2022/12/12 欧米企業を意識した役員報酬水準の設定の是非(会員限定)

日本企業の経営トップ(CEO)の報酬水準は欧米企業に比べると圧倒的に低いと言われているが、コーポレートガバナンス・コード(特に経営者報酬にインセンティブ付けを求める原則4―2や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定することを求める補充原則4-2①)の導入以降、一部の日本企業では、欧米企業を意識して業績連動性が高められるとともに、報酬水準が引上げられている。しかし、いまだ多くの日本企業にとって「欧米企業を意識した報酬水準の見直し」は非常に難易度の高いアジェンダとなっており、各社の報酬委員会・報酬委員会事務局も頭を悩ませている。

特に一筋縄では行かないのが、比較対象に海外企業を含む報酬ベンチマーク(グローバル報酬ベンチマーク)だ。報酬ベンチマークは報酬水準の議論をする際には避けて通れないが、グローバル報酬ベンチマークが難しい理由として、第一に日本企業と欧米企業では報酬ベンチマークの「背景」が異なる、ということが挙げられる。欧米においては経営幹部人材の流動性が高く、人材獲得競争の中で報酬水準が高額化していったという経緯がある。一方、日本では欧米ほど経営幹部人材の流動性は見受けられず、まして、海外の競合企業から引き抜かれるといった可能性も低い。このように人材獲得競争の観点から見ると、そもそも日本企業の経営幹部人材の報酬について、欧米企業の経営幹部人材をベンチマークとすることが適切かという議論が生じる。

報酬ベンチマーク : 競合他社で同様の仕事をする労働者に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。

ただし、海外の競合企業との人材獲得競争に晒されていないからと言って、ベンチマークを行う必要がないということにはならない。自社の方針として、経営幹部人材の報酬水準をどの程度に設定するのかということは、人材獲得の観点のみならず、本人のインセンティブや、業績に照らした報酬水準の妥当性(ペイ・フォー・パフォーマンス)の観点からも議論する必要がある。例えば、日本企業で、グローバルの同業他社と比べて遜色のない業績を上げているCEOであれば、(人材獲得競争関係の有無にかかわらず)グローバルの同業他社に近い報酬水準をもって報われてしかるべき、との考え方もあろう。

第二に、ベンチマーク対象企業の選択の難しさがある。グローバル報酬ベンチマークにおいては、客観的・中立的な基準に基づいて同輩企業群(報酬諮問委員会が定める同業種、同規模等のベンチマーク対象企業群=ピアグループ)を選択する、ということ自体が困難となる。具体的には、どの国/地域の企業を何社選ぶかということが課題となることが多い。例えば、報酬水準が高い米国企業を中心に同輩企業を選べば、必然的に報酬ベンチマークの水準も高くなる。逆に、日本企業を中心に同輩企業を選べば、報酬ベンチマークの水準は低くなる。すなわち、同輩企業の選び方次第で報酬ベンチマークの結果は大きく変わってしまうということだ。したがって、一つの同輩企業群を設定し、その中央値に合わせていくというような機械的なアプローチでは適切な結果は得られないと考えるべきだろう。この問題は、日本企業のみならず、(日本企業ほどではないももの、米国企業と報酬水準がある程度乖離している)欧州企業においても生じている。そこで、報酬水準の異なる国や地域ごとに同輩企業群を“複数”設定し、それらの報酬水準を総合的・複眼的に見て自社の報酬水準を判断する、というアプローチをとっている企業が多い。

第三に、日本において受け入れられる報酬水準の上限がどの程度なのか、明確なコンセンサスがない、ということだ。上述のとおり、グローバル報酬ベンチマークは、ベンチマーク結果を機械的に当てはめればよい、というような単純なものではない。最終的には、どうしても報酬委員会の議論に基づく総合的な判断に頼らざるを得ない面がある。報酬委員会としては、自社の足元の業績や、自社内における報酬格差(例えば、海外子会社の幹部の報酬が日本本社のCEOの報酬を上回っている場合、それを是正すべきかどうか)などを考慮して検討を進めていくことになる。そのうえで、グローバル水準まで報酬を増額したいという場合には、日本において世間的に受け入れられる報酬水準とはどの程度なのかを検討しつつ、落としどころを探っていかなければならない。裏を返せば、各社の報酬委員会におけるこうした議論の積み重ね自体が、日本の経営幹部人材の報酬相場はどの程度が適切なのか、という問いに対する答えを見つけていく作業とも言える。

