議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)11月4日、2022年の株主総会における議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始した。コメント募集期間は11月16日までとされており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて年内には改定ポリシーを確定するものとみられる。
今回のオープンコメントの最大のポイントは、・・・
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議決権行使助言会社最大手のISSは(2021年)11月4日、2022年の株主総会における議決権行使助言方針(ポリシー)の改定案についてオープンコメントの募集を開始した。コメント募集期間は11月16日までとされており、ISSはオープンコメントの結果を踏まえて年内には改定ポリシーを確定するものとみられる。
今回のオープンコメントの最大のポイントは、“ジェンダーダイバーシティ基準”の導入の是非を問うている点だ。その背景には、ISSが2020年に実施したグローバルサーベイで「女性取締役がいない」ことの重要性について、投資家の63%が「High」を選択したことがある(2020年10月20日のニュース「ISSポリシー改定、“1/3基準”全面適用確実、政策保有は更なる厳格化も」の一番最後の段落参照)。なお、本基準の導入に際しては1年の猶予期間が提案されている。
| ISS は取締役会の多様性に関する基準を導入し、取締役会に女性取締役が一人もいない場合は、経営トップである取締役に対して反対を推奨する基準を、2023年2月から導入することを検討しています。 |
経営トップ : 通常、社長と会長を指す。
またISSは、ジェンダーダイバーシティ基準導入を検討している理由として、女性取締役を選任する日本企業が増えていることと、機関投資家も取締役会のジェンダーダイバーシティをより重要視するようになっていることも挙げている。
| ➢取締役会に女性取締役がいる日本企業の割合は 2021年6月には53.1%となり、2016年の26%から大きく伸びています。 ➢世界の機関投資家の運用資産残高 (AUM)上位10社のうち7社がすでに日本企業に女性取締役を求める議決権行使基準を導入済みです。 |
AUM : Assets Under Management
日本企業に対し女性取締役の選任を求める議決権行使基準を導入しているグローバル機関投資家としては、ともに世界最大規模を誇るブラックロック、ステート・ストリートが挙げられる。
| ブラックロック・ジャパン | 一定規模を有する企業(TOPIX100 構成銘柄)において、取締役会の多様性確保の取り組みが著しく不十分な場合、すなわち女性の取締役もしくは監査役が選任されていない場合、その理由に関して合理的な説明がなされない場合、取締役会構成に責任のある取締役の再任に反対する(4ページの一番下参照)。 |
| ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ | SSGAは、TOPIX500指数の構成企業については、少なくとも1名の女性取締役が取締役会メンバーに在籍することを期待する。この期待水準を満たしていない場合、指名委員会議長か、 企業に指名委員会が無い場合は、必要に応じて取締役会リーダーに反対票を投じる場合がある(3ページの3段落目参照)。 |
国内系でも、大和アセットマネジメントが監査役を含む範囲でジェンダーダイバーシティ基準を導入している。また、りそなアセットマネジメントは昨年時点で検討していく意向を表明しており、2022年向け行使基準に盛り込んでくる可能性はあろう。
| 大和アセットマネジメント | 以下に該当する企業の取締役(社外取締役を除く)の再任については、反対する。 ・TOPIX100の構成銘柄に該当する企業において、役員(取締役および監査役会設置会社における監査役)に女性が1名以上選任(上程)されていない企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者(4ページの⑧参照)。 |
| りそなアセットマネジメント | 日本企業に対しては多様性の中で、まずはジェンダーダイバーシティの向上に焦点をあて、多様性への取り組みが見られない企業に対してエンゲージメントを行っていますが、今後は、女性役員が一人もいない企業に対しての行使基準を導入することも検討していきます(3ページ「2.今後の方針」の2つ目参照)。 |
