2023/07/07 新たな四半期決算短信の信頼性は事実上3段階に

第1四半期と第3四半期の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法改正法案が未成立のまま通常国会は先月(2023年6月)閉会したが、東証は同法案が今秋の臨時国会で可決されることを前提に四半期決算短信における開示内容の検討を開始したことは2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』でお伝えしたとおり。2023年6月29日に開催された「四半期開示の見直しに関する実務検討会」の第1回会合では、・・・

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2023/07/07 新たな四半期決算短信の信頼性は事実上3段階に(会員限定)

第1四半期と第3四半期の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法改正法案が未成立のまま通常国会は先月(2023年6月)閉会したが、東証は同法案が今秋の臨時国会で可決されることを前提に四半期決算短信における開示内容の検討を開始したことは2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』でお伝えしたとおり。2023年6月29日に開催された「四半期開示の見直しに関する実務検討会」の第1回会合では、開示項目を充実させた見直し後の第1四半期と第3四半期の四半期決算短信(以下、「新たな四半期決算短信」)について監査人によるレビューを受ける必要があるかどうかを判定するための要件の整理などが行われている。

会合で示された四半期開示の見直し案(以下、「見直し案」)では、原則として新たな四半期決算短信について監査人によるレビューは義務付けられないとされている(見直し案23ページを参照)。上場会社は、現行金融商品取引法に基づき四半期報告書について監査人によるレビューを受けているため、この見直しが上場会社のレビュー負担(対応時間、監査費用)削減につながることは間違いない。ただし、上場会社が自社の判断で監査人にレビュー(以下、「任意のレビュー」)を求めることもできる。以上は、2022年12月の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)報告で示されていた方向性を踏襲するものであり、既定路線と言える(見直し案の5ページを参照)。

もっとも、現在でも監査人が四半期報告書のレビューに付随して四半期決算短信を事実上先行チェックしていることから、任意のレビューを受けない上場会社であっても、新制度の下で監査人に新たな四半期決算短信のチェック(以下、「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」)を引き続き依頼することは十分に考えられる。また、新たな四半期決算短信の開示項目が充実する(追加が検討されている開示項目については2023年6月27日のニュース『東証が「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置』を参照)ことでミスが増える可能性もある。そこで、ミスを回避するために新たな四半期決算短信について自ら積極的に監査人のレビューを受ける“意識の高い”上場会社も一定数あるはずだ。逆に、業界内の同調圧力が働き監査人に渋々レビューを依頼する上場会社もあるだろう(この点については2023年6月29日のニュース「新たな四半期決算短信と同調圧力」を参照)。

積極的か否かを問わず、任意のレビューを受けた上場会社の四半期決算短信には末尾にレビュー報告書が添付される(見直し案14ページ)。これに対しレビュー報告書が付かない四半期決算短信は、信頼性の観点から、レビュー報告書が添付された四半期決算短信よりも“格下”に見られる可能性がある。

見直し案では、任意のレビューとは別に「規則によるレビュー」(強制的なレビュー)の義務付けも検討されている。これは、一定の要件(下記参照)を満たした上場会社の四半期決算短信についてはレビューを受けることを義務付ける制度である(見直し案の23ページを参照)。

「規則によるレビュー」(強制的なレビュー)を義務付けられる上場会社(案)


無限定適正意見 : 監査報告書には監査人の意見として以下の4つのパターンのいずれかが記載されている。(1)無限定適正意見・・・すべての重要な点において適正に表示している。(2)限定付適正意見・・・一部の事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している。(3)不適正意見・・・適正に表示していない。(4)意見不表明・・・適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない。

(1) 直近の有価証券報告書・半期報告書・四半期決算短信(レビューを行う場合)の決算に対して無限定適正意見(結論)以外の意見(結論)が付された上場会社
(2) 直近の有価証券報告書において、内部統制監査報告書における無限定適正意見以外の意見が付された上場会社
(3) 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備があった上場会社
(4) 直近の有価証券報告書・半期報告書が当初の提出期限内に提出されなかった上場会社(財務諸表の信頼性の観点から問題がないことが明らかな場合を除く)
(5) 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付された上場会社

強制的なレビューの義務付けが解除されるのは、上記の要件に該当した上場会社が提出する有価証券報告書・内部統制報告書において、上記(1)~(4)の要件にいずれも該当しなくなった場合とされている。

