2023/05/16 アクティビストの“ロングリスト”に PBR5年連続1倍割れ、かつROEもISS基準に抵触するプライム市場上場会社の数は?

東証が3月31日に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題する文書のベースとなる議論が行われた「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の第5回目において、機関投資家などを対象とした意見募集の結果概要が報告されている。

その中で、“PBR1倍割れ問題”については・・・

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

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2023/05/16 アクティビストの“ロングリスト”に PBR5年連続1倍割れ、かつROEもISS基準に抵触するプライム市場上場会社の数は?(会員限定)

東証が3月31日に公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題する文書のベースとなる議論が行われた「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の第5回目において、機関投資家などを対象とした意見募集の結果概要が報告されている。

その中で、“PBR1倍割れ問題”については以下のような具体的な提言が見られた。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

フィデリティ投信
機関投資家協働対話フォーラム
PBRが継続して1倍を下回っている企業には改善計画の開示を求め、毎年、取締役会における検討結果の開示を求めるべき。
フィデリティ投信
ストラテジックキャピタル
PBRが1倍を下回っている企業において、継続して改善が見られない場合にはスタンダード市場への移行を求めるべき。
ストラテジックキャピタル 上場廃止基準に「株価指標」の項目を追加し、「PBRが5年継続して1倍を下回っている場合」を規定すべき。

いずれも「継続して」PBRが1倍割れの状態であることを特に問題視しており、なかでもストラテジックキャピタルは「5年」という具体的な目安を示している。「5年連続でPBRが1倍割れ」が続く企業は、株主提案などアクティズムの対象となるリスクが高いと考えられる。

そこで当フォーラムでは、期末のPBRが5期連続(2018~2021年度)で1倍割れしているプライム市場上場会社の数を確認した(5期分のデータが入手できた会社ベース)。直近年度(2021年度)において1倍割れだった会社は約半数に達しており、5期連続で1倍割れだった会社も3割近くと高水準だった。5期連続にまでハードルを下げてもなお、相当数の会社が“要警戒ライン”にあると言えよう。

さらに投資家の批判が強まることになるのが、資本コストを上回る資本収益性(資本収益性については2021年11月11日のニュース「ROICではなくROEやROAではダメなのか?」の一番下の表参照)も達成できていないケースだ。当フォーラムが5期連続でPBRが1倍割れかつISSの資本生産性基準(5期平均および直近期のROEが5%未満)に抵触する会社を調査したところ、全体の約10%が該当した。社数にして200社弱となっており、アクティビストなどがターゲットにする先を検討する際、ロングリストとしては手頃と考えられる水準であることから、該当する会社は特に警戒度を上げる必要があろう。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

下表は、「5期連続でPBRが1倍割れ」かつ「ROEがISS基準に抵触」した会社の割合が特に多かったセクター(東証による業種ベース)を一覧したもの。これらのセクターでは低PBRおよび低ROEであることについて、業界特有の構造的な要因が存在するものと推測される。事業ポートフォリオをはじめとする経営戦略や株主還元などの財務戦略で着実に成果を上げ、投資家の信頼を獲得する必要があろう。

セクター
(東証業種)
5期分の期末PBRデータあり 5期連続でPBR1倍割れ かつISSのROE基準に抵触
銀行業 56社 96% 75%
電気・ガス業 22社 68% 36%
繊維製品 22社 45% 32%
パルプ・紙 10社 70% 30%
金属製品 31社 58% 29%
輸送用機器 50社 50% 20%

2023/05/15 サステナビリティ開示、社内で新たな承認プロセスが必要に

周知のとおり、財務諸表に「重要な後発事象」が生じた場合、①当該事象の原因が「決算日以前」にあれば財務諸表を修正しなければならず、②当該事象の原因が「決算日以降」であれば、財務諸表に注記しなければならないこととされている。後発事象は「サステナビリティ」の分野でも起こり得る。日本のサステナビリティ開示基準は基本的に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が先行して開発した基準をベースとして、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって開発されることになるが、ISSBが2022年3月に公表した「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(通称「S1基準」)では、報告期末の末日後、サステナビリティ関連財務開示を公表することを承認した日までに発生する取引その他の事象及び状況に関する情報が主要な利用者の意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合には、その内容を開示することを求めている。

重要な後発事象 : 連結決算日後、連結会社並びに持分法が適用される非連結子会社及び関連会社の翌連結会計年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象のこと。
ISSB : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
サステナビリティ関連財務情報 : 企業価値に影響を与える持続可能性に関連するリスクと機会についての洞察を与え、一般目的の財務報告の利用者が、企業のビジネスモデルとそのモデルを維持・発展させるための戦略が依存する資源と関係を評価するための十分な基礎を提供するための情報。