今回のオープンコメントを受けて、ISSがジェンダーダイバーシティ基準を正式に設定することはまず間違いない。1年間の猶予があるとはいえ、ISSの動きを踏まえた機関投資家による同基準の導入は前倒しされ、加速するだろう。現状の先行事例では対象がTOPIX100構成企業に限られていたり、役員の範囲に監査役が含まれていたりするが、全企業を対象とした「取締役限定」の基準になる日も近いものと推測される。グローバルには10%や20%などより高いハードルを設ける機関投資家もあることからすると、日本の上場企業も「女性取締役1名」の選任はミニマム・リクワイヤメント化しつつあることを認識すべきだろう。
なお、今回のオープンコメントの別紙では、2022年2月より適用開始が決まっている、取締役選任議案に対する新たな反対要件(取締役会構成および政策保有株式)が改めて示されている。特に今回、政策保有株式については注記で「みなし保有株式」を含むことが明示された点、留意したい。
みなし保有株式 : 所有権は有しないものの議決権行使権限またはその指図権限を留保している株式のこと。
| 監査役設置会社の 取締役会の構成 |
株主総会後の取締役会に占める社外取締役の割合が3分の1未満の場合もしくは最低2名の社外取締役がいない場合、経営トップである取締役 |
| いわゆる政策保有株式を過度に保有する企業への対応 | いわゆる政策保有株式の過度な保有が認められる場合(政策保有株式の保有額が純資産の20%以上の場合)、経営トップである取締役 |
2019年12月11日に公布された改正会社法で改正された項目の大半は2021年3月1日に施行済みだが、「株主総会資料の電子提供制度の創設」「会社の支店の所在地における登記の廃止」については公布日から3年6か月以内に施行される予定となっている。このうち「株主総会資料の電子提供制度の創設」の施行日は、2021年10月28日のニュース「株主総会資料の電子提供制度、改正法務省令から見える適用開始日」でお伝えしたとおり、2022年9月1日が濃厚となっている。ただし、2022年9月1日からすぐに株主総会資料の電子提供制度を利用できるわけではない。インターネットを使えない株主等が書面交付請求できる期間を一定期間保障するため、「施行日から6か月以内の日」に開催される株主総会では株主総会資料の電子提供制度を利用することが認められていないからだ。その結果、2023年3月1日以降に開催する株主総会ではじめて株主総会資料の電子提供制度を利用することができるようになる。
現行のWEB開示制度を利用するためには定款変更が必要になる。このため、株主総会資料の電子提供制度を利用するためにも定款変更が必須であるかのようにも思えるがそうではない。「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」10条2項にはみなし定款変更の条項(*)が用意されており、上場会社は定款変更をせずに株主総会資料の電子提供制度を利用することが可能となっている。
WEB開示制度 : 株主総会参考書類、事業報告、計算書類関係書類の一部を、WEBで一定期間(株主総会招集通知を発出時から、株主総会の日から3か月が経過する日までの間)開示することで、書面・電磁的方法による株主への提供を不要とする制度。
しかし、・・・
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2019年12月11日に公布された改正会社法で改正された項目の大半は2021年3月1日に施行済みだが、「株主総会資料の電子提供制度の創設」「会社の支店の所在地における登記の廃止」については公布日から3年6か月以内に施行される予定となっている。このうち「株主総会資料の電子提供制度の創設」の施行日は、2021年10月28日のニュース「株主総会資料の電子提供制度、改正法務省令から見える適用開始日」でお伝えしたとおり、2022年9月1日が濃厚となっている。ただし、2022年9月1日からすぐに株主総会資料の電子提供制度を利用できるわけではない。インターネットを使えない株主等が書面交付請求できる期間を一定期間保障するため、「施行日から6か月以内の日」に開催される株主総会では株主総会資料の電子提供制度を利用することが認められていないからだ。その結果、2023年3月1日以降に開催する株主総会ではじめて株主総会資料の電子提供制度を利用することができるようになる。
現行のWEB開示制度を利用するためには定款変更が必要になる。このため、株主総会資料の電子提供制度を利用するためにも定款変更が必須であるかのようにも思えるがそうではない。「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」10条2項にはみなし定款変更の条項(*)が用意されており、上場会社は定款変更をせずに株主総会資料の電子提供制度を利用することが可能となっている。