以上のとおり、グローバル報酬ベンチマークの難しさを3つ挙げたが、日本企業の経営幹部人材の報酬水準のグローバル化(欧米化)の是非については、未だ答えの出ていない領域と言える。それだけに、報酬委員会には、5年後、10年後を見据えた見識と判断が問われることになろう。

2022/12/09 ESG投資に強い逆風 巨大自治体がESGを考慮した運用会社への委託打ち切り

米国政界が「ESG積極派」と「否定派」に分かれていることは・・・

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2022/12/09 ESG投資に強い逆風 巨大自治体がESGを考慮した運用会社への委託打ち切り(会員限定)

米国政界が「ESG積極派」と「否定派」に分かれていることは2022年9月2日のニュース「ESG積極派と否定派の間で揺れるブラックロック」でお伝えしたとおりだが、自州の資金を投資する際にESG要因を考慮することを禁止する方針を今年(2022年)8月に採用したフロリダ州は12月1日、世界最大の資産運用会社でありESG投資を牽引してきたブラックロックが「ESG要素を考慮した投資を行っている」として、ブラックロックへの資産運用委託を打ち切ることを発表した。フロリダ州管理委員会(Florida State Board of Administration=FSBA)でCFOを務めるPatronis氏は、「ESG要素を考慮することはフロリダ州が目指すリターンの最大化とは無関係であり、資産運用会社が果たすべき役割と相反している」と指摘している。ブラックロックがフロリダ州から運用を受託している資金は約20億ドルにのぼる。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

これに対しブラックロックは即座に反論し、

・ブラックロックは資産運用の受託者として、顧客のリターンの最大化のみを目指している
・ブラックロックは過去5年間にわたってフロリダ州の資金を運用し、優れた運用実績を残している
・ESGを政治問題化する最近の動きは、高品質な投資へのアクセスを阻害し、その結果、リターンにも影響が出ている
・受託者は政治よりも運用成績を優先すべき

などとのコメントを出している。

ブラックロックは、自治体のみならず、同じ投資家からも“攻撃”を受けている。著名なアクティビストであるヘッジファンドのBluebell Capital Partnersはブラックロックに対し、ESGへのアプローチを再考することに加え、ESGに関する論客と知られ、かつて「利益の追求」が企業の責務であるとの考え方を否定したうえで、「企業は社会の改善に取り組むべき」と発言したこともあるブラックロックのCEOであるFink氏(同CEOの発言については2019年1月23日のニュース『大手運用機関が企業経営者に「社会貢献」を求める背景』参照)の辞任を求める書簡を送付している。米国ではトランプ元大統領が所属する共和党勢力がESG投資に否定的な立場をとっているが、Bluebellは、ブラックロックがESGを政治問題化して共和党系の州の批判のターゲットとなる一方で、一部のESG関連の事柄には消極的であるなど、ESGへの取り組みを取捨選択していると指摘。こうした姿勢が顧客の投資をリスクにさらしていると批判している。

グローバルで見ればESG投資の拡大という基本的な流れは変わらないものと考えられるが、世界最大の経済大国である米国で3番目の人口を有するフロリダ州が「ESG要素の考慮はリターンの最大化とは無関係」と断言し、実際「資産運用委託の打ち切り」という決断を下したインパクトは小さくない。他州への広がりなど、まずは米国内の動向が注目される。

2022/12/08 年末年始休業のお知らせ

誠に勝手ながら、2022年12月29日~2023年1月6日は事務局の年末年始休業となります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますようお願い致します。

なお、会員登録は冬季休業期間中もオンラインにて可能です。
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2022/12/08 オアシスがフジテックに総会招集を請求 「責務を果たさない」社外取全員の解任を目指す

社外取締役には、「経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行う」とともに、「会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督する」といった責務を果たすことが期待されている(コーポレートガバナンス・コード原則4-7)。こうした責務を十分に果たしていないと株主から判断された社外取締役は再選時に賛成率が低下し、場合によっては株主から解任()のための株主総会の開催を請求されることにもなりかねない。エレベーターやエスカレーターのメーカーであるフジテック(東証プライム市場上場)で、それが現実のものとなった。・・・

