2022/08/18 気候変動と同じ道を歩む「生物多様性」、今年後半に国際的な目標設定も(会員限定)

金融庁は気候変動開示の義務化に向け、年内に開示府令を改正し、TCFDで全ての企業が開示することが望ましいとされている「ガバナンス」と「リスク管理」の開示を2023年3月期に係る有価証券報告書から義務化する方向だが(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」参照)、企業には気候変動にも深く関連する新たな情報開示義務化の足音が迫りつつある。それが、投資家が“気候変動の次”として注目する「生物多様性」だ。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築する国際組織であり、いわば“生物多様性版TCFD”と言えるTNFD(Task Force for Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース)は既に昨年(2021年)6月4日に発足している(2021年6月9日のニュース「TCFDを補完するTNFDがついに発足、“自然環境開示”への流れ加速」参照)。現在、開示フレームワークの草案が市中協議に付されており、2023年9月には同フレームワークが公表される予定だ。このフレームワークが固まれば、気候変動開示と同様、日本でも有価証券報告書での開示義務化という流れになる可能性は十分考えられる。

ESGの専門家でもない限り、気候変動に比べると、「生物多様性」と言われてもピンと来ないかも知れない。しかし、生物多様性の保全は、ESG投資家にとって気候変動対応に続く「E(環境)」の課題として強く認識されており、生物多様性を投資戦略に加える動きが加速している。人間の暮らしは、食料や水、気候の安定、多様な生物が関わり合う生態系によって支えられており、自然界のシステムが破綻すれば経済システムも崩壊することになるため、生物多様性の喪失は、あらゆる産業に深刻なダメージを与える。ESG投資家が生物多様性に大きな関心を持っているのも、生物多様性の喪失が社会全体に与える長期的なシステミック・リスクを感じているからに他ならない。オランダの大手アセットマネジメント会社Robecoが世界の機関投資家を対象に調査を実施したところ、生物多様性を投資方針の重要な要素と考える投資家が2年前に比べ倍増している(ロベコが公表している「2022 GLOBAL CLIMATE SURVEY」12ページ参照)。

ESG投資家 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資する投資家のこと。
システミック・リスク : 個別の金融機関の支払不能等や、特定の市場または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に波及するリスクのこと。

実際、地球上の種の絶滅スピードは、人間の活動による影響が主な原因となり非常に速いペースで進んでおり、多くの生物が存亡の危機に瀕している。例えば、既に周知されつつあるように、パーム油の生産は熱帯雨林の破壊や野生動物の絶滅など生物多様性の喪失に深刻な影響を与えることが分かっており、また、パーム油生産のための泥炭地開発やそれによって引き起こされる森林火災がもたらす温暖化効果ガス排出により気候変動への影響も大きい。そのため、ESG投資ではパーム油関連産業を「投資対象外」とすることが多い。

このように、生物多様性は投資家に大きな課題として認識されている一方、そのリスクを測る手法は未だ発展途上段階にある。気候変動でも同様の問題が指摘されているが、多くの投資家は、生物多様性の財務的影響の把握が困難であることや、データ、情報開示の不足に不満を抱いている。

こうした中、TNFDの創設メンバーとして生物多様性問題において中心的な役割を果たしてきたフランスの大手保険会社AXAは、TNFDで開発中の評価手法を使って、自社の投資先企業の活動による生物多様性の喪失規模を測定した。これにより、「気候変動」「土地利用」「大気汚染」「水質汚染」の4分野における影響規模を、ポートフォリオ単位・産業単位で定量的に把握することができたという。AXAは今後、この評価手法を実用化に向けて改良していくとしている。

また、上述のオランダの大手アセットマネジメント会社Robecoも生物多様性について評価を行っている。その結果、同社の運用資産全体の25%が水資源などの生態系に強く依存しており、干ばつ等による被害を受けるリスクが高いこと、また、約30%は農業・林業など生物多様性喪失の原因となる産業に属しており、今後の規制強化等による 移行リスクに晒されていることが分かったという。今年(2022年)後半には、土地利用、水ネットワーク、海洋システム、食品等のトレーサビリティに関する テーマ投資を開始する予定であり、最終的には、ポートフォリオ全体に生物多様性の課題を考慮する“生物多様性運用戦略”の導入も予定している。