WEB開示制度 : 株主総会参考書類、事業報告、計算書類関係書類の一部を、WEBで一定期間(株主総会招集通知を発出時から、株主総会の日から3か月が経過する日までの間)開示することで、書面・電磁的方法による株主への提供を不要とする制度。
しかし、株主総会資料の電子提供制度を導入する際には、①電子提供措置事項記載書面に、株主にとって比較的重要度が乏しいと考えられる事項(*)の全部または一部を記載しなくてよいこととするための定款の定め(改正会社法325条の5第3項)の新設、②株主総会資料の電子提供制度導入に伴って不要となるWEB開示制度に関する定款規定の削除も行う必要がある(②はそもそもWEB開示制度を導入していない会社では不要。①②についての詳細は2021年2月3日のニュース『「WEB開示制度」と改正会社法上の「株主総会資料の電子提供制度」の関係』参照)。①の定款変更をしないと、上場会社は電子提供措置事項記載書面にはフルスペックの記載をしなければならない(すなわちページ数が増えて印刷代がかさむ)といった不利益を被ることになる。また、②の定款変更をしないと、株主総会資料の電子提供制度導入後も同制度に類似しているWEB開示制度が定款上残り続けることになってしまう。ところが、①・②についてはみなし定款変更の条項が設けられていない。したがって、①・②に関する定款変更を行うためには、実際に株主総会決議を経る必要がある。①・②について定款を変更する以上、あえて「電子提供措置をとる旨」のみみなし定款変更の条項を利用する必然性は低く(かえって議案の内容が煩雑になるため)、多くの上場会社が株主総会で①・②に加えて「電子提供措置をとる旨」の定款変更議案を付議する(すなわち、みなし定款変更の条項は利用しない)ことが予想される。
電子提供措置事項記載書面 : 株主総会資料の電子提供制度を導入した会社で、書面交付請求をした株主に対して交付する書面のこと。
監査役等 : 監査役、監査等委員会または監査委員会を指す。以下、同じ。
WEB開示制度 : 株主総会参考書類、事業報告、計算書類関係書類の一部を、WEBで一定期間(株主総会招集通知を発出時から、株主総会の日から3か月が経過する日までの間)開示することで、書面・電磁的方法による株主への提供を不要とする制度。
では、上場会社が株主総会で当該定款変更議案を付議するタイミングはいつがベストだろうか。株主総会資料の電子提供制度が利用可能になるのは2023年3月からであり、随分と先の話のようにも思えるが、12月決算会社にしろ3月決算会社にしろ、臨時株主総会を開催しない限り、次の定時株主総会で定款を変更すべきだ(すなわち、12月決算会社であれば2021年12月期、3月決算会社であれば2022年3月期の定時株主総会)。なぜなら、これを逃すとその次の定時株主総会(すなわち、12月決算会社であれば2022年12月期、3月決算会社であれば2023年3月期の定時株主総会)はみなし定款変更により既に電子提供措置が強制適用されていることから、そこではじめて①・②についての定款変更を行うのは明らかに周回遅れとなってしまうからだ。以上より、①・②についての定款変更は電子提供制度施行前の株主総会に付議しておくのがベストということになる。
「果たして電子提供制度施行前に定款変更ができるのか」との懸念も聞かれるが、制度施行日から半年後に効力が生じるよう条件を付けて定款変更をしておけば問題はない。これにより、12月決算会社は2021年12月期の定時株主総会で定款変更議案を可決しておけば、2022年12月期の定時株主総会で株主総会資料の電子提供制度を利用するにあたり電子提供措置事項記載書面への記載省略(上記①)が可能になる。同様に、3月決算会社は2022年3月期の定時株主総会で定款変更議案を可決しておけば、2023年3月期の定時株主総会で電子提供措置事項記載書面への記載省略が可能になる。
上場会社では、これを機にバーチャルオンリー株主総会を開催できるようにするための定款変更も実施しておきたいところだ(バーチャルオンリー株主総会を開催できるようにするための定款変更については2021年6月23日のニュース「バーチャルオンリー総会開催のための4つの要件と対処法」を参照)。既に全株懇は産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律の施行に伴う定款モデルの改正を2021年7月26日に、また株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正を2021年10月22日に公表しており、こちらも参考にしながら準備を進めたい。
バーチャルオンリー株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
【WEBセミナー収録日】2021年10月29日