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2022/12/08 オアシスがフジテックに総会招集を請求 「責務を果たさない」社外取全員の解任を目指す(会員限定)

社外取締役には、「経営陣幹部の選解任その他の取締役会の重要な意思決定を通じ、経営の監督を行う」とともに、「会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督する」といった責務を果たすことが期待されている(コーポレートガバナンス・コード原則4-7)。こうした責務を十分に果たしていないと株主から判断された社外取締役は再選時に賛成率が低下し、場合によっては株主から解任()のための株主総会の開催を請求されることにもなりかねない。エレベーターやエスカレーターのメーカーであるフジテック(東証プライム市場上場)で、それが現実のものとなった。

 株主が、自ら辞任しない取締役を任期終了前に辞任させるには、株主総会で解任決議を成立(普通決議:議決権を行使できる株主の過半数の賛成)させるしかない。

2022年7月1日のニュース「創業家社長、アクティビストへの対応が後手に回り社長の座を失う」でお伝えしたとおり、フジテックは香港に拠点を置くOasis Management Company Ltd.(以下、オアシス)に同社社長の内山氏(当時)による公私混同の実態を暴かれ、その後も下記のような悪手が続き、ガバナンスの機能不全が疑われていた。

・外部の専門家による調査結果の公表が遅れたうえに、当該調査を担ったのが同社の顧問弁護士と同じ法律事務所に属する弁護士であった。
・2022年3月14日以降、5月30日までに、内山社長が2回、2名のフジテック社外取締役が各々1回、オアシスと面談をしたことについて、「建設的な対話を図るべく、積極的なエンゲージメントを行っておりました」とし、同社が投資家との対話に積極的だったことをアピールしたものの、逆にオアシス側から対話に消極的な同社の姿勢(関連当事者取引の話題を提起しないこと、顧問弁護士を同席させることが対話の条件とされていて、かつ、質問のほとんどに顧問弁護士が回答していた)を暴露され、結果として藪蛇となってしまった。
・オアシスのキャンペーンが浸透し、フジテックの対応が後手に回り続けた結果、フジテックは内山社長の取締役再任議案の取り下げに追い込まれるが、取り下げをしたのは定時株主総会の当日朝という異例の事態であった。
・内山社長は再任議案の取り下げにより取締役に再任されなかったため代表取締役社長の座を失うものの、定時株主総会直後の取締役会で非取締役の会長(報酬あり)に就任した。フジテックは、今後第三者委員会を設置して、「(第三者委員会による)調査の結果、当社の一部株主より指摘を受けた関速当事者取引その他行為につき問題のないことが確認された際には、改めて、同氏の取締役就任の是非を株主の皆様に諮るべき」との考えを明らかにしている。

関連当事者 : 取締役や主要株主、親会社など会社と関係の深い個人や法人のこと。「会社と関連当事者との取引」は有価証券報告書等で開示(これを「関連当事者取引注記」という)しなければならない。

とりわけ、取締役に再任されなかった内山氏を非取締役の会長に就任させたことは悪手中の悪手と言える。なぜなら、「株主への説明責任を果たしていない内山氏を株主総会の承認を経ない会長職にそのまま祭り上げ、長年の関連当事者取引の説明責任を不問にし、内山氏が引き続き経営に関与する仕組みを構築しよう」としている(オアシスの臨時株主総会招集の理由より抜粋)と見透かされることは容易に想像できるからだ。しかも、内山氏が抜けた後の同社の取締役会の構成は以下のとおり社外取締役が過半数を超えている(【新任】は2022年6月の定時株主総会で新たに就任した社外取締役。なお、定時株主総会前の取締役会も9名中5名が社外取締役であった)。取締役会でどのような議論があったのか窺い知ることはできないが、社外取締役がブレーキ役を果たさず、むしろ「過半数の社外取締役」という外形的なガバナンス体制を整える役割を担っていたに過ぎないのではないかと評価されてもやむを得ないところだろう。

フジテックの2022年6月の定時株主総会後の取締役会の構成
代表取締役社長 岡田 隆夫
代表取締役専務 浅野 隆史
取締役 土畑 雅志
取締役 杉田 伸樹(社外取締役)
取締役 山添 茂(社外取締役)
取締役 遠藤 邦夫(社外取締役)
取締役 引頭 麻実(社外取締役)
取締役 三品 和広(社外取締役)【新任】
取締役 大石 歌織(社外取締役)【新任】

