2023/02/27 【2023年1月の課題】ISS、グラスルイスの2023年議決権行使助言ポリシーを踏まえた経営課題への取り組み(会員限定)

助言ポリシーはグローバル投資家が期待・要望する最低限のガバナンス/マネジメント水準

機関投資家は株主として経営陣に業務執行(マネジメント)を委託しています。経営陣が業績向上という成果を上げている限り、基本的に機関投資家はマネジメントに口を出しませんし、議決権行使で経営陣に不信任を突きつけることもありません。ただし、マネジメントが成果を出し続けるために最低限必要な監督体制(ガバナンス)が整っていなければ、経営陣を信認し中長期的な視点で投資を続けることはできません。

また、マネジメントそのものに関するマターであっても、注目されている社会的課題やグローバル経済の潮流などに鑑みれば、全ての投資先に必ず実施していて欲しい、あるいは満たしておいて欲しいという事項もあるでしょう。こういった「少なくとも具備していてほしいガバナンス/マネジメントの取り組み」が議決権行使基準に定められ、株主総会の際には、この議決権行使基準に基づき、場合によっては投資先企業に「反対行使」が突き付けられることになります。

一方、議決権行使助言会社であるISS(Institutional Shareholder Services)とグラスルイスは、主に欧米の機関投資家を顧客としています。グローバルな機関投資家は投資先の日本企業に対して、ガバナンスやマネジメントに関する様々な期待や要望を持っています。これらについて、ISSとグラスルイスは独自に培った日本企業に関する知見を反映した“最大公約数”的な水準を設定し、議決権行使助言ポリシーを策定しています。

このようにISSやグラスルイスの議決権行使助言ポリシーは、グローバル投資家が日本の上場企業に期待・要望する「最低限のガバナンス/マネジメント水準」を示すものと言えます。そこには、特にプライム市場上場企業のような機関投資家比率が高い企業にとっての喫緊の課題や、スタンダード市場やグロース市場上場企業も中期的な視点で取り組むべきテーマが多数含まれていると考えるべきでしょう。

以上の問題意識に基づき、ISSおよびグラスルイスによる最新の議決権行使助言基準を確認することで、上場企業が検討するべきガバナンス/マネジメントの課題を考察してみましょう。

① 取締役会の独立性

ISSは2023年から、プライム市場上場企業については、社外取締役が取締役会の3分の1以上を占めていない場合、経営トップ(社長、会長)の選任議案に反対助言します。指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社には従来から適用されていたポリシーですが、監査役会設置会社については従来の「2名」からハードルが引き上げられました。グラスルイスは既にいずれの機関設計でも「3分の1」以上としており、グローバル投資家にとって「3分の1」という水準はまさにミニマムスタンダードと言えるでしょう。個別の機関投資家の議決権行使基準を見ると、「過半数」さらには「3分の2」を求めるケースも散見されます。

企業としては社外取締役の頭数を3分の1以上揃えることはもちろん、社外取締役が求められる機能を十分に果たせるような仕組みを構築する必要があります。ここでいう「求められる機能」とは監督機能およびガバナンスへの貢献です。そのためには、社外取締役への情報提供は十分か、サポート体制は整っているかといったロジ面のみならず、そもそも取締役会が社外取締役の参加を前提として運営されているか、例えば細かな業務執行マターまで決議事項として上程していないか等は改めて確認する必要があるでしょう。取締役会に上程する事項を検討するということは、社外取締役や取締役会のあり方にとどまらず、会社のマネジメント全体の権限分掌体系を見直すことにつながります。事業部門がスピーディーに業務の意思決定ができるような権限委譲がされているか、責任を曖昧にするような稟議・合議プロセスになっていないかなどについての検討が会社全体で行われていなければ、社外取締役が機能する取締役会とはなりません。もちろん、一律に大幅な権限移譲を行えばよいというものではなく、各社の事業特性や組織の体質に応じた、最適なプロセスの構築が期待されます。

② ジェンダー・ダイバーシティ

ISSは2023年から全上場企業を対象に、取締役会に女性取締役が1人もいない場合、経営トップの選任議案に反対助言します。グラスルイスは既に役員(取締役、監査役、指名委員会等設置会社の執行役)のうち1名は女性であることを求める基準を導入済みでしたが、2023年からはプライム市場上場企業については「取締役の10%」が女性であることを求めています。なお、グラスルイスの助言ポリシーでは「女性取締役」ではなく「gender diverse directors」という言葉が用いられており、LGBTQ+ を意識した広範なダイバーシティを念頭に置いている点に特徴があります。

