2023/10/11 温室効果ガス排出量の開示、スコープ3を巡るリスク

周知のとおり、2015年にフランス・パリで開催された第21回「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP21)において、地球の気温の上昇を1.5度以内に抑えるという温室効果ガス排出量削減に関する世界的な取り決めである「パリ協定」が採択され、翌年から発効されている。このパリ協定は同じく2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)と呼応して、世界的な潮流となっている。各国は温室効果ガス排出量の削減目標を設定し、日本を含む多くの国が、2050年までに「ネットゼロ」を達成することを宣言している。ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量から、森林等による温室効果ガスの吸収量を差し引いた量を正味ゼロにするというものだ。


SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

こうした世界的な潮流に金融機関も反応、2021年には金融機関によるネットゼロを目指す団体「グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero=GFANZ)」が発足している。この下部組織には、アセットオーナー(年金基金や保険会社)により構成される「Net Zero Asset Owners Alliance=NZAOA」やアセットマネージャー(運用会社)により構成される(Net Zero Asset Managers Initiative= NZAM)があり、2023年6月現在で NZAOAには86社、NZAMには315社が加盟しているが、これらの団体に加盟するアセットオーナーやアセットマネージャーが今後日本の上場企業に対しも、「ネットゼロ」を求めエンゲージメントを本格化させる可能性が高まっている。

エンゲージメントのポイントは二つある。一つは、・・・

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2023/10/11 温室効果ガス排出量の開示、スコープ3を巡るリスク(会員限定)

周知のとおり、2015年にフランス・パリで開催された第21回「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP21)において、地球の気温の上昇を1.5度以内に抑えるという温室効果ガス排出量削減に関する世界的な取り決めである「パリ協定」が採択され、翌年から発効されている。このパリ協定は同じく2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)と呼応して、世界的な潮流となっている。各国は温室効果ガス排出量の削減目標を設定し、日本を含む多くの国が、2050年までに「ネットゼロ」を達成することを宣言している。ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量から、森林等による温室効果ガスの吸収量を差し引いた量を正味ゼロにするというものだ。


SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

こうした世界的な潮流に金融機関も反応、2021年には金融機関によるネットゼロを目指す団体「グラスゴー金融同盟(Glasgow Financial Alliance for Net Zero=GFANZ)」が発足している。この下部組織には、アセットオーナー(年金基金や保険会社)により構成される「Net Zero Asset Owners Alliance=NZAOA」やアセットマネージャー(運用会社)により構成される(Net Zero Asset Managers Initiative= NZAM)があり、2023年6月現在で NZAOAには86社、NZAMには315社が加盟しているが、これらの団体に加盟するアセットオーナーやアセットマネージャーが今後日本の上場企業に対しも、「ネットゼロ」を求めエンゲージメントを本格化させる可能性が高まっている。

エンゲージメントのポイントは二つある。一つは、温室効果ガス排出量の開示だ。温室効果ガス排出量はスコープ1、スコープ2、スコープ3の三つに分類され、スコープ1とは企業内で直接排出される温室効果ガス、スコープ2とは企業が使用している社外の間接的な温室効果ガス、スコープ3とはサプライチェーン全体の排出量から、スコープ1とスコープ2の排出量を差し引いたものを指すが、現状、このスコープ3を把握している日本企業は極めて少ない。逆に言えば、今後多くの日本企業が、NZAOやNZAMに加盟しているアセットオーナーやアセットマネージャーから、スコープ3の数値を求められる可能性が高い。スコープ3は算出するのが非常に難しいが、スコープ1やスコープ2の排出量よりも大きい場合が多く、投資家にとって非常に重要な指標となるからだ。


スコープ1、スコープ2、スコープ3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。 スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。 スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。

もう一つのエンゲージメントのポイントは、実際に温室効果ガス排出量の削減を求められることである。「今後の削減計画」等の提出を求められ、提出後はそのモニタリングもされる。特に温室効果ガス排出量の大きいエネルギー、鉄鋼、運輸産業などは間違いなくターゲットとされるだろう。アセットオーナーやアセットマネージャーには温室効果ガスの削減に資する投資が求められるため、まずは排出量の大きい産業や企業に対し、エンゲージメントによって、排出量を減らすよう働きかけてくる。ポートフォリオ全体へのインパクトが大きいためだ。仮にエンゲージメントが成功しなかった場合には、株式を売却して、ポートフォリオ上、排出量を減らすという行動をとることが予想される。

