2021/11/22 フィンテックならぬ「クライメートテック」のユニコーン企業が日本進出

コーポレートガバナンス・コード補充原則2-3①は取締役会に対し、気候変動などサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応を、リスクの減少のみならず「収益機会」にもつながる重要な経営課題の一部であると認識するよう求めているが、欧米ではその動きは既に本格化しつつある。・・・

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2021/11/22 フィンテックならぬ「クライメートテック」のユニコーン企業が日本進出(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード補充原則2-3①は取締役会に対し、気候変動などサステナビリティー(持続可能性)を巡る課題への対応を、リスクの減少のみならず「収益機会」にもつながる重要な経営課題の一部であると認識するよう求めているが、欧米ではその動きは既に本格化しつつある。

テクノロジー系スタートアップ企業を専門とするオランダの調査会社 Dealroomがまとめたレポートによると、2016年に採択されたパリ協定以降の5年間における「Climate Tech(気候テック)」領域のスタートアップ企業へのベンチャーキャピタルからの投資額は、2016年の66億ドル (約7,500億円)から320.3億ドル(約3兆6,600億円、2021第3四半期)へと5倍に急拡大している。ここでいう「気候テック・スタートアップ企業」とは、温室効果ガス排出量の削減に貢献する技術をはじめとする、気候変動問題に対応したサービスを開発する企業を指す。同社は気候テック・スタートアップ企業をグローバルで約 5,100 社把握しており、今回の調査でもこの5,100社が対象となった。パリ協定の2016年以降は気候変動への意識の高まりとともに気候テック・スタートアップ企業の設立が相次ぎ、それとともに投資額も急増した。

パリ協定 : 2015年末にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択された2020年以降の温暖化対策の国際的枠組み。パリ協定では、18世紀後半に起きた産業革命前と比較し、気温の上昇を「2℃以内」にとどめることを目標としており、各国に対し、温室効果ガスの排出削減目標を設定のうえ、5年ごとに進捗報告およびより厳しい目標への更新を行うことを義務付けている。

地域別の投資額は、米国・カナダが170億ドルとトップ、これに欧州が80億ドルで続いているが、2016年比の伸び率では、米国・カナダが5.8倍、欧州が7.0倍と、欧州が上回っている。

フィンテック系のスタートアップ企業との資本提携や買収に積極的な大手金融機関は気候テック・スタートアップ企業にも注目しており、例えばフランスの大手銀行 BNPパリバは、2019年に創業された同国の気候テック・スタートアップの Greenly社と提携し、同社が開発したAI を用いて、オンライン・バンキング上でユーザーが購入した商品等を識別し、それに伴い排出された二酸化炭素量を計測するアプリ「My Carbon Footprint」の提供を開始している。BNPパリバによると、既に30万人以上がこのアプリを利用しており、環境意識の高い顧客への訴求力向上に繋がっているという。

レポートは、気候テック・スタートアップ企業を「食品」「エネルギー」「輸送」「ソフトウェア」「再利用」の5業種に分類。投資額が最も大きいのは「エネルギー」で全体の約 40%を占めるが、多くの業種が存在する気候テック・スタートアップ企業との連携を模索する企業は金融機関以外にも広がっていくだろう。

また、気候テック・スタートアップ企業の活動は欧米にとどまらず世界に広がっている。再生可能エネルギーを販売する英国のOctopus Energyは創業わずか5年でドイツ・アメリカ等、既に5か国に進出しており、11月15日には、東京ガスとの提携を通じ関東圏での電力販売も開始した。急成長を続ける同社は、評価額10億ドル以上かつ未上場のスタートアップ企業を指すユニコーン企業となっている。このほか、企業の投資ポートフォリオが曝されている気候変動リスクを計測するソフトウェアを販売する英国のCervestへの注目度も高い。

11月13日に閉幕したCOP26では、2100年までの世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力を追求することなどを盛り込んだ「グラスゴー気候合意」が採択された。企業に対しても気候変動への取り組み強化が求められることが確実となる中、今後日本でも有力な気候テック・スタートアップ企業が登場し、既存企業と連携する動きが見られるだろう。

