2023/05/09 東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ

東証が2023年3月31日に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題する文書で、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの上場会社に対して改善計画の策定・開示を要請したことは、機関投資家が投資先企業に対してエンゲージメントを強化するアクションへの期待も含んでいる(2023年4月5日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」における要請事項と開示時期』参照)。この流れに乗ってアクティビストの舌鋒が鋭くなることは容易に想像できるところであり、既にいくつかの株主提案に具体的な動きとして表れている。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

従来から活発にアクティビズムを展開してきた国内系のストラテジックキャピタルは・・・

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2023/05/09 東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ(会員限定)

東証が2023年3月31日に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題する文書で、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの上場会社に対して改善計画の策定・開示を要請したことは、機関投資家が投資先企業に対してエンゲージメントを強化するアクションへの期待も含んでいる(2023年4月5日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」における要請事項と開示時期』参照)。この流れに乗ってアクティビストの舌鋒が鋭くなることは容易に想像できるところであり、既にいくつかの株主提案に具体的な動きとして表れている。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

従来から活発にアクティビズムを展開してきた国内系のストラテジックキャピタルは4月3日に特設サイト「ワキタの株主価値向上に向けて」を開設、5月25日に開催予定のワキタの定時株主総会において株主提案権を行使することを公表した。議案はストラテジックキャピタルの代表を取締役に選任することなど全部で7つあるが、そのうち1つとして「PBR1倍以上を目指す計画の策定及び開示に係る定款変更の件」を提案している。提案理由は以下のとおり。

東京証券取引所は、上記「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」にて、継続的にPBRが1倍を割れている企業に対しては、自社の資本コストや資本収益性の改善に向けた方針や具体的な取組、その進捗状況などを開示することを強く要請するなど特に踏み込んだ対応を行うと公表しており、これらの要請等の実施時期は2023年春とされている。
更に、年1回以上進捗状況に関する分析を行い、開示をアップデートすることも求められる予定であり、PBR1倍を割っている当社においてもこれらへの早急な対応が必要となる。
当社のPBRは、2010年以降一度も1倍を上回ること無く推移している。長期にわたる株価の低迷から抜け出すには、抜本的な経営改革や資本政策の変更が必要であることは明確であり、そのために、上記の東京証券取引所の要請に対応した具体的な計画を策定し公表していただきたい。

また、近年積極的なアクティビズムが目に付く香港のリム・アドバイザーズも3月20日、ケーヨーに対して株主提案を行ったことが明らかとなっている。株主提案議案は3つあり、そのうち「自己株式の取得の件」においては、純資産の約3割に相当する政策保有株式を売却することで得た原資により自己株式を取得し、ROEの水準を引き上げることを通じた株主価値の向上を求めている。この株主提案に対しケーヨーは、株主提案を行う旨の書面を受領した3月 20 日に開催した取締役会で、本株主提案に反対することを即日決議している(ケーヨーのリリース「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせについて」参照)。なお、ケーヨーの定時株主総会は5月23日に開催される予定となっている。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

リム・アドバイザーズによる株主提案の理由の要旨は以下のとおり。

東京証券取引所が 2023 年1月 30 日に公表した「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議の論点整理」では(中略)、「特に、継続的にPBRが1倍を割れている(すなわち、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、資本コストを上回る資本収益性を達成しているものの将来の成長性が投資者から十分に期待されていないと考えられる)会社に対しては、改善に向けた方針や具体的な取組などの開示を求めていくべき」としている。
さらに、東京証券取引所が同日に公表した「論点整理を踏まえた今後の東証の対応」では(中略)、「継続的にPBRが1倍を割れている会社には、開示を強く要請」するとしている。
当社に関しては、政策保有株式が温存されることで、継続的に、実質的なPBRが1倍を割れる危機に瀕しており、政策保有株式を売却することにより得たキャッシュを財源に自己株式を取得することで、当社の事業力を反映したROEと同事業のリスクを反映した資本コストがもたらされると提案株主は考える。

リム・アドバイザーズはいずれの提案理由においても、「東京証券取引所」「フォローアップ会議」を前面に押し出していることから、今般の東証の施策を高く評価するメインストリームの機関投資家としては、安易に反対することはできないものと考えられる。

同種の株主提案は6月の株主総会シーズンにおいても数多く提起されることが予想される。したがって、3月期決算の上場会社においては、自社のPBR水準を認識し、これを十分に踏まえた経営戦略を策定・開示できているかを確認したうえで、情報開示の見直しやエンゲージメント活動の積極化など必要な施策を検討する必要があろう。

リム・アドバイザーズは既に12月決算会社の3月総会で、PBR1倍割れに着目した株主提案を行っている。鳥居薬品に対しては親会社からの「天下り」批判の一環として代表取締役の報酬開示について、また、その親会社である日本たばこ産業に対しては子会社の管理について、いずれも鳥居薬品のPBR1倍割れを問題視しつつ下表の議案を提案している。機関投資家比率が「金融機関+外国法人等」と近似だとすると、いずれもその3分の2超が賛成に回ったこととなる。親子上場や政策保有株式といったガバナンスマターが注目されている会社は特に警戒すべきだろう。

