ネット記事やSNS投稿などで一見第三者が中立の意見を述べているように見えて、読み進めるうちに実は広告だということが分かり拍子抜けすることは少なくない。通販サイトのレビュー欄にやらせの書き込みが横行していることも周知の事実となっている。飲食店が業者を使ってグルメサイトの口コミ欄にやらせ書き込みをした事件や、オークション運営会社が芸能人に報酬を渡し実際には落札していないにもかかわらず落札できたかのようなコメントをしてもらっていたペニーオークション(入札ごとに手数料がかかるオークションサイト)の事件は未だ記憶に新しい。また、最近はソーシャルメディア広告(SNS広告)の市場拡大に伴い、インフルエンサーがInstagram、TikTok、Twitterなどのソーシャルメディアを使って、広告と気づかれないように商品を宣伝したり、商品に関する不適切なクチコミの発信に加担したりするケースも増えている。
インフルエンサー : 世間に与える影響力が大きい人物
このように、実際は広告であるにもかかわらず、広告であることが分からない行為(下記の例示参照)は「ステルスマーケティング(ステマ)」と呼ばれており、消費者の合理的な選択を阻害するものとして問題視されてきた。なお、ステルスには「隠密」「こっそり行う」といった意味がある。
(消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」5ページより引用)
例えば、広告主の依頼であるにもかかわらず、
・有名人が商品・サービスと一緒に取った写真を広告であると明示せずに宣伝すること
・商品・サービスについて、広告である旨明示せず、「よかった」や「おすすめ」といった感想の体裁をとって、SNS等に投稿すること
・インターネット上の記事に広告である旨を明示しないこと
・商品・サービスの比較ランキングに広告である旨を明示しないこと
・ECサイト上において、広告である旨を明示せず、商品・サービスの使用感等のレビューをすること |
日本にはステルスマーケティングに対して、業界団体や媒体運営会社における自主規制は存在しているが、法律による規制は存在しない。OECD加盟国(名目GDP上位9か国)において、ステルスマーケティングに対する法規制がないのは日本のみであり(下表は消費者庁ステルスマーケティングに関する検討会の第1回会合の資料4「ステルスマーケティングに関する実態調査」5ページより引用)、まさに日本は広告主にとって“ステマ天国”と言える。

もちろん、広告が優良誤認・有利誤認に該当すれば不当景品類及び不当表示防止法(以下、景品表示法)に抵触することになるが、それはあくまで当該広告に「優良誤認・有利誤認があれば」の話だ。つまり、ステルスマーケティングの手法を用いた広告であっても、優良誤認・有利誤認に該当しない限り景品表示法では規制しようがない。
優良誤認 : 商品・サービスの品質を実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に優れているわけではないのに、あたかも優れているかのように偽って宣伝したりする行為
有利誤認 : 商品・サービスの取引条件について、実際よりも有利であると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品・サービスよりも特に安いわけでもないのに、あたかも著しく安いかのように偽って宣伝したりする行為
こうした中、日本弁護士連合会(以下、日弁連)が2017年2月16日にとりまとめ、消費者庁に提出した「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」では、現在、景品表示法の5条3号に基づいて内閣総理大臣が指定(下枠内の赤字)している6項目(下記の<現行の規制>を参照)に加えて、ステルスマーケティングへの規制も追加することが提案されている(下記の<日弁連の提案>を参照)。
<現行の規制>
■景品表示法の5条3号
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
(中略)
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
■景品表示法の5条3号に基づき現在内閣総理大臣が指定している6項目
無果汁の清涼飲料水等
商品の原産国
消費者信用の融資費用
不動産のおとり広告
おとり広告
有料老人ホーム |
<日弁連の提案>
■日弁連の意見書で提案されたステルスマーケティングへの規制
