査法人が気付くまでは、自己株式取得に関して会社法465条1項の業務執行取締役の填補責任の有無が論点になっていることを認識することはなかった。 |
| 再発防止策、責任追及と処分 | (取締役の責任) ファンデリーの監査役会は、同社の取締役の責任について、「取締役の当時の認識、検討状況、欠損が生じるに至った経緯等を踏まえると、取締役が自己株式の取得を行うにあたり、各取締役が注意義務を怠ったと思える事情は見当たらず、各取締役としては自己株式の取得に過失は無かったとの各取締役の説明には合理性があると判断し、各取締役に対して会社法第465条第1項に基づく欠損填補責任や損害賠償責任に関する追及をしない」との見解を示した。 (再発防止策) (1)担当部署における、より精度の高い業績予測の作成及び将来時点の分配可能額の検証 (2)重要事項について、取締役会において十分に審議するプロセスの再整備 (3)決算に多大な影響を及ぼす事項について、会計監査人との早期調整の実施 (4)年度末決算の確定後、期中に実施した自己株式の取得が分配可能額を超えていないことを確認する業務プロセスの整備 |
当コーナーで何度か取り上げて警鐘を鳴らしている「分配可能額以上の自己株式取得による会社法違反」の事例がまた生じました。この問題が厄介なのは、期中の自己株式の取得時点では分配可能額を満たしているように見えたとしても、期末に予定していなかった損失を多額に計上したことで、結果的に業務執行取締役の填補責任の有無が問われるという点です。分配可能額の算定の際には、経理担当者と情報交換をし、予定していなかった損失が発生する可能性の有無を考慮し、安全を見て自己株式取得額を決定するようにしたいところです。とりわけ、最近では東京証券取引所の要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」への取組みの一つに自己株式取得を掲げる会社も少なくないことから、「期末になって、当初予定していなかった減損損失等を急遽計上することになり、結果として業務執行取締役が填補責任の有無を問われる」ことだけは避けるようにしましょう。
今や多くの上場企業が株式報酬を導入しているが、後述するように、それは必ずしも経営陣による前向きな意思によるものではない。
こうした中、先週1月16日、経団連は「役員・従業員へのインセンティブ報酬制度の活用拡大に向けた提言」として、株式報酬のさらなる活用を促進するための金商法、会社法、税法等にまたがる包括的な制度の整備を求めている。内容の骨子は以下のとおり。・・・
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今や多くの上場企業が株式報酬を導入しているが、後述するように、それは必ずしも経営陣による前向きな意思によるものではない。
こうした中、先週1月16日、経団連は「役員・従業員へのインセンティブ報酬制度の活用拡大に向けた提言」として、株式報酬のさらなる活用を促進するための金商法、会社法、税法等にまたがる包括的な制度の整備を求めている。内容の骨子は以下のとおり。
(1)インサイダー取引規制
株式報酬の付与、自己株式の処分、株式の売却の場面において、未公表の重要事実の内容、公表のタイミング、適用除外の条件などに関する解釈の明確化や柔軟性の確保を求める。
重要事実 : 投資判断に著しい影響を及ぼす会社情報のこと
(2)開示規制
株式報酬に対して、一般の発行開示制度をそのまま適用するのではなく、投資者の投資判断に必要な情報を提供する必要性が乏しいことを考慮して、開示の方法・タイミング・内容を見直すことを求める。
発行開示制度 : 有価証券の発行者が、投資者保護を目的として、投資者の投資判断に有益な資料の提供を求める制度。これにより、発行者による円滑な資金調達を促進する機能もある。発行開示制度における開示書類としては、有価証券届出書、発行登録書等がある。発行開示制度に対し、有価証券への投資判断のために、発行者が企業内容を継続的に開示する制度が「継続開示制度」であり、継続開示制度における開示書類としては有価証券報告書、四半期報告書、臨時報告書等がある。
(3)株式の発行手続き
株式の無償交付を認める範囲の拡大(従業員、子会社の役員・従業員)、スタートアップにおける機動的かつ柔軟にストックオプションを付与のためのストックオプションプールの活用、発行手続きの簡素化や柔軟化を求める。
ストックオプションプール : あらかじめ一定規模のストックオプションの発行枠を設定し、役員や従業員に対して柔軟にストックオプションを付与する仕組み。
(4)会社法
現物出資構成の株式報酬について、日本基準においてもIFRSと同様の会計処理を行えるよう(現物出資構成による株式交付の場合、資本の認識時点や測定金額が日本基準とIFRSで一致しない)、長期的に会社法上の取り扱いの見直しを検討することを求める。
現物出資構成 : 会社が役員に対して役員報酬として金銭債権を付与し、その後、役員がその金銭債権を会社に現物出資して株式を受け取る方法。
(5)税制
上場会社の役員給与は、ガバナンスが十分に機能している会社については幅広く損金算入を認めること、また、役員・従業員が現物株式で報酬を受け取る場合に、権利確定時には給与所得として認識せず、株式売却時に譲渡所得としてのみ課税する特例措置株式売却時の譲渡所得としてのみ課税する特例措置(企業ごとの選択制)を認めることを求める。
なお、本提言の趣旨として、従業員も株式報酬の交付対象とすることで、成長と分配の好循環を実現し、分厚い中間層の形成にも寄与する、という観点も主張されている。日本企業の復活ムードの中で、株式報酬が重要なツールであるとの認識が、企業サイドにおいても高まりつつあることが伺える。
一方、専門家からは、株式報酬を真に機能させるには制度整備だけでは難しいのではないか、との声も聞かれる。確かに、諸規制による制約がインセンティブ制度としての株式報酬の機能を減じている面はある。しかし、このことは同時に、企業が株式報酬を“控えめ”にしておくための体の良い言い訳にもなってきたという側面もある。冒頭で述べたとおり、株価で自らの功績が評価されることに違和感を持つ経営者、従業員との報酬格差が拡大することに居心地の悪さを感じる経営陣は未だに少なくなくない。要するに、多額の株式報酬をもらうことによって、自身と株式市場、自身と従業員との間に緊張感やストレスを生じさせたくないということだ。
こうした経営者の感覚を打破し、意味のあるボリュームの株式報酬を与え、かつ厳格な評価が可能な設計とするには、やはり独立性の高い報酬委員会のリードが不可欠だ。同時に、株価の上昇や企業価値の増大についてコミットメントを示せる経営者を選任することも重要になる。制度整備はガバナンスの強化と両輪で考えていく必要があろう。