役員に対する評価(パフォーマンス・マネジメント)の意義
報酬/指名諮問委員会(「諮問」が付く場合、任意の報酬/指名委員会を指す。以下同じ)それぞれにおける役員評価の役割分担を検討するにあたり、まずは「役員に対する評価(パフォーマンス・マネジメント)」の意義について考えてみましょう。
役員に対する評価は、評価対象となる役員にとってのインセンティブとして、また、それに紐付いたリテンション(必要な人材を維持・確保すること)、新規選任の局面ではアトラクション(入社の決め手となる会社の魅力)として効果を発揮します。すなわち、ここでいうインセンティブとは、業績連動報酬、株式報酬、選任・昇格に伴うベース報酬の増加など金銭的な報酬だけにとどまらず、「選任」されることや「昇格」すること自体も含まれます。選任や昇格でよる高い地位への就任、役割・権限・責任範囲の拡大、成長実感などは、役員の職務遂行意欲を喚起することにつながるからです。こうしたインセンティブをどの程度の強度に設定するかは各社の経営方針に即して決定することになります。ただし、昨今の状況として、機関投資家等からは強いインセンティブの設定が期待されています。
このほか、役員への評価には経営戦略や企業カルチャーが反映されることから、外部(株主や従業員などのステークホルダー)に対するメッセージとなり、それが実効的に機能している状況を情報開示することによって、株主からの信任、従業員からの信頼、社会からの受容につながるという点でも重要な意味を持っています。
「業績評価」と「人材評価」の関係
役員に対する評価は、一般的には「業績評価(企業が生み出した成果として測定されるもの)」と「人材評価(人材の資質や能力を測定するもの)」の二つに区分することができます(業績・株価による評価(定量評価)、ESGなどへの取り組みの評価(非財務の定性評価)、人材評価(定性評価)といった区分の仕方も可能です)。いずれにせよ、評価の実効性の確保は、インセンティブの強度を問わず、すべての企業にとって必須となります。「業績評価」と「人材評価」にはそれぞれ以下のような評価項目があります。
【業績評価】
企業価値:株価、TSR(Total Shareholder Return)
財務業績:財務指標(売上高、営業利益など)
非財務業績:投資・研究開発、人材開発、脱炭素、顧客満足度など
【人材評価】
資質:パーソナリティ、同期傾向、価値観など
能力:知識、スキル、経験、コンピテンシーなど
同期 : 相手に合わせること
コンピテンシー : 成果を生みだすためにその会社で望ましいとされる能力や行動特性
【業績評価】と【人材評価】の関係は、「資質・能力」がその成果として「業績」を生み出し、逆に見れば、成果である「業績」が「資質・能力」を検証する役割を果たしている、と整理することができます。
報酬と指名の役割分担
そして、業績評価を担うのが報酬諮問委員会、人材評価を担うのが指名諮問委員会です。報酬、指名ともに役員を評価するという点では共通していますが、それぞれの役割は異なります。
「報酬」による評価の役割は、報酬額の変動を通じて、毎期の調整的な評価(選解任・昇降格の予備的評価)および金銭面のインセンティブを確保することにあります。したがって、主に業績について事後的な評価を行うことが中心となります。それだけに、経営戦略等にマッチしたKPIの選定を含む適切な報酬制度の設計が重要であり、それが評価の実効性の確保につながります。
一方、「指名」による評価の役割は、選解任、昇降格を通じた中長期的な評価にあります。したがって、人材評価が中心となり、報酬による評価のように「事後」のみならず、「事前」(選任、昇格の際)と「事後」の両方で評価を行っていくこととなります。指名による評価の基盤となるのは「人材要件」であり、経営戦略や自社の成長ステージを踏まえた人材要件の設定とその検証方法の確立が評価の実効性に直結します。
こうした2つの評価の役割を踏まえ、報酬諮問委員会と指名諮問委員会それぞれにおいて評価すべき項目を分担し、実際に評価を行っていくことになります。両委員会の間でバランスが確保できていない場合には、いくつかの問題を引き起こす可能性があります。
例えば、指名における評価が中心となり、報酬における評価が行われない事例として、固定報酬が中心で、実質的な変動報酬がないケースが考えられます。この場合、業績や企業価値、ESGへの取り組みなどに対する評価を選解任(昇降格)にしか反映できず、成果を出すプロセスにおける調節的な評価が⾏えないこととなります。この結果、ステークホルダーとのタイムリーな利害⼀致が担保できず、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすうえで負担が生じる恐れがあります。ほかにも、失敗が直ちに解任・降格に繋がる恐れがあるとなれば、取締役が取るべきリスクを取らなくなり、持続的な価値創造が困難となる可能性もあります。
上記のようなケースとは逆に、報酬における評価が中心で、指名における評価が十分に行われていない事例として、指名において、年功序列や主観的評価による選任・昇格が行われているケースが考えられます。このような場合、業績向上や企業価値の創造に対して役員の資質・能⼒がどのように寄与したかのが必ずしも明らかでないため、結果責任のみを過度に問う指名となり、持続的な企業価値創造に対する指名のアカウンタビリティが果たしにくくなる恐れがあります。
以上の二つのケースはいずれも極端な事例ですが、こうした問題の発生を回避し、指名、報酬の両分野においてバランスよく実効的な評価を行っていくためにはどうすればよいか、以下で解説します。
指名・報酬の連携
役員の評価においては、文字通り指名諮問委員会は「指名」、報酬諮問委員会は「報酬」と担当分野は異なりますが、同時に、適宜連携を行うことも必要になります。というのも、上述したように、資質・能力(人材評価)が成果(業績評価)を生み出し、その成果が資質・能力を検証するという関係を考えると、それぞれは独立したものではなく、深く関連しているからです。
例えば、資質・能力が成果を生み出すという点に着目すると、指名諮問委員会が人材要件や人材評価の結果を踏まえて、報酬諮問委員会に適切な報酬の在り方(特にインセンティブ報酬の在り方や評価項目、評価方法など)についての検討を促すということが考えられます。
一方、成果が資質・能力を検証するという点に着目すると、報酬諮問委員会において評価された毎期の業績評価結果を指名諮問委員会に伝え、人材要件の充足度合の判断や人材評価の材料として活用する、ということも考えられます。
こうした方法の他にも、そもそも指名分野と報酬分野の両方を隔たりなく議論できるよう、指名諮問委員会と報酬諮問委員会を一つの委員会(指名報酬諮問委員会)とすることも選択肢となります。このように指名諮問委員会と報酬諮問委員会それぞれの評価結果を一体的に管理・運用することにより、役員の評価を通じたコーポレートガバナンスの強化につながることでしょう。