コロナ禍が一段落し、内需、インバウンド需要がともに拡大するなど、経済の回復傾向が本格化する中、それに影を落としているのが「物流の2024年問題」(*)だ。この問題は、2024年4月より自動車の運転業務の時間外労働規制が適用されることなどを契機として輸送力が不足し(物流の停滞)、それが経済発展のボトルネックになる可能性があることを指す。
「物流の2024年問題」の解決に向け物流業界が期待しているのが、ECサイトなどにおける「送料無料」の表示の禁止だ。物流業界が「送料無料」の表示を嫌うのは以下理由による。
| ・荷物を消費者に届けるためには様々なコストがかかっている。送料は運送の対価として収受するものであり「無料」ではない。「無料」で荷物を運んでいる運送事業者は存在せず、誰かが必ず負担している以上、「無料」は虚偽表現である。 ・燃料価格、⾞両価格、⼈件費などが上昇し、価格転嫁が必要となっており、これらの価格転嫁を荷主に理解してもらうためには、荷主の先にいる「消費者」の理解が⽋かせないが、「送料無料」という⾔葉が物流に対する消費者のコスト意識をないものにし、「輸送にはコストがかからない」という間違った考え⽅を消費者に植えつけることになる。 ・「送料無料」の表現により業界の地位が著しく低下し、物流業界の⼈⼿不⾜にも繋がっている。 ・「送料無料」表示は物流を軽く見ていることの現れであり、その結果、物流事業者が荷主より適正な運賃・料金を収受できていない。 ・「送料無料」表示が原因でまとめ発注をするインセンティブがなくなるため注文が少量多頻度となり、運送の無駄を生み、コストが増える要因になっている。 |
こうした物流業界の声を受け、消費者庁は「送料無料」表示の見直しに乗り出している。2023年6月23日から9月22日にかけて『「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会』(以下、意見交換会)を7回開催し、物流業界と荷主(EC業者)などを呼び、意見を聴取した。
まず物流業界は「送料無料」表示を廃止し、代替表現(送料がかかっていることが分かる表現)として下記を提案している。
| 「送料は当社にて負担します」 「送料は〇〇円いただきます」 「送料は別途負担いただきます」 |
もっとも、荷主側は「送料無料」の表示をやめることは困難との立場を崩していない。実際、意見交換会では荷主側から以下のような反論が相次いだ。
| 一般社団法人セーファーインターネット協会 | ・「送料●円」表記にしたとしても、必ずしも実際の運賃が●円という意味ではなく、運賃のうち●円は買主に負担してもらうという意味であり、これを超えた分は売主が負担している(買主へのサービス)。 ・「送料無料」表示のある商品の方が、「送料●円」表示のある商品よりも注文が多い。一般的に、消費者にとって送料無料の商品同士の方が価格の比較がしやすい。 ・物流業界が主張する「運賃・料金が消費者向けの送料に適正に転嫁・反映されていない」「送料無料表示により、消費者が運賃・料金が発生していないという誤解をしている」との事実は存在するのか。 ・「送料無料」表示が、物流事業者が荷主より適正な運賃・料金を収受できていない原因となっていると言える根拠はあるのか。 |
| 新経済連盟 | ・消費者は購入時の「送料」に敏感であり、送料無料表示で購入単価の向上・売上の向上・消費者の満足度の向上などが見込める。 ・「送料別」として別途請求している場合でも、運賃実費とは必ずしも一致しておらず、一部は販売事業者が負担していることも多い(例:「全国一律送料」として配送地域やサイズに関わらず同一額を送料として請求しているケース) ・EC事業者は宅配便の料金を値上げされても、商品価格の見直しやその他のコスト削減等企業努力で送料無料サービスを維持している。 ・物流の担い手が色々とご苦労されていることは理解するが、送料無料表示が原因だとする主張には合理的根拠がないと言わざるを得ず、表示を変えても問題解決につながるイメージが無い。 |
| 日本通信販売協会 (JADMA) |
・通販事業者は配送費の値上げ要請に応じてきている。 ・「消費者の理解度が低く流通コストが発生していないと誤解される」という論調に疑問。この規制が物流業界の人手不足に対しどのような影響があるのか疑問。 ・送料無料表示を見直すかどうかは事業者の選択に委ねつつ、送料無料表示をやめ、適切な物流コスト負担を表示する事業者にインセンティブを与える奨励策も考えられる。 ・送料無料表示を禁止しても、結局は「送料1円」「送料分ポイント還元」など不適正な競争に陥るだけである。 ・Web通販は「送料無料」にしないと検索上位に表示されない等の事情がありやむなく送料無料にしている。 ・通信販売事業者によっては取扱い商品が多岐に渡り、商品によって送料が弊社負担、または仕入先負担(メーカー負担)のケースがあり、一概に「送料弊社負担」とは言いきれない状況となっている。 |
また、意見交換会では、「仮に規制するとしたら」という条件付きで、荷主側から以下のような提案があった。
| 一般社団法人セーファーインターネット協会 | ・仮に「送料無料」表示の見直しに取り組む場合には、国内で営業する全事業者が一斉に服するルールとして、かつ、表現の幅は広く認める(「送料込み」「送料当社負担」「送料●円」など)ルールとすべき。 |
| 新経済連盟 | ・消費者の輸送コストへの意識を変えるのであれば、直接的に消費者に輸送コストについて周知啓発する方が効果を期待できる。 |
| 日本通信販売協会 (JADMA) |
・送料無料が消費者に広まっている要因は、消費者の利用が圧倒的に多い大手ECモールが出店者の負担のもとに送料無料をうたっていることや、小売以外のサブスクリプション型サービスを含む有料会員制度によって運送コストを回収することで送料無料をうたっていることなどが考えられる。まずはそういったサービスを提供している事業者を対象に限定的な規制をすべきである。 ・もし法律で「送料無料表示」を禁止するのであれば、相応の準備期間を用意し、各種チラシやCM広告の修正などの変更費用を補助すべき。万が一、法規制化を検討する場合は「送料弊社(社名)負担」等、コスト負担を表示するよう求める規制を希望。 ・通販事業者だけでなく、プラットフォーマー、配送サービス無料をうたう店舗型小売業者も規制対象に含め、公正な競争環境を実現して欲しい。 |
意見交換会を経て、「物流業界 VS 荷主」の構図の中で対立している論点が明確となった。今後、消費者庁がこれらの論点に配慮しながら持続可能な物流の実現に向けて「送料無料」表示の規制にどのような形で踏み込むのか、注目される。
もっとも、現段階での消費者庁の取組みは、2023年6月2日に我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議が公表した「物流革新に向けた政策パッケージ」で示された3つの施策(1)商慣行の見直し、(2)物流の効率化、(3)荷主・消費者の行動変容のうち、(3)の一部に過ぎない。「物流の2024年問題」の解決の本命は(1)の施策のうち「荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減」(荷待ち、荷役時間の削減等)に向けた規制的措置等の導入や、(2)の施策のうち「物流DX」(*)にある。「物流の2024年問題」の解決に向け、官民一体となった取り組みが不可欠となってこよう。
荷役 : 貨物の輸送機器への積み込みや荷下ろし、または倉庫等への入庫・出庫などの作業の総称。
物流DX : DXはデジタルトランスフォーメーションの略で、機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革することを指す。
フィジカルインターネット : 貨物情報や車両・施設などの物流リソース情報について、企業間情報交換における各種のインターフェイスの標準化を通じて、企業や業界の垣根を越えて共有し、貨物のハンドリングや保管、輸送経路等の最適化などの物流効率化を図ろうとする考え方(総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)より引用)
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