社名 株主提案議案
(定款変更)
株主構成 賛成率
金融機関 外国法人等
鳥居薬品 代表取締役の報酬開示 12.2% 17.8% 20.4%
日本たばこ産業 子会社の管理 15.2% 12.1% 19.0%

2023/05/08 ~上場会社役員ガバナンスフォーラム会員の皆様は1万円割引!~ 2023年度JCGR研究会・セミナーの紹介VTRが公開されました。

本ウェブサイトでご紹介した(3月13日掲載)、2023年度JCGR研究会・セミナーにつき、紹介VTRが公開されました。
下記ウェブサイト(トップページ)でご視聴ください。

日本コーポレートガバナンス研究所

既に4月開講のセミナーは順次スタートしていますが、実施済みの内容はオンデマンドで受講することができますので、引き続き参加希望の方は下記にお問い合わせください。

問い合わせ:semi@jcgr.org 各セミナー担当(講師)

【4・5月開講のセミナー】
1-1.コーポレートガバナンス研究会
◆対象:コーポレートガバナンスの基礎理論・実務の全体を学びたい人
◆期間:1年間 月例年間12回 
◆実施日:毎月第2水曜日 午前8時~9時45分
◆実施方法:対面方式:対面方式コロナ禍も鎮静化してきましたので、JCGRの丸の内のオフィスで対面で実施します。遠方の方や特別の事情がある方には、対面講義の録画をオンデマンド配信するとともにQ&Aセッション(オンライン)を実施します。

3-1.データサイエンス集中セミナー<基礎編>
◆実施日時:5月13日(土曜日)午前8時〜午後1時(50分×5回、10分休憩)
◆スケジュール:1日集中 全5時限、各回50分(休憩10分)
(1)モデル思考 アブダクションと仮説検証型論証
(2)統計学・仮説検定・モデル選択
(3)回帰分析・時系列分析
(4)因果推論 反現実・RCT(Randomized Controlled Trial)
(5)データサイエンス・プロジェクトマネジメント データの調理と実食
◆開催方式: JCGR会議室における対面方式
       会場:東京都千代田区丸の内2-5-2 三菱ビルB172 地図
※参加者ご自身のExcel搭載ラップトップWindowsPC(含電源)持参

4-1.コーポレートファイナンス研究会
◆対象:現代ファイナンスの理論・実務に役立てたい人
◆期間:1年間 月例年間12回 
◆実施日:毎月第2金曜日 午前8時~9時45分
◆実施方法:対面方式:対面方式コロナ禍も鎮静化してきましたので、JCGRの丸の内のオフィスで対面で実施します。遠方の方や特別の事情がある方には、対面講義の録画をオンデマンド配信するとともにQ&Aセッション(オンライン)を実施します。

2023/05/08 【特集】2023年6月総会における新型コロナ対応について~2023年3月総会の対応状況を参考に~(3・会員限定)

まだ間に合うバーチャルオンリー株主総会開催のための定款変更

以上のとおり、6月総会における新型コロナ対応は、3月総会での対応状況を参考にしつつ、第9波が到来した場合には、前年までの対応を参考に“ギアを上げる”ことを想定しておけば足りるであろう。

もっとも、究極の新型コロナ対応としては、バーチャルオンリー株主総会がある。バーチャルオンリー株主総会であれば会場の設営そのものが不要であり、来場する株主もいないためマスクの着用等の悩みからも解放される。バーチャルオンリー株主総会を開催するには定款にその旨の定めを設けるなければならず、そのためには、産業競争力強化法に基づいて経産大臣・法務大臣の確認が必要となる(バーチャルオンリー株主総会を開催できるようにするための手続きについては2021年6月23日のニュース「バーチャルオンリー総会開催のための4つの要件と対処法」参照)。相応の準備期間はかかるものの、今からでも6月総会で定款変更することは不可能ではない。来年以降のために、バーチャルオンリー株主総会を開催するための定款変更を行っておくという選択肢もあろう。

バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

2023/05/08 【特集】2023年6月総会における新型コロナ対応について~2023年3月総会の対応状況を参考に~(2・会員限定)

万が一“第9波”が到来したら?

