2022/10/31 【2022年11月の課題】外国籍役員の処遇

2022年11月の課題

近年、経営のグローバル化に伴う戦略上の要請や取締役会におけるダイバーシティ確保の観点から、外国籍役員の登用を検討する企業が増えてきています。こうした外国籍役員の処遇は、国籍、居住地、ポジション(社内取締役、社外取締役、取締役を兼務しない執行役員など)、内部登用/外部招聘など、様々な要素を踏まえて検討する必要があります。自社で外国籍役員を登用すると仮定した場合に生じうる状況と、どのような処遇が考えられるのかについて検討してみてください。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

模範解答を見る
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/10/28 【失敗学第100回】アイ・アールジャパンホールディングスの事例(会員限定)

概要

企業のIR・SR(株主関連)活動の支援事業等を営むアイ・アールジャパンを子会社に持つアイ・アールジャパンホールディングス(東証プライム市場に上場)は、同社の元代表取締役副社長・COOの栗尾氏によるインサイダー取引の疑義に関して証券取引等監視委員会による調査が入り、それを契機として、同社が業績予想を修正すべき義務が発生していたにもかかわらず、これを行っていなかったのではないかとの疑義が生じたことから、外部の専門家による調査委員会を設置し、調査を行った。調査の結果、そのような疑義はないとの結論になったが、調査の過程で情報管理体制や業績予想値の算出および公表に係る体制に要改善点があることが分かった。

経緯

アイ・アールジャパンホールディングスが2022年8月30日に公表した「調査報告書」(以下、調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2020年3月期から2021年3月期
アイ・アールジャパンホールディングスでは、2020年3月期から2021年3月期にかけて合計5回にわたり上方修正を繰り返した後、一転して2期連続で下方修正を行っていた。

2021年
4月16日:アイ・アールジャパングループの取締役会において2022年3月期の業績予想案(開示は5月10日)が話題になり、アイ・アールジャパンの社外取締役(監査等委員)N氏を含む社外取締役から、「同年3月期の業績予想を下方修正したばかりであるにもかかわらず、120億円という設定は妥当であるのか。」という趣旨の質問があり、これに対し同社代表取締役社長・CEOの寺下氏からは「目標を高く掲げてこそ役職員の士気を高めることができ、目標達成が可能となる。」旨の説明があった。また、社外取締役(監査等委員)のG氏から「120億円というのは目標なのか予測なのか。」との質問があり、これに対し、寺下氏からは「十分可能性のある数字である。」という旨の説明があった。
5月10日:アイ・アールジャパンホールディングスは取締役会において2022年3月期の業績予想値(以下、当初予想)を承認し、開示を行った。
 売上高:12,000百万円
 営業利益:6,000百万円
 経常利益:5,990百万円
 当期純利益:4,050百万円
8月10日:アイ・アールジャパンホールディングスの取締役会で第1四半期決算短信の承認が議題となり、第1四半期の売上高は26億4000万円となり、業績予想は据え置きとなった。社外取締役のN氏から「通期を踏まえた場合に現状をどのように理解すればよいのか。」との質問があり、これに対し取締役兼管理本部本部長のE氏は「厳しい状況であるものの順調に推移していく認識である。」と回答し、代表取締役社長・CEOの寺下氏は「ボラタイルを考慮しても通期目標は達成する見込みである。」との説明を行った。
10月15日:アイ・アールジャパンホールディングスの取締役会で2022年3月期の上半期の売上高は42億3000万円となる見込みである旨の説明があり、社外取締役のN氏は、「当社の通期業績予想では120億円の売上を見込んでいるところ、現状は約40億円となっているが、今後どの程度の増加を見込んでいるのか。また、どの部門でどの程度の積み上げを想定しているのか。」と質問した。これに対し、常務取締役兼経営企画部部長のA氏は「下期で約80億円の積み上げが必要であるところ、IRJの霞が関で40億円、IRJの丸の内とJOIBの大型の有望案件の積み上げで40億円を見込んでおり、現時点でも8割から9割程度は見えている認識である。」旨回答した(アルファベットはグループ内の会社の略称。以下、同じ)。また社外取締役のN氏が「現時点で想定している下振れリスク及び下期の売上が積み上がるイメージ」について質問したところ、常務取締役兼経営企画部部長のA氏は「下振れリスクとして10億円程度を見込んでおり、また、下期の売上について一部は第3四半期でも計上されるがその多くは第4四半期での計上となる見込みである。」旨説明を行った。社外取締役のN氏は、120億円に対する下振れリスクが10億円であれば、下振れしたとしても110億円程度の売上は達成できるということであり、業績予想の修正が不要な範囲内(減少幅 10%以内)に収まっているため問題ないものと考えた。以上の議論を経て、2021年10月29日付けの第2四半期決算短信においても、当初の業績予想値は維持された。
12月28日:アイ・アールジャパングループで開催した戦略会議において、「IRJ グループ:通期見通し」として「9,546M」(95億4600万円)と記載された会議資料が配布された。もっとも、アイ・アールジャパングループでは戦略会議資料の「通期見通し」として記載された数値が精緻な検証を経た通期の業績見通しを意味するものではないと認識されていた。

