2022/08/23 男女賃金格差開示に向け、無期契約社員の待遇の再考が必要になる可能性

周知のとおり、女性活躍推進法の改正により、2022年7月決算企業から常用労働者(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))数が301人以上規模の企業を対象に、①正規雇用労働者、②非正規雇用労働者、③全労働者(①+②)、それぞれについて、「終了した直近事業年度」における「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」の開示が求められることになった(2022年7月5日のニュース「7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声」参照)。また、2023年3月決算企業からは、有価証券報告書の【従業員の状況】でも「男女間賃金格差」の開示が義務化される方向となっている(2022年7月15日「女性活躍推進法の改正省令・告示が施行、有報における開示との関係と現行有報での開示状況」参照)。有価証券報告書での開示内容は「企業負担等の観点から、他の法律の定義や枠組みに従ったもの」とされていることから(2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」15ページの上から4行目参照)、改正女性活躍推進法と同様のものとなろう。

正規雇用労働者 : 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者
非正規雇用労働者 : パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者)および有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)

上記のとおり、男女賃金格差開示では、正規雇用労働者、非正規雇用労働者それぞれについて数値を明らかにする必要があるが、この数値に影響を与えかねないのが、・・・

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2022/08/23 男女賃金格差開示に向け、無期契約社員の待遇の再考が必要になる可能性(会員限定)

周知のとおり、女性活躍推進法の改正により、2022年7月決算企業から常用労働者(正規雇用労働者および非正規雇用労働者(派遣労働者を除く))数が301人以上規模の企業を対象に、①正規雇用労働者、②非正規雇用労働者、③全労働者(①+②)、それぞれについて、「終了した直近事業年度」における「男女の賃金の差異(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)」の開示が求められることになった(2022年7月5日のニュース「7月決算企業は来月から 女活法に基づく男女賃金格差開示、準備期間の短さに企業からは不満の声」参照)。また、2023年3月決算企業からは、有価証券報告書の【従業員の状況】でも「男女間賃金格差」の開示が義務化される方向となっている(2022年7月15日「女性活躍推進法の改正省令・告示が施行、有報における開示との関係と現行有報での開示状況」参照)。有価証券報告書での開示内容は「企業負担等の観点から、他の法律の定義や枠組みに従ったもの」とされていることから(2022年6月7日のニュース「DWG報告案、企業の負担増に配慮の跡」、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」15ページの上から4行目参照)、改正女性活躍推進法と同様のものとなろう。

正規雇用労働者 : 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者
非正規雇用労働者 : パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者(正規雇用労働者)に比べて短い労働者)および有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)

上記のとおり、男女賃金格差開示では、正規雇用労働者、非正規雇用労働者それぞれについて数値を明らかにする必要があるが、この数値に影響を与えかねないのが、無期契約社員(期間の定めのない社員)の扱いだ。非正規社員の活用に関する規制改革として2013年4月1日にスタートした改正労働契約法による「有期契約の無期転換ルール」では、同じ会社で有期労働契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みにより契約形態が「無期労働契約」に転換され、無期契約社員(期間の定めのない社員)になることとされている(労働契約法18条)。ここで注意しなければならないのが、「無期契約社員=正社員」とは限らないということだ。現行法では、「無期転換できる」ことを定めているものの、その後の労働条件をどうするかについては何ら定めを置いていない。したがって、無期労働契約に転換したからといって必ずしも「正社員」にする必要はなく、また、雇用期間だけを「無期」に変えて他の労働条件は従来と同じのままとしても問題ない。さらには、無期労働契約への転換と引き換えに労働条件の不利益変更を行うことも可能であり、実際、そのような事例は珍しくない。結局、当事者双方が納得のうえで合意するのであれば、法令に違反しない限り、労働条件は有利・不利のいずれの方にも変更できるということだ(労働契約法8条)。労働条件の不利益変更に関するトラブル事案の多くは、会社が就業規則を制定または改定して無期転換者に不利益な労働条件に変えたというケースにとどまっている(高松高判R1.7.8、大阪高判R3.7.9など)。