既報のとおり、法務省および経済産業省は3月30日に「株主総会運営に係るQ&A」を更新し、新たに以下の「Q6」を追加している(2023年3月29日のニュース『企業に求められる「感染リスクの低減」と「株主の権利保護」の両方を実現させる株主総会』参照)。

※赤字は当フォーラムによる。
Q6.新型コロナウイルス感染症については、令和5年5月8日から、感染症法上の位置づけが新型インフルエンザ等感染症から5類感染症に変更される予定とのことですが、Q1~Q5で示された考え方はなおも妥当しますか。(令和5年3月30日追加)
(A)
 Q1~Q5は、新型コロナウイルス感染症が拡大し、関係者の健康や安全の確保を特に重視した対応が求められるという特殊な状況下で、株主総会が開催される場合に想定される事項についての一般的な考え方を整理したものです。
 新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由としてQ1~Q5で掲げられた各措置をとることが直ちに否定されるものではありませんが、かかる措置をとることが許容されるか否かは、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが変更される予定であるように、新型コロナウイルスの感染状況や対策の在り方等が昨今変化していることを踏まえながら、関係者の健康や安全の確保及び株主の権利にも十分に留意しつつ、事案ごとに個別的に判断されることになると考えます。

Q6では、5月8日以降も新型コロナウイルス感染症拡大防止を理由としてQ1からQ5で掲げられた各措置をとることが「直ちに否定されるものではない」としている。したがって、万が一、第8波を上回る第9波が猛威を振るう状況が今後到来し、そのタイミングで株主総会を開催することになれば、Q1~Q5の各措置をとることも許容されるということになる。

また、当該措置をとるにあたっては、「必要性」の観点だけでなく、「相当性」の観点からの検討も要する。この相当性の観点として、Q6では、新型コロナウイルスの対策の在り方等の昨今の変化を踏まえることや株主の権利への十分な留意が示されている。

求められる“空気を読んだ対応”

一方で、現時点のように、新型コロナウイルスの感染状況が沈静化していれば、新型コロナ感染症拡大防止を理由としてQ1~Q5の各措置をとることは一般論として難しくなる。

ただし、Q6の「新型コロナ感染症拡大防止を理由として」という記述が示すように、例えば、アフターコロナにおいて「事前登録制(Q3)」を一切実施できないということではない。また、ウイルスへの罹患が疑われる株主の入場を制限するということは、重症化しやすい高齢の株主の出席が多い株主総会の現状を踏まえると、現時点においても、他の株主を保護する観点から引き続き可能と考えられる。

結局のところ、6月総会においては、各社が「新型コロナの感染状況を踏まえて適切と考える感染防止策」を実施すればよいことになろう。そして、そのレベル感は、株主等から「やりすぎだ」と批判されない程度のもの、具体的には、他社並みの平均的な対応を目指すのが無難だ。要は、世間の“空気を読んで”対応するのがよいということである。

3月総会会社のコロナ対応

「他社並みの平均的な対応」が足下でどのようなものとなっているのかを把握するには、3月総会の新型コロナ対応状況が参考になる。3月総会は、感染症法上の扱いが2類のままの中で迎えたが、5月8日に感染症法上の扱いが変更されることは既に公表済であったうえ、3月13日以降はマスクの着用も個人の判断を基本とすることとされたため、2月総会までと比べ、株主総会における感染防止策に大きな変化が生じていた。

3月総会会社の新型コロナ対応状況は以下のとおり。なお、定量的な情報がないものについては、筆者が確認した範囲内の印象にとどまる点、留意いただきたい。

<来場自粛要請>
招集通知での来場自粛要請については、強いトーンで自粛を求める事例はかなり少なくなり、出席について慎重な判断を求めるものが多かった。また、「来場自粛のお願い」等は一切記載していない会社も散見された(ただし、新型コロナ対応関連のお願いとして、招集通知に別紙を同封した会社もある)。

<株主に対するマスク着用要請>
招集通知でのマスク着用のお願いについては、記載しない会社が増加した。2月10日に政府から「3月13日以降、マスク着用を個人の判断とする」旨の方針が公表されたことを受け、株主に対するマスク着用のお願いを招集通知から削除した会社もあったものと推測される。また、当初は株主にマスク着用を義務付ける旨を招集通知に記載した会社であっても、その後方針を変更して、総会当日はマスク着用を義務付けなかったところもあった。

三菱UFJ信託銀行の調査によると、3月総会の同社委託会社181社のうち、会場内で株主にマスク着用を強制した会社は7社(4%)にとどまり、「推奨」にとどめた会社が92社(50%)、政府方針と同様に、「個人判断」とした会社が83社(46%)であった。この状況をみると、第9波が到来することがない限り、6月総会でも、「個人判断」とする会社または株主自身の感染防止の観点からマスク着用を「推奨」する会社が大多数を占めるであろう。

ただし、招集通知発送後に感染が急拡大し、急遽マスク着用をお願いすることも完全に否定されたわけではない。そこで、招集通知では、「あらかじめウェブサイトで発信する情報を確認のうえ来場されるよう」依頼しておくことが考えられる。