2022年
1月18日:アイ・アールジャパンホールディングスの取締役会において、社外取締役のN氏が「今期の売上の業績予想120億円に対して現状3Qまでの積み上げで約61億円となっているが、今期の見通しと具体的な積み上げの案件の内訳を教えてほしい。」と質問したところ、取締役兼管理本部本部長のE氏は「今後の大型見込案件を含めると約110億円弱の積み上げとなり、不動産案件約6億円をはじめ1億円超の案件が複数存在するほか霞が関のコンサル案件で約16億円、JOIBでの約15億円の案件や約8億円の案件の積み上げがその内訳である。」と回答した。
2月10日:アイ・アールジャパンホールディングスの取締役会において、社外取締役のN氏が「決算説明会資料記載の業績予想ではパイプラインで 23.6億円、それ以外で約96億円となっているが、この 23.6億円についてもほぼ達成見込みとの認識でよいか。」と質問したところ、取締役兼管理本部本部長のE氏は「契約見込みの大型プロジェクトの12億 4000万円は固いものの、パイプラインの 23億6000万円については現在仕掛中である。」と回答した。
2月20日以降:アイ・アールジャパンホールディングスでは、2022年3月期中の売上計上を見込んでいた複数の大型案件について見込みどおりの売上計上がなされないことが相次いで判明するに至った。
3月14日:アイ・アールジャパンホールディングスの定時取締役会において、2022年3月期の業績予想に関し、取締役兼管理本部本部長のE氏により「売上、営業利益を固めた後、速やかに臨時の取締役会を招集する予定である。」との説明がなされ、臨時取締役会において業績予想の修正を決議する方針が確認された。
3月30日:アイ・アールジャパンホールディングスの臨時取締役会において業績予想の修正について決議がなされ、同日付けで業績予想を下記の内容に修正する旨の開示を行った。
 売上高:8,400百万円
 営業利益:3,520百万円
 経常利益:3,500百万円
 当期純利益:2,400百万円
なお、3月14日頃の判断から開示実施までに2週間程度を要したのは、修正の開示を行う数値のうち、売上高のみならず当期純利益の数値の正確を期するために、法人税額の算定等を待ってからこれらの数値を算出し、開示する方針を採ったためであった。
6月3日:アイ・アールジャパンホールディングスは同社の代表取締役副社長・COOの栗尾氏が「一身上の都合により2022年6月3日をもって代表取締役副社長・COO及び取締役を辞任したい旨の申し出があり、これを受理した」旨のリリースを行う。
6月6日:アイ・アールジャパンホールディングスは同社の元代表取締役副社長・COOの栗尾氏によるインサイダー取引の疑義に関して証券取引等監視委員会が同社に対して調査に入った旨のリリースおよび調査委員会を設置した旨のリリースを行う。
8月30日:アイ・アールジャパンホールディングスが「調査報告書」を公表する。
9月27日:アイ・アールジャパンホールディングスが「当社グループの情報管理体制等の改善策及びガバナンス体制の強化に関するお知らせ」を公表する。

内容・原因・改善策

アイ・アールジャパンホールディングスが2022年8月30日に公表した「調査報告書」によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

情報管理体制に関する問題点や業績予想値の算出および公表に係る体制についての問題点
内容 アイ・アールジャパンホールディングス(東証プライム市場に上場)は、同社の元代表取締役副社長・COOの栗尾氏によるインサイダー取引の疑義に関して証券取引等監視委員会による調査が入り、それを契機として、同社が業績予想を修正すべき義務が発生していたにもかかわらず、これを行っていなかったのではないかとの疑義が生じていた。
すなわち、東京証券取引所の有価証券上場規程405条1項および有価証券上場規程施行規則407条1項1号によると、上場会社は、当該上場会社の属する企業集団の売上高について、公表済みの予想値と比較して新たに算出した予想値が10%以上の乖離があれば、直ちにその内容を開示しなければならないと定められている。これをアイ・アールジャパンホールディングスの2022年3月期の状況に当てはめてみると、同社は売上高の予想(当初予想)を「120億円」と公表していたことから、同社が新たに算出した売上高の予想値が108億円以下となった場合には直ちに当該予想値を開示すべき義務を負っていたことになる。
そして、2021年12月28日にアイ・アールジャパングループで開催した戦略会議において、「IRJ グループ:通期見通し」として売上高が「9,546M」(95億4600万円)と記載された会議資料を配布していたことから、これが新たに算出した予想値に該当するのかどうかが問題視された。調査委員会の調査の結果、当該数値は精緻に積み上げられたものではなく、また、デジタルフォレンジックその他の調査の結果、同日時点において、同社の2022年3月期の売上高の予想値として、108億円以下の数値が算出されていたことを窺わせる事実は発見されなかったため、調査委員会は、東証上場規程405条1項違反の事実は認められなかったと結論付けた。その他の時点についても同様の判断となった。

このようにアイ・アールジャパンホールディングスは東証上場規程405条1項に違反していないことが分かったものの、調査の過程で、同社の情報管理体制や業績予想値の算出および公表に係る体制に関して次のような要改善点があることが分かった。
1 情報管理に係る体制等について
(1)アクセス権限管理の更新の遅れ

役職員の部署異動に伴うアクセス権限の設定変更手続が間に合わず、異動した役職員が異動元の部署のフォルダにアクセスできる状態が続く場合があった。
(2)情報の開示範囲の制限の徹底について
アイ・アールジャパングループでは、多数の役職員が出席する朝会の場において、個別の案件の進捗状況や通期の業績見通し等に関する資料の配布や口頭でのやり取りがなされていた時期があった。
(3)情報の持出しを防ぐ仕組みの強化について
役職員が送受信する電子メールのログの定期的なモニタリングが行われていなかった。
(4)インサイダー取引防止のための研修および教育の徹底について
インサイダー取引防止に関するルールの明示的な説明が行われなかった事例が一部認められた。

2 業績予想値の算出および公表に係る体制等について
(1)社内規程と実務との乖離の是正について

アイ・アールジャパンホールディングスの社内規程においては、「経営企画部長をグループ予算管理の統括責任者とし、グループ予算編成方針案は経営企画部長が策定し、当社社長がこれに基づき同方針を決定するものとされ、予算の差異分析については、経理責任者が月次予算の執行状況について集計し、経営企画部長に報告し、経営企画部長が月次決算について、各グループ予算の執行状況及び差異分析の結果を総合的に検討し、付帯意見を付して取締役会に報告する」とされており、グループ予算編成及び実績(修正予算案を含む)は、「グループ統括戦略会議において審議し、その後、年度予算として取締役会において決定する」とされている。しかし、実際には、経営企画部長自身は、兼務する投資銀行部門の本部長業務に集中するよう寺下氏から指示を受けていたこともあって、業績予想値案の作成を行っておらず、その作成は寺下氏が行っていた。また、業績予想の差異分析についても、経営企画部長による検討のプロセスを経ていない。さらに、社内規程上置かれている「グループ統括戦略会議」なる名称の会議体はそもそも存在せず、これと名称が似た戦略会議はあるものの、通期の売上高見込額等を精緻に検証することを目的とした会議体ではなく、したがって、業績予想値の算出および修正の要否の検討は、会議体において審議されることなく、寺下氏において決定した方針が取締役会に上程されていた。このように社内規程と実務が乖離したことにより、予算や業績予想に関する権限および責任の所在が不明確になり、また検討プロセスの透明性が阻害されていた。
(2)口頭でのやり取りの多さ
業績予想値の算出および修正の要否の検討は、社役員間における個別かつ口頭でのやり取りにより行われることが多いことから、その検討過程を確認できる資料がほとんど残されておらず、事後的な検証が困難となっていた。
(3)業績予想値の算出および修正の要否の検討に必要な情報の集約について
業績予想値の算出および修正の要否の検討を行う取締役に、検討に当たり必要な情報が漏れなく集約される体制が整っていなかった。