移行リスク : ここでは、生物多様性保全経済への移行に伴うリスクを指す。例えば、既存製品/サービスのの置換、生物多様性保全技術の開発コストの発生、原材料コストの高騰、消費者の嗜好変化、特定のセクターへの非難など。
トレーサビリティ : 近年の製品の安全性、品質に対する意識の高まりを踏まえ、その製品がいつ、どこで、誰によって、どのように作られたのかを明らかにするため、原材料の調達から生産、消費・廃棄までを追跡可能な状態にすること。対象は食品に限らず、医薬品や電子機器など幅広い分野に及ぶ。
テーマ投資 : 特定のテーマ(材料)に関連する企業を一括りとして投資する手法。テーマとしては、例えば環境、社会問題、新技術やなどが挙げられる。あくまで「テーマ」を切り口にしているため、対象企業は必ずしも同業種とは限らない。あるテーマに関連する企業の株価が上昇すると、そのテーマに関連する他の企業の取引も活発になり、同じように株価が上昇するケースが少なくない。

TCFDに倣ってTNFDが立ち上げられたように、生物多様性への国際的な取り組みは気候変動対策と同じ道を歩む可能性が高い。今年(2022年)後半には、コロナ禍で延期(オンラインでは2021年に開催)となっていた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)がカナダで開催される予定となっている。金融業界は、このCOP15で科学的根拠に基づいた具体的な目標を定めるようロビー活動を行っており、もし目標設定に成功すれば、各国政府や産業界の取り組みが促進されるとともに、生物多様性関連のESG投資も拡大することが予想される。2022年が“生物多様性元年”となる可能性もあろう。

2022/08/17 野村アセット、気候変動問題に関する株主提出議案には相当の必要性が認められない限り反対のスタンス

国内機関投資家が、2022年6月の株主総会における議決権行使結果の個別開示を続々と開始している。8月末までには主な国内期間投資家の個別開示が出揃う見通しだ。上場会社各社は個別開示の内容を自社の賛否状況と照合することで、当面のエンゲージメント活動などSR戦略、さらには来年の総会対応に活用できる。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。

国内機関投資家の個別開示の中でまず注目されるのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/08/17 野村アセット、気候変動問題に関する株主提出議案には相当の必要性が認められない限り反対のスタンス(会員限定)

国内機関投資家が、2022年6月の株主総会における議決権行使結果の個別開示を続々と開始している。8月末までには主な国内期間投資家の個別開示が出揃う見通しだ。上場会社各社は個別開示の内容を自社の賛否状況と照合することで、当面のエンゲージメント活動などSR戦略、さらには来年の総会対応に活用できる。

SR : Shareholder Relations の略で、「株主向け広報」と訳される。株主を含む広く投資家全般に対する広報活動を「IR」 (Investor Relations) と呼ぶのに対し、SR活動とは、企業と株主との信頼関係を築くための活動を指す。

国内機関投資家の個別開示の中でまず注目されるのが、国内最大手の野村アセットマネジメントが7月中旬にリリースした「2022年4月~6月の議決権行使結果について」だ。同リリースは232ページにも及ぶボリュームとなっており、今年4~6月に株主総会を開催した1,706社の18,409議案(うち株主提案290議案)に対する議決権行使結果を報告している。