無期契約社員が「期間の定めなくフルタイム勤務する労働者」に該当すれば、男女賃金格差開示の算定上は「正規雇用労働者」の枠に入ることになると考えられるが、仮に無期契約社員が女性で、かつ正社員にはなっておらず待遇が正社員より低いという場合、男女賃金格差拡大の要因となりかねない。ただし、今後は無期転換の対象者に対する説明責任が強化される方向となっており、待遇改善を求める無期契約社員が増加することも予想される。厚生労働省に設置された「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」は今年3月30日、事業主に「5年を超えて有期雇用契約を締結することとなる労働者」に対し、無期雇用契約に転換できる旨を個別に通知することを求めている。同報告書の要請を受け同省の労働政策審議会(労働条件分科会)では、その通知を「無期転換後の労働条件を示して行う」とする方向で検討している。これが実現すれば、労働条件を変更する場合には、労働者に対し合理的な理由・事情を説明して理解を求める必要が出て来るだろう。ちなみに、無期転換の事例ではないが、労働条件の不利益変更に関し労働者から提出させた「同意書」を、会社からの説明が不十分であったことを理由に無効と判断した裁判例(最二判H28.2.19)もある。書面だけの形式的な合意では足りない点、留意したい。

男女賃金格差開示は、無期契約社員の正社員化、それに伴う職責、給与水準などを改めて考えさせることになりそうだ。

2022/08/22 役員報酬にESG指標を採用する日本企業が急増、「従業員エンゲージメント」も人気指標に

2021年12月21日のニュース「業績連動報酬におけるESG指標の普及状況と開示事例」でお伝えしたとおり、当フォーラムがTOPIX100を構成する2021年3月末決算企業の有価証券報告書(【役員報酬等】欄)を調査したところでは、ESG関連指標をインセンティブ報酬に反映している企業は20社(25%)と少数にとどまっていたが、1年で状況が一変していることが分かった。・・・

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2022/08/22 役員報酬にESG指標を採用する日本企業が急増、「従業員エンゲージメント」も人気指標に(会員限定)

2021年12月21日のニュース「業績連動報酬におけるESG指標の普及状況と開示事例」でお伝えしたとおり、当フォーラムがTOPIX100を構成する2021年3月末決算企業の有価証券報告書(【役員報酬等】欄)を調査したところでは、ESG関連指標をインセンティブ報酬に反映している企業は20社(25%)と少数にとどまっていたが、1年で状況が一変していることが分かった。

役員報酬コンサルティング等の分野における世界的権威として知られるウイリス・タワーズワトソン最新の調査によると、全TOPIX100構成企業のうち、2022年の役員のインセンティブ報酬に ESG指標を採用する企業は、同社の昨年の調査結果から倍増し、62%となった。同社による調査は、全ての決算期のTOPIX100構成企業について、有価証券報告書のみならず、株主総会資料、統合報告書等の開示資料も対象に行われているため、網羅性という点でも貴重なデータとなっている。62%という数字は、欧州主要インデックス構成企業327社の平均72%(※2021年の調査結果)には及ばないものの、米国のS&P500構成企業の60%(※同)を上回った。

S&P500 : アメリカの投資情報会社スタンダード&プアーズが選定した、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ、アメリカン証券取引所に上場する代表的な500社。

これまでも、ESG指標を役員報酬に反映することを検討する日本企業は少なからずあったが、どのような指標をいかにして評価すべきかとい問題や、ESG指標によって金額が決まる役員報酬は法人税法上、損金算入されないなどの問題から(【2022年2月の課題】非財務指標の役員報酬への組込み、2020年11月2日のニュース「ESG対応への評価を“賢く”株式報酬に組み込む手法」参照)、あまり普及してこなかった。ESG 指標を役員報酬に採用する企業の急増は、2023 年3月期の有価証券報告書からの適用が見込まれているESG 課題への取組状況等の開示義務付け(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」参照)を先取りした動きとも言えそうだ。