原因 <業績予想の困難さ>
アイ・アールジャパングループが手掛ける業務はもともとボラティリティが高いビジネスである。また、アイ・アールジャパンでは2019 年頃を境に収益構造が大きく変化し、大型案件の比率が増えてきたため、業績のぶれが大きくなっていた。大型案件の成功報酬の発生要件となるトリガー成就の有無およびその時期に関する見通しについては明確な予測が難しいことから、大型案件の比率の増加とともに業績の予想も難しくなっていた。

<極めて秘匿性が高い案件の存在>
アイ・アールジャパンホールディングスでは極めて高い秘匿性等を理由として、担当役員の判断により、社内資料に反映されていない一部の案件があった。また、案件の一部について、経理システム(OBIC)に登録するか否かの基準が、営業担当者等によって区々になっていた。その結果、業績予想値の算出および修正の要否の検討を行う取締役に、検討に当たり必要な情報が漏れなく集約される体制が整っていなかった。

<取締役会における説明・資料開示が不十分>
アイ・アールジャパンホールディングスでは、2022年3月期に開催された取締役会において、たびたび社外取締役から業績予想について質問がなされていたが、これに対し、業績予想値算出に至る考え方や、下方修正不要と判断している理由について、大まかにしか説明が行われず、また、取締役会の直前にならないと資料の共有がなされないために、事前に資料を精査する時間を十分確保することができないとの指摘もなされた。これにより、取締役会における議論が深まらず、その結果、取締役会の監視・監督機能が十分に発揮されなかった側面があることは否定できない。

改善策 青字の部分は調査報告書の提言を受け、アイ・アールジャパンホールディングスが2022年9月27日に公表した「当社グループの情報管理体制等の改善策及びガバナンス体制の強化に関するお知らせ」より抜粋したものである。

情報管理に係る体制等について
1 情報管理体制の改善・強化について
(1)アクセス権限管理の徹底について

役職員の部署異動に伴うアクセス権限の設定変更手続が間に合わず、異動した役職員が異動元の部署のフォルダにアクセスできる状態が続く場合がある点については改善が必要であり、情報システム部の人員補充等の体制強化や、余裕を見た異動スケジュールの設定等の対応が必要である。
→(その後の対応)当社グループのファイルサーバー及びクラウドストレージ上には、用途ごとにアクセス権限を設定したフォルダを設置し電子データを保存しておりますが、各フォルダのアクセス権限が必要な役職員のみに設定されているかの確認を実施し、部署異動をした役職員のアクセス権限を削除するなどアクセス権限管理の精査を実施しました。
役職員の部署異動に伴うアクセス権限管理については、業務の急拡大に加えコロナ禍による社内の大規模なシステム化に伴う情報システム部員の不足により対応が遅れたことも要因であったことを受け、今年度中を目途に、複数名の情報システム部員の採用を予定しており、安定的なアクセス権限設定管理を可能とするよう、適切な人材の登用、人員配置を行ってまいります。また、アクセス権限管理については、役職員ごとのフォルダのアクセス権や部署異動・入退職時のアクセス権限変更履歴のデータベース化についても実施する方向で検討を進めてまいります。

(2)情報の開示範囲の制限の徹底について
アイ・アールジャパングループでは、多数の役職員が出席する朝会の場において、個別の案件の進捗状況や通期の業績見通し等に関する資料の配布や口頭でのやり取りがなされていた時期があった。現在では、既に朝会の出席者の限定や配布資料の内容の見直しが行われており、改善が図られているが、多くの上場企業のインサイダー情報を常時多数、取扱う同社のビジネスモデルの特質上、今後もインサイダー情報等の認知者を業務上必要最低限の範囲に限定することを徹底すべき。
→(その後の対応)取締役会、営業会議、朝会等の各会議体で共有すべき情報の整理を実施し、情報管理の徹底の観点から特に、毎週開催される主要役員及び営業担当の社員が集まる朝会では、当社グループの業績見通し等に関する資料の配布は一切行わないこととし、個別案件の進捗状況報告においては、秘匿性の高い案件に関する報告を行わないことをあらためて周知徹底しました。また、朝会の開催形式については、リモート会議の形式では実施せず、会議室での出席のみとする形式を継続するとともに、会議資料についても、各出席者はアクセス権限が設定された社内サーバ内のデータを閲覧するのみとし、資料の配布は一切行わないことを徹底いたします。
(3)情報の持出しを防ぐ仕組みの強化について
現時点では、役職員が送受信する電子メールのログの定期的なモニタリングは行われていない。情報の外部への持出しを防ぐ仕組みをさらに強化する観点からは、電子メールやサーバへのアクセスログについて、定期的に、事前予告なくモニタリングを行う仕組みを導入することが考えられる(なお併せて、一定の通信容量を超えた場合に情報システム部門にアラートが送信される仕組みを採用し、当該アラートの対象となった通信内容を確認する体制を整備することも一案)。
→(その後の対応)お客様の情報を含む機密情報の漏洩防止を強化するため、アクセス権限が極めて限定的に管理されている電子ファイルやサーバのアクセスログの解析や電子メールの送受信ログの解析を実施しました。また、電子メールやサーバのアクセスログのモニタリングを毎月実施することを全役職員へ通知いたしました。今後は、情報管理に係る体制を改善・強化するため、グループ内部監査室による電子メールやサーバへのアクセスログの監査等についても実施していく予定です。
2 インサイダー取引防止のための研修および教育の徹底について
インサイダー取引防止に関するルールの明示的な説明が行われなかった事例が一部認められたことから、インサイダー取引防止に関するルールの周知徹底を図るべき。
それに加えて、関係する法令および社内規程に関しては、社内イントラネット上などにおいて閲覧できる状態に置くだけではなく、ポイントを示した上で社内に掲示するなど、役職員への効果的な周知の機会を増やすための取組みも求められる。
→(その後の対応)インサイダー取引防止のための取組について、インサイダー取引防止に係る規程を見直すとともに、その内容を周知徹底いたしました。また、当社グループの社外取締役を含めた全ての役職員を対象としたインサイダー取引規制に関する研修を実施し、研修終了後に各人の理解度を深めるべく、効果測定としてチェックリストを利用した習熟度確認を実施いたしました。今後も、少なくとも年1回外部の講師を招聘しインサイダー取引規制に関する研修を実施し、当社グループのインサイダー取引防止に関するルールの周知徹底を行ってまいります。
また、これまでは各規程改定の際、規程改定の事実を伝えるのみであったところ、今後業務を遂行するにあたり重要な規程の改定については、規程改定の事実を伝えるだけでなく、規程改定の要旨を新旧対照表とともにグループウェアに掲示するとともに、規程改定のポイントについて朝会での役職員への説明や、各部門長を通じた役職員への周知徹底も行ってまいります。

