2026年の春季労使交渉(春闘)が本格化している。物価上昇が続く中、実質購買力を維持・向上させるには、賃金上昇率がインフレ率を上回ることが不可欠となる。こうした状況を踏まえ、政府は経済団体に対して賃上げを促す、いわゆる“官製春闘”を推進している。2025年12月10日付の特集でお伝えした「従業員の平均給与の対前年比増減率」の開示義務化など人的資本開示の見直しもその一環と言える。
人的資本開示の見直しを含む開示府令の改正は、昨年12月時点では「案」(公開草案)の段階にあったが、2月20日に確定版が公表された。2026年3月期に係る有価証券報告書(有報)から適用が開始されるため、企業に残された準備期間は極めて短い。本稿では、人的資本開示について、パブリックコメントを経て公開草案から修正された箇所を中心に、改正内容のポイントを整理する。
今回の改正で、有報における「従業員の状況」の開示場所が、「第1【企業の概況】」から「第4【提出会社の状況】」に移動する。そのうえで、これまで開示が求められていた「当連結会計年度末現在の連結会社における従業員数(セグメント情報に関連付けて記載)、提出会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数および平均年間給与(賞与を含む)」に加え、新たに以下の事項についても開示が義務化されることとなった。
2026年3月期決算から追加される人的資本開示の項目
① 連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略
② ①を踏まえた従業員給与等の決定方針(提出会社についての方針(※)に限定可)
③ 提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率
※ 提出会社が主として子会社の経営管理を行う会社である場合には、提出会社および最大人員会社(外国会社を除く連結子会社のうち、従業員数が最も多い会社(当該会社の従業員数が連結会社の従業員数の過半数を超えない場合には、次に従業員数の多い会社も含む))についての方針。
なお、提出会社が主として子会社の経営管理を行う会社である場合には、最大人員会社についての従業員給与の平均額、その前年比増減率等の記載も必要。
|
ここで留意すべきは、有報の提出会社が「主として子会社の経営管理を行う会社(ホールディングス等)」であるか否かによって、開示範囲が異なるということだ。開示項目の差異は下表のとおり(なお、下表における「給与」は、いずれも賞与を含む)。
ホールディングス等と非ホールディングスにおける開示項目
有報の提出会社が主として
子会社の経営管理を行う会社 |
左以外の会社 |
① 連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略
② ①を踏まえた従業員の給与その他の給付の額および内容の決定に関する方針(提出会社および最大人員会社についての方針に限定可)
③ 提出会社の従業員の平均年間給与の対前年比増減率
④ 最大人員会社の従業員数、平均年齢、平均勤続年数および平均年間給与およびその前年比増減率 |
① 連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略
② ①を踏まえた従業員の給与その他の給付の額および内容の決定に関する方針(提出会社についての方針に限定可)
③ 提出会社の従業員の平均年間給与の対前年比増減率 |
最大人員会社 : 外国会社を除く連結子会社のうち、従業員数が最も多い会社(当該会社の従業員数が連結会社の従業員数の過半数を超えない場合には、次に従業員数の多い会社も含む)を指す。外国の連結子会社を除くのは、国内と外国との物価の違い等を踏まえると、外国会社の併記委年間給与が必ずしも投資判断にとっ て有益な情報開示とはならない場合もあると考えられたため。
公開草案と確定版の大きな違いは、上表の「②給与決定方針」の範囲である。公開草案では提出会社がホールディングス等かどうかにかかわらず「提出会社に係るものに限定可」とされていたが、確定版では、主として子会社の経営管理を行う会社であれば、最低でも「提出会社および最大人員会社」についての方針開示が必要となった。これは、実態として子会社に従業員が集中しているホールディングス体制において、提出会社(ホールディングス)のみの方針開示では投資判断の情報として不十分であるという指摘(コメント144等)を受けたもの。
また、上表中の赤字の「従業員」には、「連結会社の事業活動の特性上、臨時従業員が果たす役割が重要である場合」には臨時従業員も含むことが明記されている。飲食業のようにアルバイトなしでは現場が回らないような業態の事業を営んでいる企業では、臨時従業員も含めて給与等の決定方針を開示する必要がある。現場の労働力に支えられている企業においては、実質的な賃上げがどの層に行き渡っているかを示す重要な指標となるだろう。
