2022/09/12 非財務情報開示のルール化、今後の流れ(会員限定)

当フォーラムが新聞等に先駆けて報じていたとおり、2023年3月期に係る有価証券報告書から、気候変動対応、人的資本投資などの非財務情報の開示が義務付けられることが確実となっており(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」参照)、これを実現するための改正開示府令案が今月(9月)中にも公表される見込みとなっている。

3月決算企業の場合、進行期である「当期」から適用されるだけに、時間的にも大きな負担を迫られることになろう。もっとも、企業に課される開示負担は、今回改正される開示府令の内容がすべてというわけではない。開示府令改正のベースとなる金融庁・金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループの報告書(以下、DWG報告)の6~7ページに示されているように、今回の改正開示府令は非財務開示の“大枠”を定めるものにすぎない。

非財務開示のグローバルリーダーとなるISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は今年3月に「サステナビリティ開示基準(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項及び気候関連開示)」の公開草案をリリースしており、DWG報告3ページ(下から2段落目の最後の行)には「基準は本年末までに最終化される予定」とある。通常、公開草案と確定版の内容はそれほど大きく変わらないことから、今回の改正開示府令を「ISSBの基準を概ね反映したもの」との誤解が一部にあるが、結論から言えばそれは正しくない。

ISSB : 資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの柱から構成されているという点では、ISSBの基準と改正開示府令は矛盾はしていないが(DWG報告6ページの上から4段落目参照)、詳細な要求事項を定めているISSBの基準と、“大枠”を定めるにすぎない今回の改正開示府令とは大きな隔たりがあり、改正開示府令がISSBの基準を「概ね反映」したものとは言い難い。

そもそも、3月にリリースされたISSBの基準は「全般的事項」と「気候変動」にすぎない。これが一旦最終化されれば、ISSBは次の基準開発、例えば「人権」「人への投資」「生物多様性」「水資源」などに取りかかることになる。また、3月にリリースされたISSBの基準の「全般的事項」と「気候変動」も年内に“最終化”が予定されているものの、数年後には改訂される可能性が高い。

結論として、今回の開示府令の改正は非財務情報開示の“序章”に過ぎず、今後も開示を求められる事項は増加するとともに、時の経過とともに改訂されることになる。企業にあっては、非財務開示に対応する体制を早い時期に構築する必要があろう。

2022/09/09 パフォーマンスへの懸念とともに浮かび上がるサステナブル投資の課題(会員限定)

ESG投資サステナブル投資(以下、まとめて「サステナブル投資」という)を行ってきた機関投資家の間でパフォーマンスへの懸念が広がっている。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
サステナブル投資 : エネルギー資源の利用、温室効果ガス排出、生物多様性、循環型経済など、「環境」に貢献する経済活動への投資、および、不平等解消や社会の結束を促進するなど「社会」目的に貢献する経済活動への投資の総称。また、投資先企業が優れたガバナンスを実践していることもサステナブル投資の条件とされている。

その最大の理由は、ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけとしたエネルギー価格の高騰にある。エネルギー価格の高騰は石油メジャー等の株価上昇を招くこととなった。しかし、サステナブル投資家は石油メジャー等を投資対象外としているため、その“恩恵”を受けることができないという、サステナブル投資家にとっては何とも歯がゆい状況が生じている。

投資パフォーマンスへの懸念とともに、投資家の意識は必然的にサステナブル投資そのものに対する課題に向くことになる。英国の大手資産運用会社シュローダー(Schroders)が世界の 770 の機関投資家を対象に、ロシアによるウクライナ侵攻後の2022年3月に実施した調査によると、サステナブル投資家の54%がグリーンウォッシング、53%が透明性やデータの欠如を課題に挙げている。これらが課題とされる背景の一つには、グローバルで統一した基準や報告方法がないことがある。この点については、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のリーダーシップが期待されるところだ。

グリーンウォッシング : 商品・サービスなどが環境に配慮しているかのように見せかけ、消費者への訴求効果を高めようとする行為。
ISSB : 資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。

サステナブル投資で高いパフォーマンスを発揮することを目指す中、投資手法の人気面での優劣も明確になりつつある。サステナブル投資の手法として最も人気がないのが「ネガティブ・スクリーニング」だ(シュローダーの調査結果によると、採用している投資家は39%)。逆に最も多くの機関投資家に採用されているのは、資産の運用プロセスにおいてESGの要素を組み込む「ESGインテグレーション」となっている(同75%)。採用率ではESGインテグレーションには及ばないものの、目に付くのは、環境や社会面での特定の効果創出を目指す「インパクト投資」の伸び率だ。2 年前の 34%から 48%へと急伸している。サステナブル投資が単純なスクリーニングから、特定の効果創出を目指すなど、「目に見える」投資成果を求めるようになってきたということだろう(サステナブル投資の調査結果の詳細はSchroders, Institutional Investor Study 2022 [Sustainability]の4枚目のスライド参照)。