3 内部通報制度の充実について
インサイダー取引を防止する体制の実効性をより高めるために、内部通報制度の活用も有用。
→(その後の対応)内部通報制度について、より実効性を高めるため、通報者の匿名性や機密性を確保し、通報したことで不利益が及ばないよう社内規程で明確化しました。通報があった場合においては、通報者の保護を徹底しつつ、通報された事象について調査し、是正措置とフォローアップを実施してまいります。また、今後の通報受付にあたっては、通報者の匿名性や機密性を確保するため、外部の法律事務所を通報窓口として設置することといたしました。加えて、内部通報制度が十分に利用されていなかった事実を踏まえ、全役職員が閲覧するグループウェアのトップ画面へ当該通報先窓口を明示するとともに、全ての役職員に対して内部通報制度に関する周知徹底のための研修も少なくとも年1回実施してまいります。

二 業績予想値の算出および公表に係る体制等について
1 業績予想値の非公表を含めた開示方法の検討について

2023年3月期については、業績予想値を現在までに公表することなく、今後算出が可能となった時点で速やかに公表するとの方針をとっている。
今後は、アイ・アールジャパングループの業績動向や、市場環境の推移、受注又は受注が見込まれる各大型案件の具体的内容等を踏まえ、(ⅰ)業績予想値非公表との方針を継続すること、(ⅱ)2021 年3月期と同様にレンジ形式での算出・公表を行うこと、(ⅲ)期初は非公表としつつ、期中で通期の見通しがある程度具体化した段階で算出・公表すること等の選択肢の中から、アイ・アールジャパンホールディングスの業態にあった開示方針を検討することが妥当。
→当社グループにおいては、今後当面は原則として、受注案件の件数や規模について、確度の高い見通しを立てることが難しい期初段階では業績予想値の算出は行わないことといたしますが、期中での当社グループの業績予想値の算出及び公表に係る検討を行うため、グループ予算管理の統括責任者である経営企画部長を議長として、各グループ会社の事業部門責任者その他適切なメンバーにより構成されたグループ予算・業績検討会議を開催し、必要な情報を収集、集約することで、当社グループの業績動向や、市場環境の推移、受注又は受注が見込まれる各大型案件の具体的内容等を踏まえ、当社の業態にあった開示方針を検討してまいります。
当連結会計年度(2023年3月期)の業績予想値は、受注案件の件数や規模について、確度の高い見通しを立てることが難しいため公表を行っておりませんが、今後、前連結会計年度の実績値と当連結会計年度の決算見込数値において開示すべき差異が生じた場合には、速やかに開示できるよう、グループ予算・業績検討会議において検討してまいります。
中長期的には実績値の積み上がり及び当社グループの業態を踏まえ、業績予想値の算出及び公表の可否並びにどのような算出方法がより適切であるかにつき、引き続き検討してまいります。

2 社内規程と実務との乖離の是正について
業績予想値の算出および公表に係る社内規程の定めと実務の運用との乖離を是正すべく、社内規程および実務運用の双方の見直しが必要。
業績予想値の算出および修正の要否の検討(取締役会に上程する前の一次的な検討)は、経営企画部長その他社内規程に即した適切なメンバーにより構成される会議体において行うこととすべきであり、営業担当者による案件進捗報告等の場(現在における戦略会議)とは別の会議体を新設することを含めた検討を行うべき。
→(その後の対応)業績予想値の算出及び公表については、今般、業績予想値の算出及び公表に係る検討を行う機関として、グループ予算・業績検討会議を新たに設置し、そこで予算編成や実績の管理、修正の要否等を検討することとし、これに合わせて社内規程も修正いたしました。
グループ予算・業績検討会議は、営業部門責任者を中心とする案件進捗報告等の場であった営業会議とは別の会議体として設置するものであり、営業状況の進捗については引き続き営業会議で確認を行ってまいります。
兼務が問題とされていた経営企画部長のポジションに、グループ全体の事業及び経営を熟知する経験豊富な専任の要職者(取締役)を配置するとともに、組織体制、とりわけ管理体制を強化するべく管理部門人材の積極的な確保を開始しております。これにより迅速な業務遂行を可能にするとともに、仮にイレギュラーな事象が発生した際にも柔軟な対応を行うことが可能となります。

3 人員の確保について
要職である経営企画部長が、投資銀行部門の本部長業務を兼務せざるを得ないという異例人事の理由が、管理部門の人員・人材不足に起因するのであれば、東証プライム上場企業であるアイ・アールジャパンホールディングスに求められる組織体制・管理体制の構築に必要な人員・人材の確保を積極的に検討すべき。
→(その後の対応)兼務が問題とされていた経営企画部長のポジションに専任の要職者(取締役)を配置するとともに、役員等を以下のとおり変更いたします。(以下、省略)
4 業績予想値の算出および修正の要否の検討に係るプロセスの透明化について
業績予想値の算出および修正の要否の検討は、会議体において行うこととした上で、議事録を作成するとともに、事後的な検証に耐え得る程度に検討過程を具体的に明らかにした資料を作成し、議事録とともに保管する運用を採ることを検討すべき。
→(その後の対応)業績予想値の算出及び公表に係る検討を行う機関として、グループ予算・業績検討会議を設置し、かかる会議体において、予算編成や実績の管理、修正の要否等を検討することとしたほか、このグループ予算・業績検討会議においても議事録を作成するとともに、事後的な検証に耐え得るように検討過程を具体的に明らかにした資料を作成し、議事録とともに保管することといたします。
5 業績予想値の算出および修正の要否の検討に必要な情報の集約について
業績予想値の算出および修正の要否の検討を行う会議体に、検討に当たり必要となる情報が、秘匿性の程度にかかわらず、漏れなく集約される体制を整備すべき。
→(その後の対応)業績予想値の算出及び修正の要否の検討を行うグループ予算・業績検討会議においては、各グループ会社の事業部門責任者をその構成員の中心として位置づけ、検討に当たり必要となる情報が漏れなく集約される体制としております。
また、業務マニュアルを再度見直し、経理システム(OBIC)に登録する基準を明確化し、業務に携わるすべての従業員に周知してまいります。これらの取組により、各事業部門長により、業績予想値の算出及び修正の要否の検討を行うために必要な情報がグループ予算・業績検討会議に漏れなく集約される体制となっております。

