既報のとおり、議決権行使助言会社のISSは2023年2月からジェンダー・ダイバーシティ基準を導入し、株主総会後の取締役会に女性取締役が1人もいない場合には、経営トップである取締役(社長、会長)の選任議案に対して反対を推奨する(2021年12月20日のニュース「ISSが2022年版ポリシーの改定内容を公表、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案で反対推奨を受けない方法が判明」参照)。グラスルイスは既に女性役員(監査役、執行役を含む)が不在の場合、会長(会長職がない場合は社長)もしくは指名委員会委員長の選任議案に反対推奨する基準を運用しているが、2023年2月以降はプライム市場上場会社に対し、女性取締役比率「10%」を求める(12月24日のニュース「グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定」参照)。
ISSの基準新設およびグラスルイスの基準変更は、ジェンダー・ダイバーシティを求めるグローバルな潮流に沿ったものであり、今後も「複数化」や「比率引き上げ」など一層の厳格化が図られることが予想される。その時期や程度をイメージするうえでは、両助言会社の海外先進国向けポリシーを確認することが有用だ。下表は両助言会社がそれぞれ海外で運用(一部は今後導入)しているジェンダー・ダイバーシティ基準である。下表に該当する場合、指名委員会委員長などの選任議案に反対推奨することになる。
| ISS | グラスルイス | |
| 米国 | ●取締役会に女性が1人もいない(Russell 3000、S&P 1500) ※2023年以降は全上場会社 Russell 3000 : 米国企業株のうち、時価総額上位3000銘柄からなる時価総額加重平均型指数 |
●異なる性別の取締役が2人未満(Russell 3000) ●異なる性別の取締役が1人もいない(Russell 3000以外、または取締役の人数が6人以下の場合) |
| 英国 | ●取締役会に女性が33%未満(FTSE 350) ●取締役会に女性が1人もいない(FTSE SmallCap) FTSE 350 : ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄で構成される株価指数である「FTSE100」と、FTSE100に次ぎ時価総額が大きい250銘柄で構成される株価指数である「FTSE250」の両指株価数の構成銘柄で構成される株価指数 |
●異なる性別の取締役が33%未満(FTSE 350) ●異なる性別の取締役が1人もいない(LSE’s main market) LSE’s main market : ロンドン証券取引所(LSE)の最大の市場であり、「プレミアム」「標準」「高成長」などのセグメントから構成される。メインマーケット以外の市場としてはAIMなどがある。 |
| 大陸欧州 | ●少数派の性別の取締役が30%未満 | ●異なる性別の取締役が30%未満(large-cap and mid-cap) ●異なる性別の取締役が1人もいない(main market) large-cap and mid-cap : 大型株、中形株を指す。 |
議決権行使助言会社や地域によってジェンダーの定義は異なる(woman、underrepresented gender、gender diverse director)が、共通する傾向としては、米国においては男性以外のジェンダーの要求水準が1~2名にとどまる一方、英国および大陸欧州では30%または33%と高水準にあることが分かる。欧米でこのような格差が存在することを踏まえると、日本において早急に「30%」といった基準が導入されることは考えにくいだろう。
underrepresented : ここでは「少数派の」といった意味を持つ。
また、グローバルにおいて「ダイバーシティ」という場合、ジェンダーにとどまらず、人種(racial)および民族(ethnic)も含まれる。下表は、欧米における両助言会社のジェンダー以外のダイバーシティに関するポリシーを整理したもの。いずれも人種あるいは民族の観点から多様性のある取締役1名の選任か、相応の開示を求めている。
| ISS | グラスルイス | |
| 米国 | ●人種的・民族的に多様な取締役が1人もいない(Russell 3000、S&P 1500) | ●人種・少数民族の取締役会における選任状況について開示がない(S&P 500 ※2023年以降適用) |
| 英国 | ●少数民族のバックグラウンドを持つ取締役が1人もいない(FTSE 100) ※2024年以降は全上場会社 |
●少数民族出身の取締役が1人もいない(FTSE 100) |
| 大陸欧州 | (なし) | ●民族や国籍の多様性についての開示が著しく劣っている場合 |
基本的に国民が単一民族で構成されている日本向けに、人種や民族について欧米のような厳格な助言ポリシーがすぐに導入されることは考えにくい。しかし、日本企業でも外国人取締役が珍しくなくなる中、特にグローバルに事業を展開している企業は、人種および民族のダイバーシティについても関心を持っておく必要があろう。