新たな四半期決算短信のサマリー情報(冒頭の要約ページ)には「四半期レビューの有無」の欄が追加され、そこには「規則によるレビュー」と「任意のレビュー」を区別して記載することになる。投資家からすると、たとえレビュー報告書が付いていたとしても、その根拠が任意なのか強制なのかは一目瞭然というわけだ。ただし、レビュー報告書が添付されていない上場会社の四半期決算短信が監査人により「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」は受けているのか、それすらも受けていないのかは判別しようがない。以上を整理すると、新たな四半期決算短信は、レビューの根拠(任意か強制か)とレビュー報告書の有無に応じ、投資家にとって3段階の信頼性の違い(下表の一番右側の列を参照)が生じる可能性がある。

四半期報告書の信頼性の違い
上場会社の層 レビュー報告書の有無と根拠 四半期開示の信頼性
積極的に任意のレビューを受けて四半期開示の信頼性を高めたい層 レビュー報告書あり(任意のレビュー) 高い
同調圧力により消極的に任意のレビューを受ける層
レビュー報告書が発行されない単なるチェックで十分と考える層 レビュー報告書なし 高くはない
レビュー報告書が発行されない単なるチェックすら不要と考える層
強制的なレビューの義務付けの要件に該当した会社 レビュー報告書あり(規則によるレビュー) 信頼性は補完されるが、レピュテーションリスクあり

このように、任意のレビューを受けている上場会社の四半期開示が投資判断に際して最も信頼性が高く、任意のレビューを受けていない上場会社の四半期開示はそれよりも信頼性が落ちると見られる恐れがある。規則によるレビューを受けている上場会社の四半期開示は、強制的なレビューにより信頼性は補完されるものの、「規則によるレビューを強制させられている会社」というレッテルを貼られ、レピュテーションリスクを抱えることになる。

情報の信頼性は株価のボラティリティ(変動可能性)に影響を与えることになる。上場会社の経営陣としては、株価が不本意にディスカウントされないよう、「レビュー報告書が発行されない単なるチェック」で十分と考えるのではなく、「任意のレビュー」を選択することも視野に入れておくべきと言えよう。

2023/07/06 WEBセミナー『社外取締役をどのように活かすか』配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2023年7月6日(木)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
社外取締役をどのように活かすか 一橋大学大学院・経営管理研究科教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
日本IR協議会 客員研究員
円谷 昭一(つむらや しょういち)様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
2023年6月の株主総会シーズンも終わり、多くの社外取締役が選任・再任されました。社外取締役には、コーポレートガバナンスの要として多くの役割が期待されています。一方で、社外取締役を選任することで資本コストは下がっても、会計利益には影響がないという説を裏付ける実証研究結果も出ています。
本セミナーでは、コーポレートガバナンスの専門家である一橋大学大学院・経営管理研究科教授の円谷昭一先生に、社外取締役の報酬、社外取締役の役割、社外取締役の能力などに関する海外を含む様々なデータや実証研究結果に基づき、社外取締役の現状と今後の課題を明らかにしつつ、社外取締役をどう活用すべきかについてご講演いただきます。
講師のご紹介 円谷 昭一(つむらや しょういち)様
一橋大学大学院・経営管理研究科教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
日本IR協議会 客員研究員

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/69075/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/Mf1AkFav14EMkeLj7

<収録月>
2023年7月

<収録時間>
61分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2023/07/06 【WEBセミナー】『社外取締役をどのように活かすか』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年7月6日

2023年6月の株主総会シーズンも終わり、多くの社外取締役が選任・再任されました。社外取締役には、コーポレートガバナンスの要として多くの役割が期待されています。一方で、社外取締役を選任することで資本コストは下がっても、会計利益には影響がないという説を裏付ける実証研究結果も出ています。
本セミナーでは、コーポレートガバナンスの専門家である一橋大学大学院・経営管理研究科教授の円谷昭一先生に、社外取締役の報酬、社外取締役の役割、社外取締役の能力などに関する海外を含む様々なデータや実証研究結果に基づき、社外取締役の現状と今後の課題を明らかにしつつ、社外取締役をどう活用すべきかについてご講演いただきます。

【講師】
一橋大学大学院・経営管理研究科教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
日本IR協議会 客員研究員
円谷 昭一(つむらや しょういち)様

セミナー資料 社外取締役をどのように活かすか.pdf
セミナー動画

社外取締役をどのように活かすか

69064

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2023/07/06 【WEBセミナー】『社外取締役をどのように活かすか』(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年7月6日