<役職員のマスク着用>
役職員については、招集通知に「マスクを着用して対応する」旨を記載した会社が引き続き多かった。ただし、政府方針と同様に、役職員についても個人の判断に委ねる旨を記載した会社も見受けられた。市中ではまだまだマスク着用者が多いが、このまま感染状況が落ち着いていれば、気温の上昇とともに徐々にマスクを外す者が増えることが予想されることから、6月総会においては、役職員がマスクを着用しないという対応をとる会社も増加するだろう。

また、3月総会においては、議長をはじめ役員はマスクを外し、職員はマスクを着用するという対応も少なくなかった。役員については、議長のみマスクを外す会社も見られた。6月総会においては、3月総会以上に、役員がマスクを外すケースが多くなることが予想される。

<アクリル板>
役員がマスクを外すのとあわせて、従来設置していた役員席のアクリル板を撤収する動きも見られた。ただし、役員がマスクを外す代わりに、念のためアクリル板は設置したままとする会社や、役員はマスクを着用したままとしつつアクリル版は撤収するという会社もあった。

<会場の座席数>
会場の座席数については、感染状況の落ち着きや、それに伴う来場株主の増加を見込んで、増加させる会社が見られた。座席数を増加させるということは、隣の座席との間隔を詰めることを意味している。三菱UFJ信託銀行の調査によると、座席数の増減がなかった会社が133社(73%)と多くを占めたが、座席数を増加させた会社も31社(17%)あった。

6月総会においても、来場株主の増加が見込まれる場合には、会場の座席数を増加させることが考えられる。

<検温、アルコール消毒>
会場に入場する際の検温は省略する会社が多くなった。サーモグラフィーの設置等を取りやめる会社も見られた。

また、手指のアルコール消毒は、引き続きアルコール消毒液は設置するものの、使用は任意とする会社も多く見られた。6月総会においても、アルコール消毒液を設置する程度の対応は引き続き行う会社が多いものと予想される。

まだ間に合うバーチャルオンリー株主総会開催のための定款変更(会員限定)

2023/05/08 【特集】2023年6月総会における新型コロナ対応について~2023年3月総会の対応状況を参考に~

はじめに

本日(2023年5月8日)、新型コロナウイルスの感染症法上の取扱いが季節性インフルエンザと同じ「5類」に変更された。実際、現時点では感染状況も沈静化しているが、いまだ混雑した場所ではマスクの着用が推奨されるなど、かつての日常に完全に戻ったとは言えない状況にある。こうした中、今年の6月総会に向け検討課題となっているのが、前年までとは異なる「新たなコロナ対応」だ。具体的には、株主総会における感染防止策を前年までのレベル感からどの程度弱めてよいのか、が焦点となる。

本特集では、法務省および経済産業省が3月30日に更新した「株主総会運営に係るQ&A」を手掛かりの一つとして、6月総会における対応を整理する。

万が一“第9波”が到来したら?(会員限定)

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2023/05/06 【2023年4月の課題】同業他社とのサステナビリティ関係の取組みをした場合における独禁法への抵触(会員限定)

解答者
TMI総合法律事務所
弁護士 海住 幸生

1 事業者間の共同での取組と独占禁止法

(1)独占禁止法とは
独占禁止法とは、私的独占、不当な取引制限(カルテル・談合)、不公正な取引方法などを禁止し、国民経済の民主的で健全な発達、及び消費者の利益を確保することを目的に、公正かつ自由な競争を促進する法律です。

事業者間で取り決めを行う際に、それが事業者の経済活動を制限するような内容である場合は、独占禁止法上問題となる可能性があります。

具体的には、事業者間の取組が、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果を持つ場合は、独占禁止法上、問題となる可能性があります。例えば、以下のような行為は、原則として独占禁止法上問題となります。

① 価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為
② 新たな事業者の参入を制限する行為
③ 既存の事業者を排除する行為

(2)カルテルとは
上記①から③の行為はいずれも、事業者の行為が、自由競争を制限する効果を持っています。上記の中で、上記①の「価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為」として特に注意をすべき行為がカルテルです。

カルテルは、「不当な取引制限」(独占禁止法2条6項)という独占禁止法上の違反行為に該当し、不当な取引制限を禁止する規制である独占禁止法3条に違反します。また、カルテルは、競争事業者との間で行われる共同行為でもあり、「競争事業者」には、自社と同種かつ需要者(顧客)を同じくする製品を取り扱う又は取り扱う可能性のある他社に限らず、自社と技術開発を競う関係にある他社も含まれます。