役員報酬(インセンティブ報酬)に反映するESG指標として、CO₂排出量、女性管理職比率などとともに、「従業員エンゲージメント」を選択する企業が目に付く(ウイリス・タワーズワトソンのリリースの3ページ「ESG 指標の具体的な事例」参照)。従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」を指し、組織の目指すゴールに対する「自発的貢献意欲」とも言い換えることができる。従業員エンゲージメントは「従業員満足度」と混同されがちだが、実は両者は大きく異なっている。所属する組織、職場の状況、上司、自身の仕事などについて、「従業員が自身の物差し」で評価をするのが従業員満足度であるのに対して、「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについての自分自身の理解度、共感度、行動意欲を評価するのが従業員エンゲージメントとされる(従業員エンゲージメントの説明はウイリス・タワーズワトソン『~この10年間、従業員意識調査の焦点はなぜ「エンゲージメント」なのか?~』より一部編集して引用)。 

従業員エンゲージメントを(役員報酬に反映させるために)どうやって数値化するのかという疑問も湧くところだが、多くの企業はこれを報酬・人事系コンサルティング会社に委託している。具体的には、従業員エンゲージメントに影響を与える要素(一般的には50~70項目程度)についてアンケート調査(回答は一般的には5段階評価)を実施し、好意的な回答の割合を分析・集計することによってスコア化を図ることになる。例えば荏原製作所はSDGsへの取り組みにおいて同社がマテリアリティ(重要課題)とする「人材の活躍促進」のための取り組みとして、2019年度から国内外グループ会社全従業員を対象に「グローバルエンゲージメントサーベイ」を実施し、従業員が会社や仕事についてどのように考えているのかを調査しており、2022年からはその調査結果を役員報酬のKPIの一つとして採用している。

<荏原のサステナビリティ「5つのマテリアリティ(重要課題)」の「マテリアリティ4. 人材の活躍促進」より抜粋>
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このほか、今回ウイリス・タワーズワトソンがリリースした調査結果では、TSR(株主総利回り)を役員報酬のKPIとして採用する企業が増加傾向にあることが指摘されている。2022年には、日本のトップ100社のうち4社に1社が採用しているという(経営者報酬・ボードアドバイザリー プラクティス ディレクター 宮川 正康氏のコメントの最終段落参照)。当フォーラムでも、TSRを業績連動指標の指標として採用している日本企業が欧米に比べ明らかに少ない問題は指摘したきたところだが(2021年11月24日のニュース「業績連動報酬に採用されている指標 欧米企業との違いは?」参照)、この状況もいよいよ改善に向かうことになりそうだ。

2022/08/20 【WEBセミナー】『コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2022年8月20日

2022年6月株主総会も終了し、上場会社各社においては、昨年6月に再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応がひとまず落ち着いた、というところも多いことと思われます。本セミナーでは、上場会社のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況等のフォローアップを担当している東京証券取引所 上場部 統括課長の加藤邦彦様をお招きし、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~」とのテーマで、再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの上場会社各社の対応状況について解説いただきます。具体的には、「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材の多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」といった切り口から、再改訂コード上の主要項目について概括的な対応状況を示していただいたうえで、そこから読み取れる示唆・考察、また、上場会社各社に今後期待している事項等をお伝えいただきます。

【講師】
東京証券取引所
上場部 企画グループ統括課長
加藤 邦彦(かとう くにひこ)様

セミナー資料 コーポレートガバナンス・コードへの対応状況.pdf
セミナー動画

コーポレートガバナンス・コードへの対応状況

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2022/08/20 WEBセミナー「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~」配信開始!

