2022/10/17 社長の「解任」ではなく「辞任」が多い理由

最近、社長が期中に辞任する旨の報道が目に付く。本来、社長の交代は、現任社長が定年を迎えて、あるいは2期、3期といった既定の在任期間を経て後任社長にバトンタッチするというケースがほとんどであり、多くの日本企業ではいまだにこうした「誰の判断も要さない」事由をトリガーとして、トップの交代という“一大イベント”を運用している。こうした中で、社長の期中辞任事例が顕出している昨今の状況は、コーポレートガバナンス強化の潮流に乗って指名委員会の機能が徐々に高まってきているのではないか、との希望的観測も投資家などから聞かれる。

コーポレートガバナンス・コード【原則3-1.情報開示の充実】の(ⅴ)では、上場会社に経営陣幹部等の選解任・指名についての説明を求めているが、社長の期中辞任に関するリリースを見ると、いずれも例外なく、文字通り「辞任」と記載されている。「辞任」とはあくまで「社長本人からの自発的な申し出」があって代表取締役社長の任を辞するということであり、「解任」とはニュアンスも体裁も大きく異なる。

日本企業が「解任」ではなく「辞任」という形をとるのは、・・・

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2022/10/17 社長の「解任」ではなく「辞任」が多い理由(会員限定)

最近、社長が期中に辞任する旨の報道が目に付く。本来、社長の交代は、現任社長が定年を迎えて、あるいは2期、3期といった既定の在任期間を経て後任社長にバトンタッチするというケースがほとんどであり、多くの日本企業ではいまだにこうした「誰の判断も要さない」事由をトリガーとして、トップの交代という“一大イベント”を運用している。こうした中で、社長の期中辞任事例が顕出している昨今の状況は、コーポレートガバナンス強化の潮流に乗って指名委員会の機能が徐々に高まってきているのではないか、との希望的観測も投資家などから聞かれる。

コーポレートガバナンス・コード【原則3-1.情報開示の充実】の(ⅴ)では、上場会社に経営陣幹部等の選解任・指名についての説明を求めているが、社長の期中辞任に関するリリースを見ると、いずれも例外なく、文字通り「辞任」と記載されている。「辞任」とはあくまで「社長本人からの自発的な申し出」があって代表取締役社長の任を辞するということであり、「解任」とはニュアンスも体裁も大きく異なる。

日本企業が「解任」ではなく「辞任」という形をとるのは、現行会社法上、指名委員会等設置会社を除き、代表取締役社長を取締役の地位も含めて会社から完全に引き離す、すなわち「解任」するには、株主総会の決議が必須となるからだ。期中の解任となると臨時株主総会を開催し、決議を得ることが必要になるが、上場会社が臨時株主総会を開催するのは基本的に合併等の限られたケースにおいてのみであり、取締役の期中解任のためにわざわざ臨時株主総会を開催するのはコストや手続的な負担が重く、また、社内の混乱を対外的に晒すことにもなりかねないため、通常は行われない。代表権や社長の解職だけであれば取締役会決議により可能ではあるが、この場合、元社長は「取締役」として会社に残り続けることになり、解任したい人物が任期満了まで取締役会の意思決定に加わるという不都合な状況となる。結局のところ、現行の会社法の枠組みにおいては、不祥事やパフォーマンス不足を理由として社長以外の取締役等から解任が提起されたとしても、解任される社長が自ら代表権や取締役の職を辞することを申し出るという形を取らざるを得ない。

もっとも、それに素直に応じる人物ばかりではないだろう。仮に社長が外部から登用された社長、しかも非日本人であった場合を考えてみよう。プロ経営者としてグローバルで活躍できる社長人材は自ら身を引くほど殊勝ではない。不祥事が原因ならまだしも、パフォーマンス不足を理由とした解任要請に対しては徹底的に戦うのが通常であり、本人からの辞任の申し出という対応を受け入れさせるのは容易ではない。セベランス(解雇手当)を支給して解任受諾のサインを得るというグローバルで標準的な手法を使うとしても、取締役に支給するものである以上、「役員報酬」として株主総会決議を経ないと支給できないため、期中で機動的にアレンジすることも不可能だ。