6 取締役会における監視・監督機能の実効性確保について
業績予想値の算出および修正の要否の判断に至る経緯について、可能な限り具体的な説明を行うとともに、検討過程や判断根拠が検証可能な資料を取締役会に開示し、出席役員に共有することにより、監視・監督機能の実効性を確保すべき。また、今後、取締役会事務局を担う管理部門の人材確保等の体制強化を含めて検討すべき。
→(その後の対応)取締役会資料の配布を原則として会日の3日前までに行うことに加え、出席役員に対し検討過程や判断根拠など検証可能な資料に基づいた具体的な説明を事前に可能な限り行うなど、出席役員が十分に検討を行うに足りる時間的余裕を確保することで、取締役会の監視・監督機能の実効性を確保してまいります。
取締役会が本来持つ監視・監督機能を十分に発揮するため、事務局の運営を担う管理部門の人材を早期に確保し、体制の一層の強化を進めてまいります。
また、当事業年度より、取締役会の実効性評価についても、従前の第三者機関によるアンケート方式から第三者機関によるインタビュー方式に切り替えて実施いたします。

<この事例から学ぶべきこと>

アイ・アールジャパンホールディングスでは元副社長のインサイダー取引疑義の発覚を契機として、業績予想の修正を公表すべきであったかどうかが問題視されました。調査委員会の調査の結果、粗い着地予想の算定はあったものの、業績予想の修正が必要となるほど精緻な着地予想ではなかったため、業績予想の修正を公表すべきレベルではなかったという判断になりました。よって、本事例はいわゆる「失敗」に該当する事例ではありません。ただ、業績予想の算出方法や修正のプロセス、開示の方針、情報管理のあり方に悩む上場会社は少なくなく、アイ・アールジャパンホールディングスにおける調査委員会の提言内容とそれを受けての同社の対応結果(青字部分)は、そういった悩みを抱える他の上場会社においてもきっと参考になるはずであり、本コーナーで取り上げさせていただきました。

業績を予想することは将来を予測することを意味し、投資家にとってはもちろんこと、投資家よりも保有する情報が多い上場会社にとっても極めて困難な作業と言えます。緻密にロジックを積み上げたところで、結局は前提としていた条件が変わってしまったり、予想もしていなかった事象が発生してしまったりするのはよくある話です。直近だと、ロシアのウクライナ侵攻、原材料費の急激な高騰、為替相場の急激な変動がその最たる例です。また、景気の影響を強く受ける業種に属していたり、大型案件への依存度が高かったりすると、そもそも予想がぶれやすいと言えます。

アイ・アールジャパンホールディングスも業績予想の困難さから、2023年3月期の業績予想値については、前期までとは異なり、2022年3月期の通期決算短信で公表することなく、「今後算出が可能となった時点で速やかに公表する」との方針に変更しました(2022年10月28日現在、未公表)。もちろんこういった方針は認められています(新型コロナウイルスの影響で多くの上場企業がこのような対応をしたことは記憶に新しいところです)が、業績予想値の公表を控えると社内に未公表の情報が滞留するためインサイダー取引を誘発しやすくなる点には注意しなければなりません。また、業績予想の公表を控える企業の場合、株価が憶測だけで乱高下しやすくなり、投資家が投資を敬遠する可能性もあると言われています。

さらに、上場会社は、業績予想を公表した後は、決算が確定するまで予想の修正の要否をウオッチし続けなければならないといった負担を抱えています。ただこの負担は業績予想の公表を控えたとしても免れることはできるものではありません。業績予想を公表していない上場会社であっても、売上高、営業利益、経常利益または純利益について、「前連結会計年度の実績値」に比較して当該上場会社が新たに算出した予想値又は当連結会計年度の決算において差異(投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとして有価証券上場規程施行規則407条1項では「売上高は10%以上の変動、営業利益・経常利益・純利益は30%以上の変動」が該当すると定められています)が生じた場合は、直ちにその内容を開示しなければならないとされているからです。

2022/10/27 炭素税の新たな導入は見送りが確定

政府内で炭素税の導入が議論されていたことは既報のとおりだが(2021年11月29日のニュース「脱炭素がガソリン価格をさらに押し上げる可能性」参照)、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/10/27 炭素税の新たな導入は見送りが確定(会員限定)

政府内で炭素税の導入が議論されていたことは既報のとおりだが(2021年11月29日のニュース「脱炭素がガソリン価格をさらに押し上げる可能性」参照)、炭素税導入議論が“封じられた”ことが当フォーラムの取材により確認された。

それを裏付けるのが、(2022年)10月26日に総理大臣官邸で開催された第3回GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議での岸田総理の下記の発言(3段落目参照)だ。

第1に、成長志向型カーボンプライシングは、炭素に対する賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせるハイブリッド型とするなど、効果的な仕組みを検討するとともに、排出量取引市場では炭素価格の過大な変動を起こさせず、安定化させる公的機能を組み込むこと。

上記で引用したニュースでも説明したとおり、カーボンプライシングとは、排出されるCO2(二酸化炭素=カーボン)に価格を付け(プライシング)、CO2を排出した企業などに金銭を負担させることでCO2排出者の行動を脱炭素に向かわせる政策手法のことを言う。排出権取引も炭素税もカーボンプライシングの一つである。ところが、岸田総理の発言には「賦課金と排出量取引市場の双方を組み合わせる」とあり(赤字部分)、排出量取引は登場するものの、炭素税という言葉は見当たらない。仮に炭素税を導入するのであれば、ここは「炭素税と排出量取引」となっていたはずだ。すなわち、日本におけるカーボンプライシングの方法は、「賦課金と排出権取引」の組み合わせということが明確になり、炭素税の導入は見送られた(代わりに賦課金が採用された)ということになる。

排出権取引 : 政府が企業ごとにあらかじめCO2の排出量の上限を設定し、この上限を超過してCO2を排出をしてしまった企業が、排出量が上限を下回った企業から当該下回った分(排出枠)を購入することで、購入した排出枠分のCO2を削減したとみなす制度。

では、炭素税と賦課金のどちらが企業にとって“得”かというと、支払う側(企業)からすれば、どちらも変わらない。影響を受けるのは、環境省と経済産業省だ。炭素税()であれば、その使途には環境省の予算も含まれることから、環境省も予算の“分け前”にあずかれることになるが、賦課金であれば、FIT賦課金のように経済産業省が独自に設定することができ、経済産業省だけのものとなる。