さらに問題となるのは、前述したスコープ3の存在である。多くの企業が、この数値を開示していないため、投資家はデータベンダーからこの数値を入手する。データベンダーは推定式によりスコープ3を算出しているため、実際の数値とは乖離があることは十分にありうる。また、データベンダーは推定式を変更する場合があり、その結果、推定値自体も変化してしまう。それでも投資家は、この推定値によって企業にエンゲージメントを行わざるをえない。このように非常に不安定な数値に基づきエンゲージメントが行われ、場合によっては投資の引揚げが行われるリスクがあることを、企業は認識しておく必要がある。こうした事態を避けるためには、できるだけ早く、自社の正確なスコープ3を把握することが求められよう。


データベンダー : 投資家等に対し、企業のESGへの対応状況について収集した情報や、それに基づくESG格付けなどを提供する事業者。

2023/10/10 WEBセミナー『2023年内部統制報告制度の改訂』配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2023年10月10日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
2023年内部統制報告制度の改訂 EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
菅沼 淳(すがぬま あつし)様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
米国における企業改革法(サーベンス・オクスレー法、SOX法)の導入を受け、わが国でも金融商品取引法(以下、金商法)が改正され、2008年度に「内部統制報告制度」(J-SOX)が導入されてから早や15年が経過しました。これにより、上場会社では自社の業務の流れの中に構築した内部統制を見える化し、それを評価した結果を開示する実務が定着したものの、実際には内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例などが散見されています。そのような事例に対応するためにJ-SOXの実務上の根拠となる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会)が改訂され、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなりました(なお、今回の大改訂で内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」(財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること)が「報告の信頼性」(組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。)の信頼性を確保すること)に拡張されていますが、金商法が要求する内部統制の評価対象は、財務報告の信頼性であることに変更はありません)。
本セミナーでは、EY新日本有限責任監査法人の公認会計士 菅沼 淳 様をお招きして、今回の大改訂のポイントとともに、内部統制報告制度基本的枠組みや評価範囲・評価の方法などについて丁寧に解説していただきます。
講師のご紹介 菅沼 淳(すがぬま あつし)様
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/70522/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/BxmrmfCnrnrDMUKx8

<収録月>
2023年10月

<収録時間>
1時間1分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2023/10/10 【WEBセミナー】『2023年内部統制報告制度の改訂』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年10月10日
米国における企業改革法(サーベンス・オクスレー法、SOX法)の導入を受け、わが国でも金融商品取引法(以下、金商法)が改正され、2008年度に「内部統制報告制度」(J-SOX)が導入されてから早や15年が経過しました。これにより、上場会社では自社の業務の流れの中に構築した内部統制を見える化し、それを評価した結果を開示する実務が定着したものの、実際には内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例などが散見されています。そのような事例に対応するためにJ-SOXの実務上の根拠となる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会)が改訂され、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなりました(なお、今回の大改訂で内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」(財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること)が「報告の信頼性」(組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。)の信頼性を確保すること)に拡張されていますが、金商法が要求する内部統制の評価対象は、財務報告の信頼性であることに変更はありません)。
本セミナーでは、EY新日本有限責任監査法人の公認会計士 菅沼 淳 様をお招きして、今回の大改訂のポイントとともに、内部統制報告制度基本的枠組みや評価範囲・評価の方法などについて丁寧に解説していただきます。

【講師】
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
菅沼 淳(すがぬま あつし)様

セミナー資料 2023年内部統制報告制度の改訂.pdf
セミナー動画

2023年内部統制報告制度の改訂

70522

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2023/10/10 【WEBセミナー】2023年内部統制報告制度の改訂(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年10月10日

米国における企業改革法(サーベンス・オクスレー法、SOX法)の導入を受け、わが国でも金融商品取引法(以下、金商法)が改正され、2008年度に「内部統制報告制度」(J-SOX)が導入されてから早や15年が経過しました。これにより、上場会社では自社の業務の流れの中に構築した内部統制を見える化し、それを評価した結果を開示する実務が定着したものの、実際には内部統制の評価範囲の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例や内部統制の有効性の評価が訂正される際に十分な理由の開示がない事例などが散見されています。そのような事例に対応するためにJ-SOXの実務上の根拠となる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会)が改訂され、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとなりました(なお、今回の大改訂で内部統制の目的の一つである「財務報告の信頼性」(財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること)が「報告の信頼性」(組織内及び組織の外部への報告(非財務情報を含む。)の信頼性を確保すること)に拡張されていますが、金商法が要求する内部統制の評価対象は、財務報告の信頼性であることに変更はありません)。
本セミナーでは、EY新日本有限責任監査法人の公認会計士 菅沼 淳 様をお招きして、今回の大改訂のポイントとともに、内部統制報告制度基本的枠組みや評価範囲・評価の方法などについて丁寧に解説していただきます。