COP26 : 英国グラスゴーで2021年11月1日~12日に開催されている「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」のこと。COP26では、「パリ協定」と「気候変動に関する国際連合枠組条約」の目標達成に向けた行動を加速させるため、締約国が一堂に会して議論する。COPとは「Conference Of the Parties」の略で「コップ」と読む。「Parties」とは条約を結んだ締約国の集まりのことである。

2021/11/19 【失敗学第90回】元旦ビューティ工業の事例(会員限定)

概要

金属屋根メーカーの元旦ビューティ工業の盛岡支店長が、自らの個人的債務を返済するために取引先から借金をして、当該取引先には架空の工事費の請求書を発行してもらい、それを自ら支払承認し元旦ビューティ工業に架空工事費を負担させることで、取引先には借金の返済に充当してもらっていた(不正取引額は約12百万円)。

経緯

元旦ビューティ工業が2021年11月15日に公表した「調査報告書」(以下、本調査報告書)などによると、一連の経緯は次のとおり。

2004年
1月:A氏が元旦ビューティ工業に営業担当者として中途採用され、盛岡営業所に配属された。

2007年
10月:A氏が主任に昇格。

2012年
8月:A氏が課長代理に昇格。

2017年
4月:A氏が盛岡営業所の営業所長に就任。A氏は入社以来東北地域、特に岩手県、青森県を中心とした地域の屋根工事物件の営業活動を担当していた。

2021年
7月3日:元旦ビューティ工業の東北支店長に取引先から「盛岡営業所長のA氏に借金の督促の電話をするものの連絡がつかない。A氏は会社を辞めたのか。」との問合せがあり、営業所長が取引先から個人的な借入をしていることが発覚した。
7月15日・16日:元旦ビューティ工業の管理部門社員が盛岡営業所に赴き、営業所員や取引先から事情を聴取したところ、営業所長には多額の借金があり、かつ複数の取引先との間で不透明な取引があるとの証言を得たことから、親族の体調不良等を理由に出社しなくなった営業所長の自宅を訪問して本人に事実関係を問いただしたところ、営業所長は「多額の借金」「架空取引」の事実を認めた。
7月27日:元旦ビューティ工業では、その後の調査結果をもとに、賞罰委員会を開催し、営業所長を懲戒解雇処分とし、8月21日付で即時解雇を実施した。
8月7日~15日:元旦ビューティ工業は「架空取引」に関する初動調査を実施した。
8月16日:元旦ビューティ工業の取締役会で「架空取引」に関する初動調査の結果が報告された。
9月1日:元旦ビューティ工業は、社外取締役、監査役および顧問弁護士らによる不正取引調査委員会を設置することとなった。
11月15日:元旦ビューティ工業は、不正取引調査委員会による「調査報告書」を公表した。

内容・原因・改善策

元旦ビューティ工業が2021年11月15日に公表した「調査報告書」によると、不正取引調査委員会の調査により判明した事実ならびに原因および当該不正を受けて策定した改善策は次のとおりとされている(このほか、採算が悪化した工事案件の採算を良好に見せるために実施した「経費の付け替え」の不正も判明しているが、本稿では省略する)。

架空工事費を用いた会社からの資金引き出し
内容 元旦ビューティ工業の盛岡営業所長が自己の個人的な借金返済に困り、取引先より借り入れを行い、当該借り入れを返済する手段として、元旦ビューティ工業に対して架空の工事費の請求書を発行してもらい、自ら支払承認をしていた。
原因 動機
・盛岡営業所長には、もともと個人的な借金があり、それを一括返済するために高額当選金を謳った宝くじを購入し、当選金での返済をもくろんでいた。取引先からの借金は宝くじ購入のための資金などに充てられていた。
・盛岡営業所長には倫理観やコンプライアンス意識が欠如していた。
機会
・元旦ビューティ工業では、案件によって工事内容の一部が確定せず予備費を設定する場合があり、盛岡支店長はその予備費支払いについて営業所長決裁で支払が実行されていた(要するに「自己承認」によって高額の費用計上が可能であった)ことを利用し、受け取った請求書を既に受注済の工事案件に追加工事費や施工応援人工代の名目で計上し、出金伝票を自ら起票するか、若しくは上記経緯を知らせずに部下に起票させ自らの承認で支払処理を実施していた。
・盛岡支店長は元旦ビューティ工業の代表取締役社長名のゴム印と営業所管理の角印を自己の判断で勝手に使用し、借用書を偽装し借入先に差し入れていた。押印簿の運用が適切になされていなかった。また、会社の印鑑を借用書に用いることで、盛岡支店長の借金があたかも会社の「お墨付き」を得たかのような借用書を偽造していた。
・盛岡支店長は取引先に対して資金借り入れの理由を次のように説明していた。
(ア)設計事務所や得意先への物件受注のための接待費用
(イ)議員への資金提供
(ウ)親族の病気など家族の事情
・営業所長の在任期間が長く、取引先との関係が業務の関係を超えるものになっていたため、社員個人の借金の申込みに対して、その言葉を鵜呑みにしてしまい、直接元旦ビューティ工業に確認することができなかった。
・社内および取引先の内部通報制度は、過去5年間の通報件数が3件に過ぎず、十分に機能していなかった。
・内部監査は、工事物件の追加案件の実在性や原価付替の発生には重点が置かれていなかった、不正を検出できなかった。
改善策 ・人事制度の見直しおよび定期的な人事ローテーション
・社内牽制機能の強化
・取引先とのリレーションの再構築
・取引先向けの通報窓口などの内部通報制度の見直し
・役職員へのコンプライアンス研修の確実な実施
・内部監査の強化
<この失敗から学ぶべきこと>

本調査報告書によると、元旦ビューティ工業の盛岡営業所長は、自社の代表取締役社長名のゴム印と営業所管理の角印を自己の判断で勝手に使用し、借用書を偽装し借入先に差し入れていました。これは、押印簿が適切に運用されていなかったことを意味します。もっとも、書類作成者と印章管理者を分ける内部牽制を実施している本社管理部門はまだしも、今回不正が起きたような地方の拠点では人的リソースが十分ではなく、内部牽制が十分に取れていないことが多いから、押印簿による印章管理は印章を不正使用させないための統制としては弱い(とくに拠点長の不正には機能しない)と言わざるを得ません。各統制の弱点に配慮しつつ、さまざまな統制を組み合わせて内部統制を構築する必要があります。印章管理についてはケーススタディ「印章管理を適正に行いたい」も参照してください。

元旦ビューティ工業の盛岡営業所長は、高額当選金を謳った宝くじを購入し、当選金での返済をもくろんでいたそうです。ロト6やスポーツくじなどの射幸性の高い宝くじやパチンコ・競馬・競輪・競艇などのギャンブルやFX・株式先物などに、趣味の域を超えてはまってしまった従業員が、仕事が手につかなくなったり、給与のすべてを注ぎ込んでしまったりするケースが後を絶ちません。もちろん会社が従業員のプライベートにまで立ち入るべきではありませんが、内部監査や監査役監査にあたってはそういった従業員の嗜好が不正の契機の一つとなりうるということも頭の隅に入れておくべきポイントと言えます。

2021/11/18 改正電子帳簿保存法への対応に企業が悲鳴、来年1月1日までにシステム構築間に合わず

政府が推進するペーパーレス化の“切り札”の一つである改正電子帳簿保存法の施行(2022年1月1日〜)が目前に迫っている(2021年3月1日のニュース「ペーパーレス化、リモートワーク普及に向けたボトルネックが解消へ」参照)。法人税法などは、正しく納税されているかどうかを後々検証できるよう、帳簿書類を一定期間(例えば法人税法上、帳簿書類は確定申告書の提出期限の翌日から7年間)保存することを求めている。電子帳簿保存法とは、企業等の保存コストを軽減するため帳簿書類を「電子データ」で保存することを認めるもの。2005年に導入されて以降、領収書や契約書のスキャナ保存を可能とするなど、度々要件が緩和されてきたが(過去の改正の経緯については、2016年10月5日のニュース「先月末から申請受付開始の電子データ保存、 事前に協議すべき事項は?」参照)、今回の改正はこれまでの中でもインパクトの大きいものとなっている。

今回の改正はペーパーレス化を後押しするための“要件緩和”の文脈で語られることが多いが、実はそうとは言い切れない。確かに、これまで必須とされていた「検索条件の設定」が簡素化()されるなどの改正は行われているが、その一方で、これまでは電子帳簿保存法の適用を受けていても「紙または電子データ」のいずれかで帳簿書類を保存していればよかったところ、改正後は「電子データのみ」での保存しか認められなくなる。

 日付や金額等の範囲指定・組み合わせ(例えば、「●月●日~■月■日」の「▲円以上」の「交際費」といった検索範囲を組み合わせて指定した検索)ができる検索機能を備えていること、との要件が廃止された。

つまり、帳簿書類を紙で出力して持っていたとしても、電子データがなければ「帳簿書類の保存がない」とされてしまうということだ。この改正はペーパーレス化を推し進めるかもしれないが、電子データでの保存がマストとなったことで、企業の間では「多額のシステム投資が必要になるのでないか」との懸念が広がっている。

こうした中、国税庁は・・・

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2021/11/18 改正電子帳簿保存法への対応に企業が悲鳴、来年1月1日までにシステム構築間に合わず(会員限定)

政府が推進するペーパーレス化の“切り札”の一つである改正電子帳簿保存法の施行(2022年1月1日〜)が目前に迫っている(2021年3月1日のニュース「ペーパーレス化、リモートワーク普及に向けたボトルネックが解消へ」参照)。法人税法などは、正しく納税されているかどうかを後々検証できるよう、帳簿書類を一定期間(例えば法人税法上、帳簿書類は確定申告書の提出期限の翌日から7年間)保存することを求めている。電子帳簿保存法とは、企業等の保存コストを軽減するため帳簿書類を「電子データ」で保存することを認めるもの。2005年に導入されて以降、領収書や契約書のスキャナ保存を可能とするなど、度々要件が緩和されてきたが(過去の改正の経緯については、2016年10月5日のニュース「先月末から申請受付開始の電子データ保存、 事前に協議すべき事項は?」参照)、今回の改正はこれまでの中でもインパクトの大きいものとなっている。

今回の改正はペーパーレス化を後押しするための“要件緩和”の文脈で語られることが多いが、実はそうとは言い切れない。確かに、これまで必須とされていた「検索条件の設定」が簡素化()されるなどの改正は行われているが、その一方で、これまでは電子帳簿保存法の適用を受けていても「紙または電子データ」のいずれかで帳簿書類を保存していればよかったところ、改正後は「電子データのみ」での保存しか認められなくなる。

 日付や金額等の範囲指定・組み合わせ(例えば、「●月●日~■月■日」の「▲円以上」の「交際費」といった検索範囲を組み合わせて指定した検索)ができる検索機能を備えていること、との要件が廃止された。

つまり、帳簿書類を紙で出力して持っていたとしても、電子データがなければ「帳簿書類の保存がない」とされてしまうということだ。この改正はペーパーレス化を推し進めるかもしれないが、電子データでの保存がマストとなったことで、企業の間では「多額のシステム投資が必要になるのでないか」との懸念が広がっている。

こうした中、国税庁は今年(2021年)7月に改正電子帳簿保存法に関するQ&Aを公表し、改正後の検索要件を充たすために大規模なシステム対応は必要なく、「エクセル」の一覧表の作成等で足りるとの見解を明らかにしていた(【電子取引関係】問33参照)。

しかし、特に上場企業は、税務調査に対し万全を期すという観点からも、今回の改正を機にエクセルではなくシステムを構築し、取引情報の電子化に取り組んでいるところが少なくない。こうした企業の多くから聞こえてくるのが、「改正電子帳簿保存法が施行される来年1月1日までにシステム構築が間に合わない」という声だ。システム構築が完了するのは「早くても来年夏以降」という企業が大半とみられる。3月決算企業の税務調査が始まるのは通常7月以降であるため、その時期にギリギリ間に合うかどうかというタイミングとなる。ただ、仮に税務調査には間に合ったとしても、電子帳簿保存法が施行される来年1月1日に「電子データ」の保存ができていなければ同法違反ということになる。

こうした状況は国税庁にも伝わっており、同庁は今月(11月)12日、改正電子帳簿保存法に関するQ&Aの“追補版”を公表、下記のとおり「電子データの一部を何らかの事情により紙保存していた場合であっても直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではない」との見解を明らかにした(補4 一問一答【電子取引関係】問42参照)。

一問一答【電子取引関係】問 42 【補足説明】
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

しかし、今回国税庁が示した見解をもってしても、企業側の不安は消えていない。「直ちに」という表現からすると、場合によっては税務調査で問題視されることがあり得るようにも見える。

いずれにせよ、来年1月1日までにシステム構築が間に合わない企業が続出するのは不可避の情勢となっている。国税庁やペーパーレス化の旗振り役を担ってきた政府の対応が注目される。

2021/11/17 有価証券報告書において任意開示書類を参照することの是非

既報のとおり、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、気候変動をはじめとするサステナビリティ情報等の有価証券報告書での開示義務付けに向けて検討を重ねているが(2021年10月5日のニュース「有価証券報告書における気候変動開示の論点」、2021年11月12日のニュース「ダイナミックマテリアリティとTCFD開示の関係」参照)、その一方で、サステナビリティ情報等の開示は統合報告書といった任意開示書類が先行しているのが日本の現状と言える。こうした中で有価証券報告書での開示が義務付けられることとなった場合に問題となるのが、「参照」の是非だ。・・・

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2021/11/17 有価証券報告書において任意開示書類を参照することの是非(会員限定)

既報のとおり、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」では現在、気候変動をはじめとするサステナビリティ情報等の有価証券報告書での開示義務付けに向けて検討を重ねているが(2021年10月5日のニュース「有価証券報告書における気候変動開示の論点」、2021年11月12日のニュース「ダイナミックマテリアリティとTCFD開示の関係」参照)、その一方で、サステナビリティ情報等の開示は統合報告書といった任意開示書類が先行しているのが日本の現状と言える。こうした中で有価証券報告書での開示が義務付けられることとなった場合に問題となるのが、「参照」の是非だ。

この点、既に任意開示が充実しているのであれば、有価証券報告書から任意開示書類を参照することによって“総覧性”を確保するという考え方も存在している。この参照方式を採用することで、有価証券報告書から詳細な情報を削減することが可能となり、有価証券報告書が簡潔で明瞭なものになるといったメリットもある。

ただ、多くの情報が任意開示書類に記載されることになれば、有価証券報告書は一覧性という機能を果たせなくなる。近い将来、サステナビリティ情報等の保証や監査という話が出てくる可能性は十分にあるが、そうなった場合、肝心の情報が有価証券報告書に書かれていないというのは問題があるとの意見がディスクロージャーワーキング・グループ内でも聞かれる。

そもそも企業が有価証券報告書ではなくて任意開示書類を選択する理由の一つとして、たとえ意図していなかったとしても、法定開示書類である有価証券報告書に万が一不正確なことを書いてしまった場合に受けるペナルティを避けたいということがある。逆に言うと、このペナルティが萎縮効果として働き、有価証券報告書には保守的に最低限のことしか書かないという現状がある。とはいえ、有価証券報告書から参照された書類が有価証券報告書の一部として法的に評価され、参照先に書かれた情報に間違いがあった場合にはそれも有価証券報告書の虚偽記載に該当する可能性もあるため、参照方式を認めることで、参照先の任意開示書類にも最低限のことだけしか書かれなくなってしまう事態にもなりかねない。

このように任意開示書類を参照する方法は複数の問題をはらんでいるため、基本的には、気候変動等が企業価値や業績などに影響を与える重要事項は有価証券報告書に記載するということになろう。したがって、ディスクロージャーワーキング・グループにおける議論の方向性としては、あくまで法定開示の中核である有価証券報告書をサステナビリティ情報等の開示に対応するべく整備したうえで、統合報告書等の任意開示書類がそれを補完するという両者の関係を前提として制度設計を進めていくことになりそうだ。

2021/11/16 有報への監査役報告書導入は事実上の先送り

2021年10月13日のニュース「内部統制が不十分な企業にペナルティも 有報への監査役報告導入案も浮上」でお伝えしたとおり、「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」(座長 八田進二 青山学院大学名誉教授 大原大学院大学会計研究科教授)は2021年9月以来、会計監査の信頼性を確保するために必要となる取り組みについて議論を重ねてきたが、11月4日に開催された3回目の会合ではそれまでの議論の成果を取りまとめ、2021年11月12日に「論点整理」として公表している。同懇談会では、「内部統制報告制度の規制強化」「有価証券報告書の財務諸表に(対する)監査役等による報告書の導入」といった企業にとってインパクトが大きい論点について議論が行われていたが、果たして最終的にどのような結論となったのか、本論点整理から“本音”の部分を探ってみよう。

まず「内部統制報告制度の規制強化」について論点整理では、・・・

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2021/11/16 有報への監査役報告書導入は事実上の先送り(会員限定)

2021年10月13日のニュース「内部統制が不十分な企業にペナルティも 有報への監査役報告導入案も浮上」でお伝えしたとおり、「会計監査の在り方に関する懇談会(令和3事務年度)」(座長 八田進二 青山学院大学名誉教授 大原大学院大学会計研究科教授)は2021年9月以来、会計監査の信頼性を確保するために必要となる取り組みについて議論を重ねてきたが、11月4日に開催された3回目の会合ではそれまでの議論の成果を取りまとめ、2021年11月12日に「論点整理」として公表している。同懇談会では、「内部統制報告制度の規制強化」「有価証券報告書の財務諸表に(対する)監査役等による報告書の導入」といった企業にとってインパクトが大きい論点について議論が行われていたが、果たして最終的にどのような結論となったのか、本論点整理から“本音”の部分を探ってみよう。

まず「内部統制報告制度の規制強化」について論点整理では、「2008年に導入されて以来13年余りが経過し、これまで企業の経営管理・ガバナンスの向上に一定の効果はあったものの、近年は実効性に懸念があるとの指摘がある。」との問題意識を示したうえで、内部統制報告制度の在り方については、①まずは内部統制の整備・運用状況について分析を行った上で、国際的な内部統制・リスクマネジメントの議論の進展も踏まえながら、②必要に応じて、内部統制の実効性向上に向けた議論を進めることが必要、というステップが示された。とはいえ、実際のところ「内部統制の整備・運用状況についての分析」はこれから行われるものであり、相応の時間を要することになる。そして、その分析の結果を受け「必要」と判断されて初めて議論の俎上に載せられるというプロセスを踏まえると、事実上、本論点は先送りになったと言えよう。

また、「有価証券報告書の財務諸表に(対する)監査役等による報告書の導入」についても、「有価証券報告書に監査役等による報告書を求めることを通じた財務報告に係るガバナンスに対する監査役等の責任の明確化などについても、中長期的に検討されるべき」との言及にとどまり、こちらも短期的に制度化が進むことはなさそうだ。

このようにインパクトの大きい論点が先送りとなる一方で、当フォーラムが既報のとおり、「監査法人の監査品質向上策」については具体的な法改正に踏み込んでいる(2021年11月2日のニュース「監査の品質確保に向け強まるプレッシャー、上場会社への影響は?」参照)。具体的には、①上場会社監査事務所登録制度を日本公認会計士協会の自主規制制度から公認会計士法上の制度に格上げする案は「検討する必要がある」、②公認会計士・監査審査会の権限拡大(監査法人の『業務運営の状況の検証』だけでなく『虚偽証明に係る監査手続』についても検証を行えるようにする案は「検討していく必要がある」、③上場会社の監査を行う全ての監査法人に「監査法人のガバナンス・コード」の受け入れを求める案は「検討されるべき」という言い回しで、いずれも早期の制度改正が念頭に置かれていることを示唆する内容となっている。これらの制度改正が実現すれば監査法人は監査の強化を迫られることになり、その結果、企業にも監査対応コストや監査報酬の増加といった影響を与えることが予想される。

もっとも、監査法人の監査品質向上につながる案の全てにGOサインが出たわけではない。監査法人の独立性の確保を徹底する観点から監査法人自体を一定期間ごとに交代させる「ローテーション制度」の導入については、日本公認会計士協会において、報酬依存度に基づく新たなルールの導入等を内容とする倫理規則の改訂に向けた作業が行われていることを理由に、「引き続き検討」という言い回しで、事実上の見送りとなった。

このほか論点整理では、上場企業以外の有価証券報告書提出会社における中間財務諸表・中間監査に非常に手間がかかっていることを踏まえ、「見直しの議論をすべきではないか」との提案が盛り込まれた点も注目される。これが実現すれば、1億円以上の公募を実施するなどして有価証券届出書を提出した非上場企業における開示負担・監査負担が軽減され、成長企業の資金調達が現在より簡素化されることになる。これにより監査法人の監査リソースが上場会社に回されることになれば、上記の「監査報酬の増加」を打ち消す効果が多少は期待できるかもしれない。