なぜカルテルに特に注意すべきかというと、カルテルに違反した場合の罰則等は極めて重いものとなっているからです。

カルテルに該当する行為に対しては、まずは、公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)から、排除措置命令及び課徴金納付命令が課されます。課徴金納付命令では、原則としてカルテルが対象とした商品の売上高の10%が課徴金として納付を命ぜられ、売上高の算定は最大10年までさかのぼります。さらに、カルテルに該当する行為が消費者の生活に広範な影響を与える等悪質かつ重大な場合は、公取委により刑事告発され、刑事罰(事業者に対しては5億円以下の罰金、関与した役員又は従業員には5年以下の懲役または500万円以下の罰金)が科される可能性があります。その他、公共入札事業である場合には指名停止になることや、独占禁止法違反について新聞やウェブサイトで公表されることによるレピュテーションリスクもあります。また、被害を受けた取引相手による事業者に対する損害賠償請求を受けることや、株主による役員に対する株主代表訴訟が提起されるリスクもあります。

このようにカルテルのリスクは非常に高いものとなっていますが、事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するというケースはあまり想定しがたいかもしれません。しかしながら、欧州では、事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するとして、欧州委員会というEU競争法(日本の独占禁止法と同様の法律)を管轄する当局(以下「EU競争当局」といいます。)から摘発された事例があります。

(3)事業者間のサスティナビリティに関する取組がカルテルに該当するとされた事例
2021年7月、EU競争当局は、ドイツの自動車メーカー3社(ダイムラー、フォルクスワーゲングループ及びBMW)が排ガスの浄化技術の開発競争をめぐりカルテルを結び、EU 競争法に違反したとして、各社合計で約8億7500万ユーロ(約1,250億円)の制裁金を課しました。

この事例においては、上記各自動車メーカーが、EUの環境規制や技術開発を協議するために定期的に開催した会合において、EU規制で求められる最低基準を上回るシステムを開発しないよう合意したことが問題とされました。具体的には、ディーゼル乗車用の排気ガスのクリーン化に必要なシステムに関し、システムのサイズなどを事業者間で合意したところ、このような合意がシステムの開発と性能に関する競争を制限しているとして「違反」とされました。

つまり、これらの合意がなければ、より環境性能のよいシステムを開発がなされた可能性があったにもかかわらず、事業者間で「EU規制で求められる最低基準を上回るシステムを開発しないよう合意」することにより、技術・開発競争を止めてしまったことが、EU競争法上問題とされたのです。

(4)グリーンウォッシュとは
上記(3)で述べたようなカルテルは、技術開発分野で競合する事業者間で、競争の重要な手段である技術に関して合意するものであり、技術カルテルと称されます。また、環境に良いというような触れ込みで実施しているものの実態を伴わないような取組は、一般に「グリーンウォッシュ」といわれます。

環境に関する技術カルテルは、事業者が環境に配慮しているかのように見せかけ、実際は問題行為を行っているとして、グリーンウォッシュの一例ともいわれます。こういった環境配慮を偽装する内容を含むカルテルは、消費者利益やイノベーションを阻害するもので、公取委は厳正に対処するものと思われます。サスティナビリティの追求は望ましいことではありますが、日本においても、事業者間の共同での取組を進める過程でカルテルが発生する可能性があるため、十分な注意が必要です。

2 事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組と独占禁止法

(1)公取委によるグリーンガイドライン
公取委は2023年3月31日、「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方 」(以下「グリーンガイドライン」といいます。)を公表しました。

グリーンガイドラインによると、事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組が独占禁止法上カルテルとして問題となるのは、競合事業者との間で、個々の事業者の価格・数量、顧客・販路、技術・設備等を制限することなどにより、事業者間の公正かつ自由な競争を制限する効果(以下「競争制限効果」といいます。)のみを持つ場合であるとされています。

(2)独占禁止法上許容される共同の取組
事業者等は、サスティナビリティの実現に向けて、自主基準の設定や共同開発等の「共同の取組」を実施することがあります。これらの取組は、迅速な事業遂行やコスト削減、技術等の相互補完を可能にすることを通じ、事業活動の効率化を図り、サスティナビリティの実現を目指すものです。

このような事業者間の共同でのサスティナビリティに関する取組のうち、競争制限効果が見込まれない行為は、独占禁止法上問題となりません。グリーンガイドラインでは、例えば以下のような行為は独占禁止法上問題とならないことが示されています。

ア.法令上の義務の遵守対応
事業者団体Xが、法令上、商品Aの製造販売業者に達成が義務付けられるリサイクル率を会員事業者が達成しなければならない目標値として定め、会員事業者各社のウェブサイトにおいて自社が当該目標の達成に向けて取り組む旨を宣言することを奨励するとともに、会員事業者各社の達成率を、会員事業者の同意を得て事業者団体Xのウェブサイトにおいて公表する行為
 
イ.業界目標
事業者団体Xが、カーボンニュートラルの達成に向けて、商品Aの製造過程で排出される温室効果ガスの削減に関する努力目標を業界として定める行為
 
上記のような行為は、法令上定められたリサイクル率の各社の達成率について努力目標を定めるものであり、その目標設定自体は価格や技術開発等の競争に与える影響はないと想定されるため、許容されると考えます。

