社外取締役には、「経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行う」とともに、「会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督する」といった責務を果たすことが期待されている(コーポレートガバナンス・コード原則4-7)。こうした責務を十分に果たしていないと株主から判断された社外取締役は再選時に賛成率が低下し、場合によっては株主から解任(*)のための株主総会の開催を請求されることにもなりかねない。エレベーターやエスカレーターのメーカーであるフジテック(東証プライム市場上場)で、それが現実のものとなった。
* 株主が、自ら辞任しない取締役を任期終了前に辞任させるには、株主総会で解任決議を成立(普通決議:議決権を行使できる株主の過半数の賛成)させるしかない。
2022年7月1日のニュース「創業家社長、アクティビストへの対応が後手に回り社長の座を失う」でお伝えしたとおり、フジテックは香港に拠点を置くOasis Management Company Ltd.(以下、オアシス)に同社社長の内山氏(当時)による公私混同の実態を暴かれ、その後も下記のような悪手が続き、ガバナンスの機能不全が疑われていた。
・外部の専門家による調査結果の公表が遅れたうえに、当該調査を担ったのが同社の顧問弁護士と同じ法律事務所に属する弁護士であった。
・2022年3月14日以降、5月30日までに、内山社長が2回、2名のフジテック社外取締役が各々1回、オアシスと面談をしたことについて、「建設的な対話を図るべく、積極的なエンゲージメントを行っておりました」とし、同社が投資家との対話に積極的だったことをアピールしたものの、逆にオアシス側から対話に消極的な同社の姿勢(関連当事者取引の話題を提起しないこと、顧問弁護士を同席させることが対話の条件とされていて、かつ、質問のほとんどに顧問弁護士が回答していた)を暴露され、結果として藪蛇となってしまった。
・オアシスのキャンペーンが浸透し、フジテックの対応が後手に回り続けた結果、フジテックは内山社長の取締役再任議案の取り下げに追い込まれるが、取り下げをしたのは定時株主総会の当日朝という異例の事態であった。
・内山社長は再任議案の取り下げにより取締役に再任されなかったため代表取締役社長の座を失うものの、定時株主総会直後の取締役会で非取締役の会長(報酬あり)に就任した。フジテックは、今後第三者委員会を設置して、「(第三者委員会による)調査の結果、当社の一部株主より指摘を受けた関速当事者取引その他行為につき問題のないことが確認された際には、改めて、同氏の取締役就任の是非を株主の皆様に諮るべき」との考えを明らかにしている。 |
関連当事者 : 取締役や主要株主、親会社など会社と関係の深い個人や法人のこと。「会社と関連当事者との取引」は有価証券報告書等で開示(これを「関連当事者取引注記」という)しなければならない。
とりわけ、取締役に再任されなかった内山氏を非取締役の会長に就任させたことは悪手中の悪手と言える。なぜなら、「株主への説明責任を果たしていない内山氏を株主総会の承認を経ない会長職にそのまま祭り上げ、長年の関連当事者取引の説明責任を不問にし、内山氏が引き続き経営に関与する仕組みを構築しよう」としている(オアシスの臨時株主総会招集の理由より抜粋)と見透かされることは容易に想像できるからだ。しかも、内山氏が抜けた後の同社の取締役会の構成は以下のとおり社外取締役が過半数を超えている(【新任】は2022年6月の定時株主総会で新たに就任した社外取締役。なお、定時株主総会前の取締役会も9名中5名が社外取締役であった)。取締役会でどのような議論があったのか窺い知ることはできないが、社外取締役がブレーキ役を果たさず、むしろ「過半数の社外取締役」という外形的なガバナンス体制を整える役割を担っていたに過ぎないのではないかと評価されてもやむを得ないところだろう。
フジテックの2022年6月の定時株主総会後の取締役会の構成
代表取締役社長 岡田 隆夫
代表取締役専務 浅野 隆史
取締役 土畑 雅志
取締役 杉田 伸樹(社外取締役)
取締役 山添 茂(社外取締役)
取締役 遠藤 邦夫(社外取締役)
取締役 引頭 麻実(社外取締役)
取締役 三品 和広(社外取締役)【新任】
取締役 大石 歌織(社外取締役)【新任】 |
実際、英国の投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズは「社外取締役が株主の利益のために行動したか疑問」として、社外取締役の責任を追及する構えを見せていた。また、当然ながらオアシスも内山氏が取締役に再任されなかったことをもって納得するはずがない。オアシスは矛先を社外取締役に変え、2022年12月1日に社外取締役全員の解任と新たな社外取締役の選任などを議案とする臨時株主総会の開催の請求に踏み切った。フジテックは2022年12月5日、オアシスより2022年12月1日付の「臨時株主総会招集請求書」が届いた事実をリリースしている(フジテックのリリースはこちらを参照)。