要するに、現行の日本における“取締役解任法制”は、極めて聞き分けの良い人物しか社長にならないという性善説的な価値観を前提としていると考えざるを得ない。社長の選解任はガバナンスの一丁目一番地とされる中、グローバルに評価される指名委員会、取締役会のガバナンス強化を進めていくうえでの制約とならないような法制度のあり方について考える時期に来ていると言えそうだ。

2022/10/14 サステナビリティ情報も内部統制報告の対象になる可能性

第1・3四半期報告書の廃止が確定的となっているが(2022年10月3日のニュース「10月5日からDWGが再開、見えて来た第2四半期報告書の取扱い、第1・第3四半期決算短信へのエンフォースメントの行方」、2022年10月5日のニュース「四半期決算短信の任意提出、レビュー対象化の行方」参照)、企業のみならず、監査法人の現場スタッフからも、従来の過重な業務負担が減ることを歓迎する声が聞かれる。その一方で、今後負担が増加する可能性が出て来たのが内部統制報告だ。・・・

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2022/10/14 サステナビリティ情報も内部統制報告の対象になる可能性(会員限定)

第1・3四半期報告書の廃止が確定的となっているが(2022年10月3日のニュース「10月5日からDWGが再開、見えて来た第2四半期報告書の取扱い、第1・第3四半期決算短信へのエンフォースメントの行方」、2022年10月5日のニュース「四半期決算短信の任意提出、レビュー対象化の行方」参照)、企業のみならず、監査法人の現場スタッフからも、従来の過重な業務負担が減ることを歓迎する声が聞かれる。その一方で、今後負担が増加する可能性が出て来たのが内部統制報告だ。

2008年4月以降開始事業年度から適用されている内部統制報告制度(J-SOX)は制度導入以来15年近くが経過し、企業の経営管理・ガバナンスの向上に一定の効果があったとの声は聞かれるものの、近年実効性に懸念があるとの指摘も少なくない。また、後述するように、国際的な内部統制・リスクマネジメントの議論の進展に日本が立ち遅れているという問題もある(2022年9月29日に開催された金融庁・企業会計審議会総会の第9回会計部会での議論参照)。

J-SOX : エンロン事件やワールドコム事件など1990年代末から2000年代初頭にかけて頻発した不正会計問題に対処するため、コーポレートガバナンスのあり方と監査制度を抜本的に改革するとともに、投資家に対する企業経営者の責任と義務・罰則を定めた米国連邦法がSOX法であり、2002年7月に制定された(正式名称はサーベンス・オクスリー法)。日本におけるJ-SOX(内部統制報告制度)は、SOX法に基づく内部統制監査制度を参考に、2008年に導入されたものである。

こうした状況を受け、2022年10月13日に開催された企業会計審議会第22回内部統制部会では、国際的な内部統制・リスクマネジメントの進展を踏まえた内部統制報告制度の実効性の向上に向けた議論を開始した。今回の会合では、「内部統制の基本的枠組み」「経営者による内部統制の評価範囲」「監査人による内部統制監査」「内部統制報告書の訂正時の対応」がテーマとなり、このうち「内部統制の基本的枠組み」では、内部統制の評価対象範囲が議論された。

現在の内部統制報告制度では、経営者が「財務報告」に係る内部統制を評価することとされている。ここでいう「財務報告」の範囲は下表のとおりだが、「財務報告」と言っても、財務諸表のみならず、財務諸表に関連する「非財務」に係る事項も内部統制報告制度の評価対象となっている。

<表 内部統制報告制度における評価の対象範囲>
(注)経営者による内部統制の評価は、これらの事項が財務諸表作成上の重要な判断に及ぼす影響の大きさを勘案して行われるものであり、必ずしも上記開示項目における記載内容の全てが評価対象となるわけではない。
具体例 財務報告の範囲
財務諸表
財務諸表以外 財務諸表に記載された金額、数値、注記を要約、抜粋、分解又は利用して記載すべき開示事項(財務諸表の表示等を用いた記載) 例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「主要な経営指標等の推移」の項目、「事業の状況」の「事業等のリスク」、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」及び「研究開発活動」の項目、「設備の状況」の項目、「提出会社の状況」の「株式等の状況」、「自己株式の取得等の状況」、「配当政策」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」の項目、「経理の状況」の「主な資産及び負債の内容」及び「その他」の項目、「保証会社情報」の「保証の対象となっている社債」の項目並びに「指数等の情報」の項目のうち、財務諸表の表示等を用いた記載