ネガティブ・スクリーニング : 投資対象の選別にあたり、優れた銘柄を選別する、あるいは問題のある銘柄を除外する投資手法を「スクリーニング」というが、ネガティブ・スクリーニングは後者を指し、ダイベストメント」(投資の引き揚げ)に重点を置く。例えば、「石炭や石炭火力発電からの売上が全体の30%以上を占める企業を投資対象から除外する」といった“石炭ダイベストメント”はネガティブ・スクリーニングの典型である。
ESGインテグレーション : 通常の投資判断プロセスの中にESGの要素を“組み込む”投資手法。したがって、ESGインテグレーションでは、例えば、投資を検討している企業の成長性を予測する際にSDGsへの取り組み状況を売上成長率に反映する、あるいはガバナンスに懸念のある企業の適正株価を割り引くといったことがあり得る。このため、ESGインテグレーションの手法で保有されている株式については、ESG投資の対象となっているのか、あるいはそれ以外の投資の対象なのかを一義的に区分することは困難であり、また、投資判断プロセスの中でESGの要素がどのように寄与したのかについても外部から窺い知ることは不可能に近い。ESG投資の進展に伴い、ESG投資と従来の投資の境目がなくなってきているとも言える。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。

冒頭で指摘したとおりサステナブル投資のパフォーマンスに懸念を持つ機関投資家は増加しているものの、サステナブル投資そのものへの意欲が減退しているわけではない。シュローダーの調査結果からも見えてくるのは、投資家は「エビデンス」を求めているということだ。実際、本調査でも6 割の機関投資家が、「財務上の定量的エビデンスがあれば、サステナブル投資をさらに進めたい」と回答している。サステナブル投資は単なるブームから「根拠」が求められるステージに入ったと言える。企業としては、財務上の定量的エビデンスの充実、信頼性のあるデータの情報公開に努める必要があろう。

2022/09/09 パフォーマンスへの懸念とともに浮かび上がるサステナブル投資の課題

ESG投資サステナブル投資(以下、まとめて「サステナブル投資」という)を行ってきた機関投資家の間でパフォーマンスへの懸念が広がっている。・・・

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。
サステナブル投資 : エネルギー資源の利用、温室効果ガス排出、生物多様性、循環型経済など、「環境」に貢献する経済活動への投資、および、不平等解消や社会の結束を促進するなど「社会」目的に貢献する経済活動への投資の総称。また、投資先企業が優れたガバナンスを実践していることもサステナブル投資の条件とされている。

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2022/09/08 伊藤レポート3.0が示す未来、「SX」で稼ぐ時代に

日本でもSDGsの考え方が相当に普及してきた。それに伴い、上場企業では、企業価値を長期的かつ持続的に向上させるためには、サステナビリティ(持続可能性)への配慮が必要不可欠であることが強く意識されるようになりつつある。ただ、一口にサステナビリティと言っても、その主体によって「企業自身のサステナビリティ」と「社会全体のサステナビリティ」に分けて考える必要がある。そして、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの両者が整合的でなければ、いずれかが達成しえなくなることから、2つのサステナビリティは「同期化」させなければならない。この同期化のために必要な経営・事業の変革(トランスフォーメーション)が、最近耳にすることが増えた「サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)」だ。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

こうした中、経済産業省は2021年5月、伊藤レポートで知られる伊藤邦雄氏(一橋大学CFO教育研究センター長)を座長として「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会」(SX研究会)を立ち上げ、SXの実現に向け、企業や投資家等に求められる取り組みを具体化させるための議論を1年以上にわたり重ねてきたが、2022年8月30日、その結果を「伊藤レポート3.0」として公表している。

周知のとおり、伊藤レポートの第一弾は2014年に公表され、上場企業に資本コストを上回るROEの達成、とりわけグローバルな投資家と対話する上場企業にとっての“最低ライン”として、8%を上回るROEへのコミットを求めた。また、同レポートの第二弾は、競争優位・イノベーションの源泉としての「無形資産投資」やESGへの対応の重要性を訴えるものとなっている。今回公表された「伊藤レポート3.0」は、それらのレポートの延長上に位置する。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率

