第1四半期と第3四半期の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法改正法案が未成立のまま通常国会は先月(2023年6月)閉会したが、東証は同法案が今秋の臨時国会で可決されることを前提に四半期決算短信における開示内容の検討を開始したことは2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』でお伝えしたとおり。2023年6月29日に開催された「四半期開示の見直しに関する実務検討会」の第1回会合では、開示項目を充実させた見直し後の第1四半期と第3四半期の四半期決算短信(以下、「新たな四半期決算短信」)について監査人によるレビューを受ける必要があるかどうかを判定するための要件の整理などが行われている。
会合で示された四半期開示の見直し案(以下、「見直し案」)では、原則として新たな四半期決算短信について監査人によるレビューは義務付けられないとされている(見直し案23ページを参照)。上場会社は、現行金融商品取引法に基づき四半期報告書について監査人によるレビューを受けているため、この見直しが上場会社のレビュー負担(対応時間、監査費用)削減につながることは間違いない。ただし、上場会社が自社の判断で監査人にレビュー(以下、「任意のレビュー」)を求めることもできる。以上は、2022年12月の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)報告で示されていた方向性を踏襲するものであり、既定路線と言える(見直し案の5ページを参照)。
もっとも、現在でも監査人が四半期報告書のレビューに付随して四半期決算短信を事実上先行チェックしていることから、任意のレビューを受けない上場会社であっても、新制度の下で監査人に新たな四半期決算短信のチェック(以下、「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」)を引き続き依頼することは十分に考えられる。また、新たな四半期決算短信の開示項目が充実する(追加が検討されている開示項目については2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』を参照)ことでミスが増える可能性もある。そこで、ミスを回避するために新たな四半期決算短信について自ら積極的に監査人のレビューを受ける“意識の高い”上場会社も一定数あるはずだ。逆に、業界内の同調圧力が働き監査人に渋々レビューを依頼する上場会社もあるだろう(この点については2023年6月29日のニュース「新たな四半期決算短信と同調圧力」を参照)。
積極的か否かを問わず、任意のレビューを受けた上場会社の四半期決算短信には末尾にレビュー報告書が添付される(見直し案14ページ)。これに対しレビュー報告書が付かない四半期決算短信は、信頼性の観点から、レビュー報告書が添付された四半期決算短信よりも“格下”に見られる可能性がある。
見直し案では、任意のレビューとは別に「規則によるレビュー」(強制的なレビュー)の義務付けも検討されている。これは、一定の要件(下記参照)を満たした上場会社の四半期決算短信についてはレビューを受けることを義務付ける制度である(見直し案の23ページを参照)。
「規則によるレビュー」(強制的なレビュー)を義務付けられる上場会社(案)
無限定適正意見 : 監査報告書には監査人の意見として以下の4つのパターンのいずれかが記載されている。(1)無限定適正意見・・・すべての重要な点において適正に表示している。(2)限定付適正意見・・・一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。(3)不適正意見・・・適正に表示していない。(4)意見不表明・・・適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。
(1) 直近の有価証券報告書・半期報告書・四半期決算短信(レビューを行う場合)の決算に対して無限定適正意見(結論)以外の意見(結論)が付された上場会社
(2) 直近の有価証券報告書において、内部統制監査報告書における無限定適正意見以外の意見が付された上場会社
(3) 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備があった上場会社
(4) 直近の有価証券報告書・半期報告書が当初の提出期限内に提出されなかった上場会社(財務諸表の信頼性の観点から問題がないことが明らかな場合を除く)
(5) 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付された上場会社
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強制的なレビューの義務付けが解除されるのは、上記の要件に該当した上場会社が提出する有価証券報告書・内部統制報告書において、上記(1)~(4)の要件にいずれも該当しなくなった場合とされている。
新たな四半期決算短信のサマリー情報(冒頭の要約ページ)には「四半期レビューの有無」の欄が追加され、そこには「規則によるレビュー」と「任意のレビュー」を区別して記載することになる。投資家からすると、たとえレビュー報告書が付いていたとしても、その根拠が任意なのか強制なのかは一目瞭然というわけだ。ただし、レビュー報告書が添付されていない上場会社の四半期決算短信が監査人により「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」は受けているのか、それすらも受けていないのかは判別しようがない。以上を整理すると、新たな四半期決算短信は、レビューの根拠(任意か強制か)とレビュー報告書の有無に応じ、投資家にとって3段階の信頼性の違い(下表の一番右側の列を参照)が生じる可能性がある。
四半期報告書の信頼性の違い
| 上場会社の層 |
レビュー報告書の有無と根拠 |
四半期開示の信頼性 |
| 積極的に任意のレビューを受けて四半期開示の信頼性を高めたい層 |
レビュー報告書あり(任意のレビュー) |
高い |
| 同調圧力により消極的に任意のレビューを受ける層 |
| レビュー報告書が発行されない単なるチェックで十分と考える層 |
レビュー報告書なし |
高くはない |
レビュー報告書が発行されない単なるチェックすら不要と考える層 |
| 強制的なレビューの義務付けの要件に該当した会社 |
レビュー報告書あり(規則によるレビュー) |
信頼性は補完されるが、レピュテーションリスクあり |
このように、任意のレビューを受けている上場会社の四半期開示が投資判断に際して最も信頼性が高く、任意のレビューを受けていない上場会社の四半期開示はそれよりも信頼性が落ちると見られる恐れがある。規則によるレビューを受けている上場会社の四半期開示は、強制的なレビューにより信頼性は補完されるものの、「規則によるレビューを強制させられている会社」というレッテルを貼られ、レピュテーションリスクを抱えることになる。
情報の信頼性は株価のボラティリティ(変動可能性)に影響を与えることになる。上場会社の経営陣としては、株価が不本意にディスカウントされないよう、「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」で十分と考えるのではなく、「任意のレビュー」を選択することも視野に入れておくべきと言えよう。