2023年6月の株主総会シーズンも終わり、多くの社外取締役が選任・再任されました。社外取締役には、コーポレートガバナンスの要として多くの役割が期待されています。一方で、社外取締役を選任することで資本コストは下がっても、会計利益には影響がないという説を裏付ける実証研究結果も出ています。
本セミナーでは、コーポレートガバナンスの専門家である一橋大学大学院・経営管理研究科教授の円谷昭一先生に、社外取締役の報酬、社外取締役の役割、社外取締役の能力などに関する海外を含む様々なデータや実証研究結果に基づき、社外取締役の現状と今後の課題を明らかにしつつ、社外取締役をどう活用すべきかについてご講演いただきます。

【講師】
一橋大学大学院・経営管理研究科教授
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー
日本IR協議会 客員研究員
円谷 昭一(つむらや しょういち)様

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社外取締役をどのように活かすか

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2023/07/05 本格的な株主アクティビズムが開始した2023年株主総会、企業の反論は苦しいものに

2023年の3月決算上場会社の株主総会シーズンが終了したが、本年の株主総会の最大の特徴は、例年になく株主提案の数が多かったことだ。2023年3月総会~6月総会の株主提案の数を調査したところ、78社に対して株主提案が行われ、議案の総数は305議案にのぼっている(2023/3/1~6/30時点までに提出された臨時報告書を集計、動議を除く。)そのうち122議案で賛成率が20%を超えており、19議案は可決に至っている。いずれもここ10年間において最多となった。3月末に東証が行ったPBR1倍未満の企業に対する改善要請以降、日本市場は海外投資家からも注目され、日経平均はバブル期の最高値に迫る勢いで上昇している。“日本買い”のテーマは、完全に「ガバナンス改善期待」となっている。本格的な株主アクティビズムがついに日本でも始まったと言えるだろう。

動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

株主提案の主張の多くは、政府や東証が主導するコーポレートガバナンス改革の方向性をそのまま具現化している。投資ファンドだけではなく、個人による株主提案にもそのような傾向が見られ、「株主共同の利益」という極めて真っ当な視点から企業に対応を求めている。したがって、これに対する企業の取締役会の反対意見はいずれも“苦しい言い訳”となっている。例えば、いくつかの企業は株主からの資本コストの開示要求に対して、・・・

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

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2023/07/05 本格的な株主アクティビズムが開始した2023年株主総会、企業の反論は苦しいものに(会員限定)

2023年の3月決算上場会社の株主総会シーズンが終了したが、本年の株主総会の最大の特徴は、例年になく株主提案の数が多かったことだ。2023年3月総会~6月総会の株主提案の数を調査したところ、78社に対して株主提案が行われ、議案の総数は305議案にのぼっている(2023/3/1~6/30時点までに提出された臨時報告書を集計、動議を除く。)そのうち122議案で賛成率が20%を超えており、19議案は可決に至っている。いずれもここ10年間において最多となった。3月末に東証が行ったPBR1倍未満の企業に対する改善要請以降、日本市場は海外投資家からも注目され、日経平均はバブル期の最高値に迫る勢いで上昇している。“日本買い”のテーマは、完全に「ガバナンス改善期待」となっている。本格的な株主アクティビズムがついに日本でも始まったと言えるだろう。

動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

株主提案の主張の多くは、政府や東証が主導するコーポレートガバナンス改革の方向性をそのまま具現化している。投資ファンドだけではなく、個人による株主提案にもそのような傾向が見られ、「株主共同の利益」という極めて真っ当な視点から企業に対応を求めている。したがって、これに対する企業の取締役会の反対意見はいずれも“苦しい言い訳”となっている。例えば、いくつかの企業は株主からの資本コストの開示要求に対して、「資本コストを踏まえて事業戦略上の判断を行っている」としたうえで、「コーポレートガバナンス・コードや東証の要請では、必ずしも資本コストの開示が義務付けられているわけではない」「資本コストの計算基礎には様々な考え方があるからこれを開示すると株主を混乱させる」「定款には、開示に関する規程は馴染まない」といった反論をしている。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

しかし、事業戦略上の判断に用いた資本コストが実際に存在しているのであれば、開示事項を定款に規定することには反対するとしても、「株主にわかりやすい言葉・論理で明確に説明すべき」とするコーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえ、自発的に開示するべきだろう。それは、経営目標を開示することと本質的に何ら変わらないはずだ。また、ある企業は、株式保有ガイドライン(取締役による株式継続保有義務の強化とその基準の開示要求:基本報酬の一定倍数の価値の株式の継続保有を通じた株主との目線合わせの強化)を求められたことに対し、「独立性の高い報酬委員会で報酬決定しているため株式保有ガイドラインの導入は必要ない」とだけ回答し、株式の継続保有そのものについてのスタンスや主張すら示していない。これらの株主提案は、いずれも20~25%程度の賛成票を集めている。