金融庁は改正開示府令の確定版とともに、「パブリックコメントの概要とコメントに対する金融庁の考え方」も公表している。パブリックコメントでは通常、改正案の記述内容の解釈に関する疑問が中心となるが、今回は下表のとおり、公開草案には記述が一切なかった「生成AI」に関するコメントが多数寄せられた点、注目される。
AI活用の進展と人材戦略について
| No. |
コメント |
金融庁の考え方 |
| 107 |
本改正案における人的資本開示の拡充、すなわち企業戦略と関連付けた人材戦略や従業員給与等の決定方針の開示を求める方向性自体には賛同する。
一方で、生成AIを始めとするAIツールの業務利活用が、短い時間軸の中で急速に進化・普及している現状を踏まえると、人的資本開示の実務が、旧来型の狭義の人材育成(知識習得、資格取得、座学中心の研修等)の拡充に過度に傾くことにより、日本企業のスピード感ある変革と成長をかえって阻害する「意図せざる結果」を招きかねないのではないかと懸念している。
人的資本開示は、本来、企業の成長戦略と人材戦略を連動させ、その実行状況を投資家に対して分かりやすく説明するための枠組みであると理解しており、その趣旨が十分に活かされるよう、生成AIの急速な進展を前提とした「人とAIの共生」の視点を、開示実務において損なわないことが重要であると考える。また、人的資本の量や質のみならず、テクノロジーとの組合せ方自体が企業価値創造の中核となりつつあることを踏まえれば、この点をどのように説明し得る枠組みとするかは、今後の日本企業の競争力にとっても重要な論点と考える。
そこで、人的資本開示の運用に関して、特に次の2点について、貴庁としての整理・考え方を示していただきたい。
1. 人的資本戦略の中に、生成AI等の活用を通じた業務プロセスの見直しや、人とAIの役割分担の再設計といった取組を含めることがあり得るのか、またその場合にどのような考え方で開示を行うことが適当と考えるのか。
2. 生成AI等を活用しないこと自体が、将来の競争力や生産性を毀損し得るリスクとなり得るという観点を、人的資本開示やサステナビリティ情報開示の枠組みの中でどのように位置付け得るのか。 |
本改正に賛同いただき、ありがとうございます。
なお、今回の開示府令の改正により人的資本の開示の充実を図る趣旨は、人的資本が中長期的な企業価値の向上のために不可欠な要素であり、人的資本に関する情報の充実は投資者が企業の成長可能性を判断するために重要であると考えられることにあります。
企業が置かれた状況は、各企業の業態や規模等によっても異なることから、ご指摘の生成AIの活用と人的資本戦略との関係といった特定の分野の開示の適否について、当庁として何等かスタンスをお示しすることはありません。
各企業によって、中長期的に企業価値を向上させていくために必要と考えられる人材戦略等が立案され、その内容を開示いただくことが、投資判断に資する情報開示につながるものと考えられます。 |
| 108 |
今回の人的資本開示に関する府令改正案は、経営戦略と関連付けた人材戦略の開示や、給与決定方針の説明の充実などを通じて、投資家にとって重要な情報を見える化しようとするものと理解しており、その方向性自体は大変意義深いと考えている。一方で、2022年頃から急速に普及した生成AI等のデジタル技術が、企業の業務や競争力、人材に与える影響の大きさを踏まえると、現行の改正案だけでは、投資家が実務上とても気にしている論点が十分に可視化されないのではないかという懸念も抱いている。
そのため、本意見では、特に人的資本開示のうち「人材戦略に関する基本方針等」及び「給与等の決定方針」に関して、生成AI等のデジタル技術と人材戦略の関係を、ガイドラインや記載例のレベルで明示していただきたいという点に絞って要望させていただく。
【要望事項】
1. 開示府令第二号様式記載上の注意(58-2)「人材戦略に関する基本方針等」や、開示ガイドライン、将来の記載例、Q&A等において、生成AI等のデジタル技術と人材戦略(人材ポートフォリオ、リスキリング、配置転換等)の関係を、非網羅的な「記載の観点・例示」として明示していただきたいこと。
2. 同(58-2)b「給与(賞与を含む。)その他の給付の額及び内容の決定に関する方針」の説明においても、生成AI等の活用とスキル獲得・職務再設計・業務改善への貢献などとの関係を開示し得ること、またそれが投資家の理解に資することを、例示として示していただきたいこと。
3. 上記1及び2の観点が、人的資本開示が本格適用される2026年3月期から、記載例やQ&A等の運用を通じて、投資家が企業間で比較可能な形で把握できるよう配慮していただきたいこと。 |