下表のとおり、野村アセットマネジメントは今回から、個別開示の概要を説明している「議決権行使結果の概況」に2つの項目を新設している。

※1 議案の種類別(取締役の選解任、剰余金の処分など)の賛成・反対・棄権・白紙委任の票数および反対比率を一覧表で示している。
※2 会社提出議案に反対した主な理由、株主提案議案に賛成した主な理由を説明。
※3 グループ会社である野村ホールディングス、野村総合研究所、野村不動産ホールディングスに対する議決権行使結果
2022年1月~3月 2022年4月~6月
1.会社提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数 1.会社提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数(※1)
2.株主提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数 2.株主提出議案に対する賛成・反対・棄権・白紙委任の議案件数(※1)
3.議決権行使結果の概況 3.議決権行使結果の概況(※2)
(該当なし) 4.気候変動問題に関する株主提出議案について(新設)
4.利益相反管理について 5.利益相反管理について(※3)
(該当なし) 6.個別議案ごとの議決権行使結果(新設)

新たな項目である「4.気候変動問題に関する株主提出議案について」では、三菱商事や三井住友フィナンシャルグループ、東京電力ホールディングスなどで提起された気候変動問題への対応を求める定款変更議案を取り上げて説明している。今回、野村アセットマネジメントが賛成票を投じた議案はなかったが、「以下に該当する場合は反対する方針」であるとして、下記の3つのケースを示している。定款は企業経営の基本方針であり、その変更は企業の活動を大きく制約することにつながるため、相当の必要性が認められない限りは反対するスタンスを明確にしたと言えるだろう。

●業務執行に具体的な制約を加える可能性のある内容を含んでいる場合
●過度に詳細な内容を含むため業務執行を制約する可能性がある場合
●提案の理由について、提案株主が説明責任を果たしていない場合

さらに、「一部の提案株主から定款の変更ではなく当該企業への勧告として判断して欲しいとの意向」が示されたことを報告している。これは、温暖化ガス排出量削減計画や役員報酬との関連性などを開示することを定款に規定するよう求める電源開発に対する株主提案を指すものと推測される。野村アセットマネジメントは、「議案が可決された場合の影響を十分に考慮する方針」であり、賛否結果に拘束力の伴わない勧告的決議として扱うことを否定している。提案株主としては 特別決議である定款変更議案が可決されることの難しさを意識したものと思われるが、過半数で決議される取締役選任議案を通じて主張することも可能であることを踏まえると、野村アセットマネジメントが提案株主の“本気度”に疑念を抱いた可能性は十分にありそうだ。

特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。例えば定款変更、事業譲渡、株式の募集、取締役会の途中解任などにはこの特別決議が必要である。

「6.個別議案ごとの議決権行使結果」においては、「特に説明を要する議案」が含まれている会社を抽出し、個別開示の一覧表で賛否判断の理由を詳細に説明しているとした。一般的な理由による反対の場合、例えば「独立性に関する当社基準を満たさないため」「社外取締役の人数・比率が当社基準を充たさないため」など、別途開示している議決権行使基準を参照することを求めている。一方で、個別判断を要した議案があった31社(利益相反管理を要する上表の※3の3社を含む)については、下表の例をはじめ踏み込んだ判断内容を開示している。これらの内容には、機関投資家としての野村アセットマネジメントの考え方・スタンスが反映されており、上場会社にとっては他の機関投資家対策としても大いに参考になるだろう。

  企業名 議案分類 賛否・理由
会社提案 日揮ホールディングス 取締役の選解任 ROEが低迷しており当社基準を充たさないものの、国内外の同業他社に比べるとROE等の財務指標の悪化を抑えられていることを考慮し、賛成しました。
ソニーグループ 役員報酬 株式報酬の期間に関する当社基準を満たさないものの、経営陣への支給について当社基準を充たすこと、従業員への支給について必要性が確認されることから賛成しました。
株主提案 電源開発 定款に関する議案 気候変動問題に対する取り組みの開示に関する定款変更を求める議案。中長期的な企業価値に対する気候変動問題の重要性には同意するものの、業務執行に具体的な制約を加える可能性のある内容を含んでおり定款への記載は妥当でないと判断し、当社基準に則り反対しました。