保証会社 : 有価証券報告書の提出会社が返済不能に陥った場合に返済を肩代わりする会社。自社が発行している社債につき保証会社から保証を受けている場合に開示が必要となる。

関係会社の判定、連結の範囲の決定、持分法の適用の要否、関連当事者の判定その他財務諸表の作成における判断に密接に関わる事項

持分法 : 持分法とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう。一行連結とも言われる。持分法は非連結子会社や関連会社に対して適用される。また、関連会社の判定は、他の会社等の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができるかどうか(影響力基準)という観点から行われる。なお、関連会社であっても、持分法の適用により、連結財務諸表に重要な影響を与えない場合には、持分法の適用会社としないことができる。よって、持分法適用関連会社とは、持分法を適用する関連会社を指す。
関連当事者 : 取締役や主要株主、親会社など会社と関係の深い個人や法人のこと。「会社と関連当事者との取引」は有価証券報告書等で開示(これを「関連当事者取引注記」という)しなければならない。

例えば、有価証券報告書の記載事項中、「企業の概況」の「事業の内容」及び「関係会社の状況」の項目、「提出会社の状況」の「大株主の状況」の項目における関係会社、関連当事者、大株主等の記載事項が挙げられる。(注)

もともと、日本の内部統制報告制度は米国COSO(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission=通称:トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が1992年に公表した統合的フレームワークをベースに作られたが、当該フレームワークは2013年に改定され、「COSO2013」となった。改定の主なポイントは以下のとおりだ。

米国COSO : 企業の不正行為に対抗するための、米国公認会計士協会(AICPA)、米国会計学会(AAA)、財務管理者協会(FEI)、内部監査人協会(IIA)、管理会計士協会(IMA)の5つの組織が資金を提供して1985年に設立された共同イニシアチブで、企業や組織が自社の統制システムを評価できる共通の内部統制モデルを確立した。「トレッドウェイ委員会」という通称は、初代委員長である元証券取引委員会委員のジェームズ・C・トレッドウェイ・ジュニア氏に由来する。

・内部統制の目的の一つである「財務報告」を「報告」と再定義(非財務報告も包含
・内部統制の各構成要素について、基本概念となる原則や着眼点を明示
・このほか、ガバナンスに関する概念を強調、進展するテクノロジーとの関連性や不正防止に関する検討結果などを反映
64938
出典:金融庁 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議第25回(令和3年3月9日)事務局参考資料(監査の信頼性の確保/内部統制・リスクマネジメントについて)

COSOの改定ポイントは、「財務報告」を「報告」と再定義し、評価対象に非財務報告が含まれた点だ。したがって、今後の企業会計審議会・内部統制部会では、この改定を日本の内部統制報告制度に反映させるかどうかが焦点となる。

内部統制部会の各委員からは以下のような発言があったが、ほとんどが肯定的な意見であった。

<肯定的な意見>
①昨今の、非財務情報の投資情報としての重要性を鑑みると非財務情報の開示プロセスについても内部統制の評価対象とすべき。
②もともと、内部統制を評価する目的は、財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保するものである。非財務情報は「財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報」と考えれば、非財務情報を内部統制評価の対象と明示することは、明確化に過ぎず、上表(内部統制報告制度における評価の対象範囲)の例示に「サステナビリティ情報」を追加すればよいだけ。

一方、慎重な意見等としては以下のものがあった。

<慎重な意見>
サステナビリティ情報を内部統制評価対象とすべきとするのは、気候変動を想定していると考えられるが、今後は、人的資本、生物多様性、水など開示項目が増えることが想定されるため慎重に検討すべき。
<その他の意見>
現在の法制度では、内部統制報告制度はあくまで財務報告に係る内部統制を評価対象としていることを前提としており、これはなかなか変えられないのでは。また、DWG報告によると四半期報告書が廃止されることとなるが、その都度重要な情報は開示するという、臨時報告書の重要性が増してくるが、臨時報告書の開示についても財務報告に係る内部統制の評価対象とする議論があってもよいのではないか。