本セミナーでは、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」のメンバーでもあるカタリスト投資顧問株式会社取締役副社長COOの小野塚 惠美 様をお招きし、サステナブルファイナンスについてご講演いただきます。
カタリスト投資顧問株式会社は、最近、低すぎるTOB価格による親子上場解消に問題提起する(こちらを参照)など、積極的なエンゲージメントを行うことでも知られています。
本セミナーでは、例えばサステナビリティの観点から、ダインベストメントされかねない企業や、ESGのうち「E」「S」分野の最新情報、今後の動向など、サステナビリティにフォーカスし、投資家目線で語っていただきます。
【講師】
カタリスト投資顧問株式会社
取締役副社長 COO 小野塚 惠美 様
1998年JPモルガン銀行入行。2000年よりゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントにおいて多岐にわたる資産運用業務に従事。2016年からは日本におけるスチュワードシップ責任推進統括としてESG(環境・社会・ガバナンス)リサーチ、企業との対話を年間200社以上実施。
ジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ(JSI)運営委員会委員長。
* 金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議委員 (2021年1月~)
* 経済産業省 非財務情報の開示指針研究会委員(2021年6月~)
上智大学比較文化学部比較文化学科卒
| セミナー資料 | 取締役が考えるべきESG.pdf |
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【WEBセミナー公開開始日】2021年11月4日
本セミナーでは、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」のメンバーでもあるカタリスト投資顧問株式会社取締役副社長COOの小野塚 惠美 様をお招きし、サステナブルファイナンスについてご講演いただきます。
カタリスト投資顧問株式会社は、最近、低すぎるTOB価格による親子上場解消に問題提起する(こちらを参照)など、積極的なエンゲージメントを行うことでも知られています。
本セミナーでは、例えばサステナビリティの観点から、ダインベストメントされかねない企業や、ESGのうち「E」「S」分野の最新情報、今後の動向など、サステナビリティにフォーカスし、投資家目線で語っていただきます。
【講師】
カタリスト投資顧問株式会社
取締役副社長 COO 小野塚 惠美 様
1998年JPモルガン銀行入行。2000年よりゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントにおいて多岐にわたる資産運用業務に従事。2016年からは日本におけるスチュワードシップ責任推進統括としてESG(環境・社会・ガバナンス)リサーチ、企業との対話を年間200社以上実施。
ジャパン・スチュワードシップ・イニシアティブ(JSI)運営委員会委員長。
* 金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議委員 (2021年1月~)
* 経済産業省 非財務情報の開示指針研究会委員(2021年6月~)
上智大学比較文化学部比較文化学科卒
| セミナー資料 | 取締役が考えるべきESG.pdf |
新型コロナウイルス禍において会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2021年11月4日(木)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。
| テーマ | 講 師 |
| 取締役が考えるべきESG ~サステナブル経営とESGの新潮流~ |
金融庁 サステナブルファイナンス有識者会議委員 カタリスト投資顧問株式会社 取締役副社長 COO 小野塚 惠美 様 |
■WEBセミナーの詳細
| セミナー の内容 |
本セミナーでは、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」のメンバーでもあるカタリスト投資顧問株式会社取締役副社長COOの小野塚 惠美 様をお招きし、サステナブルファイナンスについてご講演いただきます。 カタリスト投資顧問株式会社は、最近、低すぎるTOB価格による親子上場解消に問題提起する(こちらを参照)など、積極的なエンゲージメントを行うことでも知られています。 本セミナーでは、例えばサステナビリティの観点から、ダインベストメントされかねない企業や、ESGのうち「E」「S」分野の最新情報、今後の動向など、サステナビリティにフォーカスし、投資家目線で語っていただきます。 |