2022/08/15 上場会社役員ガバナンスフォーラム会員には割引特典 JCGRがコーポレートガバナンス関連実務セミナー の参加者を募集しています。

JCGRがコーポレートガバナンスに関する業務の担当者を主な対象とする「コーポレートガバナンス周辺科目講座」を9月より開催します。JCGRのご厚意により、上場会社役員ガバナンスフォーラム会員の皆様は参加費が割引になります。詳細はこちら(ログイン後にクリックしてください。会員の方がログイン前にクリックした場合、いったんマイページに遷移しますのでご留意ください)。

2022/08/09 WEBセミナー「CGSガイドラインの改訂について」配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2022年8月9日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講 師
CGSガイドラインの改訂について 経済産業省
経済産業政策局 産業組織課 課長
安藤 元太(あんどう げんた)様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
コーポレートガバナンス・コードを実践するための実務指針として企業や機関投資家の間で定着している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の3回目となる改訂が行われ、2022年7月19日に確定版が公表されました。今回の改訂により、CGSガイドラインは改訂前の53ページと比べ2倍近くとなる95ページ(本文のみ)となっており、今回の改訂の規模の大きさがうかがえるところです。
本セミナーでは、CGSガイドラインは改訂を主導した経済産業省経済産業政策局 産業組織課の安藤元太課長に、今回の改訂の重要論点である執行と監督の関係、執行の機能強化、投資家株主からの取締役選任、社外取締役の評価、社外取締役の報酬、幹部候補人材向けの自社株報酬などについて解説していただきます。
講師の
ご紹介
安藤 元太(あんどう げんた)様
経済産業省 経済産業政策局 産業組織課 課長
コーポレートガバナンス改革や組織再編・役員報酬に係る税制の整備に関わる。
2004年経済産業省入省。経済産業政策局産業構造課、製造産業局日用品室、大臣官房総務課を経て、米・コロンビア大学留学。2012年から資源エネルギー庁で電力システム改革を担当し、電力・ガス取引監視等委員会における電力市場の監視行政の立ち上げを経て、2016年から現職。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/64040/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/RkiNCiQLtpp6TCZy8

<収録月>
2022年8月

<収録時間>
62分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2022/08/09 【WEBセミナー】『CGSガイドラインの改訂について』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2022年8月9日

コーポレートガバナンス・コードを実践するための実務指針として企業や機関投資家の間で定着している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の3回目となる改訂が行われ、2022年7月19日に確定版が公表されました。今回の改訂により、CGSガイドラインは改訂前の53ページと比べ2倍近くとなる95ページ(本文のみ)となっており、今回の改訂の規模の大きさがうかがえるところです。
本セミナーでは、CGSガイドラインは改訂を主導した経済産業省経済産業政策局 産業組織課の安藤元太課長に、今回の改訂の重要論点である執行と監督の関係、執行の機能強化、投資家株主からの取締役選任、社外取締役の評価、社外取締役の報酬、幹部候補人材向けの自社株報酬などについて解説していただきます。

【講師】
経済産業省経済産業政策局 産業組織課 課長
安藤 元太(あんどう げんた)様

セミナー資料 CGSガイドラインの改訂について.pdf
セミナー動画

CGSガイドラインの改訂について

64043

本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2022/08/09 WEBセミナー「CGSガイドラインの改訂について」(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2022年8月9日

コーポレートガバナンス・コードを実践するための実務指針として企業や機関投資家の間で定着している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」の3回目となる改訂が行われ、2022年7月19日に確定版が公表されました。今回の改訂により、CGSガイドラインは改訂前の53ページと比べ2倍近くとなる95ページ(本文のみ)となっており、今回の改訂の規模の大きさがうかがえるところです。
本セミナーでは、CGSガイドラインは改訂を主導した経済産業省経済産業政策局 産業組織課の安藤元太課長に、今回の改訂の重要論点である執行と監督の関係、執行の機能強化、投資家株主からの取締役選任、社外取締役の評価、社外取締役の報酬、幹部候補人材向けの自社株報酬などについて解説していただきます。