株式保有ガイドライン : 株主との持続的な利害共有のため、経営幹部に一定基準の株式の保有を義務付ける規程。「役員就任後、○年以内に基本報酬の×倍の金額の株式を保有する」といった内容のほか、「権利確定後の株式を△年間(あるいは保有基準達成まで、または、退任後まで)保有し続ける」といった継続保有要件をあわせて定めることも多い。

本年の株主総会の分析が進むにつれ、投資家はこれらをエンゲージメントの材料にするとともに、来年の株主総会における株主提案の新たな切り口とする。企業としては、会社提案議案への反対票率、株主提案議案への賛成票率について、その原因や理由を分析し、資本収益性の向上(資本収益性については2021年11月11日のニュース「ROICではなくROEやROAではダメなのか?」の一番下の表参照)、企業価値の向上に向けたコーポレートガバナンス体制のあり方について、客観的な視点から点検を進めていく必要があろう。

2023/07/04 ウイリス・タワーズワトソンが開催するセミナーへのご招待のお知らせ

世界的な人事系コンサルティング会社であるウイリス・タワーズワトソンが、下記のテーマでセミナーを開催することになりました。

「取締役会の変革」 ~グローバルのステークホルダーが期待する実効性とは~

ウイリス・タワーズワトソンのご厚意により、上場会社役員ガバナンスフォーラムの会員の皆様もご参加いただくことができます。

本セミナーでは、「取締役会の変革」をテーマに、長期エンゲージメント投資家としてご活躍されているみさき投資株式会社の中神 康議 社長もご登壇します。
セミナー概要は下記のとおりです。

「取締役会の変革」 ~グローバルのステークホルダーが期待する実効性とは~
●8月2日(水)14:00 – 16:00
●ハイブリッド形式(東京虎ノ門グローバルスクエアコンファレンスおよびZoomウェビナーによる同時配信)
●日英同時通訳あり

演目
●Global board trend and matters ~取締役会の期待役割に関するグローバルの動向(WTW経営者報酬・ボードアドバイザリー グローバルリーダー Shai Ganu)
●日本企業の取締役会を取り巻く最新動向 (WTW経営者報酬・ボードアドバイザリー 日本リーダー 櫛笥 隆亮)
●パネルディスカッション「日本企業の取締役会がスチュワードシップを果たすためには」 (みさき投資株式会社代表取締役社長 中神 康議 様、Shai Ganu、櫛笥 隆亮)

詳細はこちらのリーフレットをご確認ください。

お申し込みは以下のフォームからお願いいたします。
https://events.wtwco.com/v9yeQx?RefId=Registration

2023/07/04 ISSBのサステナビリティ開示基準基準が確定、サステナビリティ報告書等とは「マテリアリティ」に相違(会員限定)

2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2022年3月31日に公開草案を明らかにしていたグローバルなサステナビリティ開示基準基準であるIFRS S1号(以下、S1基準(*1))およびIFRS S2号(以下、S2基準(*2))をようやく確定した(ISSBのリリースはこちら)。

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

*1 全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項を定めたもの(IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」)。詳細は、【特集】ISSB公開草案・前編 「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」の開示フレームワーク 参照。
*2 気候関連開示の要求事項を定めたもの(IFRS S2号「気候関連開示」)。詳細は、【特集】ISSB公開草案・後編 「気候関連開示」のフレームワーク 参照。

S1基準は、企業が短期のみならず、中長期にわたって直面するサステナビリティ関連のリスクおよび機会を企業が投資家に伝えるための開示基準であり、S2基準は気候関連開示を求めつつ、S1基準とセットで利用されるように設計されている。現状では、「個別テーマ」についての基準はS2基準の気候変動しかないため、他のテーマ(例えば人的資本、人権、生物多様性)について開示する場合はS1基準に基づくことになる。

S1基準およびS2基準は「グローバル・ベースライン」と位置付けられており、このベースラインに乗っていれば、詳細な基準は各国が自国の実態に合わせて作成することが許容される。日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がサステナビリティ開示基準を開発中だが、同基準もS1基準およびS2基準をベースにしている。SSBJが開発したサステナビリティ開示基準はあと1年程度で公表されることが見込まれ、有価証券報告書における開示事項となる。このため、S1基準およびS2基準の開示内容を理解することは、日本の有価証券報告書における“サステナビリティ開示の近未来”を知るうえでも重要と言える。