「伊藤レポート3.0」のポイントを一言でまとめれば、・・・

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2022/09/08 伊藤レポート3.0が示す未来、「SX」で稼ぐ時代に(会員限定)

日本でもSDGsの考え方が相当に普及してきた。それに伴い、上場企業では、企業価値を長期的かつ持続的に向上させるためには、サステナビリティ(持続可能性)への配慮が必要不可欠であることが強く意識されるようになりつつある。ただ、一口にサステナビリティと言っても、その主体によって「企業自身のサステナビリティ」と「社会全体のサステナビリティ」に分けて考える必要がある。そして、企業のサステナビリティと社会のサステナビリティの両者が整合的でなければ、いずれかが達成しえなくなることから、2つのサステナビリティは「同期化」させなければならない。この同期化のために必要な経営・事業の変革(トランスフォーメーション)が、最近耳にすることが増えた「サステナビリティ・トランスフォーメーション(以下、SX)」だ。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

こうした中、経済産業省は2021年5月、伊藤レポートで知られる伊藤邦雄氏(一橋大学CFO教育研究センター長)を座長として「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会」(SX研究会)を立ち上げ、SXの実現に向け、企業や投資家等に求められる取り組みを具体化させるための議論を1年以上にわたり重ねてきたが、2022年8月30日、その結果を「伊藤レポート3.0」として公表している。

周知のとおり、伊藤レポートの第一弾は2014年に公表され、上場企業に資本コストを上回るROEの達成、とりわけグローバルな投資家と対話する上場企業にとっての“最低ライン”として、8%を上回るROEへのコミットを求めた。また、同レポートの第二弾は、競争優位・イノベーションの源泉としての「無形資産投資」やESGへの対応の重要性を訴えるものとなっている。今回公表された「伊藤レポート3.0」は、それらのレポートの延長上に位置する。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率

「伊藤レポート3.0」のポイントを一言でまとめれば、「SXの実践が、これからの企業の“稼ぎ方”の本流になる」ということに尽きる。これは、一昔前の「植林をしています」といった企業イメージ優先の“稼がない”サステナビリティではなく、ビジネスとしてのサステナビリティに取り組むべきというメッセージと言える。

そして、SXを実践するために、まず企業に①社会のサステナビリティを踏まえた自社の「目指す姿」を明確化することを求め、そのうえで②長期価値創造を実現するための戦略と、投資家等との長期目線の対話に基づく自社固有の価値創造ストーリーを構築し、さらに③長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと実質的な対話を通じ、それらの更なるブラッシュアップを図るべきとしている。

SXは一企業の努力だけでは達成しようがなく、バリューチェーン全体(大企業だけでなく中堅・中小企業やスタートアップを含む)やインベストメントチェーン上の多様なプレイヤー(運用機関・アセットオーナー、証券アナリスト、ESG評価機関など)も含め、ステークホルダー全体で推進していく必要がある。SXの実現に向けた経営の強化、効果的な情報開示や建設的な対話を行うためのフレームワークあるいは共通言語として有用なツールが価値協創ガイダンスであり(「価値協創ガイダンス」については2018年5月18日のニュース『統合報告書の「質」向上へ 経産省が新たな取り組み』および【2018年1月の課題】投資家が評価する実効的なコーポレートガバナンスを参照)、同ガイダンスも伊藤レポート3.0の公表に伴い改訂されている(価値協創ガイダンス2.0はこちら。なお、価値協創ガイダンスの改訂内容の詳細は近く当フォーラムのニュースでもお伝えする)。

バリューチェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値が生み出されるという一連の流れのこと。
インベストメントチェーン : 受益者から投資先企業へと向かう投資資金の流れのこと。

とはいえ、「サステナビリティ課題の多くは、これまで経済的合理性が見出せなかったからこそ取り残されてきた課題であり、これらの課題解決を通じて利益を創出することは、本来的には困難を伴うもの」(伊藤レポート3.0の7ページ)である。そこで伊藤レポート3.0は、「インベンション(技術革新・発明)のみならず、イノベーション(革新的な価値創造)の実現により、課題解決と経済的合理性との両立を可能とするビジネスモデルの構築が重要」(伊藤レポート3.0の7ページ)であること強調している。ただし、伊藤レポート3.0は、「社会のサステナビリティに関する課題は社会共通の課題であることから、セクター内の企業で共通なものとなりがちであり(ハーディング)、各企業の行動が共通化し、独自性を発揮しづらくなることによって、利益の取り合い(レッドオーシャン)に陥る危険性も大きい」と警鐘を鳴らしている。昨今の電気自動車を巡る競争の激化などは、まさにその典型であろう。