経営者による内部統制の評価対象範囲が拡大すれば、監査人の内部統制監査対象範囲も拡大し、内部統制報告書の作成者である企業、それをチェックする監査法人の負担は増す。このため、内部統制部会では慎重な議論が行われることが予想されるが、COSOの2013年の改定を踏まえれば、サステナビリティ情報(非財務情報)も内部統制報告制度の対象に含まれる可能性は高いと言えそうだ。

2022/10/13 ネットが使えない株主向け書面の簡略化案が明らかに

2023年3月から株主総会資料の電子提供制度がスタートし、上場会社は株主総会資料を原則としてインターネットで提供すればよいことになる。ただし、インターネットが使えない株主への配慮として、例外的に「書面による株主総会資料の受け取り」を希望する株主には書面(電子提供措置事項記載書面)を交付しなければならない。インターネットを使える通常の株主と使えない一部の株主との間で生じるデジタル・ディバイド(格差)を埋めるための措置とはいえ、株主総会資料の書面交付を請求する株主が一人でもいる限り、上場会社は電子提供措置事項記載書面を作成せざるをえず、当該書面の印刷、郵送の手間やコストの発生は不可避となる。こうした中、上場会社からは「せめて電子提供措置事項記載書面の記載事項を簡略化して欲しい」といった声が挙がっていた。

デジタル・ディバイド : ICTに関する知識の有無による情報格差や経済格差のこと。

当フォーラムでは、そのような上場会社の声やコロナ禍で急速に進む経済社会の電子化などの流れを受け電子提供措置事項記載書面の簡略化を図る省令改正の動きがあることをお伝えしたところだが(2022年8月3日のニュース「デジタル化推進とネットが使えない株主への配慮」を参照)、法務省が2022年10月7日に公表した「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」(以下、公開草案)でその詳細が明らかになった(パブコメの募集は2022年11月7日まで)。

公開草案では、これまでは電子提供措置事項記載書面への記載が求められていた「事業報告に記載又は記録すべき事項のうち役員の責任限定契約に関する事項、事業の経過及びその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項及び役員等賠償責任保険契約に関する事項、貸借対照表及び損益計算書に記載又は記録すべき事項並びに連結貸借対照表及び連結損益計算書に記載又は記録すべき事項」が、同書面に「記載することを要しない事項」に追加されている(法務省の概要説明を参照)。ただ、公開草案には電子提供措置事項記載書面への記載が必要となる項目が列挙されているわけではないため、公開草案を一読しても具体的な電子提供措置事項記載書面をイメージしづらい。そこで当フォーラムでは、株主総会参考書類、事業報告、計算書類のそれぞれについて、現行規定および公開草案に基づき、電子提供措置事項記載書面に記載すべき事項を表形式でまとめたので、参考にされたい。下表中、緑色に塗られた箇所が公開草案により電子提供措置事項記載書面への記載が簡略化された項目であり、公開草案の列に「〇」がついている項目は公開草案どおりに会社法施行規則が改正された場合であっても、電子提供措置事項記載書面への記載を免れない項目となる。・・・

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2022/10/13 ネットが使えない株主向け書面の簡略化案が明らかに(会員限定)

2023年3月から株主総会資料の電子提供制度がスタートし、上場会社は株主総会資料を原則としてインターネットで提供すればよいことになる。ただし、インターネットが使えない株主への配慮として、例外的に「書面による株主総会資料の受け取り」を希望する株主には書面(電子提供措置事項記載書面)を交付しなければならない。インターネットを使える通常の株主と使えない一部の株主との間で生じるデジタル・ディバイド(格差)を埋めるための措置とはいえ、株主総会資料の書面交付を請求する株主が一人でもいる限り、上場会社は電子提供措置事項記載書面を作成せざるをえず、当該書面の印刷、郵送の手間やコストの発生は不可避となる。こうした中、上場会社からは「せめて電子提供措置事項記載書面の記載事項を簡略化して欲しい」といった声が挙がっていた。

デジタル・ディバイド : ICTに関する知識の有無による情報格差や経済格差のこと。

当フォーラムでは、そのような上場会社の声やコロナ禍で急速に進む経済社会の電子化などの流れを受け電子提供措置事項記載書面の簡略化を図る省令改正の動きがあることをお伝えしたところだが(2022年8月3日のニュース「デジタル化推進とネットが使えない株主への配慮」を参照)、法務省が2022年10月7日に公表した「会社法施行規則等の一部を改正する省令案」(以下、公開草案)でその詳細が明らかになった(パブコメの募集は2022年11月7日まで)。

公開草案では、これまでは電子提供措置事項記載書面への記載が求められていた「事業報告に記載又は記録すべき事項のうち役員の責任限定契約に関する事項、事業の経過及びその成果、対処すべき課題、補償契約に関する事項及び役員等賠償責任保険契約に関する事項、貸借対照表及び損益計算書に記載又は記録すべき事項並びに連結貸借対照表及び連結損益計算書に記載又は記録すべき事項」が、同書面に「記載することを要しない事項」に追加されている(法務省の概要説明を参照)。ただ、公開草案には電子提供措置事項記載書面への記載が必要となる項目が列挙されているわけではないため、公開草案を一読しても具体的な電子提供措置事項記載書面をイメージしづらい。そこで当フォーラムでは、株主総会参考書類、事業報告、計算書類のそれぞれについて、現行規定および公開草案に基づき、電子提供措置事項記載書面に記載すべき事項を表形式でまとめたので、参考にされたい。下表中、緑色に塗られた箇所が公開草案により電子提供措置事項記載書面への記載が簡略化された項目であり、公開草案の列に「〇」がついている項目は公開草案どおりに会社法施行規則が改正された場合であっても、電子提供措置事項記載書面への記載を免れない項目となる。

<電子提供措置事項記載書面への記載の要否一覧>
〇:電子提供措置事項記載書面への記載必要
-:電子提供措置事項記載書面への記載不要(ただし監査役等が異議を述べた事項は記載が必要)
書類 項目 会社法
施行規則
書面への記載の要否
現行規定 公開草案
株主総会参考書類 議案 73条以降
議案以外 73条以降
事業報告 株式会社の現況に関する事項 主要な事業内容 120条1項1号
主要な営業所及び工場並びに使用人の状況 120条1項2号
主要な借入先及び借入額 120条1項3号
事業の経過及びその成果 120条1項4号
次に掲げる事項についての状況(重要なものに限る)
イ 資金調達
ロ 設備投資
ハ 事業の譲渡、吸収分割又は新設分割
ニ 他の会社の事業の譲受け
ホ 吸収合併又は吸収分割による他の法人等の事業に関する権利義務の承継
ヘ 他の会社の株式その他の持分又は新株予約権等の取得又は処分
120条1項5号
直前三事業年度の財産及び損益の状況 120条1項6号
重要な親会社及び子会社の状況 120条1項7号
対処すべき課題 120条1項8号
その他重要な事項 120条1項9号
株式に関する事項 122条
新株予約権等に関する事項 123条
会社役員に関する事項 役員の氏名 121条1号
役員の地位及び担当 121条2号
責任限定契約の内容の概要 121条3号
補償契約関連

補償契約 : 役員等がその執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用(防御費用)や、役員等がその職務の執行に関し、第三者に生じた損害の賠償責任を負う場合における損失(賠償金、和解金)の全部または一部を会社が補償することを約する契約のこと。会計監査人と締結する補償契約では、例えば粉飾決算を見落とした会計監査人が第三者から責任を追及された場合、会計監査人が負担する賠償金や弁護士費用を会社が負担することを約することになる。

121条3の2号~3号の4
役員の報酬関連 121条4号~6号の3
辞任した会社役員又は解任された会社役員 121条7号
役員の重要な兼職の状況 121条8号
役員(監査役、監査等委員又は監査委員)が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実 121条9号
常勤の監査等委員(監査委員)の選定の有無及びその理由 121条10号
社外役員等に関する事項 124条
その他重要な事項 121条11号
役員等賠償責任保険契約に関する事項 121条の2
会計監査人に関する事項 会計監査人の名称、報酬、解任又は不再任の決定の方針等 126条1号~6号、8号~9号
会計監査人と会社との間で締結している責任限定契約や補償契約の内容の概要等 126条7号~7号の4
剰余金の配当等を取締役会が決定する旨の定款の定めがあるときは、当該定款の定めにより取締役会に与えられた権限の行使に関する方針 126条10号
業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項 118条2号
株式会社の支配に関する基本方針に関する事項 118条3号
特定完全子会社に関する事項 118条4号
親会社等との間の取引に関する事項 118条5号
株式会社の状況に関する重要な事項 118 条1号
計算書類 貸借対照表
損益計算書
株主資本等変動計算書
個別注記表
連結計算書類 連結貸借対照表
連結損益計算書
連結株主資本等変動計算書
連結注記表

なお、公開草案の列が「-」となっている項目を、会社が任意で電子提供措置事項記載書面に記載することは法的に何ら問題ない。また、上場会社が電子提供制度開始後に会社の判断で(電子提供措置と並行して)株主総会資料を従来どおり全株主に書面で送付すること(いわゆるフルセット・デリバリー方式)も可能ではある。しかし、ペーパレス化の流れに反してあえてページ数を増やしたり、送付が必須ではない印刷物を株主全員に送ったりすれば、SDGs 等の観点から問題があるとの批判を受ける可能性もあるので注意が必要だ。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

また、株主総会資料の電子提供制度開始後でも議決権行使書およびURL等を記載した招集通知は必ず書面で送る必要があることから、たとえ書面交付を希望する株主がゼロであったとしても郵送コストがゼロになるわけではないという点は誤解がないようにしたい。

 
 

 

 

 

2022/10/12 “落としどころ”はどこに?機関投資家の中でも意見が割れる非財務開示ルール

2022年10月7日のニュース「非財務開示ルールが3種類に?」で報じたとおり、非財務開示基準の分野でデファクトスタンダードを握ると目されている・・・

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2022/10/12 “落としどころ”はどこに?機関投資家の中でも意見が割れる非財務開示ルール(会員限定)

2022年10月7日のニュース「非財務開示ルールが3種類に?」で報じたとおり、非財務開示基準の分野でデファクトスタンダードを握ると目されているISSB(International Sustainability Standards Board=国際サステナビリティ基準審議会)に加え、EUや米国SEC(米国証券取引委員会)が独自の非財務開示ルールの策定にとりかかっており、仮に3つの非財務開示ルールが併存すれば企業にとって大きな負担になりかねない状況となっているが、非財務開示のルールのあり方については機関投資家の間でも意見が割れている。一部例外はあるが、総じて言えば、米国系の機関投資家は“緩い”ルールを、逆に欧州系の機関投資家は“厳しい”ルールを望む声が強い。

この違いは、規制当局のスタンスの違いに起因している。上記ニュースでもお伝えしたようにEUのルール(企業サステナビリティ報告指令(CSRD=Corporate Sustainability Reporting Directive))はダブル・マテリアリティを志向しているが、これに対し、米国SECはシングル・マテリアリティを志向している。「マテリアル」と判断されれば情報開示が義務付けられることになるため、ダブル・マテリアリティの方が情報開示の範囲は広くなる。また、GHG(温室効果ガス)排出量のスコープ(範囲)について、SECは原則としてスコープ 1 のみを開示の対象とする方向で制度を設計している一方、EUはバリューチェーン全体、すなわちスコープ1~すべてを開示の対象としたい意向を持っている。

ダブル・マテリアリティ : マテリアリティとは「重要性」を意味するCSR用語であり、マテリアリティを開示する目的は要するに「自社にとって重要な課題は何か?」を明らかにすることにある。シングル・マテリアリティとは企業が環境や社会から「受ける」影響を示す“投資家目線”のマテリアリティであるのに対し、ダブル・マテリアリティとは、これに企業が環境や社会に「与える」影響を示す “(市民社会等を含む)マルチステークホルダー”目線のマテリアリティを統合したものを指す。
スコープ 1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと。
スコープ 2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出のこと。
バリューチェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値が生み出されるという一連の流れのこと。
スコープ 3 : スコープ1、スコープ2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社の排出」のこと。