(3)独占禁止法上許容されない共同の取組
これに対して、事業者等の共同の取組が競争制限効果のみをもたらす場合、当該取組は原則として独占禁止法上問題となります。具体的には、上記1(1)①の「価格等の重要な競争手段である事項について制限する行為」に該当する場合、たとえそれがサスティナビリティの実現を目的とするものであったとしても、その目的のみにより正当化されることはなく、原則として独占禁止法上問題となります。これらの行為が行われた場合、本来、各事業者の自主的な判断に委ねられるべき価格や生産数量が決定されてしまい、競争制限効果がもたらされるからです。グリーンガイドラインでは、例えば以下のような行為は独占禁止法上問題となることが示されています。

ア.生産量の制限
事業者団体Xが、商品Aの製造過程で排出される温室効果ガスを直接的に削減するため、会員事業者各社が製造する商品Aの年度別生産量を団体において議論し、会員事業者に対して生産量の割当てを行う行為

イ.技術開発の制限
商品Aの製造販売業者X、Y及びZが、新技術の開発競争が激しくなることを避けるため、自社において行っている研究開発の状況について情報交換を行うとともに、需要者に対して提案する予定の商品に用いる新技術の内容を制限する行為

上記の行為は、生産量や技術開発といった競争手段として重要な事項を直接制限する行為であるため、それがサスティナビリティの実現を目的とするものであったとしても、独占禁止法上問題となります。

(4)独占禁止法上注意すべき共同の取組
事業者等のサスティナビリティの実現に向けた共同の取組には、上記の他、商品又は役務の種類、品質、規格等に関する自主的な基準の設定や、他の事業者との関係を強化し共同で業務を遂行する業務提携も考えられます。これらの取組は、多くの場合、競争を制限するものではなく、また、競争を促進する効果があるため、独占禁止法上問題とならないと考えられます。しかし、それが販売価格、コスト、開発技術等の重要な競争手段である事項について制限する行為となると該独占禁止法上問題となる場合がありますので、十分注意が必要です。

ア.自主基準の設定
サスティナビリティの実現に向けた取組として、事業者等が、温室効果ガス削減を目的に、商品又は役務の種類、品質、規格等に関連して推奨される基準など、商品又は役務の供給等の事業活動に係る自主的な基準を策定することが考えられます。この場合、業界団体が、商品の提供に当たって排出される温室効果ガス削減を目的に、脱炭素化に向け望ましい事業活動の在り方(価格等の重要な競争手段である事項に関する内容を含まないもの)について自主的な基準を設定し、各事業者に推奨しているのであれば、それは価格や技術開発の競争を制限するものではなく、むしろ、より良い商品の開発につながり競争を促進する効果があると考えられるため、独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えます。

他方、上記のような取組の中で、需要者から脱炭素化への対応と並行して毎年一定の価格低減要請を受けていることから、需要者との厳しい価格交渉状況を改善するため、自主基準において、商品の価格に転嫁すべきコストの目安を定めた場合は、価格競争の制限に繋がりますので、独占禁止法上問題となると考えます。

このように、自主基準を設定する場合でも、その取組の過程や基準の内容によっては独占禁止法上問題となる可能性がありますので注意が必要です。

イ.共同研究開発
事業者が、サスティナビリティの実現に向けた技術を生み出すため、競争関係にある事業者と共同研究開発を行い、その技術を用いて新たな製品を開発するケースが今後さらに活発化することが考えられます。

このような共同研究開発が、市場における競争に影響を与えないような少数の事業者間で行われている場合、独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えられます。また、研究に莫大なコストがかかるなど単独の事業者で行うことが困難で、共同で実施することが効率的であるような場合も、競争促進効果があることが多く、独占禁止法上問題となる可能性は高くはないと考えます。

他方、例えば、事業者が単独でも行い得るにもかかわらず共同研究を実施する場合で、その共同研究開発の対象となる技術を利用した製品の市場において競争関係にある事業者の大部分がその共同研究に参加するとなると、参加する事業者間で研究開発活動を制限し、技術市場または製品市場における競争が実質的に制限される可能性があり、独占禁止法上問題となる可能性があります。

このように、共同研究開発の場合は、その取組内容、研究開発の目的、取組事業における市場の状況(取組事業者のシェア、市場における地位)等により、独占禁止法上問題となる可能性がありますので注意が必要です。

3 まとめ

以上のように、事業者間のサスティナビリティに関する共同の取組が、カルテルとして独占禁止法上問題となる可能性があり、実際に海外の競争当局において摘発された事例があることからも、事業者としては、他の事業者との共同の取組が独占禁止法上問題となるものでないかを慎重に検討の上、実施するよう留意してください。

