解答者
TMI総合法律事務所
弁護士 海住 幸生
1 事業者間の共同での取組と独占禁止法
(1)独占禁止法とは
独占禁止法とは、私的独占、不当な取引制限(カルテル・談合)、不公正な取引方法などを禁止し、国民経済の民主的で健全な発達、及び消費者の利益を確保することを目的に、公正かつ自由な競争を促進する法律です。
事業者間で取り決めを行う際に、それが事業者の経済活動を制限するような内容である場合は、独占禁止法上問題となる可能性があります。
具体的には、事業者間の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果を持つ場合は、独占禁止法上、問題となる可能性があります。例えば、以下のような行為は、原則として独占禁止法上問題となります。
① 価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為
② 新たな事業者の参入を制限する行為
③ 既存の事業者を排除する行為
(2)カルテルとは
上記①から③の行為はいずれも、事業者の行為が、自由競争を制限する効果を持っています。上記の中で、上記①の「価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為」として特に注意をすべき行為がカルテルです。
カルテルは、「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)という独占禁止法上の違反行為に該当し、不当な取引制限を禁止する規制である独占禁止法3条に違反します。また、カルテルは、競争事業者との間で行われる共同行為でもあり、「競争事業者」には、自社と同種かつ需要者(顧客)を同じくする製品を取り扱う又は取り扱う可能性のある他社に限らず、自社と技術開発を競う関係にある他社も含まれます。
なぜカルテルに特に注意すべきかというと、カルテルに違反した場合の罰則等は極めて重いものとなっているからです。
カルテルに該当する行為に対しては、まずは、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)から、排除措置命令及び課徴金納付命令が課されます。課徴金納付命令では、原則としてカルテルが対象とした商品の売上高の10%が課徴金として納付を命ぜられ、売上高の算定は最大10年までさかのぼります。さらに、カルテルに該当する行為が消費者の生活に広範な影響を与える等悪質かつ重大な場合は、公取委により刑事告発され、刑事罰(事業者に対しては5億円以下の罰金、関与した役員又は従業員には5年以下の懲役または500万円以下の罰金)が科される可能性があります。その他、公共入札事業である場合には指名停止になることや、独占禁止法違反について新聞やウェブサイトで公表されることによるレピュテーションリスクもあります。また、被害を受けた取引相手による事業者に対する損害賠償請求を受けることや、株主による役員に対する株主代表訴訟が提起されるリスクもあります。
このようにカルテルのリスクは非常に高いものとなっていますが、事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するというケースはあまり想定しがたいかもしれません。しかしながら、欧州では、事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するとして、欧州委員会というEU競争法(日本の独占禁止法と同様の法律)を管轄する当局(以下「EU競争当局」といいます。)から摘発された事例があります。
(3)事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するとされた事例
2021年7月、EU競争当局は、ドイツの自動車メーカー3社(ダイムラー、フォルクスワーゲングループ及びBMW)が排ガスの浄化技術の開発競争をめぐりカルテルを結び、EU 競争法に違反したとして、各社合計で約8億7500万ユーロ(約1,250億円)の制裁金を課しました。
この事例においては、上記各自動車メーカーが、EUの環境規制や技術開発を協議するために定期的に開催した会合において、EU規制で求められる最低基準を上回るシステムを開発しないよう合意したことが問題とされました。具体的には、ディーゼル乗車用の排気ガスのクリーン化に必要なシステムに関し、システムのサイズなどを事業者間で合意したところ、このような合意がシステムの開発と性能に関する競争を制限しているとして「違反」とされました。
つまり、これらの合意がなければ、より環境性能のよいシステムを開発がなされた可能性があったにもかかわらず、事業者間で「EU規制で求められる最低基準を上回るシステムを開発しないよう合意」することにより、技術・開発競争を止めてしまったことが、EU競争法上問題とされたのです。
(4)グリーンウォッシュとは
上記(3)で述べたようなカルテルは、技術開発分野で競合する事業者間で、競争の重要な手段である技術に関して合意するものであり、技術カルテルと称されます。また、環境に良いというような触れ込みで実施しているものの実態を伴わないような取組は、一般に「グリーンウォッシュ」といわれます。
環境に関する技術カルテルは、事業者が環境に配慮しているかのように見せかけ、実際は問題行為を行っているとして、グリーンウォッシュの一例ともいわれます。こういった環境配慮を偽装する内容を含むカルテルは、消費者利益やイノベーションを阻害するもので、公取委は厳正に対処するものと思われます。サスティナビリティの追求は望ましいことではありますが、日本においても、事業者間の共同での取組を進める過程でカルテルが発生する可能性があるため、十分な注意が必要です。
2 事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組と独占禁止法
(1)公取委によるグリーンガイドライン
公取委は2023年3月31日、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方 」(以下「グリーンガイドライン」といいます。)を公表しました。
グリーンガイドラインによると、事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組が独占禁止法上カルテルとして問題となるのは、競合事業者との間で、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果(以下「競争制限効果」といいます。)のみを持つ場合であるとされています。
(2)独占禁止法上許容される共同の取組