新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2022年8月20日(土)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講 師
コーポレートガバナンス・コードへの対応状況
~プライム市場向け原則を中心に~
東京証券取引所
上場部 企画グループ統括課長
加藤 邦彦(かとう くにひこ)様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
2022年6月株主総会も終了し、上場会社各社においては、昨年6月に再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応がひとまず落ち着いた、というところも多いことと思われます。本セミナーでは、上場会社のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況等のフォローアップを担当している東京証券取引所 上場部 統括課長の加藤邦彦様をお招きし、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 ~プライム市場向け原則等を中心に~」とのテーマで、再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの上場会社各社の対応状況について解説いただきます。具体的には、「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材の多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」といった切り口から、再改訂コード上の主要項目について概括的な対応状況を示していただいたうえで、そこから読み取れる示唆・考察、また、上場会社各社に今後期待している事項等をお伝えいただきます。
講師の
ご紹介
加藤 邦彦(かとう くにひこ)様
2000年4月に東京証券取引所に入社後、株式部門、上場部門における勤務、外務省経済局経済協力開発機構室への出向、清算決済部門、デリバティブ市場企画部門を経て、2022年4月から上場部 企画グループ統括課長(現職)。
外務省経済局への出向中には、経済協力開発機構(OECD)におけるコーポレート・ガバナンス・ステアリング・グループに参画し、OECDコーポレート・ガバナンス原則の普及・啓蒙活動に携わる。上場部門配属後は、コーポレートガバナンス・コードのフォローアップに係る取組みの企画・立案業務を担当。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/64107/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/QzJVtE5wivzAXUaN8

<収録月>
2022年8月

<収録時間>
64分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2022/08/20 WEBセミナー「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~」(会員限定)

概略

【WEBセミナー公開開始日】2022年8月20日

2022年6月株主総会も終了し、上場会社各社においては、昨年6月に再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの対応がひとまず落ち着いた、というところも多いことと思われます。本セミナーでは、上場会社のコーポレートガバナンス・コードへの対応状況等のフォローアップを担当している東京証券取引所 上場部 統括課長の加藤邦彦様をお招きし、「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況 ~プライム市場向け原則等を中心に」とのテーマで、再改訂されたコーポレートガバナンス・コードへの上場会社各社の対応状況について解説いただきます。具体的には、「取締役会の機能発揮」「企業の中核人材の多様性の確保」「サステナビリティを巡る課題への取組み」といった切り口から、再改訂コード上の主要項目について概括的な対応状況を示していただいたうえで、そこから読み取れる示唆・考察、また、上場会社各社に今後期待している事項等をお伝えいただきます。

【講師】
東京証券取引所
上場部 企画グループ統括課長
加藤 邦彦(かとう くにひこ)様

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2022/08/19 人的資本開示に悩む上場会社に経産省が助け舟、入会は今週水曜正午まで

会社を構成する「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、一朝一夕でそろえることが難しいのが「ヒト」だ。また、「ヒト」は会社の成⻑・収益⼒の源泉であるだけでなく、当然ながら社会の構成要素でもある。このため、会社の人材戦略には社会のサステナビリティを支えるという側面もあり、人材戦略は「サステナビリティ経営」の重要な一翼を担っているとも言える。

このように、人材戦略は会社の成⻑・収益⼒の源泉、サステナビリティ経営の実践という両面から投資家の注目を集めており、コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-4①補充原則3-1③では、人材戦略に関する目標や方針、実施状況などの開示を求めているところだ。

ただ、現状、人材戦略や人的資本関連の開示は有価証券報告書などの制度開示では十分に手当てされていない。政府・金融庁はその現状を変えるべく、2022年6月13日には金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループの報告書(以下、DWG報告書)を公表、これを受け年内に開示府令を改正し、2023年3月期の有価証券報告書から適用する方針であることは既報のとおりだ(2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』参照)。

DWG報告書が有価証券報告書で開示を求めている項目は下記のとおりとなっている(DWG報告書14ページ)。

(ⅰ)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする
(ⅱ)それぞれの企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする
(ⅲ)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする

上記(ⅰ)については、会社によって名称や内容の違いはあるにせよ何らかの「方針」はあるのが通常であるため、それをメンテナンスすることで対応できるケースが多いだろう。また(ⅲ)も、算定した値が業界平均を下回ることになれば採用活動や企業イメージの点で他社の後塵を拝しかねないというリスクはあるものの、会社にとっての負担という点では、算定した値を開示するだけの話に過ぎない。これに対し(ⅱ)は、「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定が必要となることから、こういった指標をKPIとして採用していない会社では、人材関連の多数の指標の中から自社に適したものを選定するのに手間取ることが予想される。こうした会社にとっては、・・・

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2022/08/19 人的資本開示に悩む上場会社に経産省が助け舟、入会は今週水曜正午まで(会員限定)