ハーディング : 集団から外れたくないという心理から、たとえ非合理的な判断に基づく行動であったとしても、周りに同調したり他人の行動に追随したりする傾向のこと。その結果、集団として間違った方向に進んでしまうことがあり、リーマン・ショックもハーディング現象の一つとされる。
レッドオーシャン : 既に多くの企業や個人がひしめき合う、競争状態にある市場のこと。これに対し、競争相手がいない、あるいは、いても少ない未開拓市場のことをブルーオーシャンという。

以上をまとめたものが下図である(【参考資料】伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0の概要の2ページ目より引用)。
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上場企業においては今後、投資家や株主から「自社のSXについての考え方」を問われる機会が増えることが予想される。その場合、長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつながる自社なりのSXへの道筋を検討しておかなければ、投資家や株主への答えに窮することになるだろう。そのような事態を避けるためにも、上場企業の役員としては、まずは上の図と照らし合わせながら伊藤レポート3.0を通読したうえで、自社のSXについて早急に検討を開始したい。

2022/09/07 男性育休取得率アップの切り札になる可能性 「出生時休制度」が来月から施行

当フォーラムがいち早く報じていたとおり、2023年3月期に係る有価証券報告書から「男性の育休取得率」の開示を義務付けるべく年内にも開示府令が改正されることが確実となっている(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」、2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」参照)。当フォーラムの取材によると、開示府令の改正案は今月中にも公表される見込みだ。

こうした中、男性の育児休業取得を促進するため育児・介護休業法の改正により「出生時(しゅっしょうじ)育児休業」と呼ばれる制度()が創設され、来月(2022年10月)1日から施行される。同制度は、「産休を取らない労働者が子の出生後8週間以内に最大4週間(予めまとめて申し出ることにより、分割して2回まで取得可)休業できる」というもの。従来の「育児休業」と異なり、「休業期間中に就業させられる」という点が最大の特徴となっている。これには、仕事を理由に育児休業の取得をためらっている労働者(特に男性)が育児休業を取得しやすくする狙いがある。

 ちなみに、出生時育児休業制度を“産後パパ育休”あるいは“男性版産休”と呼ぶ例が厚生労働省のパンフレットなどでも見受けられるが、養子縁組をした場合など、自らが産休を取らない女性も同制度を利用することができる。したがって、同制度に合わせ就業規則や育児・介護休業規程等を改定する際には、用語の選択に気を付けたい。

ただし、休業中に就業させることができるとはいえ、その場合には様々な制約がある。まず、・・・

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2022/09/07 男性育休取得率アップの切り札になる可能性 「出生時休制度」が来月から施行(会員限定)

当フォーラムがいち早く報じていたとおり、2023年3月期に係る有価証券報告書から「男性の育休取得率」の開示を義務付けるべく年内にも開示府令が改正されることが確実となっている(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」、2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」参照)。当フォーラムの取材によると、開示府令の改正案は今月中にも公表される見込みだ。

こうした中、男性の育児休業取得を促進するため育児・介護休業法の改正により「出生時(しゅっしょうじ)育児休業」と呼ばれる制度()が創設され、来月(2022年10月)1日から施行される。同制度は、「産休を取らない労働者が子の出生後8週間以内に最大4週間(予めまとめて申し出ることにより、分割して2回まで取得可)休業できる」というもの。従来の「育児休業」と異なり、「休業期間中に就業させられる」という点が最大の特徴となっている。これには、仕事を理由に育児休業の取得をためらっている労働者(特に男性)が育児休業を取得しやすくする狙いがある。

 ちなみに、出生時育児休業制度を“産後パパ育休”あるいは“男性版産休”と呼ぶ例が厚生労働省のパンフレットなどでも見受けられるが、養子縁組をした場合など、自らが産休を取らない女性も同制度を利用することができる。したがって、同制度に合わせ就業規則や育児・介護休業規程等を改定する際には、用語の選択に気を付けたい。

ただし、休業中に就業させることができるとはいえ、その場合には様々な制約がある。まず、就業日数の合計は、出生時育児休業期間の所定労働日数の「半分以下」でなければならない。また、就業日の労働時間数は所定労働時間数に満たないものとする必要がある。当然ながら、残業させることはできない。手続き面等の留意点は下記のとおり。