| 109 |
本改正案に基づく人的資本開示は、企業の将来価値創出力を評価する上で重要な情報を提供する一方で、生成AIを前提とした経営環境の変化を十分に反映できていない可能性があると考える。
以上の問題意識を踏まえ、長期機関投資家として、以下の点について金融庁の見解を伺う。
第一に、内閣府の人工知能基本計画が前提とする、生成AIを活用した事業横断的かつ非連続的な価値創出モデルと、本改正案における人的資本開示の基本的な考え方との間に生じ得る構造的な不整合について、金融庁としてどのように認識しているのかを明らかにしていただきたい。
第二に、人的資本開示が、事業部門別又はカンパニー制を前提とした人材戦略を固定化し、生成AIを前提とした全社的な組織再編、人材再配置、業務再設計を阻害する可能性について、制度設計上どのような配慮がなされているのかについて見解を伺う。
第三に、生成AIの進化により短期間で代替又は価値毀損が生じ得るスキルや職能への人的投資が、人的資本開示を通じて過度に正当化又は助長されるリスクを、長期的な資本配分及び企業価値評価の観点からどのように評価しているのかについて考え方を示していただきたい。
第四に、全社AI部門や横断的なAI活用組織が、人材戦略、組織設計、ガバナンス、評価制度にどのように組み込まれているのかについて、長期投資家が適切に評価可能となるような開示の在り方を、今後検討する考えがあるのかについて伺う。
第五に、人的資本開示が、政府全体のAI戦略が目指す生成AIを前提とした横断的かつ持続的な成長モデルと整合的に機能するよう、今後どのような補完、見直し、指針の明確化を想定しているのかについて、金融庁の中長期的な考え方を示していただきたいと考えます。 |
今回、AI関連のコメントが多数寄せられた背景には、AIエージェントの進化が企業の成長性に与える影響に対し、投資家の関心がかつてないほど高まっているということがある。米国では「AIリストラ」(生成AIを業務に導入することで、業務が効率化され、不要になった従業員が解雇されること)が話題となる一方、解雇規制の厳しい日本においては、いかにAIを活用して人的資本の生産性を向上させ、付加価値を最大化するかが人材戦略の肝となる。
AIエージェント : 目的(ゴール)を与えられると、自律的に判断・計画・実行を行うAIシステムのこと。AIエージェントの活用により、従来、従業員が行っていた業務の一部をAIエージェントに遂行させることが可能になる。
企業戦略においてAI活用を掲げておきながら、人材戦略や給与方針の文脈でAIへの言及が皆無であれば、投資家から企業戦略の信憑性を疑われるリスクがある。今回義務付けられた人材戦略や給与方針の開示への対応は、テクノロジーと従業員がどう共生し、それが企業の持続的な成長(ひいては賃金上昇)にどう繋がるのかという「経営のストーリー」を語る機会となるだろう。
今回の人的資本開示の見直しは、人材戦略や給与方針を、平均給与増減率といった指標・目標と結び付けて説明することを求めている点にも特徴がある。これは、SSBJ基準の一般基準における「戦略」と「指標・目標」という基本的な枠組み(企業が描く戦略と、その達成状況を測る指標を対応させて開示するという考え方)と軌を一にしている。他方、SSBJ基準やISSB基準では人的資本に特化したテーマ別基準は現時点で設けられていない。それにもかかわらず、今回の改正による人的資本開示は、2026年3月期からすべての有報提出会社に適用されることになる。
SSBJ基準 : SSBJ(Sustainability Standards Board of Japan=サステナビリティ基準委員会)が策定するサステナビリティ開示基準。SSBJ基準は、企業に共通して求められる基本的な開示事項を定める「一般基準」と、気候関連など個別テーマごとの具体的な開示事項を定める「テーマ別基準」に分かれている。一般基準では、企業のサステナビリティ情報を「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標・目標」の4要素で開示する構造を採用しており、このうち「戦略」は企業の中長期的な方針や取組の方向性を示すもの、「指標・目標」はその進捗や成果を測る具体的な数値や達成水準を示すものである。
ISSB基準 : 「International Sustainability Standards Board Standards」の略称で、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定する、企業の気候・環境、社会、ガバナンスに関する情報開示の国際基準。投資家向けに財務的影響を重視した開示を目的とする。