2023/04/30 【役員会 Good&Bad発言集】英文開示

いまだ英文開示を実施したことがないA社(東証スタンダード市場に上場)では、英文開示実施企業が東証の市場全体で6割を超えたとの報道を目にしたことでようやく重い腰を上げ英文開示の取り組みについての議論をスタートさせたところです。これに関してA社の取締役会で次の4人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「東証の英文開示実施率ですが、全市場の数値といっても実際にはプライム市場上場会社が引き上げた数値であり、スタンダード市場上場会社に限るとまだまだ実施率は高くはないはずです。まずはわが社における英文開示の必要性の程度を知りたいので、当社の株主における海外投資家の比率を教えてください。」

取締役B:「英文開示資料の公表と和文資料の公表は同時が望ましいとはいえ、他社の事例を見ると何が何でも同時でなければならないという訳でもなさそうです。」

取締役C:「招集通知や決算短信の翻訳には時間がかかりますから、和文資料の公表日後おおむね1か月をめどに開示できればいいのではないでしょうか。」

取締役D:「決算短信のような専門的文書を英文化するには専門的知識が必要となります。日本基準のように決算短信の開示様式例が公表されている訳ではないので、わが社のようにこれまでにノウハウの蓄積がない会社では大変な作業です。」

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2023/04/30 【役員会 Good&Bad発言集】英文開示(会員限定)

<解説>
英文開示実施状況調査結果から分かること

2021年6月11日のコーポレートガバナンス・コードの改訂で、プライム市場上場会社は、「開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべき」とされました(下表参照。赤字が2021年6月11日の改訂で追加された箇所)。

コーポレートガバナンス・コード原則3-1②
上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

これを受け、プライム市場上場会社で英文開示を行う上場会社が増えています。東京証券取引所が2023年1月17日に公表した「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」によると、英文開示実施率は下のグラフのとおり年々増加しています(グラフは東京証券取引所が2023年1月17日に公表した「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」の4ページより引用)。

英文開示実施率の推移
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2022年12月末の全市場(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)の上場会社数3,805社のうちプライム市場上場会社数は1,838社であり全体の48%を占めます。よって、英文開示実施率の高いプライム市場が全市場の英文開示実施率を引き上げているものと思われます。それを裏付けるために、プライム市場以外の上場会社における英文開示実施率を算定してみましょう。まず、全市場上場会社数3,805社に60.4%を乗じた2,298社(A)が全市場における英文開示実施会社数であり、プライム市場上場会社数1,838社に97.1%を乗じた1,785社(B)がプライム市場における英文開示実施会社数であることから、スタンダード市場およびグロース市場における英文開示実施会社数は513社(A-B)となります。次に、この513社をスタンダード市場またはグロース市場に上場している会社の数である1,967社で除するとスタンダード市場またはグロース市場に上場している会社に占める英文開示実施会社率は26%と算定されます。やはり、東証の全市場の英文開示実施率は、実際にはプライム市場上場会社が引き上げた数値となっており、スタンダード市場またはグロース市場に上場している会社における英文開示実施率は4社に1社に過ぎないことが分かります。

なお、一口に英文開示と言っても、開示資料は様々なので「何を英文で開示するのか」によって、英文開示実施率も異なることになります。「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」によると、下のグラフのとおり資料によって英文開示実施率が大きく異なる状況が見て取れます。

資料別の英文開示実施率〔※()内は前年末比の増減〕
東京証券取引所が2023年1月17日に公表した「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」の4ページのグラフを引用
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上のグラフによると、「決算短信」「招集通知(通知本文・参考書類」の英文開示率は高いものの、「IR説明会資料」「適時開示資料(決算短信を除く)」といった資料の英文開示となると大きく英文開示率が落ち、さらに「CG報告書」「招集通知(事業報告・計算書類)」の英文開示率となると3割を切っています。開示のボリュームが大きい「有価証券報告書」となると英文開示はプライム市場上場会社でも5社に1社しかできていないことが分かります。何を英文開示するかは各社が「合理的な範囲」で決定することとなります。

さらに「資料の違い」に加えて、「開示の範囲」にも注意が必要です。なぜなら英文開示実施の会社数には、対象となる開示資料の「すべて」を英文開示している会社だけでなく「抜粋・一部」だけ英文開示している会社も含まれているからです。以下は、資料ごとの英文開示範囲を示したグラフです。

資料ごとの英文開示範囲
東京証券取引所が2023年1月17日に公表した「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」の16ページのグラフを引用
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上場会社は、対象資料自体の拡大に加えて、「合理的な範囲」で対象資料中の範囲を「抜粋」から「すべて」に拡大する施策にも取り組んでいく必要があります。

次に、英文開示のタイミングについて見てみましょう。以下は英文開示実施会社における英文開示のタイミングを資料ごとに分析したグラフです。

英文開示のタイミング
東京証券取引所が2023年1月17日に公表した「英文開示実施状況調査結果(2022年12月末時点)」の26ページのグラフを引用
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全市場について、英文開示を行っている会社のうち、日本語資料の開示と同時に開示している会社は決算短信でも半数を切っています。同日に英文開示を行っている会社でも同時開示は可能のはずであり、ぜひ取り組んでいただきたいところです。ボリュームの多い有価証券報告書の同日中の開示割合は20.4%に留まっているのはやむを得ないところですが、こちらもぜひ早期化に取り組んで欲しいところです。