現在市中協議に付されているISSBのサステナビリティ開示基準案では、マテリアリティについては「シングル・マテリアリティ」、GHG排出量のスコープについては「スコープ1~3すべて」を開示の対象とする考えが示されている。つまり、ISSBは、マテリアリティについてはSECと同じスタンス、GHG排出量についてはEUと同じスタンスということになり、逆に言うと、マテリアリティについてはEUとスタンスが異なり、GHG排出量についてはSECとスタンスが異なるということになる。

各機関投資家とも“総論”としてはグローバルで統一された「ベースライン」となる非財務報告基準を設定することには賛成しているが、各論では意見が割れている。要するに、米国系の機関投資家は自国の規制当局が設定する開示ルールよりも厳しいルールは望んでいないということだが、この意見の違いは、ISSBのサステナビリティ開示基準案にも影響を与える可能性がある。結局開示負担を負うのは企業であることからすると、米国系の機関投資家の意見に賛同する企業も少なくないものと思われるが、深刻化する気候変動等への対応という意味では、欧州系機関投資家の意見にも合理性がある。上述のとおり、最終的には規制当局の影響が大きいだけに、ISSBが中心となりSEC、EUとの対話の中でいかにして“落としどころ”を見出すのか、注目される。

2022/10/11 日本企業、“役員手前”の幹部人材への株式報酬導入に遅れ

日本企業では、株式報酬というと「役員報酬」の一類型と捉えがちだ。実際、役員報酬としての株式報酬導入はコーポレートガバナンス・コード等の後押し(例えば、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定することを求める補充原則4-2①)もあり既に多くの企業で導入済みとなっている。こうした中、最近は・・・

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2022/10/11 日本企業、“役員手前”の幹部人材への株式報酬導入に遅れ(会員限定)

日本企業では、株式報酬というと「役員報酬」の一類型と捉えがちだ。実際、役員報酬としての株式報酬導入はコーポレートガバナンス・コード等の後押し(例えば、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定することを求める補充原則4-2①)もあり既に多くの企業で導入済みとなっている。こうした中、最近は株式報酬の対象者層の拡大が論点化しつつある。

世界各国で報酬調査を行う人事コンサルティング会社のウイリス・タワーズワトソンによると、日本企業では、役員手前の幹部人材への株式報酬の導入が諸外国の企業に比べて大きく遅れていることが分かった(調査結果はこちら)。

調査によれば、役員手前の本部長相当の等級においてLTI(Long Term Incentive=長期インセンティブ報酬)を導入している日本企業の割合は11%にとどまっており、おおむね50%前後となっている欧米企業はもちろん、アジアの主要マーケット(シンガポール、中国、香港、韓国)の企業と比べても、幹部層へのLTIの導入が遅れていることが見て取れる。

【主要各国における従業員層に対するLTI普及度】
出典:ウイリス・タワーズワトソン資料
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幹部層へのLTI適用が進まない場合に企業が受ける不利益として、ウイリス・タワーズワトソン経営者報酬・ボードアドバイザリープラクティス ディレクターの小川直人氏は、①グローバル人材の獲得が難しくなる、②企業価値向上への意識付けを行うタイミングが遅くなる、③社内の優秀人材の流出に繋がる、ことが想定されるとしている。このような課題認識を持つ企業においては、幹部層へのLTIの導入は重要性・緊急性の高い論点と言える。そもそも株式報酬の意図は、短期視点に陥らず、中長期的な企業価値向上を持続的に意識付けることにある。この点に立ち返れば、そもそも株式報酬が役員在任期間しか付与されないということ自体がまさに「短期志向」であり、役員よりも下位のレイヤーから株式報酬の適用が始まる諸外国の企業の報酬制度の方が長期志向となっている。

近年、既存事業の「深化」と、新しい事業の開拓を目指す「探索」を高い次元で両立させようとする「両利きの経営」の重要性が叫ばれているが、既存事業に従事する従業員と、新規事業開拓に従事する従業員が分断されずに成長の果実を享受できるようにするためにも、従業員層に対する株式報酬の導入は取締役会で早急に検討すべき論点と言えよう。