この点については、下表のとおり、「国際的整合性の観点から先行することは妥当ではない」「時期尚早である」といった批判的なコメントが多く寄せられた。これに対し金融庁は、現行のSSBJ基準に人的資本に関する個別開示基準が存在しない現状においてこそ、国内開示制度として一定の枠組みを整備することが投資者保護に資するとの考え方を示している。
SSBJ基準との関係を踏まえた批判的なコメント
| No. |
コメント |
金融庁の考え方 |
| 121 |
欧米でも求められない項目を、有報の開示要求事項として定めてしまっては、諸外国に比しわが国の開示が突出することになり、国際的整合性の観点からも望ましくない。日本固有の課題に関連する情報の開示は、日本企業のみに追加的な実務負荷を強いることに繋がるにもかかわらず、公の場での議論もなく、開示の目的や有用性も不明瞭なまま、先行して制度化することはリスクが伴う。 |
人的資本は、企業が中長期的な価値を向上させていくために極めて重要な要素であり、投資者が中長期的な企業価値を評価するための情報としての人的資本開示の重要性は高いと考えています。
なお、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」等の閣議決定文書においても人的資本開示の充実について指摘されています。
こうした経緯も踏まえ、今般内閣府令を改正し、有報等の法定開示書類において人的資本開示の充実を図ることとしたものです。 |
| 123 |
人的資本に関する開示基準は、今後国際的な議論において策定が検討されているものであり、現時点で、わが国の法定開示において、先行して拡充すべきではないと考える。今後の国際的な人的資本開示を取巻く検討状況を注視しつつ、SSBJにおいてわが国のサステナビリティ開示基準として検討を行うべきであり、その際には従来から存在する人的資本に類する指標(例えば管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異など)等、類似や重複する開示事項は無くす方向で検討いただきたい。 |
現状のSSBJ基準の個別開示基準としては人的資本開示の基準が定められていないこと、SSBJ基準の適用対象企業であるか否かにかかわらず、その開示の充実を図ることが投資者保護に資すると考えられることを踏まえ、内閣府令において開示を求めることとしたものです。 |
| 125 |
SSBJ基準適用企業は有報における人的資本に関する情報開示は、「サステナビリティに関する考え方及び取組」のみで行い、「従業員の状況等」での記載は任意とすることを提案する。
また、人的資本について求められる開示内容は内閣府令に準拠するのではなく、SSBJ基準に準拠して作成されることが適切と考える。 |
開示府令第二号様式の「人材戦略に関する基本方針等」の項目と「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載する事項に重複が生じる場合は、前者の項目において参照文言を付した上で、後者の項目にまとめて記載することも否定されるものではありませんので、その点を明確にするため、同様式記載上の注意(58-2)を修正しました(その逆については、同様式記載上の注意(30)cに規定あり。)。
なお、現状のSSBJ基準の個別開示基準としては人的資本開示の基準が定められていないこと、SSBJ基準の適用対象企業であるか否かにかかわらず、その記載の充実を図ることが投資者保護に資すると考えられることを踏まえ、内閣府令において開示を求めることとしたものです。 |
| 128 |
人材戦略に関する基本方針及び従業員の状況に関する開示について、サステナビリティの取組においてSSBJ基準を適用した会社が結果として同様の開示を行う場合、重複した開示が行われることになるため、当該記載事項の開示の省略を検討いただきたい。 |
開示府令第二号様式の「人材戦略に関する基本方針等」の項目と「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載する事項に重複が生じる場合は、前者の項目において参照文言を付した上で、後者の項目にまとめて記載することも否定されるものではありません。その点を明確にするため、同様式記載上の注意(58-2)を修正しました(その逆については、同様式記載上の注意(30)cに規定あり)。 |
また、2026年1月21日のニュース「平均給与増減率の開示が企業に迫る対応」でお伝えしたとおり、給与総額と従業員数という単純な関係で算出される「平均給与」が独り歩きすることへの不満を述べるコメントも多数寄せられている。代表的なコメントは下表のとおり。
平均給与の対前事業年度増減率の開示義務付けに批判的なコメント
| No. |
コメント |