スタンダード市場上場会社の英文開示の道筋

東京証券取引所が2023年4月1日に施行した改正有価証券上場規程によると、プライム市場上場会社は半年間限定の特例を使えば無審査でスタンダード市場に鞍替えできるようになりました(当該特例については2023年4月7日のニュース『「プライム市場上場会社」という看板とスタンダード市場移行へのプレッシャー』を参照)。プライム市場上場会社のうち何社ほどがスタンダード市場に移行するのかは未知数ですが、移行により結果的にスタンダード市場上場会社における英文開示実施率は向上するものと思われます。一方、プライム市場の英文開示実施率は100%に近付くはずです。その結果、次の関心事はプライム市場上場会社の英文開示の資料の範囲の拡大やスタンダード市場における英文開示実施率となってくることでしょう。

スタンダード市場上場会社では、コーポレートガバナンス・コード原則3-1②が「特に、プライム市場上場会社は」との限定を付けたことで、英文開示は自社ではまだまだ時期尚早と判断した会社も多いものと思われます。もっとも近年の円安により海外の投資家から見ると日本株の割安感が増したことで外国人株主の比率が高くなったスタンダード市場上場会社も少なくありません。そのような会社では、まずは「決算短信」「招集通知本文及び株主総会参考書類」の「一部(抜粋)」につき英文開示に取り組み、それが実現できてから資料の全部英訳や「事業報告及び計算書類を含むすべて」の英文開示やその他の開示資料の英文開示に取り組むのが一般的と言えます。その際に初年度は和文との同時開示ができなくてもやむを得ないと考え、英文開示に習熟するにつれ和文・英文の同時開示を目指していくようにしましょう。

東証が用意した英文開示様式例

東証では英文資料の標準化および品質の向上、並びに上場会社における英文資料作成負担の軽減を目的として、英文開示様式例を提供しています。そのラインナップは以下のとおりです(2023年4月19日現在)。英文開示にあたってはぜひ参考にすべきです。
・決算短信(サマリー情報)
・四半期決算短信(サマリー情報)
・決定事実・発生事実等
・コーポレート・ガバナンスに関する報告書
・株主総会招集通知
・英文資料に記載するディスクレイマーの文例

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役A:「東証の英文開示実施率ですが、全市場の数値といっても実際にはプライム市場上場会社が引き上げた数値であり、スタンダード市場上場会社に限るとまだまだ実施率は高くはないはずです。まずはわが社における英文開示の必要性の程度を知りたいので、当社の株主における海外投資家の比率を教えてください。」
コメント:取締役Aの発言は、東証の英文開示実施率に関する全市場の数値は主としてプライム市場上場会社が引き上げた数値であることを見抜きつつ、コーポレートガバナンス・コード原則3-1②の内容を踏まえて行われたGOOD発言です。

取締役B:「英文開示資料の公表と和文資料の公表は同時が望ましいとはいえ、他社の事例を見ると何が何でも同時でなければならないという訳でもなさそうです。」
コメント:取締役Bの発言は、投資家に公平となるよう英文開示資料の公表と和文資料の公表は同時が望ましいという原則論を押さえつつ、実際に英文開示資料の公表と和文資料の公表にはずれが生じている会社が少なくない現況を踏まえた発言であり、GOOD発言です。

BAD発言はこちら

取締役C:「招集通知や決算短信の翻訳には時間がかかりますから、和文資料の公表日後おおむね1か月をめどに開示できればいいのではないでしょうか。」
コメント:招集通知は株主総会の議決権の行使の判断に必要な期間を過ぎてから英文で開示しても意味がないです。また、有価証券報告書のように翻訳に時間・手間がかかる資料はともかく、決算短信のように速報性が重視され公表内容がすぐに株価に織り込まれるような資料は、英文開示を和文資料の公表タイミングに合わせて実施しなければ、時間の経過とともに資料の有用性が失われていくはずです。取締役Cの発言はタイミングの遅れの度が過ぎていると言え、BAD発言です。

取締役D:「決算短信のような専門的文書を英文化するには専門的知識が必要となります。日本基準のように決算短信の開示様式例が公表されている訳ではないので、わが社のようにこれまでにノウハウの蓄積がない会社では大変な作業です。」
コメント:確かに、決算短信のような専門的文書を英文化するには専門的知識が必要となるのは事実です。そこで東証では英文資料の標準化および品質の向上、並びに上場会社における英文資料作成負担の軽減を目的として、上場会社向けに英文開示様式例を提供しています。取締役Dの発言中「開示様式例が公表されている訳ではない」は誤りであり、BAD発言です。