オアシスが社外取締役の解任議案を提案した理由は、「社外取締役としての本来の責務を果たさず、一般株主の利益よりも内山家の利益を優先してきた」という点に尽きる。社外取締役歴が最も長い杉田伸樹氏を例にとると、オアシスは以下の提案理由を挙げている。
オアシスが解任議案を提案した理由(杉田伸樹氏の場合)
2017年6月にフジテックの取締役に就任して以来、取締役会の一員として、フジテックと内山高一氏との間で行われた利益相反上の問題のある関連当事者取引を調査及び監督することができる地位にあった。オアシスは、2020年7月に、内山高一氏による関連当事者取引の調査を要請したものの、杉田氏は何ら必要と考えられる措置をとることなく、さらなる不適切な関連当事者取引が行われることを阻止できなかった。例えば、杉田氏は、2021年5月12日、フジテックが所有していたドムス元麻布104号室を内山雄介氏(内山高一氏の息子)が代表取締役を務める私的な法人に対して、適正価格と比して大幅な値引きをして売却することを承認する取締役会決議に参加していた。また、杉田氏は、フジテックとの間に利害関係のある西村あさひ法律事務所に依頼して、内山氏の疑惑を不問に付すという結論ありきの明らかに偏った調査報告書を提出させたことに関し、当該調査を主導する会議体の一員として重要な役割も担っていた。さらに、杉田氏は、フジテックの取締役会の諮問機関である指名・報酬委員会の委員長であるにもかかわらず、調査報告書を十分精査せず、2022年5月29日に開催された指名・報酬諮問委員会において内山高一氏の再任議案を見直さなかった。また、社長その他役員を選定プロセスに透明性が欠如しており、サクセッションプランを定めずにいた点も問題である。
フジテックは、2022年6月23日、内山氏を取締役候補者とする定時株主総会に付議予定の議案を関連当事者取引に関する疑惑を受けて撤回したにもかかわらず、定時株主総会閉会直後の取締役会において、株主に対する何らの説明責任を果たしていない内山氏を、フジテックへの影響力と支配力を行使することができ、株主に対して説明責任を負わない有給の役職である会長にそのまま任命した。このことは、株主に対する背信行為というべき。それにもかかわらず、杉田氏は、不適切な関連当事者取引を行った内山氏の責任を不問にし、おまけに、内山氏の経営への継続的な関与を可能にし、そして、さらなる関連当事者取引を阻止できずにいることは明らか。
また、杉田氏は、内山氏に対する疑惑が明るみになった後も、フジテックが虚偽の事実を公表することを阻止できず、第三者委員会による追加調査においても、「株主により指摘を受けた関連当事者取引その他行為について、法的にも、企業統治上も問題ない」という当初の調査の結論を見直さず、「本取引に対する、株主をはじめとするステークホルダーの皆様の疑念を払拭し、更にご安心いただく」なる目的の追加調査を2022年6月17日の取締役会の決議に参加して決定し、内山氏に有利な結果が出ることが必然であるような結論ありきの調査を実施させるなどの対応に終始している。このようなフジテックの利益に反する対応をしたことの責任も問われるべき。
さらに、杉田氏には、フジテックが適切な成長戦略を策定するよう監督する義務があったにもかかわらずそれを怠ったこと、経営管理能力及び内部統制の欠如、内部告発者の不十分な保護、フジテックが他社と比べてESG上劣後している点にも責任を負っている。 |
オアシスは、これらの行為はすべて、コーポレートガバナンス・コード、日本取引所グループの「ハンドブック独立役員の実務」、経済産業省の「社外取締役の在り方に関する実務指針」で定められた社外取締役が担うべきと期待された責務を果たすものではなく、ベストプラクティスに何ら合致しないと手厳しく非難し、解任が相当と結論付けている。他の社外取締役の解任理由も、就任時期が異なることによる違いなどはあるものの、おおむね同じ内容となっている。
フジテックの6人の社外取締役解任の影響は社外取締役本人だけにとどまらない。これらの社外取締役は、株主であるオアシスから「社外取締役としての資質」を問われている以上、仮に解任議案が可決された場合、単なる“お家騒動”などで役員全員が解任されたようなケースとは異なり、市場からも「社外取締役としての資質」への疑問の声が挙がりかねない。つまり、フジテックの社外取締役が社外取締役(場合によっては社外監査役)を兼任している先(別の上場会社)にも影響が飛び火する可能性があるということだ。
本来なら、社外取締役としての判断に間違いがなかったと自負しているのであれば正々堂々と株主総会でそのことを訴えるべきであり、それが企業価値を向上させるため経営を監督するという役割を株主から付託された社外取締役の責務と言える。とはいえ、市場から社外取締役としての資質を疑われるというレピュテーションリスクを回避するため、解任議案が成立しそうな情勢であれば、社外取締役が自ら株主総会前に辞任し、解任議案が確定することを回避するという選択をする可能性も十分にある。解任議案の行方、そして社外取締役の選択が注目されるところだ。本件に動きがあり次第、続報したい。