会社を構成する「ヒト」「モノ」「カネ」のうち、一朝一夕でそろえることが難しいのが「ヒト」だ。また、「ヒト」は会社の成⻑・収益⼒の源泉であるだけでなく、当然ながら社会の構成要素でもある。このため、会社の人材戦略には社会のサステナビリティを支えるという側面もあり、人材戦略は「サステナビリティ経営」の重要な一翼を担っているとも言える。

このように、人材戦略は会社の成⻑・収益⼒の源泉、サステナビリティ経営の実践という両面から投資家の注目を集めており、コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-4①補充原則3-1③では、人材戦略に関する目標や方針、実施状況などの開示を求めているところだ。

ただ、現状、人材戦略や人的資本関連の開示は有価証券報告書などの制度開示では十分に手当てされていない。政府・金融庁はその現状を変えるべく、2022年6月13日には金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループの報告書(以下、DWG報告書)を公表、これを受け年内に開示府令を改正し、2023年3月期の有価証券報告書から適用する方針であることは既報のとおりだ(2022年6月15日のニュース『有報での開示が見込まれる「男女間賃金格差」の解消に向けたステップ』参照)。

DWG報告書が有価証券報告書で開示を求めている項目は下記のとおりとなっている(DWG報告書14ページ)。

(ⅰ)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする
(ⅱ)それぞれの企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする
(ⅲ)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする

上記(ⅰ)については、会社によって名称や内容の違いはあるにせよ何らかの「方針」はあるのが通常であるため、それをメンテナンスすることで対応できるケースが多いだろう。また(ⅲ)も、算定した値が業界平均を下回ることになれば採用活動や企業イメージの点で他社の後塵を拝しかねないというリスクはあるものの、会社にとっての負担という点では、算定した値を開示するだけの話に過ぎない。これに対し(ⅱ)は、「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定が必要となることから、こういった指標をKPIとして採用していない会社では、人材関連の多数の指標の中から自社に適したものを選定するのに手間取ることが予想される。こうした会社にとっては、内閣官房に設置された非財務情報可視化研究会がとりまとめた「人的資本可視化指針(案)」(2022年6月29日から7月29日までパブリックコメントを募集)が参考になるだろう。これは、資本市場に向けた人的資本に関する情報開⽰のあり⽅に焦点を当て、会社の対応の⽅向性を包括的に整理した⼿引きであり、下記のとおり、ROICROEといった馴染みのある数式を分解し、人材関連のKPIとしてのインプットとアウトカムを導き出す手法が示されている。ROICやROEをベースに人材関連のKPIを導き出している理由として同指針は、「投資家がROEやROICといった資本効率や収益性を表す指標を重視していることを踏まえれば、例えば自社の人的資本への投資に関する戦略や取組と、ROEやROICなどの指標との関連性を吟味した上で開示事項を検討することは、それ自体人材戦略の検討において有益なアプローチである」ことを挙げている(人的資本可視化指針(案)の36ページ参照)。「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定に悩む上場会社にとっては参考になろう。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

64120a
64120b
人的資本可視化指針(案)では、「⼈材戦略に関する経営者の議論とコミットメント」と「社員との対話」を通じて構築した人材戦略を可視化するとともに、「投資家からのフィードバック」を踏まえてこれをさらに磨き上げていく、⼀連の循環的な取り組みの⼀環として人的資本の可視化に努めるべきとしている(人的資本可視化指針(案)の2ページ参照)。「方針」と整合的な人材関連のKPIをROICやROEと紐づけて説明することは、投資家との対話に資すると言えるだろう。

人的資本可視化指針(案)では、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略との関係性(統合的なストーリー)を描き出しながら、独⾃性と比較可能性のバランス、価値向上とリスクマネジメントの観点などを検討したうえで、有価証券報告書に新設が予定されるサステナビリティ情報の記載欄においても採用される見通しの「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの要素に沿って、自社の人材育成方針および社内環境整備方針(「戦略」)、これと整合的で測定可能な指標(インプット、アウトプット、アウトカム等)やその目標、進捗状況(「指標と目標」)を積極的に開示していくことが期待されるとしている(人的資本可視化指針(案)の41ページ)。