【講師】
経済産業省経済産業政策局 産業組織課 課長
安藤 元太(あんどう げんた)様

セミナー資料 CGSガイドラインの改訂について.pdf
セミナー動画

CGSガイドラインの改訂について

単に動画を閲覧しただけではマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されません。下の「所感登録画面へ」ボタンを押し遷移する画面の右側の「登録」ボタンを押し下げすることではじめてマイ研修レポートの「閲覧」記録に反映されます。「登録」にあたっては、本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)などをぜひご記入ください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録

2022/08/09 市場区分見直しから4か月、見えてきた市場ごとの課題

今年(2022年)の4月4日に東証の新市場区分がスタートしてから4か月が経過する中、プライム、スタンダード、グロースの各市場が抱える課題が見えて来た。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2022/08/09 市場区分見直しから4か月、見えてきた市場ごとの課題(会員限定)

今年(2022年)の4月4日に東証の新市場区分がスタートしてから4か月が経過する中、プライム、スタンダード、グロースの各市場が抱える課題が見えて来た。2022年7月29日に開催された第1回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)での議論やそこで示されたデータも参考にしながら、各市場の課題を整理してみよう(フォローアップ会議の位置付けやアジェンダなどについては2022年8月4日のニュース「東証が“フォローアップ会議”立ち上げ、メンバーの多くが経過措置の期限に言及」参照)。

プライム市場
東証によると、プライム市場に上場している1,838社のうち、時価総額が250億円未満の会社は4社に1社(463社)あり、また、適合計画を開示している262社の約9割(88%)にあたる230社が、時価総額250億円未満のゾーンに分布していることが分かった(2022年7月1日時点 以下同じ)。このゾーンに区分される上場会社はPBRが低く、理論上「解散価値」の方が高くなる“1倍割れ”が54%に上っている。フォローアップ会議の安藤メンバー(オムロン取締役)は、第1回のフォローアップ会議において「市場区分見直しの成果の発現を急ぐためには、(中略)PBR1倍割れの企業が多いことにメスを入れない限り意味がない」との考えを示している(第1回会議の議事録10ページを参照)。

適合計画 : 上場会社が、上場維持基準のいずれかに適合しない状態となった場合に提出を求められる「上場維持基準の適合に向けた計画」および「計画に基づく進捗状況」 を指す。「上場維持基準の適合に向けた計画」には、上場維持基準の適合状況、計画期間並びに上場維持基準の適合に向けた取組の基本方針、課題および取組内容を記載する。また、「計画に基づく進捗状況」には、上場維持基準の適合状況の推移および計画期間、取組の実施状況および評価、上記2つの項目を踏まえた今後の課題・取組内容を記載する。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

これらの会社の株価が低い理由としては、そもそもROEが低い(半数を超える会社が8%未満)ことが挙げられる。このため、投資家の目には魅力的な銘柄とは映っておらず、一日平均売買代金も1億円を切っていている(0.8億円)。また、時価総額250億円未満の会社の特徴として、外国人による株式保有比率が低いことが挙げられる。時価総額1,000億円以上の会社の6割超(63%)では、外国人の株式保有比率が20%以上となっているのに対し、時価総額250億円未満の会社では20%未満の会社が9割を超えている(93%)。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

それだけに、時価総額250億円未満の会社は英文開示にも積極的になりにくいと思われ、決算短信(65%)と株主総会招集通知(57%)以外の資料(IR説明会資料、CG報告書、有価証券報告書など)は手薄感が目に付き、CG報告書は5%、有価証券報告書は3%の英文開示率にとどまっている。英文開示率の低さと足並みをそろえるかのように、IFRS適用会社もわずか2%しかない。TCFD賛同率は、時価総額1,000億円以上の会社では66%に上るのに対し、時価総額250億円未満の会社では12%に過ぎない。翁メンバー(日本総合研究所 理事長)は「PBR1倍割れの企業が半数近く存在している状況をどうしていくか、また、グローバルな投資家との対話が中心というコミットメントをしている市場であるにも関わらず英文開示が十分でないこと、また、海外投資家の比率が低いことなどに強く問題意識を感じております。」と危機感をあらわにしている(第1回会議の議事録19ページを参照)。現在の状況が続いた場合、いずれ時価総額250億円未満の会社に対して「プライム市場の期待に応えられていない」といった厳しい声が高まることも予想される。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