 ISSBは2022年3月、①「全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項」を定めたS1基準と、②「気候関連開示の要求事項」を定めた「S2基準」の2つの公開草案を公表している。S1基準の概要は【特集】ISSB公開草案・前編 「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」の開示フレームワーク」、S2基準の概要は同後編参照。

こうした中、SSBJはさらに、・・・

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2023/05/15 サステナビリティ開示、社内で新たな承認プロセスが必要に(会員限定)

周知のとおり、財務諸表に「重要な後発事象」が生じた場合、①当該事象の原因が「決算日以前」にあれば財務諸表を修正しなければならず、②当該事象の原因が「決算日以降」であれば、財務諸表に注記しなければならないこととされている。後発事象は「サステナビリティ」の分野でも起こり得る。日本のサステナビリティ開示基準は基本的に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が先行して開発した基準をベースとして、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって開発されることになるが、ISSBが2022年3月に公表した「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(通称「S1基準」)では、報告期末の末日後、サステナビリティ関連財務開示を公表することを承認した日までに発生する取引その他の事象及び状況に関する情報が主要な利用者の意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合には、その内容を開示することを求めている。

重要な後発事象 : 連結決算日後、連結会社並びに持分法が適用される非連結子会社及び関連会社の翌連結会計年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象のこと。
ISSB : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。
サステナビリティ関連財務情報 : 企業価値に影響を与える持続可能性に関連するリスクと機会についての洞察を与え、一般目的の財務報告の利用者が、企業のビジネスモデルとそのモデルを維持・発展させるための戦略が依存する資源と関係を評価するための十分な基礎を提供するための情報。

 ISSBは2022年3月、①「全般的なサステナビリティ関連開示の要求事項」を定めたS1基準と、②「気候関連開示の要求事項」を定めた「S2基準」の2つの公開草案を公表している。S1基準の概要は【特集】ISSB公開草案・前編 「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」の開示フレームワーク」、S2基準の概要は同後編参照。

こうした中、SSBJはさらに、サステナビリティ関連の後発事象について、「公表承認日」「公表を承認した社内の機関又は個人の名称」の開示も求める考えであることが分かった。これらの開示は、たとえ後発事象がなかったとしても必要とされる方向。財務諸表における後発事象では求められていない開示を求めることとしたのは、「いつの時点までの情報(後発事象)が開示に含まれているのか」、また「適切な権限を有する機関や個人が公表の承認を行ったのか」は、投資家等がサステナビリティ関連財務開示を理解するために必要な情報と考えられるからだという。

企業としては、「公表承認日」をいつにするのか、また「承認者(機関)」を誰にするのか悩ましいところだろう。財務諸表における後発事象については、実務上は「会計監査人の監査報告書日」とされている。サステナビリティ関連の後発事象の「公表承認日」が結果として「会計監査人の監査報告書日」と同日となることはあり得るものの、企業はあくまで「サステナビリティ関連財務開示を公表することを承認する権限を有する社内の機関又は個人」を決めた上で、同機関等の承認した日をサステナビリティ関連の後発事象の「公表承認日」とする必要がある。それは、監査役会や監査委員会等による監査報告書日でもなければ、株主総会が承認した日でもない。要するに、企業はサステナビリティ関連開示について新たな承認プロセスを設定しなければならないということだ。

SSBJはS1、S2基準の確定版の目標公表時期2024年度中(遅くとも2025年3月31日まで)とし、遅くとも 「2025年4月1日以後に開始する事業年度」から早期適用を可能とする予定としている。まだ時間的猶予はあるが、まずは承認者(機関)を誰にするのかということから検討を始めておきたいところだ。

2023/05/12 投資時の経営判断を巡り株主代表訴訟 社外取締役の1人も対象に

非上場の投資先の株式の価値が低下し多額の評価損が計上されることは決して珍しい話ではない。とりわけこの数年はコロナ禍で投資先のビジネスが行き詰まり、投資先の株式の評価を下げざるを得なくなるケースが多発している。もっとも、評価損計上を理由に、投資時の経営判断を巡って取締役が株主代表訴訟を提起されるケースはほとんどない。その背景には、投資時の経営判断に善管注意義務違反があったことを立証するハードルの高さがある(この点については【新用語・難解用語辞典】「経営判断の原則」参照)。

こうした中、株式投資時の経営判断の是非を争点とする株主代表訴訟が・・・

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2023/05/12 投資時の経営判断を巡り株主代表訴訟 社外取締役の1人も対象に(会員限定)