商品又は役務を推奨する表示であって次のいずれかに該当するもの
1 事業者が自ら表示しているにもかかわらず、第三者が表示しているかのように誤認させるもの
2 事業者が第三者をして表示を行わせるに当たり、金銭の支払その他の経済的利益を提供しているにもかかわらず、その事実を表示しないもの。ただし、表示の内容又は態様からみて金銭の支払その他の経済的利益が提供されていることが明らかな場合を除く。 |
日弁連の提案は長い間、保留となったままだったが、先月(2022年9月)16日、消費者庁がステルスマーケティングに関する検討会を立ち上げ、ステルスマーケティングへの法規制を視野に入れ、まずは同検討会でステルスマーケティングの実態および消費者への影響に関する議論が開始された。日弁連の提案から5年超の歳月を経て、ようやく消費者庁が規制強化に動き出したことになる。
同検討会では、既に10月6日までに事業者等へのヒアリングを終えており、今後は11月中旬に開催する第5回検討会で論点整理、取りまとめに向けた議論を行うなどして、2022年12月中に報告書を公表することを予定している。
規制強化にあたっては被害の把握が必須となる。仮に消費者がステルスマーケティングによって大した被害を受けていないのであれば、わざわざ規制を強化する必要はなくなるからだ。もっとも、ステルスマーケティングによる被害は、文字通り「ステルス」(「見えない」「隠密」といった意味)という性質上、消費者自身が認識していないことが多く、どの程度の被害を受けているのか、全貌把握が極めて困難となっている。そこで同検討会では、東京大学エコノミックコンサルティング社に調査を委託し、経済学の観点からステルスマーケティングによる消費者への被害の影響を把握するとしている。推計をしてでも被害額を探ろうという動きは、規制強化が既定路線であることの裏返しとも言えよう。
ただ、実際には「規制されるべきステルスマーケティング」と「規制不要なマーケティング活動」の線引きは難しく(第4回検討会で新経済連盟が示した『無償提供・利益提供を受けていることや「広告」であることが表示されていなくても現時点では社会的に許容されていると考えられる例』を参照)、ステルスマーケティングへの規制が行われるとしても、それがどのような形で決着するのかは現段階では未知数と言える。
日本インタラクティブ広告協会の広告掲載基準ガイドラインによると、インターネット広告においてステルスマーケティングが行われないよう、広告目的で表示されているものである旨([広告]、[広告企画]、[PR]、[AD]などを明記。以下、広告表記)を分かりやすく表示することが求められている(第4回 ステルスマーケティングに関する検討会の「資料2 一般社団法人日本インタラクティブ広告協会説明資料」19ページを参照)。これは通常のインターネット広告とは異なるインフルエンサーを用いたマーケティングでも同様であり(クチコミに関するマーケティング活動の業界団体であるWOMマーケティング協会のWOMJガイドラインでは、情報発信者にはマーケティング主体と情報発信者の関係性等を明示することが求められている)、インフルエンサーの投稿に「広告」であることが明示されることにより、消費者はその投稿が広告であることを認識し、広告への懐疑的な感情が高まるとされている。それに加えて、インフルエンサーも広告表記が自身への評価の低下につながりかねないことから(第1回 ステルスマーケティングに関する検討会の「資料6 ステルスマーケティングを取り巻く経営学・商業学分野の学術研究の現状について」の9ページを参照)、広告主およびインフルエンサーともに広告表記に対してはネガティブな姿勢をとっている。このため、インフルエンサーマーケティングでは特にステルスマーケティングが行われやすい。広告主による審査を通った後にインフルエンサーが広告主に黙って広告表記をこっそり外す例もあると聞く。したがって、広告主としてはインフルエンサーが広告表記を外さないよう投稿を継続的にウオッチすることが必須となる。
ステルスマーケティングへの法的規制の開始まで、もはや秒読み段階に入ったが、規制前だからといってステルスマーケティングをしていたことが露呈すれば企業イメージを大きく損ねてしまうことは間違いない。上場企業としては、自社の広告の現場でステルスマーケティングが行われることがないよう、媒体審査だけに頼るのではなく、社内で担当部署の教育を充実させ、代理店、インフルエンサーへの統制を強化する必要があろう。