実際、英国の投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズは「社外取締役が株主の利益のために行動したか疑問」として、社外取締役の責任を追及する構えを見せていた。また、当然ながらオアシスも内山氏が取締役に再任されなかったことをもって納得するはずがない。オアシスは矛先を社外取締役に変え、2022年12月1日に社外取締役全員の解任と新たな社外取締役の選任などを議案とする臨時株主総会の開催の請求に踏み切った。フジテックは2022年12月5日、オアシスより2022年12月1日付の「臨時株主総会招集請求書」が届いた事実をリリースしている(フジテックのリリースはこちらを参照)。

オアシスが社外取締役の解任議案を提案した理由は、「社外取締役としての本来の責務を果たさず、一般株主の利益よりも内山家の利益を優先してきた」という点に尽きる。社外取締役歴が最も長い杉田伸樹氏を例にとると、オアシスは以下の提案理由を挙げている。

オアシスが解任議案を提案した理由(杉田伸樹氏の場合)
2017年6月にフジテックの取締役に就任して以来、取締役会の一員として、フジテックと内山高一氏との間で行われた利益相反上の問題のある関連当事者取引を調査及び監督することができる地位にあった。オアシスは、2020年7月に、内山高一氏による関連当事者取引の調査を要請したものの、杉田氏は何ら必要と考えられる措置をとることなく、さらなる不適切な関連当事者取引が行われることを阻止できなかった。例えば、杉田氏は、2021年5月12日、フジテックが所有していたドムス元麻布104号室を内山雄介氏(内山高一氏の息子)が代表取締役を務める私的な法人に対して、適正価格と比して大幅な値引きをして売却することを承認する取締役会決議に参加していた。また、杉田氏は、フジテックとの間に利害関係のある西村あさひ法律事務所に依頼して、内山氏の疑惑を不問に付すという結論ありきの明らかに偏った調査報告書を提出させたことに関し、当該調査を主導する会議体の一員として重要な役割も担っていた。さらに、杉田氏は、フジテックの取締役会の諮問機関である指名・報酬委員会の委員長であるにもかかわらず、調査報告書を十分精査せず、2022年5月29日に開催された指名・報酬諮問委員会において内山高一氏の再任議案を見直さなかった。また、社長その他役員を選定プロセスに透明性が欠如しており、サクセッションプランを定めずにいた点も問題である。
フジテックは、2022年6月23日、内山氏を取締役候補者とする定時株主総会に付議予定の議案を関連当事者取引に関する疑惑を受けて撤回したにもかかわらず、定時株主総会閉会直後の取締役会において、株主に対する何らの説明責任を果たしていない内山氏を、フジテックへの影響力と支配力を行使することができ、株主に対して説明責任を負わない有給の役職である会長にそのまま任命した。このことは、株主に対する背信行為というべき。それにもかかわらず、杉田氏は、不適切な関連当事者取引を行った内山氏の責任を不問にし、おまけに、内山氏の経営への継続的な関与を可能にし、そして、さらなる関連当事者取引を阻止できずにいることは明らか。
また、杉田氏は、内山氏に対する疑惑が明るみになった後も、フジテックが虚偽の事実を公表することを阻止できず、第三者委員会による追加調査においても、「株主により指摘を受けた関連当事者取引その他行為について、法的にも、企業統治上も問題ない」という当初の調査の結論を見直さず、「本取引に対する、株主をはじめとするステークホルダーの皆様の疑念を払拭し、更にご安心いただく」なる目的の追加調査を2022年6月17日の取締役会の決議に参加して決定し、内山氏に有利な結果が出ることが必然であるような結論ありきの調査を実施させるなどの対応に終始している。このようなフジテックの利益に反する対応をしたことの責任も問われるべき。
さらに、杉田氏には、フジテックが適切な成長戦略を策定するよう監督する義務があったにもかかわらずそれを怠ったこと、経営管理能力及び内部統制の欠如、内部告発者の不十分な保護、フジテックが他社と比べてESG上劣後している点にも責任を負っている。