【講師】
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士
菅沼 淳(すがぬま あつし)様

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2023/10/06 社長の交際費に対する内部統制のあり方

部下の交際費を直属の上司がチェックするという内部統制は上場会社であればどこでも行われているが、社長には上司が存在しないため、社長が使った交際費を誰がどのようにしてチェックするのか、各社頭を悩ませていることだろう。交渉の最終局面で社長が相手方のトップに対して行うトップセールスは契約締結に向けて大きな推進力を持つことから、それに費やした費用を会社が精算することに異論を唱える者はいないが、事業に関連しない社長のプライベートな飲食費やゴルフ代などは社長個人が負担すべきであることは言うまでもない。もっとも、仮に社長が個人で負担すべき交際費の領収書を会社に提出し精算を求めたとしても、その内容を完全に把握したうえで精算を拒絶できる仕組みが機能している上場会社は多くない。・・・

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2023/10/06 社長の交際費に対する内部統制のあり方(会員限定)

部下の交際費を直属の上司がチェックするという内部統制は上場会社であればどこでも行われているが、社長には上司が存在しないため、社長が使った交際費を誰がどのようにしてチェックするのか、各社頭を悩ませていることだろう。交渉の最終局面で社長が相手方のトップに対して行うトップセールスは契約締結に向けて大きな推進力を持つことから、それに費やした費用を会社が精算することに異論を唱える者はいないが、事業に関連しない社長のプライベートな飲食費やゴルフ代などは社長個人が負担すべきであることは言うまでもない。もっとも、仮に社長が個人で負担すべき交際費の領収書を会社に提出し精算を求めたとしても、その内容を完全に把握したうえで精算を拒絶できる仕組みが機能している上場会社は多くない。

しばしば社長の不正な交際費の支出が判明する契機となるのが、内部通報制度だ。例えば東芝(東証プライム)では、同社の代表執行役副社長COOの柳瀬氏が東芝エネルギーシステムズ株式会社の取締役パワーシステム事業部副事業部長の地位にあった2019年当時、継続的に同社グループのルールに反して会食の相手方を正確に申請せずに交際費を精算していたことが複数の内部通報をきっかけに判明したとして、2023年2月14日付で執行役および代表執行役を辞任している(辞任に関する東芝のリリースはこちら)。東芝の取締役会は、当該行為は同社取締役・執行役就任以前のものではあるものの、責任ある立場にあり部下の範となるべき者の行動としては適切とは言えず、同氏が「トップマネジメントとして当社の経営に携わり続けることは、健全なガバナンス体制の維持・構築を最優先とする当社の経営にとって望ましくない」との結論に至ったとして、同氏からの執行役および代表執行役の辞任の申し出を受理している。

また、カメラレンズメーカーのタムロン(東証プライム)では、代表取締役社長の鯵坂氏が出張に第三者女性を同伴させ、会社経費を私的に流用していたことが内部通報で発覚し、2023 年 8 月 22 日 に辞任に追い込まれた(タムロンの事例の詳細については【失敗学第110回】タムロンの事例 を参照)。本件では、鯵坂氏の経費支出を管理していた管理本部担当の常務取締役(当時)の(不作為を含む)関与が疑われており、現在、特別調査委員会が調査している。

このように内部通報制度は社長の交際費不正を把握する機能を持ちうるとはいえ、常に通報を期待できるわけでもない。社長の交際費に対するチェック体制は、あくまで内部通報以外の日常的な内部統制の強化で実現するのが本筋と言える。その一例として参考になるのが、TOKAIホールディングスの取組みだ。TOKAIホールディングスでは会社の費用で出張コンパニオンを呼び混浴をするなど明らかに私的な経費支出が常態化していた代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の鴇田(ときた)氏を、2022年9月15日に開催された取締役会で代表取締役社長の地位から解職することもに(TOKAIホールディングスの事例については2022年12月23日のニュース「“従順”な取締役が反旗を翻してCEOを解職」を参照)、現在、経費の不適切使用が起こらないよう再発防止策をとりまとめている。