金融庁の考え方 |
| 175 |
「従業員の平均給与の対前事業年度増減率」を開示する提案に反対する。平均給与の増減は、ベースアップ等の処遇改善以外にも、業績連動賞与の増減といった業績による要因、事業移管、M&Aなどによる人員構成の変化、若手社員の積極採用(平均値の押し下げ)、定年退職者の増減など、構造的な要因に強く影響を受ける。単なる増減率の数値のみでは、企業の賃上げ努力や人材競争力が正当に評価されないばかりか、構造変化と処遇改善が混同され投資家に誤解を与えるリスクが高い。(後略) |
従業員の平均年間給与の対前事業年度増減率は、給与等の額及び内容の決定方針がどのように平均年間給与に反映されているかを時系列で確認する上で有用な情報であると考えています。
なお、業績の影響等により、給与等の額及び内容の決定方針と実際の平均年間給与の推移とに差異が生じることも考えられますが、その場合には、必要に応じて、その旨を注記することも考えられます。 |
| 151 |
「平均給与の前年比増減」については、人員構成の変化による影響もあるため、原則は平均値としつつ、中央値をとることも容認されるとする考え方もあるが、その点のご見解をお伺いしたい。 |
同様式記載上の注意(58-3)bの従業員の平均年間給与の対前事業年度増減率については、当事業年度と前事業年度の平均年間給与の差額を前事業年度の平均年間給与で除する方法により算出する必要があります。その上で、投資情報として有益と考えられる場合には、年間給与の中央値とその対前事業年度増減率を注記することも否定されるものではありません。 |
このほか、実務対応に直結する技術的な論点についても、疑問・質問を含む多くのコメントが寄せられている。開示担当取締役としては、開示方針を部署に指示する前に、一読しておくことが有益であろう。
技術的論点についてのコメント
| No. |
コメント |
金融庁の考え方 |
| 126 |
人的資本に関して、「サステナビリティに関する考え方及び取組」や「人材戦略に関する方針」と記載箇所が複数あり、どちらに何を記載するのか棲み分けが難しい。具体的な記載例の掲示を要望する。 |
開示府令第二号様式の「人材戦略に関する基本方針等」の項目と「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目に記載する事項に重複が生じる場合は、参照文言を付した上で、いずれかの項目にまとめて記載することも否定されるものではありません。投資者の理解の向上の観点からより望ましいと考えられる項目に記載いただくことが可能です。
なお、記載例をお示しすることについては、各企業の実態に応じた人的資本開示の充実を図る観点から必ずしも適当でないと考えられます。
当庁においては、2025年12月にも人的資本の好事例集の公表を行っているところですが、引き続き、好事例集の収集・公表等を通じて、人的資本開示の浸透に努めてまいります。
[参考]
2025年12月25日『「記述情報の開示の好事例集2025(サステナビリティ情報の開示)」の公表』
『2.「人的資本、従業員の状況」の開示例』 |
| 136 |
「連結会社の人材戦略を連結会社の経営方針・経営戦略等に関連付けて、具体的に記載すること。」に関して、連結ベースでの開示の中身については各社方針に委ねられているのか、あるいは一定の基準が求められているのかが不明瞭であり、具体的な記載例の掲示を要望する。 |
人的資本は企業の中長期的な企業価値の向上にとって極めて重要な要素であると考えられるところ、各社において立案されていると考えられる、経営方針・経営戦略等と関連付けた人材戦略について開示することが求められます。経営方針・経営戦略等に関連付けた人材戦略は会社によって区々であり、また、各企業の実態に応じた人的資本開示の充実を図る観点からは、記載例をお示しすることは適当でないと考えられます。
なお、当庁においては、2025年12月にも人的資本の好事例集の公表を行っているところですが、引き続き、好事例集の収集・公表等を通じて、人的資本開示の浸透に努めてまいります。 |
| 137 |
新たに開示が求められる「従業員給与等の決定方針」については、投資者が企業の成長可能性を判断するために有用となる情報を提供することが目的であると認識しており、具体的な開示内容については、発行者において上記の目的に照らして適切に記載することが求められているという理解でよいか。
上記が正しい場合、自社の開示内容の参考とするため、記載内容の観点を例示いただきたい。 |
ご理解のとおりです。
なお、従業員給与の額及び内容の決定に関する方針は企業によって区々であり、「記載内容の観点」をお示しすることについては、各企業の実態に応じた人的資本開示の充実を図る観点から適当でないと考えます。
