概要
パーキンソン病専門老人ホームを営むサンウェルズ(東証プライムに上場)の社長が、会社の費用で、友人との会食、旅行、家族の送迎および花火大会など、私的目的で運転代行会社のサービスを利用したり、私的な交際費を会社経費として不正に精算したりしていた(不正な利用額・精算額は約16百万円)。
経緯
サンウェルズが2025年12月1日に公表した「調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。
2021年
サンウェルズは東証グロース市場への上場を目指す過程で、主幹事証券会社から、交際費に関するルールの厳格化の指導を受け、交際費使用先に対する属性確認を行うとともに社長交際費のコーポレートカードの使用禁止など改善策を実施するようになった。
2022年
6月:サンウェルズは東京証券取引所グロース市場に株式を上場した。
2024年
7月:サンウェルズは東京証券取引所プライム市場へ市場区分変更を行った。プライム市場への区分変更を再申請する際、取引所から役員の交際費の使用に関し、短期間での会食の複数開催の必要性・合理性や、社長個人の人脈形成目的の会食の当社に対する効果等に関する質問を受けた。
9月:サンウェルズで、訪問看護における診療報酬の不正請求が発覚した。
2025年
6月19日:サンウェルズは東京証券取引所スタンダード市場への市場区分変更申請に向けた準備を開始する旨を公表した。
9月:サンウェルズで、苗代社長が会社の費用で、友人との会食、旅行、家族の送迎および花火大会など、私的目的で運転代行会社のサービスを利用している疑いが発覚した。
9月下旬:サンウェルズの監査等委員会は、同社監査法人と協議の上、独立した立場の外部弁護士を起用して本件疑いについて調査を行うこととした。
12月1日:サンウェルズは「運転代行サービスの利用経費等に関する調査の実施及び外部弁護士からの調査報告書の受領並びに再発防止策の策定及び関係者の処分に関するお知らせ」をリリースした。
2026年
1月12日:サンウェルズは2025年12月1日に公表した調査報告書の内容を踏まえ、同社がグロース市場の上場審査時に外部機関に提出した審査用資料等において、役員の社有車の利用状況等に関する説明が事実と異なっていたのではないかとの指摘を受け、同社監査等委員会は、同社から独立した立場を有する弁護士に対し、本件の事実関係等の調査、原因分析及び再発防止策の検討を委嘱した(本件に関するリリースはこちら)。
内容・原因・再発防止策
サンウェルズが2025年12月1日に公表した「調査報告書」によると、本件不正の内容、原因および再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | サンウェルズの苗代社長は、会社の費用で、友人との会食、旅行、家族の送迎および花火大会など、私的目的で運転代行会社のサービスを利用していた。また、業務上の関連性がない飲食費の領収書を会社に精算させていた。 |
| 原因 | <動機> (運転代行サービスについて) サンウェルズの社長は、そもそも業務外の理由で利用した運転代行サービスを会社の経費にすることは許されないという意識を全く有していなかった。 (私的交際費について) サンウェルズの社長は、主に「経営に関する意見交換、情報収集、人脈形成」を目的として、全国の取引先社長、ドクターを対象に会合を行い築き上げた経営者ネットワークを通じてビジネスを拡大させてきたため、交際費の支出自体が多額であった。 <機会> <正当化> |
| 再発防止策 | 代表取締役社長をはじめとする全社的な意識改革 2026年1月中に、外部有識者による経費と内部統制に関するコンプライアンス研修を実施し、代表取締役社長及び社長秘書チーム、並びに稟議決裁を担当する管理管掌役員を含む全社員の経費に対する意識改革を行う。また、監査等委員会による監査等の活動を通じて、役職員の経費に対する意識を継続的に確認し、二度と同じ問題が発生しないよう徹底した意識改革を行う。 当社による運転代行サービスの利用の廃止・車両関連費用の是正 サンウェルズでは運転代行サービスを利用しないようにする。また、ガソリン代、ETC利用料及び車両管理費等の代表取締役社長が使用する車に関する全ての費用を、代表取締役社長の個人負担とする。さらに、2025年12月以降、タクシー利用時にタクシー会社からサンウェルズへの直接請求となっているサービスを廃止し、領収書に基づく立替精算型に完全移行する。これにより、各利用について精算申請を必須とし、その申請内容を厳格にチェックする体制を構築することで、使用目的や業務関連性の適正を確保し、透明性と説明可能性を高める。 交際費稟議申請プロセス・精算承認プロセスにおける運用の見直し 交際費の必要性及び合理性や業務との関連性を適切に判断するための各プロセスが具体化・明確化された役員交際費運用マニュアルを新規に制定。2025年12月1日より、これに従った交際費稟議申請プロセス・精算承認プロセスの運用を開始する。 関係者の処分 苗代社長 月額役員報酬の50%減額(6か月) 上野取締役 月額役員報酬の10%減額(2か月) なお、苗代社長は後任が決定次第、代表取締役社長を退任する意向を表明済み。 財務上の影響 苗代社長は、本調査によって判明した運転代行サービス等の私的利用分の経費(報告書公表日現在確定している金額は約16百万円)に加え、本調査に要した費用の全額(約40百万円)をサンウェルズに返還する。 |
<この事例から学ぶべきこと>
サンウェルズでは2024年に訪問看護における診療報酬の不正請求が発覚しており、信頼回復に向けての取り組みの半ばで、今度は社長の社有車・運転代行の不正利用や私的交際費の不正精算の問題が発生し、社長が退任の意思を示す事態に陥りました。
サンウェルズの調査報告書では、社長による人脈形成を目的とした会食の必要性は認めつつも「だからといって無制限に経営者仲間との会食が交際費として認められるわけではなく、一定の判断基準は必要である。会社において「交際費」として認められるかどうかの判断基準は、会社の業務に関連するか否か、合理的な範囲か否かであり、基本的には会社の現在の業務に関連する相手方との接待会食ということになる。将来的な事業拡大につながる可能性があるとして異業種の経営者と会食することがあるとしても、同じ相手と頻繁に会食する合理性は乏しく、また、金額・会食場所・時間等が不適切である場合(例えば、同席応対のある飲食店での深夜に及ぶ高額の飲食など)には、合理性がなく、また業務に関連するとは認められない。さらに、会社との間で取引関係がなく社長との間で個人的な取引関係がある相手方については、仮に会社の業務について相談している部分があったとしても、原則として個人で費用負担すべきである。」と指摘されています。
サンウェルズでは、交際費の稟議申請の際に、「使用目的」(業務上の関連性)を可視化するため、監査等委員会から指摘を受けて、A(新規事業の情報収集)、B(医療連携)、C(採用促進)、D(集客推進)、Eその他(マーケティング相談、関係構築)の分類に沿って記号を記入することとされていました。こういったタグ付けは監査の際に有用であり、他社でも参考にしたいところです。
サンウェルズの社長秘書は、社長が提出した領収書のうち、上限を超えるなど、立替精算の対象としなかった領収書(社長の自費負担)については、F社の代表取締役に送付していました。F社はプライム市場への区分変更を再申請する際、東証から「2023年12月~2024年2月」の3か月間に5回も会食を開催しており、「会食の目的と成果」を問われていた相手先です(当時の説明は「F社のI社長は株式・資本市場の動向に詳しく、同業界の人脈があり定期的なアドバイスを受けており、社長の経営判断の一助となっている」というものでした)。領収書のうち会社経費にならないものを社長本人ではなくF社に送付するというのは極めてイレギュラーな行為と言わざるを得ません。
サンウェルズは本調査報告書を公表したのち、同社がグロース市場の上場審査を受けた際に外部機関(証券取引所)に提出した審査用資料等においても、役員の社有車の利用状況等に関する説明が事実と異なっていたのではないかとの指摘を受けることになり、新たに別の弁護士に事実関係等の調査、原因分析及び再発防止策の検討を委嘱することを余儀なくされました。調査結果次第では、上場審査時に虚偽の説明をして上場を果たしていたことになり、単なる社内の経費負担の問題に留まらない別の問題まで惹起しかねない状況と言えます。