LGBTQ+ : レズビアン、 ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーに加え、どのセクシュアリティにも当てはまらない人を指す「クエスチョニング (X ジェンダー)」、さらに、これら5つのいずれにも当てはまらないセクシュアリティ(例えば、他者に対して性的興味を持たない人を指す「アセクシュアル」、あらゆるセクシュアリティの相手を好きになる人を指す「パンセクシュアル」)である「プラスアルファ」の総称。

両社の助言ポリシーおよび多くの機関投資家における議決権行使基準では「1人」または「10%」の女性取締役を求めており、経営トップ等の選任議案に賛成票を得るには、通常であれば女性取締役が1人、取締役の人数が多い企業では2人いれば足りることになります。しかし、グローバル機関投資家の視点では1人や2人では到底足りず、理想的には男女半々であるべきとの主張も聞かれます。欧州連合(EU)の欧州議会は、域内の上場企業に対し、2026年6月末までに非業務執行社外取締役の少なくとも40%、あるいは全取締役の33%を女性とすることを求めているほか、日本でも30%クラブ・ジャパンの活動が活発化しています。取締役会が10人であれば、そのうち3~4人は女性という水準を視野に入れておくべきでしょう。

取締役会において女性取締役が常時3~4人いるという状況を作るには、女性社外取締役だけではなく、内部昇格者など社内取締役である女性の任用が必要となってきます。したがって、本件は、マネジメントにおける積極的な女性登用を進めるための人材育成方針や社内環境整備方針にも議論が及ぶことになります。取締役会のダイバーシティ向上を端緒として、会社全体においてダイバーシティを高める取り組みを進展させることが期待されます。

③ 気候変動関連の情報開示

ISSとグラスルイスはともに2023年から、気候変動問題に対する取り組みについて情報開示を求める新たな助言ポリシーを導入しています。いずれもTCFDの枠組みに沿った説明を要求していることに加え、ISSはさらに温室効果ガス排出量の削減目標を開示することも求めています。ただし、両社のこれらのポリシーの対象はClimate Action 100+により選定された企業となっており、日本企業では10社(ダイキン工業、日立製作所、本田技研工業、ENEOSホールディングス、日本製鉄、日産自動車、パナソニック、スズキ、東レ、トヨタ自動車)に限定されています。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになっている。
Climate Action 100+ : 機関投資家が、温室効果ガスを排出する世界最大級の企業と協力し、こうした企業が気候変動に関するガバナンスを改善するとともに、排出量を抑制し、気候関連の財務情報の開示を促進するために設立された団体。

このように、上記助言ポリシーは限定的な範囲のみに適用されるものであり、大多数の日本企業にとっては、少なくとも株主総会での対応が求められる課題と捉える必要はありません。とはいえ、機関投資家が気候変動問題の対応(情報開示)次第では取締役選任議案に反対する、すなわち不信任を突き付けるというスタンスが、議決権行使助言会社のポリシーを通じて明確になったということには留意しなければなりません。それだけ気候変動問題が資本市場の関心事となっていることを認識したうえで、各社は気候変動問題への真摯な対応および情報開示を進めるべきでしょう。

以上、ISSとグラスルイスの議決権行使助言基準を踏まえ、3つの経営課題について解説しましたが、いずれの課題もガバナンス上の問題、株主総会対策にとどまらず、各社のマネジメント全体の課題に発展するテーマとして、積極的に議論することが期待されます。

2023/02/27 「開示」は企業の気候変動対応を促進するか

企業は、温室効果ガスの排出量削減をはじめとする気候変動への対応を迫られているが、・・・

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2023/02/27 「開示」は企業の気候変動対応を促進するか(会員限定)

企業は、温室効果ガスの排出量削減をはじめとする気候変動への対応を迫られているが、一般的にそれを促進すると考えられているのが「開示」だ。2023年1月31日に公布・施行され、「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用される改正開示府令には「気候変動」というカテゴリーは設けられなかったものの、改正開示府令で新設された【サステナビリティに関する考え方及び取組】欄では、「ガバナンス」および「リスク管理」が必須記載事項とされ、「戦略」および「指標及び目標」は、“重要性があれば”記載することととされている。気候変動が自社にとって「重要でない」と言える企業はほとんどないと思われることを踏まえれば、多くの企業が気候変動について「戦略 」「指標及び目標」まで記載してくるものと予想される(2022年11月18日のニュース「改正開示府令における気候変動開示の位置付け」参照)。ただ、現状では、気候変動に対し「行動を起こしている」とまで言える企業はごく少数にとどまっているとの指摘が聞かれる。

企業に温室効果ガスの排出量や気候変動に対する取り組みなどの情報開示を求める活動を展開している非営利団体Carbon Disclosure Project(CDP)が2月に公表したレポート「2022 Climate Transition Plan Disclosure」によると、CDPが日本を含む世界135か国、13の業界、18,600の企業を対象に気候変動対応についてアンケートを実施したところ、約4,100社が「気候移行プランを策定している」と回答する一方で、実際に何らかの行動を起こしている企業は全体のわずか0.4%、81社にとどまった。ちなみに、「行動を起こしている」かどうかの判定は、ネットゼロ目標達成に向けた具体的な行動を示すガバナンス、シナリオ分析など21の指標()について、各社がその「全てに」「詳細に」回答したかどうかによって行われる。すなわち、回答していれば「行動を起こしている」と判定されることになる。

シナリオ分析 : 気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標とするパリ協定で合意された脱炭素社会を目指すシナリオ )を含む様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織の戦略のレジリエンス(気候変動の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つこと)について説明すること。

 2022 Climate Transition Plan Disclosure のAppendix参照

日本企業は1,695社が何らかの開示を行っており、そのうち21の指標全てに回答した企業数は16社に過ぎなかったものの、昨年に引き続き他国との比較では最多となった。ちなみに、世界経済をけん引する米国企業で何らかの開示を行っている企業数は3,718社と最多だったが、21の指標全てに回答した企業数はわずか5社だった(レポートの11ページ参照)。

CDPは、米国証券取引委員会(SEC)が現在策定中(年内に最終化の見込み)の上場企業を対象とした気候変動リスクの開示規制が施行されれば、米国企業のネットゼロ目標に向けた行動が進展する可能性があると指摘するとともに、新たな開示規制が施行されても経営陣が気候変動対策に取り組まなかったり、取り組みが遅れたままの状況が続いたりすれば、訴訟を含む様々なリスクに巻き込まれる可能性が高まると警告している。日本は米国ほどの訴訟社会ではないものの、同様のリスクは、改正開示府令適用後の日本においても高まる恐れがある。

一方で、米国では、ここにきてSECが上述の気候変動リスクの開示規制案の内容の緩和を検討している。同開示規制案では、企業は「気候変動リスク管理体制」「気候変動リスクが経営に与える影響」「自社事業とサプライチェーンにおける温暖化ガス排出量」「気候変動に関連する目標や移行計画」などの情報開示を義務付けるほか、財務諸表の項目ごとに気候変動関連コストやリスクを分析し「1%以上」の影響がある場合は報告することを求めているが、SECは、この“1%基準”を撤回するか、基準を引き上げることを検討しているという。1%基準とは具体的には下記のようなものを指す。

・深刻な気象現象に起因する偶発損失や準備金(環境準備金や貸倒引当金)の変更が1%以上
・資産が深刻な異常気象、洪水、干ばつ、山火事、極端な気温、海面上昇にさらされることによる減損費用や資産(在庫、無形・有形財産、工場、機器類等)の帳簿価額の変更が1%以上
・新たな排出量価格付けや規制の影響で販売契約が失われたことによる収益や費用の変更が1%以上

SECが規制の緩和を検討しているのは、規制対応のコストや複雑さに対し、企業のみならず、投資家や政治家からの反発が予想以上に大きかったためだ。例えばアマゾンは、「企業は不可能ではないにせよ、非常に困難な分析を行わなければならず、分析結果も主観的で憶測を含む内容になる」とコメント。ESG投資を牽引してきたブラックロックも、「非常に不正確な開示になる可能性があり、コスト負担も大きい」として、SECに1%基準の撤回を求めている。また、今後、業界団体やESGに否定的な意見を持つ共和党により同開示規制に対する訴訟が提起される可能性が高まっていることを踏まえ、1%基準を撤回または緩和することで、法的防御を高めておこうというSEC側の思惑もあると見られている。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

さらに米国では、下院金融サービス委員会が、ESG規制に対抗することを目的としたワーキンググループを立ち上げ、「SECによる過剰な規制を抑制する」方法を優先的に検討するという。上述した非営利団体CDPのように、「開示規制が企業の気候変動対応を進展させる」という考え方は“正論”とは言えるかもしれないが、開示規制のコスト面も、規制の実効性を確保する観点からは看過できない問題と言える。米国の動向はISSB、ひいては日本のSSBJにおける開示規制議論にも影響を与える可能性もあるだけに、注目される。

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。

 

 

 

 

 

 

 

2023/02/26 【WEBセミナー】『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年2月26日

2023年1月31日、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などを求める改正開示府令が公布・施行されました。改正開示府令は、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から強制適用されます。すなわち、3月決算企業は今年の株主総会後に提出する有価証券報告書等からの対応が求められることとなりますが、残された時間が多くない中で、改正開示府令の解釈や具体的にどのようなことを開示すればよいのか等に頭を悩ませている企業が少なくありません。そこで本セミナーでは、金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループのメンバーとして今回の開示府令の改正に関する議論に参加されたSBI大学院大学教授上田亮子様、コーポレートガバナンス等の専門家として著名な日本シェアホルダーサービスの藤島裕三様に、これらの点について解説していただきます。
具体的には、まず藤島様より改正開示府令の概要を解説していただいた後、改正開示府令の公布と同時に公表された同改正案について寄せられたパブリックコメントとそれに対する金融庁のパブリックコメントの回答を手掛かりに、藤島様より企業側の疑問等を上田様に投げかけていただき、上田様からは改正の背景、ディスクロージャーワーキング・グループでの議論、考え方のほか、企業における開示の好事例にも適宜触れていただきつつ、開示の方向性・留意点・工夫などについてもお話しいただきます。企業が今後改正開示府令に対応した開示内容を検討するうえで非常に参考になるセミナーとなっています。

【講師】
金融庁 金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループ メンバー 上田 亮子 様
日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント 藤島 裕三 様

セミナー資料 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について.pdf
セミナー動画

「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

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2023/02/26 WEBセミナー『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について』(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2023年2月26日

2023年1月31日、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などを求める改正開示府令が公布・施行されました。改正開示府令は、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から強制適用されます。すなわち、3月決算企業は今年の株主総会後に提出する有価証券報告書等からの対応が求められることとなりますが、残された時間が多くない中で、改正開示府令の解釈や具体的にどのようなことを開示すればよいのか等に頭を悩ませている企業が少なくありません。そこで本セミナーでは、金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループのメンバーとして今回の開示府令の改正に関する議論に参加されたSBI大学院大学教授上田亮子様、コーポレートガバナンス等の専門家として著名な日本シェアホルダーサービスの藤島裕三様に、これらの点について解説していただきます。
具体的には、まず藤島様より改正開示府令の概要を解説していただいた後、改正開示府令の公布と同時に公表された同改正案について寄せられたパブリックコメントとそれに対する金融庁のパブリックコメントの回答を手掛かりに、藤島様より企業側の疑問等を上田様に投げかけていただき、上田様からは改正の背景、ディスクロージャーワーキング・グループでの議論、考え方のほか、企業における開示の好事例にも適宜触れていただきつつ、開示の方向性・留意点・工夫などについてもお話しいただきます。企業が今後改正開示府令に対応した開示内容を検討するうえで非常に参考になるセミナーとなっています。

【講師】
金融庁 金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループ メンバー 上田 亮子 様
日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント 藤島 裕三 様

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「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

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2023/02/26 WEBセミナー『「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について』配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2023年2月26日(日)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講 師
「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対する
パブリックコメントの結果等について

~サステナビリティとコーポレートガバナンスに関する
開示の制度整備~
金融庁 金融審議会・DWG メンバー
上田 亮子 様
日本シェアホルダーサービス
研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント
藤島 裕三 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
2023年1月31日、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」「コーポレートガバナンスに関する開示」などを求める改正開示府令が公布・施行されました。改正開示府令は、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から強制適用されます。すなわち、3月決算企業は今年の株主総会後に提出する有価証券報告書等からの対応が求められることとなりますが、残された時間が多くない中で、改正開示府令の解釈や具体的にどのようなことを開示すればよいのか等に頭を悩ませている企業が少なくありません。そこで本セミナーでは、金融庁の金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループのメンバーとして今回の開示府令の改正に関する議論に参加されたSBI大学院大学教授上田亮子様、コーポレートガバナンス等の専門家として著名な日本シェアホルダーサービスの藤島裕三様に、これらの点について解説していただきます。
具体的には、まず藤島様より改正開示府令の概要を解説していただいた後、改正開示府令の公布と同時に公表された同改正案について寄せられたパブリックコメントとそれに対する金融庁のパブリックコメントの回答を手掛かりに、藤島様より企業側の疑問等を上田様に投げかけていただき、上田様からは改正の背景、ディスクロージャーワーキング・グループでの議論、考え方のほか、企業における開示の好事例にも適宜触れていただきつつ、開示の方向性・留意点・工夫などについてもお話しいただきます。企業が今後改正開示府令に対応した開示内容を検討するうえで非常に参考になるセミナーとなっています。
講師の
ご紹介
上田 亮子(うえだ りょうこ)様
金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」メンバー、金融庁「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ」メンバー
SBI大学院大学教授、京都大学客員准教授
1997年横浜市立大学大学院経営学研究科修了。2014年千葉商科大学政策研究博士。2001年みずほ証券入社後、日本投資環境研究所に出向、転籍。2005年明治学院大学非常勤講師。2014年金融庁金融研究センター特別研究員。2017年みずほインターナショナル(ロンドン)に勤務。2020年よりSBI大学院大学准教授、株式会社マネーフォワード社外取締役、京都大学客員准教授に就任。
首相官邸「未来投資会議 構造改革徹底推進会合」金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」、「金融審議会市場ワーキンググループ」、「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」、経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~プロジェクト(伊藤レポート)」、「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」、「株主総会プロセス等の電子化促進等に関する研究会」、International Corporate Governance Network(ICGN)「株主責任委員会」、IFRS財団・国際会計基準審議会(IASB)〝Management Commentary Consultative Group”等の政府や国際機関の委員を歴任。
「安定株主の分析-過去10年間の推移とコーポレート・ガバナンス上の問題」(商事法務)、”How is corporate governance in Japan changing? -Developments in listed companies and roles of institutional investors-“(OECD Corporate Governance Working Papers)など著書・論文多数。

藤島 裕三(ふじしま ゆうぞう)様
日本シェアホルダーサービス 研究開発/コンサルティング部 チーフコンサルタント
慶應義塾大学大学院法学研究科修了後、1994年に株式会社大和総研入社。企業調査部アナリスト、同社経営戦略研究所経営戦略研究部 主任研究員 、企業経営コンサルティング部 副部長・シニアコンサルタントを経て2014年、EY総合研究所に入社、未来経営研究部 部長 主席研究員に就任。コーポレートガバナンス改善計画の策定支援、敵対的買収対応に関わる体制整備の支援、IRや株主対応に関する改善支援・アドバイザリーなどに従事。2017年9月より現職。日本証券アナリスト協会検定会員。慶應義塾大学非常勤講師(2003-2005年)、京都大学大学院非常勤講師(2006―2008年)、財務省 財政投融資ガバナンス委員会 委員(2005ー2006年)、経済産業省コーポレート・ガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013年-)。
『コーポレートガバナンス・マニュアル 21世紀日本企業の条件』(中央経済社、第1版 2005年1月、第2版2008年1月):共著、『現代の財務経営1 コーポレートファイナンス』(中央経済社、2009年3月):共著、『ガイダンス コーポレートガバナンス』(中央経済社、2009年10月):共著など著書・論文多数

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/66919/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/7zMHXqVrnSiGwNRC6

<収録月>
2023年2月

<収録時間>
1時間19分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2023/02/24 【失敗学第104回】島津製作所の事例(会員限定)

概要

島津製作所の子会社で医用機器製品の販売・保守業務等を手掛ける島津メディカルシステムズにおいて、複数のサービス技術者が医療機関に納品したX線装置(いわゆるレントゲン)の電力供給回路に仕掛けを施し一定期間経過後に自動でエラーを起こさせるようにしてX線装置の故障を装い、X線装置の部品交換を有償で行う不正が行われていた。

経緯

島津製作所が2023年2月10日に公表した「外部調査委員会の調査報告書」等によると、一連の経緯は次のとおり。

2017年
9月~10月:島津メディカルシステムズの九州支店・熊本営業所に所属するC氏が、熊本営業所においてX線装置の故障偽装が行われていることを、録音や写真といった証拠を示しつつ、F企画管理本部長(当時)に直接報告・相談を行った。しかし、F企画管理本部長は事案調査等の組織対応を行うことなく、自身で九州支店にてコンプライアンス研修を実施し、かつ、九州支店の支店長や営業所長らに対して婉曲的に本件不正行為の探知を示唆するのみで事態の解決を図った。その結果、現場での物的証拠の廃棄、口裏合わせ、時間の経過等を生じさせてしまった。

2022年
4月~5月:島津製作所および島津メディカルに寄せられた匿名の内部通報を起点として両社共同で社内調査を行ったところ、島津メディカルにおいて、サービス技術者が医療機関に設置されたX線装置につき、保守点検等を実施する際に、構成部品が消耗や経年劣化で故障したと見せかけるための仕掛けを施し、当該構成部品につき有償で交換するという不正が行われていたことが判明した。

9月:島津製作所は外部の専門家のみで構成される外部調査委員会を設置する。

2023年
2月10日:島津製作所は外部調査委員会の「調査報告書」を公表する。

内容・原因・改善策

島津製作所が2023年2月10日に公表した「外部調査委員会の調査報告書」によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

X線装置の故障偽装
内容 島津メディカルの複数のサービス技術者が、各医療機関が利用しているX線装置の保守点検等の際に、電気回路の ON/OFF を切り替えることができる外付けタイマーをX線装置の回路内に取り付け、タイマーの設定時間経過後に電気回路がOFFになるようにすることで、電力供給回路が遮断されるようにし、その結果として、故意にX線装置が稼働しないようにした。これにより、X線装置が稼働しなくなると、医療機関から島津メディカルに一報が入り、これを受け島津メディカルのサービスの技術者が当該医療機関を訪問しX線装置の構成部品が消耗や経年劣化で故障したように医療機関を誤信させて、当該構成部品につき有償(100~300万円)で交換していた。
原因 <動機>
島津メディカルにおいてはサービス技術者らにも業績目標の達成が求められていた。そして業績目標は、前期の売上目標やその達成状況等を参考に、機械的・画一的に数%の加算をした数値として決定されていた。その際、前期の特殊事情や、地域ごとの顧客の規模やその数、当該地域が医療行政に確保している予算規模等の地方の実情等の個別事情は考慮されなかった。業績目標につき前期比数%の加算をするという機械的・画一的な処理が長期にわたり繰り返された結果、実態と業績目標の乖離が拡大する傾向にあった。殊に九州地区の一部地域においては、各営業所に厳しい業績目標が割り当てられ、その達成がときには強い業務上の圧力を伴って求められ、不正行為者らがこうしたプレッシャーにさらされていた。

<機会>
本件不正行為は多くの場合、(i) 保守点検・定期点検として顧客を訪問し、その際にタイマーを設置する、(ii) 後日、タイマーが作動することで機器が正常に動かなくなるため、不具合発生の連絡を受けて再度顧客を訪問し、機器が故障したと虚偽の説明をしつつタイマーを撤去する、(iii) 更に後日、交換部品を設置する((ii)では回線を外したままにしておき、この機会にタイマーを回収することもあった)というように、3回の訪問場面で構成される。
このように本件不正行為の実行態様は、通常の保守点検等の作業に紛れ込ませて、タイマーを設置し、作動後にこれを撤去するという点が主なもので、いずれもその作業自体は比較的短時間に、かつ、目立たない態様で実行可能であり、もともと発覚リスクが低い。
さらに、これら外部のサービス技術者による訪問や作業の際には、医療機器が使用できなくなるため、通常の診療業務の支障にならないよう、診療時間外や休診日に行われることが多い。そのため、結果として作業は人目が少ない機会に行われることが多くなる。
加えて、顧客は島津製作所の医療機器を導入・設置しており、また、島津メディカルと保守契約を締結している関係にもあることから、島津メディカルのサービス技術者に対して深い信頼を寄せている。したがって、不具合等が発生した場合にも他社に相談するのではなく、当該地域を担当する島津メディカルの営業所に連絡をする。それゆえ、タイマーを仕掛けている最中に予想外の第三者が介入し、不正が見破られるという事態は容易には想定されない。
また、訪問時の作業中も、顧客は常時作業に立ち会うわけではない。
こうして、本件不正行為は顧客にも、同業他社等の部外者にも発覚するおそれが低い状況で行われており、不正の「機会」が容易に確保可能であった。

<正当化>
サービス技術者も結局は、上司からの過度な業績目標達成圧力から逃避するには本件不正行為に及ぶほかないという思いや、患者に深刻な健康被害が生じないような方法を選択しているという思いのもと、本件不正行為に及んでいた。

<実行可能性>
本件不正行為は基本的に嫌疑濃厚者のうち、営業所長の地位にあった者が主導して実行している。嫌疑濃厚者7名のうち5名が、営業所長の地位にあった(ある)。営業所長が自ら不正を行うか、部下に不正を実行させる場合、タイマーの作動により不具合が発生するタイミングを事前に把握していることから、顧客からの連絡が来るはずの時点前後の予定を調整し、自ら現場に向かい、タイマーを回収することができる。不正行為を手伝うことを断ることができない部下に回収させてもよい。不正を告発する可能性が高いと考えられる部下には別の職務命令を発し、現場に立ち会わせないようにすればよい。営業所長であれば、これらの状況を作り出すことができる。
また、現場での業務実施履歴はサービスレポートに記録され、業務管理システムにて他のサービス技術者にも共有されるため、その記載内容が不自然であれば、何らかの疑念を持たれうる。不正がバレないようにするには、サービスレポートにもっともらしい記載をしなければならない。しかし、保守点検や部品交換等のサービス業務は複数のサービス技術者で行うため、上司の目が光っていれば、記載内容を誤魔化すことはできない。これに対し、営業所長が自ら不正を働く場合には、自らの判断でサービスレポートの記載内容を決めることができ、不自然な記録を残さないようにすることができる。サービスレポートは顧客の確認・承認を経るものであるが、技術的な事項は顧客にも判断がつかず、顧客の目は十分な牽制とはならない。
営業所長のような管理職が現場業務の適法性・適正性をモニタリングすることが統制環境の骨格となるが、管理職が倫理観を欠き、さらには相互監視を受けないまま社内的に影響力のある地位や職能を有してしまうと、個人レベルでの実行可能性が備わってしまう。

改善策 ●組織・個人の期待役割に適合した業務評価体系の再設計
顧客利益に沿った保守業務の提供を担当者に促すような業務評価を行うため、保守業務に関する組織・個人の期待役割を明確化し、その期待役割に適合した業務評価体系を再設計する。
●管理職の育成強化
管理職を対象としたコンプライアンス意識の醸成、リーダーシップ能力向上及び内部統制実務に関する教育・研修を充実させる。
●内部統制機能の強化
モニタリングの高度化(管理部門による事業部門に対する牽制機能の強化等)、各種システムの連携のための IT 投資、情報の報告体制の強化、風通しの良い組織の実現、内部通報制度の実効性の向上を図り、内部統制機能の強化に向けて取り組む。
<この事例から学ぶべきこと>

本件不正行為は2022年4月の内部通報を契機とする社内調査によって判明しましたが、2017年にも同様の内容で内部通報が行われていました。2017年の通報時には企画管理本部長が組織的な調査をすることなく九州支店の支店長や営業所長らに対して婉曲的に本件不正行為の探知を示唆するのみで事態の解決を図りました。これは“悪手”と言わざるを得ません。結果として現場での物的証拠の廃棄、口裏合わせ、時間の経過等を生じさせてしまったからです。通報があった際のあるべき対応方針については内部通報窓口だけでなく管理職にも周知徹底しておくべきと言えます。

本件の調査にあたり、外部調査委員会は「積極的な情報提供がなされた場合には社内処分の検討において当該経緯を十分に考慮し、他方で虚偽の説明や重要な事実が秘匿されたことが事後に明らかとなった場合には、厳格な処分の対象になりうること」を事前に対象者に説明したうえで、積極的な説明と情報提供を促す手法を採用していました。いわゆるリニエンシーと言われる手法です。リニエンシーは大掛かりな外部調査だけでなく社内だけで完結するような小規模の内部調査において使える手法であるだけに参考にしたいところです。

島津メディカルシステムズでは、「少しでも嫌疑があれば、正常取引であることや不正の実行がおよそ不可能であることを示す証拠がない限り、顧客への補償を自発的に行う」旨の基本方針を適用して社内調査で具体的に本件不正行為が認定された5件の医療機関に対して被害額の適切な補償等を行うとともに、外部調査委員会により選定された38件の事案の医療機関に対しても、適切な補償等の提案を行ったとのことです。不正による被害が発覚しても被害者への補償を渋ったり過度に限定したりする会社も少なくありません。島津メディカルシステムズのような顧客重視の事後対応こそ、不正発覚により損なわれた信頼を回復するための早道と言えます。

2023/02/22 米国有力企業のCEOの報酬減額が相次いでいる背景と日本企業への示唆(会員限定)

最近、米国の有力企業のCEOの報酬減額が相次いでいる。アップルのティム・クックCEO、モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマンCEO、ゴールドマン・サックスのデビッド・ソロモンCEOなど、著名CEOがいずれも減給の憂き目にあっている。減給の対象は主に次期のインセンティブ報酬や株式報酬で、なかには臨時のリテンション報酬を不支給とするケースもある。また、インテルはパット・ゲルシンガーCEOを含む幹部層以上の基本給を5~25%削減することを公表するなど、日本企業の“得意技”でもある「報酬自主返上」に似た動きも見られる。いずれも株価の下落によって報酬の支給額が減少する「結果論」としての報酬の減少ではなく、次期以降の報酬パッケージ、つまり「報酬を獲得する機会」そのものを減らす動きとなっている。

リテンション : 役職員を引き留めること

これらの動きは新たなトレンドと言える。米国企業ではこれまで、有能なリーダーのアトラクション、リテンションという大義名分の下、対象者に提示する報酬水準は年を追うごとに競り上がっていく一方だった。例外として、リーマンショック時およびCOVID-19のパンデミック初期の混乱の最中には、自社の存続のためにキャッシュをセーブする観点から、一時的に経営陣の報酬を削減するケースはあったが、これらを除けば、次期以降の報酬水準そのものを引き下げるという事例はほとんど見られなかった。

アトラクション : 惹きつけること

では、なぜこうした動きが一斉に見られるようになったのだろか。

いずれの企業も最近になって人員の大規模な解雇を公表しているが、米国ではリストラは“経営陣の英断”としてポジティブに受け止められることも多く、解雇された従業員も割り切って次の就労機会を探すため、“従業員との痛みの共有”として経営陣の報酬を削減するという発想にはならない。

経営陣に意識されたのは、昨年(2022年)末から施行された米国の「Pay versus Performance(PVP=報酬と業績の相関)」開示規制である可能性が高い(PVPについては、2022年9月5日のニュース『米国における「PVP開示」の強化と日本企業の役員報酬制度改革』参照)。この新規制の適用により、米国企業は2022年12月16日以降に終了する事業年度に係る開示資料から、CEO(およびその他の重要なエグゼクティブ)の報酬実支給額の5年間の推移、TSR(株主総利回り)および報酬ベンチマーキングに用いるピアグループのTSR、純利益、採用しているKPIの5年間の推移について、表形式でXBRLデータを開示する必要が生じている。さらに、報酬実支給額の算定にあたり、株式報酬も報告時点の公正価値で再評価しなければならない。したがって、投資家等は、最近5年間の株価の推移と報酬実支給額の推移が相関しているか否かについて、簡易かつ比較可能な形で分析できるようになる。当然、これらはSay on Pay(企業の報酬委員会が行った制度運用に対して株主の賛否を問う勧告的決議)の判断材料となる。

報酬ベンチマーキング : 競合他社で同様の仕事をする労働者等に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者等に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。
ピアグループ : 報酬ベンチマーク対象企業群
XBRL : 拡張可能なビジネスレポート用の言語で、eXtensible Business Reporting Languageの略。財務諸表などに用いられ、分析や他社比較が容易になるメリットを有する。日本では、EDINET(金融商品取引法に基づく電子情報開示システム)でも導入されている。

米国企業のCEO報酬が異次元レベルで暴騰している近年の状況からすれば、今回の削減が単なる「払い過ぎの是正」に過ぎないとの見方も可能だ。実際、アップルのティム・クックCEOの報酬パッケージは、40%カット後も依然として49百万ドルにも上っている。一連の報酬削減は、急激な株価下落に直面する中、来る株主総会シーズンに先駆け、株主から「No」を突きつけられる前に先手を打つ行為と言えそうだ。通常、日本企業のCEOの報酬は米国企業ほど高くないが、念のため株主からの追及に備え、自社の株価との相関関係は確認しておく必要があろう。

2023/02/22 米国有力企業のCEOの報酬減額が相次いでいる背景と日本企業への示唆

最近、米国の有力企業のCEOの報酬減額が相次いでいる。アップルのティム・クックCEO、モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマンCEO、ゴールドマン・サックスのデビッド・ソロモンCEOなど、著名CEOがいずれも減給の憂き目にあっている。減給の対象は主に次期のインセンティブ報酬や株式報酬で、なかには臨時のリテンション報酬を不支給とするケースもある。また、インテルはパット・ゲルシンガーCEOを含む幹部層以上の基本給を5~25%削減することを公表するなど、日本企業の“得意技”でもある「報酬自主返上」に似た動きも見られる。いずれも株価の下落によって報酬の支給額が減少する「結果論」としての報酬の減少ではなく、次期以降の報酬パッケージ、つまり「報酬を獲得する機会」そのものを減らす動きとなっている。

リテンション : 役職員を引き留めること

これらの動きは新たなトレンドと言える。米国企業ではこれまで、有能なリーダーのアトラクション、リテンションという大義名分の下、対象者に提示する報酬水準は年を追うごとに競り上がっていく一方だった。例外として、リーマンショック時およびCOVID-19のパンデミック初期の混乱の最中には、自社の存続のためにキャッシュをセーブする観点から、一時的に経営陣の報酬を削減するケースはあったが、これらを除けば、次期以降の報酬水準そのものを引き下げるという事例はほとんど見られなかった。

アトラクション : 惹きつけること

では、なぜこうした動きが一斉に見られるようになったのだろか。・・・

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