非上場の投資先の株式の価値が低下し多額の評価損が計上されることは決して珍しい話ではない。とりわけこの数年はコロナ禍で投資先のビジネスが行き詰まり、投資先の株式の評価を下げざるを得なくなるケースが多発している。もっとも、評価損計上を理由に、投資時の経営判断を巡って取締役が株主代表訴訟を提起されるケースはほとんどない。その背景には、投資時の経営判断に善管注意義務違反があったことを立証するハードルの高さがある(この点については【新用語・難解用語辞典】「経営判断の原則」参照)。

こうした中、株式投資時の経営判断の是非を争点とする株主代表訴訟が東証グロースに上場するITbookホールディングスの取締役に対して提起され、注目を集めている。同社は2020年3月、子会社の東京アプリケーションシステムを通じてアパレル企業の三鈴(主に20代~30代の女性をターゲットにしたブランドを展開)の株式をRIZAPグループから2億2,000万円で取得したが(株式取得時のITbookホールディングスのリリースはこちら)、コロナ禍による店舗の長期休業や時短営業などで三鈴の業績が赤字となり債務超過に転落したため、東京アプリケーションシステムは2021年8月20日に三鈴の株式をIT企業のアパテックジャパンに譲渡した。そして、三鈴は譲渡された月の翌月末(2021年9月30日)、東京地裁に自己破産を申請している。

ITbookホールディングスは、子会社の東京アプリケーションシステムによる三鈴株式の譲渡により、2022年3月期の連結損益計算書で関係会社売却益3億6千万円を計上している。自己破産直前にうまく“売り抜けた”ように見えるが、実はそうではなかった。ITbookホールディングスは、三鈴の株式を譲渡した先のアパテックジャパンの株式も保有しており(つまり、ITbookホールディングスグループは自社の投資先に経営不振の三鈴の株式を譲渡したことになる)、その後のアパテックジャパンの企業価値減少(アパテックジャパンは非上場のため同社の業績は外部からはうかがい知れないが、企業価値減少の要因の一つに三鈴の破産があることは間違いない)により、ITbookホールディングスは2022年3月期の連結損益計算書でアパテックジャパン株式の評価損を1億9,365万円計上することとなった。

この評価損計上を、一部のITbookホールディングスの株主は見過ごさなかった。同社の2名の株主は2023年4月14日、アパテックジャパン株式会社の「株価算定」および「出資の実行」にあたっての経営判断に善管注意義務違反が認められるとして、ITbookホールディングスの取締役4名に対し、同社に評価損と同額の損害賠償および遅延損害金の支払いを求める株式代表訴訟を提起した(ITbookホールディングスの2023年5月2日のリリースはこちら)。

ここで注意したいのは、経営判断の是非が問われたのは、コロナ禍で経営が行き詰まった三鈴の株式の「株価算定」および「出資の実行」ではなく、アパテックジャパンの株式の「株価算定」および「出資の実行」の方であるという点だ。これは、ITbookホールディングスの連結損益計算書には三鈴の株式売却に伴い「売却益」が計上されており、アパテックジャパンの株式について評価損が計上されていることが理由と思われる。

冒頭で、本事例のようなケースでは「投資時の経営判断に善管注意義務違反があったことの立証のハードルの高さ」があると指摘したが、実は今回の代表訴訟を提起した株主の一人はITbookホールディングスの元代表取締役会長兼CEOの恩田氏である。恩田氏が同社OBとして何らかの“勝算”を有しつつ株主代表訴訟を提起した可能性は十分にある。また、株主代表訴訟を提起されたITbookホールディングスの取締役4名のうち1名が社外取締役である点も注目される。同社には社外取締役が3名いるため、そのうち1名だけが“狙い撃ち”されたことになる。

上場会社の経営陣としては、本事例を教訓に、株式の取得や売却にあたっては、株主代表訴訟に耐えられるだけのエビデンス(外部の専門家によるデューデリジェンスの報告書、株価算定書といった外部資料だけでなく、社内で「いつ」「誰が」「何を」検討して取得や売却の結論に至ったのかについての社内報告、投資判断・売却判断を行うにあたって用いた指標の記録など)を確実に残すようにしたい。また、社外取締役も執行側に判断を丸投げするのではなく、取締役会等を通じて積極的に発言し、自らが果たした責任の内容が議事録から分かるようにしておきたいところだ。

2023/05/11 「経営問題」としての男女賃金格差

周知のとおり、2023年3月期の有価証券報告書から非財務情報の一部として「男女間の賃金格差」の開示が義務化される(2023年2月7日のニュース「改正開示府令対応におけるリスク」、2023年2月17日のニュース「常時雇用労働者101名~300名以下の企業の有報における女活法関係項目の開示義務」参照)。こうした中、各社では自社の数値の集計や開示の際の“補足説明”の書きぶりの検討が急ピッチで進んでいる。開示義務化を前にして、大手企業における見込み値のアンケート調査結果も新聞等で報じられている。大手人事コンサルティング会社のウイリス・タワーズワトソンの調査によれば、回答企業(東証プライム上場企業を中心とした160社)の平均値として、女性の平均賃金は男性の74%となっている。これは日本全体の値(77.5%)よりも低く、さらにOECD(経済協力開発機構)の平均(88.4%)や米国の平均(82.3%)とは大きな乖離がある(男女間賃金格差の国際比較はこちら)。業種別にみると、医薬品や素材・化学は相対的に男女間賃金差異が小さく、医薬品では86%、素材・化学では85%となっている一方、金融・不動産は62%と、最も男女間賃金差異が大きい業種となっている。

男女間の賃金差異は英語圏では「Gender Pay Gap(GPG)」と呼ばれ、役員・管理職への女性登用度がはっきりと表れやすい指標と言われている。すなわち、Gender Pay Gapは「報酬」の論点のように見えるが、報酬にとどまらず、採用、評価、・・・

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2023/05/11 「経営問題」としての男女賃金格差(会員限定)

周知のとおり、2023年3月期の有価証券報告書から非財務情報の一部として「男女間の賃金格差」の開示が義務化される(2023年2月7日のニュース「改正開示府令対応におけるリスク」、2023年2月17日のニュース「常時雇用労働者101名~300名以下の企業の有報における女活法関係項目の開示義務」参照)。こうした中、各社では自社の数値の集計や開示の際の“補足説明”の書きぶりの検討が急ピッチで進んでいる。開示義務化を前にして、大手企業における見込み値のアンケート調査結果も新聞等で報じられている。大手人事コンサルティング会社のウイリス・タワーズワトソンの調査によれば、回答企業(東証プライム上場企業を中心とした160社)の平均値として、女性の平均賃金は男性の74%となっている。これは日本全体の値(77.5%)よりも低く、さらにOECD(経済協力開発機構)の平均(88.4%)や米国の平均(82.3%)とは大きな乖離がある(男女間賃金格差の国際比較はこちら)。業種別にみると、医薬品や素材・化学は相対的に男女間賃金差異が小さく、医薬品では86%、素材・化学では85%となっている一方、金融・不動産は62%と、最も男女間賃金差異が大きい業種となっている。

男女間の賃金差異は英語圏では「Gender Pay Gap(GPG)」と呼ばれ、役員・管理職への女性登用度がはっきりと表れやすい指標と言われている。すなわち、Gender Pay Gapは「報酬」の論点のように見えるが、報酬にとどまらず、採用、評価、昇格、指名・登用などの各課題が“凝縮”した指標と言える。

したがって、他社と比べて男女間賃金差異の大きい企業が有価証券報告書で最低限の開示しかしないなど消極的な対応を取った場合、管理職候補となるような女性人材から敬遠されるという結果を招きかねない。こうした企業こそ、より積極的な対応、具体的には、自社独自の区分による詳細な開示、男女間賃金差異が大きい要因についての考察、改善に向けた施策の実施状況などを説明する必要性が高いと言える。

2022年12月期決算の有価証券報告書を調査したところ、先行して男女間賃金差異を開示している企業が散見される(花王カゴメキッツキヤノンキリンホールディングスサッポロホールディングスブリヂストンリンクアンドモチベーションなど)。これらの企業の開示を比べてみても、最低限の数字のみを開示している企業よりも、記述情報による補足がある企業の方が投資家や女性人材からは好意的に受け止められるように思われる。

機関投資家にあっては、取締役会の多様性(Board diversity)に加えて、従業員の多様性(Workforce diversity)を対話のアジェンダに置く動きも見受けられる。人的資本は、もはや「人事部」内の業務の一項目にとどまらず、トップダウンでモニタリングし、施策を打っていくべき「経営アジェンダ」になっていると言えよう。

2023/05/10 “インパクト加重会計”、関係者からは「2030年に義務化」発言も 19日からの広島サミットでの言及の有無に注目

G7広島サミット(2023年5月19日~21日)を約1週間後に控え、自らの取組みを広く世界にアピールしたい関係者の動きが活発化している。・・・

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2023/05/10 “インパクト加重会計”、関係者からは「2030年に義務化」発言も 19日からの広島サミットでの言及の有無に注目(会員限定)