適合計画を開示した262社のうち、流通株式時価総額基準(100億円以上)を満たせていない会社は217社あった。東証によると、これらのうち流通株式比率の引上げにより同基準に適合できると思われる会社もある一方、時価総額が小さいため流通株式比率の引上げだけでは同基準に適合でない会社も多いという。後者の会社は、流通株式比率を高めるだけでなく「稼ぐ力」をつけながら、外国人投資家を含む投資家との積極的な対話により、自社への理解を高めていく努力は必須となろう。

スタンダード市場
スタンダード市場には、プライム市場における時価総額1,000億円を超える銘柄に相当する市場の“牽引役”が特に存在しない。このため、プライム市場上場会社を時価総額で3つのゾーンに分けてみても、プライム市場のような明確な差は見えない(そもそも時価総額の区分も「100億円以上」「40億円以上100億円未満」「40億円未満」と近接している)。

スタンダード市場でまず目に付くのはPBR1倍割れの上場会社が64%とプライム市場を上回る高率となっている点だ。PBRの向上はプライム市場・スタンダード市場の双方に共通の課題と言えよう。

また、時価総額40億円未満の会社では、ROEの平均がマイナス4.8%となっており、赤字会社が多い。一日平均売買代金も0.2億円とグロース市場における時価総額40億円未満の会社の0.9億円をさらに下回っており、流動性に問題を抱えている。この状況を脱するには、各社の経営陣が思い切った戦略を打ち出し、事業の再構築を図っていくことも選択肢になろう。

なお、英文開示の実施率はスタンダード市場全体で21%と低いが、グローバルな投資家との対話を中心に見据えたプライム市場とは位置付けが異なることに加え、そもそも外国人保有率が低い(外国人保有率が10%未満の会社の割合が市場全体で85%に達する)ことを考慮すると、この実施率はやむを得ないと言える。

グロース市場
グロース市場では、成長性への期待による株高の影響もありPBR1倍割れの会社は少ない。時価総額40億円未満の会社のROEが平均はマイナス10.2%となっているが、今後の成長可能性が評価されれば少なくともPBRが1倍を割ることはまずないということを示している。グロース市場には自己資本が少ない(=ROEの計算式(当期純利益/自己資本)上、分母が小さい)上場会社が多く、プライム市場よりもROEがブレやすい傾向にあることは割り引いて考える必要があるが、ROEよりも成長可能性が重視されるという点において。プライム市場およびスタンダード市場とは株価形成のロジックが異なっている。

とはいえ、グロース市場では上場後年数が長ければ長いほど投資家から成長可能性に疑義を抱かれやすい。一度「成長可能性」という“化けの皮”がはがれると、投資家から忘れられ、株価下落のスパイラルに陥ることになる。実際、上場後年数が10年以上の会社74社のうち、グロース市場の上場維持基準が求める時価総額(10年経過後40億円以上)の要件をクリアできず適合計画を開示している会社は18社(資料3-1 事務局説明資料の19ページ参照)に上っている。上場後年数が10年以上の会社に限ると、ROE平均はマイナス26.5%にまで落ち込んでいるが、上場後年数10年以上というと、もはや成長よりも黒字化を求められるステージにある。グロース市場で、「成長可能性がある」と言い続けながらそれを長年実現できていない会社は、「これ以上グロース市場に残り続けることの意味」を真剣に検討すべきだろう。

また、他市場に上場する会社も、第1回フォローアップ会議に提出された「資料3-3 事務局参考資料(上場会社データ)」に記載されている平均値と比較して、自社が改善すべき点を認識しておきたい。

2022/08/08 役員報酬開示の進展が企業にもたらした新たな負担と効果

有価証券報告書等で役員報酬の詳細な開示が進んだことにより、上場企業各社の役員報酬実務において新たに悩ましい問題が生じている。それは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は
ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから