2021/12/24 グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定

議決権行使助言大手のグラスルイスは12月23日、日本向けの2022年版ポリシーを公表した(ISSの2022年版ポリシーについては2021年12月20日のニュース「ISSが2022年版ポリシーの改定内容を公表、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案で反対推奨を受けない方法が判明」参照)。現在、同社ウェブサイトには英語版のみが掲載されており、日本語版の公表は年明けになるものとみられる。昨年は11月に英語版・日本語版ともにリリースされたことを踏まえると、今年は昨年以上に慎重な検討が行われたことがうかがえる。

今回のポリシー改定のポイントは・・・

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2021/12/24 グラスルイスが2022年版ポリシーの改定内容を公表、ジェンダー・ダイバーシティに高い要求水準を設定(会員限定)

議決権行使助言大手のグラスルイスは12月23日、日本向けの2022年版ポリシーを公表した(ISSの2022年版ポリシーについては2021年12月20日のニュース「ISSが2022年版ポリシーの改定内容を公表、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案で反対推奨を受けない方法が判明」参照)。現在、同社ウェブサイトには英語版のみが掲載されており、日本語版の公表は年明けになるものとみられる。昨年は11月に英語版・日本語版ともにリリースされたことを踏まえると、今年は昨年以上に慎重な検討が行われたことがうかがえる。

今回のポリシー改定のポイントは、①取締役会のジェンダー・ダイバーシティ(Board Gender Diversity)、②監査役設置会社における取締役会の独立性(Board Independence – Two-Tier Board )、③被支配会社を除くプライム市場上場会社における取締役会の独立性(Board Independence – Non-Controlled Companies Listed on The Prime Market)の3点となっている。以下、順に解説する。

Two-Tier Board : 直訳すれば「二階層取締役会」となる。ここでいう「二階層」とは、執行役会と監査役会を指す。ドイツなどは二階層取締役会制を採用している。

① 取締役会のジェンダー・ダイバーシティ
現行のポリシーでは、下記のとおり、1名の女性役員(監査役、執行役を含む)がいない場合、経営トップなどの選任議案に反対助言を行うとされている。

東証一部と二部に上場している企業において、女性役員が1人もいない場合、ジェンダー・ダイバーシティ欠如の責任があると思われる取締役に反対助言を行う。原則として、反対助言の対象となる取締役は、監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の場合、会長(会長職が無い場合は社長)、指名委員会等設置会社の場合、指名委員会委員長とする。この方針における女性役員とは、取締役と監査役に加え、指名委員会等設置会社における執行役を意味する。

今回の改定では、取締役会のジェンダー・ダイバーシティに関する本ポリシーの適用対象を、東証1・2部上場会社から全上場会社に拡大した。また、従来は専ら女性を対象として「female directors」としていたが、これを「gender diverse directors」に差し替えた。その定義は「women and directors that identify with a gender other than male or female」であり、女性に加えて「男性や女性と同等の性別」すなわちトランスジェンダーも含むものとなっている。

さらに、2023年以降については、「at least 10 percent gender diverse」すなわち人数ではなく10%という「割合」をプライム市場上場会社に対して求めることも明らかにされた。「2023年以降」との猶予期間付きながら、プライム市場上場会社は10%という数値基準を伴ったジェンダー・ダイバーシティの確保が必須との考え方が示されたものと言えよう。

② 監査役設置会社における取締役会の独立性
下記のとおり、グラスルイスの現行ポリシーでは、監査役会設置会社については取締役のみならず監査役も含め、独立役員が3分の1以上であることを求めている。

監査役会設置会社における監査役会の重要な役割を考慮し、監査役会設置会社における独立性基準は、取締役会と監査役会の独立役員の合計人数の割合が3分の1を占めるものとする。取締役会と監査役会の独立役員の合計人数の割合が、取締役と監査役の総人数の3分の1に満たない場合、責任追及という意味で、会長(会長職が存在しない場合、社長またはそれに準ずる役職の者)に対して、反対助言を行う。

このポリシーは引き続き維持されるが、今回の改定では「独立取締役が最低2名」(at least two independent outside directors)との内容が加わった。従来であれば、例えば「社内取締役7、社外取締役1、社内監査役1、社外監査役3」であれば本ポリシーを満たしていたが、今後は反対助言の対象となる。コーポレートガバナンス・コードでは従前から「独立社外取締役を少なくとも2名」選任すべきとされていたことを踏まえた改定と言えよう。

③ 被支配企業を除くプライム市場上場会社における取締役会の独立性
2023年以降に適用される本改定は、東証の市場区分見直しに伴うもの。②で触れたように、監査役会設置会社では「監査役を含め」3分の1以上の独立役員が求められるが、プライム市場上場会社については「取締役のみ」で3分の1基準(at least one-third independent outside directors)が設定された。今年6月のコーポレートガバナンス・コード改定で「プライム市場上場会社は独立社外取締役を少なくとも3分の1以上」選任すべきとされたことが反映されたものと考えられる。

今回改定されたグラスルイスのポリシーのうち②と③は、コーポレートガバナンス・コードおよび主要機関投資家の議決権行使基準が既に定めている内容であり、上場会社に対するインパクトは限定的だと考えられる。一方、①については、ISSをはじめグローバル機関投資家は「1名」と定めている例が多く、国内機関投資家においては基準の設定自体が未だ少数派にとどまっている。グラスルイスが「10%」という数値基準の導入に踏み切ったことで、ジェンダー・ダイバーシティを巡る要求水準が今後高まることも予想される。プライム市場上場会社においては、社内登用を含めた女性取締役の複数選任が検討課題となるだろう。

2021/12/23 知財・無形資産ガバナンスガイドラインとCGコードの関係

2021年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂で新たに補充原則3-1③および補充原則4-2②が設けられ、上場会社は知的財産の開示とともに、知的財産の経営資源への配分について取締役会による実効的な監督を求められることとなったところだ(下枠の赤字を参照)。

補充原則3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
(以下略)

補充原則4-2②
取締役会は、(中略)人的資本知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

上場会社はこれらのCGコードの要請をコンプライするかどうか判断したうえで、その結果を明示したコーポレート・ガバナンス報告書を2021年12月末日までに証券取引所に提出する必要がある。

その判断の指針を示すため、首相官邸の知的財産戦略本部に設けられた知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(以下、検討会)は2021年9月、「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について~改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出に向けて~」を公表したものの、これは全体のページ数が5ページのいわば“ダイジェスト版”にとどまっていた。こうした中、検討会は2021年12月20日にようやく・・・

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2021/12/23 知財・無形資産ガバナンスガイドラインとCGコードの関係(会員限定)

2021年6月に実施されたコーポレートガバナンス・コードの改訂で新たに補充原則3-1③および補充原則4-2②が設けられ、上場会社は知的財産の開示とともに、知的財産の経営資源への配分について取締役会による実効的な監督を求められることとなったところだ(下枠の赤字を参照)。

補充原則3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
(以下略)

補充原則4-2②
取締役会は、(中略)人的資本知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

上場会社はこれらのCGコードの要請をコンプライするかどうか判断したうえで、その結果を明示したコーポレート・ガバナンス報告書を2021年12月末日までに証券取引所に提出する必要がある。

その判断の指針を示すため、首相官邸の知的財産戦略本部に設けられた知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会(以下、検討会)は2021年9月、「今後の知財・無形資産の投資・活用戦略の構築に向けた取組について~改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえたコーポレート・ガバナンス報告書の提出に向けて~」を公表したものの、これは全体のページ数が5ページのいわば“ダイジェスト版”にとどまっていた。こうした中、検討会は2021年12月20日にようやく「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン(案)」(以下、本ガイドライン案)を公表し、2022年1月7日までパブリックコメントに付している。

本ガイドライン案を読み解くにあたっては、まず本ガイドラインが「企業ごとのクリエイティブな発想に基づく開示・発信を促すことが、投資家や金融機関を始めとするステークホルダーとの建設的な対話につながるとの観点から、義務的な法令開示の枠組みづくりを目的とするものではなく、企業の自由度を確保した任意の開示を促す」ことをコンセプトしている点に留意したい。このコンセプトを踏まえ、本ガイドラインは「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関する実践方法(How to)を示すというよりも、むしろその実践に当たって基礎となる考え方を中心に整理することによって、企業自らが考え、判断しつつ実践していくことを意図」した作りとなっている(本ガイドライン案4ページ)。

本ガイドラインにおける「知財・無形資産」とは「知財を始めとする無形資産」を指すが、そのスコープは、「特許権、商標権、意匠権、著作権といった知財権に限られず、技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、これらを生み出す組織能力・プロセスなど」幅広い知財・無形資産を含むものとなっている。すなわち、本ガイドラインは知財権だけを対象にしたものではないということだ。

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このように「知財・無形資産」を広くとらえれば、「いかなる業種に属する企業であっても、経営と関係し、競争力に資する何らかの知財・無形資産を保有していると考えられ、あらゆる業種の企業に、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行の必要性」が生じることになる(本ガイドライン案20ページ)。したがって、知財権を多く持たない上場会社であっても、本ガイドラインには目を通しておく必要がある。

なお、上図では「人材」が実線ではなく点線で囲まれているが、これは、人材戦略については経済産業省が2020年9⽉に公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」がカバーしているため(冒頭の枠内の補充原則3-1③および補充原則4-2②における青字の「人的資本」についてコンプライorエクスプレインを判断するうえでは、人材版伊藤レポートを参考にしたい)。

本ガイドライン案では、知財・無形資産への投資とその活用に向け、以下の「5つのプリンシプル(原則)」と「7つのアクション」が示されている。

5つのプリンシプル(原則) 企業 1 「価格決定力」あるいは「ゲームチェンジ」につなげる
2 「費用」でなく「資産」の形成と捉える
3 「ロジック/ストーリー」としての開示・発信
4 全社横断的な体制整備とガバナンス構築
金融機関 5 中長期視点での投資への評価・支援
7つのアクション 1 現状の姿の把握
2 重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化
3 価値創造ストーリーの構築
4 投資や資源配分の戦略の構築
5 戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
6 投資・活用戦略の開示・発信
7 投資家等との対話を通じた戦略の錬磨

プリンシプルのうち5番目の「中長期視点での投資への評価・支援」は金融機関に対するものであることから、一般事業会社では1番目から4番目までの原則を理解しておく必要がある。また、7つのアクションは時系列順に並んでいる。「5つのプリンシプル(原則)」と「7つのアクション」の全体像をまとめると下図のとおりとなる。
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知的財産の開示を求める補充原則3-1③に密接に関係しているのが、本ガイドライン案の23ページ以降の「2 投資家や金融機関に伝わる知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・開示・発信」だ。ここでは、戦略構築として下記の手順を推奨している。

① 自社の現状のビジネスモデルと強みとなる知財・無形資産の把握・分析
  ↓
② 知財・無形資産を活用したサステナブルなビジネスモデルの検討
  ↓
③ 競争優位を支える知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略の構築

①は自社の現状の分析、②はバックキャスティングの考え方で分析()した自社が目指す姿、③は①と②のギャップを埋めるために必要となる経営資源の配分戦略となる。

 本ガイドライン案の30ページから31ページにかけて、「日本企業の中には、まず技術を開発してから何に使えるかを考える企業も多いが、このことが、強みのある知財・無形資産を価値創造やキャッシュフローに結びつけるビジネスモデルを構築できない要因となっているとの指摘もある。したがって、強みとなる知財・無形資産の把握・分析に当たっては、技術オリエンテッドの発想で考えるのではなく、創出された社会価値・経済価値から逆算して(バックキャスト)、自社のどの知財・無形資産が強みであるかを特定していく視点が重要である。」と述べられている点を参考にしたい。

①②③の関係を図に示すと下図のとおりとなる(本ガイドライン案の30ページより引用)。
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情報の開示・発信にあたっては、「自社の強みとなる知財・無形資産が、どのように持続的な価値創造やキャッシュフローの創造につながっているかについて、「ロジック/ストーリー」として説得的に投資家や金融機関等に対して説明し、有意義な対話を進めていく」としている。その際に、説得的に説明するためには「自社のいかなる知財・無形資産が競争優位につながるのかについての「因果パス」(何が原因で何が結果か)を明確化するためには、定性的な説明に加え、定量的な指標(KPI 等)を効果的に用いることが重要」としている(本ガイドライン案の38ページ)。また、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築や開示にあたっては、いわゆる国際統合報告のオクトパスモデル(本ガイドライン案の40ページ上部に記載されている蛸の足を連想させるモデル)に則り、「強みとなる知財・無形資産(インプット)」「知財・無形資産の活用(事業活動)」「製品・サービスの提供(アウトプット)」「社会価値、経済価値(アウトカム)」「知財・無形資産の維持・強化に向けた戦略(投資)」というプロセスの流れとして理解し、説明することを推奨している。本ガイドライン案の39ページ下から41ページにかけて、「イノベーティブな開発力を強みとするビジネスモデル」「高品質に支えられたブランドを強みとするビジネスモデル」「情報分析を強みとするビジネスモデル」の3つのモデルごとの定性的・定量的説明の例が記載されており、自社のビジネスモデルに近いモデルを参考にして自社なりの定性的・定量的説明を模索するのが近道と言えよう。知財・無形資産の投資・活用戦略は、コーポレート・ガバナンス報告書やIR資料で開示する方法でも構わないが、ビジネスモデルと深い関連性があり、「既に多くの企業において、統合報告書でビジネスモデルの開示・発信が行われていることを踏まえれば、知財・無形資産の投資・活用戦略の開示・発信も、統合報告書を通じて行うことが効率的である」としており(本ガイドライン案の42ページ)、統合報告書を未作成の上場会社では、これを機に統合報告書の作成の検討に入るのが望ましいと言える。本ガイドライン案では、価値協創ガイダンスの流れに沿った開示例(アーム社の事例:本ガイドライン案の47ページ)や研究開発投資に係る充実した開示例(シーメンス社の事例:本ガイドライン案の49ページ)も紹介されており、開示にあたって参考にしたい。もちろんこのレベルの開示を行っていなければ補充原則3-1③をコンプライしたと言えない訳ではないが、開示のレベルは外部からも容易に確認可能であることから、「本格的な知財・無形資産の投資・活用戦略の開示等に至っていないにもかかわらず「実施(comply)」という判断を行えば、投資家からは、不誠実な姿勢とみなされ、かえってネガティブな評価につながる可能性が高いことに留意すべき」(本ガイドライン案の6ページを参照)である。

こういった知財・無形資産の投資・活用戦略を取り込んだビジネスモデルを支えるのが「ガバナンス」である。これを表したのが国際統合報告のオクトパスモデルの下に記載された「ビジネスモデル」を支えるように配置された「ガバナンス」である。そして、このガバナンスについて規定しているコーポレートガバナンス・コードが補充原則4-2②にあたる。まず、この全体像を理解したうえで、補充原則4-2②に密接に関係するガイドラインとして本ガイドライン案の51ページ以降の「3 戦略を構築・実行する全社横断的な体制及びガバナンスの構築」を参考にしたい。ここでは、「社内の幅広い知財・無形資産をどう活用していくかは、経営戦略そのものであり、経営全体として検討していくことが必要不可欠であり、知財部門や研究開発部門など社内の一部の部署に任せておけばよいという問題ではなく、経営トップ自らが、部門間の連携や経営資源の配分の取組についてきちんと把握・理解」しておく必要がある(本ガイドライン案の51ページ)。そして「知財・無形資産のスコープの広さに鑑みれば、知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行に向け、社内で横串を刺すような体制は不可欠」であることから、本ガイドラインでは、例えば「取締役会に知財・無形資産の戦略的活用に関し諮問する委員会を設置することや、執行側にナレッジを集約する目的でサステナビリティ委員会を活用することなどにより、社内の幅広い部署(経営企画、総務(IR、ESG など)、事業、知財、研究開発、マーケティング、営業など)が連携することができる体制の構築」を行う案や「知財・無形資産に関する知見を経営陣のスキルに位置づけ、そうした知見を有する者を専門的な知見に基づく CXO として他の CXO との連携体制を構築する」案が提唱されている(本ガイドライン案の51ページ)。そして、取締役会に期待される役割として次のようなものが提案されている。

・取締役会は、経営陣が自社の持つ知財・無形資産の価値に気づき、価格にこだわり、安易な値下げが行われないよう、適切に監督すること
・取締役会では、知財・無形資産の投資・活用戦略の進捗状況を把握できるようにするため、適切なKPIを活用し、監督を行うこと
・例えば、KPIに連動した報酬とするなど、経営陣に知財・無形資産の投資・活用に対するインセンティブを与えること
・社内において議論されている知財・無形資産の投資・活用戦略を、取締役会において投資家や金融機関への説得的な説明に耐えうる「骨太の議論」へと昇華させること

さらに社外取締役に対しては、下記の役割を担うことも期待されるとしている。

・社外取締役は、全体的な経営方針と知財・無形資産の投資・活用戦略の方向性が一体的に運用されているかなどについての議論で貢献すること
・社外取締役が、経営の執行サイドに対し、“good question”を発することにより、戦略が説得力を持った「ロジック/ストーリー」となるように貢献すること

その他、取締役会として、社内における連携体制・人材育成(本ガイドライン案の52ページ)や外部の知財・無形資産の有効活用に向けた取組み(本ガイドライン案の55ページ)が十分かどうか検証を行い、総合的に判断して、補充原則4-2②をコンプライできているのか、エクスプレインに留まるのか判断するようにしたい。

また、本ガイドライン案には多数のコラムや実際の取組事例・開示事例(14事例)が収録されており、これらは上場会社各社が知財・無形資産への投資や知財・無形資産の投資・活用戦略の開示に取り組むにあたって参考になるものも多い。例えば、自社が知財・無形資産を構築しても、会計上、それに要したコストは損益計算書に計上され、費用となる(=利益を減らす)だけであり、この会計ルールの存在が知財・無形資産への投資を抑制している面があるが、本ガイドライン案では、この問題について、“無形資産経営”を提唱するニューヨーク大学・ビジネススクールのバルーク・レブ教授の「それ自身では実質的な価値を創り出すことができない物的投資や金銭投資が、貸借対照表に満額で認識されるのに(中略)、特許、ブランド、ノウハウといった自己創出される無形資産―強力な価値創造主体―が即時に費用化される。つまり、損益計算書のなかで、将来ベネフィットのない経常的な費用(給与や貸借料など)として処理されていることは、なんと皮肉なことだろう。」とのコメントを紹介したうえで(本ガイドライン案27ページ)、その解決策の一つとしてエーザイの事例()を紹介している(本ガイドライン案28ページの事例4)。

 エーザイでは、営業利益に人件費、研究開発費を足し戻した数字を「ESG EBIT」と定義して開示するとともに、時価総額から簿価純資産を差し引いた額を ESG の価値(市場付加価値)として開示している。このように、法定開示以外のディスクロージャーの手法である統合報告書の工夫により、利益を減少させる知財・無形資産の投資のコスト負担を投資家に理解してもらうことも、投資を促進するうえで有効と言える。

EBIT : Earnings Before Interest and Taxesの略で、利払前・税引前利益を指す。企業が借り入れを行っている場合には支払利息が発生し、その分利益が減少してしまうため、支払利息の影響を除外した利益を見るために使用される。

ここ数年でESG投資が一気に興隆を極めているが、知財・無形資産の投資・活用戦略はESG投資と深い関係がある。例えば本ガイドライン案では、「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、投資先企業の特許データを分析し、例えば二酸化炭素排出削減につながる低炭素関連の特許をスコアリングする」といった最近の動きも紹介されている(本ガイドライン案16ページ)。上場会社がESG投資を呼び込むためには、自社におけるESG課題のマテリアリティ(重要性)を知財・無形資産の投資・活用戦略と関連付けて特定する必要があろう。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

検討会は2022年1月中に確定版を公表する予定。パブコメ終了までの期間やその後の確定版公表までの期間が極端に短いことから、今回のパブコメ版がほぼそのまま確定版とされる可能性が高い。したがって、確定版の公表を待つことなく、本ガイドライン案の内容の早期実践に取り組みたいところだ。

2021/12/22 【失敗学第91回】イー・ガーディアンの事例(会員限定)

概要

Webの投稿監視等のサービスを提供しているイー・ガーディアンで、子会社社長が会社資金を流用していた(過年度の決算の訂正により2021年9月期第3四半期の純資産が約133百万円マイナスとなった)。

経緯

イー・ガーディアン(東証一部)が2021年11月11日に公表した「調査報告書」(以下、本調査報告書)などによると、一連の経緯は次のとおり。

2015年
6月:グレスアベイル社発足

2019年
8月20日:イー・ガーディアンがグレスアベイル社の増資を引き受け、株式の64.3%を取得し、子会社化。グレスアベイル社のデュー・デリジェンスはイー・ガーディアンの社内だけで行い(外部の専門家を活用せず)、財務諸表の裏付けとなる預金残高証明書、取引残高証明書等の第三者作成の証明書は取得していなかった。当初、イー・ガーディアンはグレスアベイル社の株式をIPOさせる(子会社上場)ことを計画していた。
12月:グレスアベイル社では代表取締役のa氏が一人で入出金等の経理に関する起案・承認・実行を行っていることが内部統制上問題であることを他の取締役らが指摘したことを契機として、一部の銀行口座についてはb氏(CFO)が管理することとなった。

2020年
8月:イー・ガーディアンが、b氏の退職に合わせて、b氏が管理していた銀行口座のファームバンキングのアクセス権限をイー・ガーディアンの経理に移管しようとしたところ、a氏は当該要請に応じず、b氏が管理していた銀行口座は再度a氏の管理下となった。そして、a氏は自ら入出金処理を行い、その照会結果をプリントアウトしてグレスアベイル社の管理本部長に渡し、それをもとに経理処理が行われていた。
10月:グレスアベイル社の業績が低迷を続けており、またグレスアベイル社の技術力やa氏の営業力が当初の想定ほどに高くないことが明らかとなってきことから、イー・ガーディアンではグレスアベイル社のIPOの計画を白紙化し、イー・ガーディアンの完全子会社として、信用力・技術力の梃入れをするため、グレスアベイル社の残りの株式をすべてグレスアベイルの社長から買い取った。

2021年
7月12日:イー・ガーディアンでは、サイバーセキュリティ事業の強化及び経営のスピードアップを図るため、同社の100%子会社のグレスアベイル社とジェイピー・セキュア社をEGセキュアソリューションズ社に吸収合併することを企図し、取締役会における承認決議を経て、具体的準備に着手した。
8月6日:イー・ガーディアンは、a氏をグレスアベイル社取締役から解任。a氏解任後ようやく銀行の会計残高につき通帳等との照合が行われ、その結果、a氏が行っていた粉飾が発覚した。
8月31日:イー・ガーディアンは、社外取締役を中心とする調査委員会を設置することとなった(リリースはこちらを参照)。
11月15日:イー・ガーディアンは、調査委員会による「調査報告書」を公表した。

内容・原因・改善策

イー・ガーディアンが2021年11月15日に公表した「調査報告書」によると、調査委員会の調査により判明した事実ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている。

内容 イー・ガーディアンの子会社であるグレスアベイル社の社長a氏が、会社口座から自身の個人口座に多額の資金を送金したり、他の会社を経由して自身の個人口座に還流させたりしていた。
原因 動機
・調査報告書では、a氏が事情聴取に応じてくれなかったため、a氏がどのような動機や事情により本件不正行為に及んだものであるのかは未だ判然としないとしつつも、何らかの私的資金需要から不正行為に及んだか、あるいは、当初より、M&Aや業務提携を口実として個人的資金獲得を企図していたのではないかといった疑念も払しょくしえないとしている。
・グレスアベイル社はイー・ガーディアンの子会社となった後は、相応の売上・収益を計上することを求められていたことから、a氏は契約書、作業報告書、請求書などを偽造し架空の売上60,000千円を計上し、a氏しか実際の残高を知らない口座から別の口座に入金をしていた。その不正により、さらに銀行の実際残高が報告していた残高と乖離することとなった。
機会
・銀行口座は、いずれも紙の通帳が発行されていながら、a氏はそれを秘匿し、ファームバンキングの照会結果をプリントアウトし、グレスアベイル社の経理担当者に提出していた。経理担当者はこのプリントされた照会結果を真正な預金データとして記帳し経理処理が行われていた。しかし、紙の通帳や証明印のある残高証明書と異なり、ファームバンキングからプリントアウトされた照会結果は改竄が容易であり、実際にa氏は、変造した照会結果をグレスアベイル社経理担当に提出することでグレスアベイル社の経理処理を粉飾し、長くその不正行為の発覚を逃れてきた。
・イー・ガーディアンがグレスアベイル社と資本提携し、増資に応じた際に、外部の専門家によるデュー・デリジェンス調査は行わず、社内のデュー・デリジェンス調査にとどまっていた。しかも、社内のデュー・デリジェンス調査では、銀行に対して残高照会を行っていなかった。
・グレスアベイル社はIPOを企図していたことから、親会社(イー・ガーディアン)としては一定の独立性が維持されるように配慮しており、グレスアベイル社の内部での自助努力による内部統制システムの構築を期待する面があった。そのため、親会社(イー・ガーディアン)によるグレスアベイル社の内部監査及び指導は徹底されていなかった。2020年4月にグレスアベイル社に内部統制上の諸規程が適用されるに至った後も、実際にはそれらは遵守されておらず、たとえば、預金残高の確認は、経理規程では「出納責任者が四半期末には当該金融機関から残高証明を徴して確認し、経理責任者に報告すること」とされていたが、実際には残高証明の徴求は行われず、かつその不遵守は放置されたままとなっていた。
・a氏による会社資金の流用の結果、グレスアベイル社が資金ショートを起こすようになったが、a氏はファクタリング取引をすることで一時的に資金を得て資金ショートを回避していた(不適正な債務負担行為)。
・a氏は会社資金の流用をごまかすため、取引実績のある他社名義の請求書を偽造し、原価として計上する一方、実際には振り込みは行っていないのに振り込みをした内容の照会結果を偽造して、グレスアベイル社経理担当に提出し架空の原価を計上させていた。
改善策 ・子会社に対する管理体制構築の重要性
・デュー・デリジェンスの重要性
・会議出席の重要性
・経理業務を親会社が受託
・親会社の内部監査部門による子会社監査の強化
・経理業務の職務分担の確保
<この失敗から学ぶべきこと>

グレスアベイル社で諸規程の整備が遅れたことについて、本調査報告書では、「背景にIPOとの関連がうかがわれるものの、むしろ、内部統制システムの構築はIPOの第一歩でもあり、IPO志向ゆえに親会社としての関与が弱まり、内部統制システムの構築が遅れたという弁明は自己矛盾であり合理性は認められない。」と看破しています。

株式譲受時や事業譲受時に、取得予定の株式や事業の対価次第でデュー・デリジェンス調査を内製化することはやむを得ないところではありますが、少なくとも銀行口座については銀行が発行する残高証明書を入手するようにすべきです。また、株式譲受後や事業譲受後には、すみやかに資金にかかる内部統制を構築するとともに、親会社による管理も浸透させるべきです。

2021/12/21 業績連動報酬におけるESG指標の普及状況と開示事例

ESG投資の隆盛を背景に、ESG関連指標を業績連動報酬に反映させることを検討している上場会社は多いが、既に反映済という上場会社は果たしてどれくらいあるのだろうか。当フォーラムがTOPIX100の2021年3月末決算会社の有価証券報告書の【役員報酬等】欄を調査したところ、ESG関連指標を業績連動報酬に反映している会社の数および割合は下表のとおりの状況だった。・・・

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

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2021/12/21 業績連動報酬におけるESG指標の普及状況と開示事例(会員限定)

ESG投資の隆盛を背景に、ESG関連指標を業績連動報酬に反映させることを検討している上場会社は多いが、既に反映済という上場会社は果たしてどれくらいあるのだろうか。当フォーラムがTOPIX100の2021年3月末決算会社の有価証券報告書の【役員報酬等】欄を調査したところ、ESG関連指標を業績連動報酬に反映している会社の数および割合は下表のとおりの状況だった。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

  社数(割合) 補足
ESG関連指標を反映している 20社(25%) このうちCO2(温室効果ガス)排出量を業績連動報酬指標に反映している会社は6社
ESG関連指標を反映していない 57社(75%)
合計 77社 業績連動報酬を採用していない会社3社を除いている。

東証一部上場会社のうち流動性と時価総額の高いトップ100銘柄を構成する会社でさえ上表のような状況であることからすると、上場会社全体ではESG関連指標の導入は進んでいないと言ってよいだろう。とはいえ、今後益々ESG投資が活発になることが予想される中、自社に投資を呼び込むためには、ESG指標を役員報酬に反映せざるを得なくなることは十分に考えられる。

ただ、ESG指標には、後述するように、財務指標と異なり定量化が難しい、客観性に欠けるといった課題がある。そこで、既にESG関連指標を導入している会社がESG指標をどの程度の業績連動報酬に反映させているのか気になるところだが、例えばオリンパスでは、業績連動型株式報酬(PSU)の算定上、ESG指標の占める割合は20%と、意外と高い割合となっている。

PSU : パフォーマンス・シェア・ユニットの略であり、中長期的な“業績目標等の達成度合い”に応じて交付される株式報酬である「パフォーマンス・シェア」の一種。株式交付のタイミングによって、事前交付型(パフォーマンス・シェア)と事後交付型(パフォーマンス・シェア・ユニット)に分けられる。事前交付型は、取締役等の報酬対象勤務期間の開始後、速やかに取締役等に株式の発行(or自己株式の交付)を行うが、取締役等と会社の契約において、当該株式に譲渡制限を付しておき、権利確定条件(例えば「3年間勤務する」「3年後に株価を倍増させる」など)が達成された場合に譲渡制限が解除され(すなわち、取締役等は当該株式を売却して換金できる)、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得(没収)する仕組み。 事後交付型は、取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

オリンパス

②業績連動型株式報酬:FY2022-PSU
1.『経営戦略と整合性のあるインセンティブプログラムとする。』という報酬に関する理念に基づき、また事業環境を考慮した上で、PSUを決定します。
2.PSUの評価指標は、営業利益相対TSR、ESG指標より構成し、その比率の考え方は以下のとおりです。
60598
・企業価値の向上を財務視点(営業利益)および株主視点(相対TSR)で同等に評価
・ESG視点による企業価値向上を重視し、財務視点/株主視点の50%を配分

営業利益 : 「営業利益」とは、売上総利益から「販売費および一般管理費(販管費)」を差し引いた金額である。販管費には、人件費をはじめ、水道光熱費、広告宣伝費などがある。また、「売上総利益」とは、売上高から売上原価を差し引いた金額で、「粗利」と呼ばれることが多い。人件費(給与等)などを控除する前の金額である。
相対TSR : TSR(株主総利回り=株価上昇率と配当利回りの合計)を競合他社等とに比較したもの。例えば、「自社の3年間のTSR-比較対象企業群の3年間の時価総額加重平均TSR」により算出する。

財務指標と異なり定量化が難しいというESG指標を「定量化」しているのが、ENEOSホールディングスだ。同社はCO2排出量を業績連動報酬に反映している。

TCFDが開示を求めている「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標と目標」の4つの要素(詳細は2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」参照)うち「指標と目標」では、「気候変動関連リスクの重要性が高い場合は関連パフォーマンス指標が報酬規程に取り入れられているか、どのように取り入れられているか記載を検討すべき」とされている。特にコーポレートガバナンス・コード3-1③で「TCFDまたはそれと同等の枠組み」に基づく気候変動関連の開示が求められることとなるプライム市場を選択する会社にとっては参考になる事例と言えよう。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。

ENEOSホールディングスの注釈は当フォーラムが追加)
60598a

*1 Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
*2 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。

もっとも、ESG指標には、CO2排出削減量のように定量化できないものも多く含まれる。また、たとえ定量化されていても監査の対象とならないことから、客観性に乏しく企業間比較も困難という問題がある。そこで、外部機関に基づく評価を利用し、ESG指標の客観性・透明性を高めているのが第一三共だ。

第一三共
60598b
また、東京エレクトロンのように、報酬委員会がESG指標を報酬に反映させることに関与している旨を開示し、客観性・透明性を高めている会社もある。

東京エレクトロン
60598c
このほか、ESG指標を業績連動報酬に反映させることには、法人税上損金算入できないという問題や(税金の問題については2020年11月2日のニュース「ESG対応への評価を“賢く”株式報酬に組み込む手法」参照)、そもそもESG指標は会社の利益等と明確に結び付いているとは言えない面もあるため、役員のモチベーション向上につながりにくいといった問題もある。しかし、少なくとも後者については、ESGに優れた会社の価値が評価されるようになっているという時代の流れを受け止め、認識を変える必要があろう。

損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

2021/12/20 ISSが2022年版ポリシーの改定内容を公表、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案で反対推奨を受けない方法が判明

議決権行使助言会社最大手のISSは12月7日、2022年版のアジア・パシフィック向け議決権行使助言ポリシーの改定内容を明らかにしている。本改定を踏まえた日本向けポリシー(以下、ポリシー)の全体版は未だアップデートされていない。昨年と同様であれば、年内にはポリシー全体の英文版が、来年(2022年)1月末頃には日本語版が同社のウェブサイトにアップされるものとみられる。

まず取締役選任議案については、以下3点が変更された。このうち・・・

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2021/12/20 ISSが2022年版ポリシーの改定内容を公表、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案で反対推奨を受けない方法が判明(会員限定)

議決権行使助言会社最大手のISSは12月7日、2022年版のアジア・パシフィック向け議決権行使助言ポリシーの改定内容を明らかにしている。本改定を踏まえた日本向けポリシー(以下、ポリシー)の全体版は未だアップデートされていない。昨年と同様であれば、年内にはポリシー全体の英文版が、来年(2022年)1月末頃には日本語版が同社のウェブサイトにアップされるものとみられる。

まず取締役選任議案については、以下3点が変更された。このうち①②は昨年のポリシー改定において内容自体は確定しており、適用猶予期間が解除されたものである。③は今年改定されたもので、11月4日に実施されたオープンコメントで改定の是非が問われていた(2021年11月8日のニュース「ISSの2022年版ポリシー、ジェンダーダイバーシティ基準導入へ」参照)。

① 「純資産の20%以上」に相当する過度な政策保有株式を保有する企業の経営トップの選任議案への反対
対象となるのは「保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式」(したがって、非上場株式も含まれる模様)および「みなし保有株式」となっている。また、有価証券報告書で開示される連結子会社が保有する分も含まれる。このポリシーにより、ISSの調査対象となる日本企業1500社(以下、単に「日本企業」という)のうち7%が反対推奨を受ける可能性があるという。

経営トップ : 通常、社長と会長を指す。
みなし保有株式 : 所有権は有しないものの議決権行使権限またはその指図権限を留保している株式のこと。

② 取締役会における社外取締役が「2名かつ3分の1」に満たない企業の経営トップの選任議案への反対
既に指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社には導入済みである、取締役会における社外取締役の占有率“3分の1基準”を、監査役会設置会社にも適用する。「3分の1」を満たすかどうかを判定する際、社外取締役の独立性は考慮されない。本年(2021年)6月総会では、ISS調査対象となった監査役会設置会社のうち32.6%が本基準に抵触していたという。

③ 取締役会に女性取締役が1人もいない企業の経営トップの選任議案への反対(2023年2月以降適用)
女性取締役を選任している日本企業が本年6月時点で53.1%に達したこと、世界最大級の運用会社10社のうち7社の議決権行使基準で女性取締役の選任を求めていること、ISSの顧客である機関投資家から女性取締役を必要とするポリシーについて肯定的なフィードバックを受けたことから、ISSは本ポリシーの導入に踏み切った。上記のとおり、本ポリシーには1年の適用猶予期間が設けられている。

ISSも言及している通り、グローバル投資家(ブラックロック、ステート・ストリートなど)の間では“ジェンダーダイバーシティ基準”は一般的なものになりつつある。一方で、国内機関投資家で同基準を備えているところは現状ではごく一部にとどまっている(大和アセットマネジメント、三井住友トラスト・アセットマネジメントなど)。今回ISSが本ポリシーを導入したことは、女性取締役の選任がグローバル資本市場でミニマム・スタンダード化することを意味しており、今後は国内機関投資家においてもジェンダーダイバーシティ基準の導入が相次ぐことが予想される。


上記以外の改定事項として、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案に反対する旨のポリシーが新設された。これはオープンコメントでは触れられていなかった論点となっている。ISSは同議案について「一般的」には反対としたうえで、「感染症の蔓延や自然災害の発生など、異常な状況下でのみ」開催する旨を定款に規定する場合には賛成するとしている。

バーチャルオンリー総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。

本年6月の株主総会では複数の企業が「当会社は、株主総会を場所の定めない株主総会とすることができる」旨の定款変更を諮り、ほぼ例外なくISSの反対推奨を受けた(2021年6月1日のニュース「ISS、バーチャルオンリー株主総会開催に向けた定款変更議案に反対推奨」参照)。こうした中、例外的に賛成推奨を受けたのが武田薬品工業だ。これは、同社の定款変更の内容が「当会社は、感染症拡大または天災地変の発生などにより、場所の定めのある株主総会を開催することが、株主の利益にも照らして適切でないと取締役会が決定したときには」との限定を付していたためと考えられる。今後、同議案の上程を検討している企業にとっては参考にしたい事例と言えよう。