オアシスは、これらの行為はすべて、コーポレートガバナンス・コード、日本取引所グループの「ハンドブック独立役員の実務」、経済産業省の「社外取締役の在り方に関する実務指針」で定められた社外取締役が担うべきと期待された責務を果たすものではなく、ベストプラクティスに何ら合致しないと手厳しく非難し、解任が相当と結論付けている。他の社外取締役の解任理由も、就任時期が異なることによる違いなどはあるものの、おおむね同じ内容となっている。

フジテックの6人の社外取締役解任の影響は社外取締役本人だけにとどまらない。これらの社外取締役は、株主であるオアシスから「社外取締役としての資質」を問われている以上、仮に解任議案が可決された場合、単なる“お家騒動”などで役員全員が解任されたようなケースとは異なり、市場からも「社外取締役としての資質」への疑問の声が挙がりかねない。つまり、フジテックの社外取締役が社外取締役(場合によっては社外監査役)を兼任している先(別の上場会社)にも影響が飛び火する可能性があるということだ。

本来なら、社外取締役としての判断に間違いがなかったと自負しているのであれば正々堂々と株主総会でそのことを訴えるべきであり、それが企業価値を向上させるため経営を監督するという役割を株主から付託された社外取締役の責務と言える。とはいえ、市場から社外取締役としての資質を疑われるというレピュテーションリスクを回避するため、解任議案が成立しそうな情勢であれば、社外取締役が自ら株主総会前に辞任し、解任議案が確定することを回避するという選択をする可能性も十分にある。解任議案の行方、そして社外取締役の選択が注目されるところだ。本件に動きがあり次第、続報したい。

2022/12/07 人事部門等の業務負担が大幅軽減へ(会員限定)

デジタル化が日本経済の課題となる中、電子帳簿保存法が緩和されることについて「デジタル化の後退」との厳しい指摘も聞かれる一方で(電子帳簿保存法の緩和については2022年12月1日のニュース「電子帳簿保存法が大幅緩和 大企業も猶予措置の適用対象に」参照)、従業員の給与等に関する書類については電子化が一気に進む可能性が出てきた。政府は12月15日にも令和5年度税制改正大綱を公表する見込みだが、給与所得の源泉徴収票や給与支払明細書の「電子交付」を容易にするよう、所得税法を改正する方針を固めたことが当フォーラムの取材により分かった。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

給与所得関連の分野では、マイナポータルとの連携によりデジタル化が進む年末調整(マイナポータルと連携してデータを一括取得し、住宅ローン控除、保険料控除などの各種控除申告書に自動入力することが可能となっている。詳細は国税庁のウェブサイト参照)に対し、デジタル化が遅れているのが、給与所得の源泉徴収票や給与支払明細書だ。

所得税法上、源泉徴収票や給与支払明細書は原則として「紙」で交付する必要があるが、「給与の支払いを受ける者」の承諾が得られれば、電子交付することができる(所得税法226条1項および4項、231条1項および2項)。しかし、上場企業、特に社員数が数千人、数万人といる企業ともなれば、全従業員の承諾を得るには膨大な手間がかかるうえに、なかには承諾を求めてもレスをしない従業員も一定数出てくるだろう。レスがなければ所得税法が求める「承諾」は得られなかったということにならざるを得ない。そこで人事部門等(源泉徴収票や給与支払明細書は経理部門ではなく人事部門が担当している企業も多い)は、レスのない社員1人ひとりに当たって意思確認をする必要が生じる。このような「承諾」手続きの手間を敬遠し、源泉徴収票や給与支払明細書の電子交付が進まないという問題が決して少なくない企業で現実に起こっている。

この問題に対応するため、令和5年度税制改正では、源泉徴収票および給与支払明細書を電子交付するために必要な従業員の承諾手続が簡素化される。簡素化の内容は現時点では明確ではないが、少なくともレスのない社員1人ひとりに当たって意思確認をするような手間が不要となることは間違いない。この改正により、源泉徴収票、給与支払明細書の電子交付が各企業で一気に進む可能性がありそうだ。また、源泉徴収票、給与支払明細書の交付の電子化は人事部門等の業務負担の軽減にもつながるだろう。いまだにこれらの書類を紙で交付している企業の経営陣は、令和5年度税制改正後(本改正の適用は令和5年4月1日~となる見込み)、電子交付への切り替えを検討したいところだ。