 上記で引用したニュース(4段落目参照)でも触れている通り、カーボンプライシングの定義に当てはめると、日本には既に「炭素税」が存在している。具体的には、石油石炭税の“上乗せ課税”の分である「地球温暖化対策のための課税」が炭素税に該当する。

見方によっては、今回の総理発言を受け、「経済産業省が環境省に勝った」と言うこともできるが、これはあくまで省庁側の視点に過ぎない。企業側の視点では、炭素税(「地球温暖化対策のための課税」を増税するか、新たな炭素税を別途作るかの二択)が新規で課されることはなくなったということだ。

ただし、「税」と呼ばれるものが新たに導入されることはないにせよ、今回の総理指示により、「賦課金+排出量取引」の合計が企業の負担額になるということは覚えておきたい。

2022/10/27 【2022年9月の課題】報酬/指名諮問委員会における役員評価の役割分担と連携(会員限定)

役員に対する評価(パフォーマンス・マネジメント)の意義

報酬/指名諮問委員会(「諮問」が付く場合、任意の報酬/指名委員会を指す。以下同じ)それぞれにおける役員評価の役割分担を検討するにあたり、まずは「役員に対する評価(パフォーマンス・マネジメント)」の意義について考えてみましょう。

役員に対する評価は、評価対象となる役員にとってのインセンティブとして、また、それに紐付いたリテンション(必要な人材を維持・確保すること)、新規選任の局面ではアトラクション(入社の決め手となる会社の魅力)として効果を発揮します。すなわち、ここでいうインセンティブとは、業績連動報酬、株式報酬、選任・昇格に伴うベース報酬の増加など金銭的な報酬だけにとどまらず、「選任」されることや「昇格」すること自体も含まれます。選任や昇格でよる高い地位への就任、役割・権限・責任範囲の拡大、成長実感などは、役員の職務遂行意欲を喚起することにつながるからです。こうしたインセンティブをどの程度の強度に設定するかは各社の経営方針に即して決定することになります。ただし、昨今の状況として、機関投資家等からは強いインセンティブの設定が期待されています。

このほか、役員への評価には経営戦略や企業カルチャーが反映されることから、外部(株主や従業員などのステークホルダー)に対するメッセージとなり、それが実効的に機能している状況を情報開示することによって、株主からの信任、従業員からの信頼、社会からの受容につながるという点でも重要な意味を持っています。

「業績評価」と「人材評価」の関係

役員に対する評価は、一般的には「業績評価(企業が生み出した成果として測定されるもの)」と「人材評価(人材の資質や能力を測定するもの)」の二つに区分することができます(業績・株価による評価(定量評価)、ESGなどへの取り組みの評価(非財務の定性評価)、人材評価(定性評価)といった区分の仕方も可能です)。いずれにせよ、評価の実効性の確保は、インセンティブの強度を問わず、すべての企業にとって必須となります。「業績評価」と「人材評価」にはそれぞれ以下のような評価項目があります。

【業績評価】
企業価値:株価、TSR(Total Shareholder Return)
財務業績:財務指標(売上高、営業利益など)
非財務業績:投資・研究開発、人材開発、脱炭素、顧客満足度など

【人材評価】
資質:パーソナリティ、同期傾向、価値観など
能力:知識、スキル、経験、コンピテンシーなど

同期 : 相手に合わせること
コンピテンシー : 成果を生みだすためにその会社で望ましいとされる能力や行動特性

【業績評価】と【人材評価】の関係は、「資質・能力」がその成果として「業績」を生み出し、逆に見れば、成果である「業績」が「資質・能力」を検証する役割を果たしている、と整理することができます。

報酬と指名の役割分担

そして、業績評価を担うのが報酬諮問委員会、人材評価を担うのが指名諮問委員会です。報酬、指名ともに役員を評価するという点では共通していますが、それぞれの役割は異なります。

「報酬」による評価の役割は、報酬額の変動を通じて、毎期の調整的な評価(選解任・昇降格の予備的評価)および金銭面のインセンティブを確保することにあります。したがって、主に業績について事後的な評価を行うことが中心となります。それだけに、経営戦略等にマッチしたKPIの選定を含む適切な報酬制度の設計が重要であり、それが評価の実効性の確保につながります。

一方、「指名」による評価の役割は、選解任、昇降格を通じた中長期的な評価にあります。したがって、人材評価が中心となり、報酬による評価のように「事後」のみならず、「事前」(選任、昇格の際)と「事後」の両方で評価を行っていくこととなります。指名による評価の基盤となるのは「人材要件」であり、経営戦略や自社の成長ステージを踏まえた人材要件の設定とその検証方法の確立が評価の実効性に直結します。

こうした2つの評価の役割を踏まえ、報酬諮問委員会と指名諮問委員会それぞれにおいて評価すべき項目を分担し、実際に評価を行っていくことになります。両委員会の間でバランスが確保できていない場合には、いくつかの問題を引き起こす可能性があります。

例えば、指名における評価が中心となり、報酬における評価が行われない事例として、固定報酬が中心で、実質的な変動報酬がないケースが考えられます。この場合、業績や企業価値、ESGへの取り組みなどに対する評価を選解任(昇降格)にしか反映できず、成果を出すプロセスにおける調節的な評価が⾏えないこととなります。この結果、ステークホルダーとのタイムリーな利害⼀致が担保できず、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすうえで負担が生じる恐れがあります。ほかにも、失敗が直ちに解任・降格に繋がる恐れがあるとなれば、取締役が取るべきリスクを取らなくなり、持続的な価値創造が困難となる可能性もあります。

上記のようなケースとは逆に、報酬における評価が中心で、指名における評価が十分に行われていない事例として、指名において、年功序列や主観的評価による選任・昇格が行われているケースが考えられます。このような場合、業績向上や企業価値の創造に対して役員の資質・能⼒がどのように寄与したかのが必ずしも明らかでないため、結果責任のみを過度に問う指名となり、持続的な企業価値創造に対する指名のアカウンタビリティが果たしにくくなる恐れがあります。

以上の二つのケースはいずれも極端な事例ですが、こうした問題の発生を回避し、指名、報酬の両分野においてバランスよく実効的な評価を行っていくためにはどうすればよいか、以下で解説します。