なお、当庁においては、2025年12月にも人的資本開示の好事例集の公表を行っているところですが、引き続き、好事例集の収集・公表等を通じて、人的資本開示の浸透に努めてまいります。 |
| 138 |
「人材戦略」の記載範囲が抽象的であり、戦略全般を対象とするのか、特定テーマに関する戦略を対象とするのかが不明確であるため、ガイドライン等において明確化いただきたい。もしくは、各企業の判断に委ねられるのであれば、その旨明示いただきたい。 |
人材戦略については、開示府令第二号様式の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の項目に記載した経営方針・経営戦略等と関連付けて記載する必要があります。 |
| 140 |
第二号様式の記載上の注意(58-2)aにおいて新たに記載が求められる「人材戦略」とは具体的にどのような内容か。例えば、人材を重視する理由、獲得目標となる人材の量・種類・獲得方法や、人材の育成方法、人材の定着のための施策などから提出会社が重要と考える事項を記載すればよいか。 |
一般的には、ご指摘のようなものが含まれると考えられますが、開示府令第二号様式の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の項目に記載した連結会社全体の経営方針・経営戦略等と関連付けて記載する必要があります。
なお、当庁においては、2025年12月に人的資本に関する好事例を公表しておりますので、ご参照ください。 |
| 141 |
第二号様式記載上の注意(58-2)bにおける給与の決定に関する方針とは具体的にどのような内容か。例えば、基本給・賞与といった給与の構成、ジョブ型か職務能力型かといった給与の考え方、給与水準のベンチマーク、給与の決定プロセスなどを必要に応じて記載すればよいか。 |
一般的には、ご理解のとおりです。
なお、「役員の報酬等」の項目の記載内容を参考にすることも考えられます。 |
| 142 |
第二号様式の記載上の注意の(58-2)bの「その他の給付の額及び内容」とは具体的にどのような内容か。例えば、特徴的な福利厚生制度、従業員持株制度、ストック・オプション制度、従業員向けの株式報酬制度なども含まれるか。 |
「給与その他の給付の額」と「給与その他の給付の内容」の「決定に関する方針」について記載することとなります。
給与に加え、福利厚生等の目的でストック・オプション等を付与する仕組があれば、その方針についても記載することが考えられますが、全ての「給与その他の給付」について網羅的に記載することまで求められるものではありません。 |
| 146 |
連結会社の範囲について、個々の連結子会社における人材戦略を全て開示する場合、開示が過度に煩雑となるおそれがあるため、グループ全体の人材戦略又は人材戦略上重要な連結会社に絞った開示等の対応を許容いただきたい。 |
人材戦略については、連結子会社ごとに記載することを求める趣旨ではありません。
開示府令第二号様式の「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の項目に記載した連結会社全体としての経営方針・経営戦略等と関連付けて、連結会社全体としての人材戦略を記載することになります。 |
| 151 |
「給与等の決定方針」について、どの様な記載が求められるか明示いただきたい。例えば、春季労使交渉や給与委員会などでの議論や検討経緯、その結果等を記載することが考えられるのか、ご見解をお伺いしたい。 |
一般には、同様式記載上の注意(58-2)aの給与等の額及び内容の決定に関する方針について、企業の方針として対外的に説明可能な内容を記載すれば足り、社内外における検討の経緯やその結果を逐一記載する必要はないと考えられます。 |
| 164 |
(前略)「子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社」とは、提出会社の総資産に占める子会社の株式の比重が50%を超える会社をいうのか。 |
「子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社」という表現は、開示府令第二号様式記載上の注意(33)f、(58)gにおいて既に使用されており、実務上も機能しているものと理解しておりますが、提出会社の事業会社としての実態に即して実質的に判断することとなります。
なお、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第9条第4項第1号に規定する「持株会社」の要件を満たさない場合であっても、「子会社の経営管理を行うことを主たる業務とする会社」に該当する場合があるものと考えられます。 |