G7広島サミット(2023年5月19日~21日)を約1週間後に控え、自らの取組みを広く世界にアピールしたい関係者の動きが活発化している。

昨年(2022年)9月に内閣官房 健康・医療戦略室が立ち上げた「『インパクト投資とグローバルヘルス』に係る研究会」もその一つだ。

同研究会は「グローバルヘルス分野」における民間投資拡大を促す取組みとして紹介できる成果を出すことを目標としてきた。「グローバルヘルス」とは、国境を越えて影響を及ぼす健康問題やその解決策に焦点を当てた学問領域を指す。新型コロナウイルス感染症はまさにこの領域に属すると言える。同研究会は3回の会合を経て先月(2023年4月)18日に最終報告書を取りまとめたが、その中では、新型コロナウイルス感染症が必要性を浮き彫りにしたグローバルヘルスの課題には公的資金のみならず民間資金の動員も不可欠という流れが強まっており、民間資金を動員するための鍵を握るのがインパクト投資の推進であることが強調されている。

インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。

報告書が目指す将来像は、全てのステークホルダーがインパクトを考慮し、社会課題の解決と経済成長の両立を志向する「インパクト・エコノミー」の実現であり、その前段階として、「インパクト」が新たな事業創出や投資行動における共通言語として使われる「インパクト・エコシステム」の実現が必要だとする。その一方で、現状はインパクト投資に対する認知拡大・普及等が必要な初期段階にあると指摘している。

報告書では、インパクト・エコノミーを実現するためには何が必要かを時間軸で整理したロードマップが示されている(下図)。それによると、まずはインパクト投資の認知向上からスタートし、官民連携によるインパクト投資ファンドの設立や投資機会のマッチング、公共調達(官)における優遇などが挙げられている。また、インパクト測定・マネジメント(IMM)と呼ばれる事業や投資に係るインパクトの測定、測定したインパクトを用いた事業改善や意思決定を行うマネジメントの手法について、事例の収集・分析や、IMMに必要な情報基盤の整備・人材育成が必要としている。

<グローバルヘルス分野のインパクト・エコノミー実現に向けたロードマップ>
出典:報告書16ページ
68017

企業・経営陣にとって特に注意が必要なのは、「インパクト加重会計(IWA)」に関する議論だ。インパクト加重会計は、通常の財務諸表を作成するのとは異なり、インパクトを貨幣価値に換算して財務諸表に組み込むことを目指しており、投資家にとってはインパクトも踏まえた投資判断、事業者にとってはインパクトも踏まえた企業価値向上を促す可能性があるという。報告書では、インパクト加重会計を「『インパクト・エコノミー』に移行するための”Missing Piece”を埋める重要な要素」であるとしつつも、今後の手法の検討・改善、普及・浸透への期待を述べるにとどまっている。国内では、エーザイが“顧みられない”熱帯病の一つであるリンパ系フィラリア症の治療薬、アルツハイマー型認知症新薬のインパクトを、ヤマハ発動機が小型浄水装置ヤマハクリーンウォーターシステムのインパクトを示しているが、こうした手法をヘルスケア以外の幅広い分野で活用するには学術的にも実務的にも蓄積が必要というのが関係者の共有認識となっている。ただ、研究会の議論の中では、委員の一人からインパクト加重会計について「2023年のG7において、その重要性が言及され、2025年の大阪万博では、事例が発表されることを目指している。その上で、2030年には、義務化されていることを想定している」との発言があったように、関係者は将来的な義務化を視野に入れているものとみられる。企業にとっては新たな負担ともなりかねないだけに、今後の国際標準化や義務化に向けた議論の進捗は注視しておく必要があろう。

Missing Piece : 欠落した部分

本報告書は、未だ“新たな領域”であるインパクト投資の普及に向け、同投資と親和性が強い「グローバルヘルス」の領域からの切り口を探った先進的なものだが、普及に向け課題は山積しており、ロードマップに示されているとおり、初期段階では官民連携を含む強力な取組みや政策的な後押しが不可欠となっている。裏を返せば、まずは政策当局者に、インパクト投資が岸田政権の推進する「新しい資本主義」を実現するための重要項目であると捉えてもらえるかが重要になる。4月18日には研究会の座長を務めたコモンズ投資の渋澤健会長から岸田総理に報告書が手渡されたところだが、5月19日から開催されるG7広島サミットで取り上げてもらえるかどうかが、インパクト投資の普及に向けた一つの試金石になるだろう。

新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。