| 講師の ご紹介 |
小野塚 惠美(おのづか えみ)様
カタリスト投資顧問株式会社 取締役副社長COO |
会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
https://govforum.jp/member/webseminar-webseminar-l/59842/
非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
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https://forms.gle/e3nAkaWEBfcvSb319
<収録月>
2021年10月
<収録時間>
92分
<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。
2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」でお伝えしたとおり、来年(2022年)6月1日からの改正公益通報者保護法の施行までに、企業は自社の内部通報制度を同法が求めるレベルの内容にアップデートする必要があるが、アップデート後の内部通報制度で従来以上に求められるのが「通報者を守る」ということだ。
通報者を守るためには、公益通報対応業務を行う「従事者」でない者に公益通報の内容が漏れること(これを「範囲外共有」という)を防ぐ必要がある。従事者自身が情報漏洩を行えば(正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らせば)刑事罰(改正公益通報者保護法12条の守秘義務違反として同法21条に基づき30万円以下の罰金)を科されるため、これが一定の抑止力として働くが、改正公益通報者保護法上、従事者以外の者による通報者の特定につながる情報の範囲外共有には罰則があるわけではない。自分が公益通報したことが「範囲外共有」、すなわち従事者以外の者に知られる懸念があるとなれば、誰しも公益通報を行うことを躊躇するため、内部通報制度そのものが機能しなくなりかねない。その意味で、範囲外共有の防止こそが、内部通報制度を支える重要な“柱”と言えるだろう。
従事者 : 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者(改正公益通報者保護法11条1項)
ただ、ここで問題となるのが、そもそも「範囲外共有」における「範囲」とは何を指すのかという点だ。この点は、・・・
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2021年10月25日のニュース「内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを」でお伝えしたとおり、来年(2022年)6月1日からの改正公益通報者保護法の施行までに、企業は自社の内部通報制度を同法が求めるレベルの内容にアップデートする必要があるが、アップデート後の内部通報制度で従来以上に求められるのが「通報者を守る」ということだ。
通報者を守るためには、公益通報対応業務を行う「従事者」でない者に公益通報の内容が漏れること(これを「範囲外共有」という)を防ぐ必要がある。従事者自身が情報漏洩を行えば(正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らせば)刑事罰(改正公益通報者保護法12条の守秘義務違反として同法21条に基づき30万円以下の罰金)を科されるため、これが一定の抑止力として働くが、改正公益通報者保護法上、従事者以外の者による通報者の特定につながる情報の範囲外共有には罰則があるわけではない。自分が公益通報したことが「範囲外共有」、すなわち従事者以外の者に知られる懸念があるとなれば、誰しも公益通報を行うことを躊躇するため、内部通報制度そのものが機能しなくなりかねない。その意味で、範囲外共有の防止こそが、内部通報制度を支える重要な“柱”と言えるだろう。
従事者 : 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者(改正公益通報者保護法11条1項)