TOKAIホールディングスが打ち出した再発防止策は下表のとおり(同社が2023年9月21日に公表した「再発防止策の推進状況について」参照)。

社長交際費についての内部統制
担当 時期 チェック体制
社長 事前 社長室に対して交際費使用を事前申請
社長 事後 社長室に対して交際費使用を事後報告
社長室の事務担当者 事後 事前申請の内容と請求書や領収書を照合
社⻑室担当役員 事後 事業に関連する支出であるかどうかを判断
グループ監査室 毎年 社⻑室に対する監査(社⻑室におけるセルフチェックの状況の監査)を実施
グループ監査室 監査実施後 監査結果を取締役会に報告

ただし、単なる書類の照合・確認だけではチェックが不十分なものとなる可能性がある。特に社長の交際の相手方が多岐にわたる場合、交際の状況は部下からは容易にうかがい知れないからだ。そこでTOKAIホールディングスでは、社長の業務上のスケジュールをグループの役員と一部の従業員に対してグループウェア(社内電子掲示板)で開示するようにし、モニタリングの実効性向上を図っている。広く開示すべきではない用件(例えば水面下で進んでいる事業提携の案件や私的な用件など)は開示しないものの、少なくとも社⻑室および総務部担当役員は社長の動向を把握できるようにして、交際の状況がブラックボックス化するのを防いでいる。さらに、「交際費等管理規程」「役員等旅費規程」「役員等海外出張旅費規程」などの社内規程を見直し、精算時のルールの明確化を図っている。

もちろん、交際費不正の可能性があるのは社長だけではない。TOKAIホールディングスでは、社長以外の全役員にも事前申請と事後報告を徹底させるとともに、RPAを用いて使用日、場所、金額などを月次でリスト化してチェックするといった統制も加えている(RPAについては【役員会 Good&Bad発言集】RPAの導入 を参照)。


RPA : RPAとはRobotic Process Automationの略で、「ロボットによる業務プロセスの自動化」を指す。

接待交際に用いたコストは会計上「交際費」だけでなく「会議費」「福利厚生費」「諸会費」「寄付金」「取材費」など様々な費目に計上される可能性があることから、人手によるチェックには手間がかかる。RPAを使い横断的にリスト化させることは、人的リソースが限られる中、コストパフォーマンスの良い内部統制と言えるだけに、導入を検討してみてもよいだろう。

2023/10/05 ラクスル新社長の報酬「10年300億円」から見える経営トップの任期のあり方

ラクスルの新社長に対する報酬パッケージが10年で300億円にも及ぶ(ただし、全ての条件を達成した場合)という報道に衝撃を覚えた上場企業の経営陣も多いことだろう。報酬の大部分は株式報酬(本人による取得分も含む)で構成されており、日本では非常に限定的な事例と言えるが、米国に目を向けると、有名企業のいくつかでは同様の事例が確認できる。例えばアップル社のティム・クック氏のCEOに就任時(2011年)には100万株のRSUが臨時付与されたほか(5年後に50%が権利確定、10年後に残りの50%が権利確定するという設計)や、テスラ社のイーロン・マスク氏は最終的に数千億円規模と推計される報酬パッケージ(時価総額の伸長や事業上のマイルストーン達成を条件とするストックオプション)を手にしている。このように日本の上場企業には珍しいアスクルの事例では、どうしても報酬額(300億円)の高さに目が行ってしまいがちだが、実は本事例にはもう一つ、“普通の日本の上場企業”にはない特徴がある。それは、・・・


RSU : 譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)には、株式交付のタイミングによって、「事前交付型」(リストリクテッド・ストック(略称:RS))と「事後交付型」(リストリクテッド・ストック・ユニット(RSU))に分けられる。事前交付型は、取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行い(この時が会社法上の「割当日」に該当)、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。事後交付型とは、取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

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2023/10/05 ラクスル新社長の報酬「10年300億円」から見える経営トップの任期のあり方(会員限定)