所定労働時間 : 労働者が働くこととなっている時間のこと。通常は、就業規則や雇用契約書に記載されている始業時間から終業時間までの時間から休憩時間を差し引いた時間のことをいう。例えば始業時間が午前9時、終業時間が午後7時、休憩時間が1時間であれば、所定労働時間は「7時間」となる。労働時間の限度を意味する「法定労働時間」とは異なる。

労使協定の締結が必要(労基署への届け出は不要)
・ 就業させる場合の手順
(1) 労働者本人から就業できる旨とその条件を申し出る
(2) 事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示する
(3) その提示内容に労働者が同意した場合に就労可能となる

労使協定 : 労働者と使用者との間の合意のこと。労使協定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合には当該労働組合と使用者、そのような労働組合がない場合には、当該事業場の労働者の過半数を代表する労働者と使用者の間で「書面」により締結する必要がある。また、労働基準法上、労使協定は「事業場ごと」に締結することとされているため、事務所や工場等が2か所以上ある場合には、各事務所、工場等ごとに締結する必要がある。労働基準法の36条に基づくいわゆる“サブロク協定”も労使協定の一つである。

労働者側が注意すべき点として、雇用保険制度の育児休業給付金を受けるには、休業中の就業日数が10日(休業28日の場合。休業が28日未満の場合はその日数に比例して減少)以下でなければならない。また、社会保険料は、「その月の末日が休業期間中である場合」または「同月内に14日以上休業した場合」に免除されることになる。

育児休業給付金 : 育児休業中の労働者に支給される給付金。育児休業が始まってからおよそ2カ月に1回支給される。育児休業給付金は夫婦同時に申請・取得してもそれぞれに支給される。ただし、母親と父親では支給期間が異なり、母親は「産後休業期間(産後8週間以内)が終了した翌日から子どもの1歳の誕生日前日まで」、父親は「子どもの出生当日から1歳の誕生日の前日までの」とされている。なお、支給期間は、延長が必要な場合は一定の要件を満たせば延長が可能となる。

このように休業中の就業を前提とした出生時育児休業制度は、男性が育児休業を取得できない理由となっていた「長期間仕事を離れることが困難」というボトルネックを解消する可能性がある日本企業の労働実態に合った制度と言える。有価証券報告書での開示が求められることが既定路線となっている男性の育休取得率アップに向け、上述の制約等に留意しながら積極的に活用したいところだ。

なお、出生時育児休業制度の施行に伴い、「子の出生後8週間以内に育児休業を取得した場合には、特別な事情がなくても別途2回目の育児休業を取得できる」という育児休業の特例(通称“パパ休暇”)は廃止される。

2022/09/06 人的資本開示、現時点における「インプット」「アウトカム」の開示事例

2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの再改訂により、補充原則3-1③において、経営戦略に関連する人的資本への投資や、多様性の確保に向けた方針とその実施状況の開示が盛り込まれた。

その実施状況の開示が盛り込まれたことを受け、金融庁の金融審議会が2022年6月13日に公表した『ディスクロージャーワーキング・グループ報告」-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-』(以下、DWG報告)では、投資判断に必要な情報として、「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」を開示すべきこととし、この方針と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況を、サステナビリティ情報の記載欄の「指標と目標」の枠における開示項目とすべきことが提言されたところだ(DWG報告14ページ参照)。

ただ、この人的資本の開示で求められる測定可能な指標(インプット、アウトカム)への理解はまだ十分に進んでいるとは言い難い。そこで当フォーラムが直近の有価証券報告書について、人的資本に関するインプット、アウトカムの開示状況を調査したところ、開示を行っている企業を確認することはできなかった。ただし、TOPIX100銘柄の統合報告書を調査したところ、以下の開示事例が確認された。・・・

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2022/09/06 人的資本開示、現時点における「インプット」「アウトカム」の開示事例(会員限定)

2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの再改訂により、補充原則3-1③において、経営戦略に関連する人的資本への投資や、多様性の確保に向けた方針とその実施状況の開示が盛り込まれた。

その実施状況の開示が盛り込まれたことを受け、金融庁の金融審議会が2022年6月13日に公表した『ディスクロージャーワーキング・グループ報告」-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-』(以下、DWG報告)では、投資判断に必要な情報として、「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」を開示すべきこととし、この方針と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況を、サステナビリティ情報の記載欄の「指標と目標」の枠における開示項目とすべきことが提言されたところだ(DWG報告14ページ参照)。