指名・報酬の連携

役員の評価においては、文字通り指名諮問委員会は「指名」、報酬諮問委員会は「報酬」と担当分野は異なりますが、同時に、適宜連携を行うことも必要になります。というのも、上述したように、資質・能力(人材評価)が成果(業績評価)を生み出し、その成果が資質・能力を検証するという関係を考えると、それぞれは独立したものではなく、深く関連しているからです。

例えば、資質・能力が成果を生み出すという点に着目すると、指名諮問委員会が人材要件や人材評価の結果を踏まえて、報酬諮問委員会に適切な報酬の在り方(特にインセンティブ報酬の在り方や評価項目、評価方法など)についての検討を促すということが考えられます。

一方、成果が資質・能力を検証するという点に着目すると、報酬諮問委員会において評価された毎期の業績評価結果を指名諮問委員会に伝え、人材要件の充足度合の判断や人材評価の材料として活用する、ということも考えられます。

こうした方法の他にも、そもそも指名分野と報酬分野の両方を隔たりなく議論できるよう、指名諮問委員会と報酬諮問委員会を一つの委員会(指名報酬諮問委員会)とすることも選択肢となります。このように指名諮問委員会と報酬諮問委員会それぞれの評価結果を一体的に管理・運用することにより、役員の評価を通じたコーポレートガバナンスの強化につながることでしょう。

2022/10/26 女性取締役30%実現に向けACGAが提言、2027年には全上場企業対象にCGコード改訂も

企業にとってジェンダー・ダイバーシティ(女性の活躍推進)は優先度の高い経営課題となっている。とりわけ上場企業は、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)【原則2-4】により「女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進」することを迫られており(グロース市場上場企業を除く)、有価証券報告書には【従業員の状況】に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの記載項目が追加される見通しだ(有価証券報告書の記載項目の追加については2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」を参照)。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

上場企業は社内のあらゆるレイヤーでジェンダー・ダイバーシティに取り組む必要があるが、なかでも「取締役」「執行役員」といったいわゆるマネジメント層での取り組みの重要度は高い。マネジメント層でのジェンダー・ダイバーシティが進めば、会社全体としてのジェンダー・ダイバーシティへの取り組みに対するマネジメント層のリーダーシップが増すだけでなく、その下のレイヤーの女性社員の間で「自分もマネジメント層に昇進するチャンスがある」といった気運が生まれ、自ずと将来のマネジメント層候補の人材プールができやすくなるからだ。また、「女性取締役の選任の有無」は株主にとって分かりやすい指標であり、ボードメンバーのトップである代表取締役の選任議案への賛否にも影響しかねない。議決権行使助言会社大手のグラスルイスは、2022年版ポリシーより女性役員(監査役、執行役を含む)が一人もいない上場企業の経営トップなどの選任議案に反対助言を行うこととしている(グラスルイスの2022年版ポリシー改定については2021年12月24日のニュース「グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定」を参照)。株主によるエンゲージメントや議決権行使のプレッシャーを受け、日本の上場企業の取締役会に占める女性比率は年々上昇してはいるものの、依然として他の先進国の水準をはるかに下回っているのが現状だ。

この現状を改善すべく、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/10/26 女性取締役30%実現に向けACGAが提言、2027年には全上場企業対象にCGコード改訂も(会員限定)

企業にとってジェンダー・ダイバーシティ(女性の活躍推進)は優先度の高い経営課題となっている。とりわけ上場企業は、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)【原則2-4】により「女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進」することを迫られており(グロース市場上場企業を除く)、有価証券報告書には【従業員の状況】に「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの記載項目が追加される見通しだ(有価証券報告書の記載項目の追加については2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」を参照)。

【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。

上場企業は社内のあらゆるレイヤーでジェンダー・ダイバーシティに取り組む必要があるが、なかでも「取締役」「執行役員」といったいわゆるマネジメント層での取り組みの重要度は高い。マネジメント層でのジェンダー・ダイバーシティが進めば、会社全体としてのジェンダー・ダイバーシティへの取り組みに対するマネジメント層のリーダーシップが増すだけでなく、その下のレイヤーの女性社員の間で「自分もマネジメント層に昇進するチャンスがある」といった気運が生まれ、自ずと将来のマネジメント層候補の人材プールができやすくなるからだ。また、「女性取締役の選任の有無」は株主にとって分かりやすい指標であり、ボードメンバーのトップである代表取締役の選任議案への賛否にも影響しかねない。議決権行使助言会社大手のグラスルイスは、2022年版ポリシーより女性役員(監査役、執行役を含む)が一人もいない上場企業の経営トップなどの選任議案に反対助言を行うこととしている(グラスルイスの2022年版ポリシー改定については2021年12月24日のニュース「グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定」を参照)。株主によるエンゲージメントや議決権行使のプレッシャーを受け、日本の上場企業の取締役会に占める女性比率は年々上昇してはいるものの、依然として他の先進国の水準をはるかに下回っているのが現状だ。

この現状を改善すべく、アジア・コーポレートガバナンス協会(The Asian Corporate Governance Association 以下、ACGA)は2022年10月19日、「東証プライム市場上場企業取締役会におけるジェンダー・ダイバーシティ推進の提言(公開書簡)」を公表している。これは、「上場審査基準の改正」と「CGコードの改訂」をテコに、女性取締役比率の向上を図るための方策を提言するもの。東証プライム市場上場企業については、2030年までに「女性取締役」のみで取締役数の「30%」を超えることを目標としている。女性監査役を含まない30%という数字は、かなり野心的な目標と言えるだろう。

この目標の達成に向け、ACGAがまず「上場審査基準の改正」として提案しているのが、「プライム市場に新規上場する企業に対しては、同性のみで構成する取締役会を認めない」というルールだ。女性取締役不在の上場準備企業をプライム市場の“入り口”から締め出す案である。一方、既にプライム市場に上場している企業に対しては、可能な限り早期に最低1名の女性取締役の登用を義務付けたうえで、そこから「合理的な期間」(ACGAでは「例えば2年から3年」としている)が経過した後、次は2人目の女性取締役の登用を義務付けることを提案している。そして、最終的には2030年の定時株主総会終了時までに、東証プライム市場に上場しているすべての企業で女性取締役比率が30%以上になることを義務付けるとしている。

CGコードは2024年と2027年に改訂が予定されているが、ACGAは2024年の改訂において、プライム市場上場企業に「可能な限り早期に女性取締役比率を30%に引き上げること」を求めるとともに、スタンダード市場上場企業などその他の上場企業に対しては「少なくとも女性取締役2名の任命を促すこと」を提案している。そのうえで2027年の改訂では、ACGAは「すべての上場企業に対し、可能な限り早期に女性取締役比率30%の達成を義務付ける」べきとしている。