ただし、「人的資本可視化指針(案)」は「開示指針」ではないため、具体的な開示例を期待して読み進めると肩透かしを食らうことになる。また、同指針案は一般的な報告書形式ではなく、スライド形式による箇条書きでの説明となっており、非常に読みづらい。さらに、強調するための赤字が多すぎて何が重要なのかも分かりにくい。日本公認会計士協会もパブコメで「本指針案には、本文のほかにコラムや参考情報が混在しており、構成の全体像、全体の流れを掴みづらい。また、目次には存在する章立てが本指針案の文章中には存在せず、本文と参考はレイアウト上の違いも少ない。」と手厳しいコメントを寄せている(日本公認会計士協会の「人的資本可視化指針(案)」に対する意見の6ページ)。パブコメを経て公表される確定版では、体裁面の改善が期待されるところだ。

「人的資本可視化指針(案)」はこうした読みづらさに加え、「指針」という割には抽象的な記述が多いことから、これを読んだだけでは、実際の開示には役立たないと感じる上場会社も少なくないだろう。そのような会社にお勧めしたいのが、「人的資本経営コンソーシアム」への入会だ。「人的資本経営コンソーシアム」は人的資本経営の実践に関する先進事例の共有、企業間協力に向けた議論、効果的な情報開示の検討を行うための団体であり、一橋大学CFO教育研究センター長伊藤邦雄氏をはじめとする計7名が発起人となり、経済産業省および金融庁をオブザーバーとして、2022年8月25日に設立される予定となっている。同コンソーシアムでは、入会に当たって「以下の3点を満たしていることが期待される」としているが、通常の上場会社であれば問題なく要件を満たせると思われる。

・国内に事業所を有し、現に事業活動を行っている法人であること
・相当数の従業員を対象に人的資本に関する取組を行っていること
・有価証券報告書や統合報告書等で人的資本情報の開示を行っていること

経済産業省では、同コンソーシアムへの入会申込期間を当初2022年8月12日までとしていたが、「多くの企業の方からお問い合わせをいただいている」として、設立総会開催日の前日の8月24日(水)正午12時まで追加の入会申込を受け付けるとしている(その後の入会申込の受付については未定)。当フォーラムの取材によると、人的資本経営の実践や開示実務の情報収集を目的に、上場会社の“駆け込み入会”が相次いでいる模様だ。まずは、人的資本経営のはじめの一歩として同コンソーシアムに入会することも検討に値しよう。

2022/08/18 気候変動と同じ道を歩む「生物多様性」、今年後半に国際的な目標設定も

金融庁は気候変動開示の義務化に向け、年内に開示府令を改正し、TCFDで全ての企業が開示することが望ましいとされている「ガバナンス」と「リスク管理」の開示を2023年3月期に係る有価証券報告書から義務化する方向だが(2022年5月17日のニュース「男性の育休取得率、女性管理職比率も開示義務化へ 英文開示の義務化は見送り」参照)、企業には気候変動にも深く関連する新たな情報開示義務化の足音が迫りつつある。それが、投資家が“気候変動の次”として注目する「生物多様性」だ。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

自然資本等に関する企業のリスク管理と開示枠組みを構築する国際組織であり、いわば“生物多様性版TCFD”と言えるTNFD(Task Force for Nature-related Financial Disclosures=自然関連財務情報開示タスクフォース)は既に昨年(2021年)6月4日に発足している(2021年6月9日のニュース「TCFDを補完するTNFDがついに発足、“自然環境開示”への流れ加速」参照)。現在、開示フレームワークの草案が市中協議に付されており、2023年9月には同フレームワークが公表される予定だ。このフレームワークが固まれば、気候変動開示と同様、日本でも有価証券報告書での開示義務化という流れになる可能性は十分考えられる。

ESGの専門家でもない限り、気候変動に比べると、「生物多様性」と言われてもピンと来ないかも知れない。しかし、生物多様性の保全は、 ESG投資家にとって気候変動対応に続く「E(環境)」の課題として強く認識されており、・・・

ESG投資家 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資する投資家のこと。

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