2022/12/06 急ピッチで進むインパクト投資の普及に向けた議論

金融庁は10月25日にサステナブルファイナンス有識者会議(サステナブルファイナンス有識者会議の設立の背景などについては2021年8月30日のニュース「ESG投資の隆盛に伴い資産運用会社等への開示規制が強化、企業への影響は?」参照)の下に「インパクト投資等に関する有識者検討会」を設置して以来、10月28日、11月11日、25日と1か月の間に既に3回の会合を開催するなど、急ピッチで議論を進めている。・・・

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2022/12/06 急ピッチで進むインパクト投資の普及に向けた議論(会員限定)

金融庁は10月25日にサステナブルファイナンス有識者会議(サステナブルファイナンス有識者会議の設立の背景などについては2021年8月30日のニュース「ESG投資の隆盛に伴い資産運用会社等への開示規制が強化、企業への影響は?」参照)の下に「インパクト投資等に関する有識者検討会」を設置して以来、10月28日、11月11日、25日と1か月の間に既に3回の会合を開催するなど、急ピッチで議論を進めている。

一般的に、インパクト投資とは、社会問題・環境問題を解決することを目的として投資することをいう(インパクト投資の動向については2022年9月15日のニュース『「インパクト投資」が急速に拡大 注目されるGPIFの動き』参照)。金融庁は、インパクト投資等に関する有識者検討会の設置趣旨を「金融機関や投資家がインパクト投資等の取り組みを行う際に有用な実務的な留意点等も含め、社会・環境課題の解決やスタートアップを含む新たな事業の創出に資するインパクト投資等の拡大に向けた方策について議論を行う」ことと説明しており、資本市場における「新しい資本主義」の柱となる施策として力を注いでいる。メンバーも、座長に経済財政諮問会議の有識者議員である経済学者の柳川範之東京大学教授、副座長にサステナブルファイナンス有識者会議の座長であり、ESGの研究者として知られる水口剛高崎経済大学学長を招聘したほか、新しい資本主義実現会議の有識者構成員である渋澤健 シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役、さらには証券、信託、都銀、地銀、大学発ベンチャー関係者、起業家、経団連、事業会社など、経済界、金融界、投資する側・される側からバランス良く選任した。

新しい資本主義 : 岸田総理が重要施策に掲げる「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした資本主義のこと。

金融庁は、インパクト投資等に関する有識者検討会での検討事項として以下を挙げている。インパクト投資の普及に向けた意欲的な内容と言えるだろう。

第1回検討会における事務局資料の2ページ参照
①収益との両立を含むインパクト投資の基本的な考え方と類型を整理出来ないか。
②社会的効果と事業・収益の創出を実現し得るインパクト投資の代表的な分野や先行事例を整理出来ないか。
③対象事業の選定、社会的効果の計測、資金調達の際の開示など、インパクト投資に関わる実務的な指針を整理の検討が出来ないか。さらに、それらの指針を実施し、実務上の知見を蓄積する仕組みが検討できないか。
④更なる課題や政府等が更に対応を進めることが有益な事項を検討することが出来ないか。

もっとも金融庁は、インパクト投資についてはロックフェラー財団、GIIN(Global Impact Investing Network)、英国財務省、OECDなど官民様々な機関がそのコンセプトを打ち出しており、定義や考え方は様々であるため(各主体によるインパクト投資の定義や考え方はこちら)、日本国内の検討会で一部の有識者がコンセンサスを作ったところで、それが世界に受け入れられるとは限らないという“現実”も認識している。それでも、投資家に評価される「インパクトの計測方法」や「価値創造ストーリーの提示方法」、「事業会社の取り組みやすいロジック・モデル の組み立て方」などについて、好事例をもとに発信していくことは、市場を形成していくうえで不可欠となる。

ロジック・モデル : 事業が成果を上げるために必要な要素を体系的に図示化したもの。事業の設計図。

当フォーラムの取材によると、当面の政策としてのターゲットは、社会的課題の解決を目的としたスタートアップ等を支えるツールとしての活用が念頭にある模様。ただ、インパクトの計測方法や開示の仕方などについて共通認識が出来上がってくれば、その応用範囲は広い。GHG(温室効果ガス)排出量の削減などを軸として進む環境関連(E)の指標を追いかけるように、期待の高いヘルスケア分野など社会的課題解決(S)のロジック・モデル、インパクトの計測手法や指標が確立されれば、サステナブル投資の対象は大きく広がっていくだろう。