ただ、この人的資本の開示で求められる測定可能な指標(インプット、アウトカム)への理解はまだ十分に進んでいるとは言い難い。そこで当フォーラムが直近の有価証券報告書について、人的資本に関するインプット、アウトカムの開示状況を調査したところ、開示を行っている企業を確認することはできなかった。ただし、TOPIX100銘柄の統合報告書を調査したところ、以下の開示事例が確認された。統合報告書においても測定可能な(≒定量的な)指標を開示している企業は少ない。統合報告といった任意開示でも未だ実務は定まっていないと言えよう。

(注1)測定可能な指標のみを記載している。
(注2)同種と思われる指標を同色で網掛けした。
社名 インプット アウトカム
BIPROGY
(旧 日本ユニシス)
・従業員数
人的資本投資額
女性管理職比率
・エンジニア数
1人あたり営業利益
有給休暇取得率
塩野義製薬 ・経営理念に共感する従業員 
教育研修費
・将来の組織長人材プール 
・経営理念に共感する従業員
自己投資支援額
ワークライフバランスの実現
(育児休業取得率)

・人材プールからの組織長への登用数
・従業員主導プログラム「やりたいねん!」からの 新規事業立ち上げ
女性マネジャー比率

測定可能な指標は、業種のほか、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」等により異なることになる。その一例として、BIPROGYは女性管理職比率を「インプット」としているが、塩野義製薬は女性マネジャー比率を「アウトカム」としており、おおむね同じ内容を意味する指標について取扱いの差異が見られた。そのほか、両社が開示している指標自体の相違も目に付く。

アウトカムとは「組織の事業活動とアウトプットの結果としてもたらされる資本の内部的及び外部的な正と負の影響」を意味することからすると、女性管理職比率の引上げ、教育研修された従業員をインプットとし、製品、サービスといったアウトプットを生み出した結果、従業員1人当たり利益が増えた、有給休暇が増えたといったアウトカムがもたらされたといった“価値創造ストーリー”が典型的な開示例になるものと考えられる。

内閣官房が2022年6月に公表した「人的資本」可視化の指針案(人的資本可視化指針(案))では、人的資本に関するインプットとアウトカムの例が示されているので参考にしたい。

インプット >アウトカム
中途採用人数
研修項目別の社員参加 総時間(延べ時間)
社員一人当たり研修投資額
健康増進プログラムへの参加率
社員一人当たり営業利益

DWG報告では、「人材育成方針」「社内環境整備方針」と整合的で測定可能なインプット・アウトカムについて「具体的にどのような指標を公表するかについては、まずは、企業の業態や経営環境等を踏まえて企業が判断することになるが、将来的には、比較可能性の観点から、指標についての検討をSSBJに委ねることも考えられる」とされており、今後のSSBJ(SSBJ設立の経緯については2021年9月28日のニュース『気候変動など非財務の「開示基準」の行方』参照)の議論を注視する必要がありそうだ。

SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。


 


 


 

2022/09/05 米国における「PVP開示」の強化と日本企業の役員報酬制度改革

米国では、報酬と業績の相関(Pay Versus Performance(PVP)と呼ばれる)についての開示が強化されることになった(2022年8月25日付の米国証券取引委員会(SEC)のリリースはこちら)。米国の経営者報酬というと、報酬額そのものの多寡が注目されがちだが、報酬とパフォーマンスが整合している限りにおいては、株主・投資家は必ずしも高額報酬に対し否定的ではない。この点からすると、米国の株主・投資家は、報酬を企業のバリューアップを実現するための“ツール”と捉えていると言える。

一方、日本ではどうだろうか。報酬委員会、その委員である社外取締役、そして委員会事務局などは、役員報酬改革を通じて本当に経営陣(とりわけCEO)を継続的に鼓舞できているのか、また、多くの日本企業のPBRが1倍割れの状況にある(令和4年4月 経済産業省・経済産業政策局「グローバル競争で勝ちきる企業群の創出について」2ページ参照)中、これまで取り組んできた報酬改革が自社のバリューアップを後押しする仕組みとなっているのか、改めて検証する必要がある。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

一見すると、役員報酬改革を行う企業の急増とともに、報酬委員会での活発な議論や機関投資家とのエンゲージメントなど、役員報酬を巡る意思決定は従来のブラックボックス的な運用から、より健全なものへと変貌を遂げているように見える。ところが、よくよく各社の役員報酬改革の内容を分析してみると、日本的な“悪い癖”が出ているように感じられる。日本企業にありがちな役員報酬改革の例を挙げると、・・・

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