ただ、ここで問題となるのが、そもそも「範囲外共有」における「範囲」とは何を指すのかという点だ。この点は、改正公益通報者保護法はもちろん、企業にとって改正法対応の拠り所となる「指針」や、指針を実務に展開するための解説(以下、指針の解説)にも定義がなく、さらには指針のベースとなった「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」にも「必要最小限の範囲」という記載があるのみとなっている。通報案件の公益通報対応業務従事者が「範囲内」であることは明らかだが、例えば「公益通報対応業務を担う部署の同僚など、公益通報者保護法の従事者ではあるものの当該案件にはかかわっていない者」「調査協力者」「報告を受ける取締役会、監査役会のメンバー、陪席者」「懲戒委員会のメンバー」が「範囲内」となるかどうかは、各社の判断に委ねられることになる。
また、指針の解説には「範囲を明確に確認する」とあることから、案件ごとに範囲を確定し、公益通報者には「当該範囲内で情報が共有されること」を承諾してもらう必要がある。「公益通報者を特定させる事項(通報者の氏名、所属、性別など)」と「通報の内容(例えば法令違反の事実の指摘)」では共有できる程度も変わってくるはず(すなわち、「公益通報者を特定させる事項」はより限定的にすべき)であり、それぞれについて範囲を検討しなければならない。
上記のとおり、改正公益通報者保護法上、従事者以外の者による範囲外共有には罰則がないため、範囲外共有の防止策も各社で十分に実施する必要がある。指針の解説には、「懲戒処分」を含め、範囲外共有の具体的な防止策が例示されているのでされているので参考にしたいところだ(指針の解説の15ページ参照)。
| 指針 | 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。 |
| 指針の解説 | ・通報事案に係る記録・資料を閲覧・共有することが可能な者を必要最小限に限定し、その範囲を明確に確認する ・通報事案に係る記録・資料は施錠管理する ・内部公益通報受付窓口を経由した内部公益通報の受付方法としては、電話、FAX、電子メール、ウェブサイト等、様々な手段が考えられるが、内部公益通報を受け付ける際には、専用の電話番号や専用メールアドレスを設ける、勤務時間外に個室や事業所外で面談する ・公益通報に関する記録の保管方法やアクセス権限等を規程において明確にする ・公益通報者を特定させる事項の秘匿性に関する社内教育を実施する ・公益通報に係る情報を電磁的に管理している場合には、公益通報者を特定させる事項を保持するため、例えば、以下のような情報セキュリティ上の対策等を講ずる。 └当該情報を閲覧することが可能な者を必要最小限に限定する └操作・閲覧履歴を記録する ・内部公益通報受付窓口の担当者以外の者(いわゆる上司等)も内部公益通報を受けることがある。これら内部公益通報受付窓口の担当者以外の者については、従事者として指定されていないことも想定されるが、その場合であっても、事業者において整備・対応が求められる範囲外共有等を防止する体制の対象とはなるものであり、当該体制も含めて全体として範囲外共有を防止していくことが必要である。 |
| 指針 | 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。 |
| 指針の解説 | 懲戒処分その他適切な措置を行う際には、範囲外共有が行われた事実の有無については慎重に確認し、範囲外共有を実際に行っていない者に対して誤って懲戒処分その他の措置を行うことのないよう留意する必要がある。 |
また、公益通報が行われた場合には、通報者を探索しようとする者が出てくることも予想される。そこで指針の解説では、通報者の探索を防ぐための措置として、範囲外共有同様、自社独自の「懲戒処分」を設けることを推奨している(指針の解説の15ページ参照)。
| 指針 | 事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。 |
| 指針の解説 | 通報者の探索を行うことを防ぐための措置として、例えば、通報者の探索は行ってはならない行為であって懲戒処分その他の措置の対象となることを定め、その旨を教育・周知すること等が考えられる。 |
リスクマネジメント(コンプライアンス)委員会や取締役会といった会議体に通報内容を共有する場合は、当該会議体のメンバー全員を公益通報対応業務従事者に指定して全員に守秘義務を課すか(情報共有後、万が一メンバーの誰かが漏洩させてしまった場合には、その者は改正公益通報者保護法12条の守秘義務違反として同法21条に基づき30万円以下の罰金に処せられる可能性がある)、あるいは、公益通報者を特定させない程度の情報のみ共有にとどめるようにしなければ範囲外共有となってしまい、情報を共有(漏洩)させた従事者は同じく30万円以下の罰金に処せられる可能性がある点、留意したい。
近年、監査法人を大手から中小に変更する上場会社が少なくない。その背景の一つには、監査報酬の値上げがある。・・・
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