S1基準では、企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想される、重要性があり、持続可能性に関連するリスクおよび機会に関する情報の開示を求めている。「企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想されるリスクおよび機会」とは、「短期、中期、長期のいずれにおいても、企業のキャッシュ・フロー、資金調達、資本コストに影響を及ぼすと合理的に予想される、持続可能性に関連するすべてのリスクと機会」を意味する。つまり、投資家にとって関心の高い財務に影響を与えるものかどうか(いわゆるシングル・マテリアリティの考え方)次第で情報開示を求めるのがS1基準と言える。また、「重要性がある」とは「情報を省略、誤表示、覆い隠したりしたときに、一般目的財務報告の主要な利用者が、特定の報告企業に関する情報を提供する当該報告に基づいて行う意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合」をいう。要するに、不正確な情報が財務諸表を見た者の意思決定に影響を与えかねない場合には「重要性がある」ということだ。

これに対し、任意開示書類であるサステナビリティ報告書や統合報告書には、ダブル・マテリアリティ(投資家だけではなく、広範なステークホルダーのニーズも考慮すること)を満たす開示内容となっているものが多い。この場合、ISSBが求めるシングル・マテリアリティの考えに基づく開示内容と相違が生じる可能性がある点、留意したい。例えば、サステナビリティ報告書で、環境や社会が企業に与える財務的な影響がほとんどない事象を、企業活動が環境・社会に与える影響を重視して開示したとすると、S1基準に基づく開示内容とは相違が生じることになる。

SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
シングル・マテリアリティ : マテリアリティとは「重要性」を意味するCSR用語であり、マテリアリティを開示する目的は要するに「自社にとって重要な課題は何か?」を明らかにすることにある。シングル・マテリアリティとは企業が環境や社会から「受ける」財務的な影響を示す“投資家目線”のマテリアリティであるのに対し、ダブル・マテリアリティとは、これに企業が環境や社会に「与える」影響を示す “(市民社会等を含む)マルチステークホルダー”目線のマテリアリティを統合したものを指す。

出典:令和3年度 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第2回)事務局説明資料
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ただし、企業活動が環境・社会に与える影響は、中長期的に見れば、ほとんどの場合、巡り巡って企業にも財務的な影響を与えることになると考えられる。シングル・マテリアリティの考え方の下では(すなわち、有価証券報告書においては)、企業の財務的な影響を与えることが「明らかなもの」「予見できるもの」「現実味のあるもの」については開示し、現時点では「潜在的な影響が小さいもの」「影響を与える確率が低いもの」は開示しない、という合理的な判断が求められることになろう。

2023/07/04 ISSBのサステナビリティ開示基準基準が確定、サステナビリティ報告書等とは「マテリアリティ」に相違

2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2022年3月31日に公開草案を明らかにしていたグローバルなサステナビリティ開示基準基準であるIFRS S1号(以下、S1基準(*1))およびIFRS S2号(以下、S2基準(*2))をようやく確定した(ISSBのリリースはこちら)。

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

*1 全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項を定めたもの(IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」)。詳細は、【特集】ISSB公開草案・前編 「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」の開示フレームワーク 参照。
*2 気候関連開示の要求事項を定めたもの(IFRS S2号「気候関連開示」)。詳細は、【特集】ISSB公開草案・後編 「気候関連開示」のフレームワーク 参照。

S1基準は、企業が短期のみならず、中長期にわたって直面するサステナビリティ関連のリスクおよび機会を企業が投資家に伝えるための開示基準であり、S2基準は気候関連開示を求めつつ、S1基準とセットで利用されるように設計されている。現状では、「個別テーマ」についての基準はS2基準の気候変動しかないため、他のテーマ(例えば人的資本、人権、生物多様性)について開示する場合はS1基準に基づくことになる。

S1基準およびS2基準は「グローバル・ベースライン」と位置付けられており、このベースラインに乗っていれば、詳細な基準は各国が自国の実態に合わせて作成することが許容される。日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)がサステナビリティ開示基準を開発中だが、同基準もS1基準およびS2基準をベースにしている。SSBJが開発したサステナビリティ開示基準はあと1年程度で公表されることが見込まれ、有価証券報告書における開示事項となる。このため、S1基準およびS2基準の開示内容を理解することは、日本の有価証券報告書における“サステナビリティ開示の近未来”を知るうえでも重要と言える。

S1基準では、企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想される、重要性があり、持続可能性に関連するリスクおよび機会に関する情報の開示を求めている。「企業の見通しに影響を及ぼすと合理的に予想されるリスクおよび機会」とは、・・・

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