事業者等は、サスティナビリティの実現に向けて、自主基準の設定や共同開発等の「共同の取組」を実施することがあります。これらの取組は、迅速な事業遂行やコスト削減、技術等の相互補完を可能にすることを通じ、事業活動の効率化を図り、サスティナビリティの実現を目指すものです。
このような事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組のうち、競争制限効果が見込まれない行為は、独占禁止法上問題となりません。グリーンガイドラインでは、例えば以下のような行為は独占禁止法上問題とならないことが示されています。
ア.法令上の義務の遵守対応
事業者団体Xが、法令上、商品Aの製造販売業者に達成が義務付けられるリサイクル率を会員事業者が達成しなければならない目標値として定め、会員事業者各社のウェブサイトにおいて自社が当該目標の達成に向けて取り組む旨を宣言することを奨励するとともに、会員事業者各社の達成率を、会員事業者の同意を得て事業者団体Xのウェブサイトにおいて公表する行為
イ.業界目標
事業者団体Xが、カーボンニュートラルの達成に向けて、商品Aの製造過程で排出される温室効果ガスの削減に関する努力目標を業界として定める行為
上記のような行為は、法令上定められたリサイクル率の各社の達成率について努力目標を定めるものであり、その目標設定自体は価格や技術開発等の競争に与える影響はないと想定されるため、許容されると考えます。
(3)独占禁止法上許容されない共同の取組
これに対して、事業者等の共同の取組が競争制限効果のみをもたらす場合、当該取組は原則として独占禁止法上問題となります。具体的には、上記1(1)①の「価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為」に該当する場合、たとえそれがサスティナビリティの実現を目的とするものであったとしても、その目的のみにより正当化されることはなく、原則として独占禁止法上問題となります。これらの行為が行われた場合、本来、各事業者の自主的な判断に委ねられるべき価格や生産数量が決定されてしまい、競争制限効果がもたらされるからです。グリーンガイドラインでは、例えば以下のような行為は独占禁止法上問題となることが示されています。
ア.生産量の制限
事業者団体Xが、商品Aの製造過程で排出される温室効果ガスを直接的に削減するため、会員事業者各社が製造する商品Aの年度別生産量を団体において議論し、会員事業者に対して生産量の割当てを行う行為
イ.技術開発の制限
商品Aの製造販売業者X、Y及びZが、新技術の開発競争が激しくなることを避けるため、自社において行っている研究開発の状況について情報交換を行うとともに、需要者に対して提案する予定の商品に用いる新技術の内容を制限する行為
上記の行為は、生産量や技術開発といった競争手段として重要な事項を直接制限する行為であるため、それがサスティナビリティの実現を目的とするものであったとしても、独占禁止法上問題となります。
(4)独占禁止法上注意すべき共同の取組
事業者等のサスティナビリティの実現に向けた共同の取組には、上記の他、商品又は役務の種類、品質、規格等に関する自主的な基準の設定や、他の事業者との関係を強化し共同で業務を遂行する業務提携も考えられます。これらの取組は、多くの場合、競争を制限するものではなく、また、競争を促進する効果があるため、独占禁止法上問題とならないと考えられます。しかし、それが販売価格、コスト、開発技術等の重要な競争手段である事項について制限する行為となると該独占禁止法上問題となる場合がありますので、十分注意が必要です。
ア.自主基準の設定
サスティナビリティの実現に向けた取組として、事業者等が、温室効果ガス削減を目的に、商品又は役務の種類、品質、規格等に関連して推奨される基準など、商品又は役務の供給等の事業活動に係る自主的な基準を策定することが考えられます。この場合、業界団体が、商品の提供に当たって排出される温室効果ガス削減を目的に、脱炭素化に向け望ましい事業活動の在り方(価格等の重要な競争手段である事項に関する内容を含まないもの)について自主的な基準を設定し、各事業者に推奨しているのであれば、それは価格や技術開発の競争を制限するものではなく、むしろ、より良い商品の開発につながり競争を促進する効果があると考えられるため、独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えます。
他方、上記のような取組の中で、需要者から脱炭素化への対応と並行して毎年一定の価格低減要請を受けていることから、需要者との厳しい価格交渉状況を改善するため、自主基準において、商品の価格に転嫁すべきコストの目安を定めた場合は、価格競争の制限に繋がりますので、独占禁止法上問題となると考えます。
このように、自主基準を設定する場合でも、その取組の過程や基準の内容によっては独占禁止法上問題となる可能性がありますので注意が必要です。
イ.共同研究開発
事業者が、サスティナビリティの実現に向けた技術を生み出すため、競争関係にある事業者と共同研究開発を行い、その技術を用いて新たな製品を開発するケースが今後さらに活発化することが考えられます。
このような共同研究開発が、市場における競争に影響を与えないような少数の事業者間で行われている場合、独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えられます。また、研究に莫大なコストがかかるなど単独の事業者で行うことが困難で、共同で実施することが効率的であるような場合も、競争促進効果があることが多く、独占禁止法上問題となる可能性は高くはないと考えます。
他方、例えば、事業者が単独でも行い得るにもかかわらず共同研究を実施する場合で、その共同研究開発の対象となる技術を利用した製品の市場において競争関係にある事業者の大部分がその共同研究に参加するとなると、参加する事業者間で研究開発活動を制限し、技術市場または製品市場における競争が実質的に制限される可能性があり、独占禁止法上問題となる可能性があります。
このように、共同研究開発の場合は、その取組内容、研究開発の目的、取組事業における市場の状況(取組事業者のシェア、市場における地位)等により、独占禁止法上問題となる可能性がありますので注意が必要です。
3 まとめ
以上のように、事業者間のサスティナビリティに関する共同の取組が、カルテルとして独占禁止法上問題となる可能性があり、実際に海外の競争当局において摘発された事例があることからも、事業者としては、他の事業者との共同の取組が独占禁止法上問題となるものでないかを慎重に検討の上、実施するよう留意してください。