ラクスルの新社長に対する報酬パッケージが10年で300億円にも及ぶ(ただし、全ての条件を達成した場合)という報道に衝撃を覚えた上場企業の経営陣も多いことだろう。報酬の大部分は株式報酬(本人による取得分も含む)で構成されており、日本では非常に限定的な事例と言えるが、米国に目を向けると、有名企業のいくつかでは同様の事例が確認できる。例えばアップル社のティム・クック氏のCEOに就任時(2011年)には100万株のRSUが臨時付与されたほか(5年後に50%が権利確定、10年後に残りの50%が権利確定するという設計)や、テスラ社のイーロン・マスク氏は最終的に数千億円規模と推計される報酬パッケージ(時価総額の伸長や事業上のマイルストーン達成を条件とするストックオプション)を手にしている。このように日本の上場企業には珍しいアスクルの事例では、どうしても報酬額(300億円)の高さに目が行ってしまいがちだが、実は本事例にはもう一つ、“普通の日本の上場企業”にはない特徴がある。それは、そもそも日本の経営トップが10年在任すること自体が稀である中、新社長が「次の10年」に対するコミットメントを、自身の報酬で表明している点だ。


RSU : 譲渡制限付株式報酬(リストリクテッド・ストック)には、株式交付のタイミングによって、「事前交付型」(リストリクテッド・ストック(略称:RS))と「事後交付型」(リストリクテッド・ストック・ユニット(RSU))に分けられる。事前交付型は、取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行い(この時が会社法上の「割当日」に該当)、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。事後交付型とは、取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

日本企業には、指名委員会(任意のものを含む。以下同)の設置が普及する遥か前から、「役員定年」という内規・慣例がある。具体的には、(1)役位別に定年(退任年齢)を設けるケース(例:会長は70歳、社長は66歳、専務は・・・といった定め)、(2)最長在任年数を設けるケース(例:各役位につき最長6年間)、あるいはそれらの組み合わせといったものだ。こうした内規・慣例は、指名委員会の設置前から存在していたことからも分かるように、経営トップの重任・解任という「判断」から逃げるための消極的な仕組みと言える。また、従来は、定年の定めがないと「いたずらにその地位に留まってしまうこと」が懸念されていたが、指名委員会や取締役会が実効的に機能している企業であれば「いたずらに留まる」状況となることは考えにくく、「役員定年」という仕組みは既に役割を終えたと言える。

経済産業省に設置された経済産業政策新機軸部会は、「数年間で順繰りにCEOを務める慣行の企業も多い」と指摘したうえで、「社内で改革を遂行するためにはトップが変われば後戻りできると思わせないことが重要」との考えを示すとともに、「CEOの任期を想定せず中長期の価値創造にコミットできるようにすべき」「CEOの『任期』の廃止と就任年齢の若返りにより、CEOが精力的に経営戦略を実現できる期間を確保し、 CEOはパフォーマンス等で不断に評価されるべきではないか」と提言している(同部会の「中間整理」35ページ参照)。中間整理の参考資料では、日本企業を米国企業と比べた場合、CEO就任年齢が高齢で、また在任期間も短いという傾向が示されている(日本のCEOは57.5歳で就任、米国CEOは46.8歳で就任。日本のCEOは5.1年在任、米国CEOは13.4年在任。38ページ参照)。

日本の上場企業は今こそ、報酬委員会・指名委員会の両委員会が実効性の高い議論を行い、自由度が高く、機動的な処遇を推し進めていくうえで、「役員定年」の内規・慣例について課題の棚卸を行うべきだろう。独立性が問われる社外役員を除き(2023年8月18日のニュース「社外役員の在任期間12年問題、高まる再任議案の否決リスク」参照)、役員の任期・定年という短い“バトンパス”による就退任プロセスは見直す時期に来ていると言えそうだ。

2023/10/04 「送料無料」の表示を巡るせめぎあいの行方

コロナ禍が一段落し、内需、インバウンド需要がともに拡大するなど、経済の回復傾向が本格化する中、それに影を落としているのが「物流の2024年問題」()だ。この問題は、2024年4月より自動車の運転業務の時間外労働規制が適用されることなどを契機として輸送力が不足し(物流の停滞)、それが経済発展のボトルネックになる可能性があることを指す。

 2024年4月より、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)に基づき、自動車の運転業務の時間外労働の上限が年間960時間とされる。その結果、輸送力が不足する(何も対策を講じなければ、2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足が発生しうる)こととなり、現在のような物流体制を維持できなくなる可能性がある。

「物流の2024年問題」の解決に向け物流業界が期待しているのが、ECサイトなどにおける「送料無料」の表示の禁止だ。物流業界が「送料無料」の表示を嫌うのは以下理由による。・・・

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