「女性取締役比率30%」を達成するには全取締役の数が5人から6人の企業では2人、7人から10人の企業では3人、11人から13人の企業では4人の女性取締役が必要となってくるだけに、ACGAの提案が実現すれば日本企業のガバナンス体制にかなりのインパクトが生じることは間違いない。監査役設置会社では、現任の女性監査役を女性社外取締役に転換することを目的に監査等委員会設置会社に機関設計を変更する事例が相次ぐはずだ(監査等委員会設置会社への移行に伴う監査役の監査等委員取締役への横滑りについては2015年3月20日のニュース「監査等委員会設置会社への移行で監査役の処遇は?」を参照)。

また、ACGAは、社内に女性取締役候補者を増やすためには、取締役クラスだけでなく、執行役員クラスでもジェンダー・ダイバーシティを推進する必要があるとして、執行役員クラスの女性比率の引上げを促すため、上場企業に女性執行役員の比率の開示を義務付けることを提案している。さらに、取締役候補となる女性グループを対象としたキャリア開発やメンター制度を整備して運用するとともに、取締役だけでなく執行役員の女性に対しても、取締役候補になる前から役員向け教育研修を受講する機会を提供するのが望ましいとしている(もっとも、役員向け教育研修を執行役員に受講させる取り組みを女性だけに限定する必然性はなく、将来の取締役候補育成のため、男女問わず実施すべきと言える)。

このほか、ACGAは、現状の日本企業の情報開示では海外の投資家にとって「取締役会の誰が男性で誰が女性なのかを見分けるのが困難である」として、全取締役の性別、年齢、経験について完全な情報開示を行うことも求めている(取締役選任議案における取締役候補者の性別表示については2022年9月20日のニュース『招集通知における取締役に関する開示、「建設的な対話」実現には道半ば』参照)。

ACGAが発表するアジア諸国のコーポレートガバナンス・ランキングは政府関係者も気にかけるほど関心が高い(2021年6月3日のニュース「ACGAのCGランキング 日本は7位→5位も“漁夫の利”との声」参照)。上場企業各社は、日本の規制当局にも影響力を持つACGAの今回の提案が近い将来CGコードの改訂等につながる可能性も視野に入れて、ジェンダー・ダイバーシティの実現に取り組む必要があろう。

2022/10/25 (新用語・難解用語)機密の事務を取り扱う者

取締役会等では会社の機密情報が取り扱われることが珍しくない。このため、取締役会等の運営に関与する従業員が機密情報に接することは十分考えられる。労働基準法41条2号では、労働時間等に関する規定の適用対象にならない労働者として「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」が挙げられているが、このうち「管理監督者」については、“名ばかり管理職”問題でトラブルになる事案が多く、判例も積み上がっている一方、「機密の事務を取り扱う者」については判例の蓄積も無く、これに該当するか否か判断に迷うケースが少なくないものと思われる。・・・

名ばかり管理職 : 自社独自の基準で「管理職」とされているものの、労働基準法上の「管理監督者」には該当しない従業員のこと。労働基準法上の管理監督者には残業代(割増賃金)の支払いをする必要がないことなどを悪用するめ、実態としては労働基準法上の管理監督者としての業務を行っていないにもかかわらず、 肩書だけは「管理職」とすることから、“名ばかり”と形容されている。

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/10/25 (新用語・難解用語)機密の事務を取り扱う者(会員限定)

取締役会等では会社の機密情報が取り扱われることが珍しくない。このため、取締役会等の運営に関与する従業員が機密情報に接することは十分考えられる。労働基準法41条2号では、労働時間等に関する規定の適用対象にならない労働者として「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」が挙げられているが、このうち「管理監督者」については、“名ばかり管理職”問題でトラブルになる事案が多く、判例も積み上がっている一方、「機密の事務を取り扱う者」については判例の蓄積も無く、これに該当するか否か判断に迷うケースが少なくないものと思われる。

名ばかり管理職 : 自社独自の基準で「管理職」とされているものの、労働基準法上の「管理監督者」には該当しない従業員のこと。労働基準法上の管理監督者には残業代(割増賃金)の支払いをする必要がないことなどを悪用するめ、実態としては労働基準法上の管理監督者としての業務を行っていないにもかかわらず、 肩書だけは「管理職」とすることから、“名ばかり”と形容されている。

労働省(当時)の行政通達(昭22.9.13発基第17号)によると、「機密の事務を取り扱う者」とは「秘書その他職務が経営者又は監督若しくは管理の地位に在る者の活動と一体不可分であって、出社退社等についての厳格な制限を受けない者」とされている。すなわち、「機密の事務を取り扱う者」は、管理監督者同様、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けない。これは、経営者と一体不可分の立場にある以上、突発的な業務にも対応せざるを得ないことから、労働時間の厳格な管理はそぐわないためだ。

この通達では代表例として「秘書」が挙げられているが、「機密の事務を取り扱う者」に該当するかどうかは、役職名にかかわらず、その職務や勤務態様によって判断されることになる。したがって、肩書が「秘書」であったとしても、例えばその者が単なる文書ファイリングに従事するのみであれば、「職務が経営者や管理監督者の活動と一体不可分」とも「出社退社等についての厳格な制限を受けない」とも言えないことから、「機密の事務を取り扱う者」には該当しない。同様に、「人事部員」や「経理部員」であっても、その者の所属部門だけで「機密の事務を取り扱う者」に該当すると決まるものでもない。一方、例えば「役員付き運転手」であっても、その職務や勤務態様によっては「機密の事務を取り扱う者」に該当することもありうる。

なお、「機密の事務を取り扱う者」は労働時間等に関する規定を適用しないとは言っても、深夜労働に関する規定(労働基準法37条4項、同法61条)および年次有給休暇に関する規定(同法39条)は適用される。したがって、深夜労働に対しては一般労働者と同様の割増賃金を支払う必要があり、また、勤続年数等に応じた法定有給休暇を付与するとともに、年5日以上の有給休暇の取得が義務付けられる。さらに、会社は安全配慮義務(労働契約法5条)も果たさなければならない。「機密の事務を取り扱う者」に該当するからと言って、労働時間管理がまったく不要になるわけではない点、注意したい。

安全配慮義務 : 労働者が安全に仕事できるよう配慮すべき会社の義務(労働契約法5条)